今回の配達先は治安が悪かった。
 復興途中にあるエッジの裏路地よりも、濃い『陰気』な気配が漂っており、女、子供は危険で住めない…そんな場所。
 クラウドは配達先のその町に住む人間をさり気なく警戒しながら、子供達とティファは絶対に近寄らせられない、そう思いつつ、愛車のエンジンを噴かせた。

 その時だった、『彼ら』と再会したのは…。




だから戦う…。






 派手な音を立てて、自分の位置からは少し離れた所におざなりに立っているちんけな店のドアが吹っ飛んだ。
 小さな町の住人達が一斉にそちらを振り向き、悲鳴を上げたり喚いたりしている。
 その中で、喧騒に慣れているクラウドだけが妙に落ち着いてそちらを見ていた。
 血気逸る男や女が、包丁や木製のバットなど、手に何かしらの武器を持って駆け集まろうとしている。
 ドアと共に転がり出た脂肪の塊のような太った男を、顔見知りと思われる数人の屈強で柄の悪い男達が助け起こした。
 ギラギラと憎悪にたぎる脂ぎった目で、自分の店舗を睨みつけ、しきりに何かを仲間に訴えている。
 仲間達がいきり立ちながらその店主の店に大股で近付いている。
 クラウドは内心うんざりするその光景に嫌気が差していた。
 治安の悪いこの世界では日常茶飯事。
 配達の仕事をしている最中で、ちんけなチンピラがか弱い婦女子や高齢者を虐げている場面に何度も遭遇している。
 その度に、反吐が出そうな思いで彼はその人達を擁護した。
 しかし、今回はその必要はなさそうだ。
 どう見ても、転がり出た男は『まっとうな人生』を歩んでいるとは言いがたいオーラを醸し出している。
 派閥争いか、はたまた仲間割れか。
 いずれにしても、クラウドが手を出す必要はないように思われた。
 それでも青年は、ほんの少しだけ喧騒の只中を見守った。
 特に自分の出番はなさそうである事を見届けてから、興味なさそうに小さく溜め息をこぼし、愛車のハンドルを回そうとして…。


「証拠の品はここにある。大人しくした方が身のためだ」


 ドクン!

 ハッと顔を上げてそちらを見る。
 聞き覚えのあるその声は、クラウドをその場に止めたばかりでなく、愛車のエンジンを切るという驚異的な変化までもたらせた。

 丁度、太陽が真正面にある為、店から出てきた青年達の姿がシルエットのようにかすんでよく見えない。
 だが、

「それでも…、と言うなら、強硬手段に出るまで。好きな道を選べ」

 酷く冷たく、静かなその声音にクラウドは自分の記憶の中に存在する数少ない『友人』のリストから、的確に彼らを思い起こした。
 その時、クラウドのスカイブルーの瞳の端に、キラリ、と光る『危険な何か』を認めた。
 なにも考えず、身体が勝手に反応する。
 足元の小石を実に器用に真上に蹴り上げ、サッ!!と手に取やいなや、『その光』に向けて思い切り投げた。

 鈍く耳障りな悲鳴を上げて、中年の男が屋根から転がり落ちる。
 同時に、町の住人達が色を変えてクラウドと青年達に襲い掛かってきた。
 クラウドは眉間に刻んだしわを深めながら、勢いよくアクセルを回し、襲い掛かってくるケダモノ達へと突っ込んだ。


 自分が助けた『友人達』が、驚きながらもすぐさま体勢を立て直し、各々所持している武器を構えるのが見えて、クラウドは薄っすらと微笑んだ…。






「本当に助かりました」
「「「「「「 ありがとうございました!! 」」」」」

 WRO式の敬礼をする隊員達にクラウドはフッと笑った。
「いや、それにしてもまさかこんな所で会うとはな。三人とも、元気だったか?」

 他人に穏やかな顔など滅多に向けないジェノバ戦役の英雄クラウドが、薄っすらと微笑んでいる。
 それは、『三人』の後ろで同じ様に敬礼している一般兵の隊員達を驚かせた。
 英雄のリーダーが、英雄達の中でも無愛想で無口、滅多に笑わないことを彼らは知っていたからだ。
 英雄のリーダーの無愛想ぶりは、ヴィンセント・バレンタインと良い勝負、という専らの噂だった。
 その青年が、自分達の上司に親しげに声をかけ、微笑んでいる。
 彼らにとって、これは衝撃の出来事だった。
 しかも、自分達の直属の上司と気安い関係にあるらしいことが、隊員達を何よりも驚かせた。
 彼ら、WRO隊員にとって、ジェノバ戦役の英雄達は正真正銘の英雄であり、雲の上の人なのだから。
 だから、彼らがこうして親しげに言葉を交わせている自分達の上司を見て仰天しても仕方ないことなのかもしれない…。

