Good timing?Bad timing!?
『疲れた……』
重い身体を引きずって、クラウドはコレルの南に最近出来た小さな町の宿屋兼酒場へ足を運んだ。
今日の配達は中々ハードだった。
まぁ…最近はずっとこうなのだが…。
エッジのある大陸ではない他の大陸に渡った場合、大抵今日の様な目に合う。
今日の様な目…と言うのは、配達の先々で次々と急な仕事を依頼される事だ。
復興の状況が芳しくない田舎では尚の事。
配達に訪れると、『これ幸い!!』と言わんばかりに予定外の依頼を請ける事が非常に多い。
仕事があると言う事は有り難い話なのだが……こうも予定外な仕事が立て続けに舞い込んでくると、流石に厳しい。
既に受けている配達の依頼をこなしつつ、それらの急な仕事を片付けるのは正直な話し、骨の折れる事なのだ。
出来れば……丁重にお断りしたい所だが、何しろクラウドは口下手だ。
そして、無愛想な顔からは想像しにくいが……お人好し。
縋るような目を向けられて、それを断れる人間ではない。
そこがクラウドの良い所よ。
今日起きた出来事を携帯で話したクラウドに、愛しい人が心温まる言葉をくれた。
疲れた心が一気に軽くなる。
『早く会いたいな…』
携帯をポケットにしまいながら、大きな溜め息を吐く。
愛しい人と可愛い子供達の笑顔を思い浮かべ、クラウドは我が家へ想いを馳せるのだった。
ギー…。
重い木戸を押し開けて中に入ると、最近出来たばかりの町だと言うのに、店の中はすっかり薄汚れていた。
とてもじゃないが、新しく出来た町に相応しいとは思えないその汚れっぷりに、クラウドは面食らった。
まだ名前すら決まっていないような出来たてほやほやの新しい町。
その町並みは、当然のように新しく、清潔感溢れる建物ばかりだ。
それなのに……。
何故、この町唯一の宿屋(兼酒場)がこんなに薄汚れているのか!?
クラウドはクルリと踵を返したくなったが、グッとその気持ちを堪え、意を決するべく大きく息を吸い込んだ。
途端に肺一杯に『すえた臭い』が広がり、思わず吐き気が込上げてくる。
『……今日は厄日か…?』
本気でそんな事を案じながら、クラウドはとりあえず空腹を何とかする為に店の奥にあるカウンターへ足を向けた。
「へい、らっしゃい!」
まるで『八百屋か!?』と突っ込みを入れたくなるようなカウンターの中にいるオヤジに、クラウドは深い溜め息を吐いた。
『コスタの方が良かった……』
自分の選択ミスに情けなさが込上げる。
少しでも港に近い所で宿を取ろうと思ったのだ。
勿論、新しく出来た町にも興味があった。
もしも良い町なら今度、休暇を取って家族で遊びに来よう。
そうしたら、マリンも義父に会える。
そう考えた結果だったのだが…。
『絶対に二度とここには来ない!』
硬い誓いを胸に、クラウドはカウンターのスツールに腰を下ろした。
酒場兼宿屋のこの店は、セブンスヘブンと比べようがない程最低だった…。
恐らく、ティファがこの店の状態を見たら卒倒するだろう。
『イヤ…同業者として怒り狂うかな……』
怒りに拳をわななかせている愛しい人を思い描き、クラウドは苦笑した。
店に来る客達もこの店に似合いの風貌の輩が多かった。
要するに、下品で不潔で粗野で……。
数え上げたらきりがないが、とにかく大事な家族をこんなとんでもない店には絶対に連れて来られない。
そして、クラウドがこの店に入って来た時から苦痛に感じていた事。
それは…。
「お兄さん、本当に素敵ねぇ…。ねぇ〜、そのサングラス外して、素顔を見せてよぉ〜」
媚びるように自分に纏わりついてくるこの店の『自称看板娘』。
セブンスヘブンの『看板娘』とは雲泥の差であるこの女性に、クラウドはイライラが募る一方だった。
しかも……何故か……。
「よぉよぉ、兄ちゃん。俺達のファニーちゃんを独り占めするとは良い度胸だな」
この店の常連客に人気があるらしい。
『どこが良いんだ、こんな女…!?』
非常に失礼な評価を下しているとは露ほども知らない『自称看板娘』と常連客達からの猛攻撃に、クラウドは心底イヤになっていた。
「お客さん、頼むから揉め事は外でやってくれよ〜」
全く止める気の無いオヤジの無責任な言葉に、クラウドは料金の割りに不味い肉のソテーを胃袋に放り込んだ。
そして、自分の腕に身体を密着させようとする『自称看板娘』を無言のまま常連客の一人に押し付けるように引き剥がすと、
「勘定…」
一言カウンターのオヤジに向かって言い捨てた。
流石に、この態度には『自称看板娘』も腹を立てたらしい。
ムッとすると、香水をプンプン匂わせながら片腕を腰にあて、もう片方の手で自分をいやらしい手つきで支えていた常連客を押しやった。
「なによ、失礼しちゃうわ!私はこれでもあの『ジェノバ戦役の英雄のリーダー』とは親しいんだから!後で泣きついても知らないんだからね!!」
この言葉に、クラウドはオヤジの分厚い手の平に乗せようとしていた料金のギルを落っことした。
ポカンとして思わず『自称看板娘』を振り返る。
今……この女は何かとんでもない事を口にしなかったか……!?
