チリンチリン…。
店のドアが開くベルの音がし、新しい客の来訪を告げる。
「いらっしゃいませ」
明るい声で迎えながら、マリンの瞳がスッと細められた事に気付いたのは、デンゼルだけだった。
ボディーガード
「やぁ、マリンちゃん、コンバンワ」
「いらっしゃいませ!」
ニコニコと笑顔を貼り付けているマリンに、若く軽そうな男が笑顔で挨拶をする。
「席は空いてるかな?」
そう言いながら、カウンターや店内をさり気なく見回す男に、マリンは笑顔のまま、
「すみません。今夜はご覧のように一杯なんです」
と返答した。
あくまで口調は丁寧に。
物腰は接客の態度で。
しかし、その言動の裏にあるものが、『さっさとお引取り下さい』と言っているものだと気付いているのは、やはりデンゼルだけだった。
男性は、マリンの言葉を半分聞いていないのだから、マリンの言葉の裏側にある真意など気付こうハズも無い。
「あ〜っと、それじゃ、待たせてもらって良いかなぁ?」
そう言いながらも視線は相変わらず店内を彷徨っている。
「お時間を大分頂戴しないといけませんが、それでも宜しいでしょうか?」
どこまでも笑顔を崩さず、接客の態度を保って『待たずに帰れ』と言っているマリンに、デンゼルは空いた皿を下げながら感心した。
自分にはとてもじゃないが真似できない。
そして、やはりそのマリンの真意に気付かずに「ああ、勿論良いよ」と上の空で答える男性客に溜め息を吐いた。
そう。
彼の目的はこの店の女店主なのだ。
最近エッジに出稼ぎに来たそうで、セブンスヘブンに通い始めて日が浅い。
しかし、ここ数日は毎晩のように店に通いつめているこの男性を、デンゼルとマリンは好きになれなかった。
勿論、この男性以外にもティファに想いを寄せて通う常連客は沢山いる。
それこそ、クラウドがその事実に気付けば、即刻店を閉じるよう要求する事が容易に想像出来るほどだ。
それでも、それらの男性客達には子供達はそれなりに好意を持っている。
何故なら、それらの常連客達はクラウドとティファの事を認めた上で、温かい眼差しで見守っているのだから。
決して『鬼のいぬまにナンとやら〜』という邪な思いを抱いていない。(いや、実際にはいるのだが、あまりにも存在がささやかで無害な為、マリンのアンテナに引っかからない)
故に、マリンもデンゼルも、それらの理解ある常連客達を、あり難い客人として素直に迎える事が出来るのだ。
しかし、今来た若い男性客は必ずクラウドが不在の日を狙ってやって来る。
ここ数日、クラウドは他の大陸の配達及び、WROのちょっとした支援の為に家を空けていた。
その事を、実に言葉巧みにティファから聞き出した男性客は、当然の顔をして毎夜、店に顔を出すようになった。
クラウドが普通に配達の仕事をして、夜遅くに帰宅する日でも、この男性客はクラウドが帰宅する直前に店を後にしているのだ。
その為、クラウドとこの男性客が顔を合わせたのは、この男性が初めてセブンスヘブンの客になった日のみだった。
その初日でクラウドとティファの関係を知り、またクラウドに自分があらゆる面で敵わない事を理解した男性は、その日以降、決してクラウドのいる時には顔を出さないようにしている。
無論、その事を直接聞いたわけではないが、それまでの男性の言動を見てきたデンゼルとマリンには容易にその事実に気がついた。
そして、勿論その事に子供達の母親代わりは気付いていなかった。
ティファは、この男性客に対して特に警戒心を抱いていないらしい。
勿論、ティファがこの男性に心奪われるとは微塵も心配していないが、自分の事になると殊に無頓着になりがちの母親である。
極々自然に子供達は『僕(私)が守らなければ!!』と固い決心をしたのであった。
「やぁ、ティファちゃんコンバンワ!!今夜も綺麗だね!」
「あら、いらっしゃいませ。いつ来られたの?」
店の奥に野菜を取りに行っていたティファがカウンターに戻って来た。
それを見て、店の入り口にあつらえた待合用の椅子に腰掛けていたその男性は、大きな声でティファに呼びかけ、これでもか、と言うほど手を振って自分の存在をアピールした。
その姿は、周りから見ると滑稽以外の何ものでもないのだが、当然その事を気にする様な人ではない。
満面の笑みの男性に、ティファも笑顔でそれに応えた。
それがまた、デンゼルとマリンの気に障る。
普通、子供はこの様に気に入らない事があると、わざと駄々をこねて自分の方へ気を引こうとするものだ。