「クラウドさんのお蔭です。まさかこんなに被害が最小限で済むとは思っていませんでした」

 グルッと町を見渡すシュリに、半歩後ろで控えていたノーブル、バルト両准尉が頷いた。
 道端には、WROの隊員達、中佐、二人の准尉、そしてクラウドが倒した『闇商人』達が呻きながら転がっている。
 整列している隊員達は、腕や頬に軽いかすり傷程度。
 一番重症とされている者も、足首を捻ったくらいだ。
 実に…素晴らしい成果を上げることが出来たのは、彼らWRO隊員にとって戦神が現れたお蔭だ。
 クラウドはそれに釣られるように周りを見渡した。
 いたるところに倒れている男と女。
 まだ年若い子供もいる。
 それら全てが…。

「町ぐるみの……麻薬密売人…か…」

 口にし、改めてクラウドはゾッとした。
 この町の住人全てが麻薬に携わっていた。
 もはや、『密売人』を通り越して『組織』ではないか。

 そう言えば、本当に幼い子供の姿をこの町に入ってから一人も見なかったことに気付く。
 この町に着いてからなんとなく感じていた違和感がそれであることに、クラウドはようやく気がついた。

 幼い子供が出来る仕事ではない。
 無論、倒れているまだ若い子供と言えるその少年、少女も…だ。
 皆、その場で後ろ手に縛られて逃亡出来ないよう、何人か一緒に手錠同士で繋いでいる。
 意識を失っていない数人の密売人と、麻薬を育てることを生業としていた女、男が恨めしそうに睨みつけている。
 クラウドは…胸が痛かった。
 とりわけ、子供達の憎しみに満ちた怒りの眼差しに…。
 デンゼルやマリンとの歳の差はほんの数年。
 そんなにも幼い子供達が、こんな悪事に手を染めなければ生きていけないなどとは!!

 クラウドは、情けなかった。
 自分は精一杯星のために…、いや、自分を生かすために死んでいった親友の命を無駄にしないよう、一生懸命生きてきたつもりだった。
 WROから要請があれば、配達の仕事をキャンセルしてまで星の為に貢献しようとした。
 それが…。

「結局、焼け石に水…なんだよな…」
「クラウドさん?」

 ボソリ…と呟かれたその苦しい胸の内に、プライアデス・バルト中尉が気遣わしそうな目を向けた…。
 クラウドはその声に気付かない振りをして、そっと背を向けた。
 今の顔を見られたくない…そう思った。
 自分でも分かる。
 どんなに自分が情けない顔をしているのか…。
 きっと、ティファや子供達が見たらビックリ仰天するだろう。
 あの三人は、とりわけ人の『心の痛み』を察知することに長けている。
 そして、その愛する家族と同等くらいに、WROに籍を置くこの青年達が感受性豊かで勘の良いことをクラウドはこれまでの付き合いで知っていた。


「死人が出なかっただけ双方共に運が良かった。大人の公正は難しいですが、歳が若いほどさほど時間は必要ない」


 淡々とそう語った青年をクラウドは思わず振り向いた。
 漆黒の癖のある髪を持つ青年は、どこか遠くを見ながら誰に言うともない口調を装っていたが、明らかにクラウドと自分の部下達を気遣っての『独り言』だ。
 クラウドはフッ…、と淡く笑った。
 シュリはその笑みに気付かない仕草のまま、振り返って背後に控えている部下達へ向き直った。
 隊員達が迅速にその指示に動く。
 実に行き届いたそのさまに、クラウドは無表情のまま、感心していた。
『クラウド』という青年を知らない人間から見たら、一体どの辺が『感心した表情』なのか、首を捻るだろう。
 しかし、隊員達の行動を見つめ、柔らかな眼差しをしているクラウドは、確かに感心していた。

