「「「ぬぁあにいいいぃぃぃ!!!!」」」

 WROの局長室から、信じられないほどの大声が上がり、廊下を歩いていた隊員達がギョッとして立ち止まった。



英雄達のリーダー 〜 その時、仲間達は… 〜




「リーブ!!あんた、それでも局長なわけ!?」
 激昂したユフィが、机の上に片足をダンッ!!と乗せ、椅子に腰掛けているこの組織bPに詰め寄った。
 椅子の上で大きく仰け反りながら、「と、とりあえず……落ち着いて下さい……」と宥めようとするリーブに、今度は反対側から野太い腕を持つ巨漢がギラリと目を光らせた。
「落ち着いてなんぞいられるかっつうんだ!!大体よ、お前の部下達だろうが!!そんなアホども、とっととクビにしたらいいだろう!!!」
「い、いや……そうわけにも…」
「おいおいおい!リーブよ、おめぇいつからそんな弱腰野郎になっちまったんだ!?」
 バレットとは別の位置から、シドがイライラと口を開く。
「そ、そうは言いますが…」
 しどろもどろ言葉を続けようとするリーブに、三人が「「「問答無用!!!」」」とにじり寄る。
 それを制したのは寡黙な青年と赤い獣。
「まぁまぁ、三人とも落ち着かないと詳しい話が聞けないよ」
「そうだ。とりあえず座れ。特にユフィ………お前、女ならテーブルの上に足を乗せるなどという行儀の悪いことをするな…」
 呆れ返った口調で諭された三人は、カッとなって怒りの矛先を変えようしたが、そこをググッと堪えて荒々しく椅子に腰を下ろした。
 そんな三人に、ヴィンセントとナナキ、そしてリーブが心密かに、

 ……成長したんだなぁ……

 と、思ったのは絶対に内緒だ。

「よっし…聞いてやろうじゃねえか…!」
「おうよ!!俺らに理解出来るように、しっかり、バッチリ説明してくれ!!」
「内容如何によったら……」
 ポキポキと指を鳴らしながらユフィが唸る。
 リーブは苦笑しながら説明を始めた。


 平和になったお陰で慢心する人間が……特に、WROという特別な組織に加わっている隊員達に見られるようになったということ。
 そして、その隊員達が『二階級特進』する『価値』が無い故に、今回の『二階級特進のメンバー』から外されて『通常の昇進』、あるいは『昇進なし』という待遇となっていること。
 それが、彼らの自尊心を甚だしく傷つける結果になったこと。
 自分達が昇進、あるいは二階級特進しなかったのは、上司に……特に『局長』に気に入られていないからだ…と思い込んでいること。
 更には、自分達こそが『特別』で、今では『ジェノバ戦役の英雄達と比べ、勝るとも劣らない実力を有している』と自惚れていること。
 そして、自分達同様に、今回の人事に対して不平、不満を持っている隊員達を扇動して、内部分裂を起こしかねない危険な状態に引きずり込もうとしていること。

 それらをリーブは包み隠さず仲間達に話して聞かせた。
 その事実は、バレット、シド、ユフィの逆鱗にモロに触れた。
 ヴィンセントとナナキも、眼光を鋭くさせる。

「なにさ……それ……」
「……ケッ…身の程知らずの若造共が……」
「上等だぜ!この俺様がたっぷりとこの銃を味わわせてやる……」

 低く…。
 低く、地を這うようなその声音に、彼らの怒りの度合いが窺い知れる。
 リーブは「ええ……本当に情けない話しですが……」と、深い溜め息を吐いた。
 テーブルに両肘をついて手を組む局長の姿が、その時初めて酷く疲れている事に五人は気付いた。

 リーブから『クラウドが『ティファを景品にして』WROの隊員達と手合わせ試合をすることになった』と連絡を受けた時には、ただただ驚きと怒りしか頭に無かったが、こうして直接顔を合わせて話を聞いた今、彼がどれほどの苦労を背負い込んでいるのかを感じずにはいられない。
 きっと、今回の『手合わせ試合』も彼なりの苦渋の決断なのだろう……。

