生きている幸せ、死の後(のち)の幸せ
セブンスヘブンの住人四人は、珍しく揃ってエッジの街をのんびりと歩いていた。
行き先は、エッジに最近出来たアミューズメントパークである。
四人の目的はその中にある映画館であった。
本当なら、もっと子供達が喜びそうなアトラクション等に行きたいところなのだが、長蛇の列がウネウネと並んでいるのを見ると、とてもじゃないが並ぶ気にはなれない。
そうでなくても、クラウドがこうして丸々一日休みを取れるのはとても貴重なのだ。
長時間待たされた挙句、一瞬で終わってしまうアトラクションよりも、家族が揃ってのんびりと座り、共に楽しめる映画の方が良い、と子供達が声を揃えた為、クラウドとティファはその意見を尊重する事にした。
目的の映画館は、想像以上に綺麗な内装になっており、大きな柱が高い天井を支えているその光景は、まるで美術館のようだ。そして、映画館に欠かせない売店も、美味しそうなポップコーンは勿論、ジュース類の飲み物も豊富で、スナック類もウィンドウに所狭しと並べられている。
それだけで、子供達は満足げな笑みを浮かべ、先を争って駆け寄った。
デンゼルとマリンは、それぞれフライドポテトとポップコーンを買ってもらい、半分ずつ分けよう、と嬉しそうに話している。
ティファは、クラウドと自分用に珈琲を注文し、それを手にふと振り返った。
金髪で碧眼の青年は、その紺碧の瞳をサングラスで隠し、壁にもたれて子供達のはしゃぎようを目で追っている。
サングラス越しにも分かる、彼の子供達への眼差しに、ティファは自然と頬が綻んだ。
彼が、家族も何もかも捨てて家を出たのがつい数ヶ月前…。
その当時は、彼が何故自分達を捨てて家を出たのか皆目見当が付かなかった。
腹も立った。
情けなくもなった。
しかし、何よりもただ…悲しくて仕方なかった。
一体何が、彼をそこまで追い詰めたのか…。
話して欲しかったのに、彼は話してはくれなかった。
彼の家出の原因が分かったのは、あの教会で星痕症候群特有の包帯を見つけた時。
もしも、あの時自分とマリンが教会に彼を捜し求めて行かなければ…。
彼は果たして、星痕症候群が癒された後、戻ってきてくれただろうか…。
それは、未だにティファの心に小さな小さな棘として残っている。
その小さな棘は、普段は全く思い出さないのに、ふとした拍子に突然その存在を主張するのだ。
今のように…。
「ティファ?」
いつの間にか子供達が目の前に立ち、不思議そうな顔をして見上げている。
「あ、ごめんね。ちょっとボーっとしちゃった」
苦笑しながら悪戯っぽく舌を出す母親代わりを、デンゼルは「変なの〜!」とこれまた悪戯っぽく笑って返し、マリンは「ティファ…本当は疲れてるんじゃないの?」と心配げに眉を寄せた。
二人それぞれの反応に目を細めながら、
「大丈夫、大丈夫!私は丈夫だけが取り柄だから!」
そう笑って見せると、ティファは視線をクラウドの方へと戻した。
そこでティファと子供達が目にしたもの…。
もう…お決まり過ぎて描写する気にもならない…。
「あの…お一人ですか〜?」
「良かったら、私達と一緒にどうですか?」
「…………」
「キャー!寡黙なのも素敵!」
「あの…サングラス、取らないんですか?映画館には似合わないと…」
「あ、でも、と〜っても良くお似合いです!!」
「どこかのモデルさんですか!?」
「すっごく綺麗な金髪…」
「…………」
まるで、金色に輝く花に、蝶が群がるような光景に、子供達は心配そうにティファを見上げた。
彼らの母親代わりは、手にHot珈琲の紙コップを持ったまま、その光景を無表情に眺めている。
「…ねぇ、ティファ?」
「…助けなくていいのか?」
恐る恐る交互に声をかける子供達に、ティファはニッコリとそれはそれは完璧な笑みを浮かべると、
「良いのよ。その気になったら、クラウドはどんなピンチでも切り抜けられるんだもの」
と、言い捨てると、サングラスの向こうから必死に助けを求める青年を一瞥すらせず、踵を返してサッサと歩き出してしまった。
これには、子供達は勿論、クラウド自身もびっくり仰天した。
いつもなら、顔を真っ赤にさせて戦慄いたり(わなないたり)、悲しそうな顔をしたり、自分の恋人だと主張するようにクラウドを呼んだりするはずなのに…。
