金色に輝く髪を潮風に乗せ、白い砂浜に臨む石垣に腰をかけて片膝を立てている青年がいた。
 燦々と輝く太陽の陽を浴び、男性にしては白い肌と、漆黒の服が遠くからでも人目を引いた。
 そしてそれは、近づいてみると彼の端正な顔立ちにより、ますます惹き付けられてしまう。
 身に纏っている衣服と同じサングラスをかけているため、瞳の色は分からないが、それでも充分過ぎるほど『色男オーラ』を醸し出しているその青年に、ビーチに遊びに来ていた女性は興味津々に見つめているのだった…。

 そして、その注目の的である青年、クラウド・ストライフは…。

 すこぶる機嫌が悪かったのである…。





陽の光に相応しいのはキミか?それとも…。






 クラウド・ストライフは目の前に広がる広大な海よりも、もっと手前の光景にイライラが募っていた。
 彼が腰掛けている石垣は、そのまま足を下ろしたら真っ白い砂浜が歓迎してくれる場所にある。
 ようするに、普通の歩道とビーチを分けているだけの、いわば境界線のようなものだった。

 彼が何にイライラしているかと言うと…。

 黄色い歓声を上げて彼氏に甘える女性と…。
 甘えてくる女性をデレデレしながら抱きとめている男性…。

 まぁ……、リゾート地であるコスタ・デル・ソルでは決して珍しくない光景だ。
 カップルが『いちゃこら』しているだけなのだから。
 クラウド自身、この地が恋人同士にとってとても憧れの地であることを知っている。
 だから、目の前にバカップルが何人いようが別に不思議でもなんでもない。
 むしろ、こんなに素晴らしい天気なのに、閑散としているビーチの方こそがありえない。
 というわけで、彼の苛立ちは全くのナンセンスなのだ。

 だが。

 頭では目の前の光景が当たり前だと分かっているのに、どうしても心が承服してくれない。


「………まだか……?」


 思わず口に出た不満の言葉。
 青年は、バカップルの『いちゃこら』している姿を観察するためにここにいるわけではない。
 誰が好き好んで人が『いちゃこら』して幸せそうにしている姿を見たいものか!
 クラウドがイライラしながらここにいる理由はたった一つ。

 荷物の配達のためだった。

 荷物を預かって配達先に届けるために待っているのではない。
 荷物を依頼主から受取人に渡すために待っているのだ。

 通常、荷物の受け渡しは各自の自宅か仕事先と決まっている。
 だが、今回の荷物の受け渡し先はこれまでの仕事とは違っていた。

 依頼主は若い男性。
 クラウドよりももしかしたら1・2歳若いかもしれない。
 真っ赤な顔をして、
『すいません、これを…その……コスタのビーチに届けてもらいたいんです。僕の……その……えっと……』
 肝心な部分を実に言いにくそうにもじもじする青年に、クラウドは微笑ましい………とは、微塵も思えなかった。
 現在のイライラは、その依頼主と対峙した時からずーっとクラウドの胸の中で抱かれていた。
 依頼主の『恥じらい』は、クラウドにとって『優柔不断』以外の何者でもないと感じられたのだ。

 クラウドのことを『心が狭い奴!』と思う人もいるだろう。
 だが、あえて彼のことを弁護させてもらいたい。

 クラウド・ストライフはかれこれ3週間も自宅に戻れていないのだ。
 それもこれも、次々舞い込んでくる仕事の依頼のせいだ。

『そんなにイライラするくらいなら、一週間に一日くらい定休日を作ったら良いのに』

 そう思われる方もいるだろう。
 だが、クラウドの仕事を考えて欲しい。
 彼の仕事は不定期なのだ。
 そして、その依頼は『ジェノバ戦役の英雄』というクラウド・ストライフにしか頼めない危険な場合が多い。
 彼は世界中を駆け回って荷物を届けてくれる数少ない『デリバリー・サービス』なのだ。
 だから、クラウドはなるべく仕事は断らないようにしている。
 というのも、人の役に立ちたい…とか、自分にしか短時間で届けられない…といった理由も勿論あるのだが、実は…。

 クラウドはお金を貯めている。
 ティファや子供達に内緒で。

 別にやましいことがあって内緒にしているわけではない。

 彼はずっと考えていた。
 酷い裏切りをした自分を、なんのしがらみもなく受け入れてくれた家族へ、何かしらの感謝の意を表したい…と。
 それには一体何が良いのだろう…と。

