あなたの言葉
いつもの様に、彼を仕事に送り出し、子供達は近所の友達と遊びに行って、私は今のうちにしか出来ない家事に精を題していた。
夕方の4時頃からは、セブンスヘブンの準備に取り掛からなければならないから、結構午前中は忙しい。
でも、その忙しさは決して追い立てられる様なものでもなく、苦になるものでもない。
とても楽しい忙しさだ。特に今日は!
理由はとても単純なもの。
彼の仕事が、早く終わるだろう、と言うたったそれだけの事だった。
予約がいつもの半分ほどしかない上に、配達先もエッジからそんなに離れていないカームだったりするから、緊急の仕事さえ入らなければ、夕方には彼は家で寛ぐ事が出来る。
彼が、夕方には家でのんびり出来る、たったそれだけの事で、私の気持ちはとても明るくなってしまう。
彼が戻ってからと言うもの、私は本当に幸せだと感じる事が多くなった。
例えば、マリンやデンゼルが良く笑うようになった事や、店に来てくれるお客さんの「良かったね」という一言…、それに、彼には内緒にしてるけど、変に言い寄ってくるお客さんも、うんと減ったから、仕事が以前よりもやりやすくなったの。
彼がこの事を知ったら、きっと、あの無愛想な顔が益々怖くなっちゃうんだろうな。…実は、ほんの少しだけど、そんな彼を見てみたい気もするの。
だって、それは私のことを心配してくれてるって事だし…、それに、これは私の願望だけど、…ヤキモチ…からかもしれないし…。
後者だと本当に嬉しいのにな…。
そんな事を考えたり想像しているうちに、あっという間に時間が過ぎ、子供達が昼食の為に帰ってきた。
昼食の間、子供達は何をして遊んだか、何が楽しかったかを先を争うようにして話してくれる。おかげで、そんな会話の弾む昼食にまた、私は幸せを感じてしまう。
これも全部、彼が帰ってきてくれたから。
そして、彼を帰してくれた『彼女』と『彼』のおかげ。
私の幸せは、沢山の人からもらって、現在手にすることが出来ている、かけがえのない大切なもの。
だから、決して失わないよう、自分に出来る事を精一杯やりたいし、やらなきゃいけないと思う。
今の私には、子供達や彼が『安心して帰れる場所』を守ること。
でも、きっとそれってとっても大変で、大切な事だよね。
私にちゃんと出来るのか不安だけど、でも、一人じゃないから大丈夫!
そうでしょ?
そっと、心の中でライフストリームにいる友人へ話しかける。
忙しかった家事も一段落して、ホッと一息ついたとき、早く帰る予定の彼の為に何かお菓子でも作ろうかな…、と急に思い立った私は、キッチンに立って気が付いた。
彼にいつも頼んでいる仕入れの時期をうっかり過ぎてしまっていたのだ。
その為、調味料がいくつかと、ちょっとした野菜が少なくなっている。
このままでは、店の営業中に材料が足りなくなるかもしれない。
どうしようか…?
早く戻って来た彼に、買出しを頼もうか?
きっと、フェンリルのスピードなら、彼が戻ってから買出しを頼んだとしても十分間に合うだろう。
でも、せっかく早く戻ったのに買出しを頼むのはやっぱり申し訳ない。
幸い、私ひとりで何とかなる量だし…。
うん!