クラウドは、大いに焦ると、女性の群れを押しやり、黒髪の恋人の元へと駆け寄った。
「お、おい、ティファ!?」
慌ててその華奢な肩に手を置くと、クルリと振り返ったその表情にギョッと身を竦ませる。
「ホラ、大丈夫だって行ったでしょ、二人共。クラウドは、やる気になれば何だって出来るの、やる気になればね」
明らかに怒っている彼女に、デンゼルとマリンは引き攣った笑みを浮かべ、クラウドに至っては、必死にティファのご機嫌取りにかかる。
「ティファ…その、本当に悪かった。どうやってあしらったらいいのか分からなくて…」
「…………」
「あれが男だったら簡単なんだけど…女性だと力加減とか分かんないし…」
「…………」
「それに、いきなり囲まれたから状況が分かってなかったし…」
「…………」
「…………」
何を言おうが、頭を下げようが、ティファのご機嫌は斜めのままだ。
いつもなら、ここまで言えば苦笑して許してくれるのに…。
クラウドは、何がここまでティファを怒らせたのか正直分からなかった。
ティファが、先程の彼女達に対して嫉妬してくれているのなら、まだ少々嬉しい部分もあったりするのだが、どうも今の彼女からはそう言ったものを感じない。
純粋に、自分に対して怒っている…そんな気がするのだ…。
困り果てた顔のクラウドを、デンゼルとマリンは揃って溜め息をつくと、そっと目配せしあってアイコンタクトを図る。
デンゼルはティファの手を引いて、先に予約シートに行き、困った顔をして途方に暮れているクラウドの手をマリンが引くと、扉の影に隠れるようにして引っ張った。
「あのね、クラウド。どうしてティファが怒ってるのかわからないんでしょ?
「………ああ」
「あのね。クラウドって、ああいう状況になった時、自分から脱出した事…あった?」
「………ない…かも」
マリンに言われて改めて振り返る…。
ない。
『ないかも』…じゃない。
『ない』んだ!!
ポツリとこぼしたクラウドに、マリンは深く溜め息を吐くと、クラウドに耳打ちした。
「もしも、さっきのクラウドがティファで、囲んでた女の人達がカッコイイ男の人だったら、クラウド…どう思う?腹が立つでしょ?しかも、ティファが、その男の人に対して、イヤそうな顔をしなかったら、ものっすごく悲しくない?」
「俺はイヤそうな顔してたんだぞ?」
全てが当てはまる事ばかりな為、面子が丸つぶれのクラウドは、マリンの説明に対して、ささやかな抵抗を試みる。
「クラウド…、サングラスかけてたからイヤそうな顔してるかしてないか、分かんなかったよ…」
「…そうなのか!?」
「そうなの…」
衝撃の事実に、クラウドは思わず声を上げる。
そして、深く溜め息を吐くと、「分かった…?」と心配そうな顔をするマリンの頭を軽くポンポン叩くと、
「ああ、本当にありがとう…。いつもすまないな…」
照れ臭そうに微笑んだ。
「本当だよ、クラウドもティファも、照屋さんなのはとっても良いと思うんだけど、もっと大胆になっても良いんじゃないの?でないと、ティファとクラウドの隙をどこかの誰かさんが突いちゃうかもしれないよ?」
マリンの言葉に、クラウドは『そんな事は心配無用だ』と言いそうになったが、言えなくなった。代わりに、
「ああ、そうされないように頑張るよ」
と、答えた。
心配無用…そう言えなかった理由。
数ヶ月前の自分を思い出したからだ…。
今思い出しても、あの頃の自分の何と不甲斐ない事か…と情けなさで惨めになる。
彼女と子供達を置き去りに…、自分独りが孤独と闘っていると勘違いしていた。
実際は、彼女の方が辛かったはずなのだ。
小さな子供達を抱え、この不安定な世界情勢の中で…。
いくら頼りになる仲間がいると言っても、常に共にいるわけじゃない。
それに…。
自惚れても良いのなら…、自分以上に頼りになる人間は、彼女にとっていないはずなのだ。
それを都合良く頭から追い出し、勝手に悲劇のヒーローを演じていたのだから…情けない事この上ない。
もうこれ以上、彼女に辛い思いをさせないと誓った。
自分と、ライフストリームに眠る親友達と…亡き彼女と自分の両親に。
それなのに、実際はどうだろう?