『リーブも心強いだろうな…』

 苦労性の仲間を思い浮かべ、彼が優秀な部下に恵まれていることを密かに喜んだ。
 その間も、麻薬組織の一員達は次々町の外へ連行されていく。
 中には苦し紛れに暴れる者もいたが、手錠で数珠繋ぎにされているため、思うように動きが取れない。
 逆に暴れることによって、一緒に繋がれている仲間諸共、強かに地面へ転倒して身体を打ち付ける、という始末だった。
 悪あがきをする者達の中には、まだ幼い子供達も混ざっており、クラウドの胸がまたチクリ…と痛んだ…。

 やがて。


「中佐。完了しました」


 ビシッ、と敬礼して報告するグリート・ノーブル准尉にシュリは軽く頷いた。
 部下達が麻薬組織の人間達を連行する中、シュリは無表情にそれを見守っていた。
 一見、横暴な上司が仕事を部下に全部押し付け、偉そうにふんぞり返っているようにも受け取られてしまうその様子も、シュリに対する部下達の目と、部下を見るシュリの目が、そんな陳腐なものではない、ということを物語っていた。

 実際、もしも手錠が何らかの原因で外れ、部下が怪我を負わされることになろうものなら、シュリは俊敏に行動へ移しただろう。
 しかも、最小限の動きで。

 彼はそういう人間だ。
 無駄なことは一切しない。
 仕事を忠実にこなし、空いた時間は『何か』を探すことに費やしている。

 クラウドは、青年が一体、なにを目標に生きているのだろう…とフッと思った。


「では、WRO本部へ連行する。報告は俺がしておくから本部へ連行が終わり、引継ぎが済んだら任務は完了。各々、三日間の休日を大佐から頂戴している」
 以上!


 シュリの実に簡潔なその指示に、隊員達は揃って敬礼し、明るい声で「「「「 はっ! 」」」」 と、返礼した。

 それら、一部始終を見届け、クラウドは愛車の所へ向かおうとして…。

「シュリ、それにライとリト、良かったらセブンスヘブンに来ないか?」

 今、まさに引き上げようとしていた隊員達がビックリして振り返る。
 指名された三人はと言えば…。
 一人はぶっきらぼうと表現されてもおかしくない表情、もう一人は少し躊躇って、そして最後の一人は実に嬉しそうに笑った。
「お!そう言えば最近、ご無沙汰だし!!」
 期待を込めて年下の上司を見るグレーの瞳は実に愉しそうだ。
 紫紺の瞳を持つ従兄弟が行くかどうかは全く考慮していない。
 聞くまでもなく、『行く』に決まっているからだ。
 もしも、『行かない』などとふざけたことを口にしても無駄なこと。
 強制的に連行する気満々なのが窺える。

 シュリは、六つの目が興味津々に注がれている現状にほんの少し眉間にシワを寄せた。
 恐らく、寄り道しないで一刻も早く『探し出したい』んだろう。
 彼は、『情報がどこよりも迅速に、的確に入る』という理由で入隊した。
 そこまでして得たい『モノ』がなんなのかは分からない。
 聞いてはいけない気がしているのだ、彼に少しでも『絆』を持つことが出来た人間は…。

 それほど、彼の背負っているものは重い…、
 そう…感じさせられている…。

「……暫く顔を出していないので、お言葉に甘えます」

 彼のその答えに、プライアデスは目を丸くし、グリートはパチン!と指を鳴らし、他の隊員はあんぐりと口を開けた。
 そんな十人十色の反応に、敏感なシュリが気付かないはずがない。
 だが当然の如く彼は、それらの反応一切を無視し、
「では後で」
 素っ気無いにも度があるだろうに…と、普段無愛想なクラウドでさえ思ってしまうほど淡々とした態度を崩さなかった。
 あっさりと呆けている隊員達を素通りし、数歩歩いてから、