私は、もしかしたら留守中に戻るかもしれない彼へメモを残すと、小走りで買い物へと出掛けた。携帯に掛けなかったのは、きっと彼の事だもの。「帰る途中で買ってくる」って、そう申し出てくれるだろうから。
でも、出来る限り、彼にはゆっくりとしてもらいたかった。
いつも、彼が一生懸命『家出』を償おうとしているのを知っているから尚更…。
自分の出来る限界以上に『償い』をしようとしている彼を、私は知っている。
そんなもの、必要ないんだって言えたらいいんだろうけど、上手く言葉に出来ないから何も言わずに今日まで来てしまっている。
でも、そのうち言葉にしなくてもちゃんと伝わってくれるんじゃないかって、そう思うの。
そう、一緒に生きていけば。きっと。そのうち。
そんな事をグルグル考えながら、私は澄み渡る青空の影響か、心が軽くなるような、躍りだしたくなるような、そんな気分で買い物を済ませていった。
買い物が無事に終わって帰路に着いたとき、「ティーファちゃん!!」と、背後から呼び止められた。
この声と口調の持ち主は良く知っている。
店の常連さんの一人で、とても陽気で気さくな良い人だ。
「凄い量だね。一つ持つよ」
私の抱えている買い物を見て苦笑すると、返事を待たずにさっと取ってくれた。
「ありがとう、ごめんなさい」
「いやいや、これしきの事なんでもないよ!」
彼はそう言って、にっこり笑ってくれた。
丁度仕事が終わったばかりだという彼は、店まで買い物を持ってくれると申し出てくれたので、私は有り難くその言葉に甘える事にした。
変に断ると逆に失礼に当たる場合がある。この時は『失礼』に当たってしまうと思ったから、素直に店までの道のりを、彼と肩を並べて歩いていた。
道すがら、他愛ない話をしつつ、自然に私は笑顔を見せていた。
心のどこかで『クラウドがこの光景を見たら、少しはヤキモチを焼いてくれるかな?』何て、バカな事を考えながら…。
やがて、店の近くにある公園に差し掛かった時、「まだ時間良いんでしょ?ちょっと寄ってかない?」と、公園にあるベンチへと促され、これまた断る理由がなかった為、私は彼の促すままベンチに腰を下ろした。
公園でも、実に他愛ない話で盛り上がった。
彼は、最近出来た雑貨屋さんの事や、話題のレストランの新情報を提供してくれた。
そして、私が話す内容は、やっぱり『家族』の事。
マリンとデンゼルが最近は良く笑って、沢山子供達の間で流行っている事を嬉しそうに話してくれた、とか、食欲も旺盛で、デンゼルなんか最近背が高くなった気がする、とか。
そして……。
子供達がこんなに明るく、楽しそうに、元気に毎日を送ってくれる様になったのは、『クラウドが帰ってきてくれてからよ』、と私が話した途端、彼は突然むっつりと黙り込み、俯いて私から顔を背けてしまった。
私は、彼の変貌振りに戸惑いつつ、どうしたのか尋ねながら顔を覗き込もうとした。
その瞬間。
急に彼は顔を上げると、驚く私の手を強く握ると、今まで見せた事のない真剣な面持ちで口を開いた。
「ティファさん、どうか怒らないで聞いて欲しい。俺はずっとあなたのことを想っていた。彼が、クラウドさんが家出をする前からずっと。」
私はびっくりして目を丸くするしかなかった。
ううん。本当は気付いてたの。
気付いたのはクラウドが出て行ってからだったけど。
彼が、いつも何か言いたそうな顔をして私を見ていたのを思い出す。
黙っている私に、彼は更に言葉を続けた。
「そして、戻ってきた今でもその想いは変わらない。彼が家出をしている間、何度あなたにこの想いを告げようかと思ったか!でも、あの頃のティファさんは、出て行ったクラウドさんの事で心が一杯だったし、何より、心が弱っている貴女に告白するのは…何て言うか、フェアじゃない気がしたんだ。だからずっと黙ってた。でも、クラウドさんが戻った今、ティファさんはクラウドさんが家出をする前以上に彼を労わっている。正直、俺はそんな彼を許せない。」
私の中で、彼の言葉が鋭い針のように何本も突き刺さるのを感じた。
お願い、これ以上クラウドの事を悪く言わないで。
「小さい子供達を残して、あなたに全て押し付け、勝手に出て行ったのに」
違うの、そうじゃないの。クラウドは私に押し付けたんじゃないの!!
あのときのクラウドには、ああするしかなかったの!!
「何もなかったかの様に当然の顔で帰ってきたクラウドさんを!あなたは、あんなに傷つけられたのに、どうしてあんな彼にそうまでして尽くしてるんですか!?何故そこまで彼が好きでいられるんだ!?」
何もなかったかの様に…?
当然の顔で帰ってきた…?
誰が?…クラウドが!?
私が傷つけられた!?
誰に?
クラウドに!?
