いつも突然現れて、相手の迷惑など省みることなく、ハリケーンの如く荒らしまわってから去っていく英雄がいる。
 彼女の現れるところ事件あり。
 いや。
 事件がないのに生み出されてしまうのだ、彼女によって。

 そんな彼女だけど…。


 文句を言いつつも、彼女の仲間達にとってその存在は…。






チャームポイント







「…それで、今はどこにいるって?」

 その日、クラウド・ストライフは朝っぱらからジトーッとした声でカウンターの彼女に声をかけた。
 ティファ・ロックハートは苦笑しながら、
「こっちに向かってるって。シドから連絡があったわよ」
 肩を竦めつつ朝食を手にカウンターを後にした。
 クラウドはガックリと頭を垂らすと、盛大に溜め息を吐いた。
 外は晴れ渡った実に素晴らしい朝だというのに、とんと似合わない不景気な表情。
 デンゼルとマリンは顔を見合わせると笑い声をあげないように口を引き結んだ。
 噴き出してしまいそうになるのを必死に堪える。
 クラウドの立場にたって考えると、早朝に入った英雄からの連絡は、まさに凶報以外の何者でもないのだから。

「…俺、久しぶりの休みなんだぞ……?」
「そうね。私達もとっても楽しみにしてたわ」
「それなのに……、なんだって嵐がやって来ることに…」
 はぁ…。

 大きな溜め息が、コーヒーを軽く波立たせた。
 湯気がユラユラと揺らめき、天井に登る道筋を一瞬変える。

 ティファは苦笑いを浮かべながらクラウドの前に出来たてのスープとサラダ、少し焦げ目のついたウィンナーとベーコンエッグの乗った皿を次々並べた。
 子供達の皿はほぼ空になっている。
 久々の休みと言うこともあり、クラウドはちょっぴりお寝坊をさせてもらったのだ。
 だから、子供達が先に朝食を食べ終わっている形になっている。
 本当なら家族揃って久しぶりの朝食を…と、前の晩、クラウドはそう言っていた。
 だが、時間になってもぐっすり眠っている彼を、ティファと子供達は黙って寝かせてやることで意見が一致した。
 いつも毎日頑張って働いてくれているクラウドに、せめて、今日一日くらいの朝寝坊をさせてやりたかった。

 と言うわけで、クラウドは予定していた起床時間を大幅に寝坊し、慌てて降りてきた所だったのだ。
 デンゼルとマリンはゆっくりゆっくり時間をかけて朝食を食べていたので、クラウドはギリギリ子供達と一緒に食事を食べられる…はずだったのに…。

 クラウドの朝食の準備をしながら今朝、届けられた凶報を伝えたティファは、クラウドを気遣わしそうに見つめた。
 ティファだけはクラウドが起きてくるまで朝食を待っていた。
 クラウドの隣に腰をかけると、一緒に、
「「 いただきます 」」
 と、手を合わせてフォークを取った。
 クラウドは、ティファから聞かされた『嵐の到来』に気分が沈んでいたが、ティファがニッコリ笑いながら一緒にフォークを取ったその時まで、彼女が自分を待ってくれていたことに気づかなかった。
 子供達を見ると、二人はニコニコ笑いながら、
「「 ごちそうさまでした! 」」
 自分達の食事の後片付けを始めた。
 皿を重ねて席を立つ瞬間、クラウドに意味ありげな含み笑いを浮かべる。
 クラウドも釣られて微笑んだ。
 子供達がなるべくティファと2人の時間を作ってくれようとしているのが伝わってくる。
 2人の天使のお陰で、クラウドのどん底だった気分は少し浮上した。

 どんなに落ち込んだとしても…。
 どんなに恨んだとしても…。
 ユフィがこのセブンスヘブンに向かっているという事実は変えられないだろう。
 ユフィが来る前にどこかへ逃避行する…という手もあるのだろうが、そんなことをしたら既に巻き込まれているシドやナナキが気の毒すぎる。
 確実にユフィに八つ当たりされることだろう。
 それに、どうせ逃げたところで無駄なことだ。
 ユフィは破天荒な人間だが、ウータイの忍としての腕は確かなのだから。
 どこに逃げたとしても、どうせすぐに見つかってしまう。
 ならば、無駄な足掻きをしないでなるべく早く、ユフィの気持ちを満足させてお引取り願おう。
 それが、一番だ。

