私には才能がある。
 人望がある。
 そしてなにより、同性からは羨望と嫉妬の…。
 異性からはただただ賞賛の眼差しを受ける、このナイスバディーがある。

 だから。

 そんな特別な私だからこそ、私の伴侶は私と同じく特別でなくてはダメ。
 それもそんじょそこらに転がっているような『安い特別』ではなく、『レアな特別』でなくっちゃ!

 と言うわけで…。






選ばれし人







「あなたがこの私の伴侶として選ばれたのよ。天に感謝なさい、歓びなさい!」

 幾人もの男達を悩殺した笑みと、良く通る声で目の前の『彼』にそう告げる。
 途端、周りからはドッ!と歓声が沸いた。
 ふふん。
 当然だわ。
 この私に選ばれたんだもの、周りの人間が羨まないはずがないじゃない。

 だと言うのに…。

「……あんた、病院行った方が良いんじゃないのか…?」

 形の良い眉を顰め、紺碧の瞳を細めた彼がそう言った。


 な!
 なんてことを!!
 この私に向かって『病院に行け』ですって!?
 まるでこの私のことを『変人』か『精神病者』みたいな言い方をするなんて、とんでもない男だわ!!
 ま、まぁ、簡単に『はい、感謝します』だなんて軽々しく言うような簡単な男に比べたらマシよね。
 なんと言っても、この私の伴侶たるもの、確固たる自信と自尊心を兼ね備えた男でなくては!
 そう。
 だからこそ、こんなにも無愛想で無駄に美しい男を私は選んだのだから。
 そうよ!
 このわ・た・し・が!!
 選んだのだから、そこら辺の男と同レベルな反応は許さない。
 むしろこの反応こそが、私の伴侶たるに相応しいものだわ。

 私は一つ、大きく深呼吸をした。
 そして、カウンターのスツールに座ったまま、まだ私のことを訝しそうに見ているクール・ビューティーを見る。

 …ふふん。
 その疑ったような表情も素敵よ。
 流石、私が選んだだけのことはあるわ。
 他の男だと、『疑った顔』をこの私に見せたりしたら、直後に瞬殺の刑よ。
 醜くてとてもじゃないけど見られないもの。
 だけど、この男には全くそういう感情が湧いてこないわ。
 これはもう、間違いないわね。
 全く疑う必要もなく、この男が私の選ばれし男よ!
 私の運命のたった一人の男よ!

「貴方の戸惑う気持ちは分かるわ。なんと言っても、この私に選ばれるだなんて名誉、世の殿方にとっては夢にすら描けない栄誉ですもの」
「……は…?」

 片眉をピクッとひくつかせ、低い声で疑問をもらす『彼』。
 ふふ、分かってるわ。
 そりゃそうよ。
 まさか、この私に愛の告白をさせるだけの人間が世の中にいるだなんて、全世界の男達は夢想だにしなかったでしょう。
 それが、まさか自分の身に起こったのだから、『彼』がビックリするのは当然のことよ。
 まさに数億分の一に選ばれた奇跡!
 その幸運が自分に起こったのだから!!
 右手の甲を顎から頬にかけて添え、微笑みを深める。
 ほら、それだけで周りで私達のことを見守っている外野がうっとりとした溜め息をこぼすの。
 当然だわ。
 バスト98、ウエスト56、ヒップ83のナイスバディー。
 更には女優として、モデルとして日夜活躍しているこの私を目の当たりにして、平常心を保てる男、いいえ、同性も勿論だけど、そんな人間、そうそうはいないわ。
 そして、その平凡な男は特別な私には似合わない。
 凛々しく、雄雄しく、美しい容姿を持ち合わせた若い男。
 それが私にとって相応しい男よ。
 まぁ…『彼』の場合は身長がちょっと問題ありなんだけど、それは仕方ないわ。
 ハイヒールを愛用している私だけど、ローヒールに変えたら良いだけですもの。

 ふっ。

 なんて心が広いのかしら…私ったら。
 この私が、男の為にハイヒールからローヒールに変えても良い、って譲歩するだなんて!
 ふふふ。
 恋しい殿方には全身全霊をかけて愛してあげる。
 それが私の生きる道よ。
 でも、彼はちょっと私が思っていた以上に鈍いみたい。
 ふ…。
 本当に謙虚なんだから。
 この私に選ばれたことがまだ信じられないのね。
 仕方ないわ。
 少しだけヒントをあげようかしら。