あ〜…まず冷静になれ。
うん、そうだ。
落ち着いて……落ち着いて……。
確か……『ジェノバ戦役の英雄のリーダー』とは親しい……とか言ったか…?
……『ジェノバ戦役の英雄のリーダー』って……俺……か……?
イヤイヤ、きっと違う奴だ。
俺はこんな女知らないし……。
………………………………………そうか!!
きっとこの女はそう虚言を撒き散らして、この店の常連客達に人気を得たんだ。
そうだ、そうに違いない!
でなきゃ、こんな女がどうしてこんなに人気者なのか説明がつかないしな……うん!
等々、クラウドが頭の中で何とか己に納得いく説明を無理やり組み立てているとは知らず、驚いたクラウドに女は満足そうに微笑んだ。
そして、実に演技力たっぷりに自分を見つめている常連客達を振り返る。
「ねぇ、そうでしょ、皆!」
「ああ、そうとも!」
「ファニーちゃんの魅力には、流石の英雄『ティファ・ロックハート』も勝てなかったのさ」
ファニーの言葉に、常連客達から一斉に賛同の声が上がる。
それらの言葉をボケッと聞いていたクラウドだったが、最後の言葉にピクリと眉を動かした。
勿論、クラウドのそんな表情に誰一人気付いていない。
「あの『クラウド・ストライフ』が懇意にしてる女性がファニーちゃんさ!兄さん、ちょいと馬鹿だったな」
人の不幸は蜜の味…。
そう言わんばかりにイヤな笑みを浮かべた若い男に、クラウドはサングラス越しに睨みつけた。
いくらサングラスをしていても、クラウドから放たれる殺気は隠せない。
若い男は、僅かに顔を青くして固まった。
しかし、他の常連客達は全く気付かないらしい。
次々と、クラウドにとって地雷とも言える言葉を口にした。
「ファニーちゃんのプロポーションを前にしたら、どんなに自分に自信を持ってる女でも、一発で撃沈だよなぁ!」
「そうそう!このプロポーションにあの『ジェノバ戦役の英雄のリーダー』が骨抜きにされたわけだし…」
「まぁ、いくら『英雄達のリーダー』っつったって、男には変わらないからな〜」
「それに、二年半前の旅では仲間の『ティファ』と結構良い間柄だった…って噂だけど、もう二年半も前だし、こうして美人でスタイルの良いファニーちゃんと出会ったら……なぁ……!」
「そりゃそうだ。いくら『ティファ・ロックハート』が『美人』だって評判でも、あの『元・英雄』のセフィロスと渡り合えるような女だぜ?『美人』だなんて、きっと噂が一人歩きした結果、ついてきただけの話で実際はとんでもない『ゴリラ女』なのさ!」
カチーン!!
この常連客の最後の台詞は、クラウドの逆鱗を掠った。
思わずその客の胸倉を掴んで締め上げたくなる。
しかし、ここでドラマのように店のドアが開いた。
一斉に皆の視線がドアに注がれる。
そうして…。
「キャー!クラウドさん!!」
現れた癖のある金髪で紺碧の瞳をした青年に、ファニーが甲高い声を上げながら抱きついた。
クラウドは自分を取り巻いている現状に、ホトホト嫌気が差していた。
何故に…。
何故に自分の偽者と同席しなくてはならないのか……!?
