第七弾!!
拍手御礼小話31話
本当はもっと生きたかった。
みんなともっと一緒にいたかった。
もっともっと、あなたと一緒にいたかった。
私にとって、あなたは2度目の恋の相手で私の決して長いとはいえない人生の中でも、2人といないタイプの男性だった。
確かに最初はあなたが『彼』の面影を垣間見せるからすごく気になったんだよね。
でも、すぐにあなた自身に心惹かれちゃった。
澄ました顔してクールぶってるくせに、時々フッと見せる優しさ…。
そのギャップに目が離せなくなった。
仲間とか、友情とか、そういった『人間として生きていくために必要な情』に対して、「興味ないね」って顔してるくせに、すごく仲間思いなあなたに……。
恋をした。
あなたに出会えて本当に良かった。
例え、望んだ最期じゃなかったとしても、それでもあなたの腕の中で最期の瞬間を迎えられたのは幸せだった。
あなたに出会えたからこそ、私はミッドガルから外の世界に出ることが出来た。
『彼』が話してくれた空の美しさを見ることが出来た。
それに、あなたに出会って恋をしたからこそ初めて出来たものがある。
恋敵(ライバル)。
見た目も中身も可愛い彼女。
どう見てもお互いに想い合ってるのに全然進展しそうにないあなたたちにどれだけ『あてられた』か。
もうほんっとうに、勘弁してよって何回も思ったわ。
でも、恋敵のはずの彼女と心の底から楽しく過ごせたのは、いつまでも進展しないあなたたちの仲のお陰かもしれないなぁ、と今なら思えるわ。
今でもあなたのこと、大好きだけど彼女のことも大好き!って言える私はやっぱり幸せね。
でも、そんな彼女はいつも強気な発言や態度を取ってるくせに、本当はとても繊細で常に何かに怯えていた。
今なら分かるよ。
あなたが本当の『クラウド・ストライフ』じゃないかもしれないって怯えてたんだね。
うん、そうだよね。
私もずっと感じていた。
あなたは『あなた』なのに、どこかで『彼』と重なっていたんだから。
それもこれも、全部全部、神羅のせい…。
まったく、あのとんでもない親子っていうか組織?
なんてことしてくれんのかしらね!
どれだけの人の人生を狂わせてくれてるのかしら。
まぁ、今となっては『兵どもが夢のあと』って感じだけど…。
―『質問。どうしてここに来たのかな?』―
―『俺は…許されたいんだと思う…。うん、俺は…許されたい』―
バカね。
許されなくちゃならないことをしたの?
ねぇ、あなたの言う許されなくっちゃいけない罪ってなに?
分かってないんだね、クラウド。
あなた自身のことなのに、あなたが一番自分のことを分かってない。
―『誰に?』―
もう思わず笑っちゃったじゃない。
私やザックスがあなたのこと、怒ってると思ってた?
うん、確かに怒ってるよ。
そうやって、自分の幸せを自ら手放して、しなくてもいい贖罪をしようとしているバカなあなたを。
ねえ…、でももう良いんじゃない?
自分をいじめるの、もうやめて良いんじゃない?
―『ねえ、もう許してあげたら?』―
お願い……届いて欲しい。
この言葉だけは届いて欲しい。
もう良いんだよ?
自分を責めなくて良いんだよ?
ほら、クラウドちゃんと見て。
あなたの傍にいてくれる人たちを。
見えない?彼女があなたのために帰る場所を守ってくれているのが。
―『大切じゃないものなんかない!』―
うん……うん、そうだよクラウド。
なに1つ、大切じゃないものなんかないんだよ。
クラウド、あなた自身も大切な大切な『宝』なんだよ。
今度こそ、本当に安心して星の中で見守れるから、飾らない言葉をあなたにあげることが出来る。
―『もう…大丈夫…だね』―
―『うん、俺は…1人じゃない』―
そうだよ、忘れないで。
あなたの傍にはいつも彼女と仲間がいてくれる。
星の中では私と…。
「まったく、どんだけ心配させるんだか。ま、これでようやっと安心かな」
陽気なソルジャーがいつも見守ってるから…ね。
「な、エアリス」
「ん、なぁに?」
「もっぺん、俺に惚れ直さない?」
ふふ、バカだなぁ。
「さぁ、どうしようかなぁ」
わざと焦らしてみると、途端にちょっと唇を尖らせる『愛しい人』。
「なぁんだよ、折角クラウドが幸せに向かって前向きになったのにさぁ」
そう言いながら、そっと後ろに回ってゆるく抱きしめてくる逞しい腕…。
「俺たち、確かに死んでるけどそれはそれ、これはこれで前向いても良いと俺は思うんだけど」
「ふふ、それはそうかもしれないけど」
「……意地悪いな、エアリスは…」
「あら、じゃあ他の可愛い子を探しに行ったら?」
「ぐ…」
ウソ。
そんなこと、絶対にイヤなんだから。
だから、クスクス小さく笑いながら私をゆるく拘束する腕にそっと手を添える。
クラウド、あなたが遠い将来、こっちに来ることになったその時は、ザックスと一緒に迎えに行ってあげるからね。
それこそ、私があの旅の最中、ティファとあなたに当てられまくった分、たっぷりと『当て返して』あげるんだから。
だから……ゆっくりおいで。
その日が来るまで、どうか幸せに…。
拍手御礼小話32話
『愛してる。キミに出会って俺は真実の愛を知ったんだ。』
『嬉しい…、私もよ。アナタを誰よりも愛してる』
『キミを誰にも渡さない。キミは俺の全て…、俺の命だ』
『私はアナタのものよ。他の誰にも私には触れることを許さないわ』
……。
………。
吐きそうだ。
甘すぎて砂を吐きそうだ!