「コスタ付近で私をモンスターから守ったあの瞬間が運命の分かれ道だったのよ」


 訝しそうな彼の眉が少しだけ開いた。
 紺碧の瞳が軽く見開かれる。
 そうよ、思い出したみたいね。
 本当に鈍いんだ・か・らv

「あ〜……あの時の…」

 彼がそう呟いた途端、周りの野次馬達がまたもやドッ!と歓声を上げた。
 そう、それで良いのよ、あなた達。
 そうやって私と彼の良き門出を祝いなさい。
 私と彼の素晴らしい出発の門出を祝うという栄誉に預からせて差し上げてよ。

 ヒューヒュー!という口笛や、「やるねぇ!」という言葉が小さくて小汚い店に満ちる。
 ふふ、滅多に感じないんだけど、いい気分だわ。
 さ、早くこんな小汚い店から、光り輝く私達の世界へ戻らなくては!

 まだ躊躇っているらしい『彼』に向けて頬に添えていた手を伸ばす。
 いいえ、伸ばそうとしたわ。
 その時に、

「おいおい、クラウドの旦那!いつの間に〜!?」
「って言うか、良いのかよこんな所にまで連れて来て!」
「クラウド兄さんよぉ…ちょっとまずいんじゃねぇか…?」

 などという不届き者の言葉が聞こえてきたのよ、この私の美しい耳に!

 ギンッ!!
 声がした方を睨みつける。
 途端、私達を祝っていた拍手喝采がピタリ…と止んでしまった。

 …。
 …あら、やだわ。
 私としたことが。
 この私に選ばれたんだもの、『彼』に対してやっかむ人間がつまらない齟齬を漏らすのは当然のこと。
 ふふ……いけない、いけない。
 所詮、この小汚い店にいるのは庶民中の庶民。
 私や彼のように、栄耀栄華を手にした人間には相応しくない人種。
 今日を限りに永遠にお別れ出来るんだから、少しくらいの粗相は見逃し、聞き流して差し上げなくては。
 おおよそ、こういう店に来る人間ですもの、教養というものが欠落してて当然よ。
 それに、こういう教養のない人間がこの星の大半を占めているんですもの、少しくらいは知っていなくてはならないということも分かっているわ。

 上に立つべき者として。

 だからこそ、『彼』が私に相応しいの。

 庶民の中の庶民で生活し、素晴らしい資質を今日まで埋もれさせていた『彼』。
 ようやっと、本来の世界に入れるのよ!
 さぁ、歓びなさい、感謝なさい!
 この私に見出されたことを!
 運命の素晴らしい奇跡を!!

 気を取り直して、極上の笑みを浮かべて再度彼に視線を戻した私は、信じられない『物体』に目を見開いた。
 その『物体』は全部で二個。
 しっか!と彼の首に抱きついている。
 一個は彼に縋るような目をして…。
 もう一個は、明らかにこの私へ挑戦を挑んでいるかのような生意気な目つきで。

「クラウド、この女の人、誰!?」
「クラウドにはティファがいるんだからな。さっきから気持ちの悪いこと言ってんじゃねぇよ!」

 …。
 は〜ん?
 なんて仰いましたの、今!?
 この私に向かって『気持ち悪い』ですって!?!?
 いえいえ、その少し前にもっと聞き捨てならない台詞をこの『物体B』は口にしたわ!

 ― 『クラウドにはティファがいる』 ―

 ふっ。
 そんなこと、百も承知だわ。
 私が、伴侶となる男の身辺調査をしなかったとでも?
 クラウド・ストライフには、ティファ・ロックハートという幼馴染の女が同じ屋根の下にいることなど、調べるまでもなくほとんどの人間が知っててよ。
 当然、彼女と彼の間には、なにかしらの『情』のようなものもあるでしょう。
 あの『ジェノバ戦役』を共に闘った仲間なんですから。

 でもね。

 それこそが落とし穴なのよ。
 恐怖を共にした人間とは、通常よりも強い『共感』という『絆』が芽生えるの。
 まさに『崖っぷちでの絆』よ。
 でも、それは所詮、勘違いの領域でしかないわ。
 同じ恐怖を共感したというだけで、人生の伴侶は決まらない。
 一時の気の迷い…と言った方が良いのかしらね。
 そして、まさにその『一時の気の迷い』に陥ってるのが、この目の前の私の伴侶、クラウド・ストライフよ。

