ぐずついた天気が続いていたが、今日は久しぶりに陽の光が眩しい、清々しい朝だった。
 その為だろう。私の気持ちが踊りだしそうに軽かったのは。
 そして、その為に、私は現在の様な状況に至る。


被害者!?加害者!?

 
 クラウドは三日前から別の大陸の配達に出ていて不在、子供達も久しぶりの良い天気に、はしゃぎながら遊びに行っていた。
 
 私は、久しぶりにベッドマットを四人分干し、大仕事を終えた後の爽快な気分を味わった。
 まだしなくてはならない家事はあるものの、別に今日中にしなくてはならないものでもない。
 久しぶりの晴天、一人家の中にいて家事に追われるのは何とも勿体無い気がする…。

 『よし!』

 私は一瞬の逡巡の後、子供達を見習って外の空気を味わう事に決めた。


 目的もなく、ブラブラするのも良いかもしれないが、何となくそれはそれで惜しい気がする…。
 それに、明日の早朝にはクラウドも帰って来る予定だ。
 遠距離の仕事でいつも以上に疲れたであろう彼に、何か特別な物を作って食べさせてあげたい…!

 と、言う訳で、私の外出先は、エッジに最近出来た市場に決定した。

 ここまでは特に何も落ち度はなかった。
 そう、ここまでは……。


 最近出来たばかりの市場なので、ところどころ空き地のようにポッカリと空間があるものの、市場はやはり活気がある。

 そこかしこで、「奥さん!これなんか新鮮で美味しいよ!!」「そこのお姉ちゃん!この魚、今朝ジュノンから届いたんだ!新鮮そのもの、まだ生きてるよ!!」などと客引きの元気良い声が飛び交っている。

 その声に、晴天によって弾んでいる気持ちが、更に踊るかのように、私は上機嫌で市場を歩いていった。
 しかし、きっとその時には既に、この状況になるべく、『事が運ばれて』いたんだろうなぁ……。


 私が『それ』を見つけたのは、市場の奥まった場所にある、いわゆる『裏路地』の入り口付近だった。

 何かに口を塞がれたような、くぐもった人の声と、引きずられるようにして『裏路地』の奥へと消える、『女性』と思しき両脚は、必死に『何か』に抵抗していた。
 
 私は、咄嗟に何も考えず、その姿を追って『裏路地』へと飛び込んだ。

 すぐに『裏路地』特有の陰気臭い、薄闇しか視界に入らなくなる。
 早く『女性』を助けて、こんなじめじめした陰気臭い空気から脱出したい。

 その時の私は、それしか頭になかった。

 地面には、最近の長雨で出来た泥水が所々広がっている。
『あ〜、お気に入りのブーツなのに…』
 などと嘆きつつ、その泥水の水溜りを避けながら、出来る限りのスピードで裏路地を駆け抜けた。
 やがて、その甲斐あってかほどなくして例の『女性』と、『女性を引きずっていた何か』に追いついた。

 そう…、追いついた時にやっと気付いた。

 引きずられていたのは『女性』ではなく、『女性の格好をした男』で、『引きずっていた何か』は『女性の格好をした男』の仲間だと言う事に。
 二人共、薄暗く狭い通りに私と対峙する様にして並んで立っていた。

 そう、私はまんまと裏路地の奥に誘い込まれていたのだ。

 裏路地の奥は、複雑に入り組んでいた為、表から見たら全く分からなかったけど、奥だと思っていた所からは、更に奥へと続く細長い通りが二人の肩越しに見える。
 そして、その細長い通りから、複数の男達がゾロゾロと現れ、『女性の格好をした男』とその仲間の男に「良くやったじゃん!」「お〜、本当に引っかかるとはねぇ」などと声をかける。
 その数はざっとみても数十人。
 皆が皆、『僕達悪役です!』って、言ってるような風貌。
 私は自分の迂闊さを呪わずにはいられなかった。



 折角の晴天!折角のお買い物!!折角のクラウドの為の買出しが!!!

 こんな見え透いた手口に間抜けにも引っかかって、台無しになるなんて!!

 ああ、もっと気を引き締めてたら、この目の前にゾロゾロと現れる無頼漢共の気配に気がついて、ノコノコこんな所まで誘い込まれなかったのに……!!

 もう!本っ当に、私のバカ!!!

 呆れて物も言えないってこの事ね!!!



