いつもと同じ、可愛いドアベルが一番最初に出迎えてくれたセブンスヘブン。
 だが、店の雰囲気がいつもと違うことにその常連客はすぐに気がついた。
 その原因にもすぐ気づいて訝しげな顔になった。
 カウンターのスツールに座る人物。
 一瞬、華奢な『彼』が少しばかり太ったのかと思った。
 タバコまでたしなむようになったのか!?と驚きもした。

 しかし、そこに座る人物が『彼』でないことにすぐ気づき、新たな疑問が沸いた。
 なぜ彼以外の男が座っているのか…と。
 彼以外の人間が座ることを許さない店主を見る。

 ティファは、とても嬉しそうに笑っていた。







はにかみ







「はい、温か定食お待ちどうさま〜」
「はい、メンズセット2名、お待たせしました!」

 子供たちの張りのある声がにぎやかな店内でもよく聞こえてきて、その男はタバコをくわえたままニッ…と笑った。
 ウィスキーのグラスを上からつまむようにして持ち上げる。

「相変わらず良く働くねぇ、デンゼルとマリンは」
 感心感心〜!

 楽しげに親しみを込めてそう言った男に、常連客の何人かがイヤそうな顔をした。
 明らかにこの店に通い慣れているわけではない男が、知ったような顔をして子供たちを評するのは彼らにとって面白くないことだった。
 しかしながら、文句を言ったりましてや諌めることなど出来るようなことでもないのでそれが出来る唯一の人に期待を込めてチラリ…と視線を送る。
 しかしながら、その期待をかけている当の女店主は、諌めるどころか誇らしげに胸をそらせた。

「ふふ、そうでしょ?本当に大助かりなの」
 もっと褒めて〜♪

 そう言わんばかりにご満悦だ。
 密かな期待を裏切られてしまった客たちは、ムッとしたまま面白くなさそうにめいめい、グラスを口に運んだり料理を口に運んで飲み込んだ。
 いつもは飛び切り美味しい彼女の手料理&アルコールが味気なく感じる…。
 客たちのささやかな不満など勿論ティファは気づいていない。
 いつになく上機嫌でクルクルとよく働いている。
 彼女の明るい姿を見たいがためにこの店に通っているといっても過言ではない客たちは、しかし彼女のそんな姿を今日は喜べない心境に陥っていた。

 大体、なぜに彼女はあんなに『むさくるしい』男に愛想を振りまいているのだろう?
 いや、そもそも何故、彼女は『彼』以外が座ることを良しとしないカウンターのスツールにその新参者を座らせているのか。
 あの席はこの店に通うようになって久しい者たちにとっては憧れなのだ。
 絶対に座れない席。
 その席に座ることが許される男はただ1人。
 いつか、その1人に自分がとってかわれたら……?などと、夢想すること数知れず。
 想像だけなら自由なのでひっそりとその席に座る自分を思い描いてつかの間の幸せに浸ってみたり…。
 自分は勿論だが、他の客たちもその席に座れないのだから『彼』以外が座って落ち込む日が来るなどあり得ない!そう思っていたのに…。

「ティファ、にしてもお前ぇ、ちょっと働きすぎじゃないのか?」

 客の1人がピクリ…と眉を寄せた。
 新参者の分際で、彼女のことを呼び捨てに!?
 度し難い無礼者に彼は感じたのだ。
 これは一言文句を言ってやらないと…!

「そんなことないわよ。むしろ私よりも子供たちの方が申し訳ないなぁっていつも思ってる…」

 これっぽっちも不快に感じていないような返事。
 客は上げかけた腰を再び椅子に沈めて肩を落とした。

 少し気落ちしたようなティファに、丁度カウンターに戻ってきたデンゼルが呆れたような声で話しによってきた。

「また?ティファったら本当に心配性だなぁ。もしもしんどかったりイヤだったら俺もマリンもちゃんと言うって」
「うん…でもね、やっぱり…」
「だから〜。俺は逆に働けて嬉しいの。ティファやクラウドに『家族』って言ってもらってすっごく嬉しいんだからさ、家族ならやっぱり支えあいだろ?」
「…デンゼル」
「ほら、ティファ、そんなことよりメニューの追加。ピリ辛定食3つね〜。麺類はうどんでよろしくだって」

