家族サービス


「うわー!すっげー!!」
「可愛い〜!」

 子供達の歓声が、緑豊かな草原にこだまする。

 今日、クラウドとティファは仕事をオフにして、久しくしていない家族サービスをしよう、と前々から二人の子供達に内緒で綿密に計画を立てていた。

 日頃、仕事の忙しい親代わりの二人に、まだ甘えたい盛りの子供達は、実に物分り良く、我が儘もほとんど言わず、セブンスヘブンの手伝いを自ら進んでこなしてくれている。 そんな、子供達に日頃の感謝を込め、又、自分達の英気を養うという目的も兼ねて、自然の豊かなチョコボファームにやってきた。

 復興の進むエッジには、犬や猫といった家庭で飼える様な動物は徐々にではあるが増えつつある。
 しかし、チョコボの様に大型の動物はやはり存在しない。

 子供達は初めて見る大きな、黄色い動物に目をキラキラさせながら大喜びだ。
 クラウドもティファも、この二人の子供達の喜びように、大いに満足した。

「なぁなぁ、チョコボって乗れるんだよな?俺、乗ってみたい!」
「あ〜!私もー!!」
「はいはい、それじゃ、私は牧場主さんに話してくるから」

 チョコボ小屋に隣接して建てられている住居の方へ向かうティファを見送りつつ、クラウドは子供達に目線を合わせる為、しゃがみこむと、両手で子供達の頭を軽く撫で回して微笑んだ。

「今日は人数分のチョコボを予約してあるからな。二人共、思う存分楽しめるぞ」
「本当ー!?」
「やったーー!!」

 クラウドの言葉に、デンゼルとマリンはピョンピョン跳ねまわって、体全部で喜びを表した。

「皆ー、準備が出来たみたいよ」

「「はぁい!!」」

 ティファの声に、子供達は先を争うように元気一杯駆け出した。

 今日は快晴、風も穏やか、チョコボに乗ってピクニックをするには絶好な日和だ。

 クラウドとティファもかつての旅以来乗っていないチョコボに、胸が躍るのを感じた。


「うわわわ、お、落ちる〜!」
「大丈夫だ、ほら、しっかり手綱を持って」

「きゃっ、チョコボって高くて、何か怖いー」
「大丈夫よ。最初は私が一緒に乗ってあげるから」

 クラウドとティファはそれぞれ個人レッスンをし、デンゼルとマリンにチョコボの乗り方をレクチャーする。


 最初の頃こそ、慣れない≪動く乗り物≫に子供達は四苦八苦していたが、徐々にその動作は一緒に乗らなくても、何とか一人で乗れる程に上達した。

「うん、二人共なかなか筋がいいな。もう大丈夫だろう」
「そうね、それじゃ私達も自分のチョコボに乗ろっか?」
「ああ」


 一行はのんびりと、草原をチョコボに揺られながら進む。
 特に行き先に目的地は無いが、計画を立てた際にモンスターの出現率の低い範囲を絞って、その地域のみを、ただチョコボに揺られて散策する。
 そして、昼時にはティファが早起きして作った、愛情たっぷりのお弁当を皆で食べ、そしてまたチョコボで散策して夕暮れまでにファームに戻る。

 たまにはこういった、何も予定の詰まっていない、のんびりした空気を堪能するのも良いだろう、とクラウドとティファは思っていた。
 エッジでの生活は、自分達の子供の頃では考えられないほど、二人の子供達にとって慌ただしい日々である。
 計画を立てた時に、そのことを口にしたティファに、クラウドも同感だった。
 のんびり花を摘みながら、友人と他愛ないゲームやお喋りをする。
 そういった心のゆとりを育む時間が、なかなかデンゼル、マリンに持たせてやれていない。
 子供の頃にこそ、そういった心を育む時間が必要だ、と二人は思った。

