『今から帰る』 「本当!?」 『ああ、珍しくスムーズに片付いたからな』 「うわ〜!じゃあ、今夜は一緒に夕飯が食べられるわね!」 『ああ、久しぶりにまともな食事にありつけるよ』 「ふふ…じゃあ、腕によりをかけて待ってるわね」 『いや、いい…』 「え……?」 『ティファの料理はいつでも美味いからな』 「な……!」 『クックッ…』 「ク〜ラ〜ウ〜ド〜〜」 『ックックック…。じゃ、また後でな』 ピッ。 「もう…。いつもは照れ屋なクセに……」 ティファは熱を持った頬に手を当てながら、嬉しそうに口元を緩ませた。 ブラックコーヒー鼻歌交じりにキッチンに立つ。 クラウドの営んでいるデリバリーサービスは有難い事に大好評だ。 あの仏頂面と黒いサングラス姿で配達されたら、受取人側としてはどうなんだろう……とか、内心心配していただけに、予想に反して嬉しい結果となっている。 ……当然、このことはクラウドには内緒だ。 子供達にも…仲間達にも…ましてや客達にも言ってない。 ティファ一人の胸の中で今も大切にしまわれている。 そんなこんなで、デリバリーサービスは今では超がつくほどの人気振り。 予約も多く、ひょんな依頼も舞い込んできたりして、中々に多忙な日々を送っていた。 当然、仕事が増えれば家族と過ごす時間も少なくなる。 子供達はクラウドと会えないことに対して不満は口にしないが、毎日の電話では、 「いつ帰ってくるの?」 「怪我してないか?」 「ちゃんと食べてる?」 「あんまり無茶すんなよ?」 「今度帰ってきたらゆっくりお散歩しようよ!」 「皆で川の字で昼寝しようぜ!」 等々、会えない寂しさを言葉の端々に滲ませていた。 そんな子供達の声を聞きながら、ティファはいつも切ない思いをするのだった。 遠い昔、母親を亡くしたティファにとって、片親に会えない寂しさは身に染みて分かっている。 勿論、クラウドは死んだわけではないのでちゃんと帰ってくるし、家に帰れない日は必ず電話をくれるので声は聞けるが、実際に会って、温もりを感じる事は出来ない。 デンゼルとマリンにとって、自分達二人は血の繋がりがない『赤の他人』と世間では一括りにされる関係だ。 だが、そんな『血』を越えた絆で結ばれていると確信している。 だからこそ! 思いのほか早く帰宅できるというクラウドの電話は吉報でしかなかった。 こんな日には、常連客達に申し訳ないと思いながらも店を開店させる気にはなれない。 マリンにユフィからの贈り物、『臨時休業』の札をかけてくるよう頼むと、愛娘は満面の笑みで駆けて行った。 「クラウド、本当に久しぶりだよな!」 「ええ、五日振りね」 「へへっ!」 嬉しそうに笑いながら率先してティファの手伝いをするデンゼルに、頬が緩むのを止められない。 「かけてきたよ〜♪」 「ありがとう、マリン」 「あ、そのお皿、出しとくね!」 「うん、お願いね」 「あ、じゃあ俺はこっちのグラスの準備しとこ!」 「ふふ…クラウドのグラスね?」 「うん!勿論、こっちはティファ、んでもって…」 「これとこれは私とデンゼル〜♪」 ウキウキと夕食の準備に精を出す。 クラウドが帰ってくるのが待ち遠しい。 一分でも…一秒でも早く帰ってきて欲しい。 いつもの唇の端を少し上げた笑みを見せて欲しい。 『ただいま』って言って欲しい。 『ただいま』のキスをして欲しい。 今か、今かと待っている時間というのは、普通遅く感じられる。 しかし、子供達と一緒に大切な家族の為にと、張り切って準備する夕食の時間だ。 あっという間に電話をもらった時間から二時間が経過していた。 料理はすっかり出来上がった。 