設定。

 クラウド・ストライフ ==== 高校一年生。
 ティファ・ロックハート === 高校一年生。
 エアリス・ゲインズブール == 高校三年生。
 ザックス・フェア ====== 大学一年生。
 セフィロス ========= 学園理事長代理。(ルーファウスの腹違いの兄で、妾の子供)
 ルーファウス ======== 学園理事長。(セフィロスの腹違いの弟で、正妻の子供)
 宝条 ============ 大学の科学教師。
 リーブ・トゥエスティ ==== ミッドガル警察本部部長でクラウドとザックスの父親の友人。
 ルクレツィア・クレシェント = 高校の科学教師。
 ヴィンセント・バレンタイン = 高校の数学教師。
 バレット・ウォーレス ==== 高校の体育教師。
 シド・ハイウィンド ===== 高校の地理教師。
 シャルア・ルーイ  ===== クラウドとティファの担任教師。
 シェルク・ルーイ  ===== 中学三年生。(ユフィと同じクラス)
 ユフィ・キサラギ ====== 中学三年生。
 ナナキ =========== キサラギ家のペット。

 場所。

 ミッドガルという巨大な都市にいくつもある街の一つである『エッジ』。


 *完璧に見事なまでのパラレルな捏造設定ですので、苦手な方は回れ右でお願いします<(_ _)>





Happy school Life 3






 放課後。
 クラウド・ストライフは幼馴染のティファ・ロックハートと何となく一緒に下校する。
 下校後に2人が通っている剣術道場と格闘教室は途中まで道が同じだということと、2人とも気づいていないがお互い『幼馴染』という枠を超えた想いを相手に持っているからこその自然な行動。
 だから、級友達にからかわれたりしながらも、どうしても一緒に下校することをやめられない。
 なんとなく。
 なんとなく、微妙な距離を保ちながら言葉も少なく黙々と歩く。
 時折ティファが今日学校であった出来事を笑いながら話し、クラウドがそれに相槌を打つくらいだ。
 それくらいの距離。
 2人の心はとても近くなっているのに、どうしても本心が分からないから自然と一緒に並んで歩くのも微妙に離れている。
 クラウドとティファが並んで歩いているその距離は、ゆうに人一人分ある。
 その距離がもどかしい。
 特にクラウドにとって、最近はその距離がとても歯がゆく感じるようになっていた。
 きっかけはティファの下駄箱に詰め込まれていた大量のラブレター。
 内容は学校1・2を争う美少女としての彼女へ純粋に恋心を寄せているものもあれば、ただ単に好奇心から誘っているものもあるだろうことは、いくら鈍感なクラウドにも分かっていた。
 純粋にティファに想いを寄せている男からの手紙は嫉妬で腸が煮えくり返りそうだ。
 だが単なる好奇心からの手紙は、彼女をそんな風に『珍しいもの扱い』をしているようで、やはりムカムカと苛立ちが募る。
 だから…。
 今年、クラウドは何とかティファと『幼馴染』という一線を越えたいと思っていた。
 そのためには、やはり…。

「後夜祭……か…」
「え?なに?」

 思わず心の声が肉声になっていたことにクラウドはビクッと後ずさった。
 まさかティファに聞かれるとは!
 彼女は丁度楽しそうにクラスメートの男子が危うくシド・ハイウィンド地理講師に『ゴムなしバンジージャンプ』をさせられそうになった話をしていたから、まさか聞かれたとは思いもしなかった。
 と言うか、心の声が口から出ているとは…。
 ティファが話していた問題の生徒は、マジ泣きしそうになりながら、
「決して先生の授業をサボったりいたしません!!!!』
 と謝罪を繰り返し、なんとか難を逃れることに成功した。