なんなんだ、このクサいセリフのオンパレードは!?
有り得ないだろう、こんな歯の浮くセリフを照れもせずに真剣な顔して互いに言い合うとか…!
どこの世界にこんな全身がむず痒くなるセリフに喜ぶ奴がいるっていうんだ。
まったくもって理解出来ないね!
…とか思いつつチラリとテレビ前を見ると、そこにはかじり付くように画面の中の俳優に熱視線を注ぐ女2人。
2人の年齢差は約16歳。
いつもは甘えたりすることを極端に恥ずかしがるティファと、大人顔負けにしっかりしているマリン。
普段の2人からはちょっと想像し辛いくらい、砂を吐きそうな(吐いてもおかしくないはずだ!)クサい芝居を夢見るようなウットリ顔で見つめている。
俺の呆れ返った視線に気づくことなく、2人は熱い視線を画面に注ぐ。
画面では、少し厚化粧の女優と女受けする甘いマスクの男優が見つめ合い、まだ砂吐きもののクサいセリフを吐いていた。
……この昼ドラのどこが良いんだろう?
俺には一生理解出来ない。
ふと目の前に座るデンゼルに目を向ける。
同じ男としてこの状況をどう感じているのか、大いに気になるところだ。
デンゼルはテレビにも、テレビにかじり付いている女2人にも目をくれることなく、黙々と今夜の店の仕込みである豆の筋取りと皮むきをしていた。
勿論、俺も久しぶりの配達オフという大切な時間を大切な家族のために、ファミリーサービスに勤しんでいるわけで、手元にはデンゼルと同じモノが鎮座している。
……処理済みの豆の量が明らかに違うという現実には目をつむらせてくれ。
「なに、クラウド?」
俺の視線に気づいてデンゼルが顔を上げた。
女2人はこちらをチラリと見るどころかピクリともしない。
テレビの中で熱い抱擁を交わす男女を見つめている。
……おい、真剣になりすぎてて息止めてないか?
大丈夫か?色々と…。
「デンゼルは…その、なんとも思わないのか…?」
小声で話さなくても今のティファたちには俺の声なんか聞こえないと分かっていても、つい声を潜めてしまう。
デンゼルは「あぁ、アレ?」とテレビとテレビの前にいる女2人へ目をやった。
「うん、もう慣れたし」
あっさり言ってのけると再び豆処理作業をはじめた。
その手つきは正確でいささかの狂いもなく流れるようだ。
あっという間にあと残り僅かになっている。
……流石だ。
俺も呆けてる場合じゃない。
そそくさと手元の豆に目を落としたが、生来さほど器用ではない上、デンゼルのように『慣れていない』俺にとって、テレビから聞こえる音がどうにも神経を引っ掻いてきて集中出来ない。
あ……、力入れ過ぎて豆飛んだ…。
「クラウド、手伝う」
ひょいと手が伸びて、デンゼルが俺の分をあらかた引き寄せた。
……保護者としての面子もなにもありゃしない…。
「それにしても、2人共、好きだよなぁ…、こういうシチュエーション。俺にはよく分かんないや」
呆れたような声で小さく呟いたデンゼルにガバッと顔を上げる。
苦笑している息子になんか救われた気がするよ。
だが、そんな俺にデンゼルは含みのある笑いを浮かべると少し身体を乗り出した。
「クラウドもティファに言ってやったら、喜ぶんじゃない?」
…。
……は!?
俺がか!?
「普段、あんまりそういうこと、言ってないんだろ?」
いや、確かに言ってないが、それはその…あれだ。
言葉じゃなくて心で通じて…!
「もしかしたら、ティファが今、テレビに夢中になってる原因がクラウドの言葉足らずかもしれないじゃん」
…。
ぐうの音も出ない…。
確かに言葉が足りないせいで色々不安にさせてるって自覚はある。
だが、だからと言ってそんな、砂吐きもののセリフを口にするのか!?この俺が!?
無理だ!!
誰がなんと言おうと無理なものは無理だから!!!
「それに結構ティファ、お店に来る若い兄ちゃんたちにああいう砂吐きもののクサいセリフ、言われてるからなぁ。肝心のクラウドから言われてないのがやっぱり気になるんじゃないかな?」
なに!?
そんな不届き者が!?