しかし、デンゼルとマリンは違った。
そう。
セブンスヘブンの看板娘と看板息子は、そんな事はしない。
する事といえば…。
「お飲み物の追加は宜しいでしょうか?」
「ご注文は他に無いですか?この料理なんかは、ティファの得意料理ですけど…」
他のテーブルに行って、注文を聞きまくる。
大概の常連客達は、看板娘と看板息子のこの勧めに弱い。
「あ、じゃあもう一つセブンスヘブンオリジナルカクテル貰おうかな」
「それじゃ、その料理を一皿お願いしようかな」
となるのだ。
そのありがたいお客達に満面の笑みを向けると、二人は意気揚々とカウンターへ戻り、
「ティファ、新しい注文だよ」
「ティファ、沢山注文が入っちゃった」
と、嬉しそうに新しい注文の数々を伝えるのだ。
「あら!大変、そんなに?それじゃ、私はこの注文の品を作らないといけないから、お客様達のお相手、宜しくね」
慌ててカウンターの中で料理に取り掛かるティファに、二人は視線を交わすと、決して表情には出さずに、
『『よし!』』
と、お互いの働きを褒めるのだった。
そして当然、その事実に気付く人は誰もいない…。
かくして、今夜もこの戦法がとられ、見事な成果を上げることとなる。
しかし、この戦法の効果は長く続かない。
料理やカクテルが出来上がると、その作業は終了してしまうからだ。
そして、その隙を逃すほど、この男性客は悠長な性格ではない。
「お疲れ、ティファちゃん!カウンターの中で料理を作るティファちゃんも、笑顔を見せてくれるティファちゃんも全部素敵だよね!本当、俺、見惚れちゃうよ」
僅かに出来た隙を、今夜もこうしてこの男性は逃さなかった。
料理を運ぶべくカウンターから店内にやって来たティファに、男性が上機嫌で話しかける。
無論、ティファもそれに対して「フフ、有難う!」と、笑顔を向けるのだ。
それを見て、カウンターから離れたテーブルの空いた皿を下げていたデンゼルと、他のお客の話し相手をして笑っていたマリンが、
『『チッ!』』
と、胸の中で舌打ちをする。
しかし、ここで諦めるデンゼルとマリンではない。
ここに至るまで、割と時間が過ぎている。
当然、勘定をしても良さそうなお客さんも出てくるのだ。
「あ、もしかしてお勘定ですか?」
実に残念そうな顔をして、常連客に声をかける。
本当は、食後の一服を…と考えていても、看板娘と看板息子のこの表情を前に、腹など立とうはずもなく、
「ああ。また来るよ、ご馳走さん」
と、笑顔で答え、席を立つのだ。
「「ティファ、お勘定お願い!」」
男性客と話をしていたティファに、心の中で『『よしっ!!』』とガッツポーズをしながら声をかける。
その際にも、決して嬉しそうな顔はしない。
そう。
自分達が嬉しそうな顔をすると、きっと『俺が帰るのがそんなに嬉しいのか!?』と勘違いしてしまうだろう。
この作戦に乗ってくれたお客さん達は皆、デンゼルとマリンにとって恩人だ。
その恩人を不快にさせるなどもってのほか!
かくして、子供達の細やかな計算と配慮によって、店の常連客達は自分達の知らない間に、ティファを男性客の魔手から守る術として役立たされていたりするのだった…。
「お!もしかしてその席、俺が座っても良い席だったりする?」
待合用の椅子から腰を浮かせて、男性客が嬉しそうにティファに声をかける。
勘定を済ませた客がいる=席が空く
当然の図式だ。
そして、この男性客が次にテーブルに着く権利を持っているのも事実だった。
そう。
この空いたテーブルの上を綺麗にしたら、いよいよこの男性客がテーブルに着く事が出来るのだ。
子供達の愛くるしい瞳に闘志が宿る。
いよいよ、真の攻防戦が始まるからだ。
「「はい、お待たせしました、こちらにどうぞ!」」
デンゼルとマリンがにっこりと微笑みながら男性の前に立つ。
それは、実にさり気なくティファと男性の間に割り込む形となっている。
「お、おお、ありがとう」
あくまでにこにこと笑って見せる子供達に、男性は少々気圧されつつも素直に後に従った。
「いや、本当に良く働くねぇ」
「本当に全くだ。俺んとこの坊主にも見習わせたいぜ」
「マリンちゃんも将来が楽しみだしなぁ。ティファちゃんに負けず劣らず、べっぴんさんになるだろうぜ!」
「ティファちゃん、本当にデンゼルとマリンちゃんが看板娘と看板息子で良かったなぁ!」
そんな子供達の姿を見て、店内の客達が笑みをこぼす。
そう、誰一人として、お子様達の真意には気付いていない。