「…全員、除隊を希望か…?」

 恐ろしい一言で隊員達を現実世界に引き戻し、除隊されることを本気で恐れた彼らを率いて本部へと帰還したのだった。

 クラウドはその後ろ姿を苦笑しつつ少しだけ見送ると、徐(おもむろ)に携帯を取り出した…。







「シュリ君、ライ君、リト君!」
「「 お久しぶりーー!! 」」

 WROの隊員三人がセブンスヘブンに到着したのは、夕飯の時刻をとっくに回っていた頃だった。
 帰還してからの残務処理に追われていたのだろう。
 三人とも少々疲れたような顔をしていたが、それでもセブンスヘブンの女店主以下、子供達の歓迎にホッと肩の力を抜いて微笑んだ。

 ドアの外ノブには『臨時休業』の看板がユラユラと揺れている。
 聞かずとも、自分達の為に貸切にしてくれたことが分かる。
 どこまでも生真面目なプライアデスがしきりにティファへ頭を下げ、その真横を従兄弟がウキウキとした足取りで店内に入る。
 最後に店に入ったシュリは、テーブルに並んでいるご馳走にほんの少し目を止め、カウンターの中で人数分のグラスを取り出しているクラウドを見た。
 どことなく視線が非難しているようにも見える。
 自分達の為に、ここまで大袈裟にしなくても…と言ったところだろう…。

「私達が勝手にしたかっただけだから気にしないで?」

 人の心を読むことに長けている女店長が朗らかにそう言った。
 シュリはほんの少しだけ困った顔をしてから、プライアデスに倣うようにして軽く頭を下げた。


「では、乾杯しようか」

 お盆に人数分のグラスと飲み物を乗せ、クラウドが器用にカウンターから出てくる。
「クラウドさん、意外と器用だなぁ」
 ストレートな感想を口にしたグリートは、従兄弟に強かに足を踏まれて短く呻いた。
「荷物の配達が仕事だからこういうのには慣れてるんだよ」
 踏まれた足を抱えてピョンピョン跳ねているグリートを笑いながら、デンゼルが少し胸を反らせて講釈する。
 そんな兄代わりを、マリンがジトーッとした目で一瞬ねめつけ、気を取り直して三人に席を勧めた。

 そんな明るく、ホッとさせられる空間に、招かれた三人は心の底からの平穏を感じた。


「「「「 かんぱーい!! 」」」」


 明るい声が店内に響く。
 けして大きな店内ではないが、いつもはギュウギュウに客が入っているため、なんとなく広い空間に感じられるのも、新鮮で…。
 皆の箸が進むのは当然のことだった。
 ティファの力作のメニューが所狭しと並び、美味しい料理、美味しい酒、気心の知れた友人。
 こんなに幸せな空間は、二つとないだろう。

 暫くはお互いの近況報告で時間がドンドン過ぎた。
 クラウドが配達先では、意外にも『クールで素敵』と評判を呼んでいること。
 ティファに密かな想いを寄せている客が、たまたまクラウドが早く帰宅するその日に、花束を押し付けようとしていて、そのシーンをバッチリクラウドに目撃され、まさに光の如き速さで店から逃げ出した話し。
 それに、デンゼルとマリンの友達との話し。
「キッドって子がいてさ!すっごく運動神経良いんだ!!」
「そうなの!最初はなんとなく近寄り難い子だったんだけど、すっごく今は仲良しなの!」
「今度、市場を探検するんだ!!」
「面白いお店がたくさん入ってるんだもん!!」

 などなど。
 話題は尽きる事がない。
 あっという間に子供達はそろそろ起きているのが辛くなってきた時刻となってしまった。
 名残惜しそうに二階に引き上げようとする子供達だったが、

「今夜も泊まってってよ!明日、一緒に市場とか色々行こうぜ、な!!」

 ハッ!と、思い立ったデンゼルが元気に振り返る。
 その目はキラキラと期待に満ちていた。
 同じく、マリンもデンゼルの提案に大賛成らしい、ニコニコと三人の答えを待っている。

 打って変わって…。

 提案された三人は三者三様。
 明日から三日間の休暇をもらっているということを、会話の中でうっかり口にしてしまったグリートをシュリは一瞬、ギロッと睨みつけた…ような気がした。
 それくらい、ほんの僅かな一瞬。
 しかし、それは『気がした』だけではなく、現実なのだ…!と知るのは、全身を走る悪寒を体験しているグリート一人だけのようだ。
 震えながらも「オッケー!じゃあ、また明日な〜!!」と、勝手に返事をしてしまうあたりが実に彼らしい。
 子供達は満足げに笑い声を上げると、二階へと消えていった。

