それは、とても晴れた日の出来事だった。
「ねぇ、ティファ…、相談があるんだ」
洗濯物を干しているティファに神妙な面持ちをして、可愛い子供達が並んで現れた。
デンゼルはどこかモジモジとし、マリンは珍しくどこかすねた様な顔をしている。
珍しい光景に、ティファは『お皿を割るとか、何か失敗でもしたのかしら?』と簡単に考え、洗濯物を干す手を休めると、子供達に向き合い、腰を屈めて視線を同じ高さにした。
「どうしたの?何の相談?」
小首をかしげ、優しい眼差しを向けるティファに、いつもならマリンが口を開いてくるだろうに、何故か今日はむすっとしたまま口を開こうとしない。
そんなマリンの様子を見て、『仕方ない』、という諦め顔になり、デンゼルが渋々口を開いた。
「あのさ、今日友達のお誕生日会に俺達呼ばれてるんだ」
「え?今日!?」
「うん…」
「何か、えらく急な御呼ばれなのね。それで、相談ってお友達へのプレゼントの事?」
ティファはむすっとした顔のマリンに不思議に思いながらも、デンゼルに話しかける。
友達のバースデーパーティーに御呼ばれして、不機嫌になる理由が分らない。
その友達が、デンゼルだけを呼んで、マリンに声をかけないなら話は別だが、『俺達』と先程デンゼルが言ったのだから、マリンもちゃんと御呼ばれしているのだろう。
なら、何ゆえにこの様に不機嫌な顔をしているのか??
デンゼルは、ティファの言葉にこっくり頷くと、ちらちらマリンを窺うようにして時折、視線を飛ばしている。
「プレゼント、ねぇ。相手は誰なの?」
「ジェイミーよ」
ティファの質問に、それまでそっぽを向いていたマリンが、そっぽをむいたまま不機嫌な声で答えた。
そんなマリンの様子に、ほとほと困り果てた表情のデンゼルと、膨れたままのマリンを見て、ティファは『ああ、成るほどね』と、納得した。
先日、ジェイミーがデンゼルに『私がピンチの時には助けに来てね』という約束を、デンゼルが快く(?)OKしてからというもの、マリンはジェイミーと仲が悪くなってしまったようなのだ。
「そ、それでさ。ジェイミーが言うんだ。『パーティーなんだから、二人共お洒落して来てね』って。プレゼントも困ってるんだ。だって、ジェイミーの家ってそこそこ金持ちだし、俺達でプレゼント出来る物って、たかがしれてるだろ?だから…」
「二人共、何て言ってないわ。ジェイミーは、デンゼルしか呼んでないじゃない!」
デンゼルの言葉を遮るようにして、マリンが声を荒げた。
そのマリンの一言に、ティファはびっくりしてマリンとデンゼルを見比べた。
「何言ってるんだよ。ちゃんとマリンも呼ばれただろ?」
「違うもん。本当は知ってるのよ!ジェイミーがデンゼルだけ呼ぼうとした時、デンゼルが『マリンも一緒じゃなきゃ行かない』って言ったって事!」
顔を赤くして言い繕うデンゼルに、マリンが負けじと言い放った。
デンゼルはその言葉に、ウッ、とつまると顔を更に赤くしてそっぽを向いてしまった。
ティファは、そのやり取りを聞いて、マリンの本当の不機嫌な原因を理解した。
ジェイミーはどうもデンゼルに好意を持っており、常に一緒にいるマリンに嫉妬しているのだろう。
そして、マリンもそんなジェイミーに以前のような好意を持てずにいるのだ。
マリンとジェイミーは、例の『約束』の件が起こる前までは、仲の良い友達だったというのに…。
「ねぇ、マリン。マリンはジェイミーと仲直りしたいと思ってる?」
再びむっつりと黙り込んだ子供達に、ティファは均等に視線をやりつつ声を掛ける。
「…うん」
ほんの少しためらいがちに、それでも素直に頷いたマリンに、ティファは微笑を浮かべた。
「ねぇ、デンゼル。マリンとジェイミーが仲直り出来るように、きっかけを作ってあげたかったんでしょ?」
「えっと、べ、別に、俺は、さ。前みたいに皆で楽しく遊べたらって、そう思ってるだけで…」
デンゼルの言葉に、マリンは大きな瞳を更に大きくしてデンゼルを見た。
本当に、何て可愛い子供達なのかしら!!