 はい?
 どうしてそんなことが言い切れるのかって?
 バカじゃないのかしら。
 彼がティファ・ロックハートと一緒に住み始めてから結構な時間が経つのに、未だに結婚していないことが何よりの証拠よ。
 きっと、彼は己の犯した過ちに気付いているんだわ。
 でも、ティファ・ロックハートは違う。
 過ちに気付くどころか、自分が相応しくないということすら気付かず、彼を独占したつもりで鼻が高くなっているのよ。
 その高くなり過ぎた鼻っ柱をへし折るためにも、今夜、私はここに来たの。
 そうよ!
 この私が、こんなにも小汚くて相応しくない店に来たのは、ティファ・ロックハートの鼻っ柱をへし折り、彼を救い出すため!

 あぁ…。

 なんて健気なのかしら、私ったら…。
 改めて私という出来た人間に惚れ惚れしちゃう。
 こんな素晴らしい女性がこの世の中に他にいて?
 いいえ、いやしないわ!


「クラウド…この人、なんか怖い…」
「クラウド…さっさと警察呼んだ方が良いんじゃないのか?」


 私の高揚した気分を著しく損ねる発言。
 物体A・Bの呟きは、心の広い私でも流石にちょっと……許容範囲を超えててよ…。
 でも、ダメ。
 ここで怒っては、私の品性が地に落ちるわ。
 そう、相手はまだまだ物事の道理が分かっていない『ヒヨコちゃん』。
 ティファ・ロックハートと同じく、彼にとって大きな足枷となっている小うるさいヒヨコ。

「そうだな…、ティファが奥から戻る前に何とかするか…」

 小声で物体A・Bに呟いた彼の言葉は、勿論バッチリ聞こえていたわ。
 愛する男の声は、例え地の果てにいたとしても聞こえてよ。
 それが私。
 世界で一番のレディーである私!

 心配そうな顔をする物体A・Bに微笑んで腰を上げた彼。
 …あぁ…なんて素敵なのかしら。
 その真実の微笑みは、これから私だけに向けられるの。
 そう、他の人間には向けられず、この私だけに!


「あんた、ちょっと外に出てくれないか?」


 物体A・Bから視線を私へ戻した時、彼はすっかり微笑を消し去っていた。
 ゾクゾクするような冷たいアイスブルー。
 ふふ…照れ屋さんなんだから。
 私に微笑むのがそんなに恥ずかしいの?
 でも、そんな恥ずかしがり屋なあなたも素敵よ。
 決して驕ることなく、謙虚で美しい。
 凛々しく、弱者に優しく、強者に強い男。
 だからこそ、人は彼を英雄と呼ぶの。
 そんなクラウド・ストライフこそが、私には相応しいわ。

 普通の場合なら、彼が『外に出て下さい』と言ったら(← 言ってない)、大人しくそれに従うんだけど、でも今日はダメ。
 ゆっくりと…出来るだけ優雅に首を振る。
 美しい眉が顰められるその仕草も、素敵。
 あぁん…、背筋がゾクゾクしちゃう。
 ふふ、だって今夜は貴方をティファ・ロックハートというとんでもない悪女から開放してあげる日なんだもの。
 そのためには…。


「皆さん、お待たせしました……って…あれ?」


 店内がザワリ…と緊迫した雰囲気に包まれる。
 物体A・Bがビクッと身を竦めて店の奥に続くドアへ振り返った。
 ふふん。
 ようやく登場ね、ティファ・ロックハート。
 さぁ、こっちにいらっしゃい。
 あなたの勘違いを私が正して差し上げてよ。
 そして、クラウド様。
 貴方をようやっと救って差し上げられるわ!
 どうかその瞬間は、私を抱きしめて下さいまし!!

「どいて頂戴」

 立ち上がって邪魔な庶民達を退ける。
 ただそれだけのために声をかけるのも汚らわしいわ。
 ふっ。
 でもそのための我慢も今夜限りよ。

 ポカン…と立ち尽くしている女、ティファ・ロックハートの前まで人がサーッと脇によけるのを待ち、私は颯爽と一歩を踏み出した。

 どの客達もバカ面晒して、私とティファ・ロックハートを交互に見つめている。
 中には時折、私とティファ・ロックハート以外に視線を流しているものもいた。
 当然、その視線は私の近未来の伴侶へと向けられているに違いないわ。

