― 『クラウドがどんなところでどういう風に仕事をしているのか見てみたいわね』 ―

 その一言がきっかけだった…。






働く背中







「はぁ〜…凄いなぁ、クラウド」
「うん、凄いね、クラウド」

 コソコソと、小声でやり取りする子供達の会話には、父親代わりを心から尊敬する敬愛の念で満ち満ちている。
 ティファはそんな子供達に温かい気持ちではちきれそうになりながら、物陰からクラウドの仕事ぶりを見ていた。

 彼はいつでも無表情。
 ティファや子供達に見せる表情と、セブンスヘブンの常連客達に見せる表情の差は大きい。
 それでも、近頃の彼は表情が豊かになった…、というのは彼の家族と戦友たちだけだ。
 常連客達は、彼が店にいない時、今でもたまに、
『クラウドさんってなに考えてるか分からないことない?』
『こんな言い方して気を悪くしないで欲しいんだけど……、クラウドさんと一緒にいて不安に思うことないか?』
 など、ティファに囁いてくる。
 彼らが純粋にティファや子供たちのことを心配しているのか、はたまた『あわよくば!』という下心があるのかは分からないが、ティファはその度に軽く笑いながら首を横に振るのだ。

 そうして、ふと思った疑問。
 仕事をしている時の彼はどうなのだろう…?
 きっと…間違いなく、無愛想で口下手。
 配達の依頼人や配達先の人達にイヤな顔をされているのでは…?

 されてるかもしれない!!

 そう思うと、なんとなく落ち着かなくなって、いてもたってもいられなくなった。
 数日間、悶々としたティファは、思い切って朝食の際、子供達に切り出してみた。
 予想通り、子供達は顔を輝かせてティファに賛同した。

 ここまでは順調。
 ここからが大変だった。

 当然、クラウドは嫌がる。
 仕事をしている姿を見られるなど、羞恥の極み、と言わんばかりに拒否をした。
 彼が拒絶することくらい、ティファも子供達も当たり前だが予想していた。
 なら、どうしてわざわざ否定されることを承知でお願いしたのか…。

 彼は気配を読むのに長けている。
 ティファだけならともかく、子供達まで一緒に行くとなると、絶対にバレてしまう。
 それでなくても、彼は世界中を巨大バイクで走り回って仕事をしているのだ。
 当然、ティファ達もそんな彼の仕事ぶりを見ようと思ったら世界中を走らなくてはならない。
 全部を見学したいわけじゃない。
 ちょこっとだけ見てみたいだけ。
 だから、一つの配達先で彼がどういう風に仕事をしているのかを見たらそれで良いので、世界中を一緒に駆け回る必要はないのだが、それでも子供達を店のトラックに乗せて彼の後を追いかけるとなると、ぜ〜ったいにバレる。
 バレた時、彼がどう思うかを考えると、内緒で後をつける案はいただけなかった。
 と言うわけで、バカ正直にアタックし、ものの見事に玉砕をしたわけだ。

 だがしかし、拒否をされるなんてことくらい予想の範疇。
 それからの三人の粘りはクラウドの予想をはるかに超えていた。
 顔を合わせては『見てみたい』。
『おやすみ』のキスの際、布団をかぶってちょこっと顔を覗かせては『見てみたい』。
 上目遣いに、
「「 どうしても…ダメ? 」」
 と、悲しそうな顔をされると、頑固者のクラウドでも流石にこたえる。
 極めつけは…。


「クラウド、どうしてもダメなの…?」


 少し憂いを含んで目を伏せ、ガッカリする愛しい彼女。

 クラウドが白旗を揚げるのに要した時間は一週間だった…。

「いいか、一箇所だけだからな」

 苦虫をまとめて百匹噛み潰したような顔をしながら青年がそう告げた時、喜んでピョンピョン飛び跳ねる子供達に、クラウドはやれやれ…と、首を振りながら傍らになっているティファを見た。

 ドックン。

 大きく心臓が跳ね上がる。
 喜んでいる子供達以上に、ティファが本当に嬉しそうに…、春の日差しのような微笑でクラウドを見つめていた。


 *


 それから。
 クラウドの気持ちの切り替わりは素晴らしいものがあった。
 子供達の喜ぶ姿と、ティファの心からの微笑みに、すっかり心奪われてしまったのだ。

 クラウドは考えた。
 近々配達しなくてはならない予約の中で、人当たりが良く、且つ、モンスターの出没する地区を通らなくても済むような場所に住んでいる人。
 その人からの依頼だと、恐らくそれほど三人が心配するような『接客業』はしなくて済むだろう。

