街を歩けば誰もが振り返る…その男性は…。
 金糸の髪を陽に煌かせ、紺碧の瞳はいつもクールに輝いて…。
 男性だというのに、なみの女性よりも整った綺麗な顔。
 これだけの要素が揃っているのに『興味を持つな』という方が…難しいのではないだろうか…?

 女性なら(一部同性でも)『憧れ』と『恋心』を抱いても仕方ない容姿端麗な青年は、今日も無愛想という持って生まれた『宝物』をフル活用しながら街を歩いていた。



クールビューティー




 普段は彼以外が操る事は困難とされる大きな愛車で街を疾駆し、星の隅々まで思いのこもった荷物を運んでいる。
 しかし、今日は太陽の光を一身に浴びながら、ゆったりとした歩調で街を歩いていた。
 何故か?と、問われれば、何と言う事はない。
 突然のキャンセルで時間が出来た為、いつもは出来ない恋人の手伝いを…ということで、買出しに繰り出しただけ。
 しかし、当然のことながらそんな諸事情をエッジの街を歩く人達が知るはずも無く、彼の悠然と歩く姿に目を奪われたり、嫉妬心を煽られたりするわけで…。

 コソコソ…。
 ヒソヒソ…。
 ザワザワ…。

 クラウドが通り過ぎるとチラチラと何度も振り返ったり、路地や店の軒先に避けて囁きあう。

 出来ればお近づきになりたい。
 いやもう、いっその事、彼の『恋人』になってしまいたい!!
 勿論、同性の大半は『彼自身』になって『彼の恋人』の『心』を奪いたいと願っている。
 ……だが……ごく一部の男性は…………異性のような感情を抱くわけで…。

 ゾクッ!!

 クラウドは思わず振り返った。
 幾人かと視線が合ったが、相手が慌てて視線を逸らしたり足早に去っていく。
 決して悪意からではない事が分かって幾分かホッとしながらも、それでも粟立った肌はゾワゾワと不快感を表していた。

『なんだって言うんだ…?』

 敵意や殺気には鋭くとも、こういった『好奇の視線』、とりわけ『恋心』や『憧れ』、『羨望』といった感情にはとんと疎い『ジェノバ戦役の英雄のリーダー』は、不可解極まりない思いを味わいながら、愛しい人のお願いを叶えるべく、眉間のしわを深めながら街を歩いた。


 久しぶりに歩く街は新鮮だった。
 時々、妙に首の裏がチリチリと不快感でざわめくが。
 それさえも、大した『敵意』ではないので仕方なく放っておく。
 時々、『敵意』以外にも感じるものがあったりするのが何とも言えず…気味が悪い…。

「………ゾッとするのは……なんでだ……?」

 少し自分を抱きしめるようにして両腕をさする姿は滑稽なのに、女性が見たら思わず『守ってあげた〜い!!』というなんとも母性本能をくすぐる仕草のようで。
 結局、クラウド・ストライフが異性から憎まれたり、イヤな目で見つめられる事は皆無に近い。
 しかしながら、その熱視線はどういうわけかクラウドには届かない。
 勿論、『見られている』という自覚はある。
 だが、だからと言って何故見られているのか…という不快感を感じるだけで、今となってはもう慣れっこになってしまったのが悲しい…。
 何しろ、WROの広報誌でデカデカと顔写真を載せてしまったのだ。
 こうなってもまぁ……仕方ないだろう。
 少し我慢をしたら、そのうち世の人々の関心も薄れ、これまでのように変に注目を集めないで生活する事が出来る…はず。
 そう思っていたのだが、段々その自信がなくなってきた事実が……情けない。

「…なんとかなる…かなぁ…」

 思わず立ち止まって溜め息を吐く。
 その仕草ですら、街行く女性たちには物憂げに見えて……ハートを鷲掴みにされるもので……。

『キャーー!!見た見た!?』
『見た〜〜!!』
『イヤ〜ン…、思い切り抱きしめてあげた〜い!!』

 などというアフォな感情を抱く女性が信じられないくらい多かったりするのだが、当人は全く気付いていない。
 何しろ彼はウータイ産の忍曰く、


 朴念仁が服を着て歩いている!