「あのね、クラウド」

 それまで、どこか照れたように微笑んでいたティファが、少し真剣な顔でクラウドを見た。
 クラウドは軽く眉を寄せた。
 ティファがこういう真剣な顔をする時は、家族や仲間が何か問題を抱え、苦しんでいることが多い。
 それに今日は、これからユフィという『ハリケーン』が来るのだ。
 ティファの真剣な表情がいつも以上に重く感じる。

「ユフィ、なんか様子がいつもと違うんだって」
「…様子が?」
「うん…ユフィから連絡があったその後すぐに、ナナキから…」


 ―『ティファ、オイラ、ナナキだよ。あのね…なんだかユフィ、ちょっと変なんだ…。いつもと同じくらい強引にシドもオイラも捕まったんだけど、なんか……こう……上手く言えないんだけど、『空元気』って言うか…。ふとした時に、なんだかすごく悲しそうな顔をしてるんだ…。でも、オイラやシドが見てることに気がついたら、途端にいつもみたいに振舞ってさ…。だから、今回の『突然の来訪』って…いつもみたいな『なんでもないけど、とりあえず遊びに来た!』って奴とはちょっと違うかもしれない…』―


「……ナナキが…」

 クラウドは黙り込んだ。
 確かに…。
 確かに常のユフィからは少し考えられないような状態だ。

「何かあったのか?」
「ん〜…それが私には心当たりは無いわ。きっと、何か知ってるとしたら、ユフィのパパのゴドーさんか、ウータイの里の人達くらい……ううん、もしかしたら…」
 クラウドと同じく考え込んだティファは、クラウドが考え出す前にピン、と閃いた。

「もしかしたら、リーブが知ってるかも」
「リーブが?」

 クラウドは目を丸くした。
 カウンターの中では、同じく子供達がビックリして顔を見合わせている。
 クラウドとティファはすっかり子供達の存在を忘れていたが、子供達は実は、カウンターの中で自分達の食器を洗っていた。
 それはそれは静かに。
 クラウドとティファが早く2人きりになれるように…。

 だが、それなのに、クラウドとティファの会話によって、すっかり本来の目的を忘れてしまい、洗い物が終わった後でも、カウンターの中に留まってしまっていた。

「ユフィ姉ちゃんが落ち込むって…よっぽどだよな」
「う〜ん。でも、ユフィお姉ちゃんって、結構繊細だよ?」
「え!?どこが!?」
「どこが…って具体的に聞かれると困るけど、それでもお姉ちゃんはティファやお花のお姉ちゃんと同じくらい優しくて繊細だよ。」
「…ん〜…俺にはわからないけど…」
「デンゼルは男の子だもん。女の子の気持ちは分かりにくくても仕方ないよ」
「…ん〜……あのユフィ姉ちゃんを『女の子』って言うのはなんだか抵抗が…」
「もう、デンゼルったら!!」
「う…ごめんなさい」

 カウンターの中で、子供達がどことなく漫才をしている間、ティファはリーブの携帯にかけていた。
 流石に彼は多忙であるため、中々繋がらない。
 結局、留守電に切り替わり、仕方なくユフィがこれからエッジに来ること。
 そして、なにやら変に落ち込んでいるらしいこと。
 その原因を知っているなら教えて欲しいことをメッセージに残した。

「それにしても、なんでリーブなら知ってると思うんだ?」
「あぁ、結構ユフィとリーブは会ってるのよ。ほら、ユフィはウータイの忍でしょ?結構凄腕なのよ。隠密行動が得意だから、リーブが直接仕事を依頼することが多いんですって」
 ガッカリしながら携帯を切りながら答えた。