「なに驚いてんだよ。いるに決まってるだろ?ティファ、モテるんだから」
呆れた顔して肩を竦めたデンゼルは、「はい、終わり〜。クラウド、全部やってやろうか?」と、さっさと俺の分全てを引き取り、あっという間に処理してまった。
それを、呆けたように見つめながらも俺の頭はまだ半分以上、デンゼルの爆弾発言で麻痺状態だった。
いや、分かってたぞちゃんと!ティファがモテることはちゃんと分かってた。
だけどまさか、こんな全身に鳥肌が立つくらいの寒いセリフを他の男から囁かれてるとは夢にも思わなかったんだ。
……どんな野郎が口にしたんだろう。
腹は立つが、同じくらい興味が沸く。
とてもじゃないが、絶対に口に出来ないセリフをあろうことか店で言えるとはある意味そいつは『勇者』だよな。
テレビに映る俳優並みだったらティファの気持ちも動いたかもだが、そうそういないよな、ああいう『甘いマスク』は。
なら、ちょっと残念な感じの男が口にするのか?(おっと、失礼過ぎたか?悪いな)
ここでよく店で見かける男たち、とりわけ若くて俺と同年代の男を頭の中でピックアップしてみた。
そいつらの誰か(もしかしたらほぼ全員)がティファへ砂吐きもののクサイ台詞を口にすると想像してみる。
…。
……おえっ…。
気色ワル!!(← 超失礼)
もうあれだな、まともな神経の奴じゃないな、こんな吐きそうな台詞口に出来る奴は。
俺はまともな神経の持ち主だから当然、こんな台詞、死んでも言えやしないね。
…だけど。
このクサイ台詞を丸々言うのは絶対に無理だけど、ほんの少しだけでも言うことが出来たら、ティファは喜んでくれるだろうか?
その凛とした顔を嬉しそうに綻ばせ、俺だけに極上の笑顔を見せてくれるだろうか?
もしも、その笑顔を独占出来るなら…。
…。
…だけどなぁ…。
俺が言うのか?『キミは俺の命だ!』とか『キミがいないと生きていけない!』とか、そんな台詞を真顔で!?
…無理。
無理だって、絶対に!
だけど…。
ティファが喜ぶなら…。
あぁああ、だけど…!!
*
「クラウド、なに1人で百面相してるの?」(マリン)
「さぁ。きっと、どうでもイイことで悩んでるんだよ」(デンゼル)
「ふ〜ん、変なの」(マリン)
「クラウドってさ、普段はカッコいいし決してバカじゃないのに、なんでティファが絡むとアホになるんだろう…」(デンゼル)
「やっぱりそれって”愛”じゃない?」(マリン)
「マリン…言ってて寒くないか?今の台詞」(デンゼル)
「うん、寒かった。やっぱりこういう台詞って日常生活ではちょっとねぇ。映画とかテレビだから素敵なんだよね〜。ティファに告白する男の人たちの大半が寒い理由はまさにここにあるよね」(マリン)
「クラウド、そこのところ絶対分かってないよな」(デンゼル)
「どうしたの、2人ともこそこそと」(ティファ)
「「なんでもな〜い」」(デン・マリ)
クラウドが悩みに悩んだ末、砂吐きもののクサイ&寒い台詞をティファへ捧げたかどうか。
それは当事者と星だけが知る。
拍手御礼小話33話
「ほらほら、もう少し寄って」「2人とも、今さら照れなくて良いから〜」
笑いを声に含ませながら、なんとかしかつめらしい顔を作ろうとするデンゼルとマリンに、クラウドとティファはぎこちなく身体を動かす。
それが、妙によそよそしい。
いや、緊張故のぎこちなさ、身体の固さ、ひいては表情の強ばりに繋がっている。
面映ゆい。
うぶでじれったい。
それがこの2人。
そして、そんな2人がデンゼルもマリンも大好きなのだ。
大好き、だが、時としてじれったい気持ちが膨らみイライラしてしまう。
今がまさにその時。 ―もう、そんな照れなくてもいいだけの時間を過ごしているはずなのに…―
だから、子供たちはらしくないちょっとした意地悪をしてしまう。
「もぉ、これじゃあ撮れないじゃないか〜」
「クラウド、ティファの腰に手を回して!ティファ、クラウドにベッタリくっついて!」
指示された親代わり2人は途端に顔をひきつらせて固まった。
「いや…、マリン?いくらなんでもそれは不自然過ぎるだろ?」
「デンゼル、気にしないで適当にシャッター切ってくれていいのよ?だって、別に何か特別なことのために撮るわけじゃないんだし…」
「なんでだよぉ…折角撮るんだからカッコ良くしないと」
「クラウドもティファも、そんなに離れて写ってたら余計におかしいよ?」
「デンゼル、マリン。もうこれくらいで勘弁してくれ…」
「そうよ…だって誰に見せるわけでもないでしょう?」
「あのな…ティファ。誰に見せるわけでもないんだから、恥ずかしがらなくてもいいじゃんか」
「クラウド…そんなにティファと2人だけで写るのがイヤなの?」
「イヤとかそんなんじゃ…ただ…」
「ね?2人とも。もう十分だと思うの、これでも…。だから気にしないでササッとシャッター切っちゃって、ね?」
適当に切り上げてこの場の危機を回避しようと試みる。<BR>
だが、おおよそ一般的な子供と違う据わった肝を持ち、頭の回転が並のそれではない2人に通用するはずがない。
幾度も似たようなやり取りが交わされた後…。
とうとう演技ではない本物の剣呑な光が子供たちの双眸に宿った。
「「……」」
無言の威圧。
デンゼルは構えていたカメラを持つ腕をダラリと下げ、マリンは片足に体重を預けて立つと片腰に手を当てる。
少しだけ上げた顎、眇めた冷たい眼差し…。
見るからに、うんざりして…、というよりもなによりも……怒っていると全身でのアピールは、クラウドとティファから『はにかみ』を奪い去った。
普通、自分の思い通りにならなくてイライラした子供は、地団駄踏むなど、身体全部を使って怒りを現しつつ、フラストレーションを発散させるはずなのに、この大人顔負けの無言と威圧攻撃が出来る子供は星広しと言えど、この2人くらいしかいないのではないだろうか?