こんな些細な事ですら己で対処できずにオロオロしてしまう。
おまけに、心のどこかで、こんな小さな事ですら、彼女が助けてくれると期待しているのだから…。
チャンチャラおかしくて、おへそでお湯が沸かせるよ!!
ウータイのお元気娘に知られたら、そう言ってバカにされるだろうな…。
ふとお元気娘の膨れっ面を思い浮かべたクラウドは、柔らかな笑みを浮かべた。
そして、怪訝そうな顔をする娘を片腕で抱き上げると、
「それじゃ、精一杯大胆になって、ご機嫌斜めのお姫様にお許しを願う事にしようか」
と、肩目を瞑って見せたのだった。
館内に入ると、もう既にほぼ満席の状態だった。
今日の映画は、アクションシーンが目玉の古(いにしえ)の国々の物語。
まだ国境が定かでない時代に繰り広げられた、スパイ活動や暗殺、そして禁断の恋を絡めた超大作なのだそうだ。
デンゼルとマリンにはまだ早いのではないかと危惧していたのだが、『アクションシーンが目玉』との事なので、きっと子供が見ても映像で楽しめるような内容なのだろう。
周りを見渡すと、デンゼルとマリンよりも小さいのではないか!?と思われる子供が、シートの間を走り回っている。
その子供達に迷惑そうな顔をする大人と、子供を必死に叱り付けながら、迷惑そうな顔をする客達に真っ赤になって謝る両親の姿がちらほら見える。
その点、我が家の子供達はそんな心配が無くて本当に助かったな…。
クラウドはそう思いながら、ティファの隣に腰を下ろした。
ティファの反対隣にはデンゼルが既にポップコーンを半分ほど平らげており、マリンが「あ〜、デンゼル、ズルイ!」と口を尖らせた。
ティファの機嫌はまだ治らないらしい。
クラウドは、デンゼルからポップコーンを取る振りをして、ティファの耳にそっと口を寄せ、何事かを囁いた。
途端、ティファが顔を真っ赤にさせながら勢い良くクラウドを振り向く。
マリンもデンゼルも、何をクラウドが言ったのかさっぱり聞えなかったが、ティファの機嫌が良くなったのを瞬時に感じ取り、二人してホッと胸を撫で下ろしたのだった。
やがて、『ビー!』っという開幕の音と共に、館内の照明が落とされる。
代わって、目の前のスクリーンにライトが灯され、いよいよ映画が始まった。
初めは、広大な大地がスクリーンいっぱいに広がって映し出され、それが徐々に一点に絞られる。
すると、チョコボに乗った騎士が数名、命からがらとばかりに喘ぎながらチョコボを駆っていた。
そのシーンだけで、ざわついていた客席がシーンとスクリーンに引き込まれる。
次いで、チョコボの騎士達が、どうやら追っ手に追いつかれそうになり、独りの勇敢な騎士が自らの命と引き換えに、残りの騎士を自分達の領地まで逃げ延びられるよう、足止めを買って出た。
その騎士に駆け寄ろうとする若者。
その若者を押し止め、涙ながらに見殺しにして逃げる仲間達に、その騎士は凄惨な笑みを浮かべると末期の力を振り絞って大剣を振り上げる。
そして、場面は変わってその若者が王子である事が判明したシーンでは、クラウドとティファは『『やっぱりね』』、デンゼルとマリンは『『ええ!そうだったんだ!!』』とそれぞれの感想を胸に、食い入るようにスクリーンを見つめるのだった。
国と国が領地拡大を狙い、人と人が富とあらゆる欲を手に入れようと泥沼の人間模様を描き出す。
王子達の父親は、重病の床についていた。
その為、父王の代わりに兄王子が権勢を思いのままにしていたのだ。