 自分で自分を叱り付けている私の心情なんか、もちろん知らない無頼漢共は、下卑た笑いを顔中に貼り付けてじりじりと私との距離を縮めてきた。
 数だけ考えると、もちろん圧倒的に私の方が不利な状況だし、相手は男だけ。
 女性一人を弄ぶのには十分すぎる人数だと言える。

 でも、相手は私の正体を知っている様だった。
 先程、おとりになった二人に「良くやった」「本当に引っかかるとはね」等という言葉と、数だけでは圧倒的に有利に立っているというのに、全く軽はずみな行動に出ようとしない事から、そう判断出来る。
 そして、その判断が正しかった事が、相手の台詞で明らかになった。

「よ〜、こんなところまで正義心振りかざしておいで下さり、本当に光栄だよ、≪ジェノバ戦役の英雄≫ティファ・ロックハートさん」

 そう言ってきたのは、一番最後に登場した風格のある『悪役のボスキャラです』と言わんばかりのがたいの良い男だった。
 
 ぱっとみたらバレットに似ているかもしれない。
 ……きっと、本人に言ったら「何!?俺の方が男前だ!!」って、怒り出すんだろうけど…。

「ティファさんよ。何でこんな所まで来てもらったか分かるかい?」
「……さあ?」
「はっ。あんた達には本当に俺の可愛い子分共が、散々世話になってんだ!」
「……子分?」
「俺達の事さ!」
勇ましい声と共に、『ボスキャラ』の男の後ろから四人の男達が現れた。
 四人とも、身体のどこかしらに包帯を巻きつけている。
 最近負った怪我なのだろう。


 私は、その四人をじっくりと見つめ、過去の記憶を脳内に呼び覚ます。
 そして、たっぷり時間を掛け、考えて、考え抜いたあげく……。


「……誰?」
「なにー!!バカにすんじゃねえぞ!!」
「……え?でも、本当に……誰?」
「覚えてない、とでも言うつもりかよ!」
「覚えてないって言うか、全く記憶にないんだけど……」
「「ふざけんな!!」」

 異口同音に叫ぶ四人と、呆れたような顔をして私を見つめるその他大勢の視線を全身で受けながら、私は改めて最近出会った人達の記憶を探ってみる。

 最近出会った人達の中には、確かにこの四人の様な柄の悪い人達も『いた事はいた』のだが、どう思い返してみても、この四人に会ったのは『今日』が『初対面』だ。

「やっぱり、私、あなた達に会うのは今日が初めてよ」

 きっぱりと言うと、四人は顔を真っ赤にさせ、歯をむき出して怒りの形相をして見せた。
 そう、その顔はまさに『チンパンジー』そのもの。
 ハッキリ言って、笑えるわ。

 胸中で蔑む私の目の前で、『ボスキャラ』の男が横柄な態度でキーキー喚く『チンパンジー』…、じゃなかった、『子分達』を黙らせた。

 そして、私に向き直ると、『偉大な親分です』、と言う野太い声で、私に向かって口を開いた。
「ティファさんよ、あんたに記憶がなくても、あんたの旦那のクラウドさんには記憶があるはずだ。三日前の土砂降りの中、こいつら四人を馬鹿でかいバイクで跳ね飛ばしたんだからよ!」
「クラウドが…!?」
 驚いて目を丸くした私の反応に満足したのか、更に『親分』は饒舌に語りだした。

「そうよ!三日前、こいつらが丁度いい『カモ』を脅しつけて『美味しい果実』を頂戴しようってまさにその時、あんたの旦那がバイクでいきなり突っ込んできやがったのさ!おかげで、こいつらは半死半生の傷は負うし、『カモ』には逃げられるし、こいつらの傷を直す為に秘蔵の『ハイポーション』は四個も使っちまわなけりゃならなかったし、散々な目に合わされたんだよ!」
この落とし前、どうつけてくれるんだ!?