クラウドとティファは我知らず、ゴクリと息を飲み込むと、マリンが指示したようにそそくさとポーズを取った。
照れ臭さなぞ、怒れる子供たちを前に霞んでどこへやら…。
しかし 末恐ろしい子供たちは、それくらいでは許してくれなかった。
無言の威圧をこれっぽっちも緩めようとせず、ジト目で睨む。
クラウドとティファは困ったように眉尻を下げ、小首を傾げて2人を見る。
「ねぇ…マリン?」
「……デンゼル…?まだダメ……か?」
恐る恐る声をかけると、愛する子供たちは実に忌々しそうに盛大な溜め息を吐き出した。
思わずビクッと親代わり2人が肩を震わせるほどに。
「クラウド」
デンゼルの低い声に真剣な苛立ちを聞き取ったクラウドは、無意識に居住まいを正して即「はい」と返事を返す。
クラウドと密着していたティファに、彼が彼らしくなくビクッと反応したその瞬間をダイレクトに伝わった。
小さい子供に威圧されてびくつくなと笑ってしまうはずのことなのに、全然笑える心境にならない…。
ティファは、クラウドがデンゼルに「そこの椅子に座る」と命令されるまま、サッと行動するのを妙な緊張感を抱きながら気配で感じ取っていた。
そんなクラウドを見る?
子供たちから目を離すなどとんでもない!
半目でジットリとねめつけているマリンとデンゼルの顔からティファは一瞬たりとも視線を外さなかった。
だから、子供たち2人がクラウドからティファへ視線を動かしたとき、彼女は自然と全身を硬くしてどんな命令が下されるのかをビクビクしながら待った。
「ティファ」
内心、きたっ!と思いつつ「はい」と即答すると、マリンは小さい手で指を差し、「クラウドの膝の上に座って」と、断固として譲る気配のない硬い声で命令を下した。
反論?
恥ずかしがる?
却下する!?
そんなの、出来るわけがない!!
短い返事を返し、ティファはササッとクラウドの膝の上に座った。
クラウドは反射的にティファの背中に腕を回して彼女の身体をしっかり支える。
子供たちの前では絶対にしないポーズ。
子供たちがいなくても滅多にしたことのないポーズ。
お互いにほろ酔い気分で気持ちが高ぶったとき以外したことがないポーズだ。
数えるくらいしかしたことがない『膝抱っこ』なのに、こんなに強い緊張を強いられ、甘い雰囲気なぞ微塵もない。
しかし親代わりの2人は、次にくるであろう『命令』に、心の底から動揺した。
「「じゃあ、そのままにっこり笑ってお互い見詰め合って」」
あぁあああ、やっぱり!
やっぱりそれできたか、最終指令は!
いやだがしかし、この緊張感の中でどうしろと?
笑えと言ったか、この状況で笑えと!?
しかも『見詰め合って』って、ちょっと待て!!
自分の予想が裏切られなかったことにクラウドとティファが一瞬、子供たちから視線を外し、互いをチラッと伺ったその直後。
「「ふ〜〜ん…出来ないんだ〜」」
こんなに冷たいデンゼルとマリンの声は知らない。
一気に心が寒くなる。
いやいや、冷静に考えろ。
普通、こんな風に養い子にビクビクする親がいるか?