この映画の世界の王家では、たとえ愚鈍でも年が上なら年が下の者はそれに従わなくてはならないらしい。
どう贔屓目に見ても、兄王子よりも弟の主人公の方が器量も度量も数段上だ。
王子は、敵国の情勢を探るよう、嫌われている兄王子から命令を受けて、それに従った。
嫌々・渋々兄王子の命を遂行していた矢先、物語の最大の見せ場がついに登場した。
それは、王子と知らず、王子と恋に落ちた、敵国の村娘とのシーンだ。
王子は、生まれて初めて自分の意思で誰かを守りたいと思う。
しかし、彼女は敵国の人間。
おまけに、何の取り柄も無いただの村娘。
ただ、容姿が他の女性に比べて少々良く、屈託の無い笑顔と戦争に負けない強い心…。そこに、王子は心惹かれたのだ。
しかし、王子の側近達は王子の想いを一笑に付したばかりでなく、その村娘を奴隷商人に売り渡してしまった。
当然、王子は烈火の如く怒り狂い、側近達を手打ちにしようとするが、それを賢明な王子の腹心に諭され、何とか踏みとどまる。
そして、その側近達は命からがら兄王子の下へ逃げていくのだった。
それまでの描写の美しい事。
王子と運命的な出会いを、森の緑が瑞々しく演出し、実に爽やかなものにしている。
そして、娘が奴隷商人に売り渡される時の胸が引き裂かれそうな両親の嘆き…。
怒り狂う王子の剣捌き(さばき)とそれを軽く鮮やかに流す腹心の剣技は溜め息ものだ。
デンゼルとマリンは『『絶対に後でクラウドにやってもらおう!!』』と固く誓ったのだった。
デンゼルとマリンは、王子と娘の出会いのシーンで溜め息をつき、奴隷商人に売り渡されて両親と引き裂かれるシーンでは鼻水を啜り、怒り狂う王子の剣捌きのシーンでは両手を硬く握り締めて観戦した。
そんな子供達に負けず劣らず、クラウドとティファも、娘が奴隷商人に売り渡されるシーンでは、互いの手をギュッと握りあい、暫く手を握り合っている事に気付かなかった。
そして、そのままハッと気づいたものの、何となく手を離す気になれず、暗い映画館で互いに赤い顔をしながら手を繋いでいたのだった。
二人が初々しく照れている間にも、映画はどんどんクライマックスに向けて走っていく。
主人公は、僅かな腹心と共に、兄王子を裏切る決意を固める。
それは、彼の故郷を裏切る行為であり、彼の国民を捨てる行為だった。
勿論、そこに行くまで彼は筆舌しがたい苦悩に見舞われるのだった。
しかし、結局彼をそこまで追い詰めたものは、他でもないたった一つの愛だった。
彼は、娘を買った奴隷商人を探す一方で、敵国である王家に取り入るべく、最善を尽くす。
初めは、赤の他人の振りをして王家の使用人として入り込む。
ここで、危うくバレそうになるのだが、そこを主人公に一目惚れしたメイドに助けられて難を逃れる。
それからも、主人公が王家に取り入る為に、メイドは命の危険を冒してまで彼を助けるのだ。
主人公も、いつしかメイドに対して心を許すようになるのだが、結局彼は初めて愛した娘を忘れられない事を彼女に告げる。
それでも彼女は、健気に最後まで彼を助け続け、最期には彼の盾になって彼の兄王子の矢によって命を落とす。
冷たくなる彼女の身体を抱きかかえながら、主人公はそれでも涙を必死に堪え、今では敵である兄王子に剣を向ける。
そして、敵国の総大将として故国に攻め入るのだ。
戦争の結果は主人公の勝利。
この勝利で、主人公は敵側として自国に足を踏み入れるという苦い思いを噛み締める事になる。
兄王子が、主人公の前に引きずり出されたシーンでは、デンゼルとマリンは固唾を呑んで見守った。(父王は既に他界している)