 彼は、クラスメート1のお調子者で、無愛想なクラウドにもなんだかんだと話しかけては親しくしてくれている。
 そんな彼が、ついうっかりシドの授業を遅れてきてしまったのだ。
 理由は、ただ単に保健室で睡眠不足を補うためにベッドでぬくぬくしてしまったというくだらないもの。
 彼は中々のハンサム青年で、結構モテル。(ティファ視点から言うと、『クラウドの足元にも及ばないわ』ということになるのだが)。
 だから、彼の睡眠不足の原因は、まぁ…、義務教育を抜け出したとはいえ、良い顔をするわけには到底いかないもの。
 彼が保健室に忍び込んだ時、丁度保険医は不在だった。
 彼にとっての一瞬の幸福は、すぐに地獄に変わった。
 彼が授業に出ていないことに当然シドは気づいたからだ。
 そして、シドはクラスメートに彼の居場所を問うた。教師として当然だ。
 最初はクラスメートも知らない振りをしていたが…。

 ―『じゃあ、全員俺様の飛空挺に乗せてやる』―

 という一言で、あっさりと彼は保健室にいることを担任にクラスメート全員から暴露され、あえなく御用となったのだ。
 この学園で地理講師が言う『俺様の飛空挺に乗せてやる』と言う言葉は、『全員、パラシュートなしで空の旅を味わえ』ということになるのだ。
 誰がそんな命がけの授業を受けたいだろうか。

 クラスメートが心の中で当の男子生徒の無事を祈ったり、『自業自得だよなぁ…』と苦笑したりしていた時、男子生徒は昨夜、共に過ごした『恋人の1人』との甘いひと時を思い出しながら素敵な睡眠時間を貪っていた。
 たたき起こされた男子生徒が天国と地獄をいっぺんに味わいながら、涙ながらに必死になって謝罪をするのも頷けると言うか…、やっぱり自業自得と言うべきか…。

 なんと言うか…、クラウドとティファの通っている高校教師はどれもこれも一般教師をぶっ飛んでいる…。

 ティファが楽しそうに、でもどこかぎこちなく笑っていたのをクラウドは上の空で聞き流していた。
 何しろ、頭の中は文化祭の後夜祭でいっぱいだったからだ。
 どうしても、今度の後夜祭を彼女と一緒に過ごしたい。
 たとえ、くだらないと思えるジンクスであったとしても、それに縋ってしまいたいくらいにクラウドの気持ちはある意味追い詰めれていた。
 ティファはいつも屈託の無い笑顔を向けてくれる。
 その笑顔に心が温かくなる。
 彼女が笑いながら自分を見てくれるとなんとも満ち足りた気持ちになる。
 そして、その満ち足りた気持ちはあっという間に『もっと!』という貪欲な欲望に取って代わる。
 それなのに、ティファとクラウドの間には何も無い。
 幼馴染でクラスメート。
 それしかない。
 でも、もうそれだけでは満足出来なくなっている。
 ティファがモテるのは幼い頃からだ。
 彼女が本来持っている『鈍感』という美点でもあり、欠点でもあるものがある故に今まで特定の異性が彼女の周りをべったりしていることもなかった。
 だが、もうそろそろ彼女に特別な異性が現れてもおかしくない。
 何しろ、自分達はまさに青春真っ只中なのだ。
 こんなに魅力的な存在が、いつまでもフリー状態でいるはずがない。
 だから、クラウドは焦っている。
 ティファが昔からずっと、ただ1人だけを見つめていることに気づかないまま、悶々と悩んでいる。
 そして、今のこの失態だ。
 あろうことか、『後夜祭』と言う言葉を聞かれてしまった。
 ティファはまだキョトンとした顔をしているが、もしも勘違いされて『他の子を誘うために悩んでいるの?』というぶっ飛んだ考えに至ってみろ。
 取り返しのつかないことになる、という奇妙な確信があった。
 そして、クラウドのその確信は残念ながら見事に的中してしまう。

(クラウド…今…、『後夜祭』って……?)