 先程まで怒りに任せてリーブを責めていたバレット、シド、ユフィは何となく顔を見合わせると、居心地が悪そうに椅子の上で身をよじらせた。

「その……悪かった……」
「うん…そうだね。リーブがあっさりとそんな非常識な事を承諾するはず…ないもんね…」
「あ〜…そのぉ…。すまなかったな、つい咄嗟にカッとなっちまって…」

 恥ずかしそうに口篭もりながら謝罪する三人に、リーブは目を丸くし、次いで嬉しそうに頬を緩めた。

「なにを言ってるんですか…。良いんですよ、私がもっとしっかりしていれば、こんな事にはならなかったんですから…」
「そんなに自分を責めることないって。リーブだから、WROはこんなにもしっかりとしてるんだからさ。そりゃ、平和になったんだから、慢心する人間が出たって仕方ないよ」
 ナナキが尾をファサファサと揺らしながら微笑む。
 その隣に腰をかけているヴィンセントも頷くと、
「その通りだ。慢心する人間など、それこそ掃いて捨てるほど存在する。それを一つ一つ、自分の責任だなどと思う必要など無い。そういった輩には、それ相応の『対応』を、その都度していけば良いだけだ…」
 今回のようにな。

 そう言って、自分の前に置かれていたコーヒーに手を伸ばした。

「…ありがとう…」

「それにしてもよぉ…」
 どことなく言いづらそうにシドが口を開いた。
 なんとなく、折角和んだこの空気を壊したくない……そう言わんばかりの口調に、ユフィが眉を顰める。
「なにさぁ……」
「いや…やっぱいい…」
 不満気なその声音に、シドはコーヒーを啜ってごまかした。
 当然、そんなごまかしが通用するはずが無い。
「気になるじゃん!」
 口を尖らせるようにして食い下がるお元気娘と、仲間達の先を促すような視線にとうとう耐え切れず、シドは再び口を開いた。

「そのよ…。なんで今回『二階級特進』なんかしたんだ?あれって、普通は『殉職した人間』が受けるもんだろ?」

 リーブはシドの質問に、「ああ…その事についてはまだ話してませんでしたね」と一つ頷くと、『二階級特進』について興味を示した仲間達に向かって真面目な顔をして見せた。

「今回の人事は非常に特殊です。その事は十分分かってますし、そのせいで不満に思う隊員が出ることも想像していました。しかし…」

 言葉を切って皆を見渡す。

「今回の人事は、言わば『新しい風』をWROに吹き込ませる為です」

「「「「「?」」」」」

 キョトンとする仲間達に、リーブは説明を続けた。

「WROが発足してから、隊員達は数々の危険な任務をこなしてきました。それは、まさに命がけの任務が多く、その荒波の中で確かに隊員達は成長していったのです。しかし…。そこで生まれたのが『自信』。ただの『自信』ではなくて『過剰な自信』です。それは、己を『神格化』する一歩手前まできていました。WROに所属し、一般の人達を『守ってやっている』と自惚れる人間が出てきたのです」

 仲間達は黙って聞いていた。
 更にリーブは話を続けた。

「それ自体は、まぁ…人間ですからね。ある程度、驕る人間が出ても仕方ないでしょう。しかし、度を過ぎた自惚れは、己をも他者をも滅ぼします。それだけは……容認出来ない…」

 ふぅ……。
 息を吐き出して、リーブはコーヒーを一口啜った。

「確かに…危険と隣り合わせの環境に身を置く時間が長ければ長いほど、一般の人達よりもうんと強くなります。それは経験を積めばある程度はそうなって当たり前です。いや、むしろ、そんな環境に身を置いていても成長しない人間は、WROの隊員としてはやっていけません。でないと、無駄死にしちゃいますからね」

