飛翔




「ティファ、見てホラ!」
 マリンが指差す方を見上げたティファは、大空を列になって飛んでいく鳥の姿に感嘆の声を上げた。
「凄いねぇ」
「うん、綺麗だよね〜!」
 足を止めてその悠然たる姿に、暫し見惚れる。
 時刻はもう夕方。
 オレンジに輝く大空を列になって行く鳥の姿は、自然の力強さを感じずにはいられない。
「いいよなぁ、鳥はさ」
 マリンと反対側で空を見上げていたデンゼルが、ポツリと呟いた。
「どうして?」
 小首を傾げて視線を下に移すと、フワフワの髪を風になびかせたデンゼルが、鳥の群れから目を離さずに口を開いた。
「だって、自由に大空を飛べるんだぜ?俺達人間は、どう足掻いたって自由には飛べないじゃん。そりゃ、機械に頼れば飛べるけど、それって自由ってわけにはいかないだろ?」
 手を空にかざしながら羨ましそうに言う息子に、ティファは柔らかく微笑んだ。
「そうだねぇ。確かに、自分の思い通りに自由に飛べる事は出来ないよね」
「だろ?俺さぁ、体全部で風を感じながら飛んでみたいんだよな。こう、体重とか全部捨てちゃってさ。あの広い空を自由に飛べたら、すんごく気持ち良いだろうな」
 目をキラキラさせるデンゼルに、ティファは再び空へと視線を移した。
 既に鳥達の姿は遥か彼方に遠ざかっており、今では只の線にしか見えない。
「うん、そうだね。きっと、気持ち良いだろうね」
「私も空を飛んでみたかったなぁ」
 そう言って、マリンもデンゼルのように空へと腕を伸ばした。
「ティファ、天使って背中に羽があるでしょ?人間もそうだったら良かったのにね。そしたら、少しはこの星の為になってたと思わない?」
「え?」
 マリンの言わんとしている事が分からず、キョトンとしたティファは、同じくポカンとしているデンゼルと顔を見合わせた。
「だって、もしも人間が自由に空を飛べたら、その分、星のエネルギーを使わなくて済むでしょ?ほら、車とか、飛空挺とかのエネルギー使わなくて済むじゃない」
「ああ…」
「なるほど」
 マリンの説明に、ティファとデンゼルは驚いた。
 確かにその通りだろう。
 人間が自身の力で飛ぶ事が出来たら、その分、使わなくて済むエネルギーという物が、確かに生まれてくる。
 しかし…。
「空を飛べたらって話からそこまで発想出来るとは…流石と言うか何と言うか…」
「ん?なぁに?」
 思わず苦笑したティファに、マリンが愛くるしい眼差を向けて小首を傾げた。
「ううん、何でもない。さ、二人共、早く帰ってお店の準備、しちゃわないとね〜!」
 買い物袋を両腕に抱えなおすと、不思議そうな顔をする子供達に笑顔を見せた。
「「は〜い!」」
 両脇の子供達が可愛い返事を返す。
 どこから見ても、それは仲の良い親子の姿だった。



「いらっしゃいませ〜!」
 活気溢れる店内に、ドアベルの音が響く。
 顔馴染みの常連客達を、看板娘と看板息子、そして女店長が笑顔で出迎える。
 そんないつもと変わらないセブンスヘブンでは、今夜も客達が温かな料理と美味しいお酒、そしてセブンスヘブンの住人の温かな笑顔を求めてやって来る。
「よ!」
「あ、いらっしゃいませ!いつもので良いですか?」
「おう!よろしく頼むよ〜!」
「はい、少々お待ち下さいませ」
 くるくると良く働き、物覚えの抜群なマリンが、馴染み客の好みのメニューをティファにオーダーする。
 それを、実に手際良く料理し、看板息子と看板娘に手渡して客に届ける。
 時には自身の手でそれを運ぶ姿は、客達の視線を釘付けにしている。
 そんないつもと変わらないセブンスヘブンだったが、今夜幾度目かのドアベルの音に振り返った看板息子と看板娘は目を丸くした。

