あなたの為に

 今日は、セブンスヘブンの臨時休業日。
 ほぼ毎日営業している店だが、最近では臨時休業日を設け、その日に家族サービスをしたり、日頃出来ずにいる細かな家事をしたりと、様々な用件で一杯である。 本日は、家族揃って最近エッジに出来た、雑貨屋に来ている。
 なかなか可愛いアクセサリーや、ちょっとしたインテリアのような物を扱っていると、セブンスヘブンの常連さんから聞いてやって来た。
 家族揃って…、とは言ったものの、今日は一人欠けている。
 今日の早朝、急にクラウドに配達の以来が舞い込んできたのだ。
 時間も早く、今日は家族揃って出かける予定があった為、いつも以上に愛想のない口調で応対していたが、話の途中から彼の不機嫌な表情が一変した。
 そして、約束を反故にすることに対して頬を膨らませる子供達に謝罪しつつ、大慌てでフェンリルを駆って行ってしまったのだ。

 ティファにすら説明せず、朝食も食べずに大慌てで出かけたクラウドに、子供達は最初こそむくれていたが、雑貨屋についてからは、見る物全てに目を奪われ、今では完全にご機嫌になっている。
 ティファは、朝のクラウドノ慌てぶりから、何か事情があるのだろう、と分かっていた為、別に腹は立たなかったが、家族揃って出かけるのを子供達と同じ位楽しみにしていたので、気分がイマイチ高揚しない。

『何であんなに大慌てで依頼主のところに行ったのかなぁ。てっきり断るつもりだと思ってたのに』

 確かに、電話での初めの応対では断る雰囲気だった。
 それなのに、その態度が一変してしまった理由がさっぱり分からない。
 クラウドの考えている事が100%分かりたい…、などとは勿論思っていないし、無理な事だが、それでも今朝のあの豹変振りには目を瞠るものがあった。
 彼の気持ちをあそこまで変えてしまった理由とは、一体何なのか…。

 あれやこれや、頭の中でグルグル考えていたティファの目の前に、突然木彫りの不気味なお面がぬっと現れた。

 ギョッとして後ずさるティファに、お面の後ろからデンゼルがひょこっと顔を出した。

「ティファ、何ボーっとしてるのさ。どうせクラウドの事考えてたんだろう?」
「クラウド、来れなくて残念だったよね。このお店、凄く面白いもん」
 その隣で、マリンが可愛い木製のピエロのマリオネットを楽しそうに操っている。

「ティファ、クラウドにお土産買ってやろうよ。このお面なんか面白くって良いんじゃないかな?」

 デンゼルは、今しがたティファをギョッとさせたお面をまじまじと、面白げに見つめてニッと笑った。
 きっと、ギョッとしたティファの顔が面白かったに違いない。

「もう、そんな変なお面なんか、クラウド絶対喜ばないよ。デンゼルが欲しいだけでしょ!」大体、そんな物一体どこに飾るのよ、とマリンがビシッと一言で切り捨てる。

「え〜、良いじゃん、店にでも飾っとけば、お客さんにうけるんじゃないかな?」
「店の雰囲気が悪くなるから絶対駄目。そんなに欲しかったら、自分のお小遣いで買えば?」
「うっ…、それは無理…」だって物凄く高いんだぞ!と抗議するデンゼルに、
「じゃあ、諦めるのね」
と、マリンは一蹴する。
 これではどちらが年上か分からない。

 うな垂れるデンゼルと、殊更勝ち誇った様でもなく、店の品々を興味深げに眺めて回るマリンに、ティファは思わず苦笑した。


 全く、女の子の方が精神的に大人になるのが早いのかしら……。


 ティファは、うな垂れるデンゼルの肩に軽く手を置いて微笑みかけると、改めて店内を見渡した。

 確かに、常連さんの言う通り、なかなかお洒落な物が多い。
 中には、デンゼルの持ってきた奇抜な物も何点かあるが…。

 と、ふいにティファは、ある物に目を止めた。
 それは、綺麗なクリスタルガラスで出来ていて、手の平サイズの可愛い物から、大人の男の人の拳ほどもある物だったり様々だった。
 おまけに、その飾りの天辺には、メモか何かを差し込めるような溝が入っている。台所に置けば、レシピをそこに差し込んで料理が出来るだろうし、玄関に置けばメモか何かを差し込んで、帰宅した家族にメッセージが残せるだろう。
 デザインも多種にわたって充実している。
 クリスタルガラスの物だから、手の平サイズの小さい物でもなかなか値が張る。 しかし、中でもひときわ目を引いた物を、ティファは嬉しそうに微笑んで手に取り、それを買う事にした。
 デンゼルとマリンもそれを覗き込むと、にっこりと笑って、クラウドのお土産に賛成してくれた。