 今回、ティファや子供達が自分の仕事ぶりを見たい、と言い出したことに関し、クラウドには思うところがあった。

 クラウドは仕事の話をめったに家族にしないのだ…。
 いや、全くしないというわけではない。
 だが、当たり障りのないことしか話さないようにしている。
 例えば、配達先の風景や、どういう農作物が盛んだった…とか、新しい仕事が興ろうとしている…とか。
 ようするに、世情が順調に回復していっている様子を語って聞かせたのだ。
 何故なら…。
 クラウドの仕事は子供達やティファが想像する以上に危険と隣り合わせなのだ。
 モンスターに襲われるかもしれない危険と伴う配達中もそうなのだが、配達物そのものが『危険物』であったりすることもある。

 人としては断じて認められない『薬物』。
 人殺しの道具にしかならないような『モノ』。

 それらは、実にたくみにクラウドや他の配達業者の目をくらませて、配達を依頼してくる。
 事実、他の配達業者の中で、知らず知らずのうちに『とんでもないもの』を配達してしまい、配達先の人間が目の前で木っ端微塵になるところを目の当たりにするという惨事に巻き込まれている。
 その目撃者となった配達人は、爆発物の火薬の量が少量だったことと、少し離れていたことが幸いして軽い火傷で済んだ。
 玄関先で嬉しそうに運んだ荷物を開ける依頼先の女性に見惚れていたための目撃。
 彼はそれ以後、この業界から手を引いた…。

 このようにただ単に『配達』と言っても、命がけなのだ…。
 クラウド自身、そういう『危険物』を配達したことがあるのだ……実は。
 最初、配達物として依頼主に品物を取りに行った時は気づかなかった。
 しかし、配達した相手に、クラウドの『戦士』としての勘が鋭く働いた。

 クラウドは、配達先の人間からただならぬものを感じ取り、警戒した。
 受け取りのサインを澄ました顔でもらい、その場を後にした……ふりをして、こっそりと舞い戻り、拉致監禁していた女性を麻薬付けにしようとしている現場に踏み込んだのだ。

 クラウドはそれらの危険なことは語らない。
 全く語ったことがない…とは残念ながらいかなかった。
 ティファにバレた時、何度か仕方なく打ち明けている。
 だが、彼女が『女の勘』でクラウドに何かあった!と感じ取った時以外、彼は絶対に自ら話すことはなかった。
 だから、クラウドは引き受けたものの、家族がいかに『安全』で『気持ちよく』見学してもらえるか…。
 それを考えるのが本当に難しかった。
 勿論、家族への見栄もある。
 家出をした頃からはうんと成長した…と、思ってもらいたいという見栄。
 愛しているから。
 大切だからこそ、『安心』もして欲しい…。

 考えに考えた末、クラウドが家族に今度の配達について来ても良い、と返事をするのに丸々一日を要した。


 *


「クラウド、本当にかっこいいね。ああやってお仕事してるんだね」

 マリンが嬉しそうに満面の笑みでティファを見上げる。
 デンゼルが、
「ふあ〜、あのクラウドがきちんとお辞儀してるよ」
 驚いたように目を丸くする。
 ティファも、仕事を実直にこなすクラウドの姿に、ドキドキと胸が高鳴って仕方なかった。
 いつも目にすることはないクラウドがそこにいた。

『なんて…素敵なんだろう…』

 キリッ、と引き締まった整った横顔。
 魂を吸い込まれそうな美しく輝く紺碧の瞳。
 無駄な動きの一切ない動作。
 鍛えられた華奢にすら見える体躯…。
 その全てが、セブンスヘブンの灯りの下とは全く違うように輝いて見える。
 彼自身が、仕事へのプライドを持ち、真摯に向き合っているからこその輝き。

 思わず足が彼に吸い寄せられそうになる。
 踏み止まらせたのは、子供達の存在。
 二人が興奮しながらティファにギュッとしがみついていなければ、フラフラと彼に引き寄せられていたに違いない。
 クラウドは軽く会釈をしながら配達先の人間に背を向け、真っ直ぐにこちらへやって来た。
 配達先の人間が、そんなクラウドをポーッと見つめている。
 子供達とティファは慌てて建物の壁に頭を引っ込めた。
 ゆったりとした足音が近づいてくる。