クラウドとティファも同様だ。
主人公は、泣いて許しを請う兄王子にたった一言告げる。
『あなたと血が繋がっていなければ、もしかしたら最高の友となれたかもしれないのに…』
その言葉を手向けに、主人公は兄王子の首を刎ねた。
そのシーンでは、ティファがデンゼルの、クラウドがマリンの目をしっかり塞ぐのを怠らなかった。
そしてラストシーン。
ラストでは、行方不明になっていた主人公の想い人が再びスクリーンに登場する。
しかし、彼女は度重なる重労働、そして暴行にその命を終えようとしていた。
彼女を見つけたという知らせを受けた主人公は、全てを投げ打って彼女の元へとチョコボを走らせる。
そして、彼女の変わり果てた姿に全身を戦慄かせ(わななかせ)、痩せ細った身体を掻き抱いて号泣するのだ。
彼女は、主人公の鳴き声、己を呼ぶ声で微かにその瞳を開くと、震える唇に最後の言葉をのせた。
『あなたに会えただけで、私の人生は幸福だった。だから、このまま死んでも、私は世界中の誰よりも幸せよ。だって、最愛の人にこんなにも愛されてるんですもの…』
そう言い残して事切れる…。
映画はこの後、数十年後のシーンにスリップする。
その世界では、晩年の主人公がゆったりとした椅子に腰を下ろし、かつて娘と出会った森を見つめていた。
彼は、どうやらその世界では素晴らしい施政者になったようで、沢山の人々が彼の元を尋ね、彼を敬愛の眼差しで見つめていた。
その彼が見つめているもの…。
それは、かつて自分が愛し、そして愛してくれた娘の事ばかりでなく、晩年の彼を形作る事となった全ての者達の影だった。
父王、兄王子、腹心達、彼を庇って落命したメイド、そして、彼の最愛の人…。
それらの人々の笑顔が陽炎のように揺らめき、彼へと手を伸ばす…。
そこで、彼は晩年の姿から、若くして生命力に溢れた姿に変貌し、そして彼らの元へとゆっくりと歩き出す…。
映画はそこで終わった…。
「ううう…良かったぁ…」
「グスッ…本当に良かったよな…」
「うん…本当だね。最期、皆が主人公を迎えに来てくれたんだよね」
映画の帰り、三人は感極まってグスグスと感涙に咽び泣いていた。
いつもなら、カッコつけたがるデンゼルまでもが、涙で顔をクシャクシャにしている。
クラウドは、サングラスで良く分からないが、泣いていないにしても、恐らくその紺碧の瞳は今だけ真っ赤になっているだろう。
四人は帰る道すがら、映画の話で大いに盛り上がり、夕食の時も映画について終始、熱く語り合ったのだった。
もっとも…クラウドは常に聞き役だったが…。
その日の晩。
興奮冷めやらない子供達を何とか寝かしつけた親代わりの二人は、夜の静かな一時を珈琲を手に楽しんでいた。
「それにしても、本当に良かったわよね…昼間の映画」
「ああ、デンゼルとマリンも喜んでくれてよかったよ」
「うん!まさか、デンゼルがあんなに感激して泣くとは思わなかったわ」
「フフ…そうだな。デンゼルは俺と違って感情表現が上手いんだろう」
「あら、今頃分かったの?」
「……ティファ…」
「フフ、ごめんなさい、冗談よ」
情けなさそうな顔をして眉尻を下げるクラウドに、クスクス笑い声を上げるとティファは少々物思いに耽った。
そして、珈琲カップに視線を落としたまま口を開く。
「ねぇ、クラウド…?」
「ん?」
「もしも……」
「……もしも?」
「もしも…ね。私が明日死んじゃったりしても…」
「ティファ!!」
