設定。

 クラウド・ストライフ ==== 高校一年生。
 ティファ・ロックハート === 高校一年生。
 エアリス・ゲインズブール == 高校三年生。
 ザックス・フェア ====== 大学一年生。
 セフィロス ========= 学園理事長代理。(ルーファウスの腹違いの兄で、妾の子供)
 ルーファウス ======== 学園理事長。(セフィロスの腹違いの弟で、正妻の子供)
 宝条 ============ 大学の科学教師。
 リーブ・トゥエスティ ==== ミッドガル警察本部部長でクラウドとザックスの父親の友人。
 ルクレツィア・クレシェント = 高校の科学教師。
 ヴィンセント・バレンタイン = 高校の数学教師。
 バレット・ウォーレス ==== 高校の体育教師。
 シド・ハイウィンド ===== 高校の地理教師。
 シャルア・ルーイ  ===== クラウドとティファの担任教師。
 シェルク・ルーイ  ===== 中学三年生。(ユフィと同じクラス)
 ユフィ・キサラギ ====== 中学三年生。
 ナナキ =========== キサラギ家のペット。

 場所。

 ミッドガルという巨大な都市にいくつもある街の一つである『エッジ』。


 *完璧に見事なまでのパラレルな捏造設定ですので、苦手な方は回れ右でお願いします<(_ _)>





Happy school Life 1






 大きな都市の大きな街に住む青年。
 彼の一日は、けたたましい目覚ましのベルと幼馴染の声で始まる。

「ク〜ラ〜ウ〜ド〜〜、いつまで寝てるのよぉ!」

 掛け布団をスッポリ頭までかぶっていても、彼女の気配にはちゃんと気づいている。
 だが、こうして無防備に起こしに来てくれるのが青年にとってささやかな幸せなわけで…。

「う〜……あともう少しだけ…」
「ダメ!早くしないと遅刻しちゃうでしょう!?」

 ベリ。
 無情にも剥がされてしまう掛け布団の温もりを惜しむようにして目を開けると、一番最初に飛び込んでくる茶色の瞳に心が満たされる。
 毎朝、こうして起こしに来てくれる幼馴染に、彼は幼い頃から恋をしていた。
 しかし、彼女の父親には酷く嫌われているのが分かっているので、自分から彼女の家に行くなど論外!
 放課後はそれぞれに剣術教室と格闘教室に通っているため、学校の外で会うチャンスはほとんどない。
 だから、数少ないこの機会を逃すなど、到底考えられなかった。
 彼女を狙っているライバルは両手の指を使っても足りないのだから…。

「おはよう、クラウド」
「…おはよ…」

 ガシガシと頭を掻きながら挨拶を交わす。
 彼女は気づいていないだろうが、この『寝ぼけた顔をして挨拶をした時』、本当に嬉しそうに笑ってくれるのだ。
 この笑顔を独り占め出来ているのは今のところ自分だけ。
 その幸福をかみ締めつつ、青年はゆっくりと伸びをする。

 この策士!!

 誰かの声が聞こえた気がしたが、クラウドは『興味ないね』というお決まりの台詞を胸の中で呟き、ほくそ笑んだ。
 ティファが怪訝そうな顔をして見せたので、すぐに引っ込めたが。

『悔しかったら俺と同じ立場になってみろ』

 心の中で、朝一番の勝利宣言を行う。
 伊達に長い付き合いで幼馴染をしているわけではない。
 こちらは、彼女の父親に嫌われているという馬鹿でかいリスクを背負っているのだ。
 フェアで戦う以前の問題だ。

「クラウドー、ティファちゃんも、早くしないと遅刻よ〜」

 階下から母の声がする。
 ティファは腕時計を見てギョッとすると、
「早く着替えて来てね!!」
 と言い残し、バタバタと慌しく部屋を出て行った。
 クラウドも枕元の時計を見てギョッと目を見開き、大慌てで身支度を整えた。

 玄関で待機しているティファに合流したのはたったの3分。
 素晴らしい速度だと褒めてもらいたい。
 事実、ティファはニッコリ笑うと、
「早かったわね、じゃあ行きましょ!」
 明るい声を上げて、クラウドの母親にペコリと頭を下げてから玄関を飛び出した。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい、車に気をつけてね、二人とも」
「分かってる」

