「何度も何度も考えたんですけど、やっぱりきっかけは小さな小さなことだったんです…」

 沢山の人達に囲まれ、インタビューを受けているリリーは、小さな声で真っ赤になって二度ほどどもりながらやっとそれだけを言った。






Fairy tail of The World 〜その後 グリート&リリー編〜







「もうそろそろじゃない?」
「あぁ、そうだな」
「「 クラウド、ティファ、早く早く〜! 」」

 あの奇跡のような『言祝ぎの儀式』を受けられた結婚式から1年。
 ティファは現在妊娠8ヶ月に入っていた。
 大きなお腹を抱えるようにして彼女は1階に下りてきた。
 ティファの妊娠が分かってから、クラウドは彼女に店を閉めさせようとした。

 赤ん坊がお腹の中にいるのに、仕事が出来るはずが無い。

 と言うのが、クラウドの言い分だったが、ティファは『営業時間の短縮』を提案し、クラウドに頼み込んだ。
 クラウドは渋った。
 当然、店内はタバコの煙が凄いし、何よりもティファの身体が心配だった。
 だが、子供達とシェルクがティファの思いを尊重し、積極的に手伝うことを誓ったため、クラウドは折れるしかなかった。
 ティファにとって、セブンスヘブンは大切で、とてもやりがいのある仕事。
 それを取り上げてしまうのは…なんとも可哀想。
 と言うのが、三人の意見だった。
 クラウドはぐうの音も出なかった。
 それに、生きていくためには金も要るわけだ。
 時間短縮と、店内は禁煙にすることを条件に、クラウドは頷いた。
 クラウド自身も手伝えるように、最近では近くの配達しか請けないようにしている。
 それでも需要があるのだから、ストライフデリバリーは大人気ということが分かるというものだ。

 クラウドとティファにとって、妊娠は本当に嬉しいことだった。
 愛し合う夫婦が子供を授かって喜ばないはずがない。
 しかし、純粋に子を授かったという歓びとは別の歓びもあった。

 デンゼルとマリンの存在だ。

 出産後、ティファが店で働いている間は、子供達のうち、どちらかが子守をすることが即決した。
 その役を子供達が率先して名乗ってくれたのだ。
 実は、妊娠が分かった時、少しだけ不安だったのだ。
 子供達が自分達に遠慮して、孤児院に行く…と言い出すんじゃないか…と。
 だが、子供達は純粋にクラウドとティファから生まれてくる子供は、『弟』『妹』と思ってくれているようで、出て行く気持ちはサラサラ無いらしい。
 それが…本当に嬉しくて幸せを感じる。


「大丈夫か、ティファ?」
「ふふ、大丈夫よこれくらい」

 大きなお腹を守るようにそっと添えている手に触れ、クラウドが心配そうに見る。
 クラウドはことのほか、心配性になった。
 産むのはティファなのに、どういうわけかクラウドが一番過敏になっている。
 ティファはいつも心配しすぎるクラウドに苦笑しながら、「大丈夫」を繰り返していた。

「ほらほら、二人共〜!」
「始まっちゃうよ、発表!!」

 急かす子供達に、クラウドはそれでも慎重に、慎重に…と言わんばかりにティファをゆっくりゆっくり歩かせた。
 それが…妙にくすぐったい。
 愛しくて…幸せで…。
 甘えたように彼の腕に自分の腕を絡ませ…微笑み合いながら幸せを噛み締める。
 そんな…。


 どこにでもいるバカップルで新婚ラブラブ夫婦が出来上がっている今日のセブンスヘブンでは、ちょっといつもと違っていた。
 それはいつもなら気を利かせて二人きりにさせてあげるはずの子供達とシェルクが、その場にしっかりと残って食い入るようにTVを見ていること。
 ティファをゆっくり慎重にソファーへ座らせてから、ようやくクラウドもソファーに腰を下ろした。
 ピッタリと子供達がクラウドとティファにくっ付く。
 この『くっ付く』のが、どうやら子供達は大変お気に入りのようだ。
 現在の所、ティファの隣を争っているようである。
 それは、ティファのお腹の中の赤ん坊がいつ動くか。
 動いたとき、それをお腹に耳を当てて感じたい!
 それはシェルクも同じ気持ちだろうが、恐らく照れ臭いのだろう。
 その場所取り合戦に参加出来ずにいる。