 そういきり立つ『親分』を、『子分達』が「おお…」「さすが親分!」等と言ってはやし立てる。


 私は『親分』の言葉に、三日前の夜に交わした、クラウドとの電話でのやり取りを思い出した。




『無事にゴンガガに着いた。ザックスの実家に挨拶が終わったところだ。あとは宿屋へ行くだけだな』
「そう。良かった、無事に着いて。酷い雨だから、無事に着けるかどうか心配してたのよ」
『そうか。心配かけてすまない。でも、大丈夫だ。フェンリルなら、そこらへんのバイクと比べると、今日のような豪雨でも運転していて転倒する危険は少ない』
「分かってるよ。でも、やっぱり視界が悪くなるでしょ?だから、どうしても雨の日は心配になっちゃうわ」
『フフ…、ティファは心配性だからな。そうそう、心配と言えば、今日エッジを出る直前に、数人の暴漢が一般人を恐喝している現場に出くわしてな。ジュノンからの定期便に、ギリギリ間に合うかどうかの瀬戸際だったものだから、つい、フェンリルで跳ね飛ばしてそのまま放置して来てしまったんだ。あいつら、今頃、星に還ってないだろうな…。一応、手加減はしたんだが…』
「え!?跳ね飛ばして、放置したの!?」
『ああ、多分大丈夫だとは思うが…』
「クラウド〜」
『……まずかったか、やはり?』
「まずいに決まってるでしょ〜…。もう、本当に仕方ないなぁ。でも、誰かがひき殺されたって話、今日お店に来てくれたお客さん達は誰も言ってなかったから、多分大丈夫じゃないかしら?」
『ああ、そうか。誰も話題にしなかったのなら、きっと生きてるな』
「そうね。でも、今度からはフェンリルで撥ねる、なんて荒業しないでよ?」
『ああ、分かった。じゃ、そろそろ行くから』
「うん。お疲れ様。気をつけてね。ちゃんとしっかり休んで、しっかり朝ごはん食べてね」
『ああ、分かってる。フフ…、ティファは俺にまで『お母さん』なんだな』
「も、もう!私はクラウドを心配してるの!!」
『ああ、ちゃんと分かってるよ。有難う』
「……うん」
『また明日の朝電話するよ』
「うん。待ってるね」
『ああ、お休みティファ』
「お休みなさい、クラウド」
『子供達にもヨロシクな』
「うん」
『……ティファ…』
「うん?」
『……お休み』
「……うん。お休みなさい」
『……良い夢を…』
「うん。クラウドも、ね?」
『ああ、有難う』
「フフ、どう致しまして」



 フフ、あの時のやり取り、今思い出しても頬が緩んできちゃうな…。

 思わずにやけてしまう私を、「おい!聞いてるのか、くぉの女!!」と言う、ドスの聞いた怒鳴り声が、現実へと引き戻した。

 ああ、私ったら、つい目の前の事を忘れてたわ。

 そうそう、そう言えば、確かにクラウドが三日前の当日に話してくれてたっけ。

 でも………。

「ええ、確かにクラウドが電話で話をしてくれたわ」
「はん!やっと思い出しやがったのか!?」
「でも…」
「あん?何だよ!?」
「やっぱり、『私にとっては』あなた達は『初対面』よ。だって、あなた達を跳ね飛ばしたのは『クラウド』であって、『私』じゃないでしょ。」
「「「………」」」
「………」
 何となく気まずい沈黙が流れる。

 しかし、『親分』は、ここで黙っていたら面子に関わる!とでも思ったのか、急に大声を出した。
「ご、ごちゃごちゃ細かい事は良いんだよ!とにかく、あんたの旦那が俺の可愛い子分をこんな目に合わせてくれたんだ!旦那の代わりに落とし前、あんたが払ってくれよな!!」

 そして、更に一言こう付け加えた。

「本当は、あんたのとこのガキを囮にするつもりだったんだが、あんたが店から出てくる方が早かったし、ガキ共は他のガキと一緒になってて、なかなか一人にならなかったんでな。ま、手間が省けて助かったぜ。さて、では…」
「………デンゼルとマリンを囮にするつもりだったですって……?」

 無意識に低くなった声に、男共がギョッとして後ずさる。

「………デンゼルと、マリンを、お、と、り、に………?」
「「「え、えっと…………」」」

 私の中で何かが大きな音を立てて弾け飛んだ。
 

 弾け飛んだのは、きっと『理性』という名前の人間の尊厳の一つでしょうね。

 でもね。

 もう。

 遅いのよ………!!!


「うちの子供達に何かしようだなんて、絶対に許さない!!!!!」
「「「「「…………!!!!!」」」」」


 いくら数が多くても、いくら相手全員が男でも、そんなの、関係あるって、本気で思ってたのかしら?この悪党どもは!?




 ふと気付いた時には、もう夕暮れに近かった。

 私が市場に買い物に来てから、随分時間が経っている。

 結局、私は何も得る事無く、少々痛めた両手首をさすりながらトボトボと帰宅の途へと着いていた。

 買い物を少しだけするつもりで家を出た為、グローブを持って来ていなかった。

 素手で多数を相手にしたので、手首にいつも以上の負荷がかかってしまったみたい。


 はぁ、何やってんだろ…私。
 結局、何も買えなかったし、両手首は少しだけとは言え痛めてしまうし、お気に入りのブーツは泥まみれになるし……。

 綺麗な夕方には似つかわしくない大きな溜め息をついて、私は店の扉の鍵を開けた。

 すると、

「お帰り、遅かったんだなティファ」
「クラウド!?」

 優しい声と共に、心から安らげる彼の微笑が私を出迎えてくれた。

「え、えー!?どうしたの!?いつ帰ったの!?明日の予定じゃなかったっけ!?!?」

 びっくり仰天する私をクラウドは、悪戯が成功した時に子供が見せる様な笑顔で
「実は、思ってた以上にスムーズで、今日の正午の便に乗ることが出来たんだ」
そう言って、優しくそっと抱きしめてくれた。

「そうなら携帯でもかけてくれたら良かったのに!」
そう言って少しむくれてみると、
「電話したら、きっとティファは無理してでも俺の為に何かしよう、って頑張りすぎると思ったんだ」
違ったか?