 残された男達は、一瞬シーン…と、静まり返った。
 元々、明るく愉しい会話は、子供達とティファがしていた。
 ティファ達が質問するから答える…と言った感じの会話。
 まぁ、グリートの場合は積極的に話しに加わってはいたのだが、会話を不得意としている人間が確実に二人も残っている。
 プライアデスの場合は饒舌ではないにしろ、普通に会話は出来るが、場の雰囲気をちゃんと読んで会話に加わったり、黙って静かな時を過ごすように臨機応変に合わせている。
 ということは…。
 単純計算、50%の確率で『寡黙』な人間が残っているのだ。
 これでは、上手く明るいおしゃべり〜…とは行かない。
 グリートは考えた。
 ティファが戻ってくるまで黙ったままでいた方が良いのだろうか。
 それとも、ここはムードメーカーである自分が話題を振って、相手に答えてもらうようにしたら良いのか。
 この場合はむしろ後者を選ぶべきだろう!!
 しかも、『ティファがいない時にしか出来ない話し』を!!


「ところでクラウドさん、ティファさんとは上手くいってますか〜?」


 ブフーーーッ!!!!

 クラウドは思い切り口に含んでいたブランデーを拭き出した。
 目の前に座っていたプライアデスがもろにその被害を受ける。
 隣に座っていたシュリは、料理に専念していたはずなのに、俊敏な動きで身体を真横に倒し、また平然とした顔で真っ直ぐ姿勢を正した。
 そして無言のまま、呆然としているプライアデスにおしぼりを手渡す。
 プライアデスは目を丸くしてビックリしていたが、クラウドが平謝りに謝りながら顔や服に飛び散った飛沫を拭うのを苦笑しつつやんわりと断って自分で拭った。
 当然だが、クラウドは断られて大人しくするはずもなく、美男子が美男子の顔と身体を拭く……という、実に滑稽且つ妖しい構図が出来上がっている。

 当人達は気付いていないのだが…。

 それを、元凶であるグリート・ノーブル准尉が実に可笑しそうに笑いながら見ていた。
 テーブルの下で、プライアデスが従兄弟の向う脛を蹴り上げたのは、当然と言うか…なんと言うか…。

「吹き出して動揺するくらいだから、上手くいってるんでしょうけどねぇ」
 踏まれた足の痛みから、ちょっぴり涙目になりながら、『懲りる』という言葉を知らない青年が余計な一言を口にする。
 クラウドは真っ赤になりながらそっぽを向いた。
 その態度だけで充分過ぎるほど分かる。
 グリートは快活に、プライアデスは申し訳なさそうにしながらも堪えきれずに微笑んだ。
 なにも変わらないのは、やはりシュリだけで…。

 クラウドは唐突に話しを振られたために動揺が隠せない。
 半ば八つ当たりのように、
「そういうリトはどうなんだ?」
 噛み付くように吐き捨てた。

 グリートは、クラウドがそう返してくることを予想していたのだろう。
 全く動じず、背もたれに身体を預けた。

「ダメですねぇ〜、俺の想い人は他の誰かさんに夢中で」
「は!?そうなのか!?」

 クラウドにとっては寝耳に水の発言。
 紺碧の瞳を丸くしたクラウドに、グリートはカラカラと笑った。

「そうなんですよねぇ。しかも、その想い人の相手には、これまたすんばらしい女性がいるもんですから、彼女はとっても悲しい恋をしているわけです」

 言っている内容は非常に暗いはずなのに、青年のキャラだろう。
 とても明るくて、どこか…温かい。
「まぁ、俺は気が長いほうなので、彼女が気持ちの整理がつくのをゆっくり待ちます」
 ニッカリ笑うグリート・ノーブルに、クラウドは複雑な顔をした。
 こういう時、なんと声をかけたら良いのか分からない。
 言葉のボキャブラリーが少ない自分が心底恨まれる。
 気まずく黙り込んだクラウドを、グリートはカラカラと笑い飛ばした。
「大丈夫ですって!俺、焦ってないので〜」

「彼女がその想い人を吹っ切れたとして、准尉に惹かれるとは限らないだろうに…」

 ボソリ…。

 呟かれた思いがけないその言葉に、男三人は一斉にそちらへ顔を向けた。
 相変わらずのポーカーフェイスのまま、シュリはモグモグ、と口を動かしている。
 ほんの僅かな沈黙。
 その後、三人は大爆笑した。
 グリートが大笑いすることは常日頃のことだが、クラウドとプライアデスは滅多にしない。
 クラウドなどは微笑むことが関の山だ。
 それなのに!!

