心は自由。 そう言った詩人がいた…。 その名は残っていない。 魂は自由。 そう言った革命家がいた…。 その人物の名も残っていない。 何故なら、その二つ真実は誰もが胸の奥深くに抱いている『真理』。 言葉に現されるまでもなく、本能で感じ取っていた事実。 だから、『言葉』は残っても『言葉にした人物』の名は、人々の歴史の中に埋もれてしまっている…。 わたしは、それを証明すべく生まれ、解き明かす為に人生を生きるため、今、ここにいる…。 人の歴史の大きな遺産(前編)セブンスヘブンの店長は美しい女性。 それは、エッジに住んでいる人間にとって、既に定着した事実としてさして特別な話題に上ることはなくなっていた。 当然、開店当初は凄かった。 何しろ、復興へ向けて人々が血気盛んに…、我武者羅に頑張っている中、突如現れた『居酒屋』。 疲れた心身を癒すために酒を求めた男達は、その店長が女性である事に目を見張った。 彼女の美しさに目を奪われた。 それからというもの、酒よりも『女店主』を目当てとして通う男達が後を絶たなかったが、ほどなくして彼らは女店長の心を独占している青年の存在に気付く事となる。 最初の頃こそ、その青年の座を狙い、青年を落としいれようと様々な手法が執り行われた。 しかし、そのどれもがことごとく、失敗に終っている。 それは、青年自身が『偉人』として称えられているだけではなく、青年と女店長が目に入れても痛くない程可愛がっている子供達の存在も大きかった。 店の看板娘と看板息子の二人は、青年とも女店長とも血の繋がりはない。 だが、心の奥底で…、魂で強く結び付けられた『家族』だった。 彼女を狙っている男達は、店が開店して2年目を迎える現在では、ほとんどいなくなったと言っても良い。 だが、彼女を慕う気持ちが消えたわけではない。 青年が彼女の心を手放す…、あるいは彼女の方が青年を見限ったその瞬間を心待ちにし、彼らは今夜も店に通う…。 そうして…。 女だてらに店長をしているティファ・ロックハートは今、困った顔をして目の前に広げられた原稿用紙を見つめていた…。 「ど、どどど、どうだい、ティファちゃん!このポエム!」 『期待』という三文字を瞳に宿し、目を輝かせて食い入るように自分を見る客に、ティファは「えっと…そうですね…」と、どうコメントすべきか困りつつ内心でオロオロとしていた。 目の前の客…、つまり、原稿の作者である青年は、その歳にしては少々出過ぎている腹をカウンターに乗せるようにして身を乗り出し、ティファとの距離を最小限に縮めようと必死の努力をしていた。 もう少し腹の肉がなければ、ティファとの距離は限りなくゼロに近くなっただろう…。 隣の席に座っている中年の男がシラーッとした目でシャツからはみ出ている青年の腹を見やり、実にイヤそうに顔を背けた…。 テーブル席の客達は、青年がティファに対して一体何をしているのか興味津々、あるいは嫌悪感や闘争心を燃やしてヤキモキしながら眺めていた。 子供達は接客をしつつ、内心ではイライラともモヤモヤともつかない感情を小さな胸に抱きながら仕事をこなしている。 『『 こんな時にクラウドがいてくれたら!! 』』 今は別の大陸にいる父親代わりを思い浮かべ、歯噛みする。 クラウド・ストライフ。 まだ若い青年は、その年頃の青年達とは一味も二味も違っている。 まず、気迫が凄い。 クールなアイスブルーの瞳に宿っているのは『無関心』。 だが、ひとたび『敵』と認識したら、容赦などしない。 『目で殺す』ことが出来る数少ない人間だろう。 そして、クラウド・ストライフがすごいのはもう一つある。 それは…。 とにかく人目を惹く『美人』。 男なのに漂う色気と整った眉目、肌理の細かい肌は、同性からは嫉妬と羨望、女性からは憧憬を一身に集める。 そんな彼が愛して止まないのが…。 「そうですね…えっと、とっても……その……お上手かと…」 「そうでしょう、そうでしょう!?僕もそう思ったんです!だから、一番にティファちゃんに読んでもらいたくて〜!!」 脂ぎっている手を差し出し、細い手を握ろうとする青年から、ティファは半歩だけ後ろに下がってそれを避けた。 避けるついでに、手に渡されていた原稿を押しつけるようにして手渡す。 