もうそろそろ寒くなってきたので、鶏肉をグリルでじっくりと焼き上げクリームソースをかけたものをメインとし、ポテトとコーンのサラダとグリーンサラダを綺麗に一つの皿に乗せ、具がふんだんに使われたスープを用意し、近所で美味しいと評判のパンも幾種類か買いそろえた。(流石にパン種を今から発酵させる時間はない) そして、冷蔵庫にはクラウドのお気に入りのグラスとティファ、子供達のグラスが、卓上に並べられるまで冷やされているという力の入れよう。 クツクツと小さな泡を浮かせるクリームソースに笑みを浮かべ、グリルの中で脂を滴らせる鶏肉に目を細める。 もうそろそろ帰っても良いのではないだろうか? 二時間も経っているのだから。 それに、夕食を一緒に食べられるとクラウドは喜んでいた。 時計を見ると、19時12分。 もうエッジに着いただろうか? 連絡があるまでは…と我慢していたが、とうとう我慢しきれずに携帯をポケットから取り出した。 それを子供達が期待顔で見つめている。 数回の呼び出し音の後、 『俺だ』 「クラウド…」 聞き慣れた……聞きたかったその声にホッと安堵の声が漏れる。 「今どの辺り?」 『ああ、実はあれから少しモンスターの歓迎を受けてな。たった今、片をつけたところだ』 「モンスターに!?大丈夫だった!?」 ティファの『モンスター』という言葉に、子供達がハッと顔を見合わせて心配そうにティファへ顔を戻す。 『ああ、問題ない。ただ、ちょっと数が多かったから時間がかかった。すまない、今日中にはちゃんと帰れるから、先に夕食を食べててくれ。実はまだ、ジュノンエリアにいるんだよ、まぁすぐにこのエリアを抜けられる所までは来てるんだが…』 「ジュノンエリアの端ってことね…。じゃあ、飛ばしても…」 『そうだな、三時間はかかる』 「……そっか…」 ガッカリした声を出さないように気をつけてはいたが、それでも声にそれがどうしても現れてしまった。 『すまない。ジュノンエリアの真ん中辺りで電話したから、夕食には帰れると思ったんだ』 「良いの…。でも、二時間経ってもまだジュノンエリアから抜けられなかっただなんて…。よっぽど手強かったの?」 冷静に計算をしてクラウドの進み具合が遅い事から、モンスターが強力な力を持っていたのか…と心配になる。 それに対し、クラウドはあくまで冷静に、 『いや、純粋に数が多かっただけだ。それに、この辺は地理が悪い。フェンリルを操りながら戦うのはちょっと骨が折れたな』 「そっか…。でも、仕方ないよ。気をつけて帰ってきてね?」 『ああ、本当にすまない』 クラウドのその言葉に、ティファは電話を切ろうとした。 だが、心配そうに眉根を寄せている子供達に気付き、 「あ、ちょっと待って!」 慌ててクラウドを引き止めると、最初にデンゼルに携帯を渡した。 少し驚いたように目を丸くしたが、すぐ嬉しそうに破顔し、 「もしもし、クラウド!」 実に明るい声で電話の向こうにいるクラウドに話しだす。 その隣では、マリンが次に代わってもらおうとワクワクした顔で待っている。 そんな子供達の姿に、萎んでいた気持ちがフワッと軽くなる。 「うん、うん!良いんだ、クラウドが無事ならさ!あ、じゃあマリンと代わるな?」 ほい。 そう差し出した携帯をマリンはニッコリと嬉しそうに微笑んでそれを受け取り、耳に当てる。 「もしもし、クラウド?どう、大丈夫???」 嬉しそうに頬を紅潮させながら話す娘に、ティファとデンゼルも顔を見合わせて微笑んだ。 「うん、うん。へへ〜、すっごく美味しそうな出来具合だよ〜!出来たてが食べられないなんて、クラウド可哀想〜」 からかうような口調でニコニコ笑う。 「え?