 もしもこの気持ちが少しでもバレたら、きっとティファもデンゼルもマリンも口を揃えて、
『『『 水臭い! 』』』
 と、眉間にしわを寄せるだろう。

 ティファや子供達が心から喜んで迎え入れてくれたことは痛いくらいに分かってる。
 だが、それとこれとは話は別だ。
 クラウドは、自分の出来ることを精一杯の形として、ティファ達にしてやりたかった。
 そのためには、やはり…。


「先立つものは金…だからな…」


 再びクラウドは独り言をもらした。
 そして、深い溜め息を吐く。

 家族のために何かしてやりたい。
 そのためには、やはり金が必要だった。

 クラウドは知っていた。
 ティファが新しい調理器具を欲しがっていることを。
 デンゼルとマリンが新しい服が欲しいと思っていることを。
 だが、彼の愛すべき家族はそれを決して口にしなかった。

 ティファが店に出す料理を作り終え、一生懸命鍋やお玉を洗って、少しでもその汚れを落とそうと頑張っている後姿を知っている。
 何度も何度も、こすっては水で少し流し、汚れ具合をチェックして……溜め息を吐く姿…。

 デンゼルとマリンが、遊んで帰った時、少しでも汚れていたら一生懸命、小さな手でその汚れを落とそうと頑張っている姿を知っている。
 そして、少しずつ大きくなっているために、手首や足首が裾からちょこん…と出ているのを姿見で見ては、自分達で何とか繕いなおせないかひそひそと相談していることを…知っている。
 ティファは色々と忙しいから、なるべく手を煩わせないように…と、子供心にそう思っているのだ…ということを…クラウドは知っている。

 だからこそ、クラウドは舞い込んでくる仕事を片っ端から請けることにした。
 少しでも多く稼ぎ、ティファに新品の調理器具を買ってやりたい。
 子供達に身長や容姿に見合った素敵な服を買ってやりたい。
 ティファと子供達は、クラウドが中々戻ってこられない働きぶりに心底心配をしているようだった。
 仕事を増やしたら家族が心配することは、当然予想していた。
 電話越しで心配する家族の声に、自分の心が揺れるだろうことも想像していた。
 事実、何度も心が揺れた。
 だが、心配かけていることは重々承知。
 寂しい思いをさせているのは百も承知。

 だが…と思うのだ。

 寂しい思いをさせるのは今だけ。
 自分自身が申し訳なく思うのも今だけ。
 あともうひとふん張りしたら、苦労が報われる。
 クラウドにとって、それだけが支えだった。
 それに、今回のハードな仕事はそれなりに実入りがあるという、嬉しい想定外の現実をもたらしてくれていた。
 元々、今日の仕事でとりあえずのハードワークは終了させる予定だった。
 懐の中のギルに、クラウドは苛立ちを少しだけ緩和させた。
 想定外の収入。
 これだけあれば、ティファと子供達に満足のいくものをプレゼントしてやれる。
 三人の喜ぶ顔を想像して、クラウドはひそかに顔を綻ばせた。

 このコスタでの配達を終了させたらひとまず連休を取る予定にしていたため、今回の仕事の合間に相変わらず舞い込んできていた仕事の予約を、明日から一週間の間、断っていた。
 いわゆる長期休暇だ。
 そのことは家族には内緒にしている。

 散々寂しい思いをさせ、心配をかけた。
 今回の3週間の仕事の報酬を、ティファ、デンゼル、マリンのために使う。
 そして、一週間の連休の間は、ファミリーサービスにいそしむ。

 一週間も休みを取ったと知ったら、子供達は文字通り飛び跳ねて喜んでくれるだろう、という確信がクラウドにはあった。
 そして…、うぬぼれでなかったら、ティファも喜んでくれる……はず。

 だから。
 一刻も早く荷物を依頼先の人間に渡したかった。
 そうして、とっととこんなアホなシーンを見せ付けられるこの場を後にしたかった。
 何が悲しくて、他人の幸せそうな姿を見学せねばならんのだ。
 それに、気のせいだろうか……、この目の前のカップルはクラウドを何故か意識しているように感じられるのだ。

『…悪かったな、ビーチに男一人で…』

 なんとなく、胸の中で愚痴をこぼす。
 まるで、恋人と待ち合わせをしていてすっぽかされた男になった気分だ。

 と、そこまで考えたクラウドはハッ!と思い至った。

 そう。
 まさにそういう目で見られているのだ、自分は!

