暗い、暗い闇の中で、少女は今日も目を醒ます…。
 それは、いつまで続くか分からない闇の中で繰り返される悪夢の日々…。






Fairy tail of The World 〜 夢から現実へ アイリ編〜







 耐え難い悲しみと憎しみ。
 そのあまりにも過酷な末路を辿った結果、…己の魂を二つに引き裂いた少女。
 あの悲劇から既に二千年もの月日が経つ。
 闇の中で少女は目を醒ます。
 胸に鉛を抱えたような心地で目を醒ます。


 ― 気取られてはならない… ―


 ここに安住の地はない。
 故に、彼女は決して気を緩めない。
 闇に堕ちたあの日から、少女は決して真の己を曝け出すような失態を犯さず、気を張り詰めたままの状態で存在していた。

 真っ暗な闇。
 視覚という感覚など『器』を持たない今の状態ではないはずなのに、目を閉じると瞼の裏に鮮やかに蘇えるのは、兄と従兄弟の………血に濡れた首。
 クルクルと弧を描きながら宙を舞う………愛しい人の首。
 ドサッ…と、地面に倒れ伏す首を失くした身体。
 それまで血の通っていた『器』は、あっという間に魂をなくし、『モノ』になった。
 命の終わりとは、なんと儚く…脆いものか…。


 ― 気取られてはならない… ―


 あの時。
 目の前で失ってしまったものは、愛しい人の命だけではなかった。
 自分がそれまで信じていた全てのものが『まがいもの』だったと非情な現実を突きつけられた。
 そう…。
 なんと愚かであったことだろう…?
 真の姿を全く知らずに信じていた『現実』とは、一体なんだったのだろうか?
『偽り』を『真実』として何の疑いも無く信じていた己の無知振りには、ほとほと呆れ果てるばかりだ。
 自分が信じていたものの全てが偽りだった。
 自分は一体何を見て、何を感じ、何を聞いて生きていたのだろう?

 ― 『アルファ』 ―

 愛しそうにその名で己を呼ぶ母の手。
 他人には全く心を許さないのに、自分と母親、そして伯母と従兄弟には優しい兄が自分に向けてくれる温かな眼差し。
 そして…。

 ― 『アルファ。僕はアルファとシュリに出会えて幸せだよ』 ―

 決して幸せな境遇ではないはずなのに、いつも明るく春の日差しのような微笑を向けてくれる従兄弟。
 最愛の男性(ひと)。

 あぁ…そうだ。
 母と伯母、兄と従兄弟のあの時くれた眼差し、愛しさを織り交ぜて呼んでくれた己が名前。
 それ以外は全て偽りだった。


 ― 気取られてはならない… ―


 家族ですら!!
 真実を教えてはくれなかった!!!

 ― 『アルファ、貴女は『歌姫』だから、戦う力はないの』 ―
 ― 『だから、故郷(ここ)で私達の帰りを待っててね?』 ―
 ― 『大丈夫よ。アルファが私達の勝利を祈って歌ってくれたら必ず帰ってこられるわ』 ―
 ― 『だから、ここで歌って?アルファの母様と私の無事を祈って…』 ―

 自分も母達と共にいつかは討伐の旅に出たいと言った時、母達がくれた言葉。
 あの時は、『あぁ、そうなんだ…』と、あっさりその言葉を信じ、どうして自分は『舞姫』として生まれなかったのかと残念に思った…。
 しかし、自分の歌に合わせて舞を舞うのが一番幸せで楽しい。
 そうも言ってくれた母達は本当に幸せそうで…。

 その輝くような…陽だまりのような温もりに包まれ、愚かにも考えるのをやめてしまった……。

 自分には一体なにが出来るのか…ということを…。


 ― 気取られてはならない… ―


 毎日毎日祈りを込めて歌った。
 母達の無事の帰省を。
 それが唯一、自分に出来る事だと信じて。
 そうして少女はもう一つ、切なる願いを込めて歌う。
 母達の力に少しでもなれるような力を与えて欲しい…と。

