家族とは?


 セブンスヘブンの看板娘、マリンは考える。果たしてこれが世に言う『家族』の正しいあり方のなのか、と。


 確かに、家族には色々ある。仲の良い家族もあれば、仲の悪い家族もある。両親は仲が悪いけど、子供とはそうでもなかったり、逆に両親の仲は良いのに何故か子供とは会話のない家庭もある。


 そう、家族のあり方は様々だ。
 自分だって養父と血の繋がりはない。
 しかし、心から尊敬しているし、愛している。
 養父も自分の事を本当に大切にしてくれていて、今は離れて下しているが、それでもその溺愛振りは色あせる事がない。
 今の家族に不満があるのではない。
 むしろこの家族ほど、素晴らしい家族はない、とさえ思っている。
 しかし、親代わりの二人を見ていると、どうも何か欠けているような気がしてならないのだ。
 そう、何か…。


 家族の一人である、兄の様な存在のデンゼルにこの話を持ちかけたところ、彼の実の両親と比べると、やはり親代わりの二人には何か欠けているような気がする、と応えてくれた。


 そこで、二人は考える。一体、何が欠けているのか…。


 しかし、考えても良く分からない。
 そこで、近所の友達にその両親の話を聞き、比べてみる事にした。



 友人A「私のパパとママはとっても仲が良いの。だって、パパがお仕事行く時、必ずお互いのほっぺにキスして最後にはちゃんと(?)キスをするんだもん。帰ってからもやっぱりほっぺたと口にキスして『今日も昼間君に会えなくて寂しかったよ』って言うのよ。
そしたら、ママも『私もあなたの事ばかり考えてたわ』ってニコニコしながらお返事するの」

 それは世で言う【バカップル】ではないだろうか……。
 二人がそう思った時、友人Aは小首をかしげながらこう話を続けた。

 友人A「でもね。この前パパをお見送りしてから、ママってば物凄い勢いでお化粧して、私をおばあちゃんのお家まで連れて行って、『今日はお友達とお出かけしないといけないから、おばあちゃん家でおとなしく遊んでてね。』って、お出かけしちゃったの。おばあちゃん家から出ちゃ駄目よ、って言われたけど退屈だから、おばあちゃんがお昼寝してる間に抜け出しちゃった。そしてたら、最近新しく出来たきれいなレストランの窓際でカッコイイ男の人と手をつないでご飯食べてるのを遠くから見ちゃったんだ。」

 手をつないでご飯食べるなんて、ご飯食べにくいよね?
 無邪気な顔で首を傾げる友人Aに、二人は聞いてはならないものを聞いてしまった事実に固まった。
 哀れな友人Aに、事実を説明する事など出来るはずもなく、適当にその場を切り上げて半ば逃げるようにし、次のターゲットに話を聞く事にする。


 友人B「僕の父さんと母さん?う~ん、特にその辺にいるような夫婦じゃないかな。別に喧嘩もしないしさ。どっちかって言うとあんまりお喋りじゃないな。朝起きて朝の挨拶したらご飯だろ?食事中はお喋りしてはいけません!って母さんがうるさいから、ご飯中は話しないで食べるし。そんで、父さんはそのまま黙って仕事に出掛けるんだけど、夜になったらいつの間にか帰ってきてるんだ。えっ?『ただいま』は言わないのかって?父さんが話すのって『メシ』『風呂』『寝る』くらいだもん。母さんも特にそれで良いみたいで、何も文句言わないし。僕?う~ん、父さんって何考えてるのか良くわかんないから、あんまり話したくないタイプかも。だから別に、話をしないから寂しいって事もないなぁ。話ならデンゼルやマリンみたいに友達と話せば良いわけだし」

 そんな冷め切った両親の元にいるというのに、屈託ない笑顔で答える友人に、二人は心で涙した。
 気を取り直して次の友人に話を聞いてみる。


 友人C「俺の両親?そうだなぁ。俗で言う『カカア天下』って奴だな。俺ん家、八百屋なんだけどさ。なんだったか詳しい事は忘れたけど、取り引き先のカームの料理屋さんがエライ剣幕で怒鳴り込んできた事があったんだ。何だったっけなぁ?確か『注文した数が全然足りないのに、料金を前払いで支払って』て、どうこう言ってたな。んで、母ちゃんが頭下げて料金を返そうとしたら、金庫の中身が足りなかったらしくて…。そこに運悪く父ちゃんが帰って来てさ。ありゃ、見ものだったぜ。逃げ回る父ちゃんを母ちゃんが俺のバット持って追い掛け回して殴りかかってさ。うん、よく死ななかったよな。流石毎日思い野菜を仕入れて働いてるだけあるよ。取り引き先の料理屋さんが青くなって、慌てて母ちゃん止めに入ったくらいだからさ。俺も大人になったら、あんだけ殴られても死なない、丈夫で強い男になるんだ」