「中佐も言うね〜!」

 他の人間なら腹を立てるはずのその台詞に大爆笑するグリートを、クラウドは笑いながら凄い男だ…と思うのだった。
 気分が高揚してくる。
 クラウドは笑いながら、澄ました顔をしているシュリを少し『突っつきたく』なった。

「そういうシュリはどうなんだ?」
「はい…?」

 自分に水を向けられるとは思っていなかったのだろう。
 WROの若き中佐は少しだけ驚いたような顔をした。
 グリートとプライアデスが興味津々に見つめる。

「そうそう!中佐殿はどうなんだぁ?」
「中佐は女性にモテますけど、そういう恋愛話は聞いた事ないですね」
「 …… 」

 シュリは漆黒の瞳を僅かに揺らめかせながらその場の雰囲気をどうしようか…と思案している様だった。
 だが、結局打開策は浮かばないらしい。
 恐らくこの手の話しはこれまであまりしたことがないのだろう…とクラウドは思った。
 ニヤニヤ笑いのグリートと、微笑みながらもシュリがどういうのか興味をそそられているプライアデス、そして、ニッと唇の端を持ち上げて笑っているクラウド。
 三者三様。
 シュリは軽い溜め息を吐くと箸を置いた。

「惹かれた女性はいましたが、彼女はもう星に還りました」
「「「 ! 」」」

 一気にその場の空気が凍りつく。
 三人とも、後悔の嵐に見舞われていた。
 聞いてはならなかったのに!
 そう激しく悔いる三人に、シュリはもう一度溜め息を吐いた。

「良いんですよ、彼女には恋人がいましたからね。その恋人と『今』は幸せなんですから、何も気に病むことはありません」

 そう言い切ったシュリを申し訳なさそうな顔をして見るグリートに、シュリは実にイヤそうな顔を向けた。

「そんな顔をしないでくれないか?なんだか自分が酷く哀れな生き物に思える」
「あ…いや……はい…」

 シュン…、と項垂れるグリートに、シュリは苦笑いを浮かべた。
「良いんだ。彼女は『星の為』に生きる運命(さだめ)だった。彼女はその運命を全うした」

 クラウドが驚きで目を見開く。
 息を飲んで見つめるクラウドに、シュリはフ…、と視線を向けると曖昧な笑みを浮かべて再び箸を握った。

『シュリの言う『彼女』がもしも自分の良く知る『彼女』だったら…?』

 降って湧いたその疑問に、クラウドは胸の中がザワザワとして落ち着かない。
 それに気付かず、シュリの部下達はひたすら平身低頭している。

『考えられない…こともない…か…』

 シュリはミッドガルのスラムで育ったと言っていた。
 同じスラム育ちの『彼女』と知り合っていたとしても不思議ではないだろう…。
 もしも『彼女』がシュリの想い人なら、逆に惹かれても全く不思議ではない。
 むしろ、しっくりくる。
『彼女』はそういう女性だった。
 そして、この目の前の青年もまた…、『彼女』とどこか同じモノを感じさせる。
 それは、彼女と同じ様に星の声が聞けるから、だけだろうか?
 もっと…、もっと奥深いところで…、なにかが『同じ』だと思わせる。
 こんなにも『彼女』とは似ていないのに。