ティファは、クラウドが見たら眉間に深いシワを寄せさせること請け合いの笑みを浮かべて青年を見た。 だが、彼女はクラウド・ストライフが不快感を感じるような心境で青年に微笑んだのではない。 混じり気ナシの完全な『営業スマイル』。 ただそれだけなのだから…。 接客は仕事のうち。 たとえ、相手が少々…気持ち悪くても…不細工でも…ちょっと価値観が違っていて勘違いしていても!! 仕事なのだから、マナー違反をされない限りは『客』としてもてなす。 それが『店長』たる彼女の仕事だ。 だから…。 『…どうして『心は自由』って言うのが『名もない詩人』が残したって書いたのかしら…』 とか。 『…どうして『魂は自由』って残したのが『名前も残っていない革命家』なのかしら…。『革命家』なら名前くらい残ってそうなのに…』 とか!! たとえ、内心でその矛盾点だらけの『自称ポエム』を評していても、『客』の機嫌を損ねるようなことをしてはいけない! それが『店長』として、また、『子供達のお手本』としてのティファの役目! ……と、彼女は固く信じている。 だが、その責任感の強さが、たまに大きな誤解を招いたり…、その結果、周りがとんでもない被害を被ったりしてしまうのだが、彼女はまだそれに気づいていない…。 何しろ、彼女は100%『接客業』としてのあり方でもってセブンスヘブンのカウンターにいるのだから。 相手が勘違いしている!と、感じることはたまにあるが、それでも『店長』としての責任感と義務感が、彼女の直感を鈍らせることが多々ある。 だから…今夜も……。 「ティファちゃん、今度、この『ポエム』を『エッジ新聞』に投稿しようと思ってるんだ!」 「まぁ、本当に!?」 ティファは目を丸くし、同時にハッ!と我に返った表情をした。 だが、そんな彼女の後半の仕草は一瞬であり、ささやかなものだったので、子供達以外、気付いたものはいない。 目を丸くして驚いた彼女に、青年などは大いに気を良くしている。 彼女が自分のポエムを高評価してくれた!と思い込んだのは明々白々だ。 さりげなく、あるいは敵愾心むき出しに彼女とのやり取りを見ていた客達にはそれが分かった。 まだ幼い子供達ですら分かった。 それなのに!! 『本当に…コレを?』 彼女がハッという顔をしたのは、『接客業にあるまじき行為』をしてしまったため…。 そう、つまり…。 彼女は、そのあまりな『駄作』を世に曝け出そうとしていることにビックリして『まぁ、本当に!?』と言ったのだ。 そう、駄作だ! はっきり言って、何が言いたいのか分からない。 心と魂の自由を謳っているが、結局のところそれはどうでもよくて、彼自身が『自分の人生の抱負』として掲げているもの、つまり『人生の目標』を発表しているだけ…。 カッコイイと思える言い回しを使用して、その言葉の響きだけで満足してしまっている感がある。 事実、青年はでっぷりとした腹を揺すりながら高笑いをしている。 「きっと、『エッジ新聞』のコラム欄に乗るよ!そして、それを読んでくれた新聞を読んでくれている人達から問い合わせが新聞社に殺到!そうなったら、いよいよ僕の執筆活動の本番だ!」 夢を見て生き生きと語る青年は実に幸せそうだった。 キラキラと目を輝かせ、陶酔しきってる。 そう、『現実』から完全に飛び出してしまっている。 ティファは迷った。 本当の事を話し、青年を押し止めた方が彼の為になるのかもしれない。 しかし、どう言って説明したら良いのだろう? あまりに本当の事を言うと彼は傷つくかもしれない。 しかし、曖昧なことを言っても果たして通じるかどうかは…微妙だ。 とにもかくにも、この青年は非常にポジティブなのだ! とても楽天家。 前向きで物事を良い様に解釈する。 そう評したら、青年が非常に良い人間であるように聞える。 事実、彼はとても良い青年だ。 少々…、かなり、現実離れした脳内ではあるが、人の悪口を彼が言ったのを聞いた事が無い。 彼の愚痴を、聞いたことがない。 だから、事実彼は本当に良い青年なのだが…。 悪く言うと、現実を見ていないきらいがある。 だからこそ、この『駄作』を新聞社に売り込もうとしているのだから。 こんなものを持っていったら、即行でコケにされるのは目に見えている。 だが、物事を良い様に解釈する彼のことだ。 