名前:クラウド・ストライフ23歳。
 生物種族:人間。
 性別:男。
 身長:173cm。
 血液型:AB型。
 容姿:完璧な女装が出来るほどの中性的な顔立ち。
 性格:無愛想、面倒くさがり、真面目だが他者に対して壁を作る。
 口癖:『興味ないね』

 データで表すと大体このようにまとまれられてしまう青年。
 普段から、あまり物事に執着しない性質だと思われている青年だが、人並みに『出来ることなら…!』と悔いる瞬間がある。
 さて、その一例が…こちらのお話し。






できることなら。







 身長180cmほどの長身の男が歩いている。
 見た目、20代後半といったところだが、もしかしたら実年齢はもう少しだけ上かもしれない。
 高身長に相応しく手足は長い。
 痩身な体躯に合わせたかのようにその長い手足は男性にしては少し細い。
 濃いブラウンの髪は襟足と前髪が少し長め。
 ダークブルーの瞳は切れ長で彫りの深い顔立ちは女性の視線を吸い寄せる。
 人に注目されることに慣れているものらしく、彼は自分に寄せられる異性の視線を全く気にすることなく、ただ目標物へ視線を投げていた。

「………」

 そして、その目標物となっているクラウドは、非常に居心地の悪い思いを味わっていた。
 正直、こんな風にジーッと見られたり付回される理由が分からない。
 そう、付回されているのだ、自分は。
 店を出たときからずーーーっと!
 しかし、なら何故文句の1つも言わないか…と言うと、今、クラウドはそんなことに関わっているヒマはないからだ。
 クラウドには今、重要な任務が言い渡されていた。
 誰に?
 勿論、ティファに。
 愛しい彼女にお願いされて、買い物に来ているのだ。
 今日、クラウドは久しぶりに仕事がオフだった。
 オフだった…というか、オフにしたのだ、無理やりに。

『最近、クラウドって全然休んでないよね…』
『そうだよなぁ、俺、なんかクラウドがすっごく遠くに感じる…』
『私も…。なんかあの時みたいだよね…』
『あの時って?』
『……クラウドが家出してたとき…』
『あぁ…そうだよな。なんかすれ違いの生活って感じだし』

 一昨夜、子供たちがそう話していた、と閉店ギリギリに帰宅したとき、最後まで残っていた常連客に聞かされたのだ。
 音を立てて全身から血の気が引く思いを味わったクラウドは、早速翌々日の仕事を全部キャンセルした。
 ファミリーサービスに勤しむため、張り切って休みを取ったというのに…。

『えぇええ!?クラウド、明日お仕事お休みにしたの!?』
『なんで急に言うんだよぉ!明日は友達と一泊二日のキャンプに行っちゃうんだぞ!?』
『『 もっと早く言ってよぉ、バカーー!! 』』

 む、虚しい…。

 子供たちの喜ぶ笑顔が見られると思っていたのに、まさかまさかの『バカ』(← ダブル攻撃)を喰らってしまって昨夜から落ち込んだものだ。
 ティファも申し訳なさそうに、
『ごめんね?今日決まったの…』
 と言ってくれた。
 しかし、
『でも、クラウド…。気持ちはすごく嬉しいけど急には…ね?ちょっと困っちゃうから、今度からちゃんと一緒に話をしてから決めるようにしよう?そうでないと最近私たち、話しをする時間もすっごく減ってるんだもの…。クラウドが折角『良かれ』と思って色々してくれてもこれじゃ、意味ないわ…』

 ティファにそう諭されてなおのこと落ち込んだ…。

 と言うわけで。
 恨めしそうに何度も何度も振り返る子供たちを相手の友達のご家族へ送り届けた後、クラウドはすることがなくなってしまった。
 しかし、クラウドはここで冷静になるべきだった。
 経過はどうあれ、舞い込んできたのはティファとの2人きりの時間!
 こんな幸運は滅多にない。
 それこそ、仲間をそそのかし……もとい、仲間にそれとなく協力を仰いで子どもたちを1日、2日、預かってもらわない限り、ティファと2人きりの時間などないのだ。
 それなのに…。

「はぁ……」

 口からこぼれるのはため息ばかり。
 クラウドにとって、今回のオフは子供たちに喜んでもらいたい一心からのものだった。
 それが見事に空回り。
 その『空回ってしまった!』という事実にしか目がいかない。