そりゃ勿論、ちゃんと残しとくよ!クラウドの為に張り切って作ったんだもん。……うん、………うん…。勿論だよ!……うん……へへ〜、楽しみでしょ?うん…。じゃ、ティファに代わるね?」 はい。 差し出された携帯を受け取り、耳に当てる。 『参った…』 「クラウド?」 『俺の好きなやつばっかりなんだろ?』 「え……ああ、夕食?うん、勿論そうよ」 『はぁ……出来立てを食べたかった…』 心底残念がっているその口ぶりに、思わず噴き出す。 「ちゃんと温めなおすわ。それに、明日の予定は空いてるんでしょう?一緒に朝食も昼食も夕食も食べられるじゃない」 『……まぁ、そうなんだけど…』 どこか拗ねたような口調に益々笑いを誘われる。 「じゃ、明日はクラウドも手伝って。そしたら出来たてを味見してもらえるし」 『…フッ。そうだな。それは楽しみだ』 夕食を一緒に食べられない…という事実にガッカリしていた気持ちが、クラウドの一言で一気に浮上する。 目を細め、遠くを見るように……離れた土地にいるクラウドを見るように……。 優しい瞳で笑みを浮かべて…。 「じゃあ…気をつけてね」 『ああ、それじゃ、また後でな』 そのまま幸せな気分のまま携帯を切ろうとした。 が…!! 何やら携帯の向こうからモンスターらしき唸り声が急に飛び込んできたかと思うと、 『な!!』 クラウドの驚愕の声。 更には耳障りなエンジンを急噴射させた爆音とタイヤが軋む耳障りな「キュキュキュキュキューッ!!」という音。 そして、クラウドともモンスターとも分からない荒々しい息使い。 ティファはパニックになった。 「クラウド、クラウド!?」 必死になって声を張り上げる。 デンゼルとマリンは、それまで幸せな空気を醸し出していたティファが、突如青ざめて狂ったようにクラウドの名を呼び続けている姿にギョッとした。 「ティファ!?」 「クラウド、どうかしたのか!?」 同じく心配で切羽詰った顔で見上げてくる子供達に、気の利いた台詞を口にする余裕など微塵もない。 それどろこかティファには子供達の声すら届いていなかった。 懸命に携帯から漏れ聞える『音』を聞き分け、彼が無事かを探ろうとする。 しかし、とうとう…。 「くっ!!!」 クラウドの苦しそうな呻き声を最後に、携帯はプッツリ切れてしまった。 しかも…。 グアァァアア!!! 獰猛なモンスターの唸り声を残して…。 携帯から離れていた子供達にもそのモンスターの唸り声は届いた。 知らず知らずの内にギュッ手を握り合い、放心状態のティファを揺する。 「ティファ、ティファ!」 「しっかりしてくれよ!!」 必死な子供達の呼び声に、ティファの虚ろな瞳が色を取り戻し…。 ガバッと身体を起こす。 ギョッと身を仰け反らせた子供達には目もくれず、ティファは凄まじい勢いで携帯のアドレス機能を捜査し、『リーブ』を表示させた。 躊躇う事無く通話ボタンを押す。 その間、たったの三秒。 「「……ありえない」」 携帯を耳に押し当て、リーブが出るのをジリジリとしながら待つ母親代わりに、二人は同時に呟いた。 やがて、ほんの数秒という時間で携帯に出たリーブに、 「リーブ!遅いわ!!!」 ティファが開口一番怒鳴りつけ、矢継ぎ早に今起こったことを捲くし立てた。 「クラウドがモンスターでジュノンエリアに襲われて電話が切れたの!早くWROの機械でクラウドの場所を捜索して!ううん、今すぐ助けに行って!!もしかしたら…もしかしたらーー!!!」 「ティファ…」 「何か…言ってる事…違うくない……?」 確かに今は緊急事態。 電話の途中でクラウドがモンスターに不意を突かれて襲われた。 それは確か…らしい。 だが…。 