もしかしたら、今度こそ何かの才能を発揮させるかもしれない。 ……どこまでも『願望』であり、『推測』でないことが哀しい…。 「うん、早速明日にでも行って来るよ!」 意気揚々に語り、青年がカウンターのスツールにデカイ尻を押し込んだ。 キィ…、と耳障りな音を立てて、スツールが抗議の悲鳴を上げる。 ティファは悩んだ。 口をパクパクさせながら悩んだ。 正直に言って止めるべきか…。 それとも、『これも一つの人生経験』として黙って見守るべきか…。 悩みすぎて、マリンが新しい注文を取ってきたことに気づかないくらいだった…。 「ティファ…」 マリンは軽く溜め息を吐くと、自分でも簡単に作ることが出来るメニューであったため、女主人を現実世界に向ける努力をあっさりやめた。 同じくデンゼルも、カウンターの中に戻ってきて新しい酒を作ってもらおうとして……自分で作りだした。 『『 どこまでお人好しなんだろう… 』』 小さな子供達にここまで思われてしまうティファだが、実にティファらしい。 放っておけば良いだろうに、ここまで他人のことで悩むのだから。 だからこそ、自分達がしっかりしなくては!とも思うのではあるが…。 「ティファちゃん、新聞に掲載される正確な日付が分かったらすぐに教えるよ」 周りの空気に全く気づこうともしない暢気な青年が、嬉々としてそう言うのが…、また子供達の機嫌を斜めにするのだが、当然その事にはティファも気づいていない。 「そ、そう…?あ、ありがとう…?」 最後、何故か『ハテナマーク』をつけてしまったティファに、青年は有頂天であったため、会話の僅かなズレには気づかず、すっかり気の抜けたサワーを煽った。 一気に飲み干し、カウンターに景気良く置く。 青年は上機嫌で新しい『チューハイ』を注文したのだった。 チリンチリン…。 セブンスヘブンのドアベルが可愛い音を立てる。 何十回目かの本日の来客。 お人好し過ぎるティファの意識を現実に引き戻すには充分の威力を持っていたその音に、女店主はハッと顔を上げた。 「いらっしゃ……、まぁ!!」 女店主の嬉しそうな声に、客達が一斉にドアを振り向く。 嬉しそうな声を上げたのは店主だけではなかった。 「「 シュリ(お)兄ちゃん! ライ(お)兄ちゃん!! 」」 まだ若い青年が二人、立っていた。 二人共漆黒の髪を持っているが、一人はクセがあり、もう一人はサラサラとしていて対照的だった。 まずまず…人目を惹かないわけにはいかない容貌をしている。 スラリ、としなやかに伸びた手足。 鋭い眼光を放つ夜空を髣髴とさせる瞳とは対照的に、温もりを称えたアメジストの瞳。 温和な笑みを浮かべた口元と、キリリ、と引き締めた口元。 雰囲気は実に対照的なのに、どこか似通った雰囲気を感じさせる青年達の登場に、店内が一瞬だけシーンとなった。 だがすぐに、店内には明るい喧騒が戻る。 「今晩は」 「…お久しぶりです」 「二人共、本当にお久しぶりね!元気だった?」 明るい笑い声を上げながら子供達にそれぞれ引っ張られるようにしてカウンターへ連れて来られた二人に、ティファは柔和な笑みを向けた。 それは決して営業スマイルでは無い微笑み。 プライアデスはニッコリと、シュリは相変わらずの無表情でそれぞれ軽く頭を下げる。 ポエム青年の眉がピクリ…と動いたのを、シュリは視界の片隅で認めた。 が、だからどう…というわけでもない。 知らん振りを決め込み、ポエム青年の隣に腰掛ける。 その隣には、部下である青年が優雅に座った。 金持ちの出であるプライアデスは、身のこなしが非常に優雅だ。 「ライお兄ちゃんって、普通の服着てるのにすっごくカッコイイよね!」 マリンが思わずそう言ってはしゃぐのも無理は無い。 「シュリ兄ちゃんだってカッコイイだろ?」 何故かムキになってそう言ったデンゼルに、マリンが「カッコイイに決まってるでしょ!?なに変なこと言ってんの?」と、これまたムキになって言い返している。 「二人で来るなんて珍しい組み合わせね。どうしたの?」 不穏な空気になりかけている子供達を止めるためと、純粋な疑問からティファが質問する。 ピタリ、と子供達の言い合いが止まった。 シュリとプライアデスは顔を見合わせて『『 流石だ 』』と、目だけで会話をし、ティファへと視線を戻した。 「今回の任務が同じグループだったので」 「今、終った所なんです。