 暗雲がティファの心を覆う。
 なにしろクラウドはモテる。
 子供の頃からモテモテだ。
 本人はそれに気づいていない。
 だから、今まで女の子達からの熱烈なアプローチに全く気づかず、あるいは気づいていたとしても『興味ないね』といういつものお決まりの台詞を口にして、とりあえずは特定の異性を傍にいることを許容しなかった。
 それはティファ以外の女子限定、ということに彼女は薄々気づいていたが、それでもやっぱりティファはクラスメートが察しているように鈍感だ。
 クラウドにとって、自分はどこまでも『幼馴染』で『クラスメート』と言う存在。
 クラスメートの女子よりもこうしてほんのちょっぴり近くにいることが出来るのは、一重に『幼馴染』として昔から知り合っており、気心が知れているからだ、と固く信じている。
 そして今のところ、ティファはこの特権を利用してクラウドをもっと親密に、という気持ちには…残念ながらなっていなかった。
 もしかしたら付き合うとかなんとか、そういう恋人らしい関係になれたとしても、『幼馴染』の延長線上でそうなったとしたら、きっとすぐに飽きられてしまう、と思っている。
 でも、どうしても『幼馴染』としてではなく『1人の女の子』として、新たな視線で見て欲しいと願ってしまう。
 その願いは日々、刻々と心の中で成長していくのをティファは感じているし、抑えられないでいる。
 だから、ティファは一生懸命無口なクラウドに話しかけ、彼が少しでも反応してくれそうな話題を口にしていた。
 少しでも幼馴染としてではなく1人の女の子として見てもらいたいから、彼の気持ちを自分へ向けようと無意識に頑張っていた。
 それなのに、まさか自分の話しをそっちのけに、クラウドの口から『後夜祭』という言葉が漏れるとは。

(私といても…やっぱりその気にはなれないんだね…)

 ティファの表情があっという間に陰る。
 そして、そんなティファにクラウドの焦燥感は激しく掻きたてられた。
 彼女がどうして悲しそうな顔をしているのか、その理由は分からない。
 何しろ、ティファがとっくの昔にクラウドへ心を捧げてくれていることに気づいていないのだから。
 だから、今、クラウドの胸を締めている焦燥感は、クラウドがティファの話しを上の空で聞いていた、という勘違いからきているのだと思った。
 ティファの話よりも、心に描いている他の女生徒と過ごす時間の方がクラウドにとって関心があるのだ…と。

「あの…違うんだ、ティファ」

 必死になって口にした言葉。
 弁解をすべきだ、と本能が叫んでいる。
 だが、だからと言ってとりあえず『違う』と彼女の考えを否定してみても、その次に続く言葉が見つからない。
 ティファは困ったような…悲しそうな顔のまま、
「…なにが…?」
 と問いかける。
 クラウドの頭の中は真っ白になった。
 まさか『何が?』と返されるとは思わなかった。
 テレ屋な彼女のことだから、無理して強気になって『なんでもないわ』とでも言うかと思ったのに…。
 だから、彼女が『何が?』と、どういう意味で口にしたのかさっぱりだ。

 彼女の話を上の空で聞いてたかどうかを確かめるための問い?
 それとも、『後夜祭』などと自分には絶対に似合わない言葉を口にしてしまったことに対しての弁解だと思った?
 いずれにしても、クラウドの脳内は既にショートしている。
 ティファが、話しを聞いてくれていなかったことに対して怒っているわけでも、呆れているわけでもないことは充分すぎるほど分かる。
 だから困る。
 怒っていたなら謝れば済む。
 呆れていたなら、やっぱり謝罪して話題をさり気なく変えれば済む。
 もっとも、クラウドの場合、さり気なく話題を変えるという高等技術は持ち合わせていないのだが…。

 気まずい雰囲気はいったいどれくらい続いたのだろうか?
 1分?
 それとも数十秒?
 お互いにどう打開すべきか分からない微妙なすれ違いの時間は『ビシュッ!』という異音によって唐突に終わった。