「だから!!モンスターがジュノンエリアでクラウドが襲われて!!」 「微妙に…」 「言葉がおかしいよな……」 「もう!とにかく、今すぐモンスターを探して!!」 「「違うだろう(でしょう)!?」」 イライラとヒステリックな声を上げるティファを見ていて、逆に子供達は冷静さを取り戻した。 一人がパニックになると、周りもパニックになる……という話を聞いたことがあるが、今回はそれに当てはまら無かった事が幸いした。 「ティファ、ちょっと携帯貸して?」 おずおずとマリンが手を出すが、全くティファは聞えていない。 自分の訴えにリーブが理解してくれない事に苛立ちを募らせ、興奮は絶頂を迎えている。 「ダメだこりゃ…」 デンゼルは溜め息を吐きながら、自分の携帯でクラウドに電話をかけた。 しかし、 『電波の届かない所におられるか、電源を切っているため、かかりません』 というアナウンスが流れる。 チラリとマリンを見ると、ティファから携帯を受け取ろうとしながらも視線を向けてジッと答えを待っている。 肩をすくめて首を振ると、小さく溜め息をもらし、パニックになっているティファにもう一度アタックしていた。 『ダメだな、こりゃ』 完全に我を失っているティファを見ながら、ふとデンゼルはある人物を思い浮かべた。 そして、ピピピ、と携帯のアドレス機能を操作し、その人物に電話をかける。 程なくして相手が出た。 『よぉ、珍しいじゃねぇか!』 「うん、あのさぁ、今、どこにいるの?」 『あん?今は丁度、WROの宿舎だぜ。飛空挺の造船技術に力貸してくれってリーブに依頼されてな』 デンゼルはガッツポーズを取ると、事の顛末を話した。 ついでに、リーブが錯乱状態にあるティファに絡まれて困っていることも話す。 『………そりゃ…迷惑な話しだなぁ…』 「でしょ?リーブのおじさんを助けてやってよ。ついでにクラウドの携帯の位置も走査してくれると嬉しいんだけど」 『…クラウドはついでなのか?』 「だって、クラウドがあそこらへんのモンスターにやられるはずないもん」 『……だな。ティファもそこんとこ分かってるはずなのになぁ…』 「まぁ、今回は急に電話が切れたみたいだし、切れる寸前に離れてた俺とマリンにもモンスターの唸り声が聞えたから仕方ないよ」 『はぁ…ったく、世話の焼ける二人だぜ』 「うん…本当に…」 『お前もマリンも、まだ小さいのに大変だなぁ…。ティファの奴にちゃんと走査しとくって言ってくれ。ついでにあいつの好きなコーヒーでも煎れて落ち着けってさ』 「うん、ありがとう」 携帯を切ったデンゼルは、まだ必死になって訴えているティファと、困りきった顔をしているマリンに再び溜め息を吐いた。 「ちょっと、デンゼル何するの!?」 突然携帯を取られたティファは眦を吊り上げ、息子を睨みつけた。 スツールによじ登り、ティファの手から無理やり携帯を奪ったデンゼルは、その気迫に気圧されながらも携帯を切る。 「ティファ!シドのおっさんに連絡取れたから大丈夫だって!!!」 「え……?」 途端にティファはピタリと固まった。 たった今ままでの剣幕がウソのようだ。 「シドのおっさん、今WROの施設にいるんだってさ。だから、クラウドの位置を探してもらえるようにお願いした」 ティファはその言葉に、一気に脱力して床に座り込んだ。 慌ててマリンが水を持ってくる。 差し出されたグラスをノロノロと受け取ると、ティファは口をつける前にデンゼルを見上げた。(スツールに腰掛けていた為、デンゼルのほうが目線的に上になる) 「本当に…?」 「うん、大丈夫だって。すぐに探してくれるよ。