「ついてないな…」

 言葉になるのは愚痴ばかり。
 そして…。

「なんだってこんな時に限って…」

 こみ上げてくるのは、常識知らずのストーカーに対する半ば八つ当たりにも似た苛立ち。

 こう、ちくちくと刺さるような視線がイライラする。
 尾行に慣れていないようで、むき出しの『気配』にともすればわざと路地裏に誘導して引きずり込んでしまいそうになる。
 しかし、かろうじて踏みとどまっているのは向けられている視線に悪意が感じられないからだ。
 隙あらば攻撃してやろう、というものが全く感じられない。
 あるのは『観察』と言う言葉がピッタリな『凝視』する視線だけ。

「…男が男を付回して何が楽しいんだ…」

 思わずボソリ…と呟いて、丁度隣を歩いていた若い女性がギョッと目をむいた。


 そして。


 そんな光景をバッチリストーカーの青年は見ていたりする。

「………何してるんだろう…」

 クラウドがそそくさと足を速め、たじろいでいる女性から遠ざかっていく背中を見ながら訝しげに目を細めた。
 足を速めたせいで人ごみに紛れて見失いかけるが、それでもクラウドの金髪が良い目印になってくれているお陰でなんとか尾行を続行する。

 それにしても…。

 青年はしみじみとクラウド・ストライフというジェノバ戦役の英雄を見つめた。
 こう何と言うべきか。
 もっと『超人然』とした人間かと思っていたのだが、実際、こうして観察してみて分かったことはそんなものではなかった。
 なんとも人間臭い。
 子供たちに恨めしそうに見られてシュン…とうな垂れてみたり、ティファ・ロックハートにお願いされて買い物に素直に出向いたり…。
 そして今、八百屋で野菜を購入している姿など、どこにでもいる男…というか、むしろ『夫』とか『父親』と言う言葉がピッタリあてはまってしまう。

 背丈ほどもある巨大な武器を振り回し、巨大バイクを自由自在に操る英雄らしい英雄としか世の人たちは知らないだろうが、実際、ちょっと観察しただけでここまでのギャップを目にすることが出来た。
 それは純粋な驚きを伴い、青年は益々クラウドに惹きつけられていた。
 もはや、当初の目的を半分以上忘れている…。

 と…。

 クラウドが八百屋を後にした。
 腕には紙袋が1つ。
 大根の葉らしきものが覗いている。
 その大根の葉がすれ違った人の顔に当たってしまった。
 慌ててクラウドは頭を下げる。
 相手の中年女性はニコニコしながら軽く手を上げ、そのまま歩み去った。

「…意外と腰が低い…」

 青年は軽く目を丸くすると、ますます興味をそそられたのかクラウドとの距離を若干縮める勢いで足を踏み出した。
 距離を縮めてしまうのは、尾行する上では気をつけなくてはならないことの1つ。
 それを青年は犯してしまったわけだが本人は全く気づいていない。
 気づいていないが、クラウドは気がついた。

 背中に神経を集中させていたせいで、すれ違い様の人に大根の葉を当たらせてしまったわけだが、その注意すべき対象が速度を速めた。
 これが意味することは?
 素早くその理由・原因をはじき出す。

 @害なしのフリをして尾行する意味がなくなった。距離を縮め、一気に攻撃する。
 A尾行をごまかすために自分を追い抜いて尾行を終了する。
 Bなんとなく距離感を誤った。
 Cその他。

「………」

 なんとなく、クラウドはBのような気がした。
 @やAは、もっと場馴れした玄人が使う方法だと思ったのだ。
 クラウドは曲がりなりにもジェノバ戦役の英雄。
 かなりのハイレベルの玄人でなければすぐに尾行されていると察知出来る。
 今まで尾行に気づかなかったことはない、自慢じゃないが。
 だから、ある程度の玄人の動きかそうでないかはすぐに分かる。
 よって、@やAはあり得ない。
 となると…。

「……なんとなく距離感間違った…って感じだな」

 Cの『その他』は、正直サッパリ理由が思い浮かばないから仕方ない。
 と言うか、そんなことはもうどうでも良い。


「いい加減、アンタ鬱陶しいんだが」


 クルリ、と振り返って真正面からそう言ってやると、しっかり距離感間違えて近づき過ぎていた青年がビックリして固まった。


 *


「断る!!」
「…と言うと思ってました。だから遠くから観察するだけでなんとかしようと思ってたんです。でも…」

 言葉を切って青年は一見、無愛想に見えるその堀の深い顔に人懐っこい笑顔を浮かべた。
 コーヒーを出したティファがうっとりと見惚れたのをクラウドは見た。
 瞬間的に青年に対し、殺意が湧く。
 青年はクラウドの殺意になどまるで気にも留めない…というか、全く気づかずにこやかに続けた。