まだ夕飯を食べてなかったので、じゃあセブンスヘブンで!という事になりまして」 淡々と語るシュリと、ニッコリ微笑みながら語るプライアデスは実に対照的だ、とティファは笑いながら思った。 本当に対照的なのに…、とてもしっくりくる二人組み。 ここに『盛り上げ担当』のグリート・ノーブルがいれば尚、楽しいのだろうが…。 「リトは今回違うグループなんですよ。まだアイシクルエリアにいるはずです」 ティファの心を読んだかのようにプライアデスが説明した。 ティファはちょっと照れながら「そうなの?大変ね」と、笑いながら言った。 …ポエム男の口元がピクピク、と不機嫌そうに痙攣しているのが、シュリの視界の端に写った。 これもまた、シュリは気付かない振りをした。 「二人共、お腹空いてるでしょう?すぐに作るからちょっと待ってね」 ニッコリと微笑みながら手早く料理に移ったティファに、青年達が揃って頭を下げる。 店内の温度が少し下がったような気がしたのは、恐らく…青年達の気のせいでは無いだろう。 自分達へ向けられている『敵視』も…気のせいではない…。 「…中佐」 「…なんだ?」 「…なんかタイミングが悪かったかもしれないですねぇ」 「…いつ来てもきっと変わらない」 「…クラウドさんがいると多分こうじゃなかったかと…」 「あぁ、そう言われたらそうだな」 「…中佐」 「…なんだ?」 「申し訳ありません。自分がセブンスヘブンを推したばかりに…」 「気にしていない。これくらいのことは何とも無い」 「すいません」 「…准尉は辛いのか?」 「いえ、まったく」 「フッ…そうか、なら気にする事ないな。俺も『まったく』…だから」 「そうですか?ふふ、ありがとうございます」 小声で交わされたその会話は、店の喧騒によって他の者に聞かれることは無かった。 ポエム男以外には…。 デプ…、とした腹を揺するように、青年はスツールに座りなおした。 虚勢を張るようなその仕草と共に、青年は原稿をわざとらしくカウンターに置いた。 だが、その原稿よりもシャツからはみ出た肉が、シュリの視界の端に写る。 シュリは頬杖をついてそっと視界から締め出した。 カウンターに頬杖を着いたシュリと、その隣に座っているプライアデスを、既に来ていた常連客の女性達が興味津々に見つめている。 その周りにいる常連客の男性陣が面白くなさそうな顔でそっぽを向いた。 店の雰囲気がガラリと変わった、と子供達は気づいていた。 しかし、こればかりはどうしようもない。 子供達はそっと顔を見合わせて苦笑すると、いそいそと仕事に戻って行った。 「ん、んん〜!」 「「 ……… 」」 「ウン、ン〜〜!」 「「 ……… 」」 なんともわざとらしい咳払いは、ティファに向けられたものだろう、とWROの隊員二人は瞬時に悟った。 しかし、丁度ティファはフライパンの中の肉をフランベするためにアルコールを景気良くぶっ掛けたところだったのだ。 勢い良くフライパンから火が上がる。 肉の焼ける良い匂いと音により、青年のわざとらしい咳払いは掻き消されていた。 WRO隊員の二人は無言でチラッと視線を交わし、同時に視線をカウンターの木目に落とした。 なんとなく…。 ほんっとうになんとな〜く、今、店の中にいる『敵視』している客達の中で、このデプッとした青年が一番厄介だと思ったのだ。 そう、きっと彼は自分達の『常識』からちょっぴりズレた世界のお人だ。 直感でそう感じる。 関わらないに越したことはないだろう。 「はい、シュリ兄ちゃん、ライ兄ちゃん!」 ヒョコッと二人の間に顔を出したデンゼルに、少しだけビックリしながら、 「ありがとう、デンゼル君」 「…ありがとう」 差し出されたビールのジョッキに、二人は頬を緩めた。 本日の漬け出しである『お煮しめ』を持ってきたマリンにも礼を言い、軽くジョッキを合わせて乾杯する。 「お疲れ様でした」 「任務、ご苦労様」 実にシュリはシュリ、プライアデスはプライアデスらしい労いの言葉。 親しげな二人のその様子は、女店主の微笑を引き出した。 店の温度がまた下がった…。 「「 …… 」」 二人は無言で顔を見合わせると、全く気づかない素振りでジョッキを口に運んだ。 まだまだ、夜は始まったばかりだ。 あとがきは後編で♪ |