「あ、始まりましたね」
 シェルクがそう告げ、皆の意識はTVに集中。
「あ!リリーお姉ちゃん!!」
「お!?リト兄ちゃんも。…へぇ〜、やっぱりああいう格好するとお坊ちゃんに見えるんだなぁ…」
 シルバーグレーのスーツを見事に着こなし、柔和な笑みを浮かべているグリート・ノーブル。
 そして、その隣には緊張からか、それとも気恥ずかしさからか、真っ赤になって強張った笑みしか浮かべられていない…リリー・フラー。
 セブンスヘブンの住人にとって、親友とも仲間とも言える人達だ。
 今日、記者会見が行われることになった…と、連絡を数日前に受けていたため、家族全員、楽しみに待っていたのだ。

 大富豪、グリート・ノーブルとリリー・フローの婚約記者会見。

 マスコミの喰い付きは凄まじかった。
 やはり、大富豪の御曹司が結婚、しかも『ド』がつくほどの庶民との純愛で!
 これに世間が喰い付かないはずが無かった。
 良い意味でも悪い意味でも、グリートと結婚する決心をしたリリーは、注目の的だ。

「なぁなぁ、『シンデレラストーリー』って言われてるけど、なんでだ?」
 TVのプロットを見てデンゼルが首を傾げる。
「きっと、大金持ちに見初められたことがシンデレラと被るんじゃない?」
 マリンが答える。
「でもさぁ、別にリリー姉ちゃん、苛められてるわけでも生活に苦労してるわけでもないだろう?なんか失礼じゃないか?」
 眉を顰めるデンゼルに、
「そうだよねぇ。でも宣伝にはもってこいなんだよ、きっと」
「そうですね。マリンの言う通りです」
 幾分か大人の発言をするマリンに、クラウドとティファはクスリ…と笑い合った。


「では、その小さなきっかけとは一体なんですか?」
 女性キャスターが質問する。
 リリーは赤い顔ではにかみながら口を開いた。

「大切な人達のウェディングケーキを作ったことです。そのお二人を模して作った砂糖菓子を彼が褒めてくれたのがきっかけで…」

 クラウドはティファを、ティファはクラウドを見た。
 照れ臭そうに笑い合う。

「へぇ!リリーさんご自身もケーキを作られるのですか?」
「えぇ」
「ほお!では、お二人の結婚式の時に登場するウェディングケーキも、もしかしてリリーさんのお手製のご予定ですか?」
「僕は是非、そうしてもらいたいんですよ」

 リリーに代わってグリートが答える。
 リリーが勢い良くグリートを見た。
 耳まで真っ赤だ。

「だ、だめですって言ってるじゃないですか〜!」
「どうして?」
「どうして…って、だって…」
「大丈夫だって。リリーの腕はもう保障済みじゃないか。『英雄の皆さん』に」

 焦りまくるリリーに対し、グリートは余裕綽々。
 マスコミが喰い付かないはずのない『英雄の皆さん』という言葉を止めとして口にした。
 効果は絶大。

「「 え!? 」」
「「 もしかして!! 」」

「「 クラウド・ストライフとティファ・ロックハートのウェディングケーキを!? 」」

 一気に記者会見のテンションが上がる。
 リリーは真っ赤になって首を竦ませた。
 そんなリリーを実に楽しそうにグリートが見やる。
 完全にからかっている…。

「兄ちゃん…楽しそうだなぁ…」
「お姉ちゃん、ちょっと可哀想だね」
「……ですが、きっと幸せに感じておられますよ」

 苦笑していた子供達は、シェルクの一言でニッコリと笑った。
 クラウドとティファも微笑を浮かべる。

「でも、本当にリリーさんのあのウェディングケーキ、すごく美味しかったし綺麗だったし、素敵だったわよね」
「そうだな。本当に上手に砂糖菓子も作ってくれたし…。二人の結婚式のウェディングケーキを自分で作っても何の問題も無いんじゃないのか?」
 不思議そうな顔をするクラウドに、
「きっと、『ノーブル家』の結婚式が豪勢になるから…って引け目を感じてるのよ」
 ティファが答えた。
 クラウドと子供達はその説明に納得してしまうものを感じた。