 苦笑するリーブの顔は、非常に疲れているよう見えて、胸が詰まるようだ。
 仲間達は口を挟む事無く黙って続きを待った。

「それで…今回の人事について…ですが。ただ、長い間WROに所属しているだけで『人の上に立つ』という時代はもう終ったんですよ。これからは、有能な人材はどんどん活躍させる場を設けなくてはいけない。その為には、彼らを『飛び級で』昇進させ、その場に引っ張り出せるようにしなくては…。そうしないと、『自分よりも才能の無い上司の下で、才能が潰されてしまう可能性』が出てきてしまいます。絶対にそんな事は許されない」
「それで……『異例の二階級特進』…か…」
「はい」

 ヴィンセントが納得したように溜め息混じりに呟いた。
 仲間達もそれぞれ得心がいったような顔をしている。

「勿論、『二階級特進』を面白く思っていない隊員達が、反乱……とまではいかなくても、不平を口にするとは思っていました。ですから、その声が大きくなる前に『二階級特進』した隊員達と、『才能は無いのに文句だけは一人前』の隊員達を『手合わせ』させようと考えてたんです」

 リーブの言葉に、バレット、シド、ユフィ、ナナキはピクリと頬を振るわせた。
 ヴィンセントは無表情だが、スッと目を細めてリーブを見る。

「なにさ、最初からそのつもりだったんなら『ティファを景品にしたクラウドとの試合』なんかしなくても良かったんじゃん!」
 そう言って、再び機嫌の悪くなったユフィに、バレットとシドが渋い顔をして頷く。
 ナナキとヴィンセントは無言だが、三人の意見に対して、決して反対ではないのが醸し出すオーラで分かる。

 リーブは「そうなんですよね……問題はそこなんです……」と、ボソリと呟き、盛大な溜め息を吐いた。

「『二階級特進』した隊員の中に、『ある大財閥』の子息がいるんですよ…それも二人」
「……それがなにさ?」
 リーブの言葉に、ユフィが首を傾げる。
 バレットも野太い腕を組んで「はん?それがどうしたんだ?」と理解出来ていない様子だ。
 ただ、シドとヴィンセント、ナナキはやや置いて、
「あ〜…そっか……」
「あぁ……そうなんだ……」
「………フン…」
 それぞれ、なにかしら思い当たったのだろう。
 実に不愉快そのものの顔をしている。
「なになに?」
「なんだよ、おい!」
 取り残された形になっているユフィとバレットが、若干焦りながら仲間達の顔を順に見る。

「要するに、『金持ちだから特別扱いした』って思ってるんだよ…その『不満持ってる隊員達』は」

「「は!?」」

 ナナキの呆れ返った声に、バレットとユフィの素っ頓狂な声が上がる。
 リーブは困ったように苦い笑いを浮かべた。

「…お恥ずかしいことに…」
 シュン…と肩を落とすリーブを、ヴィンセントが気遣わしそうに見やる。
 ナナキがそっと身体をリーブにこすり付けて慰めた。

「ばっかじゃないの!?」
 ダン!!!!

 テーブルに片足を乗せ、ユフィが息巻いた。
「んなアフォアフォ人間の言う事なんか無視したら良いじゃん!!なんで『ティファを景品』にするバッカみたいな条件呑んでまで、そんなアフォアフォ人間に譲歩しないといけないのさ!!」
「ユフィ……テーブルが壊れる…」
 サッと自分のコーヒーを死守したヴィンセントが、冷静に突っ込む。
 他の仲間達は、無残に零れた自分のコーヒーを見て、怒ろうか怒るまいか悩んでいるようだった。(ナナキは最初から座卓であったので無被害)

「あ〜…まぁ、ユフィの気持ちも良く分かります。しかし、ここで彼らの言い分を跳ね除け続けると、後々の為にもよくありません。きっと、彼らの不満は時を経る毎に大きくなるでしょう…」

 テーブルから床に落下しそうになった空のカップを死守したリーブが、汗を拭き拭き苦笑した。
「んなこと言ったって、ティファの気持ちも考えなよ!!」
 ユフィは仲間達を睨み付けた。
「『景品』だよ!?『物扱い』なんだよ!?それも、クラウドに承諾された上で!!それが、『女』にとってどれだけ傷つけられるもんか分かってんの!?」