「クラウドさんをこの目で見て、世間で言われているクラウド・ストライフ像とのギャップに惹かれましてね。こうしてくっ付いてきたわけです」
「帰れ」
「もう、クラウド…」

 にべもなく言い放つクラウドに、ティファが苦笑しつつ宥める。
 青年は取り付く島もないクラウドの態度に、それでも笑みを絶やさなかった。
 作り笑いではない本物の笑顔を浮かべている青年に、ティファが感心したような視線を送る。
 それがまた、クラウドには気に喰わない。
 そして、そんなイライラした顔を見て、青年は満足そうに笑うのがこれまた腹立たしい。
 その『なぁるほど』と言わんばかりの表情が憎たらしいではないか、こっちは不快感を目一杯感じているというのに。

「天下の英雄も恋人には弱い。世間一般の男性と変わらないんですね」

 青年が爽やかな笑顔で手榴弾並みの威力を持つ言葉をさらりと口にすると、ティファは顔を真っ赤にした。
 対してクラウドは苦虫を噛み潰した顔をする。
 なんとも気障ったらしいところも腹が立つ、と言ったところだ。

「なら、ティファさんの許可が頂けたらオッケーと言うことにもなるんでしょうかね?」

 クスクスと楽しそうに笑う青年にクラウドは目を剥き、ティファは吹きだした。

「ダメですよ、だってクラウドが嫌がることはやっぱりしたくないですし」
「…!ティファ…」

 今日一日の苦しかったことがこの一言で霧散するのをクラウドは感じた。
 そして、青年はそれを見た。
 目の当たりにした2人の関係に吹き出すと、
「う〜ん、やっぱり映画にしたいなぁ」
 としみじみそう言った。

「苦難の旅を乗り越えて手にしたのは世界の平和とかけがえのない仲間、そして愛しい人との人生。壮大な映画が出来上がること間違いなしなんですよね。脚本家としてはどうしても手がけてみたい素晴らしい物語ですよ。でも…」

 言葉を切って、ティファの煎れてくれたコーヒーを口に運ぶ。
 動きの一つ一つがとても洗練されているように見えるのはティファとクラウドの気のせいだろうか?

「ノンフィクションだからこそ、映画のような『俗物的』なものにしてしまうのは許されない…と言う気もしないでもないんですよね、これが」

 困ったように笑いながらそう言うと、青年は頬杖をついた。

「形にしたい。1つの素晴らしい作品に仕上げ、世の人たちに伝えたい、後世に英雄たちの偉業を映像として残したい。そう思う反面、僕なんかの手にかけてはいけないという厳粛な気持ちもあるんですよね」
 あ〜、ジレンマだなぁ…。

 困ったように笑いつつ、どこか楽しそうでもある青年のぼやいた『ジレンマ』というのはクラウドには分からない。
 分からないが、ただ単に面白おかしく自分たちのことを取り上げようとしているのではない、ということだけは分かる。
 分かるが、それはそれ、これはこれだ。

「悩んでも無駄だ。断る、認めない」

 キッパリとそう言い切って真正面から青年を見る。
 暗に話は終わりだ、と伝える。
 青年はそれに気づかないフリはしなかった。
 名残惜しそうに微笑みながらゆっくり席を立つ。

「それじゃ、もしも万が一、億が一、気が変わったらご連絡下さい。クラウドさんからならいつでも歓迎です」
「しない、いらない」

 名刺を置いて帰ろうとする青年にジト目でそう言うが、ティファがそっと横から窘めつつ青年にちょっぴり申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
 そのまま2人揃って青年を見送った。