 そんな毎日が少しずつ変化する。
 徐々に自分を取り巻く女官達が増えていった…。
 その目には温もりがあったから、あの時は『監視されている』という自覚は全く無かった…。
 しかし、そのせいで母達が遠征に出ている間は『彼』に会うことは中々難しくなっていった…。
 そんな自分とは違い、いつの日か遠征の旅に出なければならない兄は、自分よりも自由に故郷(さと)からの出入りが出来ていた。
 その為、兄に伝言を頼むようになる…。

『毎日カーフの幸せを祈って歌ってます』…と。

 ― 『必ず伝える』 ―

 ニッと笑って頭を撫でてくれるその瞬間が…本当に好きだった…。
 だから、気付いていなかった…。
 その時、いつもどんな思いで自分に兄が笑いかけてくれているのか…。
 どれほど、自分にウソを吐くことに嫌悪感を抱き、己を責めていたのか…を。

 兄と従兄弟が死んだその直後。
 兄と従兄弟の記憶が一気に流れ込んできた。
 あまりのその衝撃に、頭の芯が痺れ、心が麻痺した。
 全ての五感が狂い、なにも感じなくなったその一瞬。


 儀者は…。
 少女を犯そうとした…。


 気味の悪い視線。
 耳障りな悲鳴と怒声。
 ヌチャッ……ビチャッ……ズシュッ……グシャリ……。
 儀者が血を舐め、清浄な祭壇に血の雨を降らせ、肉の塊を地面に踏み潰す…。

 幾つもの返り血を浴びた儀者が狂気に笑いながら振り返ったあの瞬間。


 少女は『己の力を覚醒』させた。


 カーッと急に目の前が真っ赤に染まった…。
 そして…。
 その後、初めて知った真実。

 なんということだろう…。
 持っていた。
 既にこの身に持っていた!
 あんなに願った力を!


 戦う力を!!!


 その耐え難い真実は、途中で追っ手の手によって幾つもの傷を柔肌に刻まれても、痛みを痛みとして感じさせはしなかった。
 当然のように攻撃が仕掛けられた方向に的確に己の『力』を放ち、同胞達を殺す。

 一体…二体…三体………。

 同胞達の亡骸で大地を鮮血に染め上げながら少女は行く。
 少女は最愛の者達を弔った後、当然のようにそこで死んだ。
 朽ち果てる躯にいくつもの野獣が群がり、鳥が啄ばんでいく。
 それを…彼女はぼんやりと星の中から見ていた。
 哀しくは無かった。
 苦しくも無かった。
 自分の躯がどうなろうと、もはや意味を成さない。
 あの身体にはもう帰れないのだから。
 それになにより、死んだ後のほうが、少女は幸せだった。
 星に帰った少女は、すぐに兄と従兄弟が見つけられた。
 彼らもまた、星の清浄な流れからはじき出されて彷徨う運命を強いられていた。
 その運命…いや、呪いを二人はほぼ正確に理解していた。
 だが、二人は悲観していなかった。
 むしろ、星に溶け込まず、今の記憶と魂を有したままで存在し続けることを幸運だと言った。

『これで、星の手足となって直接働きかけることが出来る』

 少女の兄はそう言った。
 従兄弟はその言葉に頷いた。
 少女は……やや間を置いてニッコリと笑った。

 三人一緒なら何でも良い。

 少女はそう言って、二人にしがみ付いた。
 兄と従兄弟は、愛しそうに少女を抱きしめた。
 二人は気付かなかった。
 その時点で既に少女が『少女』ではないことに。
 魂の大半が『闇』に堕ちてしまっている事に…。