 一人、ビーチに臨む石垣の上に片足を抱えて座っている姿は、このカップルの多いビーチでは浮いている。
 恋人と待ち合わせをしてずーっと待っている哀れな男。

 そう言う風に見えないはずがない。

 クラウドはげんなりした。
 道理で先ほどから目の前のカップルが『自分達、とっても幸せなの!羨ましいだろ〜!?』と言わんばかりに『いちゃこら』しているはずだ。

 なんとなく溜め息を吐いて視線を遠くに飛ばす。
 青い海が白い雲を産み出しているような素晴らしい景色が広がっている。
 遠くには船が走っているのが見え、手前にはサーフィンをしている若い男女や、浮き輪にしがみついて黄色い声を上げている子供達と親がいる。
 白い砂浜には、女友達だけで来ているらしきグループがあり、その傍らにはナンパをかけるかかけまいか、で悩んでいる男性グループがいた。
 ビーチパラソルでだれている中年の男性や、海の家で買って来たアイスを美味しそうに食べている子供達がいる。

 色々な人達がいて、色々な様子でこのコスタでの時間を満喫していた。
 それなのに…。


 何故、自分はこの目の前のアフォなカップルが気になるんだろう……。


 クラウドは再びバカップルに目をやってしまった。
 いや、本当に見たくないのに視界に入ってくるのだ、このカップルは。
 結構な時間、ビーチで待ちぼうけを食らわされている男性が気になって仕方ないらしい…。

『ヒマ人だな…この2人。とっとと向こうで2人きりの世界を楽しんだら良いだろうに……』

 チラリ…と視線を石垣沿いに走らせる。
 クラウドから数メートル離れたところにも、男性が同じように座って待ちぼうけを食っていた…。
 実は、彼はクラウドが到着した時から既に同じ体勢で誰かを待っていたのだ。

『あっちの方が待ちぼうけ食ってるのに、なんで興味が俺なんだ……』

 自分の容姿に全く無関心なクラウドにとって、このバカップルが『美男子が待ちぼうけを食っているからこそ興味がある』ということに微塵も思いつきはしない…。
 非常に残念だが、クラウドよりも先に待ちぼうけを食ってる男性は、人並みの容姿をしていた。


 それにしても…、とクラウドは思った。
 届け先の人間が一向に来ない。
 いい加減、我慢の限界だ。
 時計をチラリ、と見ると、約束の時間から30分経過していた。

「タイムリミットだな」

 ポツリと呟き、立ち上がる。
 依頼人からお願いされたのは、このビーチで届け先の人間に荷物を渡す以外にももう一つ仕事があった。
 それは、彼女が遅刻しても30分は待ってやって欲しい、というものだった。
 クラウドは待った。
 約束どおり30分も!
 これ以上は仕事外になる。
 目の前のバカップルはもう見飽きたし、コスタに着いてから通り過ぎる人に好奇の視線を投げられるのも飽きた。

 携帯を取り出し、依頼先の男性に『仕事成らず』の報告をしようとしたその時。



「お待たせしちゃってごめんなさ〜い!」



 甘ったるい声。
 媚びた声音。
 途端に鼻についた香水の匂い。

 クラウドは片頬を引き攣らせながら振り向いた。

 ブロンドの髪を背になびかせ、グリーンの瞳を持つ美女が満面の笑みでクラウドを見ていた。
 身長はティファよりも少し低いくらい。
 自分の容姿に自信があるのだろう。
 実に堂々と、クラウドの目の前に立っていた。
 初対面でクラウドの前に堂々と立てる人間はあまりいない。
 クラウドは、遅れてきたにも関わらず、『ごめんなさ〜い!』という言葉の中にこれっぽっちも『謝罪』が込められていないことに不快感を感じた。
 だが、これでようやっと仕事が終わる。
 その安堵と喜びの方が、苛立ちや不快感よりも大きい。