 …まぁ、クラウドの場合、子供の頃から素直になれない性分であったが故に、友人と過ごした記憶は、今は星に還ってしまったお調子者だけだが…。


 ブラブラ付近を散策しているうちに、気が付けば昼食の時間になっていた。
 チョコボを繋ぎ止め、木陰で四人は愛情たっぷり弁当に舌鼓打つ。

「美味しいねぇ!」
「本当、ティファって何でも美味しく作るけどさ、こうして外で食べると格別だよな!」

 子供達の満面の笑みに、クラウドとティファは、チョコボでの散策を選んで本当に良かった、と心から満足した。


 そう、この時までは…。


 昼食も終わり、再びチョコボに跨ると、午前中とは違って二人の子供達はどちらが上手にチョコボに乗れるか、競うようになっていった。

「断然俺のほうが上手く乗れてるね」
「何よ、私だってちゃんと乗れてるもん!
「マリンはまだまだ≪へっぴり腰≫だね!」
「そんな事無いもん!」
「クラウドはどう思う!?」
「ティファはどう思う!?

 クラウドとティファは苦笑するしかない。
 全く子供はすぐに競争したがるんだから…。

「ちゃんと同じくらい上手に乗れてるぞ」
「同じじゃないよ!絶対俺のほうがカッコ良く乗れてるって!」
「デンゼルもマリンも、同じ位ちゃんとカッコ良く乗れてるわよ」
「違うもん、私のほうがちゃんと背筋が伸びてるもん!」
「俺だね!」
「私よ!」

「「………」」

 何故、子供とはこうも対抗意識が強いのだろうか。
 クラウドティファは苦笑しつつも、普段では決して見られない≪兄妹≫喧嘩に優しく目を細めていた。


 まだこの時までは………。


「ようし、そこまで言うなら、マリン!」

「いいよ、デンゼル!!」

「「ようい、ドン!!」」

 クラウドとティファが口を挟む余裕など微塵もなく、二人は≪阿吽≫の呼吸で意思の疎通を図り、あっという間にチョコボのわき腹を強くけると、次の瞬間には猛スピードで駆け出した。
 そう、かつてゴールドソーサーのレースに参加した事のある二人が、それこそ目を瞠るスピードで…!!

 「ちょ、ちょっと!」

 「コ、コラ二人共!!」

「「待て(ちなさい)!!」」

 クラウドとティファの制止の声も空しく、どんどん二人は彼方のほうへと消えていく。

 二人も慌ててチョコボに跨ると、遥か前方で競争を続けている子供達に何とか追いつこうとする。
 が、これがなかなか、どうして、今日初めて乗ったとは到底思えない走りっぷりで……。

 見失う事は無いものの、追い着く事も出来ていない。
 特にクラウドは、何かの事態の為に愛用している大剣を今日もその背に装備しているので、ティファよりもやや遅れがちだ。
 そして、前方を行く子供達は当然、大人たちよりも体重が軽い為、チョコボの負担ももちろん軽い。

 まずい、このままでは追いつけないのではないか、と言うよりも、そう言えば……。

「おい、ティファ!」
「何!クラウド」
「このスピードってどう考えてもレース並みだよな」
「何言ってるの!そうに決まってるじゃない!」だから、焦ってるんでしょう!?
とのティファの言葉はクラウドの次の言葉によって掻き消された。

「レース時並みの速度出してるチョコボの止め方、二人共知らないよな!?」
「……………!!!!」

 二人共青ざめた。
 午前中は、のんびりとした速度、歩く程度だったので止まるのも自然と問題なく出来たのだが、レース用のスピードが出ている状態ではそうはいかない。
 徐々に速度を落として止まったとしても、その時の反動で前方へ投げ出されるかもしれない!


 二人の中で、かつてレースで名を馳せた頃の血が呼び覚まされた。


 クラウドもティファも、目に闘気を宿し、前方をしっかと見据え、チョコボを前傾姿勢に、すなわちレースモードに変更させる。

 二人の気合が、乗っているチョコボにも影響され、チョコボの目にも走る本能が宿った。

 こうなったら、この二人に敵などいない。

 瞬く間に、二人は疾風となり、かなり差があったにも関わらず、前方を行く二つの騎影に追いつき始めた。

「「良し、このまま行ければ!!」」

 二人がそう確信した時、四人の前方にあろう事か大地がぱっくりと口を掛けているではないか!?