 テキパキと下げた食器を流しの中に入れながら新しいグラスに水割りを作る少年に、カウンターの男がカラカラと笑った。

「おう、流石だな、デンゼル。お前ぇも一人前の男だ!」

 ちょっぴりからかったようなその言い様に、カウンター席についていた他の客がティファとデンゼルの様子をさりげなく見守った。
 もしも2人が不快な顔をしたらすぐさま『ナイト』として登場する心積もり……なのかどうか。
 あからさま態度は取っていないが、この男の存在がティファたちにとってどういうものなのか興味はあるのだろう。
 デンゼルもティファも、不快な顔は微塵も見せなかった。
 それどころか、ちょっぴりはにかんだように少年は笑って見せた。
 いつも自分たち客には闊達に笑う少年がはにかむように!?
 見守っていた客の胸中が小さく波立つ。

「へへ。ありがと」
「おう。しっかり頑張れよ」
「うん!」

 ニッコリ笑ったその笑顔の中に、いつもは見られない『テレ』のようなものを見つけて、客たちはちょっぴりモヤモヤしたものを感じつつ、新参者を見た。
 いったい、この男はなんなんだ?
 今までのやり取りから、ティファたちと親しい仲にあることはイヤというほどわかった。
 が、どういった関係なのかがさっぱり分からない。
 いや、勿論、自分たちはただの『客』なので、ティファたちの知り合い関係がどうこう言えるはずもないし、また知るべきことでもない。
 しかし!
 自分たちにとって、このセブンスヘブンの住人は特別な存在だった。
 その特別な存在であるティファたちにとって、自分たちは『特別な存在』ではない。
 ちゃんとその辺はわきまえている。
 だからこそ…!なのだ。
 自分たちは特別な存在になりえていないのに、新参者は既に『特別な存在』としてティファたちの中に居場所を持っている。
 それが面白くない。
 そう、これはただの嫉妬。
 ヤキモチ、羨望、妬み…。
 しかも、やや一方的な感情で構成されているのだから性質が悪い。
 カウンターの新参者にも、ましてやティファたちにも文句を言える立場にないのだから。
 しかし、世の中どこにでも『空気を読まない人』というか『強引・グ・マイウェイ』な人がいる。
 なんの法則!?と突っ込みを入れたくなるくらい、なぜかいるのだ、そういう人が。

 そして、今夜のセブンスヘブンにもやっぱりいた。


「ティファちゃん、ボクにもメニュー」

 楽しげに話をしているティファへ、カウンターの端っこに座っていた男が声をかけた。
 丁度、新参者とは正反対の位置。
 呼びかけられたその声が非常に投げやり…というか、不愉快そのもの。
 ティファはカウンターの新参者と笑いながら話をしていたのだが、手元の作業を流れ的に止めることなく動かしつつ、自分を呼んだ男へ顔を向け、表情を引き締めた。
 新参者も顔を向ける。
 男はブスッ…と頬杖を突いていた。

「はい、ごめんなさい、少しだけお待ちくださいね」

 丁度、フライパンに海鮮物と野菜を景気良くぶっ込んだところで、食材の焼けるイイ匂いと耳に愉しい音が立ち上がったところだった。
 …タイミングの悪い…。
 普通ならここで店主が一言謝っているのだし、内心でどう思っていようがひとまず待つことにするだろう。
 だがまぁ、なんと言うか。
 これが本当に『空気が読めない』というか、『自分中心』というか。
 男はますますブスッと頬を膨らませた。


「ティファちゃんさ、その人としゃべる時間はあるのにボクの注文を聞くだけの短い時間はないわけ?」


 ピシーーッ!!

 カウンター付近の空気が凍りつく。
 ティファは文字通り言葉につまり、カウンターに着いていた他の客や、男の真後ろにあったテーブル客は皆、一様にこの男をギョッとして見つめた。


((( なに言ってんだ、この野郎〜! )))


 彼らの顔かたちは皆バラバラなのに、胸中で叫んだ言葉が同じものだとその表情が雄弁に語るのは、一見の価値があるかもしれない。
 とまぁ、それは後になってそう思える余裕が生まれてからの意見なのだが、とにもかくにも、現在進行形で言えば男のつまらない嫉妬・妬みの感情はそのままストレートにティファを攻撃してくれた。
 たまたまカウンターへ空いた皿を下げにきていたマリンが慌てて皿を流しに突っ込み、
「申し訳ありません。私が伺います」
 そう女店主をフォローした。
 しかし、まぁ予想を裏切らないこの男。
 看板娘のナイスプレーを上から目線で見下すと、
「ボク、ティファちゃんにってお願いしてるんだよ、聞こえなかった?」
 などとのたもうた。
 これには他の客も黙っていられない。
 自分の苛立ちをこんな幼子に向けるとは!
 男の隣に座っていた客が思わずたしなめようとした。