 決して彼女の作るケーキが貧祖だと言っているのではない。
 大富豪のウェディングケーキともなれば、相当な腕を持つパティシエが作るべきだ、というのがセレブ界での常識なのだろう。
 世界でも名の知られている有名なパティシエが作るべきもの。
 そう思われているのを彼女も知っているからこそ困っているのだ。
 だが、グリートはそう思っていないらしい。

「そうなんですよ。あの有名な英雄のお二人のウェディングケーキを作ったのは彼女なんです」

 ニッコリ笑ってリリーの肩を抱く。
 可哀想に、マスコミの注目を必要以上に集めることになってしまったリリーは、カチンコチンに固まっていた。
 そんなリリーに構う事無く、記者会見は進んでいく。

「それは素晴らしい!」
「英雄二人のウェディングケーキを!?」
「ほほお!リリーさんは素晴らしい腕を持ったパティシエということですね!」

 興奮しているマスコミに、リリーはもう言葉も出ない状態だった。
 元々、注目されることに慣れていない、極々普通の女性。
 一般庶民なのだ、こんな風にマスコミに注目され、世の中の人達の前に曝される経験などしたことない。
 恐らく、彼女の頭は今、真っ白になっているはずだ。

「だから、是非彼女に僕達のウェディングケーキを作ってもらいたいんですよね。やっぱり、一生に一度のことですから」

 いけしゃあしゃあ、とはこのことだろう。
 グリートは固まっているリリーを愉しんでいる。

「…悪乗りし過ぎじゃないか?」
「後でラナさんに怒られるじゃないかしら…」
「可能性は高いでしょうね」
「あ〜、絶対殴られるよな」
「そうだよねぇ、ラナお姉ちゃん、リリーお姉ちゃんがリトお兄ちゃんと結婚するのを決めたとき、すっごくすっご〜く心配してたもんね」

 マリンの一言で、ストライフ家はその当時を思い出した。
 一斉に吹き出す。

「そうだったな。あの時は凄かった」
「『ほんっとうに後悔しない!?正直言って、兄さんは好きな人ほど『からかう』のが大好きなのよ?』って言ってたわね」
「うんうん!『絶対にからかわれて人生終るから、やめた方が良い!』ってさぁ。なんかあの時、『ラナ姉ちゃんって本当はリト兄ちゃんのこと、嫌いなんじゃないか〜?』って心配しちゃったよ」
「でも……ラナお姉ちゃんの言ったことって本当だったね」

 クスクス笑いながら5人はTVの画面を見つめた。
 本当に、心の底から楽しそうなグリートと、彼にからかわれて真っ赤に固まっているリリーがドアップで映っている。

 実に微笑ましい二人だ。
 家柄のことを考えると、やはり雲泥の差であることは否定出来ない。
 だが、この二人ならそんなもの、全く無関係だと思える。
 恐らく、そう思えるのは一重にグリート・ノーブルという男の持っている『無邪気さ』だろう。
 彼の無邪気さは、本当に『無邪気』。
 邪(よこしま)なものがない。
 およそ、大富豪には見えない彼の『キャラ』は素晴らしいものだ、とクラウドとティファは思っている。
 大富豪らしくない彼を、二人は純粋に好いていた。

 上からモノを言うことなく…。
 人の上に立とうとせず…。
 どこまでも同じ目線、同じ立場で渡り合うことを良しとする…、そんな青年。

 少しお調子者で、惚れっぽいところがある、と彼の妹などは嘆いているのだが、それでもそんな彼だからこそ、『彼』なんだろう…と思っている。
 そして、そんなお調子者でおよそ大富豪らしくない青年がストライフ家は好きだった。
 そんな青年と、婚約者に興奮しきりのマスコミの人間達が、身を乗り出すようにして質問を続ける。

「きっかけはウェディングケーキとのことでしたが、具体的にはどういったことが?」

 固まっているリリーは質問に答えられる余裕など無い。
 自然と、こういった『お披露目』に慣れているグリートが答える形になった。

「彼女の作ったケーキを褒めたんです」
「「「 褒めた? 」」」

 簡潔な答えに記者達が首を傾げる。
 グリートはニッコリと笑った。
 同性でも見惚れるほど、魅惑的な微笑だった。

「彼女にずっと惹かれていたんですけど、彼女には他に好きな人がいましたから気持ちは伝えていなかったんです」
「リトさん!」

 真っ赤になってリリーが声を上げる。
 恥ずかしくて堪らないのだろう。
 それがまた初々しい反応で、クラウド達は同情しながらも微笑ましく感じた。
 記者達が「「おお〜!!」」と興奮した声を上げる。