 ユフィの言う事は全くの正論で、反対の言葉が思いつかない。
 皆は黙り込んだ。
 それがますますユフィを苛立たせたらしい。
『いつものお元気娘』から『ジェノバ戦役の英雄』の顔になる。
 真剣な眼差しで怒りを湛えるユフィの目は、久しぶりに見た気がした…と仲間達は思った。

「まったく…話にならないね。悪いけど、私は抜けさせてもらう」

 言い捨てで椅子から飛び降りるようにして立ち上がると、そのまま怒りの勢いに任せてドアまで闊歩する。
「待て、ユフィ」
「………」
「待てと言っているだろう」
 引き止めるヴィンセントを無視し、ドアノブに手を伸ばして触れた。
 直後に、いつの間に隣にやって来たのか……ヴィンセントの大きな手がユフィの手首を掴む。

 ブンッ!!

「っと…」
「…気安く触んじゃないよ…」

 殺気…とまではいかないが、それでも十分剣の篭った眼差しでヴィンセントを睨みつけ、勢いよく手を振り払う。
 完全に頭に血が上っているらしいユフィに、仲間達は顔を見合わせるとそろそろと腰を上げた。

「ユフィ…落ち着け……な?」
「そうだよ、まだリーブの話は途中なんだしさ」

 シドとナナキの宥めに対し、真剣に怒っているユフィは眦をキッと上げ、真っ直ぐ睨み付けた。
 その気迫に仲間達は完全に気圧される。

「悪いけど……仲間を簡単に『もの扱い』出来るような『薄情者達』とこれ以上話すことはないし、聞く耳持たないね」

 軽蔑しきったその態度に、仲間達は「ウッ…!」と言葉に詰まる。
 しかし、だからと言って本当に何も言わないでこのままユフィを去らせるわけには行かない。
 恐らく彼女のことだ。
 この部屋から出たら、その足で真っ直ぐセブンスヘブンに向かうだろう。
 そして、今回の『手合わせ試合』の件について考え直すよう、ティファを説得にかかるに違いない。

「ユフィ…怒るのはいいが、最後まで話しを聞いてからにしろ」
 宥めるヴィンセントを、ユフィはどこまでも突っぱねた。
「話?そんなもん、聞く価値ないって言ってるじゃん!」
 ギンッ!!と睨みつけ、最後に仲間達をねめつけて荒々しく出て行く。
 いつもなら、腹を立ててもここまで仲間達の声を撥ね退けてまで聞く耳を持たない彼女は初めてだ。
 それほど、ティファを『景品扱い』した今回の『手合わせ試合』に腹を立ててるのだろう。
 残された面々は、苦い思いを抱えて深い溜め息を吐いた。



「ったく…冗談じゃないっつうの!!」
 足跡も荒く、ユフィはWROの巨大施設の中を出口目指して歩く。
 途中、何人もの隊員達とすれ違うが、既にWROの任務をいくつも手助けしている彼女は、彼らにとって顔馴染だ。
 だから、こうして自由に施設内を歩いていても不審者として呼び止められることは無い。
 しかし、だからと言って注目を集めないと言うわけではなく、怒りの形相でずんずんと歩く彼女を、隊員達が遠巻きに見守っている。
 そんな視線など全く気に病む事無く、ユフィは出口まであと少し…というところまで辿り着いた。
 しかし…。
 その彼女の足が止まる。
 出入り口付近でたむろしている……若い隊員達。
 彼らの顔は、何度か見かけたことがあった。
 そして、その度に不愉快な目で見られていたことにも当然気付いていた。
 ただ、これまでのユフィは、単なる『嫉妬』だと思っていたので相手にしていなかった。
 しかし、今は違う。
 ティファを景品にした手合わせ試合を聞かされた……今は……。