いや、いるはずがない。
それこそ、親の威厳というものが…。
「クラウド」「ティファ」
一瞬だけ過ぎった『親の威厳云々』は、再度呼びかけられたことで霧散した。
子供たちのジトッとした半目、しらけた表情。
それがなによりも胸にグサグサと突き刺さる。
「お仕置きだな」「お仕置きだね」
発せられた言葉の意味を解するのに時間がかかったクラウドとティファは、愛する子供たちが何を言わんとしているのかを理解したのは、子供たちが「今から最低30分はそのままでいること!」と、ビシッ!!と言い置いて部屋から出て行ったときだった。
呆けたように荒々しく閉められたドアを見つめた親代わり2人は、どちらからともなく視線を向けると深い溜め息を吐き出した。
「どうしてこんなことになっちゃったのかしら…」
「まったくだ」
「2人とも、あんなに怒らなくても…」
「…子供の気持ちって…難しいものだな…」
「本当にね」
しみじみと子育ての大変さを分かち合う。
やがて、ティファは自分の座っているのがクラウドの膝の上という事実に改めて気がついた。
真っ赤になって身を捩る。
「ご、ごめんね、クラウド。重かったよね?」
慌てて降りようとするが、クラウドはティファの腰に回した腕から力を抜こうとはしなかった。
それどころか逆に力を込める。
戸惑ったように上目遣いに見るティファに、クラウドはそっぽを向いたまま「軽いから大丈夫だ。それに、下ろしたことがバレるとデンゼルやマリンにまた怒られる」早口で一気に言った。
「え…でも…」
「それに…」
チロリ…と視線だけティファへ向けると、口元に笑みを浮かべた。
「こういうのも…悪くないよな」
「へ!?」
「ティファ、恥ずかしがって中々こういうことさせてくれないし」
うむ、子供たちに感謝だな。
そう満足そうに呟いたクラウドにティファは真っ赤になった。
「な…!?」
「たまには…いいよな、こういうのも。なんかティファを独り占めって感じだ」
「〜〜〜!?!?」
クックック。
喉の奥で笑い声を漏らすクラウドに、ティファは真っ赤になったまま無駄な抵抗を試みて…。
ふとその力を緩めた。
不思議に思って顔を上げたクラウドに、ティファは頬を染めて”はにかんだ”。
「うん…たまには……なんかイイよね」
「!?」
「だって………なんか…」
私もクラウドを独り占めって感じだし…。
息を呑み、真正面からティファを見つめる。
恥ずかしそうにしながらも視線を逸らさないティファに、クラウドは自然と破顔した。
微笑みながら見詰め合うそんな2人を、窓から差し込む陽光がまるで祝福するかのように照らした…。
『どう、デンゼル?』
『バッチリだ。ふっふっふ、これを現像したらクラウドやティファの虫除けになるぞ』
『あ〜、本当に良かった!もううんざりよね?クラウドとティファへ言い寄るお客さんを撃退するのって』
『だよなぁ。2人とも自分のことになるとてんで鈍いからなぁ。俺たち、まだまだ子供なのに、しなくてもいい苦労をしょってると思わないか?』
『思う思う。でも、これがあればバッチリじゃよね?』
『バッチリバッチリ!ついでにクラウドのアルバムにもようやっとティファとのツーショットが飾れて万々歳だ』
『ふぅ…。でもどうしてティファとのツーショット写真がないわけ?普通、恋人同士って2人だけの写真を欲しがるもんじゃないの?』
『マリン、それは言ってやるな。クラウドもティファも、普通じゃないんだから』
『うん…そうだったね。ごめんねデンゼル』
『いいんだ、マリン。その分、俺達がこうして気を使ってやったらいいんだからさ』
『うん!クラウドとティファのためだもん。私、頑張る!!』
『おう!頼りにしてるぜ、相棒!』
『任せといて!!』
後日。
セブンスヘブンのテーブルにさりげなくメニューと一緒にクラウドとティファの『膝抱っこポーズ写真』が店主に知られない間に忍ばせられることとなり、客たちのティファやクラウドへの過剰なアプローチはなりを潜めた。
そして…。
クラウドのアルバムにはティファとのツーショット写真が大切に飾られることとなる。
拍手御礼小話34話
レストランバー・セブンスヘブンの夜はまだ小さい子供がいるということを考えると遅い。
店主が1人で切り盛りしていることや、その店主が女であることを考えてもやはり『遅い』となるだろう。
しかし、酒が入った客にとっては、セブンスヘブンの閉店時間は『早過ぎる』という感覚でしかなく、従って閉店時間を過ぎても帰ろうとしない客はしばしば笑顔の店主を悩ませた。
「だから、俺が思うにアイツは弱腰過ぎるんだ。あれじゃあ女は誰もついてきやしないし、一緒に歩こうって気にもなれやしねぇ」
どう思う?と訊ねられ、ティファは「そうですね」と当たり障りのない言葉を失礼にならない程度の気のない返事で返す。