当然、ティファも全く気付いていない為、そんな客達の言葉に素直に嬉しそうに微笑み、頷いてみせる。
「ええ!子供達のお陰で私もクラウドもとっても幸せなんです」
「お〜!オアツイねぇ!!」
「イイネェ、幸せでさ〜!」
「クラウドの旦那が羨ましいぜ!」
ティファの計算でない、自然な言葉に店内が一気に冷やかしの言葉で賑わう。
ティファは、途端に顔を真っ赤にさせて「も、もう!からかわないで!!」と、目を泳がせながらカウンターの中へと逃げ去った。
その仕草の全てがなんとも言えず、可愛らしい。
しかし、そのティファの姿に、男性客はムッツリと不機嫌な顔を浮かべる。
『『よし!ティファ、サイコー!!』』
デンゼルとマリンは、ティファの自然体での痛恨の一撃に心の中で賞賛する。
あくまで顔は営業用の笑みを貼り付けて…。
「じゃ、じゃあ、ティファちゃんのスペシャルメニューをお願いしようかな」
気を取り直して注文をする男性客に、マリンがにっこりと微笑みかける。
「はい、『セブンスヘブン、本日のオススメ』ですね?」
「あ、ああ、それ。よろしく…」
にこにこと微笑みながら訂正するマリンに、男性は何故か背筋に冷たいものを感じた気がした…。
が、目の前にいるマリンはやはり笑顔なわけで…。
結局、いつもこの笑顔の前に『気のせいだよな』と、思うのであった。
『流石マリン。俺なら絶対にあの人にあんな事言ったら怒鳴られてるよなぁ…』
デンゼルは、妹の様な少女に感心しきりだ。
とてもじゃないが、あの様な台詞を邪気のない笑顔でビシッと口にする事は無理だと思う…。
そんなデンゼルの視線の先では、マリンが笑顔を崩さずカウンターへ戻り、ティファへ注文を伝えていた。
そのマリンを少々恨めしげに男性客が見つめているが、きっとその眼差しに気づいているのはマリンとデンゼルだけだろう。
それ程些細な表情しか男性は不満を表していない。
当然だ。
マリンの接客に落ち度は無く、完璧なのだから文句をつけられるいわれは無い。
カウンターで受けた注文を忙しく作るティファに、マリンとデンゼルは密かに視線を交わして微笑み合った。
これで、第一ラウンドはデンゼルとマリンの勝利だ。
次のステージに備え、二人は他の常連客達と交わりながら、意識はしっかりと問題の男性客に向けられていた。
そして、第二ラウンドが訪れた。
ティファが出来上がった料理を持ってカウンターから今まさに出て来ようとしている。
向かう先は、例の男性客。
当然、男性客はティファの行動を逐一チェックしている。
ティファが、自分の注文の品を手にカウンターを出て来ようとしているのを、嬉しそうに見つめているのが、お子様達のアンテナに引っかかった。
「ティファ、あそこのお客様が新しい注文お願いって」
マリンがこれ以上はないというタイミングでティファの前に立ち、ティファの手にしている料理をさっさと取り上げてしまう。
「あ、そう?わかったわ、ありがとうね、マリン」
にっこりと微笑みかけ、ティファはあっさりとマリンの指差したテーブルへと方向転換してしまった。
ガックリ…。
まさにその表現が相応しい。
男性は、落胆を隠そうともせずに肩を落とした。
『よし!流石マリン!!』
デンゼルはこそっとガッツポーズをする。
そして、チラリと店の時計に目を走らせた。
男性が訪れてからもうすぐ一時間になろうとしている。
そして…。
今夜のお子様達にはこれ以上は無い切り札が握られていたのだ。
それを知っているのはお子様達だけだ。
デンゼルは、込上げる笑みを抑えきれず、鼻歌でも歌いだしそうな足取りで、店の奥へと洗い物をするべく赴いたのだった。
「お待たせしました」
ティファから取り上げた料理を男性客のテーブルに手際良く並べ、マリンは営業用の笑みを残してさっさと他の客のところへと足を向けた。
男性客は、何となく釈然としない顔をしていたが、出された料理を口に運び、その料理の美味さにたちまちのうちに斜めになりかけていた機嫌が上機嫌になる。
その姿を視界の端で確認したマリンは『単純な人ね…』と、小さく溜め息をついて接客に戻った。
そう。
この男性客は、何故か非常に前向き精神なのだ。
お陰で、他のハイエナ客ならとっくの昔に諦めているはずなのに、えらく粘り強くティファの隙を狙っている。
狙われている美しい子羊は、そんな事に全く気付いていないので、こうしてデンゼルとマリンが密かにせっせと落とし穴を掘っているのだ。
しかし!