 何かが激しく間違えている!!
 二人はそう思ったが、心底父親を尊敬している眼差しで語る友人に、そんな事が言えるはずもなく、げんなりした気分でその友人と別れた。

「デンゼル…」

「何だ、マリン…」

「あの子のとこの八百屋さんだけはセブンスヘブンで取り引きするの止めるように、後でちゃんとティファに言おうね」

「そうだな…」

 二人は重苦しい気持ちのまま他の友人のところへ話を聞きに言った。
 もう、本当はあまり話を聞きたくない気分だったが、このまま何も収穫がない現実がちょっぴり悔しいと言う気持ちだけが、二人を動かしていた。



 友人D「私のお父さんとお母さん?う~ん、別にこれと言って特に何も特徴ないけど。普通に朝起きて挨拶して、出掛けるときは言ってらっしゃいのキスをお母さんと私や弟にしてくれるでしょ。それから、帰ってきたらただいまのキスをしてくれて…。そのひ、し仕事先でこんな面白い事があった、とか、こんな大変な事があった、とかお喋りしながら夕飯食べるわね。それで、私や弟も色々沢山お喋り聞いてもらって。お母さんも、その日にあった事とか、ご近所さんから聞いてきた㊙情報とか聞かせてくれるの。それ以外では、う~んそうだなぁ。やっぱりたまには喧嘩もするわね。理由は良く分からないけど、つまらない事とかが多いと思うわ。だって、喧嘩した翌朝にはこっそり仲直りのキスしてるんだもん。行ってきますと、ただいまのキスとは違って、仲直りのキスは私達子供に見られるのは恥ずかしいみたい」

 友人のその言葉に、二人の仲でファンファーレが鳴り響いた。
 そう、何かが足りないかと言うと『クラウドとティファだけの特別な事』が足りないのだ。 いつも、自分達の世話や配達の仕事、セブンスヘブンでの営業等に追われ、『二人だけの隠し事』めいた物を育む時間がないのだ。
 いやいや、もしかしたら自分たちが気づかないよう、細心の注意を払って何か隠し事を持っているのかもしれないが、あの二人は普通の人よりも隠し事、嘘が苦手だ。
 クラウドは寡黙だが、一緒に生活しているマリンやデンゼルにはそんな事は関係ない。
 特に、マリンは普通の子供よりも周りの感情に敏感気付く。

 デンゼルもマリンほどではないが、周りをよく見ている子供だ。又、何か異変があれば、すぐにマリンが教えてくれるので、クラウドとティファに限らず、友人達の異変にも早いうちから知る事が出来る。
 つい最近、配達先から特別なお土産を持って帰って来てくれた事があったが、驚かそうと本人はギリギリまで隠していた。
 しかし、いつもよりそわそわして目が落ち着きのないクラウドに、二人の方が『何かある』と気を使って素知らぬ振りをしたものだ。
 クラウド自身はそのことに気付いていない様で、漸く夕食後に見せた綺麗な飴菓子に、二人はクラウドが満足するような喜びようを見せた。(実際、白鳥や馬等の形をした飴菓子はとてもきれいで、食べるのが勿体無いほどだったから、本当に嬉しかった)
 ティファはティファはで、本人が思っている以上に動作などに出やすい性質だから、すぐに分かる。動作が異様にギクシャクしたり、顔が真っ赤になったり、悪戯っぽくキラキラした目でいると、クラウド以上に何かがある、と丸分かりなのだ。


『デンゼル!」

「マリン!」

「「これよ(だ)」」


 二人だキラキラした目で礼を言い、猛然と去って行く後姿を友人Dはキョトンとした顔で見送った。


「クラウドとティファに足りないものは分かったけど、どうしたら良いのかが結局分からないわね」

「そうなんだよなぁ」


 二人は先程仕入れた新事実に今度は頭を悩ませている。
 クラウドもティファも、子供の二人が見ていて時折≪歯がゆくなるほど奥手≫と言う事実が高い壁として立ち塞がっていた。


「いっそ、軽い冗談で作り話でもして、お互いが浮気してるかも、って事にしてみる?」

「………デンゼル、それ本気でやるつもりじゃないでしょうね?」

「う、嘘に決まってるじゃん、そんな事」

 マリンに睨みつけられて、デンゼルは激しく首を振った。
 『本当は、ちょっと面白い事になるかも、と言う言葉は言わないで良かった』、と心の中で胸をなでおろす。


 それから二人して、うんうん唸りながら考えるが、これと言って良い案が浮かばない。

「いっその事、二人に聞いてみる?」

「何を?」

「『二人共、ちゃんと夫婦としての自覚があるのか』って」

「えーーっ!!」

 マリンの爆弾発言にデンゼルは思いっきりのげぞり、その反動で座っていた公園のベンチから、地面へと頭から突っ込んだ。

「う~…」頭を抑えながら起き上がるデンゼルに手を貸し、改めて二人して座りなおす。

「マリンさ~、いくらなんでもそれはちょっとまずいと思うよ」
大体まだ二人共結婚してないじゃん、と言うデンゼルに、マリンも「う~ん、駄目かなぁ」と心なしかしゅんとする。