「では、これが…」

 そう言って、クラウドは手の平サイズの小箱を取り出した。
 女性が嬉しそうに一歩、クラウドに近づく。
 何故か、ビーチのバカップルが恨めしそうな唸り声を上げたのがクラウドの耳に届いた。

「ここでつけて下さい」

 ニッコリ笑って女性は手を出した…。
 左手を。

「え…?」

 一瞬、なにを言われたのか分からずきょとんとする。
 だが、女性はニコニコ笑ったまま、クラウドがその小箱を開けるのを待っていた。
 差し出した左手は、手の平が地面に向いており、物を受け取るような仕草ではない。

『…開けろ…ってことか……俺に…?なんで…?』

 頭の中は疑問で一杯だ。
 だが、一刻も早くこの場を後にし、愛しい家族の元に帰りたい!という気持ちが強かった。
 クラウドは疑問だらけの頭で、そのピンクのリボンを解き、小箱を開けた。

 そうして…固まった。

 いくら鈍感大魔王のクラウドでも、気づかないはずがない。
 その出てきたビロード小箱が一体なんであるのか。

 そうして、やや愕然とした面持ちで小箱から女性へ視線を移す。
 女性は、当然その中身がなんであるのか知っていたのだろう。
 全く動じず、相変わらず満面の…、自信に満ちた笑顔でクラウドを見つめていた。
 クラウドはまた、小箱に視線を落とした。
 差し出されている左手。
 手の中にある小箱。
 そして、フッと気づいた。
 自分に…、自分達に注がれている好奇の視線の数々を!


『……やられた……』


 こんな目立つ場所を指定したのは、疑いようもなく目の前の女。
 クラウドは混乱した。
 彼女に想いを寄せている依頼人の気持ちが分からない。

『彼女が出した条件に抵抗を感じなかったのか?』

 まがりなりにも、こんな大勢の目の前で自分の想い人に他の男が求婚しているようなシチュエーションを求められ、それを承諾するとは。

 しかし、すぐに結論が出た。
 彼女は、この信じられない常識外れの条件でのみ、青年の求婚を受け入れる、と言ったのだろう。
 青年はそれを信じた。


『…冗談じゃない』


 一瞬、カッ!と頭に血が上った。
 どう考えてもそんな非常識な条件を出した女が、約束通りに青年を受け入れるとは思えない。
 だが、だからと言ってこんな大衆の前で彼女に恥をかかせて良いものだろうか…?
 いやいや、だがここで指輪を自分が彼女の指に嵌めたとしたら、実質、自分が彼女に求婚した、と世間で評されるに決まっている。
 そうなったら……。


 クラウドの背筋を冷たいものが落ちていった。
 頭に上っていた血が、一気に下がる。


 絶対に出来ない!
 そんなとんでもないことになってみろ!
 ティファは勿論、子供達がどんなに大きな衝撃を受けるか!
 そして、クラウドは確実に仲間達に殺されるだろう。
 ライフストリームからも痛恨の一撃を繰り出されるに違いない。(それも2人分)

 だが、一体どうしたら良い?
 あくまでこれは仕事なのだ。
 荷物の配達がクラウドの仕事。
 ここで悪評がついたら、折角築き上げた信用が一気に落ちる。
 そうなると、これからの生活が…。


 これらの葛藤、迷いは実にほんの一瞬、刹那の瞬間だった。


 クラウドはテキパキと箱を開けると、差し出されている彼女の左手薬指にリングを嵌めた。
 彼女の顔が勝利に輝き、周囲からは何故か歓声が上がる。
 彼女が満足そうに、実に嬉しそうに顔を破顔させ、
「嬉しい、ありがとう!」
 と、クラウドに抱きつこうとした。

 が…。

「では、受取証にサインをお願いします」

 ベシリ。
 抱きつこうとした彼女の額に、受取証の紙切れをベシッ…と貼り付け、淡々とクラウドは事務口調でサインを求めた。
 場が一気に凍りつく。
 女性も凍りついた。
 だが、そんな彼女にお構いなしなクラウドは、
「サインをお願いします」
 底冷えするような声でもう一度言った。
 野次馬達までもが凍りつき、その場の気温が一気に下がった。
 空気の読めないバカップルまでもが固まる。
 遠くのビーチで遊んでいる親子や、常識内のカップル、ナンパを頑張っていた青年達とナンパされた女性達の笑い声が、どこか遠くから聞こえてくるようなそんな、非現実的な感触に叩き落された。