そう。
クラウドは今、人生でこれ程味わった事ないほどの苦痛を味わっている真っ最中だった。
四人掛けのテーブルに、無理やり座らされてかれこれ約三十分。
自分の隣には、ファニーとか言うこの店の看板娘に熱を上げている青年。
そして、向かい合った席には『自称看板娘』と『自称ジェノバ戦役の英雄のリーダー』が人目も憚らずイチャチャしている。
『仕事はどうした!?』
そう突っ込みたくなるクラウドだったが、三十分同席する事で事情が分かってきた。
ようするに、この目の前に座っている自分の偽者が来店したら、彼女の仕事は『彼専属』になるらしい。
カウンターの中のオヤジがしきりに、偽者のご機嫌取りをしている。
クラウドが何故こんな自分の偽者と同席する羽目に陥ったのかと言うと…。
話しは至って簡単。
隣に座っているファニーに熱を上げている青年が、放った一言。
『アンタ、自分が一体誰を突き放したのか知るのが怖いんだろ!?』
はぁ……。
あんな軽い挑発に乗るんじゃなかった…。
我ながらどうかしている…と、クラウドは内心で自嘲した。
あの時は、自分の偽者が現れた事の衝撃と、ティファを小バカにされた怒りで冷静な判断が出来なかったのだ。
それにしても…。
「俺にはお前だけだって言ってるだろ…?」
砂を吐きそうな台詞を口にする目の前の偽者に、クラウドは眩暈を感じた。
そして、
「そんな事言って…。今だってティファさんと別れてないじゃない」
そう言いながら、目に涙を浮かべて見せる女に、クラウドは吐き気を覚えた。
「子供達がいるから…仕方ないだろう?俺の心はファニー、お前だけのものさ」
「クラウドさん…」
ぐああぁぁぁああ!!!!
止めてくれ!!
全身がむず痒い……って言うか、何だよその設定は!?
子供達がいるからティファと別れられない!?
おまけにティファではなく目の前の化粧の濃い女の方が魅力的!?!?
あり得ない…!
天地がひっくり返っても、そんな女に俺が惹かれるなんて、絶対にあり得ない!!
しかも…。
それがこの店に通っている客達にとってはもう受容されてしまっている事実こそがあり得ない!!!
って言うか、どうして俺はこんなくだらないドラマのワンシーンのような場面に同席しなくちゃならないんだ!?
いっそ、俺が本物だって名乗りを上げるか……?
イヤ……無理だ。
どう考えても、この店では偽者が『本物』として顔を利かせている。
俺が本物だと証明出来るもの……は、あるにはあるが、何だかムキになって本物だと名乗りを上げるのも馬鹿らしく思える…。
それに、証明出来るもの…って言うのは所謂(いわゆる)『必殺技』と『魔晄の瞳』だけだしな…。
魔晄の瞳だけだと他にも元・ソルジャーがいるわけだし、『必殺技』を目の前の偽者に繰り出したりしたら、確実に俺は殺人犯だ。
…………。
………無視だ…。
ここはもう、無視するしかない。
クラウドが頭の中でそんな事をグルグル考えている間、ファニーと店の常連客が意味ありげにチラチラとクラウドを見ては、ニヤニヤと笑っている。
『偽者』の登場で、ファニーを冷たくあしらった事をクラウドが焦っている、と勘違いしているのだ。
ただ、クラウドの隣に座っている青年だけは、クラウドの偽者に冷たい視線と、ファニーに熱い視線を注いでいた。
そんな中、偽者が徐(おもむろ)に口を開いた。
「ところで、ファニー?」
「なぁに、クラウドさん?」
吐血しそうなほど甘い声で囁きあう目の前のカップルに、クラウドは無視を決め込み酒を口に運んだ。
「このお二人はどうしたんだい?」
「あぁ…この人達ぃ〜?」
しなだれかかるように偽者の首に腕を絡ませ、ファニーは赤い唇を歪めて嘲笑した。
「何だか分からないんだけどぉ…。私の事をバカにしたり、付きまとってくる人なのぉ…」
……ああ、そうだよ。
心底バカにしてるよ。
でもな、隣のこの男は、心底お前みたいなバカ女に心惹かれてるみたいなんだぞ?
それを『付きまとう』って表現、最低じゃないか?