あ、ついでに、クラウドの好きなコーヒーでも煎れて待ってろって言ってたぞ」 「あ、ああ……そうね……うん……そうよね……」 ホッとしたのか…。 緊張の糸が切れたらしいティファはそのままグラスの水を一気に飲み干した。 そして、心配そうに見つめているマリンに、申し訳なさそうな顔をすると「ごめんね」とギュッと抱きしめた。 いつものティファに戻った事が分かり、二人共胸を撫で下ろす…。 「じゃ、シドの言う通り、コーヒーでも煎れて待ってようかな」 気を取り直したティファがキッチンに入る。 デンゼルとマリンは顔を見合わせて笑い合った。 が、すぐにある事に気付く。 「なぁ……クラウドっていつ帰ってくるか…まだ分からないよな…」 「うん……」 「今からコーヒーって……」 「冷めちゃうよね…」 「「…………」」 子供達はその事実をティファに言うべきかどうか迷った。 表面的には立ち直ったように見えたが、まだ動揺の残滓が残っているようだ。 迷いは一瞬。 「「黙ってよう」」 コーヒーが無駄になることはない。 冷める前に自分達用にミルクを入れてカフェオレにしてもらったら良いのだから。 食器棚からクラウド専用のカップを取り出す。 その手が微かに震えているティファに、子供達はチクリと胸が痛んだ。 自分の大切な人がモンスターに襲われた。 どれだけ心配だろう。 クラウドの実力を知っていても、万が一…と思ってしまうのは、やはりティファがクラウドの『恋人』だからだろう。 デンゼルとマリンにとって、クラウドは『父親』だ。 大きな存在の『父親』。 だから、余程の事がない限り、クラウドがとんでもないことになってしまうとは思えない。 そこの違いなのだろう…。 ティファの心情に胸を痛めながら、子供達は黙ってコーヒーメーカーの準備を手伝った。 手馴れている子供達によって、あっという間にあとはスイッチを入れるだけになった。 その時…。 ピシっ。 「「???」」 何か…小さな音が二人の耳に届いた。 それは本当に小さな音なのだが、ちょっと…耳慣れない音。 顔を見合わせ、首を傾げる。 ティファにはその音が聞えなかったようで、特に変わりなく二人に「ありがとう、準備してくれて」と礼を言ってコーヒーメーカーに焙煎したコーヒー豆を入れてスイッチを入れる。 程なくしてコポコポという心地よい音と共に、コーヒーの香りが店内に広がった。 「二人共、先にお夕飯食べる?」 「ううん、もうちょっと待ってる」 「うん。シドおじさんから連絡あるまでは待ってるよ」 可愛い返事をする子供達に、ティファは目を潤ませて破顔した。 やがて、コーヒーが出来上がり、ティファは出来上がったコーヒーを分けた。 子供達の分に砂糖とホットミルクを加えてカフェオレを作り、自分の分のカップにもコーヒーを注ぐ。 その流れでつい、まだ帰宅していないクラウドのカップにもコーヒーを注ぐ。 その寸前、二人は見た。 クラウドのカップにヒビが入っているのを! 先ほどの『ピシっ』という音の正体は、カップを持つ手に力を入れすぎたティファがヒビを入れてしまった音なのだ! 「あ!」「ちょっと待って!!」 二人の制止虚しく、湯気を立てた黒い液体がカップに注がれ……。 ビシッ!ガッシャーン!!!! 真っ二つに割れ、床に落下。 粉々に砕け散った。 「わっ!」「大丈夫!?」 ボタボタと床に広がるコーヒー。 それを真っ青な顔で見つめ、固まる母親代わり。 子供達は慌てて雑巾と箒、ちりとりでそれらを片付ける。 その間、ティファは石化したまま。 「ティファ……」 「おーい……」 目を見開いたまま固まっているティファに、恐る恐る声を掛ける。 ティファは動かない。 そのまま一体どれだけの時間が経ったのだろう。 