正直、ティファにとってそれはどうでも良い話しで、更に言うなら、いくら偉そうにもっともらしくご高説を並べても所詮は酔っ払いの戯言。
偉そうに話す前に今の己を振り返って見てみろ、と言いたい。
赤い顔。
締まりのない口元は舌の回らない言葉しか吐き出さない。
話す度に振り回す手はオーバーリアクション。
目はトロンと半分閉じたようにも見える。
加えてオーバーリアクションをする以外は姿勢はだらしなく、カウンターに寄りかかっていた。
時として、ティファへしなだれかかろうとするため、ティファはそれを察知してからはカウンターから出ようとはしなかった。
そのような体たらくでもっともらしいことを言われても何ひとつ共感するものはなく、ティファは内心でため息の嵐を巻き起こしていた。
無論、酒が入っても心を打つ話をしてくれる人もいる。
いやむしろ、意外とそういう人は多い。
普段はおちゃらけて冗談ばかりの人がドキリとするような熱い想いを秘めていたり、明るく周りを照らす人が実は重くて暗い思いを抱えていたり…。
だからティファは今のセブンスヘブンのスタイルが好きだった。
このままのスタイルを保ちたいと思っている。
心に何かを抱えて頑張る人たちに温かな料理を出し、適度な酒を楽しんで、一時の解放の時を過ごしてもらいたい。
ただ、残念なのはそう思える人ばかりではないということで。今夜の客はその代表のようなものだ。
自分のことを棚に上げてご高説を垂れる。
酔っ払いには多いタイプだ。
普段なら笑顔でかわすことに苦はないが1日の終わりともなると流石にツラい。
そろそろ作り笑顔が引きつってきた。
男の呂律の回らない言葉の合間に聞こえる時計の針の音に気がそぞろになる。
(あぁ、マズいなぁ…)
ティファは焦りを感じ始めていた。
何度も男の目を盗んで確認した時計の針は、当たり前だが確実に時を刻んでおり、それを見る度に焦りは着々と胸の中で育つ。
そろそろ帰ってもらわないと本当にマズい。
セブンスヘブンで仕事をすることに良い顔をしない者が実は彼女の周りにいたりする。
理由は様々だが、いずれも彼女の身を案じたものばかりなので、ティファとしてはその気持ちを知りながら店を営み続けることに若干の後ろめたさと、『店を辞めて欲しいとは思いながらも、それでも彼女の意志を尊重してくれる』人たちに純粋な喜びを感じている。
嬉しいと…、ありがたいと…、心配かけずに続けたいとそう思う。
『ティファが店をすることが好きなのは知ってる。だから無理に辞めろとは言えない。でも、俺があまりティファに店をして欲しくないと思っていることだけは覚えててくれ。そうしたら、あまり無茶はしないだろ?』
ティファに今のスタイルで店をして欲しくないという人間の代表とも言える男の台詞が蘇る。
ついでに、その台詞を言った時に見せた真剣な眼差しも。
その男が後少しで帰って来るのだ。
思い出してうっかり胸をときめかせている場合ではない。
「お話の途中でごめんなさい、そろそろ…」
思い切って切り出した閉店を示唆する台詞。
本当は出来るなら使いたくない言葉だ。
しかし、ティファはまだ店をやめたくない。
そのためには家族の理解が絶対不可欠だ。
このままでは店をたたむ話を再び切り出されかねない。
出来ることなら二度と彼に店をたたむ話しはして欲しくなかった。
聞いて気持ちの良い話しでないことは勿論だが、それ以上に、店をして欲しくない、と言った時の彼の真剣な眼差しの中に瞬いていた『苦悩』にも似た色を見たくなかった。
心配する余り、ティファの楽しみを奪うことになるかもしれない、そう分かっているのに言わずにはいられない、という葛藤現れの色。
それは、ティファに喜びと良心の呵責を与えるには十分で…。
だからティファは二度とその件に関して話をさせずに済むよう振る舞うと己に誓った。
ところが、酒の出る店を営んでいると、その誓いを守ることが本当に難しい。
何度となく彼の凍り付くような視線が居座る客に向けられた。そのたびティファは胃が痛む思いを味わうと共に、『明日はこんなことにならないようしなくっちゃ!』と決意するわけだ。
それと同時にティファは店をたたむ話を切り出されるのではないかとビクつくいていた。
今のところはまだ、話しを蒸し返されたことはない。
きっと彼は呆れているか、もしくはビクつきながら顔色を窺うティファの様子を哀れに感じて切り出せずにいるかのどちらかなのだ。
しかし、今日のように日付が変わるくらいまで店を開けていたことがバレると流石にそうもいかないはず。
話しを蒸し返されることはないが、無言のまま、言葉以上に雄弁な眼差しを向けられることは少なくないのだから。
だからなんとしても、クラウドが帰ってくるまでに店の明かりを落としておかねばならない。片付けは目の前の男の話を聞きながらあらかた終えている。
残るは男の持つグラスと食べかけの料理が乗る皿、テーブル拭きくらいだろうか?
