空が茜色に染まるまでに、全員が揃った店内をユフィは実に満足げに見渡した。







Fairy tail of The World 〜 ラナ&シュリ編のその後 天使のお披露目 〜








「皆、今日は『レッシュ』と『エアル』のために来てくれて本当にありがとう」

 若き父親のその挨拶に、小さな店内は大いに盛り上がった。
 生後僅か一週間の小さな小さな天使が、むず痒そうにベビーベッドの中でぐずった。

 わざわざこの時の為に…と、ウータイの忍が故郷から取り寄せたそのベッドは、ストライフ夫婦はもとより、他の仲間達も呆れさせた。
 なんと神々しく輝く『高級檜(ひのき)のベビーベッド』なのだ!
 わざわざ、お披露目のためだけに用いるなど論外。
 むしろ、その『かかった費用』をそっくりそのまま、天使達の『今後の人生』に用いた方がどれだけ役立つか!といった正論ばかりが目立った。
 しかし、ユフィは譲らなかった。

 曰く。

「そんなの、今のこの歳でしか使えないものだからこそ『檜(ひのき)のベビーベッド』は役に立たないんじゃないか!」

 だそうだ。

 確かに、大自然の恵みが溢れるベビーベッドは、生まれたての子供にはとても良さそうだった。
 ティファもクラウドも、生まれたての我が子にはてんで弱い。
『…ユフィの言う事も一理ある』
 となってしまった。

 が、その場に至極冷静に分析し、且つ、言葉にする力を持つ者がいると、当然のように……、
「そんなの勿体無いだけだよぉ」
「そうだよなぁ、それにレッシュとエアルがこれからおっきくなるのには滅茶苦茶金がかかるんだから」
「そっちにお金を回してくれた方がうんと良いに決まってるのに、ユフィお姉ちゃんは相変わらずなんだから」
「それにさぁ、こんな高価なベッド、はっきり言ってこれから先、使えるのはあと数年だけじゃん…勿体無いよ」
「そうだよねぇ。ティファがあと三人くらい頑張って産んだとしても、結局は増えた子供の数だけ養育費はかかるんだし、その度に色々と諸経費もくっ付いてくるから〜…えっと〜…」
「マリン、俺達、いつまでたっても独立出来ないぜ…」
「ん〜…そうだよねぇ…」
「まぁ、仕方ないけどさぁ。次の赤ちゃんの時には絶対にこっちから『目録』送りつけような」
「うん、そうだね!」
「「 俺(私)達がしっかりしないと!! 」」
 という、耳に痛い会話が聞えてくる。

 ユフィはガッツポーズのまま石化し、クラウドとティファは顔を引き攣らせ、その他の英雄と隊員達は苦笑いを浮かべるのだった。

 とまぁ、なんとなく出鼻を挫かれた形になっているお披露目パーティーだが、それはそれ。
 お祭り好きな人間が少なくともこの場に三人は揃っている。
 言わずもがな、ウータイのお元気娘、酒大好きのオヤジコンビだ。
 ナナキはユフィの『選択失敗』と烙印を押されてしまったベビーベッドに前脚を引っ掛けて、小さくぐずりながらも、また眠りに引き込まれている赤ん坊に終始、隻眼が細められている。
 だらしなく垂れ下がった口元は、親バカであるクラウド顔負けだ。

「可愛いなぁ〜、ほんっとうにすっごく可愛いねぇ」

 しみじみとそう繰り返すナナキに、クラウドはもう既に『父親』の顔で愛しそうに天使達を見つめながら、
「ありがとう」
「へへ、なんだかクラウド、レッシュとエアルが生まれてからすっごく柔らかくなったよね」
「そうか?」
「うん、そうだよ」

 ナナキの反対側からは、シェルクがシャルアと共にどこか眩しいものを見るかのように目を細めていた。
 口元には薄っすらと微笑が彩られている。
 ティファは、産後の肥立ちも良かったため、このお披露目パーティーの豪華な料理作りを一手に引き受けた。
 勿論、デンゼルとクラウド、そしてシェルクも精一杯手伝った。
 母体は疲れやすい。
 特にティファの場合は生まれる二ヶ月前にトラックに轢かれそうになったのだ。
 今は元気かもしれないが、万が一ということもある。
 お産の後、急に具合が悪くなるかもしれない。
 まぁ…。
 先生にはちゃんと『大丈夫!』と太鼓判を押されてはいるのだが…。
 だが、それはそれ、これはこれ。