「それにしてもクラウドさんはやっぱり皆さんの言ったとおりでした」
「皆さん?」

 一礼した青年が去り際に思い出したように振り返った。
 その顔が悪戯っぽく輝いている。
 クラウドはその笑顔に嫌なものを感じた。


 *


「………ふざけるな、全員帰れ」

 地の底を這うような呻き声は紛れもなくクラウドのもの。
 それに対し、
「まぁ、イイじゃん、イイじゃん?」
「そうそう、固いこと言うなよなぁ〜」
 軽いノリはユフィ、シドのもの。
「うぉう、マリン、マリンがいねぇじゃねぇか!」
「うるさいなぁ、バレット。ちゃんとティファから説明あったでしょ?今日から明日までデンゼルとマリンはお友達と一緒にキャンプなんだよ」
「うぉおお、父ちゃんが折角やって来たってのによぉ!」
 ギャーギャー騒いでいるのは言わずと知れたバレット。
 バレットを宥めているのは、赤い毛並みが見事なナナキ。
 ティファはカウンターの中で急襲した仲間のために苦笑しながら調理中だ。

「誰も呼んでないだろ!ユフィたちが無責任に『クラウドがオッケー出したら英雄1人1人の映画作成を認める上、協力する』なんてとんでもないことを言った、ってあの男が言ってたから確かめただけだろ。なんで来るんだ」
「だ〜って、子供たちがいないって言ったからに決まってるじゃん」
「そうそう。やっぱ、お子様たちがいたら気兼ねするだろ〜?」

 ウソをつけ!お前たち、デンゼルとマリンがいたっていつもそんな感じで好き勝手に騒いでるじゃないか!
 クラウドの怒鳴り声など右から左。
 ユフィとシドは上機嫌でティファの作った酒を呷っている。
 バレットもなんだかんだ言いながら、しっかりと自分の分は胃袋に流し込んでいるし、ナナキもかっちり自分の分は確保していた。

「クラウド、諦めるしかないわね」
「………ティファ…」

 出来たばかりの料理を両手に持ったティファはすっかり諦めモードに入っている。
 思わず全身でうな垂れたクラウドの隣で彼女はうっかりため息を吐いた。
 それがてっきり、仲間たちの来訪に予定外の労力を使う羽目になってしまって疲れたのかと思いきや…。

「えっと……そうじゃないの…。そうじゃなくてね?あの……」

 心配したクラウドに目をウロウロと彷徨わせ、酔っ払いと化した仲間が新しい料理に群がっているのをしっかりと確認して小声で囁いた。


「折角…クラウドと2人きりなんだなぁ…とか思ってたから…。ちょっと残念だなぁって…」


 クラウドの脳天に雷が落ちた。


 ―『クラウドさんがオッケー出してくれたら、一気に契約が4本も取れたんですけどね』―
 ―『………4本…?』―
 ―『えぇ。ユフィさん、シドさん、ナナキさん、バレットさんですよ。皆さん、僕がお願いに行ったらまるで申し合わせたように『リーダーであるクラウドがオッケー出したら全面的に協力する』って仰って下さったんですよ。一番最初にお願いに行ったのはユフィさんでしたけど、彼女、映画にすごく乗り気だったから本当に残念です』―


 あぁ、あの時あの男のあの台詞を聞きさえしなければ!
 いや、それよりも、その言葉を聞いた後でわざわざ確認の連絡なぞしなければ!
 いやいやいや、それよりもなによりも!

 ―『なになに?それでやっぱりダメって言っちゃったんだ〜?なぁんだ、デンゼルとマリンなら絶対にノリノリだと思ったのになぁ〜』―

 そう言われてうっかりバラしてしまわなければ!

 ―『え!?そうなの?2人ともキャンプでたまたまいなかったの?へぇ、ねね、それっていつまでキャンプ?明日?よっしゃ、ラッキー!』―

 などという展開にならなかったのに!!


「よぉっし、今夜は朝まで騒ぐぞ〜!」
「「「 お〜〜!! 」」」

 仲間(クラウド&ティファ)の心、仲間(ユフィ、シド、バレット、ナナキ)知らず。

 クラウドがこの日、心の底から『出来ることなら、時間よ巻き戻れ!』と思ったのは言うまでもない。
 そしてこうも願った。


 できることなら、どうかもう1度、ティファと2人きりになれるチャンスがきますように。


 その日が来るのは当分先になるだろう…と、予想しながら…。




 あとがき

 クラウドが『できることなら○○○○』と願ったり、後悔したりすることがティファ絡みだとイイなぁ〜♪とか思っただけの話です。
 えぇ、作中の映画の話ははっきり言ってどうでも(殴)。

 わ〜、本当にくだらない話でごめんなさい。(脱兎)