「クラウド、ダメじゃない、そんな怖い顔したら」



 ポッカーン。

 まさに、そんな表現が相応しい。
 クラウドだけではなく、固まっていたバカップルや野次馬、更には額に紙切れを張り付かされた女性までもが、ポッカーン…と声の方を見やった。

 クラウドはそこに立っている女性と少年、少女の姿に目を丸くし、息を吸い込んだ。
 口を開けるが、何を言って良いのやらさっぱり分からない。

 いやいや、なんでこんなところに!?
 って言うか、いつから、どうやってここに来た!?
 いや、それよりもなんでここにいるって知ったんだ!?

 聞きたいことは山ほどある。
 だが、どれ一つとして言葉にならない。
 そんなクラウドに、デンゼルとマリンが嬉しそうに駆け寄り、勢いを殺さずに抱きついた。

「クラウド!」
「やっと会えたー!」

 嬉しそうに笑いながら、全身で喜びを表してくれる子供達に、クラウドはおろおろとしながらも、片腕で一人ずつを抱き上げた。

「なんでここに?」

 子供達の笑顔に、ようやく疑問が言葉となって出る。
 デンゼルとマリンはニコニコ笑いながら、唖然としている女性を見た。

「「このお姉ちゃんの恋人から電話があった(の)」」

 野次馬達も含め、彼女は驚愕に包まれた。


 *


「やっぱり、自分は騙されてるんじゃないか…って電話があったんだ」

 そう言って、デンゼルは美味しそうにチョコレートパフェを一口、口に運んだ。
 デンゼルの隣では、マリンが美味しそうにフルーツパフェを食べている。
 キラキラと輝く目は、パフェとクラウド、そしてクラウドの隣に座っているティファへと、せわしなく行き来していた。
「それでね、クラウドが周りの人から誤解を受けるようなことになったら申し訳ない…って、お兄ちゃん、言ってたの。だからクラウド、許してあげてね?」
 ちょっと心配しつつ、依頼主の許しを請うマリンに、クラウドは苦笑した。
 どこの世界に、こんな可愛い娘のお願いを跳ねつけられる者がいるだろう…?
 クラウドは苦笑しながら小さく一つうなずいた。

「それにしてもクラウド。本当に最近仕事のしすぎじゃない?大丈夫だった…?」

 先ほどから子供達に話させてやっていたティファは、子供達がようやく口を閉ざしたのを見計らってそっと声をかけた。
 その声音は本当に心から心配しているもので、クラウドの心を幸せに満たすには充分過ぎるものだった…。

「大丈夫だ、本当に悪かったな…3人共…」

 そっと彼女の頬に触れながら、子供達とティファに謝罪をする。
 当然だが、3人は首を振った。

 その日の晩、クラウド達はコスタの別荘で休んだ。
 クラウドは今回の計画である『明日からの長期休暇』を話した。
 予想通り、子供達もティファも大変な喜びようだった。
 だから、どうせなら無理して今日中に帰らず、ゆっくり楽しもう、ということになった。
 そうして、翌々日にクラウド達はエッジに戻った。
 クラウドの全奢りで、ティファは新しい調理器具を…。
 子供達は、背丈と容姿に相応しい可愛くてカッコいい服を買ってもらってご満悦だった。


 沢山の買い物を両腕に抱えながら家族で街を歩く。
 コスタ同様、エッジも快晴だった。
 その陽の光を浴びながら、嬉しそうに自分の周りをくっついて歩く子供達と、ティファにクラウドは思わずにはいられない。


『やっぱり、あのバカップルとは比べ物にならないな』


 陽の光ですら、その輝きが違って見えるのだから。


 薄っすらと口元に笑みを浮かべながら、クラウドは家族と一緒に至福の時間を過ごした。


 そんな彼は、全く気づいていない。


 ― 『あのバカップルとは比べ物にならない』 ―


 その感想が、惚れた欲目であるということに。

 恋は盲目。
 親バカも盲目。

 そんな盲目だらけの青年が、この星を救った英雄のリーダーである。



 あとがき

 …。
 ……。
 ………話しの内容が著しく変わってしまった気が…(汗)。
 ま、まぁ、拙宅のクラウドは親バカでティファにベタ惚れですから、これもあり!ということで…!