第五弾!!




拍手御礼小話21

独占したくてたまらない。
そう言ったら、貴女はどんな顔をしてくれるだろう…?
きっと、ビックリして、綺麗な茶色の瞳を丸くして…。
そうして最後には…。

極上の笑みを浮かべてくれるだろうな。
俺は…本当に口下手だけど、心からキミへ愛を贈るよ。
だって、俺は貴女だけを愛しているんだから…。
これまで、まともに愛の言葉を囁いたり、恋人らしいことをしてあげられなくて…本当にごめん。
でも、これからは毎日でも愛の言葉をキミに贈るよ。
だから…どうか…。
どうか俺を受け入れて…。


「おい…店の前で何やってるんだ…?」

肩にポン、と手を置かれ、一気に夢の世界から現実に引き戻される。
振り返ると、魔晄を浴びた証である紺碧の瞳が飛び込んできた。
この店に通うようになって暫くになるが、こんな男は見たことがない。
なんとなく、この男は要注意だ。
きっと、彼女を狙っているに決まっている。

「ちょっと色々計画を振り返っていただけさ。気にしないでくれ」

ふふん。
どうだ、この鮮やかなあしらい方は。
普段は余計なことを話したりしないが、俺もやる時はやるんだ。
だから、彼女と子供達、丸ごと俺が守ってやる。

と…。
なんとなく、俺の肩に手を置いてきた男の視線が突き刺さる気がする。
…なんだよ、別に余計なことは言ってないだろ?
もしかして、これくらいで気を悪くしたのか?
はっ、なんつう懐の狭い奴。
世の中、こういう奴もいるもんだモンなぁ…。
うん、こうしちゃいられない。
開店一番で彼女にこの想いを告げて、彼女を少しでも早く、ラクにさせてあげなくては!!

って、おい!!
まだ開店前だろうが!!

「ちょっとアンタ!」

思わず金髪・碧眼の男の肩を掴む。
怪訝そうな…不機嫌な顔がこちらを向いた。

「なんだ?」

わ〜、言い方もめっちゃ冷たい。
見た目どおりだな。

「まだ開店前だろう」

俺が指摘すると、その男はちょっとだけ驚いた顔をした。
そして、またもや視線を向けてくる。

俺が持っている赤いバラの花束へ…。

「アンタ…もしかして…」

不機嫌そのものの表情に変化する。
グッ…ま、負けるもんか!

「それ、ティファにやるつもりじゃないだろうな」

はん、なにが『ティファ』だ。
どうせあんたも『ティファの恋人は俺』とか思ってる勘違い野郎だろう!?
だが、残念だったな。
本当の恋人はこの…。

「あの、もうすぐで開店出来ますか……ら……って!!」

彼女がドアをそっと開けて俺を見た。
その瞬間、彼女の瞳が丸く見開かれ、次いで嬉しそうに微笑んだ。

「クラウド、いつ帰ってきたの!?」

え…?

「たった今だ」
「もう、だったらどうして連絡くれないの?この二週間、ずっとクラウドが帰って来るのを待ってたのに…!!」
「うん…ごめん。ちょっとビックリする顔が見たかったから…」
「もう……バカ…」
「怒ったか…?」
「…怒るわけないじゃない……すごく、すごく嬉しい」
「俺も。流石に二週間はきつかった。ティファに会えなくて…さ」

……。
………え〜〜……そんなぁ……。

勘違い野郎って…コイツじゃなくて……俺…!?

「じゃあ、もうお店、休んじゃう!」
「準備、してたんだろう?」
「でも明後日くらいまでなら大丈夫なものばかりだもの」
「明日は?」
「言わせたいの?」
「ックック……あぁ、ティファの口から聞きたい」
「もう………。クラウドと…一緒にゆっくり……したい…なぁ……なんて…」
「ありがとう」
「キャッ」

!?
あぁ…見なかったら良かった…。
幸せそうに微笑みながら、この金髪野郎と幸せそうにキスをしてるところなんか…。

手にしたバラの花束を手に、トボトボと歩く俺を、街の人達がチラチラ見てきたけど、気にならない。

あ〜〜〜!!!!
俺の初恋がーーー!!!