「ティファ、あんまり無理しちゃダメ!」
「俺達が運ぶから、こっちに座って!!」
「そうです、ティファ。無理をしてはいけません。何かあってからでは遅いんですから」

 ティファは真剣な面持ちで迫る子供達『三人』に苦笑した。

 デンゼル、マリン、シェルク…。

 血の繋がりなど全くない三人なのに、こうも表情や言動が似てくるなんて誰が想像出来ただろう…。
 特にシェルクの『進歩』は目覚しい。
 まるで人形のようだったのがウソのようだ。
 ティファは微笑みながら両手を上げて『降参』のポーズをした。
 そんなやり取りを仲間達が微笑を浮かべて見つめている。

「それにしても…」

 コホン。

 わざとらしい咳払いで前置きをすると、ユフィは祝いに駆けつけた全員の意識を自分に集めた。
 不思議そうに自分を見つめている視線に満足げな笑みを浮かべると、
「あんた達っていつからそんな仲になったのかな〜?」
 一組の男女を意味ありげに見つめた。
 途端、その視線の先にいた男女は、勢い良くそっぽを向き、額に変な汗を浮かべて固まった。
 完全に挙動不審だ。
 その場の全員の(ヴィンセントとシェルクは除外)『いたずら心』を刺激するには充分過ぎる…恥じらい。
 ユフィに負けず劣らず、ニヤ〜ッと笑うと

「そうだよなぁ、いつの間にそんな仲になったんだ〜?」
「シュリは硬派なイメージだったんだが、そうではなかったのだな」
「お姉ちゃんの言う通りです。私も意外でした」
「そうそう!だがまぁ、俺様はある意味安心しちまったぜ!なんたって、お前は1人で苦労しょいこんで、『幸せになる資格はない!』とか言い張りそうだったからよぉ!」
「その通りだよね、シド!オイラも本当に心配してたんだ〜!」
「中佐、妹を頼んだぜ!」
「本当にお似合いです、ラナさんとシュリさん!」

 言いたい放題、いじりたい放題だ。
 ラナが必死に何か言おうとするのだが、全く割って入れない。
 真っ赤な顔をして「違うってば、もう!!」という、一言をバカみたいに繰り返すのが関の山だった。
 一方、シュリはと言うと…。

 そっぽを向いたまま不機嫌そうに眉根を寄せている。
 デンゼルとマリンは、最初、一緒になって笑っていたがすぐにシュリの様子に気がついた。
 そっと顔を見合わせて、テテテ…とシュリに駆け寄る。
 クイクイッ、と服の裾を引っ張ってデンゼルとマリンがシュリを見上げる。
 不機嫌そうな…それでいてどこかウロウロとしている目が子供達を見る。

「ねぇ、シュリお兄ちゃんはラナお姉ちゃんのこと、好きじゃないの?」

 シーン。
 ストレート過ぎるその言葉に、皆が固まった。
 お披露目パーティーに招待された全員と、クラウド、ティファまでもが凍りついた。
 驚愕を通り越して恐怖。
 ラナが息を飲んでフリーズしているのを恐る恐る見やる。
 もしもここで、シュリが、

『好きじゃない、って言うか、さっきから言いたい放題うるさい。こんな女、興味ないね』

 などと口走ったら!?
 ラナがどれだけ傷つくか!!

 ラナがこの一年、どんな思いでシュリ達の身を案じていたのかを間近で見てきた。
 彼女の純粋な想いが通じることを願わずにはいられない。
 それはユフィも同じ。
 だからこそ、二人が手を繋いでセブンスヘブンに来た時、とても驚いて……それ以上に嬉しかった。
 ラナが一年間もの間、ひたすら一途にシュリを想っていた姿を知っているからこそ、彼女の想いが通じたのだ!と感動したのだ。
 だから、つい、悪乗りをしてからかいすぎてしまった…。