 ティファは地べたに這いつくばるようにして顔面から倒れたクラウドに目を丸くした。
 ハッと我に帰って慌ててクラウドの前にしゃがみ込む。
 それを…。

「こ〜ら、ダメよティファ。スカートの中がむっつりスケベに見られちゃうでしょ?」
「エアリス!?」

 頭上からかかった茶化すような声にティファはギョッと顔を上げた。
 悪戯っぽく笑うエアリスの隣には、漆黒の髪を後ろに流しながらもツンツンと毛先が跳ねている端整な顔立ちの青年が立っていた。
 青年の手には竹刀が握られている。
 イヤでも彼がクラウドを後ろから攻撃した犯人だと分かった。
 分かると同時にティファはエアリスの言った『スカートの中が見えちゃう』と言う言葉にサササッ!と立ち上がって距離をとった。
 クラウドが呻きながら顔を上げたのはティファが完全にスカートを整えた後だった。

「……ザックス……」

 地の底から這い出す亡者のような低い声音に純粋な怒りを混ぜたクラウドは、ティファのスカートが覗けなかったことへの失望なのか、それとも不意打ちを仕掛けた怒りゆえか…。
 あるいは両方かもしれない。
 後頭部を押さえながらのろのろと起き上がったクラウドに、ザックスと呼ばれた青年はカラカラと笑った。

「まったく、お前は隙だらけだな。そんなことじゃ、全国大会は一回戦で負けちまうぞ?」

 これっぽっちもクラウドを攻撃したことに反省はない。
 むしろ、笑っているくせに声音が呆れかえっている。
 本気でクラウドの実力を不安に思っているかのようだ…。
 クラウドにとっては理不尽以外の何ものでもない。
 恨めしそうに睨みつけるクラウドの眼光を、ザックスは勿論だが女の子であるエアリスまでもが平然と受け流していた。

「まったく、クラウドはいつになったら乙女心が分かるのかしら」
「…!な、な、な…!!」
 まさか見ていたのか!?
 あまりの羞恥心に言葉が出ない。
 クラウドがもう少し余裕を失っていなければ、自分以上に真っ赤になって石化しているティファに気づいただろう…。

「本当になぁ。俺はお前をそう言う風に育てた覚えは無いぞ?女性にはどこまでも紳士として対応する。これが男というもんだ」
「俺は…!」
 お前に育てられた覚えは無い!!

 そう言いたかったのに、ザックスはひらひらと手を振って、
「まあ、まだまだ一人前の男には程遠いってことくらい分かってるからな。これから俺がみっちり仕込んでやるから安心しろ」
 勝手なことを言ってさっさとこの件の会話を打ち切ってしまった。
「さ、早く道場に行かないと遅刻だぞ」
「ちょ、ちょっと…待てって…!!」
「問答無用だ。この程度の攻撃を避けもせずにまともに喰らうなんて信じられん。お前は全国大会の選手なんだからな、みっちり今からしごかないと間に合わん!」

 まったくもって聞く耳を持たないザックスに首根っこをつかまれる。
 ジタバタしようとするが、3歳の年の差はでかい。
 クラウドの実力は全国大会の選手に選ばれるほどの素晴らしいものなのだが、それでも剣術道場一のザックスには到底かなわない。
 ずるずると問答無用で道場へと引きずられていくクラウドの目に、真っ赤になったままではあるが何か言いたそうな顔をしているティファが映った。

「ティファ!」

 衝動のようなものに駆られてティファの名を呼ぶ。
 ティファはビクッと身を竦めたがそれでも顔を逸らせることなく、真っ直ぐクラウドを見つめたままそこにいた。

「…あの…また明日」

 ティファの名を呼んだは良いが、何を言って良いのか分からないクラウドが精一杯の気持ちを込めて送った言葉。
 決して褒められたような気の利いた台詞ではない。
 だがそれでも…。