この世界中の恋人達を呪ってやる!!
……。
………帰ったら自棄酒だ…。


こうして何も知らなかった青年の恋は砕けた。
好きな人の情報収集くらいはしておきましょう。



拍手御礼小話22話


…。
……。
なんとなく、今日は面白くないの…。
なんでだろう…?

「マリン、これ運んでくれる?」

ティファの声にドキッとして慌てて振り返る。
心配している顔。
ちょっとだけ寄せられた眉に、心臓がバクバクする。

「うん、今行くね」

ニッコリ笑ってティファの手からお皿をもらう。
何か言いたそうな顔をしたティファに背中を向けて、注文されたテーブルに運ぶ。

ごめんねティファ。
私も良く分からないんだ。
なんでこんなに気持ちが重いのか…。
別に嫌なことなんかなかった。
デンゼルとも仲良くしてる。
そのデンゼルも、私のことを気にしてるみたいで、チラチラ見てる視線を感じる。
ティファとコソコソと耳打ちしてるのも気づいてる。
でもね。
本当にごめんね、二人とも。
今日はどうしても『いつもの元気なマリン』でいられないみたい。
なんて言ったら良いのかな…。

『疲れた』って言葉がピッタリなのかな。
でも身体は全然疲れてないもん、だから『疲れた』は違うと思うの。
でも他に言葉を思いつかないの。

「ママー、これ嫌い〜!」
「もう、仕方ないわねぇ」
「パパー、これもっと食べたいー!」
「しょうがない奴だな、ほら、パパのを分けてやろう」

気がついたら、家族で来てくれているお客さんを見てしまっている。

嬉しそうにお父さんとお母さんにわがまま言っている私やデンゼルと同い年くらいの男の子と女の子。

胸がもやもやする…。


チリンチリン。
ドアベルの音。
いつもならすぐにドアへ顔を向けるのに、今日はちょっとノロノロ。
だからデンゼルの方が新しいお客様に気づくのが早かった。

「いらっしゃ……クラウド!!」

ドキッ!!

デンゼルのはしゃいだ言葉に心臓がギューッとなる。
びっくりしてドアを見ると、満面の笑みでクラウドに抱きつくデンゼルと、そんなデンゼルを軽々抱っこしているクラウド。

「おかえり、クラウド!早かったのね!!」

ティファの嬉しそうな声も聞こえる。

「あぁ、ただいま、ティファ、デンゼル」

少しだけはにかんだ微笑を浮かべるクラウド。
その光景に衝撃が走る。

あぁ、そうだ…。
私は。

クラウドがゆっくりと私を見た。
とっても温かい目…。

「ただいま、マリン」

私に向けられたその言葉。
その声。

たまらず駆け出して、クラウドに飛びつく。
クラウドはデンゼルを下ろして私を抱っこしてくれた。

温かい。
本当に温かい。

「おかえり、クラウド」
「うん、ただいま。いつも留守ばっかりで皆、ごめんな?」

私には本当の両親はいない。
でも。

「「「 それは言わない約束でしょ? 」」」
「ありがとう」

こうして温かく包み込んでくれる腕があるから。
優しく見守ってくれて、心配してくれる家族がいるから…。

だから。


もう寂しくないよ、『天国のお父さん、お母さん』







拍手御礼小話23


ねぇ、こっち向いて欲しいの。
ねぇ、たまには私に甘えて欲しいの。
ねぇ、お願い、本当にたまにで良いから、私のことを必要だって言って欲しいの。

でも。

あなたはとても照れ屋だから。
あなたはとても口下手だから。
だから、こんなお願いをしたらすごく困って、目をウロウロとさせて、最後にはクルッと背を向けて逃げてしまうでしょうね。
それがとても寂しいから。
だから私は言わないの。
それに、そんなことを言うのが恥ずかしい…っていうのもあるんだけど……ね。