何度落とし穴に落ちても、この男性客はしぶとく這い上がっては懲りずに纏わりつく。
こうなったら、二度と這い上がれない最大級の落とし穴を用意するしかない!!
『でも、今夜こそ!!』
マリンも、デンゼル同様、店の時計に目を走らせ、営業用の笑みの上に、本当の笑顔を浮かべてティファを見た。
ティファは、他の客と楽しそうに話をしながら、カウンターの中でカクテルを作っている。
マリンは弾む足取りで、空いた皿を下げに回った。
やがてそうこうするうちに、更に時間は順調に過ぎていき、ちらほらと勘定を済ませて店を後にする客達も出てきた。
勘定をするべくティファが忙しく計算をしている時、例の男性客が席を立った。
カウンターのスツールが空いた為、そこへ移動する気なのだ。
いつも、カウンター席が空いたら、この男性客は自分の料理と酒を持って勝手に移動する。
一応、『ここ、空いたみたいだから移動させてね』と、一言は掛けてくれるのだが。
カウンターの席に移動すると、自然とティファと接する時間が長くなる。
それを見越しての席移動だ。
その要求に、本当ならデンゼルとマリンは拒否したいのだが、店主であるティファが「あ、良いですよ、どうぞ!」と答えてしまうため、自分達はそれに従うしかない。
いつもなら不機嫌にその手伝いをするのだが、今夜はこの瞬間を二人は待っていた。
いつもよりも上機嫌で料理とグラスをカウンターに運ぶデンゼルに、男性客は「?」と首を傾げたようだったが、そんな事はちっとも気にしない!
いそいそと料理をカウンターに運び終え、さっさとカウンター奥に引っ込もうとしたデンゼルの耳が、待ちわびていた『音』と拾い上げた。
パッと顔を輝かせ、マリンを見る。
マリンの耳にはまだ確認出来ていなかったようだが、デンゼルの顔を見て同様にパッと顔を輝かせ、嬉しそうに店のドアを見た。
「どうしたの、二人共?」
カウンターの中から不思議そうにティファが声をかける。
だが、その次の瞬間には、ティファの耳にもバイクのエンジン音が届いてきた。
「え、クラウド…?
目を丸くして店のドアを見つめる。
やがて、聞きなれたフェンリルのエンジン音が店の前に止まり、ドアを押し開けて金髪の青年が帰宅した。
「「おかえり、クラウド!!」」
「ああ、ただいま」
飛びつく子供達をしっかりと受け止め、クラウドは紺碧の瞳を優しく細めた。
「クラウド!どうしたの、帰るのは明日じゃなかった?」
カウンターからびっくりしてティファが飛び出す。
その慌てた様子から、クラウドの身に何か起こったのではないか、と案じているのが滲み出ている。
クラウドは、そんなティファに首を傾げつつ子供達を見た。
「二人共、ティファに言わなかったのか?今日、俺が帰るって」
「え!?」
びっくりしたまま自分達を見るティファに、デンゼルとマリンは満面の笑みで、
「だって、たまにはこんなびっくりも新鮮だろ?」
「今日帰るって知ってたら、お店お休みしちゃうでしょ?どうせお休みにするなら、明日丸々一日を家族と一緒に過ごしたいんだもん」
と、実に爽やかに言ってのけた。
クラウドとティファはポカンと口を開けていたが、子供達の言葉にたちまちのうちに笑顔になる。
その光景を見ていた常連客達は、
「確かに、その方が良いよなぁ!」
「全く、大した子供達だ!」
「う、羨ましい…」
と、口々に子供達の行動を褒め、クラウドとティファを冷やかした。
クラウドとティファは、お互い顔を見合わせてほんのりと頬を染め、そわそわと視線を泳がせる。
その仕草が、また客達の好感をさそう。
視線を彷徨わせていたティファは、ふとクラウドの手元に目をやり、首を傾げた。
「ところで、クラウド。そのお花は…?」
「あ、これか。これは…」
クラウドが手にしていた花束について説明をしようとしたその瞬間、待ち構えていたデンゼルとマリンの目が光った。
「わ〜!綺麗なお花!!これ、ティファに?」
「「え!?」」
クラウドとティファが、びっくりしてマリンを見る。
「い、いや…」
「クラウド、やるじゃん!!ティファに花束のプレゼントだなんて、初めてじゃないか!?」
何か言いかけるクラウドの言葉を遮って、デンゼルがはしゃいだ声を上げる。
「本当!!良かったね、ティファ!!クラウドからティファに花束の贈り物だよ!!」
「え…あ、いや…」