「という事は、グリートさんの方が片想いを?」
「えぇ、そうです」
「リトさんってば!」

 余裕綽々。
 グリートはマスコミをわざと煽っているようにも見える。
 いや、煽っているのだろう。
 そうやって、リリーをからかって愉しんでいるのだ。
 なんとも子供じみた一面。
 人との交わりが苦手なクラウドは、注目を一身に集めているリリーに少なからずも合い通じるものを感じ、同情した。
 記者達の興奮した声が続いている。

「では、そのケーキを褒めたのがきっかけで?」
「そうです。ケーキを褒めた時に、つい想いを告げてしまって」

 女性記者のうっとりした溜め息がTVの音声にもバッチリ入った。
 ティファは苦笑した。

「リト君、本当に罪作りね」
「リリー姉ちゃん、結婚して大丈夫かなぁ…」
「大丈夫よ、だってお兄ちゃん、お姉ちゃんにベタ惚れだもん」

 マリンの言葉にクラウドは目を丸くした。

「ベタ惚れって…」

 思わず突っ込む。
 マリンは不思議そうに「何かおかしなこと言ったかなぁ?」とクラウドを見上げた。
 クラウドは苦笑するしかなかった。
 そのクラウドに、シェルクも苦笑しているのが視界に入る。
 クラウドは、シェルクが最近表情が豊かになっていることを嬉しく思った。
 その間も記者達を相手に、グリートの余裕ぶりは続いている。

「彼女は本当に一途で真っ直ぐなんです。他の事は全然視界に入らないんですよね。だから、彼女が恋にケジメがつけられるまで待とうと思ってたんですよ」
「 〜〜!! 」
「だから、つい想いを告げてしまったときは、正直しまった!って思ったんです。だって、彼女の目には僕はまだ映っていませんでしたから。でも…」
 言葉を切って間を持たせる。
「それが良いほうに転がってくれました。告白したことで、彼女は僕の事を意識してくれるようになったんです」

 グリートに肩を抱かれたまま、リリーは真っ赤になって黙り込んだ。
 口をパクパクさせている彼女は、本当に…愛らしい。
 申し訳ないが、グリートが彼女をからかって愉しんでいる気持ちが少しだけ分かる気がするクラウドは、チラリ…、とティファを見た。
 バチッ!と視線が合う。
 彼女も同じ事を考えていたことがその表情で分かる。
 二人して苦笑した。
「では、それからはずっとグリートさんがアタックをされたんですね?」
「えぇ、まぁそれほど猛アタックということはしませんでした。彼女は純粋で純朴なんです。あまりしつこくすると嫌われてしまうかと思って…」
「ほう!!でも、その努力の甲斐もあった…ということですね?」
「えぇ、だからこうして皆様にご報告出来て本当に幸せです」

 ニッコリ。

 柔和な笑みに『幸せ』という甘さが加えられた微笑みに、マリンが感心したように溜め息を吐いた。
「お兄ちゃん、本当にカッコイイよねぇ」
「そうだよなぁ。なんでいつもと違うように見えるんだろう」
 デンゼルの意見に、クラウドとティファは軽く笑い声を上げた。

「ですが、これからはリリーさんにとって大変でしょうね」

 一人の女性記者がそう言う。
 場が少しだけ静かになった。
 女性記者の言わんとしていることに、リリーが少しだけたじろぐ。
 クラウドとティファは、女性記者の発言にギョッとした。
 しかし、当のグリートはどこまでも余裕の表情だった。

「そうですね、彼女には『ノーブル家』という『負債』がくっ付いてきてしまうので」
 グリートはそう言うと、リリーの肩を抱く腕に力を込めた。
「ですが、心配無用です。もしも『ノーブル家』という『負債』が彼女を押し潰す可能性が少しでも出てきたら、その時は僕が彼女の世界に飛び込みますから」