でもね。

本当に…たまにで良いから言って欲しい。
態度で示して欲しい。
愛車に真正面から向き合って、目をキラキラさせながら楽しそうにカスタマイズしている時みたいに、私のことを見て欲しい。

でも。

あなたは絶対にそんなことをしてくれない。
だから私は、バイクにまでやきもちを焼いてしまう。
ふふ、そんなこと言ったら、きっと目を丸くしてビックリするんでしょうね。
そして…やっぱり困ったような顔をするんだわ。

私ね、あなたのこと、誰よりも信じてる。
でもね。
私は私に自信が持てないの。
どうしても持てないの。
だから、あなたが他の大陸へ配達に出かけている間、すごくすごく不安になることがあるの。
星は広いから、私なんかよりもうんと素敵な人が沢山いるはず。
そして、こんなにも素敵なあなたを慕っている人もすごく多いはず。

だから…。
本当は例え仕事でも他のところに行って欲しくないの。
私の傍で働いて欲しいの。
私の目の届くところにいて欲しいの。
そうしたら、あなたが他の人にちょっと目を向けた時、すぐに気づけるでしょう?
そしたら、私はあなたが惹かれたその人を観察して、少しでもその人に近づけるように努力出来るでしょう?
そしたら…。
そしたら……。

あなたを失わなくても済むかもしれないもの。
私は…弱いから。
あなたがもう一度いなくなったら、きっともう笑えない。
営業スマイルや作った笑顔ならいくらでも出来るわ。
でも、心から笑うことは…きっと無理。

ねぇ…だからお願い。
時々で良いから…。
恥ずかしかったら何も言わなくても良いから。

黙って私を抱きしめて…。
あなたの腕の中で眠れるのは私だけだとうぬぼれさせて。

私、あなたを心から愛してる。
ずっと。
ずっと…。



拍手御礼小話24話



特に何があったと言うことでもないけど、時々無性に甘えたくなる。
時々…。
泣きたくなる。
そんな自分を持て余してイライラしたり、落ち込んだりしてしまっては、子供達に余計な心配をかけまいと空元気を装う…。

子供達にはとっくにバレているんだってことくらい分かってるんだけど…ね。

でも、だからと言って空元気をやめるわけにはいかない。
子供達に甘えたり、泣き言を言ったりすることなんか論外。

だから…。

そういう日は、少し早めにお店を閉めて、さっさと後片付けを済ませる。
そうして、ガラン…とした店内を確認し、子供達が子供部屋から降りてこないことを何度も確かめてから…。
手を伸ばすの…。

彼が好きなお酒のビンに。

グラスに注いだ琥珀色の液体。
彼が好きだと言うそのお酒を喉に流し込んで、ひっそりとカウンターの中でうずくまる。
自分ひとりの世界に浸って、疲れた気持ちをなだめてみたり、『悲劇のヒロイン』を気取ってみたりして、自分を慰める。

そうしていつも、そんな日の翌日は自己嫌悪で目が覚めるの。

『あ〜…なんてバカなのかしら…』って…。

私は一人じゃない。
それに彼はたとえ、忙しくても泣き言を言ったら絶対に飛んで帰ってくれるって分かってるの。
だけど、それをしてしまうことが出来ないのは、やっぱり彼の負担になりたくないし、みっともない自分を晒したくないと言う、ちっぽけな自尊心があるから。

なんてみっともないのかしら…。

そう思いながら、今夜も彼の好きなお酒を、彼のいない店内で飲んで…。
自分の世界に閉じこもる。


「こら、飲みすぎだ」


突然聞こえたその声に、心臓が飛び出そうなほどビックリする。
勢いよく顔を上げた拍子に、手の中のグラスからお酒が零れてしまった。

金色の髪が照明を落とした店内でも光って見える。
紺碧の瞳が心配そうな…、それでいて悪戯っぽいような笑みを入り混ぜて私を見つめていた。

あっという間に自分だけの世界から現実に引き戻されたショックは大きい。
何か言わないといけないとは分かってるけど、アルコールのせいもあって頭が上手く回らない。

「飲んでも良いけど、そういう飲み方はいただけないな、ティファ」

苦笑しながらそぉっと私を抱き起こす。
そのまま呆けている私の手からグラスを取って、シンクの中にそっと置いた。
その間もクラウドの片腕は私にまわされたまま…。

「なぁ…ティファ」
「一人でしんどい思いをするのは、もうそろそろやめにしないか?」
「頼りないけど、俺もいるし…。頼りになる子供達もいるし…」
「子供達の前で弱くなれない…って言うなら…」