 その夜遅く、深夜を少し回ってからクラウドはようやく帰宅した。


 長距離の依頼であったのであろう。
 ゴーグルやクラウドの金髪は埃にまみれ、心なしか全体的にくたびれきった印象を受ける。

「お帰りなさい、遅かったのね」

 カウンターの奥で、愛しい人が笑顔で迎えてくれる事に、クラウドは心から安らぐ思いがした。

「ああ、今日はすまなかったな。折角の買い物だったのに」
「良いのよ。どうしても行かなきゃならなかったんでしょ?」
でも、シャワーを浴びたらその訳を教えてくれる?と小首を傾げて優しく微笑む彼女に、目を細めて軽く口付けると、優しく微笑んで頷いた。


 クラウドがシャワーから出てくると、温められた夕食がテーブルの上に用意されていた。
 そして、その夕食の横には…。

「どうしたんだ、これ?」

 思わず目を見開くクラウドに、「クラウドに今日の買い物のお土産。可愛いでしょ」と嬉しそうにティファはクラウドの顔を覗き込んだ。

「まぁ、可愛いけど、何で≪チョコボ≫何だ?」
 苦笑しつつ、「まぁ、理由は分かるけど」と、ぼやくクラウドにクスクス笑うと、自分もクラウドに向き合って腰を下ろした。

「それで、今朝はどうしたの?」
「ああ、それは…」

 クラウドの依頼主は、数ヶ月前にエッジに出稼ぎに来ている、クラウドやティファと同年代の青年だった。
 故郷は何とアイシクルロッジだという。
 その彼には、故郷に小さい頃から思いを寄せている女性がいるとの事だったが、彼女の家、とりわけ父親が厳格な人で、貧しい彼と彼女が親しく遊ぶ事を幼い頃から非常に嫌っていた。
 しかし、二人はそんな彼女の父親や家族から隠れて会うようになり、時を経て互いに思いを寄せ有るようになった。
 彼がエッジに出稼ぎに来たのは、愛する彼女との仲を認めてもらい、結ばれたいが為。
 エッジは今、復興の勢いが目覚しく、ここで一旗揚げる事ができれば、将来は硬い、そうなればきっと彼女の家も自分を認めてくれる、そう考えたのだという。し
 かし、昨夜急にに彼女から見合い結婚させられそうだ、との連絡が入り、彼に助けを求めてきたのだ。
 危機に立たされた彼は、現在修行中ではあるが将来は必ず独立し、彼女を幸せにしてみせる、と言う証をクラウドに配達してもらったのだという。それが…。

「クリスタルガラス細工なんだ」

 はぁー…っと驚きのあまり、長い息を吐くティファに、クラウドも苦笑しながら、お土産のクリスタルガラスを手に取る。

「まさか、依頼主の作品をティファが買って来るとは、夢にも思わなかった」
「…何か、不思議な縁を感じちゃうね」

 感慨深げにそのクリスタルガラスを見入る。

「で、結局どうだったの?」
「ああ、なかなか頑固そうな親父さんだったけど、彼のクリスタルガラスと添えられた手紙を読んで、胸を打たれたみたいでさ。何とか上手くいきそうだ。」
「本当!?良かった〜」クラウドが頑張って届けてくれたおかげだね、と微笑む彼女に、クラウドは頬をうっすら染めながら「別に俺は、特には…」「シドがシエラ号を出してくれたから」とごにょごにょと口ごもった。

 ティファはそんなクラウドが堪らなく愛おしい。
 決して自らの功績を自慢せず、どこまでも謙虚で、どこまでも強く、そして優しい。

 今日の依頼主も、その依頼主の恋人も、目の前の不器用で優しい人がいなければ、きっと悲恋のうちに終わってしまっていたのだろうから。
 そのことをもっと自慢しても良いのに、とさえ思う。

「ところで、このチョコボの使い道は一体何なんだ?」

 クラウドのもっともな問いに、悪戯っぽく微笑むと、ティファはカウンター奥までそれを持って行き、何やら紙片を挟み込んだ。

「………あ」
「ね、これで、クラウドがいつ帰ってきても、お店が満員だったとしてもこの席はクラウドのだよ」

 微笑むティファに、クラウドは嬉しそうにその紙片を見つめ、「ありがとう」と愛しい人の背に腕を回しながら耳元で囁いた。
 しかし、依頼主の青年とその恋人を、自分と彼女のようだと思ったから、何としても依頼主の青年の想いを届けたかった…、とは、結局恥ずかしくて言えず、クラウドの胸の中で大切にしまわれる事になった。


 次の日からセブンスヘブンのカウンター奥の席には、チョコボのクリスタルガラスが≪予約席≫の紙片を挟んで飾られている。



あとがき

え〜、何となくチョコボのクリスタルガラスが欲しいなぁ、というマナフィッシュの
願望を、小説にしてしまいました(笑)きっと可愛い!!ハズ(^^)
照れ屋で謙虚なクラウドが私は好きです。そして、それを微笑ましく見つめているティファに…(悶絶)