「でも、私達ってクラウドとティファにとって『息子と娘』よね。だったら、二人が結婚してなくても、世間から見たら『夫婦』って事になるんじゃないかなぁ?」

「…う~ん、そうかも」
 でもなぁ、とデンゼルは痛む頭を撫でながら
「それってさぁ、二人がきちんとしないといけない『二人だけの本当に大切な事』何じゃないかな」

「…そうね、そうだよね」

 マリンは素直にデンゼルの言葉に頷くと、大きく息を吐いた。もう、太陽は西日になり、そろそろ帰らなければならない。ティファが心配するだろうし、店の開店準備の手伝いをしなくてはならない時間だった。

「仕方ないわね。まだまだこれからも時間はあるし、また明日にでも考えましょ。もう帰らないとティファが心配しちゃう」

「そうだな」

 二人は、明日も別の友人達に話を聞いて、もっと何か別の手がかりが見つかるかもしれない、と決意を新たに胸に刻みつつ、家路に着いた。



「おかえりなさい。遅かったのね」

 ただいま~と、駆け込む二人を優しい笑顔で、それでいて少し前まで心配していたのであろう、不安げな色の残る瞳でティファが出迎えた。

「ごめんなさい、友達とお喋りしてたら遅くなっちゃった」

 開店準備を手伝うべく洗面所で手を洗いながら、ハキハキと応えるマリンを見つつ、デンゼルも『まぁ、嘘じゃないもんな』と一人頷きながら続いて手を洗う。

「じゃあ、マリンはこれを洗ってくれる?デンゼルはこっちのお鍋を見ててね」

「「はーい」」


 いつのものようにセブンスヘブンが開店するのはこれから間もなくだった。


 セブンスヘブンは相変わらずの盛況ぶりだ。
 料理やお酒の注文もどんどん飛び交い、お客さんの会話も弾み、そして洗い物もどしどしやってくる。
 最近ではデンゼルも非常に手際よく洗い物が出来るようになったおかげで、ティファの負担もグンと減り、その分馴染みのお客さんとの大切なコミュニケーションの時間が取れるようになった、と感謝されたのは、子供達が休む言うもの時間が来て、お休みの挨拶をしたときだった。
 お休みのキスをおでこに受けながら、しばらくはこのままの形の家族でも幸せなんじゃないか、とデンゼルは思った。そのことをベッドに入ってからマリンに言うと、

「もちろん、今も凄く幸せだけど、もっともっとクラウドやティファにも幸せになってもらいたいなぁ、って思ったの!」

 とやや口を尖らせて言われてしまった。

 確かに本当に自分は幸せだ。
 それは、クラウドが配達の仕事を頑張るだけでなく、自分やマリンとの時間も大切にしてくれるからだ。
 ティファも店の仕事を頑張っているのに、自分やマリンの世話を一切手を抜かずにこなし、愛情一杯に接してくれる。

「なぁ、マリン」

「…な~に…」

 互いに半分まどろみながら話を続ける。

「俺、こういう家族もありじゃないかと思うなぁ」

「こういうって?」

「こう、不器用なクラウドが父さんで、自分の事は後回しでクラウドや俺達の心配して頑張り過ぎるティファが母さんで」損で持って、子供なのに大人よりも気を使って、あれこれ考えて一生懸命なマリンがいて。まだまだ力不足だけど俺も頑張るからさ。

 そう言いながら、後半はむにゃむにゃと分からない言葉になり、あっという間に寝入ってしまったデンゼルに、マリンも「そうかもね…、私達家族はこのままでも良いかもね」「きっとこれからクラウドもティファも、もっと自分に正直になって、うんと幸せになってくれるよね」「もしも、いつまでもズルズルしそうだったらその時、私やデンゼルが頑張っちゃんだから」等々思いながら、やがて規則正しい寝息を立て始めた。



 セブンスヘブンの看板娘、マリンはまだ知らない。
 自分達がクラウドやティファにとって本当に素晴らしい子供達である事。
 マリンやデンゼルのおかげで、二人が本当に幸せな時間を過ごせている事実を。
 この事実にマリンやデンゼルが気付くのは、二人がもう少し大人になってから……。

あとがき

『家族とは』いかがだったでしょうか?
マリンはクラウドとティファの仲をやきもきしながら見守っているようなキャラだと
マナフィッシュは感じています。
と、言うわけで、今回の様な作品と相成りました(笑)
そして、デンゼルは年下のマリンに引っ張られていくというキャラで(爆笑)
最後まで読んで下さり、有難うございました!!