それくらいなら明日の朝でもかまわない。
明日の朝食を作るときに少し頑張ればいいだけのはずだ。
時計を見る。
やはり、もう限界だ。
しかし、酒の回って気が大きくなった男には通用しない。
「え〜、いいじゃん、もう少し〜」
そう言うと、帰ってもらおうとカウンターを出ていたティファの腹にスリ…と、頭を摺り寄せた。
「オレ、先週フラれたんだよね〜。慰めてくれない?」
咄嗟に身を引いたティファは、しかし男の執拗な手によって腰をつかまれた。
気持ち悪さに全身が鳥肌立つ。
思わず振り払いそうになって……。
「おい」
不機嫌そうな声と共にグイッと体を後ろに引かれたかと思うと、慣れ親しんだ香りがフワリと鼻腔をくすぐり胸が高鳴った。
この場に一番来て欲しい人で、来て欲しくない人の香り。
眩暈がするほどの甘美な彼の香りに体から力が抜ける。
「アンタ、もう帰った方がいいな。かなり酔ってるようだ」
男はクラウドの突然の登場に、文字通り青冷めた。
アタフタと飲み代をカウンターに置いて慌てて帰る男を見送りながら、ティファは浮き足立った気持ちが急降下するのを止められなかった。
今度こそ、店を辞めさせられる…。
約束を破ってしまったのだから。
不機嫌そのもののクラウドを振り返るのが怖い。
しかし、助けてくれたのも事実。
助けてくれた彼にときめいたのも事実。
1つ深呼吸をして意を決する。
「クラウド、」
言葉を続けようとして予想以上にムスッとした彼に残りの言葉が切れる。
折角固めた決意が儚く散り、ティファは俯いた。
やっぱりダメだ、辞めさせられる、と暗い気持ちが胸を支配する。
しかし、そんなティファにクラウドは盛大な溜め息を1つ吐くと、
「腹が減ったから何か食べさせてくれないか?」
本当は、シャワーの後がいいんだろうけど、と苦笑交じりな言葉をかけた。
驚いて顔を上げると、やれやれ、と言わんばかりの微笑を浮かべたクラウドの優しい眼差しに一気に気分が浮上する。
「うん!すぐに作るから!!」
晴れやかな笑顔と共に明るい声を上げたティファにクラウドも釣られて頬を緩めた。
「あんな捨てられた小犬みたいな顔されたら、『ダメ』って言えないじゃないか…」
カウンターで頬杖をつきながら、いそいそと夜食を作る愛しい人の姿にこっそり溜め息を吐く。
結局、楽しそうに店をするティファを見るのが好きなわけで…。
「ザックス…ああいうのを小悪魔って言うんだよな?」
「ん?クラウド、なにか言った?」
「いや…別に」
「そう?」
思わず亡き親友に語りかけ、うっかり突っ込まれて内心ドキリとしながらも、花が咲くような笑顔を向けられて撃沈する。
(…明日から仕事のスケジュール、もう少し見直すか)
彼女の楽しみ(自分の楽しみ)を失わず、平穏に過ごせるためにも、配達の仕事の調節の必要性をしみじみと感じたクラウドだった。
拍手御礼小話35話
例えば。 彼女と幼なじみじゃなくて、店の店主と常連客という出会いだったとしたら、自分たちの関係はどうなっていただろうか? と、考えても仕方ないことを想像してみて、クラウドはズズーン…、と落ち込んだ。 どう考えても今のような関係にはない、という結論しか出ない。 いや、それはもう考えるまでもなく分かり切ったことなのだが、落ち込んだポイントは『日々、足繁く通う男性客たち』の情熱的な行動に遠く及ばない自分の姿がリアルに想像出来たことだ。
(いや、いくらなんでも諦めるとかはないだろ?)
気を取り直してもう一度シミュレーションしてみる。
まず。 1日の疲れを感じながらも、頭の中はもうすぐ会える彼女のことでいっぱいで、足は妙に軽い。 通い慣れた道のりは彼女との距離を感じさせてとても長く、気がつけば少しずつ早足になっていく。 そうして、ようやく見えてきた店に胸が高鳴るのだ。 ドアへ着いたら少しあがった息を整えるためと高ぶる気持ちを宥めるために、軽く深呼吸をする。 だが、息は落ち着いても気持ちはどんどん加速していくばかりで、結局、バクバクうるさい鼓動を持て余しながら我慢出来ずにドアをくぐるだろう。 もしかしたら、やっと会えることに浮かれて少し頬が緩んでいるかもしれない。 そんな自分にまずはドアベルが出迎え、次に待ちわびた彼女が笑顔と明るい声で迎え入れてくれるのだ。
そうして。
いつものその笑顔と声に、ほぉっ…、と一つ、至福のため息を悟られないように吐いて、席に案内してくれる彼女の背中を見つめる。 もしかしたらその時、すぐに背を向けた彼女にちょっぴり寂しく感じるかもしれない。 そんなことを考えながらも彼女との距離が開かないように足を動かすだろう。カウンター席に案内してくれることを期待しながら…。 もし、案内されたのがテーブル席なら落胆するだろうな。 そんな俺に彼女は気づかないまま、いつもの笑顔を向けてメニューを差し出すのだ。 いや、もしかしたらポーカーフェイスと言われる俺の表情から落胆の色を見分けてくれるかもしれない。 小首を傾げ、どうしたのか心配そうに声をかけてくれるかも…。 意外と現金な俺はそれだけで機嫌が良くなってしまうんだ。 だから、『なんでもない』と、素っ気ない一言に浮かれた気持ちを押し隠して彼女に返すだろう。