「あいつら…」

 ユフィは怒りを露わにまだ自分には気付いていないその隊員達へ真っ直ぐ足を向けた。
 が…。

「むがっ!?」

 突然、背後から口を塞がれて羽交い絞めにされる。
 そして、あっという間に物陰に引っ張り込まれた。

「ぷはっ!ちょ、ちょっとなにす…!」
「黙れ…」
 再びユフィは口を塞がれ、もがもがと声を漏らす。
 ユフィが怒りに任せて突進しようとしたのを未然に防いだヴィンセントは、「お前がここで暴れたら、ますますリーブが苦しい立場に立たされる」そう小声で囁いた。
 ジタジタと腕の中で暴れていたお元気娘が、ハッと目を大きく見開き、同時に身体から力が抜けたことを確認して、そっと離した。
「………ごめん……」
「いや…お前の気持ちは良く分かる」
 いつになく殊勝なユフィに、ヴィンセントは軽い驚きを覚えながら、ポーカーフェイスを崩す事無くユフィの頭をポン…と叩いた。

 …と…。


「そっれにしても、あのヘタレ局長。漸く俺達の意見に頷いたなぁ…」


 入り口でたむろしていた隊員達の声が耳に突き刺さった。
 ユフィは勿論、ヴィンセントもその暴言に目を剥く。
 英雄二人が自分達の話を盗み聞きしているとは夢にも思っていない隊員達は、調子に乗って悪口雑言を並べ立てた。

「そもそも、あのシュリの野郎だって、元はミッドガルのストリートチルドレンだったんだろ?それが、ここまで昇進したこと自体がおかしいってのに『二階級特進』だぜ?絶対、上司にあの顔で売り込んでやがんだぜ」
「それに、あのお坊ちゃん達も、実家の権力をふんだんに使って『二階級特進』したに決まってるさ。でなきゃ、あいつらが昇進するなんてあり得ないね!」
「まったくだ。ま、あいつ等とは隊が違うから実際の働きは知らないけど、たかが知れてるに決まってる」
「何しろ、苦労知らずのお坊ちゃんだからな!」
「あ〜あ〜…。全く、WROも、『ジェノバ戦役の英雄』も所詮は『俗物』ってことか…」
「ま、見てろって。今度の『手合わせ試合』で『クラウド・ストライフ』を観客達の目の前でコテンパンにやっちまったら、世間の評価は『WROの局長』から『俺達』の意見が正しい…ってことになるからよ」
「おう!お前らは俺達を見事に負かしたんだから、絶対に勝てるって!」
「へっ!当然だろ!?」
「まぁ…当日を楽しみにしてろ」

 ブルブルと…。
 わなわなと…。
 ユフィとヴィンセントの身体が震える。
 二人はかろうじて、たむろしている隊員達の前に姿を現すことをしないよう、己を押さえ込むことに成功した。
 そして…。



 バンッ!!!!
 ドカドカドカ……!!!!
 ダンッ!!!!!!

「ユ、ユフィさん…?」
「…リーブ…。試合の『司会』…私にさせて…」

 鬼のような形相で舞い戻ってきたかと思ったら、突然の申し出。
 リーブだけでなく、バレット、シド、ナナキはポカンと口を開けた。
 しかし…。

「良いでしょ?…『司会』…私にさせてよね……?」

 すっかり目が据わっているユフィからは、只ならぬ怒りのオーラが発散されているのだけは分かる。
 恐らく何かあったのだろう。
 少し遅れて戻って来たヴィンセントに、皆が説明してもらおうと顔を向けたが…。

「い、いいですよ。では、お願いします」

 寡黙な青年の紅玉の瞳が怒りに燃えているのを見て、誰も説明を求めなかった。
 今、下手に話しかけたら殺される!!