 素っ気無い一言しか返さない息子を、これ以上ないほど愛しそうに微笑みながら見つめる母の眼差しはいつもくすぐったい。
 もう高校一年生なのだから、いい加減、小さな少年を見守るような目は止めて欲しいものだ…と、青年は贅沢で頭を張り倒されてしまうような望みをいつも抱かずにはいられなかった。

 好きな女の子の前でみっともないじゃないか…。

 理不尽な怒りにも似た不満を母に抱いていることは、隣を走っている彼女に絶対知られてはならない。
 彼女の母親は、自らの命と引き換えにして彼女を産み落としたのだから…。
 そして、青年には父親がいなかった。
 幼い頃、自分の父親について訊ねたことがあったが、その時の張り裂けんばかりに悲しそうな顔を見て、絶対にもう二度と聞かない!と心に固く誓った。
 その誓いをクラウドはこの年になるまで一度も破っていない。

 …とまぁ。
 実にどうでも良い様な、良くない様な。
 そんなわけで(どんなわけ?)、彼女と青年の境遇は『片親しかいない』という共通点があった。
 そのためだろうか。
 ティファは数多にいる幼馴染の中でも、クラウドに心を許している節があった。
 クラウドはと言うと、無口で無愛想、『愛嬌』という人間の美徳を母親のお腹の中に忘れて生まれてきたような傍若無人ぶりを発揮しながらも、何故か女子の間では人気があった。
 しかしながら、当然のように彼女達の好奇の視線を全く無視し、(いや、気づいていないのだろう、とは彼の親友談)ただ一途にティファ嬢のみを見つめて16年生きてきた。
 だから、青年の幼い頃の記憶は同年代の友人と遊んだ記憶はなく、ティファとこっそり二人だけで遊んだことか、彼女が他の幼馴染達に囲まれて(しかも男の子が圧倒的に多い)いる姿しかない。
 クラウドのそんな人付き合いを、母は非常に心配していた。
 クラウドもそんな母の心配に気づいていたが、さりとてどうして良いのか分からず、邪魔なプライド故に寂しい時期を過ごしたものだ。
 だが、寂しいだけではなかった。

『クラウド、毎日どうして遅刻するの?』

 小学校低学年の頃。
 クラウドと奇しくも同じクラスになったティファに、そう問われたのがきっかけだった。
 その時、当時少年だったクラウドは、
『……起きられないから……』
 ブスッとそっぽを向きながら、出来たばかりの傷を隠すように頬杖をついた。
 実は、いじめられていたのだ。
 ティファに想いを寄せている少年達から、登校時に毎日待ち伏せされては、殴られたり殴ったり…。
 蹴ったり蹴られたり。
 噛み付かれたり引っ掻いたりの喧嘩。
 しかも一対多数という卑怯な喧嘩。
 いつも最後は負けていたが、頑としてクラウドはそれを周囲の人間に言わなかった。
 いち早く我が子の異変に気づいた母親にも口を割らなかった。

 何が何でも、ティファには知られたくなかったからだ。

 母親に知られたら、いずれはティファに知られるだろう。
 幼いながらも、好きな子にかっこ悪いところは見せられない、という『男のプライド』を持ち合わせていたクラウドが咄嗟についた嘘。
 まさか、その嘘のお陰で…。


 ― 『じゃあ、私が毎日起こしに行ってあげるわ』 ―


 という、ラッキーな展開になるとは夢にも思わなかったものだ。
 それ以来、ティファは目を丸くしてビックリしているクラウドをよそに(その他、やり取りを聞いていたクラスメートの驚きも込めて)、毎朝甲斐甲斐しく少年を起こしに通った。
 お陰で、クラウドのいじめは激減し、その代わり下校時に待ち伏せされるという展開になってしまったのだが…。

 今ではクラウドも街の剣術道場に通っており、いじめを目論む者達など毛ほども痛くないという進歩振りだ。

「クラウド、今度の剣術大会、頑張ってね」
「あぁ…あれか」

 軽快に走りながらティファが息切れ一つせずに微笑みかける。
 クラウドは空を仰ぐようにしながら、同じく息切れ一つせずに興味なさそうな声で答えた。

「別に俺が出るって決まってないぞ?」
「絶対にクラウドは選ばれるわ!だって、クラウド以上に強い人なんかいないじゃない」

 目を輝かせながらこぶしに力を入れるティファに、くすぐったいような…照れくさいような、甘酸っぱいものが胸に広がる。
 だが、悲しいかな、この青年は本当に表情が乏しい。

