今日は快晴!
 抜けるような青空の下、ティファは目の前に広がる洗い立てのシーツに頬を緩めた。



晴れた日にはあなたと一緒に




 時刻は十時を少し過ぎた頃。
 まだまだ今日という一日は始まったばかりだ。
 今日は珍しく、クラウドの仕事はオフである。
 彼は、日頃出来ない朝寝坊をしている為、まだベッドの中だった。
 こんなに良い天気は久しぶりだった為、子供達のシーツだけを洗い、たった今干し終わったところだった。
 シーツが風にたなびく様は、何だか心を浮き立たせてくれる。

『もうそろそろ、起こしても良いかな?』

 ティファは、まだ眠る愛しい人を起こすべく、寝室へ向かった。
 途中、子供部屋を覗いて、簡単に整理をする。
 と言っても、子供達はとても整理整頓が上手なので、特にこれと言ってする事は無い。
 せいぜい、軽く埃を払う程度だ。
 なら、なぜそんな事をするのかと言うと、恐らく無意識にクラウドを朝寝坊と言う甘美な幸福から引き離す時間を少しでも遅らせようとしている為だろう。

 日頃、頑張って家族の為に昼夜を問わず、大陸をまたに駆けて走ってくれている彼を、幸福な時間から引き離すのが忍びない。
 だが、彼の体の為にもこれ以上の朝寝坊はあまり良くないだろう。
 出来る限り、規則正しい生活を心がけなければ、ハードな仕事をこの先こなしていく事は出来ないだろうから。

 ティファは、「よし!」と気合を入れると、子供部屋を出て寝室の扉をそっと開いた。

 案の定、彼はまだ気持ち良さそうに眠っていた。
 規則正しい寝息が、彼のシーツを上下させる。
 
『本当、綺麗な顔よね…』

 クラウドの寝顔を見慣れているティファだが、彼のあどけない寝顔には、いつも新鮮さを感じてしまう。
 通った鼻筋、長いまつげ、整った唇にほっそりとした面立ち…。
 何度見ても見飽きない彼の素顔に、ドキドキと胸が高鳴るのは仕方ない事なのかもしれない…。

「クラウド…」

 そっと呼びかけるが、規則正しい寝息が乱れる事は無い。

「クラウド」

 もう一度、今度は少々大きな声で呼びかける。
 それでも、彼は目を覚ます気配を感じさせない。

「クラウド〜」

 肩を揺すってみる。
 それでも、「う〜ん…」と、少々眉を寄せただけで、再び規則正しく寝息が聞える。

「む〜。本当に気付いてないのかしら…」

 ティファは、あどけない顔で眠り続けるクラウドに、口をへの字にした。

 何となく、あまり大きな声で起こしたくないのだ。
 出来れば、最初の一、二回で起きて欲しかった…無理なら三回目で…。

 だって、やっぱり大きな声で起こされたら、寝起きが嫌な気分になるでしょう…?

 一向に起きる気配の無い彼に、ティファは一人ごちる。

「む〜…」
 そのまま黙ってクラウドの寝顔を見つめていると、何だか彼を起こすのが可哀想になってきた。
「…どうしようかな…?」
「スー、スー、スー…」
「…やっぱり、私一人で行こうかな…」
「スー、スー、スー…」
「…でも、たまには二人で街を歩いてみたいのよね…」
「スー、スー、スー…」
「……はぁ…。でもやっぱり起こすの可哀想よね…」
「スー、スー、スー…」
「……………」
「スー、スー、スー…」

 ティファは、気持ち良さそうに眠るクラウドの傍をそっと離れた。
 寝室のドアを開けようとして、未練たっぷりにクラウドを見る。
 そして、『あと一回だけ…』と、再びクラウドの傍に行くと、彼の肩に手を置いて体を揺すった。

「クラウド…朝だよ…良い天気だから、散歩に行こうよ…」
「スー、スー、スー…」
「はぁ…。駄目か…。仕方ないから、一人で行こうかな…」
 溜め息をついてクラウドから離れる。