 こうして、三人は二千年余りもの長い年月を星の中で過ごすこととなる。


 少女の片鱗が『闇』に堕ち、着々と力を蓄えていることを知らないまま……。
 闇での少女は、己の魂を『己の負の感情』で多い尽くすことにより、他の『悪意』『憎悪』『妬み』『苦しみ』それらの『負の感情』から完璧に守っていた。
 自分自身への嘲りと憎悪を鎧とし、他者の侵入を決して許さなかった。
 闇の亡者達は、少女を取り込んで己が力にせしめんと様々な攻撃をしたが、それはことごとく失敗した。
 星から授けられた力を持つ魂は、比べ物にならないくらい巨大で強力だった。
 攻撃をしかけた亡者達の力をそっくりそのまま跳ね返し、自分の存在を抹消せしめんとする者達を次々『無』に帰せしめた。
 いつしか少女は、闇の中で『皇帝』と囁かれるようになる。
 その不名誉極まりない称号を、少女は甘んじて受けることとした。
 そうすることで、『現・皇帝』の怒りを招くと知りながら…。
『現・皇帝』が、己の地位を保持するために少女を完全に『無』にすべく牙を向くことを知りながら…。
 むしろ、少女はその時を待った。

『現・皇帝』からその地位を奪い取るために!

 亡者達が自分を『主(あるじ)』と崇めるようになれば、勝手に『光の世界』に手を出さないことを知っていたからだ。
 それは、『現・皇帝』と称されている翁(おきな)の魂を崇めている亡者達を見ているうちに自然と悟った闇の法則であった…。

 亡者達は、決して『主』と呼んだ者を差し置いて、手前勝手な『侵攻』はしない。
 何故なら、『皇帝』の愉しみを奪う行為は即、『無』に繋がるからだ。
 そして、歴代の闇の皇帝達は、己が先陣に立ち、『光』を侵食することをなによりの悦びとしていた……。

『貴様なんぞに……!!』

 先代の皇帝の血反吐を吐くような怨念の篭った恨みの言葉。
 それが、先代の皇帝の最期の言葉となった。
 真っ黒い粒子となって霧散するその翁を、アルファはなんの感慨もないように見せかけて一瞥しただけだった。



 ― 気取られてはならない… ―



 これまで命の世界に数多くの災厄を呼び起こした憎い仇を討った歓びは、全て『兄と従兄弟』と共にいる方の『自分』へと流し込み、闇に魂を置いている自分には残らないようにした。
 少女は…。
 皇帝として正式に称されるようになった…。

 そうして、その事実は兄にも、従兄弟にも…。
 母や伯母、その他、彼女に縁のある者にもない者にも、誰にも知られることは無かった…。



 そして時がやって来る。
 三人の内、一人の魂が『器』に引き寄せられ、その一人の傍にいた魂が巻き込まれて共に命の世界に戻ってしまった。
 残された一つの魂は、必死になって己が入れる『器』を探し、丁度一年後に命の世界に帰依することとなる。
 その一部始終を少女は闇から見ていた。
 黙って…。
 ただ見守っていた。
 闇が余計な手出しをしないで済むように『闇の皇帝』という烙印を甘んじて受けながら…。

 それから数年後。
 少女は自分の魂の片鱗が『命の流れ』に飲み込まれたのを感じた。

『丁度良い…』

 彼女は心の深い深い部分でほくそ笑む。
 これで、『カモフラージュ』が出来る。
 正常な人間では出来ない事が出来る。



 やがて、時は過ぎ…。
 星に大きな悲しみが訪れた。

 純粋のセトラがとうとう絶えてしまったのだ…。

 星が悲哀に泣くのを少女は闇の中で聞いていた。
 数年前、宙からの災厄が発掘されるというとんでもない事件が起きたときですら、ここまでの悲しみ、不安は無かった。
 しかし今、星は小さな子供のように泣き叫んでいた。
 命の流れをたゆとう数多の魂も、その大き過ぎる衝撃に動揺していた。
 ただ闇の亡者達だけが、歪んだ歓びに踊り狂っていた…。


 更に時が流れた。
 星にまた、大きな大きな悲しみが訪れた。
 とうとう…。
 セトラの血を引く者が完全に絶えてしまったのだ…。
 一粒の希望を残して、深緑の瞳と温かな茶色い髪を持つ女性が星に還った…。
 星は諸手を広げて彼女の魂を受け止め、闇が手出し出来ないように包み込んだ。
 闇の亡者達は狂喜乱舞した。
 これで、自分達の野望がまた一歩、大きく近付いた……、そう叫んで……。