 花が笑うような笑顔を絶やさなかった『彼女』と、無愛想で無口、おまけに酷く冷静沈着な『青年』。

 まさに磁石で言う『対極』的な二人だが、だからこそ、シュリは『彼女』に惹かれたかもしれない。

 もっとも、彼が惹かれた女性が『彼女』という保障はないのだが…。


「きっと、中佐にはこれから素敵な…、『特別』な方が現れますよ」


 沈み込んだ空気を柔らかく包み込む一言。
 紫紺の瞳を細めて微笑むプライアデスをシュリはジッと見つめた。
 そして…。


「あぁ、そうだと嬉しいな」


 柔らかな微笑み。
 初めて見せた温かな笑み。
 クラウドとグリートは目を見開き、咄嗟に顔を見合わせて…。

 釣られるように微笑んだ。

「そうだな、シュリにはきっとグイグイ引っ張ってくれる女性が丁度良いだろう」
「あ、それ俺も考えた!」
「二人共…」

 楽しそうに笑うクラウドとグリートに、紫紺の瞳を持つ青年は苦笑した。
 シュリはたった今、見せた微笑みが幻だったのでは!?と思われるほど、いつもの無表情に戻っている。
 会話に参加はしていないが、しっかりと聞いてはいるのだろう…。
 料理しか見ていないのが何よりの証拠だ。
 話はシュリの将来の恋人で盛り上がる一方だ。
「中佐の恋人になる人は大変だろうなぁ。何しろ、めっちゃ美人に変装できるし」
「は?女装するのか?」
「そうなんですよ、今回の『麻薬組織壊滅』にも、中佐の女装があったからこそ、証拠を入手出来たんですからね」
 しかも、すっげー美人!

 身を乗り出すようにして話すグリートに、クラウドは数回瞬きをしてシュリを見た。
 青年は全くもって、無関心なようだ。
 クラウドは不思議だった。
 自分なら、女装をして褒められても惨めになるばかりなのに…。

「任務ですからね」

 クラウドの心を読んだかのようなタイミングで、青年がチラッと上目遣いで見やった。
 クラウドはひたすら苦笑いを浮かべるだけだった…。


「なぁに、楽しそうだけど?」


 子供達を寝かしつけたティファが戻ってからも、大いに話しは盛り上がっていた。
 当然、戻って来たティファにグリートがクラウドとのことを聞き出そうとしてプライアデスにまたもや向う脛を蹴っ飛ばされ、ティファは真っ赤になってクラウドを見て、慌てて二人揃って顔を背けたりして……。
 かと思いきや、プライアデスが一途な恋を幼い頃から貫いていることへの称賛へと移ったり。
 グリートが想っている女性が一体誰なのか、と問い詰められたり、そしてそれをはぐらかしたり…。


 それはそれは、楽しい時間を過ごしたのだった。



「じゃあ、そろそろ休もうか」
「そうね。それにしても…」

 すっかり寝こけているグリートと、うつらうつらしているプライアデスを見下ろしてクラウドとティファは『悪いことをした』と言う気持ちで一杯になった。
 任務を終えたばかりなのに、長い間、ダラダラと自分達に付き合わせてしまった。

「大丈夫です。彼らはタフですからね。明日にはケロッとしているでしょう」

 任務の疲れを微塵も感じさせず、ケロリと立つシュリに、二人は揃って奧の倉庫にある毛布を取りに行った。
 その僅かな間に二人は起こされたらしい。
 眠そうな目をしつつも毛布を取りに行ってくれた二人に揃って頭を下げた。

「ごめんなさいね。疲れてるのに、こんな時間まで…」
「良いんですよ。こちらこそ、ついうっかり居眠りをしてしまってすいません」

 お互いにペコペコ頭を下げるプライアデスとティファの横では、クラウドがシュリとグリートに毛布を渡していた。
「本当に…店のソファーで良いのか?」
 気遣わしげに問う。
 客人を店のソファーで休ませることに強い抵抗を感じる。
 しかし、客人は全くそうではないらしい。
「大丈夫です。むしろソファーがあるのが嬉しいですねぇ!」
「…任務でよく野宿しますから…」
「草原とか高原とかの野宿ならまだマシなんですけど、今回の任務は酷かった…」
「 ……まったくだ… 」
 しみじみと語る二人に、クラウドは興味を持った。
 目だけで、内容を話してくれるように訴える。
 口を開いたのはやはりグリートだった。

「敵さんの懐に飛び込んで三日間を過ごしましたからね。バレないように路地裏とか、はたまた生ゴミのコンテナーの中とか…」
「下水のマンホール……もあったな…」
「本当に臭いし空気悪いし最悪だったなぁ…」
「一時も気が抜けない状態だったしな」