「「クラウド!?」」
「ああ、ただいま」
 ドアの前に立つクラウドは、いつもと変わらない出で立ちで穏やかな眼差しを子供達に向けていた。
 どこもおかしなところなど無いのに、子供達は目を丸くしている。
 当然その理由が客達には分からない。
 首を傾げる客達の前で、子供達は先を争うようにしてクラウドの元へ駆け寄った。
「フェンリルは?」
「エンジン音、全然しなかったぞ?」
「ああ、今日はメンテナンスなんだ。最近すっかり忘れててな。思った以上に早く仕事が終わったから預けてきた」
 駆け寄った子供達の頭を優しく撫でながら、クラウドはふんわりと微笑んだ。
「あ、そうなんだ〜」
「良かった〜。もしかして事故でもしたんじゃないかとびっくりしたじゃないか」
「そうか?それは悪かった」
 ホッとした子供達に苦笑すると、子供達の驚いていた理由に納得した客達に向けて軽く会釈をする。
「クラウドさん、こんな時間に帰宅出来るだなんて久しぶりじゃないか?」
「ああ、本当に」
 客の一人に声をかけられ、それに答えながらもクラウドの視線は店内を探している。

 もう一人のセブンスヘブンの住人の姿が見当たらない。

 不思議そうな顔をする客に、別の客がにや〜っと笑いながらその疑問に答えた。
「クラウドの旦那。ティファちゃんならたった今、店の奥に何か取りに行ったぞ〜」
「え、あ、ああ。そうか…」
 どことなく照れたように顔を伏せたクラウドに、疑問が解けた客がポンと手を叩く。
「あ、そうか。ティファちゃんがいなかったからキョトキョトしてたのか」
「お前、それをズバリ本人のいる前で言ってやるなよな」
「おっと、こりゃいけねぇ!」
 ドッと店内に笑い声が上がったその時、実にタイミング良く店の奥からティファが戻って来た。
 そして、店内で顔を赤くさせているクラウドに気づくと、「あれ、クラウド!?」と素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたの?こんなに早く帰ってきて。それに、フェンリルのエンジン音が全然しなかったわよ。もしかして何かあったの?ん〜、でもどこも怪我してないみたいだし…。うん、怪我してないなら良いわ、フェンリルならお金出したら何とかなるでしょうけど、クラウドの体は機械じゃないんだし、お金で何とかなるものでもないものね!うん、良かったわ、本当に!」
 駆け寄ったかと思うと矢継ぎ早に捲くし立て、 クラウドの体をペタペタ触り、口を挟む隙を全く与えない。
 挙句の果てには勝手に『クラウドはフェンリルで事故を起こし、フェンリルを失って落ち込んでいる』というストーリーを勝手に作り上げたようだ。
 気遣わしそうな目をしながら、わざと明るく言い切ったティファに、とうとう周りの客達がお腹を抱えて笑い出した。
「ティファ…違うんだ」
 漸くクラウドが説明を出来た時、文字通り顔から火が出る程の勢いで真っ赤になったティファに、店内は更なる笑いの渦に巻き込まれたのだった。



「「ありがとうございました〜!」」
「またいらして下さいネ」
「暗いから気をつけて」
 実に珍しく、セブンスヘブンの四人に見送られた最後の常連客が、上機嫌で夜の闇に溶け込んでいった。
 そして、店には『close』の看板。
 クラウドが早く帰宅した為、いつもよりもうんと早い閉店となったセブンスヘブンに、常連客達は誰一人、不満そうな顔はしなかった。
 それどころか、『そうだよな!たまには可愛い子供達にもご褒美やらないとな!』『クラウドさん、子供達とティファちゃんを大切にしてやるんだぜ〜?』『おおい、皆!そんなわけだから帰るか〜』『この後、どっか寄ろうぜ?』『イイネェ…、でも、ここよりもいい店…ないよな…』『ま、それは仕方ないんじゃないか〜?』