 が…。

「うひゃ…!?」
 手を引っ張られて思わず変な声を上げながら、転倒してしまった。
 …その割りに、体のどこもぶつけず、小さな衝撃だけで済んだのは…。

「ク、クラウド!!」
「…ああ、おはよう…ティファ…」
 半分寝ぼけているクラウドが、実に上手くティファの体をベッドに横たえたからだ。
「お、起きてたの!?」
「…ん〜…何が…?」
 目をしょぼしょぼさせるクラウドを見て、ティファは彼がまだしっかり覚醒していない状態で、無意識にこの行動に出たのを知った。
 その事実に、何だか無性にくすぐったくなる。
 自分が傍から離れるのを、無意識に止めてくれたのが、嬉しくて仕方ない。

 自分の上で、うつらうつら眠りの虜になろうとしているクラウドに、そっと声をかける。
「………まだ寝ぼけてるの…?」
「…ん〜…いや……」
 そう言う傍から、寝息を立てそうになる彼に、ティファはそっと背に腕を回した。
「眠いなら寝て良いよ?」
「…ん〜…」
「良い天気だから、一緒に散歩に行かないかな…って思っただけなの」
「…ん〜…散歩…?」
「うん。でも、クラウド疲れてるもんね。だから、私一人で買い物がてらブラッとして…」
「駄目!!」
「え!?」
 ティファの最後の言葉に、クラウドは急にガバッと体を起こした。
 びっくりして目をパチクリさせるティファに、
「すぐ用意するから、ちょっと待っててくれ」
と言い残し、さっさと顔を洗いに寝室を後にした。
 ポカン…としてその後姿を見送ったティファは、やがて満面の笑みになると、自分もいそいそと服を着替えにかかった。



「ねえ、本当に朝ごはん食べなくて良かったの?」
「ああ。だってもう少し我慢したら昼ごはんだろ?」

 あの後、ティファが着替え終わると同時に、クラウドも服をきちんと着替えて一階に下りてきた。
 そして、現在二人はエッジの街をのんびり歩いている。
 クラウドの手には、珈琲の豆が入った紙袋があった。
 先程、いつも買い付けている店で購入した物だ。
 その店主が、珍しく二人揃ってやって来たのを見て、
「おや!今日はお二人揃ってのご来店かい?良いねえ、こうやって陽の光の下で見ると、改めてお似合いだね、お二人さん!」
と、二人が顔を真っ赤にする台詞を投げかけてくれた。

 その事もあってか、今の二人はご機嫌そのもの。
 それに、二人だけでエッジの街を歩くのは本当に久しぶり…いや、もしかしたら初めてなのではないだろうか?
 いつも、エッジの街を歩く時は、自分達の周りに踊るような足取りで満面の笑顔を見せてくれる子供達がいる。
 今は、子供達も友達と遊びに行っているので二人きりだ。

『何だか、物凄く新鮮ね…』

 隣を歩くクラウドをそっと見ながら、込上げてくるドキドキした気持ちに、頬を緩める。
 こうして、二人きりで並んで歩くと、こう、何と言うか…。
 普通のこ、恋人同士…みたいじゃない…!?

 自分の考えに、顔を赤くして照れているティファの隣では、クラウドも心なしかうっすらと顔を赤らめている。

 うん。たまにはこうしてのんびり二人で歩くのも悪くないな…。
 それに、こうして二人きりで並んで歩くの、エッジに住んでから初めて…?
 いや、そもそもこうして二人きりの時間を昼間に過ごす事自体が初めてじゃないか??
 子供達のはしゃぎ声を聞きながら歩くのも楽しいけど、こうして黙って二人きりで歩くのも……うん。悪くない…と言うよりも、こう、なんだ…。
 幸せ……だな…。
 陽の光を浴びてるティファも…うん、綺麗だし…。
 何より、こうしてると…、俺達って普通の…こ…、恋人……!?
 そ、そうだよな…?
 恋人同士…なんだよな…?
 子供達の前では、ティファは『お母さん』の顔なんだけど、こうして俺と二人だけの時って『一人の女性』の顔になるんだな…。
 ……うん、悪くない…。
 いや、むしろ……凄く良い…かも…。