 のだから。
 ある意味、そのお蔭で仲間達はヤキモキしながらも、心のどこかで安心していた。
 クラウドが人並みの男性と同じだけ、『異性に関心』を持っていたら、それはそれは厄介なことになっただろう。
 だが、不幸中の幸い。
 彼は全く持って…鈍い!
 度が過ぎるほどの鈍さだ。
 勲章ものだ!

 というわけで、クラウドがティファ以外の女性に興味を持つ心配をしなくて済むことが仲間達の心の平安をもたらしていた。
 まぁ…。
 朴念仁が故に、逆に一向に進展しない二人の仲にヤキモキさせられるのだが…。


 とまぁ、そんな事はさておき…。
 現在クラウドは、最愛の恋人の役に立つべくセブンスヘブンが贔屓にしている八百屋に向かっていた。
 最初は野菜の名前すら満足に知らなかったクラウドだが、この二年半の共同生活で人並みの知識を得る事が出来ていた。
 だが…。

「お!いらっしゃい!!旦那が来るなんて久しぶりじゃないか〜!!」

 でっぷりとしたお腹を揺すりながら人の好い笑顔を振りまく八百屋の店主を前に、クラウドはティファからお願いされたものを頭の中で反芻する。

「ティファちゃんのお使いかい?」
「ああ……」
 ニコニコと笑う店主を見る事無く、真剣な眼差しで陳列している野菜に目をやる。

『…………どれだ…?』

 ティファが言っていた『モノ』が見当たらない……気がする。
 確か…。

「旦那、どれを頼まれたんだい?」
「………ブロッコリー…?」
「ブロッコリーかい?ほら、目の前の…」
「いや、緑色じゃなくて…」

 僅かに眉を寄せて困った顔をするクラウドに、店主は首を傾げた。

 ブロッコリーは…緑色だ。
 それなのに、彼は緑色じゃないと言う。
 おまけに……何故か『ブロッコリー…?』と最後にクエスチョンマークが付いていた。
 という事は…。

 パッと店主の頭に一つの野菜が閃いた。

「あ〜!カリフラワーだな」
 サッと差し出した『白いブロッコリー』に、クラウドは愁眉を開いた。


 ― クラウド、『カリフラワー』っていうブロッコリーに似てる白い野菜をお願いね? ―


 なるほど。
『白いブロッコリー』だな…。

 妙に感心しながらそれを受け取る。

「それで?他には頼まれてるものあるかい?」
「ああ……その……」
「ん?なんだい?」
「………大根…?」
「…大根はこれだけど…」

 差し出された白くて太い、立派な大根にクラウドはまたもや困った顔をする。

「いや……それではなくて……」
「…なにかヒントはなかったかい?」
「………ひょろっとした…細い茎みたいな……」

 またもや店主の脳裏に一つの野菜が閃いた。

「あ〜!『カイワレ大根』だな!」

 差し出されたものは、一見なにかの『芽』のようだ。
 ホッとしてクラウドは再び表情を和らげた。


 ― クラウド。『カイワレ大根』っていうのは、大根って言っても『小さな芽』みたいなものが先っぽにあるひょろっとした細い茎みたいな野菜なの。サラダには欠かせないのよ ―


 なるほど。
 確かに『何かの芽』みたいだ。
 こんなのが野菜なのか……。

 再び変に納得しながらそれも受け取る。

「それで、今日はこの二つだけなのかい?」
「いや……それが……」

 口篭もる金髪の青年に、店主は人の好い笑みを深めた。

「…グラタンの具によく使う……葉っぱ…?」
「あぁ、『ほうれん草』だな」
「あと…小さな丸い大根…」
「『カブ』ね」
「それから…その『カブ』の赤いやつ…」
「『ラディッシュ』ね、はいよ」
「……なんとかって言う『レタス』」
「…?『サニーレタス』かな?」
「あぁ、それ」