 仲間達は、二人の怒りの原因をとうとう知る事は無かった。



 そして。

 試合当日。

 リーブから予め渡されていたプログラムを流し読みしていたユフィの手が、何気なくペンを取り、サササッとプログラムに何かを書き込む。
 キョトンとするデナリに、ニッと意味深に笑うと、ユフィは張り切ってマイクを手にした。


「は〜い!!皆様、オペラグラス、カメラの準備は宜しいですか!?もしもビデオという高価なものを持っておられる方は、存分に駆使して素晴らしい名場面を収めて下さいネ〜!!」


 ギギギ…。
 重苦しい音と共に、格子が開く。
 そして…。


 登場した『六人のWRO隊員』に、皆が唖然とする。
 その光景に、一人クックック…と笑いをかみ締め、肩を震わせた。
 クラウドが観客席のVIP席をギンッと睨みあげ、一生懸命手を合わせて謝罪のゼスチャーをする局長の姿が更に笑いを誘う。

 ユフィは「驚くのはまだまだだよーん」と口の中で呟いた。

 例の三バカトリオが、これ以上ない程イヤミったらしく笑っている姿が遠目からでも良く分かる。

『その余裕がいつまでもつかねぇ…』
 意地悪くそう心の中で冷笑し、マイクを握りなおす。


「はぁ〜〜い!!おっまたせしました〜!!!これより、試合を開始しま〜〜す!!!!」

 会場に割れんばかりの拍手が轟く。
 観客席のあちらこちらから、「旦那〜!!頑張れ〜〜!!」「キャー!!クラウドさ〜ん!!」という黄色い歓声が上がる。

 ユフィはニヤニヤと笑みを深くした。

「はい、ではここで試合前に簡単な説明を行いま〜す!」
 会場の歓声が少しだけ静まる。
 予想通りだ。
 闘技場の中央で、クラウドが困惑気にこちらを見ている。

「え〜、ご覧の通り、クラウドの対戦者は計6名。一回戦はクラウド対シュリ中佐のガチンコ対決です!」
「「「「「……………え!?」」」」」

 自分の爆弾宣言に会場は水を打ったように静まり返った。

 後ろの三バカトリオは実に嬉しそうに(腹の立つ)笑みを浮かべている。


「そして、その次の第二回戦はクラウド対ノーブル准尉&バルト准尉〜!!」
 言い終わるや否や、どこからか「「「「「キャーーー!!!」」」」」という女性の黄色い歓声が上がった。
 途端、三バカトリオの顔が歪む。


『いい気味〜〜vvv』


 悔しがる三バカトリオに、ユフィは意地悪くほくそ笑んだ。
 そして……ささやかな意地悪を実行する。

「はい、そして残ります最後の試合、第三回戦はクラウド対残りの三名でっす!!」
「「「おい!!」」」

 名前を言わずに『三名』と一括りで終らせたのだ。
 当然、三バカトリオは目を剥いた。
「何で俺らだけ名前を割愛してんだよ!!」「この贔屓野郎!!」「お前も金持ちだからって差別すんのか!?」


うるっさい!!仕方ないじゃん、ここに名前が無いんだから!!!


 キーーーーーーン……。


 観客達が悲鳴を上げながら耳を塞ぐのが見える。
 隣に座っているデナリも同様だ。
 しかし、それには完全に眼を瞑って、
「はいはい!時間もないし…。第一回戦、クラウド対シュリ、試合開始!!」


 カーン!!


 勝手に試合開始宣言を行い、手元にあったゴングを鳴らした。


「「「「「「おい!!」」」」」」


 皆のツッコム姿が良く見える。
 隣のデナリが「ユフィさん……名前が無いはず無いじゃないですか……」と呆れたように言って来た。
 それに対してユフィはペロッと舌を出して悪戯っぽく笑っただけ…。

『はん、あんな奴らの名前なんか呼ぶのも汚らわしいっつうの!!』

 司会進行用のメモ用紙に書かれているはずの三人の隊員の名前は、無残にもグシャグシャに塗りつぶされていた。


『さぁ……ここからが…お仕置きの時間だよ…』

 ユフィはマイクを握りなおすと、目の前で善戦しているクラウドとシュリの実況を始めた。
 より詳しく…。
 より迫力があるように…。
 控え室で待っている三人が、見ていなくてもリアルに想像出来るように……!!