 などなど、こちらも自分の考えに照れていたりする。

 特に二人で会話をする事無く、ぶらぶら散策するのは、とても新鮮で心地の良い時間だった。
 こんなにも気分が良いのは天気が良いから、と言うだけでは無い。
 二人だけ…というのが本当に新鮮なのだ。
 勿論、子供達を伴っての散策も楽しい一時には違いない。
 だが、本当に本当に時々は、こうして二人だけの時間を持つ事も良いものだ…と、感じてしまう。
 心のどこかで、そんな風に感じてしまう事を子供達に詫びながら、二人はぶらぶら歩いていた。
 その途中で、ソフトクリームを売っているオープンカフェの前を通り過ぎる。

「あ!ちょっと待ってて!!」
 クラウドを残して、ティファはそのカフェに向けて駆け出し、少ししてから手に二つのソフトクリームを持って戻って来た。

「はい。歩いてたら少し暑くなったし、クラウド朝ごはん食べてなかったから、少しはお腹の足しになるんじゃない?」
 満面の笑顔で手渡しくれるティファに、クラウドも頬を緩めながらソフトクリームを受け取った。
「ああ、ありがとう」
 一口口に運ぶと、心地良い甘さと冷たさに思わず、「うん、美味い」と漏らす。
「フフ、良かった」
 そう言って、ティファも口に運ぶ。
「うん!美味しいね!あそこのソフトクリーム、最近有名なんだって。お店の常連さんの一人が教えてくれたの。だから、いつかクラウドと一緒に食べたいな〜って、思ってたのよね!」
 嬉しそうにそう言うティファに、クラウドもいつもよりも穏やかな眼差しを向ける。
「そうなのか?なら、もっと早くに仕事をオフにすれば良かったな」
「フフ、良いの!こうして今、念願叶って一緒に食べられてるんだもん」

 本当に嬉しそうな顔をするティファに、クラウドは自然と笑みを浮かべた。
 微笑み合いながらゆっくりと歩く二人を、通り過ぎる人々が少々遠巻きに見つめているが、二人は全く気付かない。
 いつもなら、人の視線に敏感に反応するのだが、今の二人には無理と言うものだ。

「わ〜、凄く素敵なカップル〜!」
「本当だ…。何だが別世界だな…」
「あ〜、良いなあ…!私もあんな風にこう『お似合い!!』っていう人が欲しいな!」
「おお、何だがあのカップル…ゴージャスだよな…」
「……世の中不公平だ…」

 などなど、自分達を見て、行き交う人々が囁いている事など、全く気付かない。

 本当に僅かな時間であったが、クラウドとティファは、エッジに住んでから初めて、世のカップルの幸福を味わう事が出来た。



 そして、その夜。

「いらっしゃいませ!」

 いつもの様に、セブンスヘブンは大盛況だ。
 クラウドも、仕事がオフの日には手伝うのが習慣となっているので、未だに慣れていない接客業に汗を浮かべている。
 と、そんな彼に常連客の一人が手を上げた。
「はい、何かご注文ですか?」
「いや、注文もあるんだがよ」
「???」
 にんまり笑うその常連客に、クラウドは首を傾げる。
「今日は、お二人揃って楽しそうだったな…って言いたくてさ!」
「え!?」
「いやいや…、遠目からでも目立つからなあ、あんた達二人は!こう、二人を見てて青春時代を思い出したね!いや〜、本当に良かった!目の保養が出来たよ!」

 クラウドは、彼の言わんとしている事に思い至り、顔から火が噴き出るのではないか!?という勢いで真っ赤になる。

「な、な、まさか…」
 思わぬ目撃者の出現に、激しく動揺して言葉が上手く出ないクラウドを見て、常連客はにやにや笑いを更に色濃くした。
「おう!今日、オープンカフェのソフトクリーム、二人で食べながら歩いてただろ?まるで映画のワンシーンみたいだったぞ!」
「え〜!例のオープンカフェのソフトクリーム!?クラウドさんが!?!?」
「マジ!?信じられねー!!」
「くぅ〜!羨ましいぜ!!」
 常連客の言葉に、周りにいた他の常連客までもが呼応する。
 そんなお祭りムード全開の常連客に囲まれ、当のクラウドはカチンコチンに固まってしまっていた。
 と、そこへ…。