 アルファは……、黙してそこにいた…。
 動くべき時が近付いているのを感じながら…。
 もう時間がない。
 星は既に限界だ。
 溢れかえる『闇』達を、星は抑えられなくなっている。
 アルファが身動きしないことで辛うじて『侵攻』はないものの、それでも所々で既に綻びが出来ていた。
 その無数に開いてしまった小さな綻びから、闇が小さく小さく手を伸ばしていた。
 そのことを知りながらも、アルファにはそれを止める術は無かった。
 既に大きな反乱を抑えている現状で、『小さな悪戯』までも抑え込んだら、それこそ星は壊れてしまうだろう。

 最後のセトラの血が絶えたのを境に、急速に闇は力を増幅させた。
 その力に亡者達は気付きながらも有効に使う術を持っていなかった。
 何故なら、亡者達は『共闘』という言葉とは無縁であったからだ。
 己の利益、快楽のみを追い求める愚かな群集。
 それが亡者。
 哀れむべき哀しい魂の成れの果て…。
 その愚か者達に愛する者が生きている世界を…、守ろうとした世界を壊させるわけにはいかない。
 アルファは……必死になって捜した。
 真の『自由』を星にもたらせるために動く際、どうしても必要な『駒』を…。

 この『駒』は、強い心を持っていなくてはならない。
 戦闘に長けた者でなくてはならない。
 何よりも、強い絆で結ばれていなければならない。

『魔晄』に晒された魂と、晒されていない魂の二つの絆がどうしても必要だった。
 これから先の星には、『魔晄』に晒された人間の血の流れを汲む者が間違いなく増えていく。
 その上では、絶対に欠かせない『駒』だった。

 ― 果たして……彼らで大丈夫であろうか… ―

 候補はたった二人。
 自称・元ソルジャーの青年と、彼の恋人。
 彼らには強い絆で結ばれた仲間がいる。
 その点を考えても、彼ら二人以外に適任はいないように思った。
 しかし…。

 ― 本当に…彼らで大丈夫だろうか… ―

 どんなに強い絆であっても、それが小さな出来事がきっかけとなって簡単に崩壊してしまうことがあると、誰よりも知っていた。
 二千年余りも闇にいたのだから…。

 人と人との絆を断ち切るのは簡単だ。
 彼らの持っている心の奥底に潜む『闇』を少しだけ育ててやれば良い。
 たったそれだけで、固い絆は脆く崩れ去る。
 崩れた…と、見せかけ、奥の奥底で繋がり、この暗黒の世界に一条の光となってもらわなくてはならない。
 そうでなければ、この星は確実に終わりを迎えるだろう。
 そうでなければ…。
 この暗黒の世界で『光を求める者』達が救われることはないだろう。

 亡者達が蔑んでいる『シャドウ』。
 この者達が、本当は純粋に『光への帰依』を求めるが余り、人の形を成すことが出来ずに苦しんでいることに気付いたきっかけは……もう覚えていない。
 しかし、アルファにとって慰めとなっていたことは揺ぎ無い事実。
 暗黒の世界に落ちても尚、光を求めて足掻いている存在がいることは、大きな力となった。
 そうして、アルファは思う。
 光の世界に彼らを帰したい…と。

 無数に出来た綻びから『シャドウ』が飛び出しては、人を襲って殺している事実を知りながらも…。
 どうしても、『シャドウ』を解放してやりたかった。


 ― アイリ、今日はこんなに花が咲いててさ、見せてやりたいって思ったんだ… ―


 時々、魂の片鱗から流れてくる愛しい人の言葉が聞える。
 その声と温もりに、アルファは正気を保つことが出来た。
 そうすることで、『暗黒からの解放』という大きな目的を抱き続けることが出来たのだ。

 じりじりと迫るタイムリミットに、焦燥感を煽られながら、それでもアルファは先走る事無く捜すことを諦めなかった。
 血に飢え、阿鼻叫喚をなによりも歓びとする忌むべき闇の亡者達の不満に気付かない振りを貫きながら、彼女は必死になって捜していた。