クラウドはサングラスを掛けたまま、目の前にいる不快な気持ちの元凶を睨みつけた。
しかし、よほど鈍感なのか、女と偽者は薄ら笑いを浮かべている。
「それは……どうしたものかな……?」
演技力たっぷりにそう言ってのけた偽者の言葉に、隣に座っていた青年がビクリと身体を震わせた。
しかし、それでも偽者を睨みつけている彼の根性に、内心で拍手を送る。
「そっちのお兄さんは、この店は初めてだろう?見た事ない顔立ちだしな」
「…………」
「それでもって、こっちの俺を睨んでるお兄さんはよく見る顔だな。俺とファニーの事を知ってて彼女に付きまとうとは、中々根性があるじゃないか」
せせら笑う偽者に、隣に腰掛けていた青年がグッと膝の上で拳を握り締めた。
その手が僅かに震えているのを見て、クラウドは青年の怒りの大きさを知った。
『なんでこんな女が良いんだろう……?』
偽者の言う通り、中々根性のあるこの青年が、何故にここまで自分をバカにしてくる女に心惹かれたのか不思議でならない。
それと同時に、何とも言えない同情心が芽生えてきた。
こんなに真っ直ぐ人を想える青年なら、もっと他に素敵な女性を探せば良いのに…。
そう思ったのだ。
一方でそんな事を考えながら、一言も話さないクラウドに偽者が段々イラついてきた。
わざとらしく咳払いをし、クラウドの意識を己に向けさせる事に成功する。
「あんた…ファニーをバカにしたって言うのは本当かい?」
「……………」
「だんまりって事は肯定と取るけど…」
「……………」
「ふーん、本当なんだな?」
「……………」
どこまでも黙ったまま、一言もしゃべらず、尚且つ全く余裕を失っていないクラウドの態度に、偽者は苛立ちを露わにした。
荒々しく立ち上がると、店の客達の視線を一身に浴びているのを充分自覚しながら口を開いた。
「俺の大切な女性をバカにしたのは看過出来ない。外に出てもらおうか」
途端に、囃し(はやし)立てるような歓声と口笛が店内を賑わせた。
「ほ〜ら、言わんこっちゃない!」「今更逃げるなよ〜!」「クラウドさん、やっちまって下さいよ!」
等々、常連客達が面白がってクラウドをバカにする。
そんな中、クラウドが一言呟いた。
「興味ないね」
その声は決して大きくなかったのに、店内は一気に静まり返った。
客達の顔が嘲りから驚愕に変化する。
それは、目の前にいる偽者と自称看板娘、そして、隣に座っている青年も同様だった。
誰もが、サングラスをかけた新顔が震えながら許しを請うと思っていたのだ。
それなのに、あっさりとした口調でサラリと言い切ったこの新顔に、誰もがポカンと口を開けた。
しかし、その中でも一番早く己を取り戻したのは…。
「ほう……良い覚悟じゃないか……」
声を震わせて拳を握り締める金髪の青年。
元々美青年ではないが、怒りの為に顔を歪ませている彼の顔は、もはや見るに耐えない顔になっている。
誰もが息を飲んでその場を見守る中…。
クラウドはユラリ…と立ち上がった。
そして、サングラスを外す事無く睨みつける。
「アンタが誰でも俺にはどうでも良い。だが、その女の方が一緒に住んでいる女性よりも魅力的だというのは許せないな…」
「「な…!?!?」」
クラウドの発言に、呆けていたファニーと他の客達がサッと顔を強張らせた。
誰もがクラウドの暴言に怒り、目をギラギラと光らせた。
その時。
バターン!!!!
勢い良く店の扉が開けられ、ドスドスという荒い足音と共に、数人が店に入って来た。
一斉に店にいた全員の視線が集中する。
そんな中、クラウドは目の前の人だかりで誰が店に入って来たのか見えなかった。
ただ…。
なにやら非常に嫌な予感がするのは……気のせいだろうか…………?