ティファの言葉に、クラウドはギョッとした。
そして、珈琲を荒々しくテーブルに置くと、ティファを鋭く見据える。
ティファは、そんなクラウドに悲しそうに微笑むと「だから、もしも…って言ったでしょ?」と言った。
「この世の中、何が起こっても不思議じゃないのよ?もしかしたら、明日、何かのアクシデントがあって死んでしまうかもしれないし、それこそ頭の血管が切れて死んじゃうかもしれない。そういう事、別に珍しくないでしょ?」
「だからって、いきなりなに言うんだ!」
ティファの言葉に動揺するクラウドは、ついつい声が大きくなり、口調も荒くなる。
それに比べてティファは静かなものだった。
人差し指を口に当てて、子供部屋を反対の手で指差す。
ティファの言わんとしている事が分かったものの、ティファの本当に言いたい事が見えてこないクラウドは、イライラとしながらも黙って言葉の続きを待つことにした。
ティファは、そんな金髪の恋人に苦笑すると、再び口を開いた。
「あのヒロインと同じだよ…って言いたかったの」
「……?」
「だからね。『あなたに会えただけで、私の人生は幸福だった。だから、このまま死んでも、私は世界中の誰よりも幸せよ。だって、最愛の人にこんなにも愛されてるんですもの…』そう言ってたでしょ?その言葉…丸々全部、私からクラウドへの言葉…だから…ね」
ティファの言葉に、クラウドは大きく目を見開いた。
そして、何か言おうと口を開くが、言葉が出てこない。
何を言えば言いというのだろう?
数ヶ月前には黙って家を出た自分に…。
黙って、何も相談せず、真実を打ち明けず、全てを彼女に負わせて逃げ出したこの自分に、彼女が今くれた言葉は、何と不相応な言葉だろうか…?
そして…。
何と温かく、胸打つ言葉だろうか。
この言葉以上に、自分が何か言えるはずもない。
クラウドは胸が一杯になり、顔を赤らめて俯くティファを見つめた。
そして、そのままテーブルを回り込んで彼女が恥ずかしがって逃げ出す暇など与える事無く、強く抱きしめた。
腕の中で、恥ずかしそうにもじもじする彼女が愛おしくてたまらない。
そして…。
誰にも渡したくない気持ちが強く湧いてくる。
そう…。
誰にも…。
例え、命には必ず平等の訪れるという『死』にすらも、彼女を渡したくないと強く思う。
「ティファ…。俺も、『あの言葉』、本心だから…」
クラウドの言葉に、ティファは映画館でクラウドが囁いた言葉を思い出し、ボッと音が出る程の勢いで真っ赤になった。
そんな彼女を愛しくてたまらないと、クラウドは抱きしめる腕に力を込めた。
『俺にとって、生きてる幸せってティファがいてくれるからだから…』
あとがき
映画の内容ですが、完全にマナフィッシュのオリジナルです。
ありそうな映画の話を考えながら書いてみましたが、思った以上に楽しかった(笑)。
本当は、映画のヒロインと主人公をハッピーエンドにしても良かったのですが、クラウドとティファがハッピーエンドなので、甘いばっかりもなぁ…と思い、ちょこっとビターに仕上げました…い、いかがでしたでしょうか?
ストライフファミリーは、きっとクラウドがお休みの日は家族揃ってどこかにお出かけするんじゃないかと思うのです。
ん〜、でもたまにはクラウドも家でのんびりする話も書いてみたいですねぇ。
ダラダラと長くなりましたが、お付き合い下さりありがとうございました!!

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