「も、もう、マリンったらそんなこと、聞いちゃダメよ」

 引き攣りながらティファがそっとたしなめる。
 シュリの服の裾を引っ張ったままのデンゼルとマリンをさり気なく彼から離そうとしたが、子供達は頑として譲らなかった。

「兄ちゃんさ、この一年、ラナ姉ちゃんがどんだけ心配してたか知ってるか?」

 シュリの漆黒の瞳を真っ直ぐ見つめながらデンゼルが言った。
「姉ちゃん、本当に心配してたんだ。毎日任務が終ったら寝る間も惜しんで必死になって兄ちゃん達のことを探してたんだぞ」
「そうだよ。お姉ちゃん、無理しすぎて痩せたんだよ、気づいていないの?」
 漆黒の瞳が揺らぐ。
 大人達は子供達の言動にハラハラしながらも、割って入ることは出来なかった。
 どっちにしろ、『なかったこと』には出来ないのだ…マリンが言ってしまった言葉は。
 それに、『お互いの気持ちが通じ合った』と勝手に勘違いして盛り上がってしまったとは言え、これは言ってみたらラナにとってはチャンス。
 いつも真っ直ぐ前を向いて歩いていた彼女が、この一年間苦しんだ姿は見ていて痛々しかった…。
 だからこそ、シュリには曖昧な態度をとってもらいたくない。
 彼女をどう想っている?
 手を繋いで店に来たくらいなのだから、『好きじゃない』とか『ついノリで』などとは言わせない。
 もっとも、からかうような不真面目なことはこの青年の最も嫌っているタイプの人間だから、彼がそれをするとは思えないのだが…。
 いつしか全員が固唾を呑んでこの状況を見守っていた。
 ヴィンセントですら、真剣な顔で青年を見つめている。
 クラウドは…。
 ベビーベッドから天使達をそっと抱き上げ、片腕ずつ器用に抱っこした。
 赤ん坊は小さくぐずったが、それもすぐに笑みを誘われるような「キャッキャッ!」という笑い声に変わる。
 シュリは一つ大きな溜め息を吐くと、真っ直ぐにクラウドを見た。
 クラウドはその目をしっかりと見つめ返して、小さく頷く。
 シュリも小さく頷き返すと、ラナを見た。
 ラナは先ほどまで真っ赤だったのに、今は青ざめている。
 シュリが自分を見たことで、怯えたようにビクッと肩を揺らした。


「すまない…」


 衝撃の一言。
 その場の空気が一度下がった気がした。
 ラナは青ざめていた顔を一変させ、羞恥のために真っ赤になる。
「あ…の…気にしないで下さい、その…大丈夫ですから、はい、私はこう見えても結構丈夫なんですよ、だから中佐が気にされることは…」
 あはは、と無理して笑っているラナを前に、英雄達とグリート、リリー、そしてWRO一の科学者が項垂れた。
 自分達のとんでもない悪乗りが、シュリを問い詰める…という事態を引き起こし、結果、最悪なものへと導いてしまったのだから…。

 皆が落ち込んで、まるでお通夜みたいに重い空気が垂れ込めた…。


「いや…そうじゃない。俺は…正直良く分からないんだ」
「……え?」

 呟かれたその声はラナから。
 しかし、全員が同じ気持ちだった。
 まだこれ以上何を言う?
 それに『正直良く分からない』とは…一体…???

 シュリは自分に再び視線が集中しているのがイヤなんだろう。
 居心地悪そうに癖のある黒髪をクシャリ、と軽く掴んだ。

「その…だから…」
「………」
「キミが俺に好意を持ってくれていることは気づいていた」
「!?!?!?」

 立て続けに襲ってくる衝撃に、ラナは目を見開いた。
 呆然と「気づいて…た…?」と呟く。
 シュリは黙ってコックリと頷いた。
 頷いてから、困ったように眉を寄せた。

「だから、こんな形で言うのは真剣に想ってくれているキミに失礼だと思ったんだが……自分でも良く分からないんだ。キミが俺に抱いてくれている感情と、俺がキミに抱いている感情が同じものとは思えない」
 思えないんだが……。

 中途半端に言葉を切り、シュリはまたもや溜め息を吐いた。
 気のせいか、ほんのりと頬が赤くなっている。

「その……さっき、セブンスヘブンに来るまでの間、はぐれた時…だけど…その……妙なんだ、急にイライラして…その…キミが誰か他の男と話をしているんじゃないか、とかバカみたいなこと考えるし…」
「え……」
「「「「「 ……… 」」」」」
「なんか、本当にバカみたいなことしか浮かんでこなくて、自分でも腹が立つほどだった。キミが信号で引っかかっただけだと知った時は、良く分からないけど…ホッとしたし…」
「……そう…なんですか…?」
「「「「「 ……… 」」」」」
「あ〜…その…だから!」

 大きな声を上げてクシャクシャと頭をかき回す。

「だから、つい気がついたらキミの了承を得ずに手を握ったりして…その…、悪かった」
「…あ……え…?」
「「「「「 ……… 」」」」」

 軽く頭を下げるシュリに、ラナは目を丸くしたまま言葉を無くす。
 一方、ラナとシュリ以外の人間は、どんどん気色を取り戻していった。
 口元がヒクヒクとしているのは、笑うのを必死に堪えているからだろう。
 いつもならそのような気配には敏感な青年は、皆の様子には全く気付いていない。
 困ったように頭をガシガシ掻きながら床に視線を落とす。