 クラウドは両手を組んで顎を乗せた。

「へぇ…。それは意外だな。ユフィに隠密行動が出来るもんなのか?」

 心から不思議そうにそう言ったクラウドに、ティファが微笑む。
『まるで…子供みたい』
 クラウドの仕草が可愛くて、ついつい笑みが誘われる。
 本当にこの青年と一緒にいると飽きる、ということを知らないで過ごせる。
 それがどれだけ幸せなことか。
 ティファは笑みを深くしながら、
「ユフィは本当に優秀みたいよ。結構、危ないスパイ行動とかも見事にこなしてくれるんですって」
「へぇ…それは知らなかったな」
「だから、リーブはかなりユフィのことを買っているの。でも、もしかしたらその隠密行動の間に何かがあって、ユフィの様子が変わってしまったのなら……」
「真っ先に俺達に『大丈夫でしょうか?』ってリーブの方から連絡が入る気がするな」
「…そうね…」

 ティファはシュン…と肩を落とした。
 確かにクラウドの言うとおり。
 もしも隠密行動の際に何かがあったのなら、リーブがそれに気づかないはずが無い。
 そして、あのリーブが傷ついたユフィをそのままにしておくはずもない。
 それが身体の傷であれ、心の傷であれ。
 そういう男なのだ、リーブ・トゥエスティという男は。
 だからこそ、WRO局長と言う重い責任を背負っている。
 リーブだからこそ、WRO局長に相応しいのだ。

「…プライベートでなにかあった……か…」

 クラウドがポツリ…と呟いた。
 窓の外を見る。
 どこまでも晴れ渡っている空と、せわしなく街を歩く人達だけが見えた…。
 もうすぐ、シエラ号が到着する……。


 *


「ヤッホー!ユフィちゃんだよぉ♪」

 セブンスヘブンにユフィ達が到着したのは、丁度朝のおやつの時間だった。
 ユフィが来ることを事前に知っていたティファは、彼女達が何時到着しても大丈夫なように軽い食事を準備していた。
 フルーツサンドとカフェオレがすぐにテーブルに運ばれ、ユフィはご満悦だ。
 その間、クラウドとシド、ナナキが不景気な顔をして軽く挨拶を交わしている。
 その視線がどこかアイコンタクトのようになってしまうのは仕方ないだろう…。
 早朝にティファへ連絡をしたナナキは、クラウドの予想通り、ユフィに振り回されてグッタリとしている『フリ』をしていた。
 一方、シドは…。

「あいつよぉ…なんっか隠しんてんだよなぁ……」

 小声でクラウドに耳打ちする。
 カウンターに寄りかかり、天井に紫煙を吐き出しながら…。
 傍(はた)から見たら、シドがただ単に長旅で疲れているようにしか見えないその仕草。
 スツールの背もたれに軽く腰を下ろしているクラウドも、暫くぶりの休みを台無しにされてしまって不機嫌なようにしか見えない。
 だから、まさか2人が心配しているなど、ユフィは露ほども気づかないだろう…。
 現に、彼女はティファに満面の笑みを向けている。

「ありがとう、ティファ〜!もう、シエラ号じゃあんまり食べられなくてさ〜。ほら、アタシ、乗り物に弱いじゃん?お腹は空いてるんだけど、食べたら吐いちゃいそうでさぁ」
「もう、ユフィ姉ちゃん汚いなぁ…」「ユフィお姉ちゃん、これも食べて!私とデンゼルが作ったホットケーキ」
「わ〜〜!ありがとう、マリン!ほんっとうに可愛いなぁ、それに比べてデンゼル〜、あんたはほんっとうに可愛くないね。そんな器の小さい男だと、将来大物になれないよ〜?」

 ケラケラ笑いながらデンゼルをからかいつつ、マリンの頭を撫でている。
 ティファは微笑みながら、そっとカウンターへ視線を流し、案じている二人の仲間に微笑みかけた。
 シドとナナキは軽く目を閉じてそれに応え、クラウドは黙ってユフィを見つめていた。

 子供達とじゃれているユフィはいつもと変わらないように見える。
 いや…少しはしゃぎ過ぎだろうか?
 だが、いつも彼女は元気すぎるほど元気なものだから、ちょっと判別がしにくい…。