『『『『俺達のティファちゃんの幸福の為に〜』』』』

 散々冷やかしの言葉を口にしつつも、家族水入らずになれるように気を使ってくれたのだ。

 客達の温かな心遣いに感謝しつつ、四人はちょっと遅めの夕食を久しぶりに皆で味わった。
「それでね!夕方に鳥の群れが綺麗に一列になって飛んでたんだ〜!」
「もう、めちゃくちゃカッコ良かったんだぜ!?俺も羽が欲しかったなぁ」
 夕方、買い物の帰りに見た光景を、子供達が目を輝かせながら先を争ってクラウドに聞かせた。
「へぇ…、鳥の群れか…」
 生き生きとその時の情景を語る子供達に、目を細めて相槌を打つ。そんなクラウドに、
「クラウドは仕事で世界中回ってるだろ?どこが一番『おお!大自然って偉大だ!!』って思ったんだ?」
と、思わぬ質問がデンゼルの口から飛び出した。
 マリンがデンゼルの隣で「あ!それ私も聞きたい!」と興味津々に見つめてくる。
 ティファは、カウンターの中でクラウドの為にスープのお代わりをよそいながら、彼と同じ様に目を丸くした。
 まさか、そんな質問がくるとは予想しなかったのだ。
「あ〜、一番…か…」
 口許を覆うように手を当て、頬杖を付いて考え込む。
 普段なら行儀が悪いので子供達に注意すべき事なのだが、あまりにも真剣な彼の様子に、ティファは注意し損ねてしまった。
 笑みを湛えて彼の目の前にスープの皿を置くと、クラウドに注目したまま席に着く。
 デンゼルとマリンも、クラウドが真剣に考え込んでいる様子を面白そうに見つめていた。
 暫しの沈黙が食卓をやんわりと包み込む。
「…街を出ると、どこでも自然の力を感じるからな…。どこが一番…と結論は出しにくいんだが…やっぱり『忘らるる都』…かな」
 漸く口を開いたクラウドに、子供達は「へぇ〜、そうなんだ」「俺、あの時はそんなに『大自然って凄い!』と感じる余裕無かったなぁ」「あ、私も…。とにかく怖いしティファは心配だし、デンゼルはおかしくなっちゃうしでどうしようかとばっかり思ってたもん」「う……ごめん」と、素直にクラウドの言葉に反応を返した。
 しかし…。

 隣に座るティファがサッと顔色を変えたのを見て『しまった…』と後悔した。
 彼女の前で、この場所は言うべきではなかった…。

『忘らるる都』

 あまりにも沢山の辛い思い出が詰まった場所…。

 半年前に子供達が連れ去られた時でさえも、ティファは一緒に救出に行く事が出来なかった…。
 それ程、彼女にとっては耐え難い場所なのだ。
 それなのに、あんまりにも楽しそうに語る子供達に釣られ、ついついその事を失念していた自分が恨めしい。
 咄嗟にフォローの言葉を口にしようと口を開くが、そのかけるべき言葉が出てこない。
「………」
「…クラウド…どうしたの?」
「…何かあったのか?」
 周りから見たら、今のクラウドは口をポカンと開けている様にしか見えない。
 デンゼルが眉を顰め、マリンが小首を傾げた。
「え…!?あ、いや…何でもない。ちょっとボーっとしてた」
 慌てて向き直る青年を、子供達は訝しそうな顔で見つめていたが、それをきっかけにティファも自分が彼の前ですべきではない表情をしていた事に気づき、慌てて笑顔を創った。
「き、きっとクラウド、疲れてるのよ。久しぶりに早く帰ったんだもの、今夜は早めに休んで、ね?」
「あ、ああ…そうだな、そうさせてもらう」
 ぎこちない会話を交わす大人達に、子供達は首を捻りつつも異を唱える事無く自分達の食事を平らげに戻ったのだった。



「さっきはすまなかった…」
 子供達におやすみのキスを贈り、寝室へ引き上げたクラウドは、先程の失言をティファに詫びた。
 目の前で軽く頭を下げている金髪の青年に、
「ううん、良いの…。私こそ、気を遣わせてごめんなさい…」
 それだけを漸く口にし、ベッドに腰を下ろす。
 それきり、何となくお互いが黙り込んでしまった為、少々居心地の悪い沈黙が漂った。
 静まり返った部屋には、時計の針の音が静かに響く。
 窓の外からは、バイクの音や車のエンジン音が遠くから微かに響いてくるだけだ。

 何となくティファに近寄りがたい気分だった為、そのまま所在無げに突っ立っていたが、ふと窓の外へ視線を移すと、引き寄せられるように窓際へ歩み寄った。
 そして、窓の傍に椅子を引き寄せ、それに腰掛けると空を眺めた。
 何となしに彼の様子を窺っていたティファは、吸い寄せられるように空を見上げているクラウドに、視線が自然と引き寄せられた。
 そのまま暫しの時が流れる。