「あんだと、コラァッ!」


 が、しかし。
 それよりも早く、新参者が腰を上げた。
 しかも、ちょっと…いや、かなりガラが悪い。
 男の大人気ない態度に怒りを感じた客たちは一瞬で頭が冷えた。
 頭だけでなく、肝も冷えた。
 当の本人は言わずもがな。
「え…っと…いや、だってさぁ……」
 完全に気おされている。

「なにが『だって』だ、言ってみやがれ!」

 既にスツールから立ち上がって5歩分ほど歩いている。
 あとほんの数歩で男に到着〜♪という距離。
 男も腰を上げた。
 無論、応戦するためではなく逃げるため。


「ダメ、待って」


 ヒヤヒヤしながらいつの間にか店内の客全員が見守る中、カウンターの中から店主が男と新参者の間に割り込んだ。
 誰かが、
「あ〜…ダメだってティファさん、そんなガラの悪い男、まともに相手なんかしちゃ…」
 緊張感に耐えかねて洩らしたのが聞こえる。
 またある者は、
「あ〜〜、こんなときに旦那がいてくれたら…」
 この場にいないクラウドを思った。
 さらにある者は、ティファと新参者の間に割り込むべく勇ましく腰を上げた。

 誰も彼も、ティファの安全を一番に思っての行動。
 ティファは真っ直ぐ新参者を見つめていた。

「ごめんなさい、大丈夫だから」
「けどよぉ…」
「うん、ありがとう」

 怒り心頭な様子だった新参者だが、毅然としたティファにたちまちのうちに苦虫を噛み潰したような顔になったが、あえて彼女を押しのけてまで男に抗議をしようとはしなかった。
 渋々、スツールに戻る。
 誰からともなく、安堵のため息が洩れた。
 ティファはスッ…と背筋を伸ばして男に向かって一礼した。

「申し訳ありませんでした」
「あ〜…うん、いや……別に……」

 そわそわそわそわ。
 自分勝手な妬みから頭に血が上っていた男は、一瞬にして血の気を下げさせられ、しどろもどろ、居心地悪そうにそわそわと視線を彷徨わせた。
 ティファは顔を上げると改めて注文を承る旨を口にした。
 そのとき、さりげなくその場にいて成り行きを見守っていたマリンと、マリンのすぐ傍で『兄』の顔をして控えていたデンゼルにウィンクした。

 子供たちがパッと笑顔を咲かせ、新参者はニヤッと笑った…。


 *


「すっかり『店長さん』の顔だな、ティファ」

 2時間後。
 あれから、店内の客は一通り入れ替わっている。
 問題の男も既に店を後にしていた。
 客の回転率が高いセブンスヘブン。
 客が入れ替わっても新参者が『彼』のスツールに座っていることを疑問視しない者はいない。
 それが、この男には可笑しいらしく、今また勘定を申し出た客がジロジロと見てくるのをニヤニヤしながら平然と受けていた。
 もういい加減、3時間以上もいたら分かってくるというものだ。
 まぁ、この席に案内された時も嫉妬交じりの視線を突き刺されたわけだし。

『この席ね、クラウド以外は座れないって決まりなんだ〜』

 マリンがコソッと教えてくれてからは、より一層、この席に座って客の反応を見るのが楽しくなっているらしい。
 て言うか。

「そんなに広い店じゃないのに、クラウド専用の席を作るってどうなんだ?」

 独り、ボソッと呟きながらも、嬉しいことのようで新参者はティファが作ってくれたウィンナーの軽いつまみを口に放り込んだ。
 たまたま隣に座っていた新しい客がその独り言を耳にして、チラッとだけ見た。
 すぐ視線は戻したものの、全身は耳になっている。
 新参者に悪い笑みが浮かんだ。

 おもむろに口を開く。

「お〜い、ティファ。ちょっと良いか〜?」

 呼ばれてティファは顔を上げた。
 彼女は今、他の客の応対中だった。
 しかも、カウンターから一番離れている端っこのテーブル。
 隣の男がピクリ…と眉をひくつかせ、ジト〜ッ…と新参者を見た。
 無言の抗議。

 そんな端っこで注文かよ。注文なら、デンゼルやマリンがいるだろうが!
 ティファの気を引きたいのか知らないが、こういう『離れているところ』にいる場合は、一番近くにいるデンゼルかマリンが注文を聞きに来るって決まってんだ、身の程を知れ。

 言葉にしなくとも、彼がそう思っていると察するにたやすい。
 しかし。

 ティファは話をしていた客に途中で失礼する非礼を詫びて足早に戻ってきた。
 男は目を向いて驚いた。
 このやり取りをたまたま見ていた数名の客も然り…。
 クックック、と人の悪い笑いを洩らしているのは憎たらしい新参者。
 常連客たちの間で共通の思いが生まれる。

 調子に乗るなよ、この野郎!!