『そう?なら良いけど…』
彼女は疑わしそうに眉根を少しだけ寄せて、 『でも、無理しないでね』 って、ちょっと困ったような笑顔を向けてくれるはずだ。 そんな彼女に、俺は気の利いた言葉を必死に探すけど、結局見つけられず、少し視線を伏せて無言のまま頷くだけなんだ。 そうして、他の客に呼ばれるか料理をするかで俺の傍から離れて行く彼女に後悔する…。 もっと気の利いた台詞の一つでも吐けないものかと。 不甲斐ない自分に嫌気が差すと同時に彼女が気にかけてくれたことに気持ちが高揚するという、相反する感情を持て余しなが、メニューに目を落とすフリをして彼女の気配を探るのをやめられない。 彼女が老若男女問わず、人気がある姿に複雑な気持ちを抱えながら…。 その気持ちを堪えていると、イライラが抑えがたくなる場面に出くわす。 彼女に笑いかけ、気さくに話す男客たち。 あわよくば、という下心がチラチラ見え隠れする奴らに、それでも彼女は変わらない笑顔を向けながら明るい声で応じている。 その両方にイライラしながらも、俺は黙ったまま己の感情を抱えて耐えるだけ。 本当は割って入りたいと強く思いながら、そんなことをして彼女に軽蔑されるかもしれない、などと、意気地のない考えに囚われて動けない…。 そんな俺は、
『ご注文、決まりました?』
やっぱり彼女に救われるんだ。 ホッとすると同時に何もメニューを選んでなくて内心アタフタする。 だがそこは欠点であるポーカーフェイスを存分に生かして、 『なにかオススメはあるか?』シラッと訊ねる。 彼女は苦し紛れにした質問にそうとは気づかないまま、ニッコリ笑ってメニューをいくつか指さすのだ。 その時、メニューを指さすために彼女はほんの少し、俺に体を傾ける。 フワリと香る優しい薫りに心臓が一気に駆け出して、思わぬ幸運に顔が熱くなる。 当然、メニューの説明は右から左。
『以上だけど、どれが良いかしら?』
オススメの説明を終えて微笑みながら顔を向けた彼女がハタッ…と止まる。
意外に近い距離にお互いドギマギしてぎこちなく目をそらす。彼女は仕事が絡むと途端に無防備で無邪気になるから、思いがけない幸運に俺は堪まらず…。
って、なに考えて(想像して)るんだろう、俺は。 あり得ない展開だし、こんな想像するなんてただの変態だ。 とにかく。
大体、認めたくはないが俺と彼女の関係がただの店主と客だったら、どう考えても今みたいな幸せの立ち位置にはいない。 あぁ、間違いないね。 自慢出来ることじゃないけどな。 自分や彼女のこれまでに対して”もしも〓〓だったら”と考えたって無意味でしかないことは分かってるんだが、ついつい考えてしまう。 理由は、今手にしているラッキーが、ただ単に彼女と同じ村で生まれて、隣の家で、尚且つ同年代だったという”自分の力とは全くもって無関係”の現実からの恩恵によるものだけ…、というのを認めたくないからだ。 少しくらいは、”自分”という”存在”が今の幸せを掴み取ったのだと…自分に自信が持ちたかった。 そうでなければあまりにも彼女と自分の差が大き過ぎて萎縮してしまう。
……萎縮したところで、誰もそのことに気づかないだろうけど…。
「クラウド、さっきからなに百面相してるの?」
…。 びっくりした。 いつ、こんな近くに来てたんだ?
「私に気づかないくらい、なに考えてたの?」 「…別に」 「ふぅ〜〜ん」
……そんな可愛い悪戯っぽい顔してもダメだ、言えるわけがないだろ。 なんだよ、その何かを企んでる顔は…。
「ふふ、別に何も企んでないわよ、失礼ね」 「なにも言ってないだろ」
なんでバレた? 読心術でも身につけたのか? 「クラウドは分かりやすいもん」
にっこり笑ってそう言ったティファに心臓が跳ねた俺の耳に、 「旦那のどこが分かりやすいんだ…?」 「めっちゃ分かりにくいっつうの」 という、客のヒソヒソ話す声が聞こえた。
「ティファちゃんだけだよな、そんなこと言えるのは」 「あ〜あ、俺も彼女欲しい」
…。 まぁ、いいか別に。 どんな理由があったとしても、現実に今、ティファ(ラッキー)を手に入れてる事実は変わらないんだし。 むしろ考えるべきなのは、いかにしてこのラッキーをずっと手にし続けられるかだな。
全く、このラッキーは余計な虫までわんさか引き寄せるんだから気が抜けない。
「アンタの力じゃない。ただ、ティファと幼なじみだったってだけだろ!」
まったくもってその通り。 だがここから先の未来(道)は俺自身の手で掴み取っていく。 それこそ他の虫が入る隙なんかないくらい、ティファを惹きつけて離さなくなるよう、俺自身がティファのラッキーになれるように。
だから。
「悪いな、諦めろ」
自信なんかあるわけないが、それらしいフリをして当面は追い払うことにしよう。
いつか、余計な虫もよりつけなくなるくらいの存在になってみせる。
いつになるか分からないけどな。

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