「ユフィ姉ちゃん、ウータイでもいっつもそんなんなのか〜?」
「うっさいな、どういう意味だよ」
「そんな風にガツガツ食べたり、ゲラゲラ笑ったりさぁ、もうちょっとティファやマリンみたいに女の子らしくなんないと、姉ちゃんこそモテないんだからな」

 デンゼルが先ほどの仕返し!とばかりに小生意気に唇を尖らせた。

 ピクリ。
 ホットケーキを頬張っていたユフィが、不自然に止まる。
 クラウドとティファが軽く瞬きをしている間に、その不自然な停止は、
「う〜る〜さ〜い!ガキがいっぱしのことを言うんじゃないよ!」
 ニタ〜ッと笑ってガシガシとデンゼルの頭を押さえつけるように撫で、カウンターの方を向いていたシドには気づかれなかった。
 だが、その不自然な仕草は、マリンとデンゼルにもバッチリと見られ、ナナキは心配そうにクラウドを見上げた。
 デンゼルは『言い過ぎた!』と思ったのだろう、「痛い痛い!」と言いながらも、ユフィの手を振り払おうとはしなかった。


 *


「わ〜、絶景かな絶景かな〜!!」
「お〜〜!すっごいな!」「うん、ゴールドソーサーまではいかないけど、やっぱり凄いよね!!」

 ティファの心づくしの昼食を食べた後、一行はエッジに出来たばかりの巨大観覧車にやってきていた。
 平日と言うこともあり、休日に比べたら空いてはいたが、それでも1時間も並んでようやく乗れたこの観覧車は、エッジの目玉の一つとして売り出し真っ最中だった。
 急速に成長していくエッジの街並みが一望出来る様は、まるで復興していく星の姿をダイレクトに見ているようで既に人気が高くなっている。
 カップルや親子連れが目立つ中、大人4人、子供2人、獣1頭を引き連れた英雄達はかなり目立った。
 普段なら絶対にこういうことに付き合わないシドやクラウドまでもが、1時間の我慢して付き合ったという事実に、ユフィは悪戯っぽく笑いながら、
「明日は雹(ひょう)が降るかもね〜」
 とからかった。
 しかし、その言葉に込められた感謝の念は、しっかりと届いていた。
 そして、クラウド達は悟った。
 ユフィは気づいている。
 自分達がユフィを案じていることを…。
 そして、それを分かっていながら未だに抱えている悩みを打ち明けられないでいる自分を情けなく思っている。
 もしかしたら、打ち明けられないままウータイに戻ることになるかもしれない。
 それでも良い…、と思っているのだ…と。
 彼女が何に悩んでいるのかは良く分からないが、ユフィが心に傷を負っているのは確かなようだ。

 それに気づいたからと言って、ユフィの抱えている負の要素を吐き出させてやるだけの力量を持つのは、やはり…。

「ほら、デンゼルあんまりはしゃぐと危ないわよ?」
「マリン、こっちも凄いわよ、見てみたら?」

 子供達の世話を甲斐甲斐しく焼いているティファ・ロックハートだけだろう。

 クラウドはもとより、男性陣は戦闘に関しては右に出る者はいないというのに、こと繊細な問題に関してはとんと素人…と言うか、成す術を持っていない。
 まさに、天は二物を与えず…だ。

 ユフィも子供達と同じようにはしゃいでティファにくっついているが、なんとなくいつもと比べて遠慮があるように感じる。

『もしかしたら…ティファだけに会いたかったのかもな…』

 クラウドはそう感じるようになっていた。
 同じ女性同士、悩み相談ならティファにこそしやすいだろうし、逆に自分達男性達に持ちかけられてもろくな答えなど出来ようはずがないこと、ユフィは百も承知だ。
 と言うことは…。

『『『 あ〜…気がつくのが遅かった… 』』』

 シド、ナナキ、クラウドは期せずして同じ事実に同時に気がついた。
 だからと言って、巨大観覧車は既に回っているし、あと15分は地上に着かない。
 着いたからといって、わざとらしくティファと2人きりにしてやる…というのも、なんだか芸が無さ過ぎる…。
 逆に、そんなことをしたら、かえってティファに相談しにくくなるかもしれない。