 無論、言葉には出さないが。
 態度にも出さないが。
 出さないのだが、しかし腹が立つ!

 イライライライラ。
 客たちのイライラが惜しげもなく発散されるのを正確に感じ取って新参者はまた笑った。
 今度は声に出して…。

「どうしたの、楽しそうね?」

 ニッコリ笑って問うティファに、
「おう。クラウドの奴も大変だなぁ…と思ってよ」
 カラカラと笑いながら新参者はティファの目の前でクラウドを呼び捨てにした。
 命知らず…とまではいかないが、なんと図々しい男だろう。
 客たちがますますムッとする中、新参者は大きく伸びをした。

「じゃ、俺様帰るわ。もうそろそろリーブと約束した時間になるからな」
「もう?残念…。クラウドも帰ってくる頃なのに…」

 待ちに待った新参者のご帰宅〜、という朗報に、イライラしていた客たちがホッと息を吐く。
 しかし、すぐに疑問に思った。

 ん?
 クラウドも帰ってくる頃なのに…?
 というか、その前にこの男、なんと言った???
 リーブと約束した時間…???
 リーブ…って、リーブ・トゥエステイ…!?

 若干混乱する客たちをよそに、他の一般の客たちはティファが知らない男を親しげに話している姿を何の気概等々なく見つめて微笑んでいる。

 ティファもああいうお友達がいるんだ。
 ねぇ、意外だね。
 でも、子供たちもなついてるし、もしかして英雄の一人じゃない?
 あぁ!なるほど、そうだよね。

 まことしやかに囁かれたその囁き声。
 誰が言ったか、その言葉を耳にした『嫉妬組み』の一部分は、
(あ〜、なぁるほど。だからティファちゃん、あんなに親しげだったのかぁ…。成るほど成るほど…って…!?だ、誰!?あの英雄、誰!?!?)
 1人でパニックになっていたりして…。
 とまぁ、黙っているので誰に気づかれることもないのだが。

「また来てくれよな?今度はもっとゆっくりとさぁ!」
「今度は父ちゃんとナナキとユフィお姉ちゃんとヴィンおじさんも一緒に!」
「おう、そうだなぁ。だが、ユフィの野郎はやかましいし、ヴィンセントはなぁ、アイツは音信不通にすぐなるしなぁ。まぁ、ダメもとで誘ってみるわ」

 いつの間にか、子供たちまでもが彼に駆け寄ってそうねだっている。

 …やっぱり英雄のお一人様ですか〜!?

 ヘビースモーカーのその男は、ニヤッと笑うと店内をグルリ…と見回した。
 何人かが慌てて目を逸らせたのを見て、ますますニヤニヤ笑う。
 ティファが怪訝そうに首を傾げたが、彼はなんでもない、と言わんばかりに首を振った。

「じゃ、ご馳走さん、美味かった」
「「気をつけてね〜!」」
「本当に気をつけてね、シド。今日はありがとう、来てくれて。リーブにもよろしく言っておいて」

 ニッコリ笑って店先で見送る3人に、シドはニッカリ笑いつつデンゼル、マリン、そして最後にティファの頭をクシャクシャと撫で回した。
 ティファの頭だけはしつこく何度も。

「おう!3人とも、良く働いてて本当に感心感心!俺様も気張ってくるぜ!」

 デンゼルとマリンはくすぐったそうに肩を竦めて軽い笑い声を上げた。

「もう、ちょっとシド。髪がクシャクシャになるじゃない」

 ティファは、まさか自分まで頭を撫でられるとは思っていなかったのだろう、びっくりしながら逃げてもいいのか、はたまたどうしたらいいのか困っている。
 困って戸惑って、結局甘んじて受けてるティファの顔はなんとも言えず、無防備で子供っぽい。
 ティファのその顔に、ドア近くのテーブルに座っていた若い男がボーっと見惚れた。
 シドはニヤニヤ笑いながらますますティファの頭をクシャクシャと撫で回す。
 それに対してティファが抗議をするが、イヤがっていない。
 やがて戸惑いはくすぐったさに取って代わった。

「シド〜!」
「ハッハッハ!気にすんな、別嬪さんはなにしても別嬪さんだからよぉ。それに、いつも頑張ってるティファにはやっぱたまにこうして『イイ子イイ子』してやらないとなぁ」