「……さぁ…どうかな…」

 軽く肩を竦める様にして、興味なさそうな顔のまま、高校への道のりを急いだ。
 周りで同じく急いでいる同校の生徒達が、息を切らせながら恨めしそうにその背を睨む。

『バ〜カ』

 心の中で舌を出し、クラウドはその恨めしい視線を跳ね飛ばした。


 *


「フハ〜ッ、ギリギリセーフだったね」

 流石に教室に着いた頃、ティファは軽く息を弾ませ、額に汗を浮かべていた。
 一方、クラウドはケロリと澄ました顔で、
「そうだな」
 彼女に素っ気無く一言だけ返すと、
「お〜、今朝も夫婦で仲良く登校か〜?」「羨ましいねぇ!」
 クラスメートの冷やかしを完璧にスルーしながら席に向かう。
 ティファは、ほんのちょっぴり寂しそうな顔をしたが、すぐに女生徒の友人に声をかけられて笑顔を向けた。

「ねぇねぇ、ティファ!今日の数学の宿題見せて!」「お願い〜、もう全然わかんないの〜!」

 手を合わせて拝み倒される。
 笑いながら「いいよ、また後でね」と、軽くオッケーサインを返したティファに、
「お〜!俺も、俺も!!」「俺も頼む〜、ティファ様〜!!」「姫様ー!!」
 男子生徒がここぞとばかりに喰い付いた。
 ティファと仲良くなりたいと望む男子生徒は多い。
 幸運にも同じクラスになれたのだ。
 二年になるまでの一年間、どうにかして彼女の隣に立つ権利をクラウド・ストライフから掻っ攫いたい!
 そのためには、情けない男になろうがなんだろうが、なんでもやってやる!!

 男子生徒達の目は、女生徒達の目にとても無様に映っていた。

「や〜ねぇ…」「本当に…」「ティファは人が良いから…」「でも、いい加減気づいたら良いのにねぇ」
「「「「 無駄なのに… 」」」」

 チラリ、と視線を一点に流す。
 窓際の席に座り、頬杖を着いて校庭を眺めている碧眼・金髪の美男子。
 まったくもって『興味ないね』という風を装っているが、青年から発せられる不機嫌オーラに、彼女達は『女の勘』を働かせるまでもなく、ガッツリと察知していた。
 ティファがクラウドをどう想っているのか…も。

 お互いがお互いを意識していることに気づいていない鈍感カップル。
 誰かがコソッと一言助言したらすぐにでもカップルとして成立しそうな二人。
 だが、誰もそれをしない。
 何故なら…。

「「「「 二人とも鈍感だから、言っても『気のせいだ』『気のせいよ』で片付けるわよねぇ 」」」」

 …。
 …実に二人の本質を良く見抜いている。
 恐らく、お互いが自ら気づかないと、いくら周りから助言をしても徒労に終わるだろう。
 そして、女生徒達と数名の男子生徒は、こんな『不器用カップル』をもう少しだけ鑑賞していたかった。
 だって…。

「良いわよ。でも、あの子達の後でね」
「「「 ありがとう!!! 」」」

 ティファが数学の宿題を見せることを快諾したことに、(下心満載で)頼み込んでいた男子生徒達が狂喜乱舞した。
 と。

 ギッ!!

 窓越しにクラウドがその生徒達を睨みつける。
 鏡のようにその殺気が反射して男子生徒に突き刺さったのを、女生徒と一部の男子生徒は確かに見た。
 小躍りして喜んでいた男子生徒達が、ビシッ!!と一瞬石化する。
 その頃にはティファは自分の席に着いていたので、その変化には気づかなかったが、張本人であるクラウドと女生徒、数名の男子生徒はバッチリとそれを確認していた。