 などというやり取りをしながらクラウドは見事、ティファの買い物をゲットした。

 はたから聞いていたらなんとも漫才のようなそのやり取りも、喧騒溢れる市場でのこと。
 少し遠巻きにクラウドをうっとりと見つめていた女性たちにはそのやり取りは聞えない。

「……素敵…」
「野菜一つを選ぶのもあんなに慎重で…」
「あの野菜を見定める眼差し……なんてカッコイイの…」
「それにあの仕草!」
「ええ、小首を傾げたり顎をつまんだり……」
「あの小首を傾げる角度が……」
「「「「「サイコーよねぇ……」」」」」

 真実を知らない女性達のハートを鷲掴みにしているとは全く知る由もないクラウドは、拙い表現で自分の欲しいものをテキパキと手渡してくれた店主に支払いをすると、

「ありがとう」

 フワッと目元を緩めて笑みを浮かべた。


 ズキューーーン!!!!!


 滅多に見ることの出来ない『クールビューティー』の稀少ともいえるその微笑に、女性達のハートが撃ち抜かれる。


 物陰から何やらドサッという音がしたが、活気溢れる市場ではささやかな音にしか聞えない。
 クラウドは「ん?」と、そちらへ顔を向けたが何も目に付くものが無かった為、再び店主に顔を戻した。
 当然、ドサッと言う物音はハートを撃ち抜かれた女性達が幸福の絶頂に達して失神してしまった音。
 通りすがりのカップルや買い物に繰り出した主婦たちがギョッとし、慌てて駆け寄る。
 小さな人だかりが出来たが気にもとめず、クラウドは軽く店主に会釈をして八百屋を後にした。

 立ち去る青年の背を見送りながら、でっぷりとした腹を揺すりつつ、店主は満足そうに自分の仕事に戻っていく。
 新しい野菜を綺麗に陳列し、新たな客の呼び込みをするその頭の中は…。

『なんで『買い物リスト』のメモを持ってこなかったんだろう……』

 という素朴な疑問で一杯だった…。




「ただいま」
「あ、おかえりなさい!」

 テーブルを拭き清めていたティファが、笑顔で出迎える。
 釣られてクラウドの顔にも笑みが広がった。

「ところで、ちゃんと買えたのかしら?」
 悪戯っぽく微笑む恋人に、クラウドは無表情を装いながら「ん…」と、買い物袋を差し出した。

「ふふ、どれどれ〜?」

 カウンターの上に野菜を並べて吟味するティファに、心なしか緊張する。
 真剣な眼差しで見つめてくるクラウドを視界の端で認めながら、ティファは笑いを堪えるのに必死だった。
 全部をカウンターの上に並べ、暫しジッと見る。
 自分の頼んだものを一つも間違えずに買ってきたばかりか、上質のものを手に入れてきてくれていた。
 にも関わらず、こうしてクラウドを焦らしてしまうのは…一重に彼が可愛いから…だったりする。
 必死に無表情を保とうとしているのに、目が不安げに小さく揺れているのが……おかしくて堪らない。
 可愛くて…愛しくて…。
 ついつい悪戯心がティファの胸に湧いてきて抑えきれなくなった。
 というわけでの、ちょっとした悪戯。
 だが…。

「……なにか……間違えたか……?」

 思わず不安そうな声で訊ねるクラウドに、ティファはとうとう堪えきれずに吹き出した。

「ふふっ!大丈夫、お願いした通りよ。ありがとう、クラウド!」
「そうか…」

 ティファの満面の笑みに、折角保っていたポーカーフェイスがあっさりと崩れ、心底ホッとした表情になる。
 再び声を上げて笑うと、思わず少しだけムッとする。

 照れ臭さ半分、ちょっと子ども扱いされたという悔しさ半分。

 そんなモヤモヤした気持ちになっている恋人にティファはそっと寄り添った。
 途端に彼の顔から不機嫌という文字が消し飛び、戸惑いと喜びが交差する。

「本当にありがとう。クラウドが買い物に行ってくれてる間に他の仕事が出来たもん。子供達にはちょっと重いからお願いしづらいでしょ?だからすっごく助かっちゃった」
「いや、たまには役に立たないとな」
 にっこりと笑うティファに、照れ臭そうに答える。
「たまには…って。クラウドはクラウドの仕事を毎日頑張ってしてくれてるんだから、そんな言い方しないで?」
「いや。俺に帰るところを作ってくれているティファがいてくれるから…だから俺は頑張れるんだ。だから…さ。本当にたまにはティファの役に立ちたいんだよ…」
「…クラウド…」