 やがて、空を見上げたまま、
「空ってさ…」
 唐突にクラウドが口を開いた。
「うん?」
「この星のどこにでも唯一繋がってるだろ?大陸だったら途中で海があるから途切れてるし…、海だと大陸の中心部までは当然だけどやっぱり繋がってなんか無いし…」
 クラウドの言わんとしている事が分からないティファは、黙ったままクラウドを見つめていた。
「でも、空は当たり前なんだけど、大陸の中心部でも、大海原のど真ん中でも繋がってるだろ…?配達で世界を回ってるとさ、俺もデンゼルみたいに思う事が良くあるよ…」
「…そうなの?」
「ああ…」
 ゆっくりと振り向いたクラウドの表情は、星の明かりを受けてほんのりと輝いていた。
 その姿は、どこか儚く、そして綺麗だった…。

「仕事で家に帰れない日が続いた時とか…落ち込む事があって、皆の顔が見たくなった時とかには特にそう思うな…」
「…………」
「何だ?」
 黙ったまま見つめてくる彼女に、クラウドは少々たじろぐ。
「ん〜、だってそんなちょっぴり弱気な事を言うクラウドって珍しいから」
 そう言いながらも、ティファの胸の中には先程までの気まずさからは打って変わり、彼への愛しさが込上げてきた。
 ニッコリと微笑むと、徐に立ち上がって自分を見つめているクラウドに歩み寄る。
「怒った?」
「…いや、怒ってない…」
「じゃ、拗ねてるの?」
「…拗ねてなんか無いって…」
「そう?」
「ああ」
「じゃ、どうしてそんなに眉間にシワが寄ってるの?」
 そう言って額をツンと突く。
 クラウドは、ティファの手が引っ込められる前に素早く、そして優しく掴むと、顔を寄せて、
「この顔は元々だ」
 今度こそ本当に拗ねたような表情を浮かべた。
 急に寄せられた端整な顔に、ドキッとしながらもその子供っぽい彼の口調、そして表情に思わず吹き出してしまう。
「フフ、はいはい。ごめんなさい」
「…全然悪いと思ってないだろ…」
「あ、バレちゃった?」
「……反省のない悪い子はお仕置きだな…」
 クスクスと笑い続ける彼女に、悪戯っぽい笑みを向けると、サッと彼女を抱き寄せて自分の膝の上に横座りさせた。

 ― あ、しまった… ―

 ティファが後悔した時は既に遅い。
 しっかりクラウドの膝の上に座らせられ、ガッシリと抱きすくめられて身動きできない状態になっている。
「ちょ、ちょちょちょちょっと…!!」
「駄目、お仕置きだって言っただろ」
「あ、ああああのね…ご、ごごごめんなさい、悪かったって……ヒャッ!」
 ジタジタと悪足掻きをするティファの肩口に頭を乗せたクラウドの前髪が、ティファの首筋をくすぐった。
「本当、今日の仕事が早く終わってラッキーだったな…」
 素っ頓狂な声を上げるティファに、クラウドが含み笑いを漏らしながらも、どこかホッとしたような口調で呟いた。
 彼のその声音に、ティファは真っ赤になって恥ずかしがっていた表情を一変。
 心配そうな顔をして大人しくなる。
「ティファ?」
 急に静かになった彼女に、クラウドは少々不安になった。
『悪戯が過ぎたか…?』と反省して彼女に謝ろうと口を開いたが、

「ね、クラウド…。何かあった?」

 クラウドが謝るよりも早く、ティファの心配そうな言葉がクラウドの耳に届く。
「え…?」
「だって、何だか疲れてる感じがしたから…」
「……疲れたって、別にいつもと変わりは……」
「本当に?」
 ティファがゆっくりと顔を向ける。
 その綺麗な顔は、クラウドを案じるあまり、悲しそうにすら見えてしまった。
「………本当にティファには敵わないな…」
 苦笑すると、ティファを横抱きしたまま再び夜空へ視線を投げた。
「デンゼルがさ…言ってたろ?『俺も羽が欲しかった』って…。俺も子供の頃、母さんにそう言った事があったよ。それを思い出したら、柄にも無くしんみりした…」
「…お母さんに?」
 予想外の言葉に、ティファは目を丸くした。
「ああ。その時、『人間は確かに空は飛べないけど、その代わり他の生き物が絶対に真似出来ない素晴らしいものが沢山ある』って言ってた」
「『素晴らしいもの』…?」
「ああ。例えば、科学とかもそうだろ?あれは本当に諸刃の剣だけど、使い道さえ間違えなかったら人間だけでなく星の為にもなる力だ…って言ってたよ。それから、医学もそうだって言ってたな。それに何より『歴史を後世に残し、それを教訓として生かす』事が出来るのも素晴らしい…ってさ」
「……凄いお話しだね…」
「ああ、それにさ…。あの頃は良く分からなかった俺に、『そんな風に生きる事が出来た時、その人が星に還ったあとでもその人の記憶は力強く生き続ける。例え羽が無くても、その人の意思は星を担う命の元に飛んでいく。今は分からなくても覚えておいて。この意味が分かるようになった時、お前は誰よりも力強く飛べるようになるよ』て言ったんだ…」
「………本当に凄いお母さんだったのね…。知らなかったな、そんな風に話をしてくれる人だったって…」