 あぁ、本当は振り返って彼を見てみたい。
 この颯爽と歩く私を、彼がうっとりと見つめているその表情を見てみたい!
 でも…ダメ。
 ここは振り向いて彼を見つめるシーンじゃないもの。
 彼を見るシーンは、もう少しあと。
 ティファ・ロックハートを撃退してから…なんだから。


「…あの……お客様……?」


 ピタリ、とまん前に立ち止まった私に、間抜けな顔をしたティファ・ロックハートがおずおずと声をかける。
 ふん。
 本当につまらない女ね。
 調査以上だわ。
 調査では、『見目麗しく、清楚な中に垣間見える力強さが美しい』とあったけど、ただの地味な女じゃない。
 勿論、容姿端麗であることは認めるわ。
 えぇ、私は小さなことを否定して自分を卑しめるような愚かな小者とは違うの。
 右足に重心をかけ、左足を少し開いて立つ私を、ティファ・ロックハートは困ったような顔をして見つめている。
 彼女の戸惑いは当然だわ。
 日夜、モデルに女優として大活躍、しかも大財閥のご令嬢として名高いこの私を知らない人間なんか未分化地帯に生息するモノだけでしょう。
 私のような大物が突然目の前に現われたら、そりゃあ、萎縮もするわよねぇ。

 私はわざとゆっくりした動作で、右手の甲を顎のラインから頬に添わせ、左手で右肘を支えた。

 ほぉ〜…。
 庶民の連中がうっとりと溜め息を吐いたのが聞こえる。
 当然の反応に、なにも感じないわ。
 そのまま、まじまじとティファ・ロックハートを頭のてっぺんから足の先まで見つめて…。


「本当に…あなたには相応しくないわね」
「え……?」
「えぇ…相応しくない」


 私の言葉が分からないようで、戸惑ったような顔をしてティファ・ロックハートは私の後ろへと視線を投げた。
 視線の先には、私の近未来の伴侶がいる。
 その視線は、すぐに私に戻ってきた。
 少しも変わらない戸惑った目。
 彼から確かな安心感を得られなかったための、戸惑いの目。
 当たり前だわ。
 彼はもう、あなたの呪縛から半分以上解き放たれているのだから。
 そう、だから彼に救いを求めても無駄よ。
 さぁ、今こそこの台詞を言うべき時!


「クラウド・ストライフから離れなさい。あなたには相応しくなくてよ!」


 言葉でピシャリ!と、ティファ・ロックハートの頬を打つ。
 茶色の瞳がまん丸になった。
 直接手を上げないのかですって…?
 どうしてそんな野蛮なことをしなくてはならないの?
 それに、野蛮以上に汚らわしいじゃない、こんなつまらない女に直接触れるだなんて。
 この美しい手は彼に触れるためにこそあるのよ。
 他の人間に触れるためにあるんじゃないわ。

 場がざわざわとする。
 ティファ・ロックハートはわけが分からないと言わんばかりに、視線を私と近未来の夫の間を行き来した。
 見る見るその顔が青くなる。
 今にも泣きそうな…そんな顔。
 ふふ、いい気味だわ。
 身の程知らずの人間の末路は、いつ見ても気持ち良いわね。

 あら、背後から何かが動く気配がする。
 そう。
 彼だわ。
 彼が私を抱きしめるために動いたのよ。
 私へと向かってきているの。
 分かってるわ。
 こんな衆人の前で、彼を救うべく堂々と戦った私に感謝して、誉めそやすために私の元へと……。

「違う!ティファ、違うんだ!!」

 私の…元へと……。

「違う、この女はこの前言った『コスタ付近でモンスターに襲われてた、黄色いスポーツカーに乗ってた奇人変人』だ!」

 ……私…の……。

「あんな目立つ車に乗ってた奇抜な女のことだ。覚えてるだろ?」
「え!?二ヶ月前くらいの…人のこと?」
「そう!」

 ……奇抜な女…?

「でも…、その女の人がどうしてここに来るの…?」
「知るかそんなこと。俺はここにいるだなんてわざわざ教えてない」
「あ…でも、WRO広報誌で知ってるわよね……」
「まぁ、大方それを見てここに来たんだと思うんだが…。それよりも二ヶ月前よりもおかしくなってるみたいで……病院連れてった方が良いと思うか…?」

 ……。

「でもこの人、雑誌で見たことある気が…」
「雑誌?なんの?」
「ん〜…確かファッション雑誌だった気が…」
「……モデルなのか、こんなのが…」

 …こんなの!?
 こんなのって言った!?!?