 リリーが驚いてグリートを見上げる。
 記者達も騒然とした。
 今、グリートは『家を捨てる』と公言したのだ。

「え…えっと…それは一体……」
 リリーに対して失礼とも取れる発言をした女性記者が戸惑いながら質問をする。
 他の記者達も静まり返ってグリートの答えを待った。
 いつの間にか、TVを見ているストライフ家も息を飲んで彼の答えを待っていた。

 グリートは……笑った。

「そのまんまですよ。『ノーブル家』は姉が継いでくれていますからね。僕が『家名』を捨ててもなんの問題も無いですし、何より僕はWRO隊員ですから。言ってみたら、もう既に『家名』を捨ててるようなもんです」

 あっけらかん。
 グリートの発言に記者達は固まった。
 そして、次の瞬間爆発的にフラッシュがたかれる。

「そこまで彼女を!?」
「女性としてはこの上ないほどの幸せですね!」
「『家名』を捨てることに対して、ご両親やご親族はなんと仰られてるんですか!?」
「リリーさん、グリートさんがご実家を捨てるという考えに何か一言!」

 次々に質問が投げられる。
 リリーは呆然とグリートを見上げていた。
 その様子から、彼がその話を彼女にしたことがないのだということが伝わってくる。

「本当に…?」

 シーン。
 リリーがグリートに囁くように呟いた。
 記者達は聞き逃すまい!と自分達の口にチャックする。
 大勢の人の目の前にあることは、きっとリリーの中ではすっ飛んでいるのだろうと思われた。
 リリーは目に涙を一杯に溜めて、グリートを見つめている。
 グリートは愛しくて堪らない、と言わんばかりにリリーの頬へ指を這わせた。

「勿論。俺はリリーが一緒に居てくれたらなんにもいらないから。社交界とかセレブ界とか、全ッ然未練ないし。むしろ、率先して『庶民』になるね。その方が俺の性分に合ってるし」

 リリーの頬に涙が流れる。
 自分の為に家名を喜んで捨てる。
 そう言ってくれたようなものだ。
 グリートはどこまでも穏やかで慈愛に満ちた微笑を浮かべ、マスコミの目の前であるにも関わらず、彼女の頬へそっとキスを贈った。

 爆発的にフラッシュがたかれる。

 TVの前で、ストライフ家は感動の嵐に見舞われていた。
 ティファとマリンが目をウルウルと潤ませる。
 デンゼルが、
「兄ちゃん、すっげー!カッコイイーー!!」
 と興奮しきりにTVの中のグリートを褒めまくった。

『本当に…リトらしい』

 クラウドはTVの中で、本当の幸せそうに笑い合う二人を見て、心が温かくなるものを感じずにはいられなかった。

 そうして。
 記者達が大興奮の中、時間がきてしまったため記者会見は終了した。

 TVを消して、興奮の余韻に浸りながら、ストライフ家の四人は暫くボウッとしていた。
「なんか…」
「本当に…」
「「 サイッコーー!! 」」

 子供達が思いっきりジャンプして、その興奮を全身で表す。

「リト兄ちゃん、めっちゃ尊敬する!!」
「ほんっとう、カッコよかったー!!」

 まるで、自分のことのように嬉しそうにする二人に、クラウドとティファは微笑んだ。

「大丈夫だよね」
「あぁ、あの二人なら、きっと幸せな家庭が築けるよ」

 そっと笑みを交わしてTVの中の幸せそうな二人を見る。


 ― どうか…どうか幸せに。 ―


 そう願わずにはいられない。
 そうして、二人は知る事となる。
 グリートが家名を捨てることに、家族は全く反対しなかったことを。

「お前の人生だから、好きに生きろ。その代わり、夫としての責任はきっちりと果たせ」

 それが、家長としての…姉からの言葉だったのだそうだ。
 その言葉を知らされるのは、ティファが双子の赤ん坊を産み、そのお祝いの席に二人が駆けつけてくれた時。
 だから、まだもう少しだけ先のこと。


「さあ、じゃあお店の支度にそろそろ取り掛かりましょうか」

 大きなお腹を抱えて立ち上がる女主人に、その夫が手伝うべく腰を上げる。
 子供達も「「はぁい!!」」と元気に返事をして立ち上がった。
 シェルクは無言でそそくさとエプロンを着ける。
 今日も…セブンスヘブンは笑顔が絶えない。