「ほら…気が済んだか?」

 ちょっと照れながら…、少しの見栄をチラチラ覗かせつつクラウドが現れる。

「うん、すっごくカッコ良かった!!」
「クラウド、ちゃんとお辞儀してるんだね!!すごくすごくカッコ良かったよぉ!!」

 満面の笑みでクラウドに抱きついた子供達に、ティファも目を輝かせながらクラウドを見つめる。
 若干頬が紅潮しているのは興奮ゆえ。
 クラウドは肩を竦めて嬉しさをごまかしながら、
「どういう意味だ…?お辞儀くらい仕事だからするに決まってる」
 軽く溜め息を吐きながら、それでも子供達を優しく抱き上げて両肩に乗せた。
 男性としては華奢な体躯なのに、軽々と子供達を抱き上げる逞しさに、ティファはまたもやときめく。

「クラウド…」

 呼びかけて…そして口を噤む。
 なんと言って良いのか分からない。
 クラウドはその熱い視線に堪えきれず、ふい…とそっぽを向いた。
 耳の端が赤い。

「ほら、もう良いだろう?」
 気をつけて帰れよ…。

 子供達を下ろしながら、尻すぼみにそう言った。
 デンゼルとマリンは、地面に下ろされてもクラウドの足や腰にギュッと抱きついてまだまだ離れがたい、と全身で表した。
 困ったような笑いを浮かべつつ、

「まだ配達があるんだ…」
 な、良い子だから…。

 そう言ってそっと子供達から離れる。

「クラウド、今夜はご馳走だからな!」
「クラウド、今夜はお店お休みだから、早く帰ってきてね!」
「おいおい…そんな予定じゃなかっただろ?」

 興奮して身を乗り出す二人に、クラウドは苦笑した。
 そして、店長であるティファを見る。
 ティファは何も言わなかった。
 目を輝かせ、頬をほんのりと染め上げて、微笑んでいるだけだ。
 クラウドはまたもや照れくさそうに視線をそらすと、
「じゃ、早く帰るように努力する」
「絶対ね!」
「あ、でも気をつけてくれよ?スピード出しすぎ、モンスターに注意だぞ?」
「分かってる。じゃあな」
「「 頑張ってーー!! 」」
 子供達の声援を受けながら、軽やかに巨大バイクにまたがり、颯爽と走り去った。

 ティファはその姿をずっと何も言わずに見送った。
 視線を逸らせることなど出来ない。
 もっと声を聞きたかった。
 仕事をした直後の彼の声を。
 明らかに違う『仕事』と『自分達』への声音。
 その差をじかに感じ取り、ティファは幸せだった。
 配達先の女性がクラウドへ送っていた視線を思い出すと、チリチリと胸が焦げそうになる。
 だが、彼は全くその視線に気づいていなかった。
 配達の仕事を自分達が陰から見ていると知っているから…、だからああいう『素っ気無い態度』をとったのかもしれない…。

 ……とは思わない。

 そんな器用なことが出来る男性(ひと)ではないと、イヤというほど知っている。
 きっと、配達の依頼人や、その配達先の人は、クラウドを色々な思いで見つめているだろう。
 中には、今回の女性のように仕事以上の想いを寄せている人だっているに違いない。
 だが…。
 彼の目には彼女達は『仕事関係以上』には映らない。

「良かったね、見学させてもらえて」
「良かったな、本当にすっごく良かった!」

 嬉しそう笑い合っている子供達に心から賛同する。

「じゃあ、帰りましょうか」

 ようやっと口を開いたティファは、はしゃぐ子供達を促してトラックへと乗り込んだ。


 *


「「 おかえり〜!! 」」

 帰宅したクラウドは、子供達のいつも以上の歓迎に出迎えられた。
 ちょっぴり緊張しながら帰宅したクラウドにとって、それはとても嬉しいことだった。
 そして…ちょっぴり気恥ずかしい…。

「大げさだな…」

 口にした言葉は本当に可愛くない台詞。
 だが、そんなものは子供達にとって気にならない。
 クラウドの手を引き引き、テーブルへと連れて行く。
 紺碧の瞳を軽く見開いて、クラウドはところ狭し、と並べられた料理の数々を見た。