「ちょっとお待ちなさい!!」

 シーン。
 ざわついていた店内が静まり返る。
 なんと言うことを!
 この私に向かって!!

「クラウド・ストライフ!」

 ビシッ!!
 人差し指を突きつけて睨みつける。
 ビクッと身を竦ませたのはティファ・ロックハート。
 そんな彼女を背後にサッ!と庇いながら、負けじと私を睨みつける紺碧の瞳。

 あぁ…。
 そんな凛々しい貴方も美しいわ。
 …じゃなくて!

「あなたは特別な人なのよ。この私の伴侶として選ばれた人なの!それを、こんな小汚い場所で時間を費やすなど、無駄なことはこれ以上してはならなくてよ!!」

 彼を誤った道から救い出すため、高らかにそう宣言する。
 最大限に目を丸くしたティファ・ロックハートの間抜け面に少しだけせいせいしたけど、次の瞬間、私は…。


「ちょ、ちょっと、一体何をするのです〜!?」
「うるさい…」


 まるで猫をつまむように、私の襟首をひょい、とつまんでクラウド・ストライフはツカツカと歩き出した。
 そして、これまたポイッ!とドアから路地へ放り投げる。
 私のSPが外に待機してなかったら、冷たい地面に激突するところだったじゃない!!


「お前らも仕事なのは分かるが、今度その女がエッジ近辺や俺の家族の周辺を嗅ぎ回ってる事を知ったら、容赦しない。それから、その女、さっさと精神科にでも連れて行け」


 SP達が私を抱きかかえたまま身体を硬直させた。
 お陰で、彼が『バタン!』と勢い良くドアを閉める直前の彼を見ることが出来なかったじゃない!
 この役立たず!!
 絶対に彼は照れていたに違いないわ!
 そんな彼の姿を見逃してしまうだなんて〜!!


「お嬢様、もうお諦め下さい」

 キーッ!
 何をわけの分からないことを!!
 次こそ、彼を本当の世界へと救い出して見せるんだから!!


 *


「ティファ…大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫。それよりも、クラウドは大丈夫なの?」
「……まぁ…な。それにしても、本当に濃いキャラだ…」
「そうね…。確かに見た目は綺麗だったけど」
「は?」
「ん?」
「あれのどこが綺麗なんだ?」
「え…?ん〜…ほら、スタイル良いし」
「ティファの方がスタイル良いだろ?」
「眉目秀麗だったし」
「…そうか?化粧が濃すぎて良く分からん…」
「気品はあったし…」
「……ティファ、それは勘違いだろう…」
「それに…」
「まだあるのか…?あの女を魅力的だって思える要素が…」
「うん」
「どこ?」
「…ふふ…」
「なんだよ、いきなり笑うなよ…」
「…本当に聞きたい?」
「……聞いたらダメなら聞かない」
「ダメじゃないよ。でも、絶対にクラウドは聞かなかったら良かった、って思うと思うわ」
「…そんな言い方されたら気になるだろ…」
「ふふ。あのね」
「うん…」
「『男の人を見る目はある』なぁ…って思ったの」
「………」
「あ、やっぱり照れた」
「……照れてない」
「嘘つき」
「嘘じゃない…」
「本当?じゃあ、こっち向いてよ」
「……ヤダ」
「ふふ〜、やっぱり照れてる」
「……照れてないって言ってるだろ」
「ふぇ!?」
「からかったバツだ」
「も、もう、ちょっと、離してよ〜!」
「ダ〜メ〜だ。少しは反省しろ。俺一人で滅茶苦茶恥ずかしかったんだからな、あんな奇抜女の相手して」
「…う〜…でも、私が早く奥から戻ってきてても同じだったと思うけどなぁ…」
「…はぁ…。なんで金持ちってちょっとズレた人間が多いんだろう…。これから、人助けするのに躊躇しそうだ…」
「あはは、そうね。…でも…」
「ん?」
「なんだかんだ言っても結局クラウドは考えるよりも身体が先に動いて助けちゃうと思うわ」
「………」
「からかってるんじゃないのよ?褒めてるのよ?」
「…そうなのか?」
「うん、ふふ」
「…はぁ…やっぱりティファが一番落ち着く」
「ふふ、私も」



 互いが互いを選んだ人だということが、しみじみとありがたい、と噛み締めるクラウド・ストライフとティファ・ロックハートだったのでした。



 あとがき

 いや、なんとな〜く、アフォな話を書きたくなって…。
 アフォすぎてすいません(土下座)