ティファは、胸に込上げる愛しさに、思わず二人をギューッと抱きしめた。
突然の抱擁に、デンゼルは照れて少し抵抗するが、もちろんティファに敵うはずもなく、マリンはマリンでびっくりした顔でティファの胸の中で固まっていた。
ティファは、二人の可愛いわが子をそっと開放すると、腰に手を当てて、にっこり笑って見せた。
「さぁ、そうと決まれば、さっそくおめかしとプレゼントを買いに行かなくちゃね!」
「「え!?」」
ティファの言葉に子供達は揃って目を丸くし、顔を見合わせた。
「だって、ジェイミーの誕生日パーティーには『お洒落』しなきゃならないんでしょ?それに、毎日お店の手伝いをしてくれたり、沢山二人には感謝してるんだもの。今日くらいはパーッとお買い物しても罰は当たらないわ!それに、きっとクラウドも私の意見に賛成してくれるわよ」
ね?だから大丈夫よ。
そう言って優しい眼差しと温かい微笑みを浮かべるティファに、子供達はパッと明るい顔をした。
が、マリンはすぐにまた暗い顔をして、「でも、私、あまり行きたい気分じゃないの」と、呟いた。
そんなマリンに、デンゼルも暗い顔をしたが、マリンの手をぎゅっと握ると
「大丈夫だよ、マリンなら。ちゃんと仲直り出来る!俺も、一緒に仲直りできるように手伝うから!!」
と、励ましの言葉をかけた。
その姿に、ティファはクラウドの凛とした表情を垣間見た。
本当に、デンゼルはクラウドに沢山良いものをもらってるのね。
マリンは、デンゼルの言葉に力づけられたのだろう。
顔をしゃんと上げるとデンゼルを見て、「うん。有難う、デンゼル」と、にっこりと笑った。
その微笑ましい光景に、ティファは何故か視界が滲むのを感じ、慌てて二人に背を向けて空を仰ぐと
「今日は良い天気だし、絶好の買い物日和よ!!」
と、明るい声を上げた。
その後、三人は揃ってエッジにある子供服の店へ向かい、少し奮発して二人に服を買った。
デンゼルには、彼の憧れであるクラウドが好んで着ている、黒系のパンツとベストのセットにダークブルーのハイネックのカットソー。
マリンには、プリーツが沢山入った水色のワンピースと、レース編みの白いカーディガン。
二人は、お互いおめかしした姿に見入って、お互いを褒めあい、そんな二人にティファは益々幸福で胸が一杯になるのを感じた。
そして、問題のプレゼントだが、これは二人がお小遣いを出し合って、大きなチョコボのぬいぐるみを買った。
その日の出費は、正直家計にとっては痛手であるが、クラウドも頑張ってデリバリーの仕事をこなしてくれているし、自分がもっと店を頑張れば済む話よね!と、ティファは明るく考えた。何しろ、可愛い子供達の盛装の姿を、これまで見る機会がなかったのだから、逆に今回の出費にはそれ以上の価値がある、とそう感じている。
クラウドが仕事から戻ったら、絶対に二人のこの姿を見せてあげなくちゃ!!