 クラウドから語られた彼の母との会話に、ティファは感嘆の溜め息を吐いた。
 クラウドは、照れ臭そうに微笑むと、「ま、そんな凄い事を言う母さんだったけど、息子がこの出来じゃな…」と肩を竦めて見せた。
「もう!またそうやって自分を過小評価するんだから!」
 途端に頬を膨らませる予想通りのティファの反応。
 そして、その彼女の瞳には、冗談を装う表情からはカバーしきれない真剣な光が宿っている事も、クラウドには分かっていた。
 分かっていて、こうして時折彼女のそんな顔が見たくてついついわざと言ってしまう…。
「ごめん、悪かった…」
 誰よりも自分を見てくれている彼女を、そっと抱きしめる。
「もう…」
 そうやって甘えてくる彼に、ティファもホッと身体から力を抜く。
 彼が甘えてくれるのが素直に嬉しい。
 弱音を吐いてくれる彼が愛しい。
 そうやって、胸に抱えている重荷の全てを一緒に背負わせてくれたら……そう思わずにはいられない。

「それで、話を戻すけどさ…。デンゼルが『羽が欲しかった』って言った時に母さんの言葉を思い出しただろ?今、子供達と一緒に生活するようになって、少しその時の母さんの気持ちが分かった気がしてさ…」
「……気持ち?」
「ああ…。ほら、二人共、俺達が持ってない様な凄い力、持ってるだろ?」
 クラウドの言わんとしている事が良く分かるティファは、黙って頷いた。
 そう。子供達は自分やクラウドには無い心の強さ…、真っ直ぐなひたむきさがある。
 その姿は、かつて、自分や彼が子供の頃に果たして持ちえていたものだろうか…?と思ってしまうほど力強い。
「子供達を見てるとさ…。将来デンゼルとマリンが大人になった時、本当に世界を変えてしまうんじゃないかって思えるんだ。あんなにも真っ直ぐで強い心を持ってるんだから…。だから、その時にデンゼルとマリンの意思は、大空に向かって力強く羽ばたいていくんじゃないかな…ってさ」
「…クラウド…」
「そう思ったとき、母さんが俺に話をした時も俺の事をそういう風に見てたのかな…って考えた」
「…うん。そうだね」
 きっとそうだよ…。

 そう言って微笑んだティファに、クラウドはゆるりと頬を緩めた。


 きっと、子供達は子供達が想像していない形で力強く羽ばたくだろう。
 その時、一緒にその姿を見る事が出来たら…。
 いや、絶対に一緒に見たい…。
 そう願うのは……自分だけじゃない…はず。


 あえて口にしない台詞。
 その台詞を、お互いが胸の中で呟いている事を確信しつつ、そんなに遠くない子供達の将来を語り合いながらクラウドとティファの夜は更けていった。


 穏やかな二人の姿を知っているのは、満天の星空と自分達だけ…。





あとがき

またまた長くなってしまいましたね…(汗)。
二部に分けるほどの長さでもないか…、と思ったのですが、えらくまた中途半端な長さになっちまいました…すみません!!

え〜、今回の飛翔ですが……文才の無さがまたまた浮き彫り……(涙)。
子供達の成長を思って語り合う親代わり…的な話を目指したんですが…(撃沈)
クラウドのお母さんの話はかなり捏造しちゃいました…苦手な方がおられましたら…ほんとうにすみません。

拙宅の子供達は本当に大人顔負けのしっかり振りなので、きっと親代わり二人も頼もしく、そして将来を楽しみににしてると思います。
ええ、きっとデンゼルとマリンなら、素晴らしい星していってくれるでしょう!