 聞いてるとなんだか急に自分もそんな任務についたような気分になってきた。
 思わず顔を顰めて、
「大変だなぁ…相変わらず…」
 心の底から同情した。
 しかし、二人は任務中の話しをしている時はイヤそうな顔をしていたのだが、打って変わって表情をほぐす。
「大変なのは覚悟の上だから、まぁ、やるしかない!って感じかな?」
「自分で選んだ道だからな」

 自分の任務に誇りを持っている。
 そんな男の顔をしている二人に、クラウドは頭が下がる思いだった。

「じゃあ、おやすみ」
「みんな、また明日ね」

 二階の居住区へと続くドアに佇み、パチン…、と電気が消される。
 三人はそれぞれの挨拶で二人に答え、モゾモゾと毛布に潜り込んだ。




「どうしてあそこまで頑張るのかなぁ…」

 部屋に戻った二人は、ベッドに腰掛ている。
 ティファの言葉にクラウドは優しく笑みを浮かべて口を開いた。

「『大切な人がいるから、少しでも世の中の危険を取り除きたい』んだそうだ」

 先ほど、シュリにクラウドは毛布を渡す時にコッソリと聞いた。
『任務のためとは言え、女装はいやだろう?』と。
 しかし、返ってきた答えは『ノー』だった。
 ゆっくり首を振り、しゃんと顔を上げた青年に、迷いは一切無かった。

「俺はまだ『探している』けど、必ず『生きている』のは分かってるんです。だから…」



「大切な人を守るためにも…俺は俺の持てる全力で戦います」
 彼らも同じ気持ちです。

 お調子者のグリートが、ふざけてティファの肩に腕を回そうとして、プライアデスに笑顔で顔面パンチを受けている。

「クラウドさんもそうでしょう?『家族』を守るために働いている。働くというのは一種の『戦い』。違いますか?」
「あぁ…そうだな」




 無口で無愛想。
 無表情で無駄なことは一切しない。
 そんな青年の本当の心の片鱗に触れることが出来た、とクラウドは感じた。
 それはティファも同じ様で、そっとクラウドの肩に頭を乗せると、
「そう…。シュリ君らしいね」
「あぁ。それに、リトとライもな…」
「うん」

 二人は見つめ合って微笑むと、軽くキスを交わしてからそっとベッドに潜り込んだ。

「いつか…」
「うん?」
「シュリやリトにも…」
「うん…素敵な人が現れるよ」
「…そうだな…」


 青年達は『家族』や『愛しい人』を守るために、WROへ入隊した。
 その時から覚悟はしているのだ。

 厳しい任務に耐え抜き、戦い続けることを。

「俺も……戦う」
「私も…一緒にね?」

 二人、微笑み合ってもう一度キスをしてゆっくりとまどろみに身を委ねた。

 青年達がこうして『特別な人』と共に眠れる幸福な日が来ることを願いつつ…。



 あとがき


 うわ〜〜…なんか激しくリクから外れた気がするよぉ!!(気がする…じゃなく、確実に外れてるから!!)
 とみぃ様、本当にすいません(土下座)。
 こんな出来になってしまいましたが、どうぞお許し下さいませ〜(滝汗)

 リク内容…。
『クラウドの配達中に偶然ミッション中のシュリさんに会って(ライさんリトさんもいるとなお良いかも)、楽々ミッション完了♪そのままお店に帰って珍しく男の人達の密談・・・というか恋愛話なんて言うのはどうでしょう?何か恋愛話に遠そうなので、どんな会話になるのかなあ・・・と思うんですヾ(*'-'*)  マナフィッシュさんのホームページに掲載していただけると嬉しいです((( ^^)爻(^^ )))   小説楽しみに待ってまーす』

 とのことだったのですが…。

 ギャーーーーッ!!!
 ほんっとうにごめんなさい!!!!

 あぁぁぁああ、楽しみにして下さってたのに〜ヽ(□≦ヽ))...((ノ≧□)ノ
 本当に申し訳ないです。

 うぅ…次は頑張ります〜(こらこらこら!!)

 リクエスト、本当にありがとうございました!!