御呼ばれの時間までまだ時間がある為、三人はとりあえず一旦家へと帰った。
そして、ティファはクラウドの部屋に入ると、出てきた時にその手にはカメラが握られていた。
「折角だから、記念写真撮っちゃおうよ!」
ティファのこの提案に、二人は大いに照れて顔を赤くし、反対の声を上げたが、
「あ〜、残念だなぁ。滅多にない素敵な格好の二人なのに〜。それに、結構出費もしたのになぁ」
と、二人を心底残念そうに、それでいて、実に悪戯っぽく最後の台詞を口にする。
そんなティファに二人が敵うはずなどない。
「は〜い。じゃ、撮るよ〜。あ、駄目よデンゼル。ちゃんとこっち見て!ほら、マリンもスカート握り締めないの。変なシワが出来ちゃうよ」
そんなこんなで、無事に写真を撮り終えた頃には、御呼ばれの時間になっていた。
二人は着慣れない服を着ている為と、無事に仲直りできるか、という心配から若干動きがギクシャクしつつ、ジェイミーの家へと向かっていった。
そんな二人を少し心配しつつも、ティファはきっと上手く仲直りが出来るという、確信も持っていた。
あんなに素直で誰よりも思いやりのある優しいマリン、そして、そんなマリンを力づけて支えるデンゼル。
こんなに素敵な子供達が、他の子供達に受入れられないなんてあり得ない。
それに、きっとジェイミーもマリンと仲直りのきっかけが欲しいと思っている事だろう。
でなければ、デンゼルが『マリンも一緒じゃなきゃ行かない』なんて言うはずない。
ジェイミーがマリンと仲直りしたいという気持ちが分ったからこそ、強引に二人を会わせるように頑張ったのだと、ティファは思っている。
最初にジェイミーがマリンを呼ばなかったのは、きっと、マリンに拒絶される事を恐れたから…。
そう、だからマリンを呼ばなかったのだろう。
ティファは、自分の推理に自身があった。
子供の頃に、素直になれずに遠くから見つめている事しか出来なかった、不器用な幼馴染を知っているから。
その彼は、いまだに素直になる事に対して、非常に不器用だけど…。
今頃は一生懸命頑張って仲直りをしているであろう子供達と、家族の為に日夜必死に働いてくれている愛しい彼を想い、ティファは幸福感に包まれつつ、セブンスヘブンの準備に取り掛かった。
やがて、店がオープンし、あっという間にお客さんで賑わう店内に、仕事から帰宅した彼が「ただいま」と優しい声を聞かせてくれた。そして……。
笑顔で顔を輝かせて帰ってきた子供達が、無事に仲直りをしたと嬉しそうに報告してくれたのは、ティファの不器用な幼馴染が帰宅してすぐの事……。
おまけ
「見てみて、クラウド。このワンピース、ティファが買ってくれたんだよ!」
「クラウド!この服もどう!?ティファが選んでくれたんだ!!」
「へぇ、すごいな。二人共見違えた」
「でしょう?皆にすっごく褒められたの!」
「うん!皆にティファのセンス良いって言われたんだ!」
「そりゃそうだろうな。ティファのセンスはピカイチだ。俺の服もティファのチョイスだからな」
「「え!?そうなの!?!?」」
「ああ。俺はそういうの良く分らないからな」
「そうなんだ。ティファって凄いんだな!」
「私もティファみたいに料理も上手で、センスも良い大人になりたいなあ」
「きっとマリンならなれるさ」
「そうそう!その時は、マリン、俺の服選んでくれよな!」
「うん!!ティファに負けないように、うんとセンスを磨いて、デンゼルにカッコイイ服を選んであげるね」
『それは将来の約束になるのでは………』
店内にいたクラウド、ティファを含む常連客達皆がそう思ったのは、言うまでもない事……。
あとがき
え〜、今回は以前喧嘩してしまった友達との仲直りを書いて見ました。
仲直りって、本当に難しいし、自分からきっかけを作るのは大人でも子供でも本当に
難しい事だと思います。でも、マリンにはティファやクラウド、そして兄のような
デンゼルに支えられているので、きっと上手に仲直りが出来ると思うのです。
マリン自身が本当に素敵な女の子ですものね!
最後まで読んでくださり有難うございました。