言いよどんでいるクラウドに、今度は常連客の中から驚きの声があがった。
「ひょ〜!!クラウドさん、やるじゃねぇか!!」
「やるねー!クラウドさんはそういうこと、しない方じゃないかって思ってたよ」
「良いねえ!実に初々しい!!」
花束がティファへの贈り物だと言う雰囲気が出来上がってしまうまで、数十秒で済んでしまった。
クラウドは、何か言いたそうにデンゼルとマリンを交互に見ていたが、満面の笑みを浮かべている子供達を見て、何かを悟ったようだ。
困ったように笑って見せると、子供達の頭をポンポンと叩く。
そしてティファに向き直ると、目を見開いているティファにおずおずとその花束を差し出した。
「………」
黙ったまま、その差し出された花束をそっと受け取ったティファは、無表情のままだった。
そんなティファの様子に、デンゼルとマリン、クラウドは困惑する。
『『もしかして、あの花束気に入らないのかな……!?』』
一抹の不安が子供達の胸に宿る。
いつの間にやら、店内はシンと静まり返り、常連客達も固唾を飲んで見守っている。
クラウドはクラウドで、完全にオロオロとしていた。
「あ、すまない。その花、気に入らなかったか…?」
恐る恐る声をかけるクラウドに、ティファはハッと我に返った。
そして、みるみるうちに薄茶色の大きな瞳に涙を溢れさせる。
「これ、本当に私に…?」
くしゃっと顔を歪ませて嬉しそうに笑うティファの頬に、溢れた涙が一筋零れる。
その姿に、シンとしていた店内に、ドッと歓声が上がった。
デンゼルとマリンも、大きく息を吐き出し、嬉しそうに笑い合った。
「な、泣かなくても…」
クラウドはホッとしつつも、今度は泣き出したティファにオロオロとしている。
「クラウド。シャワー浴びるついでに、ティファをちょっと休ませてあげたら?」
マリンの提案に、
「おう!そうしなよ、俺達はもう帰るからよ!」
「ご馳走さん!もう、腹一杯だ〜!」
「いや〜、良いもの見せてもらったな!また寄らせてもらうからな」
「お二人さんに乾杯〜!!」
と、次々と常連客達は席を立った。
ティファは、恥ずかしそうにしながらも、一度泣き出したらどうにも止まらないようで、グスグスと言いながら困ったように花束に顔を埋めている。
顔を赤らめながら、クラウドは子供達の提案と常連客達の言葉に素直に従い、そっとティファの肩に手を置くと、居住区へ向けてゆっくり歩き出した。
「「「ごちそ〜さ〜ん!!!」」」
そんな二人の背に、常連客達が祝福を投げかけた。
たった一人を除いて…。
やがて、完全にお客達が引き払った店内には、デンゼルとマリンが、パチン、と手を合わせる音が軽く響いた。
「やったね、これで完全に懲りたんじゃないかな」
「ああ!だって、勘定するときの顔、傑作だったよな!」
「うん!見ててちょっと可哀想になるくらいだったよね」
「まぁ、多分暫くしたら懲りずに来るんだろうな」
「あ〜、きっと来るんでしょうね…」
「ま、その時はその時で、今夜みたいに撃退したら良いんだし!」
「うん!私達二人がいたら…」
「「楽勝!!」」
「ごめんなさい…」
「いや、良いんだ」
「でも、本当に凄く嬉しかったの」
「そんなに喜ばれるとは思わなかったな」
「だって、思いもしなかったんだもん。ねぇ、どうして急に花束をくれたの?」
「…………いや、何となく…」
「……そうなの?」
「……ごめん、怒ったか?」
「ううん、全然!!とっても嬉しい!」
「そうか…良かった」
優しくティファを抱きしめながら、クラウドは思った。
子供達に『店内を飾る為の花束を買ってきて…』だと言われたから買ってきたなんて、絶対に言えない…
セブンスヘブン。
そこには、類まれなる美貌を持つ女店主がいる。
そして、彼女を守る世界最強のボディーガードが二人もいるのだ。
このボディーガードを倒して女店主の傍に行ける者など、果たして存在するのだろうか……。
あとがき
はい、またまたやってしまいました。
最強お子様コンビのお話です(笑)。
きっと、子供達は笑顔で最大限に計算をし、常連客達を味方につけていると思います。
そして、大切なお母さんを守ってるのです!
いえ、すみません。全部マナフィッシュの願望です(爆)
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