「俺の前では弱くて良いから」


あぁ…。
その言葉で充分。
ガチガチに固まっていた私の心を解きほぐすには、その言葉で充分。


久しぶりに思い切り泣いたその翌日は、想像以上に目が腫れて、悲惨な顔をしてた。
でも…。


「どんな顔してもティファはティファだから…」


ちょっとテレたようにそっぽを向きながら、そっと抱き寄せてくれたから…。
また少しだけ泣いて、思い切り笑顔になることが出来た。


もうこれからは一人の世界を作らない。


そう、心に誓いながら彼を抱きしめて、抱きしめられた私は、世界一の幸せ者です。



拍手御礼小話25話

良い天気で風が気持ち良いと『あ〜、こんな風にティファ達も当たらせてやりたい』って思う。
可憐に力強く咲く野の花を見つけると『あぁ、持って帰って見せてやりたい』って思う。
どこまでも雄大に広がる大自然を目の当たりにすると『今度連れて来てやりたい』って思う。

そう、何かしらの小さなことでもすぐに『家族』を思い出す自分に、最初は苦笑もした。
『なにガラでもないことを思ってるんだか…』って、少し自分にうんざりもしていた。

だってさ。

その大事な『家族』から一度、離れてしまったくせに、この変わりよう…。
第三者から見たら、どう考えても『都合の良すぎる思考回路』を持っているとしか思えないだろ?

だけどさ。

最近はこんな自分を結構気に入ってたりする。
なんとなく…なんとなく…。
自分自身に素直になれると、ティファ達が喜んでくれるような気がするんだ。
いや、気がする…じゃなくて、事実だな。
ティファとデンゼル、マリンはいつだって全面的に俺の味方をしてくれるから…。
たとえ、俺自身が『俺』に悪態をついたとしても、それを否定する。
怒ってくれる。

『クラウド。クラウドは『クラウド』でしょ?私はそんな『クラウド』が大切なの。だから、絶対にそんな風に自分を卑下しないで…』
『クラウド〜。本当にもう少しは自分に自信を持って良いと思うんだけど?そんなんじゃ、気がついたらティファを他の男にとられちゃうぞ?ま、そんなことにならないように俺とマリンが目を光らせてるけど〜』
『クラウド。大丈夫だよ、クラウドのいいところは私達が知ってるもん。お店にたまに若い男の人が来て、今、クラウドが言った様な事をティファに言うことがあるだよ?でもね、そんな時、ティファったらすっご〜〜〜く怖い顔になるの!般若みたいになるの!!それくらい、クラウドのことがティファにとって大切なんだよ?あ、勿論私やデンゼルにとってもそうだからね。だから、もっと堂々としてたら良いんだよ。クラウドはちょっと自分を見下しすぎ!でも…。そんなクラウドも大好きだよ』

あ、ヤバい。
顔がにやける。

でも、本当に俺には過ぎた幸せだと思う。
これは本当だ。
やっぱり俺には勿体無い『家族』だと思ってしまう。
だって、この世でこんなに恵まれた男は俺だけだからさ。

よし。
今日の仕事はこれくらいで切り上げて、予約の受付は終了だ。
少しでも早く帰って、さっき撮ったばかりの写真を三人に見せてやりたいしな。

ティファへの土産(ウータイ郷土料理レシピ)も、デンゼルへの土産(ウータイ産般若のお面)も、マリンへの土産(とんぼ玉のついたヘアゴム)もバッチリ買ったしな。

さ、早く帰ろう。

『家族』のところに。