 そう小首を傾げ、悪戯っぽい笑みを向ける彼に、どうして私が「違うもん!」だなんて言えるかしら…?

 言える訳がない、よね。

 まさにその通りで、明日の早朝に帰宅する予定だった彼の為に、市場に行ってあんな目にあったんだから……。


「ティファ?どうしたんだ、良く見たらボロボロじゃないか!?それに、その手首と手の甲!擦り傷と、あ!!痣まであるじゃないか!?」

 私をまじまじと見つめて彼が私の異変に気付き、眉間にシワを寄せて大きな声を上げた。

 彼の狼狽振りに苦笑すると、私は今日の出来事を話して聞かせた。




「………やっぱり生きてたのか……」
「クラウド。死んでないかどうか心配してたじゃない」
「ティファがこんな目にあうなら、生かしておくんじゃなかった」
「もう!バカなこと言わないで!!」
「……!バカって…」
「……フフ、でも、嬉しいかな。ありがとう、クラウド」
「い、いや。別に。そもそも、俺があの時ちゃんと始末をつけてたら、ティファがこんな目に合わずに済んだのに…」
「もう、良いの。クラウドがこんなに怒ってくれた、っていうだけで、私は十分なの。それに、私はほとんど無傷だし」
「何言ってる!?こんなに擦り傷と痣だらけじゃないか!?」
「もう。これくらい二年前の旅の時と比べたら何でもないじゃない」
「あの時と今を比較するのはおかしいぞ?」
「そうかな?」
「ああ」
「そうよね?フフ…」
「……全く……」

 大騒ぎして私に傷薬を塗ってくれたり、手首に包帯を巻いてくれるクラウドに、私は苦笑しつつも、くすぐったい気持ちで胸が一杯だった。

 今日は散々な目に合ったけど、一日の終わりにこんなに素敵な事があったから、まあ、良いか!


 やがて、子供達も元気一杯帰宅して、私の怪我とクラウドの帰宅、両方に驚いて目を丸くした。
 
 もちろん、子供達には例の事件は内緒………。

 そして、その日のセブンスヘブンは休業して、帰宅したクラウドを交えた家族四人の時間をたっぷりと楽しんだ。




 翌日、朝刊でクラウドがこんな記事を見つけて私に向かって苦笑した。
「ティファ、いくらなんでもこれはやりすぎじゃないのか?」
 子供達にばれないよう、声を落としてそっと囁きながら、例の記事を見せてくれた。

 そこには―。


【エッジの恐喝グループ壊滅か!?】

 昨夜、WROの見回り隊員が、最近出来た市場の裏路地にて、恐喝グループと思われる男達、23名が倒れているのを発見し、その場で身柄を拘束した。近頃、市場の裏路地から不振な男達数名の出入りが目撃されており、それに伴い、恐喝の被害が相次いで起こっていた。
 その為、昨夜急遽、WROによる見回りが行われた為、23名の男が倒れているのを発見できたという。彼らは、現在WROの監視の下で18名が入院、内重傷者が5名にのぼるという。比較的回復しているグループメンバーの一人は、非常な混乱状態にあり、支離滅裂な話しか出来ない状態であるとの事。この事件の捜査は、主犯と思われる重傷者の一人が回復し次第、執り行われると言う。
 当日、その付近では、他に怪しい人物は発見されていないが、全員が武器を所持していたものの、その武器によって負傷した者がいない為、恐喝グループが何者かによって襲撃を受けた、との見解を強め、仲間割れの線は薄い、とWROはコメントしている。

とあった。
 
 私は、バツの悪い思いで一杯だったけど、クラウドが苦笑しつつも優しく
「ま、ティファらしいし、それに悪いのは向こうだからな。今回の事は二人だけの内緒だ」
 そう言って、悪戯っぽく笑ってくれたので、私は素直に頷いた。

 クラウドとの二人だけの秘密がこれじゃあ、あまりにも色っぽくないけど、……まあ良いわ!


 だって、今日、私も彼も仕事を休んだから、一日中彼と一緒にゆっくり出来るんだもの!




 それに、あの『親分』、結局最後までクラウドの事「旦那」って言ってたわね。

 ………もう少し手加減してあげればよかったかな?


あとがき

はい、いかがだったでしょうか?
本当はもう少し、「ティファピンチ!!」見たいな描写を書きたかったのですが、
どうしてもそのへんのチンピラにやられるティファが想像出来ず、結局この様に
無敵のまま終了してしまいました(笑)。
強いティファ、そして、クラウドにメロメロなティファを書いて見たかったのですが
いかがでしょうか?(汗)

最後までお付き合いくださり、有難うございました。