「なにやっている。さっさと席に着け」

 ガラリ。
 隻眼の美人担任であるシャルアが教室に一歩入るなり、固まったままの生徒をジロリ、と一瞥した。

 一部始終を見ていたクラスメート達は、そのコントのようなやり取りに肩を震わせながら必死に笑い声を我慢した。
 そう。
 これが見たいのだ、もう暫くの間は。

 鈍感な二人が織り成す珍喜劇。
 そんじょそこらの漫才師よりもうんと笑わせてくれる天然ボケ満載のカップル。

 正直、クラウドの恋人やティファの恋人になりたい…と、淡い恋心を最初は抱いた者もいる。
 だがすぐに諦めた。
 本人達は認めていないが、どう見ても二人は互いを必要としているし、なによりお似合いだ。
 自分達が彼や彼女の隣に立って街を歩く姿を想像し、溜め息と共に諦めたものだ。
 だってどう考えても、ティファやクラウド以上に自分が彼らに相応しいとは思えない。
 と言うか、隣に立ったら自分達のみすぼらしさが浮き彫りになってしまう。

 人間、分相応、不相応と言う言葉がある。
 そのことを賢明な生徒ほど、早くに理解し、諦めたのだ。
 逆に美形であることを全くもって意識せず、普通に接してくれる二人に好意が湧いた。
 純粋に友達になって、楽しく笑顔で高校生活を彼らと送った方がうんと良い思い出になる。

「おい、さっさと席に着かないと欠席扱いにするぞ」

 隻眼でギロリ…と睨まれ、石化していた生徒達は慌てて自分の席に突進したのだった…。


 *


「んで、お前はどうなんだよ」
「…なにが…」
「だ〜か〜ら〜!」

 クラウドはクラスメートの男子にじれったそうな声を上げられて、眉間にしわを寄せた。
 不機嫌そうに前を向いて、校庭のトラックを走ることに集中しようとした。
 巨漢の熱血体育教師が、「こらー!まじめに走れー!!」と怒鳴り声を上げているのだ、これ以上ノルマを増やされてなるものか。
「クラウド、今度の文化祭でどうすんだよ!」
「だからなにが…」
「後夜祭に決まってるだろ!?ロックハートを誘うのか!?」

 後夜祭。
 それは、文化祭の後に開かれるパーティーのことだ。
 そして、ここ『エッジ学園』での後夜祭にはジンクスがあった。
 想いを寄せる異性と二人きりで、満天の星空の元、ダンスをすると永遠に結ばれる…という、なんとも『ありがち』なジンクス。
 しかし、結構…、かなり…、このジンクスは学生達の間では真剣勝負として受け止められていた。
 ただでさえ、想いを寄せる相手に告白する絶好のチャンス。
 それが後夜祭。
 その後夜祭についてまわっているこの素晴らしいジンクスを、何が何でも手にしたい!
 そう思う男女は数知れず…。
 クラウドにからんでいる男子生徒は、言わずもがな、ティファ狙いだ。

『俺が誘わなかったらお前が誘うとでも言うつもりか…?』

 不機嫌にそう思いながら、クラウドは黙ったまま、走るスピードを上げた。
 絡んでいた生徒が、まだなにやら背中から叫んでいるが聞こえないふりをする。
 幸い、クラウドはスポーツ系でかなりな身体能力を持っていた。
 クラスで一番の運動神経保持者は、こういう時に有難い…と、いささか情けないことを考える。
 その時、隣のコートで同じく体育の授業を受けていた女子生徒に気がついた。
 一瞬でティファの姿を見つける。
 彼女のスラリと伸びたしなやかな肢体は眩しいばかりだ。

「………」

 思わずスピードが落ちそうになり、クラウドは気を引き締めた。
 こんなところでそういう『失態』をしでかしてみろ、後が怖い。
 何しろ、自分とティファをネタにしてからかう同級生が山ほどいるのだ……迷惑なことに。

 ティファ達女生徒の体育の授業内容はバレーボール。
 そして丁度、ティファのサーブの番だった。
「「「 そ〜れ! 」」」
 という女生徒達の掛け声と共に、ティファが軽やかにボールを放り上げ、ジャンプする。

 ドビシュッ!!!!