「!……うん」

 ようやっとクラウドに向かってティファはいつもの笑みを向けてくれたのだった…。


「…もどかしいわねぇ…」
「え?」

 曲がり角を曲がってしまったクラウドとザックスを見送っていたエアリスがボソリ…と呟く。
 ティファはクラウドの情けなさそうな…、それでいて自分を真っ直ぐ見てくれていたその視線に夢中でエアリスの呟きを聞き取れなかった。
 聞き返すがエアリスは「なんでもない」と苦笑しつつ、ティファを促してクラウド達とは反対の曲がり角へと歩き出した。
 丁度、この十字路がティファの武道教室とクラウドの剣術道場の分かれ道となっている。
 何となく黙々と歩きながら、ティファはチラリ、と隣を歩いているエアリスを見た。
 …機嫌が悪そうに見えるのは気のせいではないだろう。
 だが、その原因を聞いて良いのか悩んでしまう。

(ザックスと喧嘩した……わけじゃないわよね…)

 何しろたった今、クラウドを引きずりながら道場に向かうザックスは、エアリスに向かって投げキッスとウィンクを贈っていたのだから…。
 それに対してエアリスも笑顔で手を振り、幸せそうだった。
 見ているこちらが恥ずかしくなるほどの熱愛ぶり。
 ……実に羨ましい…。
 じゃなくて!
 喧嘩ではないなら何故機嫌が悪いのか?
 クラウドの後頭部を竹刀ではたき倒したザックスをエアリスは「よくやったわ、流石ザックスね」と褒めていた。
 だから、少なくともそのときまでは機嫌が良かったのだ。
 それから1分も経っていないのに…。

 顎に片手を添えて不機嫌に考え込んでいるエアリスに、なんとなく声がかけづらい。
 本当なら、エアリスに会えたら今日あったクラスメートの珍事件を話したい、と思っていたのに…。
 それが許されないような雰囲気が漂っている。

(……気まずいなぁ…。なんで今日はこんなに気まずい思いをすることが多いのかしら…)

「ティファ、『後夜祭』はどうするの?」
「へ!?」

 唐突な問いかけに、ティファは素っ頓狂な声を上げた。
 エアリスの不機嫌な理由をあれこれ悶々と悩んでいたのに、突拍子も無さ過ぎる質問だ。
 それに、非常に答えにくい。
 だから…。

「どうする…って…なに…を…?」

 恐る恐る聞き返す。
 案の定、エアリスは真剣な顔をしてティファを真っ直ぐ見た。
 そしてズイッと顔を寄せる。

「だ〜か〜ら!後夜祭よ、後夜祭!クラウドと過ごすのか過ごさないのか聞いてるの!」
「は!?えぇえ!?!?」

 一気に顔へ血液が集中する。
 真っ赤に染まったティファにエアリスは額に手を添えて「やれやれ…」と首を振った。
 気を取り直したように溜め息を1つして半ばパニック状態のティファを見る。

「あのね、ティファがクラウドのこと好きだってもうとっくに分かってるのよ」
「ふえっ!?!?」

 ピッツァアアアアンッ!!

 ティファは脳天に雷が落ちたような衝撃を受け、固まった。
 そんなティファの両肩をガシッと掴み、エアリスは更に距離を縮める。

「ティファ。ティファも知ってると思うけど、あの朴念仁は相当モテるわ」
「あの…クラウドは朴念仁じゃ……」
「お黙り!ティファの気持ちにいまだに気づかない奴を朴念仁と言わないでなんて言うの!?」
「いや…あの……」
「でもね、あの朴念仁だってストレートな攻撃を仕掛けられたら、思わず気持ちがグラッときちゃってもおかしくないの、分かる?」

 ティファは息を呑んだ。
 確かに…。
 クラウドは断じて朴念仁ではないが(ティファ視点)ストレートに『好きです』と可愛い女の子に言われたら気持ちが揺れるだろう。
 しかも、『後夜祭』という素敵なシチュエーションでのコクハク。


 校庭で赤々と燃えるキャンプファイヤー。
 それを暗い教室で見つめるクラウド。
 そんなクラウドに彼への憧れを抱く可愛い女生徒がおずおずと顔を真っ赤にさせながら近づいて…。