「誰がこんなに食べるんだ…?」

 苦笑いを浮かべつつカウンターを見る。
 そこには、鍋をかき混ぜている愛しい人の姿があった。

「ふふ、今日は無理をきいてもらったから奮発しちゃった」
「奮発にもほどがあるだろう…?」
「「 良いじゃない(か)〜!! 」」

 軽く舌を出しながら悪戯っぽく笑うティファに呆れたような態度を崩さず、ポーカーフェイスで応じる。
 子供達が声を揃えてにんまり笑った。

 楽しい夕飯は、始終クラウドの仕事ぶりについて盛り上がった。

「クラウド、本当にカッコ良かった〜!」
「慣れたんだねぇ〜!」
「やっぱり、沢山仕事してきたから、接客に慣れたんだなぁ…。俺、クラウドは接客だけはどう頑張っても無理だと思ってた」
「実は私もちょっと心配してたの。だってクラウド、すっごく口が重いんだもん。『ここにご署名をお願いします』って、サラリと言った時には感動しちゃった!!」

「おいおい…俺はどんだけ仕事が出来ない人間だと思ってたんだ、二人とも…」

 苦笑いを浮かべつつも、クラウドは嬉しそうだった。
 そして、そんなクラウドをティファは微笑みながら見つめ…、ふっと願った…。


 この当たり前のような幸せがずっと続くように…と。


 ティファのそんな気持ちを察したかのように、クラウドがティファを見た。
 紺碧の瞳が笑みを含んで細められる。
 見つめ合い、微笑み合う親代わり二人に、デンゼルとマリンはまたもやニンマリと笑い合った。


 そうしてその日の晩。


「クラウド、本当に今日はありがとう、わがまま聞いてくれて」
「いや。でも、今回限りにしてくれよ。やっぱり緊張する」
「ふふ。でも、いつもは私達の仕事ぶりを見てるでしょ?たまには反対も良い刺激になるんじゃない?」
「冗談。冷や汗かきっぱなしだった」
「ほんと?全然そういう風には見えなかったわ」
「…どうせ俺は表情に乏しいさ…」
「あ、拗ねた?」
「拗ねてない」
「本当に?」
「…ティファ…」
「ふふ、冗談よ。でも…」
「ん…?」
「…仕事している時のクラウド…、本当にカッコ良かったわ…」
「……仕事してる時だけか…?」
「!!…もう…意地悪…」
「ハハ、今日は冷や汗かかされっぱなしだったからな、これくらいは良いだろ?」
「もう!」
「で…?」
「え…?」
「仕事してる時だけか?俺がカッコ良いのは」
「………………もう…本当に意地悪…」
「ハハ、今更…だろ?」
「もう……。……
いつもドキドキしてるわ…」
「……
俺も……」

 *

「クラウド、やっぱりモテてるんだなぁ…」
「うん。でも、全然心配ないみたいで良かったね」
「ん!クラウド、全然気づいてないみたいだったしなぁ…」
「あ〜…あれはちょっと可哀相だったね」
「でも、まぁティファの幸せのためだし、我慢してもらうしかないよな、あの女の人は」
「そうだよねぇ…。だって、クラウドはティファしか見えてないし」
「あの女の人にもそのうち良い人が出来るよ。なんか良い感じの人だったもん」
「そうだよね。あの人、なんか温かい感じの人だったもんね」
「この前、店に来た化粧臭い女の人よりもうんと良い人だったよなぁ…」
「あ〜…あの人は反則並だったじゃない。あれは特別だから比べるのは失礼だよ、デンゼル」
「…そう言うマリンが失礼だと俺は思う。でも、確かにあれは特別だ…」
「でしょ?」
「うん」
「ま、なにはともあれ…」
「「 大丈夫って分かって安心した〜! 」」


 そんなやり取りがあったとは知らない親代わりの二人は、互いに惚れ直したという幸せ絶頂の中、ゆるゆると眠りについた。


 さぁ。
 明日も仕事だ。
 家族を養うために。
 星に生きる人達の希望を運ぶために。

 頑張れ、クラウド!



 あとがき

 なんとなく『働くお父さんを見てみよう!』という話しを書きたくなったのですが、書き終わって思うことは…。

 ティファだけでなく、デンゼルやマリンという幼い子供までもが『親の心境』になっている!!ということでした…。

 はい、今更ですね…(遠い目)。
 まあ、こんな話しもたまにはありかなぁ…と。

 サラリと流してやってくださいませ<(_ _)>