そのクラウドの不吉な予感は的中した。
人の山がサーッと左右に分かれて現れたのは……。
「バレット!?」
「クラウド……てめぇ……!!!!」
浅黒い肌を紅潮させ、銃の義手を構えて睨みつける仲間の登場に、クラウドは呆気に取られて目を見張った。
しかし、それだけではなかった。
「クラウド……アンタ……ほんっとうにサイッテーだね!!」
「ユフィ!?!?」
バレットの巨体を押しのけるようにして現れたウータイの忍の手には、しっかりと特大の手裏剣が握り締められている。
更に…。
「クラウド……俺様は信じてたのによ……それをあっさり裏切りやがって……」
「シドまで…!?」
シエラ号の艦長の手には、これまた彼ご自慢の槍が握られていた。
そして…。
「クラウド……」
「ティファ!?!?」
薄っすら目に涙を浮かべて佇む愛しい人と、その両脇に立つ青い顔をした子供達の姿…。
クラウドは勿論だったが、店内にいる客達もその光景に唖然とした。
この生意気な新参者は、突然現れたこの客達を一体何と呼んだ!?
「バレット…って言ったか…?」
「ユフィ……とも言ってたな…」
「シドって…あのシド…?」
「それに……」
「「「「ティファ!?」」」」
おまけに……。
「「「「クラウド!?!?」」」」
混乱する頭の店の客達の視線が、英雄達と同名の乱入者達、そして自分達が『クラウド』と信じていた男、更にはサングラスをかけたまま焦っている青年の間を忙しく動く。
そんな中、目の前に突然現れ、何やら完全に誤解をしているらしい仲間達と愛しい人に、
「ご、誤解だ!」
必死に自らの潔白を訴えようとする。
しかし、
「黙れこのクソ野郎!!お前の不埒な悪行は全部確かな情報網で入手済みなんだよ!!」
怒り狂ったバレットが一喝し、全く聞く耳を持たない。
おまけに、それに煽られたかのように、
「ティファを裏切ったこの最低男!!覚悟しな!!!」
「てめぇを『リーダー』として信頼していたかと思うと、情けなくて涙が出らぁ〜!!」
ユフィとシドまでもが怒りに我を失っていた。
「ちょ、ちょっと待て!!」
「「「問答無用!!」」」
「だから、俺じゃない!俺を騙った偽者だ!!」
声を揃えて殺気だった三人に、クラウドは青い顔をして固まっている偽者を指差した。
ビシッ!!!!
クラウドの偽者は声も無く石化した。
「ほらねぇ…だから絶対に違うって言ったじゃん!」
「そうだよなぁ。クラウドがティファ以外の女に骨抜きにされるわけねぇよな〜」
シエラ号の中で、ユフィとシドが陽気な声を上げた。
「………お前ら………よく言うよ………」
低い声で唸るクラウドの顔は、真っ赤になっている。
その隣に座っているティファの顔も同様に真っ赤だ。
子供達は、そんな親代わりの二人を嬉しそうに見つめていた。
今回の騒動の元凶であるバレットは、心なしがシュンと項垂れて小さくなっている。
「それにしても、ほんっとうに貴重な場面を目撃しちゃったよねぇ!」
「おうよ!シエラ号をすっ飛ばしてきたんだ。あれくらい良い思いしないと割りに合わねぇっつうの!」
カラカラと笑う二人を、クラウドは恨めしげにねめつけた。
『バカ言ってんじゃないよ!アンタの偽者ってどこにいるのさ!!』
『ここにいるだろうが!!』
『おい、クラウド…。お前、どこまで性根が腐っちまったんだ!?こんな見るからに別人がお前の名前を騙れるわけ無いだろうが!!』
『騙ってたんだ、実際!!』
『往生際が悪いぜクラウド。俺は……俺は……!!』
『待てバレット!ユフィにシドも少しは俺の話しを聞け!!』
『待てと言われて待てるわけないでしょうが!!ティファを傷つけたその罪、アンタの首でおとしまえつけてもらおうか!!』
『バカ!!『森羅万象』なんか使うなよ!?死人が出るだろう!!それにシドもバレットも、落ち着け!お前達が武器を振り回したらこの店が惨劇に見舞われる!!!』
『…あのぉ…』
『『『なんだよ!!』』』
『クラウドさんって……この人じゃないの……?』
『『『はぁ!?』』』
『…だって、私…、ずっとこの人の事、ジェノバ戦役の英雄でリーダーだったクラウドさんだって……思ってて…』
『『『こんなブサイク野郎がクラウドのわけないだろうが(でしょうが)!!!』』』
『……そ、そんな……!!』
『『『…………?』』』
『だから…俺じゃないって言っただろう…!?』