「分からないんだ、このイライラしたり、ホッとしたり、不安定な感情に襲われる状態が!」
 はぁ…。
 盛大な溜め息を一つ吐き出した。
 そして、思い切って顔を上げ、耳まで真っ赤になっているラナを見る。

「だから、キミが俺に対して持ってくれている感情と俺の感情は「アンタ、アホね」

 シュリの言葉は中途半端に途切れた。
 自分の言葉を遮った犯人を見る。
 その目はビックリしたように丸くなっていた。
 ユフィは「は〜〜…本当にアホだ」と脱力しながらため息と一緒に無礼な言葉をもう一度口にした。
 いつもなら仲間が止めるのだが、今回に限り、誰も止める気は無いらしい。
 むしろ、全員がユフィと同じ様に虚脱感に襲われたような顔をしている。
 シュリは当惑の表情を浮かべている。
 ユフィは、虚脱感に襲われた者達の代表という自覚からだろうか?
「あんた、ほんっとうにアホだわ、いや、バカね、大バカ!!」
 指を突きつけて捲くし立てた。
 シュリは目を丸くしたまま硬直し、反論することもなく、呆然とユフィを見るばかり…。
 ユフィはス〜ッと深呼吸をすると…。

 カッ!と目を開き、睨むようにしてシュリの胸倉を掴んだ。
 ユフィとシュリの顔の距離は僅か15センチ。
 シュリは真っ直ぐ自分を睨むようにして見つめてくるユフィをきちんと見た。
 目を逸らさず、彼女の言葉を最後まで聞いた。

「アンタって本当に今まで『カーフ』と『アルファ』一筋で生きてきたから、色々疎いのは分かる。そのほか色々大変な半生を送ったってことも知ってるから、『恋愛感情』に疎いのもまぁ無理は無いんだろうけど、それでも!!」


「アンタ、しっかり『嫉妬』してるじゃない!それが『恋愛感情』でなくてなんなわけ!?」
「は…?」


 シュリの顔がこれまで見たことがない程、間抜けになった瞬間だった。


 *


「死んでしまいたい…」

 カウンターに突っ伏すように座っているシュリがボソリ、とこぼす。
 隣に座っていたクラウドは苦笑した。

「同情するよ」
「……そんなのいらないです…」
「まぁ、良かったじゃないか、自分の気持ちに気付けたんだから」
「……赤っ恥じゃないですか…」
「…そうとも言うかも…」
「……はぁ…」

 散々からかわれ、言いたい放題言われた後。
 シュリはグッタリとカウンターに突っ伏していた。
 青年と美しい女性の組み合わせという素晴らしいカップルの誕生をひとしきりお祝い(?)していた皆の関心は、現在ではようやっとその標的を二人の天使に向けていた。

「あ〜、ほんっとうにか〜わいい〜♪」
「ユフィ、ダメだってば、首がもげるから!!」

 デンゼルの声にクラウドはギョッとして、勢い良く振り返りながら立ち上がる。
 まさに可愛い生まれたての息子の首がクテッ…と反り返っていた。

「ユフィー!」
「ギャーッ!鬼が来たー!!」
「まったく…アホばっかだな…」

 シドが苦笑しながらタバコの煙を天井に向けて吐き出した。
 紫煙がユラユラと揺れる。
 赤ん坊に煙が行かないよう、彼はずっと離れて座っていた。
 離れた所とはシュリの隣のスツールだった。

「おめぇも案外不器用で鈍感なんだなぁ」

 ニッ…と笑いながら声をかける。
 シュリはグッタリと両腕に顔を埋めたまま応えない。
 シドは構わず言葉を紡いだ。

「ま、良いじゃねぇか。俺様もとことん不器用で鈍感だったからなんとなくおめぇの気持ちが分かるぜ。こう、あれだな。自分の気持ちに気付いた時は雷に打たれたみたいな衝撃だったなぁ…」

 しみじみ語るシドの言葉に、シュリは顔をモゾ…と動かした。
 腕に頭を乗せたまま、横目でシドを見る。
 シュリの無言の催促に、シドはカリカリ、と頭を掻いた。

「俺様もずっとシエラにはキツク当たっててよぉ。ずっとアイツのことを誤解してた。だけどよ、アイツのお蔭で俺様は死なずに済んでたんだよなぁ…。それによ。アイツのことを本当はずっと想ってたんだ〜…って気づいた時には滅茶苦茶後悔したぜ」
「…?」