 その後。
 試合はユフィとその他の仲間達の予想以上に、白熱した素晴らしいものが続いた。
 手に汗握る…とはまさにこのことだろう。
 ユフィは何度も実況中継を忘れ、試合に熱中した。
 観客達も同様だ。
 そして…。
 とうとう繰り出されたクラウドの必殺技。

『十六連続斬り超究武神破斬』

 途中までしのいでいた二人が、とうとう地面に倒れこむ。


「クラウドの勝利で〜っす!!!」


 湧き立つ闘技場に、ユフィは満足した。
 闘技場を見れば、肩で息をしながらニッコリと笑い、握手を交わす三人の姿。
 泥まみれなのにまさに感動ものの光景に、思わず視界が滲む……。

 クラウドがゆるりと頬を緩める、子供達とティファの座っている方へ視線を向けるのが見えた。
 そして、感極まって涙を流している彼の恋人と熱く視線を絡めている。

 それを見た瞬間、ユフィはハッと思い出した。
 今回の試合のメインイベントを…!!
 大馬鹿者達に身の程を思い知らせる…という『使命』を!!


「はい、とうとうやって来ました、最終決戦で〜っす!」


 その台詞に、クラウドだけでなく仲間達がキョトンとしている。
 そして、実況席にいる自分を見つめる彼らに、ユフィは悪戯っぽく笑うと、「コホン」と咳払いをした

「え〜〜、最後となります三回戦は、WROの期待の星である三人がクラウドと勝負をしま〜す!しかもな〜んと!!!この試合に勝てば、ジェノバ戦役の英雄であり、料理の達人であり、エッジの人気者でもあるティファ・ロックハートとのお付き合い権が手に入りま〜〜す!!!!」


 一斉にどよめく観客席に、漸く思い出したかのような仲間達にくっくっく…と笑いをかみ締める。

『まったく…本来の目的忘れてどうするのさ…』

 そう思いながらも、身の程知らずの愚か者達をこの場に引きずり出すべく……身の程を思い知らせるべく司会を続ける。

 まあ…。
 予想通りというか、なんというか…。
 彼らの実力はリーブの判断通りだった。
 全くもって……お話しにならない。

 あっという間にクラウドに倒された一人目。
 無様にも負けを宣言した二人目。
 そして、自棄っぱちに突進してやっぱりやられた三人目の姿に…。

 観客席は沸きたった。
 そんな中、一部が通夜のようにうち沈んでいる。
 恐らく、その一部にいる隊員達こそが、今回の勘違い野郎共だろう。
 その面々の凹んだ顔に、ユフィは満足した。
 そっと観客席を見ると、同様にバレット、シド、ヴィンセント、ナナキが満足そうに笑みを浮かべているのが見える。


『ま、こんなもんかな。これで、リーブの采配が間違ってないって分かっただろうし、自分の実力が身に染みたっしょ!?』


 ユフィは鼻歌交じりにマイクをデナリに押し付けると、唖然としているWROの高官を尻目に仲間のところへ駆け出した。

 そこには…。


 仲間達に囲まれて困ったように……それでいて幸せそうに微笑む『リーダー』と『リーダーの恋人の姿』。



 ― アタシ達は仲間だから…。
   だから、いつでも駆けつけるし、いつまでも味方なんだからね!!
   しっかり覚えときなさいよ、二人共!! ―


 空が綺麗な暮色に染まろうとしていた…。



 あとがき

 はい!!
 なんとか終りましたね…(^^;)。
 T・J・シン様のリクエスト、96469番です!!
 ……。
 『英雄シリーズでの仲間達の視点で。試合にいたるまでの話を聞いた時はきっと仲間達(特にユフィとバレット)は激怒したであろう為、その仲間を思うがゆえの怒りと三バカがアッサリやられてスッとする胸の内……♪』
 
 とのリクエストでしたが……。
 ど、どど…どうでしょうか…(ビクビク)。
 すいません、頭が固まっててこれしか思い浮かびませんでした…(汗)。
 こ、こんな駄文ですが……T・J・シン様にお捧げします(土下座)。
 リクエスト、ありがとうございました!!