時間にしたらほんの数十秒だったかもしれない。 数分だったかもしれない。 しかし、二人にはとてつもない時間に感じられた。 と…。 「クラウドーーー!!!!」 「「ひぃっ!!」」 突然悲鳴を上げたティファに、二人は思い切り後ずさった。 二人が飛びのいた場所を、風のように走り抜けようとする。 それを、マリンが慌てて追いかけ、寸でのところで服の裾を掴む事に成功した。 しかし、勢いがすごかった為、数歩引きずられて危うく転倒しそうになる。 それを追いついたデンゼルが助けつつ、ティファの腰に手を回した。 「ティファ!落ち着けって!!」 「ク、クラウドに絶対何かあったのよ!」 「なんでそうなるの〜!?」 「だって、何にもしてないのに『勝手にカップが割れた』のよ!?何かあったに違いないわ!!」 カップにヒビが入っていたことを説明しようとするが、完全にパニックに陥っているティファには届かない。 そのまま、二人はズルズルと店の入り口まで引っ張っられてしまった。 このまま街に飛び出されでもしたら、後日ティファはいい笑いものになってしまう! それだけはなんとしても阻止しなくては!!! もう既に、何度か絶叫してるのでご近所には聞かれている可能性が高い。 これ以上は……これ以上は絶対に、何としても…余計な噂話になるようなネタを提供するわけにはいかない!! 必死の攻防戦。 しかし、力はティファが圧倒的に上。 二人はギュッと目を瞑り、必死に戦った。 そして…。 『『笑い者になる時は一緒だ(に)!!』』 悲壮な決意を固めたその時。 「……何してるんだ?」 カウンター奥のドアから声をかけられた。 驚いて振り向いた三人の目に飛び込んできたのは…。 「「「クラウドー!?」」」 所々擦り傷を作ってはいるが、元気そのものの騒ぎの元凶。 その後ろでは、あきれ返ったような顔をしているシエラ号の艦長。 子供達はあまりにも早い騒ぎの元凶の帰宅に放心状態。 そしてティファは…。 他に何も目が入っていないのが良く分かる。 思い切りクラウドの胸に飛び込むと、人目も憚らず号泣した。 手加減なしで抱きついてこられたクラウドは、危うく後ろに倒れそうになり、シドが慌ててその背を両手で支える。 「あの…ティファ…?ごめんな、心配かけて…」 オロオロと謝るクラウドに、ティファはひたすらしがみ付いて泣き続けた。 どれだけ自分を心配してくれていたかが痛いほど分かる。 いや、実際……かなり痛い。 『…あばらが折れそうだ……』 ミシミシと音を立てる身体に、気が遠くなりそうになりながらも、クラウドは愛しい人の背を優しくなで続けた。 「で、どうしたの?スッゴク早かったね」 「ああ。実はWROの本部近くまで奴が来ててな。飛空挺飛ばしながら走査してたからすぐに回収したんだ」 「……助かったよぉ…あと少しで近所の晒し者になるところだった…」 「…そうみてぇだな…」 「でも、本当に良かったぁ、ティファが店を飛び出す前に帰ってきてくれて」 「おいおい…クラウドが無事で…じゃないのかよ?」 「「だって、クラウドよりもティファの方が危なかったもん」」 「……お前らも苦労だよな…」 まだまだ泣き止みそうにないティファと、格闘家に思い切り抱きしめられて青ざめてきているクラウドを見ながら、三人は溜め息を吐いた。 その後。 シドを交えた五人が夕食を食べたのは日付が変わるほんの少し前のことだったという。 くれぐれも、ヒビの入ったカップに熱いブラックコーヒーを注いではいけません。 あとがき ………すいません。 もう、何も言いません。 ほんっとうに……ご〜め〜ん〜な〜さ〜〜い!!(脱兎) |