『クラウド君。私…ずっと…ずっとクラウド君のことが好きだったの』

 瞳を潤ませてジッとクラウドの紺碧の瞳を見つめる。
 困惑するクラウド。

『お願い…、私と付き合って』

 緊張から微かに身体と声を震わせながらも、一生懸命自分の気持ちを伝える女生徒。
 紺碧の瞳が驚いたように見開かれ…。
 そして柔らかく細められる。
 少し頬を染めて、照れ隠しに校庭のキャンプファイヤーに視線を投げながら…。

『……あぁ…良いよ…』

 ボソリと無愛想に、だが溢れんばかりの心を込めたその一言に、女生徒の目から堪えきれずに涙が伝う…。
 そんな彼女に気づいたクラウドが、困惑しながらも優しく手を伸ばして、そっと頬を伝う涙を拭って…。
 自然と見詰め合う2人。
 そして、お互い目を閉じて……。


 ザーーーッ。(血の気が引く音)
 想像の世界であるというのに、本当の出来事のように感じ、ティファの全身から血の気が引いた。

 真っ赤だったティファが真っ青になったのを見て、エアリスはようやく険しい表情を和らげた。

「ね?だからティファ。恥ずかしがってる場合じゃないの!何が何でも後夜祭、一緒に過ごす約束を取り付けなさい!」
 ついでにその勢いで想いを告げるのよ!!

 エアリスの真に迫ったその言葉に、ティファは混乱したまま頷いてしまった。
 自分がとんでもないことを親友と約束してしまったことに気づいたのは、稽古が終わった頃だった…。
 格闘教室に備え付けられているシャワールームでシャワーを浴びながら、ティファの頭の中はどうやってクラウドに後夜祭のお誘いをしたらいいのかでいっぱいだった。
 そして、頭の片隅で疑問を持つ。

(…どうしてエアリス、あんなに必死だったのかしら…)

 エアリスとは格闘教室の入り口で別れてしまっていた。
 冷静になる余裕の無いまま別れてしまったので気づかなかったが、一汗かいたお陰だろうか、彼女がどうしてあんなに必死だったのか、今になってなんとなく不思議に思えるくらいの余裕は出来た。
 だが、ティファは知らない。
「冗談じゃないわ!私の可愛いティファを悲しませるような結果になんか、絶対にさせないんだから!」
 放心状態のティファを格闘教室に送り届けたエアリスが、ブツブツと呟いていたことを。


 ―『今度の後夜祭、絶対にクラウド君を振り向かせて見せるわ!』―
 ―『えぇ…?無理だと思うけど…』―
 ―『あら、無理って理由はティファ・ロックハートのことを言ってるわけ?大丈夫よ、だって彼女、クラウド君の『幼馴染』ってだけだもん』―
 ―『まぁ、そうなんだけど…』―
 ―『勿論、ロックハートがクラウド君のことを好きだってことくらい分かってるわ。でも、所詮彼女は『幼馴染』止まりなのよ。あんなに一緒にいる時間があるのに全然『恋愛』に進展してないんだもん。臆病者に彼は勿体無いわ!』―
 ―『ん〜…まぁ確かに彼女はちょっと弱腰だよねぇ…』―
 ―『でしょ?だから、私が彼の心を射止めるチャンスは充分にあるわよ』―
 ―『う〜ん…まぁそうかなぁ。アンタもロックハートに負けないくらい美人だし』―
 ―『ふふ、ありがと!頑張るわ!』―
 ―『うん、応援してる!』―


 放課後、下校する女生徒がそう話しをしているのをエアリスは聞いてしまったのだ。
 ザックスを校門で待っていたエアリスは、その会話に怒り心頭となった。
 そして、満面の笑顔でやって来たザックスに即事情を話し、協力してクラウドとティファに互いを焚きつけるという作戦に出た。

「ザックス…上手くクラウドのこと、説得してるかな…?」

 まだ鳴らない携帯を見つめながらエアリスは自室の窓から夕日を睨みつけていた…。