「どうしたの、皆?凄く楽しそうね!」
「お!噂の主役がもう一人!」
 ティファがカウンターから料理を運んでやって来た。
 固まっているクラウドと、彼を囲んでやんややんやの大騒ぎになっている常連客達に笑顔を向ける。
「主役って?」
「ティ、ティファ…、あのな…」
「ティファちゃん!聞いたよ〜!」
 クラウドが何かしら言おうと口を開くが、周りの常連客達に完全に気圧されている。
 あっさりと常連客達に話の主導権を奪われた。
「何を?」
 顔を真っ赤にさせて、口をパクパクさせるクラウドを押し退ける様にして、常連客達が口を開く。
「今日の昼間!例のオープンカフェのソフトクリーム、二人で食べながら歩いてただろ!?」
「それ、マジな話しなわけ!?」
「ひょ〜!羨ましいねえ!」
「まるで、映画のワンシーンみたいだったってこいつが言ってるんだけど、実際どうなの!?」
「俺もティファちゃんと二人きりで食べてみたかった…」
「もう、俺が見た時は完全に二人の世界に突入してたから、俺が見てたの気付かなかっただろ?」
「「「良いよな〜!!」」」

 声を揃える常連客達の言葉に、たちまちティファの顔から湯気が立つ。

 そして…。



 ガッシャーーン!!!



 店内に響いたグラスと皿の割れる音に、カウンターの奥にいたデンゼルとマリンが、びっくりして飛び出した。
 そんな二人が目にしたものは…。

 床に砕け散った皿やグラスを、真っ赤になりながら集めているクラウドと、同じく顔を真っ赤にさせてオロオロとしているティファ、そしてそんな二人をお腹を抱えて笑っている常連客達の姿だった。



「いや…、今夜は参ったな…」
「………うん、そうだね…」

 最後の客を送り出して営業を終え、後片付けが済んだ店内で、クラウドとティファは向かい合って珈琲を飲んでいる。
 話の内容は言うまでもなく、先程の常連客達の冷やかしとも言える、祝福の一時の事だ。

「まさか、見られてるとは思わなかったな…」
「…………うん」
「…………」
「…………」
 未だに顔を赤くして俯き加減なティファに、クラウドもほんのりと頬を染める。
 そして、二人して暫く黙って珈琲を口に運んだ。

「ねえ、クラウド…」
「ん?」
「……もう、二人だけで散歩、したくないと思ってる…?」
「え?」
「……だから、今夜みたいに他の人に冷やかされたりしたら…やっぱりイヤ…でしょ…?」
 恐る恐るそう口にするティファに、クラウドはポカンと口を開けた。
 そして、フッと微笑むとティファの横に座りなおす。

「いや、俺はまた二人で散歩したいと思ってる」
「ホント!?」
「ああ、本当に。まあ、恥ずかしくない…ってわけじゃないけど、それでも、やっぱり…、今日は楽しかったし…」
 少々照れながらそう言うクラウドに、ティファはパーッと顔を輝かせ、ギュッとクラウドに抱きついた。
「うわっ!珈琲がこぼれるって!」
「フフ、ごめんなさい!」
「……いや、まあ、良いけど…」
「……また、晴れたら散歩、行こうね」
「……雨でも構わないぞ?」
「本当!?」
「……ああ、本当に」


 二人が世の恋人と同じ様な、何の変哲も無い幸せを得る事が出来た一日。
 それは二人にとって大事な宝物になった事は言うまでもない…。


あとがき

二人をデートさせたい!その一心で出来た作品です(笑)。
二人共、あんまり普通のカップルがする様なデートって出来ないんじゃないかと
思うのです。ほら、やっぱり子供達がいますしね。
勿論、その事で子供達を疎ましく思ったりしてないですよ!?
でも、時々は二人の時間を大切にしても罰は当たらないんじゃないかと…(汗)

はい、全部マナフィッシュ自身が見てみたいという願望の賜物です(笑)