 そして、ある日。
 とうとうアルファは行動に移した。




 復興目まぐるしい街の路地裏で、声をかける。

『あなた達がこれからしようとしている事は、一人の女の子によって阻まれます』
『あなた達がこれまで行ってきた悪事が白日の下に曝されることになるでしょう』
『その女の子は、華奢な肢体からは想像出来ないほど、力を持ってます……絶対に勝ち目はありませんし、成功もしません』
『あなた方がやって来たこと…それを悔い改めるなら……今、この時をおいて他にはありません』
『あなた方が女の子に阻まれたその後、あなた方は二度と陽の目を見る事は無いでしょう』
『ですから……今すぐ自首することをオススメします』


 予言者と呼ばれ始めるのに時間はかからなかった。
 予言をするなど簡単だ。
 星の流れを少し読めば良い。
 多少は外れることもあるだろうが、まずまずの当たりに近いことを言い当てることが出来る。

 そうしてアルファは『駒』が自分の手の内に入るのを待った。
 心の奥底で詫びながら…。





「結局、私がしたことはただの自己満足なんです」

 満天の星空の下、ポツポツと語った女に、
「またそうやって自分を卑下するんだね」
 クスッと笑いながら男がそっと女の髪を撫でた。
 見渡す限り、大草原の只中で、一本の樹木に背を預けて横になっている男女は、およそ旅人らしからぬ軽装で、大自然の中にいた。
 猛獣も出るだろうその自然の中で、二人はかがり火すら焚く事無く星明りのみを頼りとしてのんびりと身体を休めていた。

「僕はキミにずっと守られていたことがショックだよ」
「…そうですか…?」
「そうだよ。本当にもう…我ながら情けない…」
「そんなことを言われると、惨めになります…」
「そう?惨めになる必要なんかどこにもないのに」

 クスクス。
 可笑しそうに、愛しそうに男は笑う。
 まだ若い。
 そして、その隣の女もまた…若い。
 二人は片手を緩く繋いだ状態で、ゆったりと自然に身を任せていた。


「いつか…」
「うん…?」
「いつか私が地獄に行ったら」
「アイリ」
「その時は、『あの者達』にうんと自慢をして悔しがらせてやります。私はこんなに幸せだったんだ…って」
「 …… 」

 男の咎めるような声を無視し、女はニコリともせずに星空を見上げならそう言った。
 男は軽く肩を竦めると、諦めたように笑った。

「その時は、僕も一緒に行くよ」
「あなたは来れませんよ」
「いや、行くね」
「どう考えてもあなたは天国でしょう?」
「だから、僕はキミの所に行くんだよ」

「キミのいる所が僕の天国だからね」

 恥ずかしいはずのその臭い台詞も、青年が言うと全く恥ずかしいものとはならない。
 そんな真摯な響きを持っていた。
 アイリは呆れたように片眉をクイッと上げて隣のプライアデスを見たが、彼の決意が揺ぎ無いものであることをすぐに悟り、これまた諦めたように肩を竦めた。

「本当に…変わった人ですね」
「そう?」
「はい。でも…」


「私も…幸せです」


 静かな時が優しく二人を包む。
 風が緩やかに頬を撫でた。
 ゆるゆると二人は目を瞑る。
 明日もまた生きるために。


「もうそろそろ、シュリに会いに行かないとなぁ」
「そうですね…」
「それに、クラウドさん達にもさ」
「…グリートさん達にも……ね。謝罪をしなくては…」
「ふふ、そんな必要はないと思うよ。むしろ、もっと役立ちたかった!って悔しがるはずさ」
「それでも、私が死んだと思い込んでいただかなくては、こうは上手くいきませんでしたから…」
「うん、そうだけどきっとやっぱり物足りないって思ってるよ」
「……そうですね…」
「そうだよ」


 星がまた美しく煌く。
 その星空の下で、星を真の平和に導いた戦士がゆるゆると眠りについていった。


「「 愛してる 」」


 そう呟きながら…。