 眉を寄せたシュリにシドは照れ笑いを浮かべた。

「だってよ、ほんっとうに長い間、アイツを悲しませてきたんだってことが重くのしかかってきてよぉ…。その事実に気づいた時は俺様はアイツの傍にはいちゃいけねぇ!って思ったもんだ…。でもよ…」

 タバコを咥え、大きく吸い込む。
 はぁ〜…と、天井のファン向けて紫煙を吐き出した。

「アイツは俺に傍にいて欲しい…って言ってくれたんだ。全部受け止めてくれたんだよなぁ…。だから、俺様はアイツを一生かけて守るって決めたんだ。これまでアイツにしてきた酷い仕打ちを償うためにも…、アイツの幸せのためにも…な」

 ニヒルに笑って見せたシドに、シュリは腕に頭を乗せたまま柔らかく目を細めた。

「ま、あれだな。おめぇの場合は俺様みたいなバカなことをして傷つけてきたわけじゃねぇ。あと少しでそうなるところだったかもしれねぇけどな」
 だから、良かったじゃねぇか。


 シドの言葉に、シュリはノロノロと顔を上げた。
 ゆっくりと振り返る。
 ユフィから愛息子を取り戻したクラウドに、シャルアが抱っこをさせてもらおうとしている。
 ティファが椅子にゆったりと腰をかけ、腕に愛娘を抱いてナナキとデンゼル、マリンに寝顔を見せてやっている。
 ヴィンセントが同じテーブルに着いて、キツイお酒をゆっくりと傾けている。
 リーブがシェルクと何やら穏やかに話をしている。

 そうして…。

「これで中佐殿は俺の弟か〜」
「に、兄さん!なに言ってるの!?」
「あら、素敵じゃないですか!じゃあ、シュリさんは私の義理の弟になるんですね?」
「そうさ、リリー。うんうん、これからの人生、絶対に退屈しないな〜。よし、これから中佐は俺のことを『お兄ちゃま』と呼んでもらおう」
「兄さん!バカなこと言わないで!!」
「うっはっは、照れるな照れるな!大丈夫、俺は優しいお兄様だからな。これから先、リリーと一緒にまとめて面倒見てやるぜ!」
「うふふ、楽しい毎日になりますね」
「だろう?本当にリリーは理解のあるサイコーの嫁さんだ」
「リトさん…」
「リリー、兄さんも、いい加減にしてよ…」

 勝手に自分を『将来の義弟』と決めてしまっている『年上の部下』とその婚約者が、ラナをからかっている。
 しかし、その目がとても温かい。
 シュリは知らず知らずのうちに頬を緩めていた。
 胸に暖かいものが込上げる。

 ずっと求めていたものが、目の前に……いや、自分を包み込んでくれている。

 温かな人達との穏やかな生活。
 それを、実はずっと求めていたのだ、とシュリはようやく悟った。

 なんと自分の心に疎い、鈍感な人間だったのだろう…?
 だが、それでもこうして気づかせてくれる人達がいる。
 気づかせて…そして見守って…応援してくれる人達がいる。


『アイリ…、ライ…、早く帰って来い。きっと、お前達は喜んでくれるだろう…?』


 今はまだ遠い大地にいる愛しい『家族』へそっと語りかける。


 願わくば、近い未来にこの歓びを触れ合って分かち合えるよう…祈りながら…。



 *

「ところで、子供達の名前の由来は?クラウド、なんか聞いてるんでしょ?」(ユフィ)
「あぁ…。二人合わせて『新世界』という意味だそうだ」(クラウド)
「「 『新世界』…? 」」(ユフィ&ナナキ)
「ちょっと文字をいじって、言葉も少しだけ変えているそうだがな」(クラウド)
「なんで…?」(ナナキ)
「そうしないと、名前が必要以上に子供達を『縛る』からだそうだ。名前は最大の力を持つ『呪い』だってさ」(クラウド)
「うげっ…なんかヤダなぁ…」(ユフィ)
「だから、名前はとても大切なんだって」(ティファ)
「でもさ、レッシュもエアルもとっても似合ってる名前だよね」(マリン)
「うん、めっちゃカッコイイ♪」(デンゼル)
「あぁ。本当にシュリに名付け親を頼んで良かった」(クラウド)
「これからもレッシュとエアル、それに私達をよろしくね」(ティファ)

「「「「「 当然! 」」」」」(全員)