「クラウド、なに眉間にしわ寄せてるの?」
「シドのおじさん、なんで唸ってるの?」
「…ナナキ、酔った?」

 ティファ、マリン、デンゼルがそれぞれ怪訝な顔をして英雄3人を覗き込んだ…。


 結局。


「なんだよ、本当に三人とも愛想がないんだから」

 ブーブー口を尖らせているユフィを先頭に、一行はセブンスヘブンへの帰路いに着いていた。
 巨大観覧車に乗っただけで引き上げるのはなんとも勿体無い気がしないでもないが、明日からシドはWROの新型飛行船の設計が入っているため、どうしても今夜中には本部に着いていなくてはならなかった。
 ユフィは文句を言いながらも、いつものように『アタシが法律!!』と、恐ろしい我がままを口にしなかった。
 それがかえって、英雄達の不安と心配を増強させた。

「ユフィ、クラウド達に愛想を求めてもダメよ」

 クスクス笑いながらティファが男性陣をからかいつつ振り返る。
 子供達が明るい笑い声を上げながらクラウドの手に掴まった。
 シドとナナキは何か言いたそうに口を開けたが、結局何も言わずにそっぽを向いた。
 クラウドは苦笑しつつ、「ま、ティファの言うとおりだよねぇ」と笑っているユフィを見た。
 カラカラと笑っているのに、やはりいつもの元気が無い。

 笑い声が絶えて、なんとなく微妙な空気が流れる。
 子供達もなんとなしにチラチラ視線を交わしながら、この場の空気を掴もうとしていた。


「ユフィ」


 その場の雰囲気を変えたのはクラウド。
 かつての旅のリーダー。
 ユフィが「んあ〜?」と、間の抜けた顔を繕って半分振り返る。
 口元は笑っているのに、目が笑っていない。
 クラウドの言葉を警戒している色が浮かんでいる。


「俺達に言いにくいならティファに言え」
「え…」


 ピタリ。
 全員が立ち止まった。
 皆、クラウドを見つめている。
 全員ビックリして軽く目を見張っていた。
 クラウドは続けた。

「なにかあったんだろ?言いにくいことだろう?」
「……」
「それでも、ティファになら言いやすいか?それとも、何も吐き出さないでこのまま帰って、お前が明日からまた今までみたいに頑張れるなら、何も言わないで構わない、お前の好きにしろ。でも…」