 カラカラ笑ってようやっと手を離したとき、ティファの頭は鳥の巣のようになっていた。
 マリンとデンゼルがそれを見て大笑いする。

「もう、3人とも酷いんだから〜!」

 ティファは唇をとがらせようとして失敗し、何とも子供っぽいはにかんだ笑みを浮かべた。
 常連としてセブンスヘブンに結構な期間、通っている客たちの誰も見たことがない姿。
 常連客たちに衝撃が走った。
 シドはそれを視界の端に収めつつ、背を向けてヒラヒラと手を振った。

「じゃあな、クラウドによろしく伝えてくれ〜」

 そうしてシドは、ティファたちと客たちの視線を背に受けながら夜のエッジに消えていった。

 シド・ハイウィンド。
 常に凛と立ち、子供たちを守り、そしてクラウド1人に想いを捧げている女性の鑑のようなティファから、『子供らしい』表情を引き出した男としてシドが憧れ、嫉妬、妬みの対象となったのはそれからすぐのことだった。


 翌日。


「ティファちゃん、いや、ティファ。何かあったら俺に相談しろよ」
「いや、ティファさん……じゃなくてティ、ティファ。このボクに。いつでも駆けつけるから」

「え…?えぇ…皆さん、ありがとう。でも…」

 勘定を終えた客をいつものように見送ろうとしてにじり寄られたティファがいた。
 そしてさらに間の悪い…というよりもお約束のように…。

「俺がいるから無用だ」

「「 げげっ!ク、クラウドさん! 」」

 早く帰宅したクラウドにバッチリ目撃されて、言葉以外にも鋭い牽制のオーラを浴びせられ、『新しい位置』=『兄・父親的な位置』を手に入れようと画策していた客たちは早々に撤退した。


「クラウド、早かったのね!」
「あぁ、ただいまティファ。
シドに気をつけるように言われたしな
「? なにか言った?」
「いや、別に」
「ふふ、そう?ところでご飯にする?お風呂にする?」
「あぁ、じゃあ先に汗流してくる」
「うん、了解。ゆっくりしてきてね」
「あぁ。サンキュ」


((( なにが悲しゅうて『新婚さん』を見ないといけないんだ )))


 客の嘆きなど露知らず、ティファはとびきりの笑顔を向けた。
 客は思った。
『はにかみ』も、この『輝かしい笑顔』も捨てがたい。
 そして、どっちも手に入らない………、と。

 あぁ、せめてどっちかは自分たちにくれても良さそうなのに…。
 ため息をつきつつ彼女の手料理を口に運ぶ。
 気持ちとは裏腹に、今夜の料理もたいそう美味しかった…。








『はい』
「俺様だ」
『あぁ…帰るのか?』
「仕事があるからよ」
『そうか。間に合わなくてすまないな』
「あぁ?いいって。仕事しろ、仕事!!』
『フッ、そうさせてもらう』
「それよりよ、オメェ明日から早く帰った方がいいぜ」
『ん?』
「いやぁ、客どもがあからさまな嫉妬を寄越してくるからよ、思わず煽っちまった」
『……アンタな…』
「怒るなって。だから変な気ぃ持った奴が出てくるかもしれねぇからな、早く帰ってティファ守ってやれや」
『言われなくても。しかし、もうこれっきりにしてくれよな』
「分かったよ。モテる女の護衛は気が休まらなねぇな」
『同感だ。…今回はアンタが原因だけどな』
「ハハハハハ!!許せ許せ。んじゃ、またな」
『あぁ、また』


 携帯を切ったシドの顔は楽しそうなことこの上ない。
 リーブに言い土産話が出来たことと、相変わらずだが安定している弟分、妹分の仲に安心しつつ、歩みを進める彼は、しかし…と呟いた。

「ここまで長かったが……これから先も長いのかねぇ?」

 誰に聞かれることない呟きは、夜の空気に溶けていった。
 知っているのは当人達と満天の星、そして…。

『あいつら…、ほんっとうにいつになったら…』
『まぁ、仕方ないわよ、クラウドとティファだもん。それにしても、シドも皆も苦労よねぇ』
『俺…今度夢に立ってやるわ、気合入れさしてやる』
『あぁ、それイイ、それイイ!じゃあ、私も〜♪』

 星の中でいつも2人を見守っている親友たちだけ…。




 あとがき

 40万キリリク押し付け、第二弾!
 リクエスト内容はこちらでご覧下さい♪
 にしても、本当に素敵なリクをありがとうございまいた!
 だって、中々こういう視点って思い浮かばないよぉ〜(^^;)
 そして、舞々様には共同作業として、ある部分をお願いしてアドバイスしてもらいました〜♪
 さぁ、そこはどこでしょう?(笑)
 ほんっとうにぶしつけなお願いを聞き届けて下さってありがとうございました〜!!

 舞々様にてんこ盛りの愛を込めて〜(*´∇`*)