 誰がこんな恐ろしい音を立てて飛んでくる魔球を受けられるだろう…?
 敵側のコートにいた女生徒達は、一応ボールを受ける構えを取ってはいたが、ギュルギュルギュルギュル!!という異音を発しながらコートに一瞬停滞し、白い煙を細々上げたボールを前に、真っ青になって固まる。
 何故か、味方側のメンバーもビッシリと額に汗を浮かべていた。

「あ、ごめんね、ちょっと力加減が…」
 アハハ〜…。

 取り繕うように引きつった笑いを浮かべて謝るティファに、クラウドはとうとう堪えきれず、唇の両端をキュッと持ち上げた。
 彼女の身体能力はもしかしたら自分以上ではないだろうか…?
 そんなことをふと思い、放課後の剣術教室で更なる修行を心に固く誓うのだった…。

「くぉら、クラウド・ストライフ!しゃきしゃき走れーー!!」

 野太い声を大にして熱血教師、バレット・ウォーレスが怒鳴る。
 クラウドは持ち上げていた口角をキュッと引き締めると、走りながら浅黒い肌をしている体育教師を睨みつけた。
 ティファが驚いてこちらを見た気配に気づいたからだ…。

『ティファの前で恥かかせるな…』
 だが、その殺気もこの教師には通じないらしい。
「よっし、そのやる気の表情だ、ストライフ!ガンガン走れー!」
 オラオラ、他の連中も男なら走れ、走れ、走りまくりやがれー!!

 体育。
 それは、ここ『エッジ学園』の男子生徒にとってとても嫌いな授業の一つだった。
 普通の高校なら、体育の授業は人気があるだろうに…。


「おらーー!!走れーー!!!」
「「「「 う〜〜っす… 」」」」


 地獄の底から這い出す亡者のような声で、男子生徒達は地獄の一時間を命を削る思いでこなすのだった…。


 *


 さて。
 学生にとって嬉しい時間がある。
 それは昼食の時間だ。
 昼休みは一日の高校生活の中で一番長い休み時間。
 さっさと食事を採り、思う存分仲間とじゃれ合える素敵な時間だ。
 と言うわけで…。

「ティファ、こっちの肉団子あげるからウィンナー頂戴」
「いいよ、はい」
「わ〜、この卵焼き美味しそう!」
「あ、食べる?はい」
「キャー、ありがとう!」
「良いなぁ、じゃあ私、これあげるからそっちと交換してよ」
「うん、はい」
「「「 美味しい〜♪ 」」」

「良いよなぁ…、あれって全部ロックハートの手作りなんだろ?」
「美味そうだよなぁ、女子は役得で羨ましいぜ…」

 華やかに笑いながら嬉しそうに食べている女生徒達を、むさくるしい男子生徒が固まって購買で買ってきたパンやおにぎりを頬張りながら羨ましそうに見る。
 そんな中でクラウドは一人、母親手作りの弁当を黙々と食べていた。

「クラウドは良いよな、お袋さんの手作り弁当があってよぉ」
「俺、もう購買のパンは飽きた」
「俺も。たまには俺のお袋も作ってくれねぇかなぁ」
「って言うか、俺はロックハートに作ってもらいたい!」
「「 俺も〜!! 」」

 最初はクラウドの弁当持参を羨んでいたはずなのに、いつの間にか話が摩り替わっている。
 クラウドは最後のから揚げを口に放り込むと、ジト〜ッと級友達を見た。
「お前ら…自分のお袋に頼むことから始めろよ。ティファは母さんがいないから自分で作る以外、仕方なかったんだ」
 若干責めるような口調で言うと、溜め息をこぼした。

『俺だってティファの弁当食べてみたいっつうの…。いや、別に母さんの弁当が不味いってわけじゃないけど…』

 こう見えてこの無愛想青年、女手一つで育ててくれた母に弱い。
 だからこうして、級友達にからかわれながらも、『からかわれるから止めてくれ』と母に弁当作りを止めてくれるよう頼んだことは一度もない。

「クラウド、お前幼馴染なんだろ?ロックハートの手料理、食ったことあるのか?」

 興味津々に顔をのぞかれる。
 周りにいた級友達の目が自分に集中している。
 そしてクラウドはちゃんと気づいていた。
 自分と同じグループで食べていない他のクラスメートも耳をダンボにして聞き耳を立てていることを。
 立てていないのはティファのグループくらいだ。
 クラウドは溜め息を吐きながら、
「想像に任せる」
「「「「 えぇぇええ!? 」」」」
 不満げな非難の声をサラリ、と受け流しながら腰を上げ、まだ騒いでいる教室を後にした。
 ドアから出る瞬間、ビックリしたような顔をしているティファに気づいたが、わざわざ説明するために彼女の元に行くのもなんだかなぁ……。
 ということで、彼女も無視して廊下へ出る。
 どうぜ彼女のことだ。
 そのうち…。