 言葉を切って、その次の台詞に力を吹き込ませる。

「明日からも何も変わらず辛いままなら、吐き出してしまえ」

「それが、いつも俺の背中を蹴り飛ばしてきたユフィだろ?」


 どんぐりのような大きな瞳が真っ直ぐクラウドを見つめている。
 その目がパチパチ、と数回瞬きをしたかと思うと、次の瞬間ギューッと瞑られ…。


「プッ…!アッハッハッッハッハ、プハーッハッハッハ!」


 腹を抱えて笑い出した。


 *


「ま、アタシだってれっきとした乙女なわけよ」

 ティファの入れてくれた特製ミックスジュースを啜りながら、ユフィが言った。

「んでもって、アタシのことをすっごく慕ってくれている可愛い妹分が沢山いてさ。ジェノバ戦役の英雄って素敵〜♪ってそりゃあモテモテなんだよねぇ」

「でもさ…」

「なんつぅか…、こう『ユフィ・キサラギ』として見てくれてた頃とは目が違うんだ〜。なんか『別物』を見てる目」

「幼馴染だったのになぁ…とか思うと、なんか疲れちゃって」

「なんでも出来るんでしょう?って当たり前みたいな顔して話されたりとかさぁ、もう本当にどこまでアタシを『神仏化』するかなぁって感じ!」

「その点、皆はちゃんと1人の人間として頑張ってるんだよなぁ…とか思うと、なんか情けない…って言うか…ん〜…ちょっと寂しくなった…って言うか」

「あ、親父は勿論アタシのことを今でも『バカ娘!』って言うんだけどね。親父だけってのもなんか寂しいもんでさぁ」

「同い年くらいの人と対等になりたくなった……かな…?」

「だから、クラウドやティファ、シドにナナキの顔見て元気もらいたくなったってワケ!」

「ごめんね、変に心配かけてさ」

「アタシは大丈夫!お陰さまで元気いっぱいもらったからね。それに、やっぱアタシがしっかりしなきゃ、ウータイに未来は無い!とも思うんだ〜」

「だ〜って、ほんっとうに軟弱者ばっかなんだもん。女もだけど男がねぇ〜。『ユフィちゃんがいたらどんな事態も楽勝だよな』ってこの前話してるのを聞いた時には、腹立つの通り越して呆れちゃったよ」

「ほんっとうに全く、こんな乙女に何でもかんでも託すなっつうの!」


 ユフィの抱えていた悩みに、仲間達は軽く息を飲んだ。
 いつも元気印のユフィが、こうも繊細な部分を見せてくれるとは。
 正直、ユフィに限ってそんな繊細なこと!と思わないでもないが、それを勝る大きな喜びがあった。
 弱い部分を晒してくれたユフィの気持ち。
 自分達を頼ってくれているという絶対的な信頼感。
 これほど仲間として嬉しい事が他にあるか?


「それにしてもさぁ」

 ニヤ〜ッと笑ってユフィはクラウドを見た。
 少し居心地悪そうにクラウドはその目を見返した。

「クラウドがまさか、アタシに気を使ってあんな言葉をかけてくれるとはねぇ。家に戻ってから大人になったんじゃん?」
「……黙れ」
「お〜、照れちゃって〜♪可愛いなぁ、クラウド。そう言うところがクラウドのチャームポイントなんだよねぇ、ティファ」

 ケラケラ笑いながら、突然話を振られて真っ赤になるティファをからかうユフィはすっかりいつものユフィだ。
 明るく、陰気な気配を吹き飛ばしてくれる元気なウータイの忍。

「うるさい、黙れ」と言いながら、クラウドは思った。

 仲間や子供達をいつの間にか笑いの渦に巻き込んでしまうこのユフィのこの明るさこそ、彼女の最大のチャームポイントだ…と。


 …例え死んでも言えない台詞だが…。


「じゃ、またね〜」


 来た時とは裏腹に、ユフィは心から満面の笑みを浮かべてシド、ナナキと共に去って行った。
 後刻、留守電に気がついたリーブから連絡が入り、ティファが簡単に事の顛末を説明した。
 リーブもまた、ユフィの内面に気をつけて接していくことを約束してくれた。


「それにしても、本当にクラウド、カッコ良かったよ」

 2人してベッドに腰掛けたその晩、ティファが思い出したようにそう言った。
 クラウドはなんのことか分からず首を傾げる。

「ユフィの心、ちゃんと助けてあげたこと」

 悪戯っぽく笑うティファに、クラウドは今更ながらに顔が赤くなった。
 なんとも自分には似合わない恥ずかしい言葉を口にしたものだ…。

「でも、また今日みたいに打ち明けてくれたら良いね。変に我慢しないで…ね」
「…そうだな」

 フワッと微笑み、目を細めるクラウドに、ティファも双眸を細めた。
 自分にはティファがいる。
 自分にはクラウドがいる。

 だから、こんなにも心強いし、わざわざ空を駆けて会いに来なくても支えてくれる存在がすぐ傍にいてくれる。

 願わくば…。
 どうか、ユフィにもそんな存在が現れてくれることを…。

 2人はそう思いながらそっとお互いの存在を確かめ合いながら、至福の眠りにゆっくりと落ちていった。


 明日、あの元気印の破天荒娘がその本来の力(チャームポイント)を取り戻して、元気に世界を駆け回ってくれることを祈りつつ…。



 あとがき

 なんとなくクラウドが仲間を励ましている話が書きたくなりました。
 はい、見事に撃沈です。
 やっぱりヘタレてるクラウドが書きやすいなぁ…(^^;)