「俺は…、俺なら、あんな事は絶対しないし、あなたをもっと大切にする!そう誓える!!だから…、だから俺との事も考えて欲しい!!」
ああ、この人は何も分っていないのね。
クラウドの苦しみも。
クラウドの痛みも。
クラウドの心が今も血を流している事を。
そして、私の事も…。
「あなたはそう言うけど、私、…クラウドの事『好き』なんじゃないのよ…?」
そう、私はクラウドが『好き』なんじゃない…。
「好きじゃないなら…!それなら!!」
「あのね、違うの」
私は、そっと握られていた彼の手をほどくと、微笑んで見せた。
「あのね。『表現』が違うの。『好き』じゃ全然足りないの。『愛してる』の。」
そう、『好き』なんかじゃないの。誰よりも『愛してる』の。
呆然とする彼に、私は決して本人には言えない言葉を口にした。
「私が彼を愛しているから、彼が戻ってきてくれて本当に今、幸せなの。それに、あなたはクラウドの事を間違って見ているわ。彼は家を出た時も、そして、家に戻った今でもとっても苦しんでるの。家を出た時は、私や子供達に真実を打ち明けられない為に苦しみ、更に目前に迫った死の恐怖、そういった沢山の事でとても苦しい思いをしていたわ。帰って来てくれた今では、家を出た事を悔いて毎日苦しんでる。彼は、あまり表情に『出ないし』、『出さない』から、周りから見たら平然としているように見えるかもしれないけど…私には、わかるの、痛いくらいに、ね」
きっと、この人だけじゃないんだろうな。
彼を、クラウドを誤解して、『悪い男』だと思っている人は…。
そんな彼に、一体私は何をしてあげる事が出来るのかしら。
いくら、私が『彼が帰ってきてくれて幸せ』と表現して見せても、所詮他人は他人でしかないものね。
この人のように、クラウドの事を『私を捨てた酷い男』としか見れない人が、常連さんの中にどれくらいいるのかしら?
この人のような常連さんが集う店に、それでも彼は『安らげる場所』として、私達の『家族』として一緒に生きて行ってくれるかしら?
私は、もう、クラウドのいない生活になんか戻れないのに。
「彼を誰よりも愛してるから、彼がした事を受入れるなんて事、私にとっては何でもないわ。もちろん、家出されてる間は本当に辛かったし、悲しかった。でも、辛かったのは、彼が出て行った理由を知らなかったから。そして、悲しかったのは、理由を話してもらえる存在に、私がなれなかったから…。結局、彼にとって頼れる存在は…。」
そう、きっと、エアリス、なんだよね?
エアリスの事は大好きだけど、クラウドの事が絡んでしまうとどうしても私は自分が醜く嫉妬に歪むのを止められない。
そんな自分が嫌いで、情けなくて、私は上手く微笑んで見せる事が出来なかったと思う。
でも、それでも、やっぱり、私はクラウドを誰よりも愛してるし、クラウドを私のところへ帰してくれたエアリスを、大好きだと思う。
その気持ちは、嘘じゃない。
それに…。
「でも、結局クラウドはクラウドなのよね。彼が何をしようと、何を考えようと、何を秘めていようと。その全部が、クラウドなんだって思うの」
そんな彼を愛してるの。だから、もう二度と『私に全てを押し付けた』って言葉は口にしないで…。
そう言って、私はまだ呆然とする彼を残し、「荷物持ってくれてありがとう」と、全ての買い物袋を抱えると、公園を後にした。
それからは、正直言うとどういう顔をして帰り着いたのか分らない。
だって、冷静になってみると物凄く恥ずかしい事を次々に話してしまったのだから。
しかも、お店の常連さんに!!
もう、顔から火が出るってこの事を言うのよね!?
恥ずかしすぎて、店の準備をする間も、お皿は割りそうになるし、グラスは落っことしそうになるし、おつまみの仕込では、包丁で手を切りそうになるしで散々だった。
でも、そんな私を待っていたのは、いつもでは絶対に見られないくらいに、顔を真っ赤にさせたクラウドが息せき切って店の扉を開け、カウンターにいる私を強く抱きしめて囁いてくれた至福の一言だった。
俺も、ティファがティファだから、ティファの全部を『愛してる』。
それは、私を『私』にしてくれる『唯一の人』からの『唯一の言葉』。
あとがき
「君の言葉」のティファサイドです。
こんな風な二人をぜひ映像で見てみたい!!
そんなマナフィッシュの願望の塊の作品です。
きっと、この後、セブンスヘブンの扉には『臨時休業』の札がかかった事と思います。
店主がこんなに『至福』の時を迎えたのに仕事するなんて、野暮ですよね(笑)
それと、「君の言葉」で割とマナフィッシュのあとがきで衝撃を受けられた方多いようなので
補足を一言(汗)
マナフィッシュにとって、クラウドとティファはお互い大切に想っているのは絶対ですので、
どうぞご安心を(笑)
ただ、クラウドは想いを表に出さない分、どうしてもティファの方がクラウドを大切にしている様に見えてしまうんですよね。(マナフィッシュだけでしょうか 滝汗)
それで、DCでも『ロックハート』なままであるのが、すごくショックなんですよ。
そこで、その理由を勝手にこじつけて小説を書いたり、あとがきで感想を述べたりしてみて自分を慰めている状態です(ああ、余計に何か酷い事言ってますか!?)
マナフィッシュは『クラウドとティファ』のカップル以外は考えられません!!
ですので、あとがきでショックを受けられた皆様方、どうぞご安心を(え?無理ですか?汗)

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