「クラウド」

 ほら。追いかけてくるという予想は大当たり。
 クラウドが屋上に着いたと同時に、ティファが息せき切って駆けてきた。
 きっと、クラウドが出て行って時間をわざと空けてからこうして駆けてきたのだろう。
 ティファとていくら鈍感でも、クラウドと自分が好奇の視線を集めていることくらい分かっている。
 だから、あまり人目につくようなことはしないように…と気を使っているのだが、結局こうして追いかけているのだから、無駄な足掻きだろう…。

「さっきの騒ぎは何?」
「別に」
「…本当に…?」

 屋上のフェンスにもたれるようにして座り込み、空を仰いでいるクラウドに、ティファが心配そうに顔を覗き込んだ。
 至近距離でティファの顔を平静に見つめるなど、クラウドには出来ない。
 そっと視線を逸らせながら、
「何でもない、気にするな」
「そう……」
 彼女の声が寂しそうに聞こえてちょっぴり罪悪感が湧いたが、さきほどのことを説明するのはいささか面倒だ。
 それに、本当になんでもなかったのであって、あいつらが騒ぎすぎなだけ。
 何を説明したら良いのやら……。

 などなど、グルグルと堂々巡りの思考回路に陥っていると…。

「あら、また女の子を泣かしてる」
「「 エアリス 」」

 屋上の扉の前に、花のように微笑んでいる美しい女生徒が立っていた。

「クラウド〜、そんなに女の子いじめてるとザックスに告げ口するわよ?」
「!!な、違う、いじめてないし泣かしてない!それに、なんだよその携帯!校則違反だろ!?」
「あら、大丈夫よバレなきゃね」
「……俺が先生に密告してやる」
「あら、出来るならどうぞ?ザックス、きっと悲しがるわ、私とラブメールを出来なくなって。そんでもって、クラウドには素敵な感情を抱いてくれるのよ」
「……なんだよ、その『素敵な感情』って…」
 にこやかに微笑んでいた彼女の顔が、一変。
「クラウドへの殺意に決まってるじゃない」
 小悪魔スマイルへ…。

 クラウドはガックリと頭をうなだれて敗北を認めた。
 そんなやり取りに、ティファは先ほどの心配そうな…悲しそうな表情から笑顔に変わる。
 クスクスっと笑うと、
「エアリス、ザックスとは仲良くやってるの?」
「ふふ、勿論よ。だってザックスは私にべた惚れですもの〜」
 まるで高笑いするかのようにそう言ってのける。

「……
この万年バカップル……」(小声)
「何か言った、クラウド?」
「いいや…別に…」

 空っとぼけるクラウドに、エアリスは小悪魔スマイルのまま面白そうに口を開いた。
「あ、今度の剣術全国大会、クラウドも出るんだって、応援行くわね」
「は!?」

 今朝、登校中にティファと話しをした例の剣術大会。
 その選手はまだ選ばれていない。
 それなのに、彼女が言い切った…ということは…。

「ザックスか!?」
「そうよ。誰が他に教えてくれるのよ」
「なんで選手の俺じゃなくてあんたなんだ!!」
「私がザックスの可愛い彼女だからよ」

 クラウドは絶句した。
 もう何を言っても彼女には勝てないことが分かりきっているし、腹立たしい相手は彼女ではなく、兄弟子のザックスなのだから。

『あんの……お調子者め〜〜!!』

 胸のうちの荒れ狂う気持ちを吐き出すことも出来ず、結局その日の昼休みは無情にも終わりを告げたのだった…。



 あとがき

 ついに…ついに手を出してしまった『学園パロ』!
 うわ〜…禁断の地に手を出しちまったーーヽ(□≦ヽ))...((ノ≧□)ノ

 ま、まぁ、なんとかなるかな…(^^;)

 毎回何かの読みきりバージョンとしてこれから不定期更新していく予定です。
 あのキャラ、このキャラの出番をどうぞ楽しみにお待ちくださいませ<(_ _)>