 照れながらも口にしてくれた真摯な言葉に、胸が一杯になる。

「私も…クラウドが帰ってきてくれるから頑張れるんだよ?」
「……そう…なのか?」

 軽く目を見開いて驚く恋人に、
「そうなの!」
 ちょっと頬を膨らませて胸を軽く叩く。

 そうして…目を合わせて二人揃って吹き出して…。

 突如舞い込んだ『キャンセル』という贈り物は、二人にとってとても貴重な時間をもたらしてくれた。



 恋人と幸せな時間を共有できたセブンスヘブンの店主。
 当然ながらその日の店に出された料理の数々はいつも以上に美味しい出来栄えだった。

「何か……いっつも美味しいんだけど今日は格別だなぁ!」
「本当に!それに…ちょっと量もサービスしてくれてる?」
「うんうん、美味い!!」

 客達の舌もお腹も心も十分満たしてくれるものだった。
 そして…。

「いらっしゃいませ〜!」
「何名様ですか?」
「すいません、只今満席ですので暫くお待ち頂けますか?」

 店内もパンパンな状態だった。
 その原因は言わずもがな…。


「キャー…!!」(小声)
「クラウドさんよ!!」(小声)
「水色のエプロンも……素敵〜!」(小声)
「お盆を持ってる姿も…本当に素敵よね〜!」(小声)
「あの娘(こ)達の情報は確かだったわね!」(小声)
「本当にクラウドさんがお店に出てるだなんて〜!!」(小声)


 ジェノバ戦役のクールビューティーにノックアウトされた女性達。
 待ち時間が例え、一時間であろうが二時間であろうが、そんなの全く関係ない。
 むしろ、待ち時間が長いほどその間、心ゆくまで憧れの青年を観賞できるというものだ。


 彼女達にとって、数週間に一回、訪れるかどうか分からないこの至福の時間。
 出来るだけ長く味わいたいというもの。

 頬を上気させ、潤んだ瞳でクラウドを見つめる様はまさに『恋する乙女』。
 そんな熱視線を浴びながら、それでもクラウドは無表情。
 全く気付いていないのだから照れようがない。


「可哀想だね…」
「うん…」
「まぁ、でも仕方ないよね」
「そうね。それに、クラウドが鈍くなかったらティファが大変なことになるし…」
「ん〜…それはどうかな?」
「?どうして?」
「ティファも同じ位鈍いからなぁ…」
「あ〜…まぁね。でも、ホラ見てよ」
「ん?あ……」
「ティファは自分の事には疎いけど、クラウドの事に関したらスッゴク鋭いの…」
「…………恐〜〜…」
「ね?でも逆に…クラウドも…」
「あ……本当だ…」
「あそこのお客さん…可哀想。間が悪すぎるよねぇ…。クラウドがいる時にティファに言い寄らなくても良いのに…」
「ハハ…まぁ、自業自得だな。それに、クラウドがガツンとかましてくれたら二度とティファにちょっかいだそうなんてアフォなこと考えないだろうし、その分、俺達がヤキモキしなくて済むから良いんじゃない?」
「うん、そうね」


 クールビューティー。

 自分の事にはとんと疎い美青年に贈られる称号。


 名誉な事なのかは……甚だ疑問である。



 あとがき

 はい、本当にすいません。
 突如として降って沸いた駄文です…。

 おおう…めっちゃ不完全燃焼……(汗)
 このまま逃走します!!