『……もしかして…俺の情報は……』
『思い切り人違いだ!!』
『『バレットーー!!』』
『…クラウド……あの……』
『ティファ、何を聞いたのか知らないけど、俺はティファ以外の女性に興味ないから…』
『…………』
『本当だ!俺はティファ以外の女性を愛したりしないし、愛せない!!!』
『………ぅう……っく……』
『な、泣くな…頼むから…!』
『『『『あの……』』』』
『何だ!?』
『それじゃ…』『俺達が信じてた…』『この男は…?』『『一体誰!?』』
『知るか!!!!』
「あ〜、それにしてもあのブサイク男、クラウドを騙って詐欺してたとはねぇ…」
「騙される方も騙される方だぜ…。どこがクラウドに似てるんだか……」
「「だよねぇ!」」
ユフィとシドの言葉に、子供達が嬉しそうに賛同する。
クラウドは溜め息を吐くとチラリとティファへ視線を移した。
その途端、同じく自分を見たティファとバチッと視線が合い、同時にボンッ!!と音を立てる勢いで真っ赤になる。
「お前ら……ほんっとうに……」
「いつまでそんなお子様みたいな恋愛してるわけ…?」
「さっきはあんなに熱烈な『アイノコクハク』かましてくれたのにさぁ…」
呆れ顔の仲間達に、クラウドは全身を真っ赤にさせながら、
「うるさい!」
と、一喝した。
途端に起こった爆笑の渦に、不貞腐れてそっぽを向く。
そんなクラウドの横顔を、ティファは赤い顔のまま嬉しそうに見つめていた。
『昼間、バレットから話を聞いた時はショックだったけど……。こうして確かめに来て本当に良かった』
昼間、突然バレットからティファに電話がかかった。
何でも、コレルの南に最近出来た新しい町に、クラウドが入り浸っているという。
そして、あろう事かその酒場兼宿屋の看板娘を愛人にしているとの事だった。
バレットはその情報を、コレルで一緒に育った知人から聞いたのだと言って、かなり興奮状態だった。
ティファは勿論信じなかったが、ここ数週間クラウドがコレルのある大陸へ仕事で出かける事が多かった事と、暫く顔を見ていない寂しさから、子供達を伴いシエラ号に乗り込んだ。
途中、何故か話を聞きつけたユフィと合流し、目指す宿屋に着いた途端、真っ先に目に飛び込んできた馴染の深い大きなバイクに、ティファと子供達は蒼白になり、仲間達は激昂した。
そこで巻き起こった騒動が……。
先程の店のやり取りになるわけだ。
「それにしても、クラウドもそうだけど父ちゃん達ももう少し顔を世間に売っとかないとダメなんじゃない?」
マリンの言葉に、クラウド達は困って顔を見合わせた。
「あんまり……そういうのは好きじゃねぇんだよなぁ……」
シドが頭を掻きながらそう言うと、
「でもさ、もしかしたらシドのおっさんの振りして、誰かが悪さするかもしれないじゃん。それを防止する為にも、一回リーブのおっさんに相談してみたら?」
デンゼルが賢しげにそう提案した。
「ま、そうだねぇ…。一考の余地あり…かな?」
顎を軽くつまみながら、ユフィが思案気に…でもどこか面白そうな顔をした。
「私は…遠慮したいな……」
おずおずとそう言うティファに、
「「ダメ!!」」
子供達が即猛反対した。
目を丸くするティファに、
「だって、ティファの事『ゴリラ女』って思ってる奴がいるんだよ!?」
「そんなの許せるわけ無いじゃん!!」
「大体、ティファがもっと顔を知られてたら、今回みたいな事にならなかったんだから!!」
「そうそう!ティファが恥ずかしがり屋なのは知ってるけど、クラウドと一緒に写ったら良いよ!そうしたら、変な詐欺野郎が出てくる事もなくなるだろうし!」
「あ、デンゼル名案!!」
矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、最後はデンゼルの案に乗り気になって、子供達はウキウキと声を弾ませた。
そんな子供達に…。
親代わりの二人は顔を見合わせると苦笑し合った…。
後日、WROが発行している情報誌に、今回の騒動と英雄達の顔写真が掲載され、話題になったのは言うまでも無い。
あとがき
はい。英雄を騙る偽者のお話でした。
まぁ、あの偽者があの騒動の後どうなったのかは……皆様のご想像にお任せします(笑)

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