 そう、二年前のメテオの襲撃によって、かつて旅をしてチョコボに乗った時には無かった、大地の裂け目が出来ていたのだ。


 これはまずい。
 非常にまずい!


 自分達の力量を遥かに上回る速度を出してしまい、今はただひたすら振り落とされまいと、必死になってしがみつく子供達に何とか追い付く事が出来たのは、重い装備をしていないティファが先であった。
 子供達のチョコボ、及び、自分のチョコボを何とか失速させようとする。
 が、走る本能に取り付かれたチョコボは、なかなか言う事を聞いてくれない。
 そのうち、何とかクラウドも追いついて、二人でそれぞれ二頭ずつ宥めて失速・停止を試みる。
 が、無情にもその間も、どんどん崖が目前に迫ってくる。
 
 こうなったら、子供立ちを抱き上げてチョコボから飛び降りるか?半ば本気でクラウドがそう考えた時、ティファがハッとある事を思いついた。

 そして、おもむろに背負っていたナップサックからギザールの野菜を取り出すと、思い切り自分達の後方に投げやった。

 すると、チョコボは走る本能から食べる本能へと、思考が急変更。
 あっという間に失速、停止、方向転換をやり遂げ、落ちたギザールの野菜まで駆け戻ると、身を屈めて夢中で食べ始めた。


 最悪の事態は避けられた………。


 そして、夕暮れ時…。


 デンゼルはクラウドに、マリンはティファにそれぞれ一頭のチョコボに相乗りし、必死にしがみついて泣きじゃくりながら、ひたすら謝り続けた。

「ご、ごめん、な、なさい」
「う、うぇ、わ、私が、ひっく、悪かった、の:
「うう、うん、お、俺が、むきに、な、ひっく、から」
「わ、私が、っく、意地悪、言ったから」

「「ごめんなさ〜い」」


 何とも波乱万丈な半日になってしまったが、こうして皆が無事に帰路に着く事が出来たし、子供達も素直に自分の過ちを謝罪し、且つ相手を庇っている。
 決して無駄な兄妹喧嘩ではなかった、とクラウドとティファは、互いに目配せしあいながら、可愛い子供達をしっかりと抱きしめた。
 柔らかな西日が、温かく四人を照らし、四つの騎影が長くその後ろに伸びている。それは、本当に平和な一風景であった。


 その日、無事にセブンスヘブンに戻ると、子供達は昼間の疲れからすぐに眠ってしまった。
 お互いの手をしっかりと握り締められるよう、特別に二人のベッドをくっつけてまでした……。

 その愛くるしい寝顔に、クラウドとティファは笑みを抑える事など、到底出来るはずもない。
 眠る愛しいわが子たちの額にそれぞれキスを落とすと、そっと子供部屋を後にした。

 そして、自分達の寝室に戻り、グラスを取って今日一日を振り返る。

「本当に一時はどうなるかと思ったわ」
「全くだ。あそこでティファがギザールの野菜を思いつかなったらどうなってたか、ゾッとする」
「それにしても、あの二人、意外とレーサーの資質があるみたいね。びっくりしちゃった」
「本当にな。もしかしたら、俺達よりも、うんと凄いレーサーになるんじゃないか?」
「そうかもね。でも、しばらくは二人共、チョコボに乗りたいなんて、絶対思わないわよ?」
「だろうな。俺も、しばらくは乗せたくない」

 くすくす笑い合いながら、二人はグラスを傾けた。やがて、その寝室の窓明かりも消え、セブンスヘブンは静かな眠りに着いた。

 それは、幸福な毎日のほんの一コマの姿……。


あとがき

はい、家族サービスでした。
きっと、兄弟げんかってあまりしない二人だと思うのですが、何かのきっかけで
この歳の子供って喧嘩するものじゃないかなぁ、と思うのです。
でも、この二人はきちんとその後できっちりお互いを庇い合って仲直りする、
そんな仲良し兄妹だと思います。
はい、これもマナフィッシュの妄想です(^^)