彼女は素晴らしい。 そして、自分は大した人間じゃない…、そう彼は己と恋人を評している。 だが、それは決して卑屈な気持ちからではなく、これまで彼がしでかしたことを振り返ってそう評しており、自分を受け入れてくれた彼女に心底惚れ抜いているのだ。 そして、そんな自分をどこか、誇りにすら思っている。 だからこそ…。 今回は、絶対に譲れなかった。 犬も喰わない…そんな話し「クラウドなんか…クラウドなんか、ダイッキライ!!」 「そうか、気が合うな、俺もだね!」 「 ! 」 売り言葉に買い言葉。 その勢いで口から出た言葉に、ティファの目にみるみる涙がたまる。 雫をこぼす直前、クルリと背を向けて二階に駆け上がったために、クラウドは涙が流れるのを見ることはなかったが、彼女が今、自室のベッドに突っ伏して泣いていることは容易に想像できた。 胸が痛まない……わけがない。 痛くて仕方ない。 だが、今回の事は絶対に譲れなかった。 クラウドは苛立ちをそのまま隠そうともせず、二人のやり取りを呆然と見ていた客達へ怒気を孕んだ眼差しを向けた。 「閉店だ」 「「「「 ヒッ!! 」」」」」 地獄の底から呻く亡者のような声音。 このままここにいたら殺される!! しかも、どう考えても八つ当たりで! そんな理不尽な最期を人生の終わりとして迎えたくない!! 客達は、自分達が一体どれほどの料金を注文したのか冷静に計算する余裕などなかったが、頭の片隅では、 『ここで、料金不足ってことになったらマジで殺される!!!』 という計算だけは出来た。 という訳で…。 セブンスヘブンの各テーブルには、明らかにオーバーしているであろう大量のギルが残されていた。 子供達は、その一部始終をただただ驚いて呆然と見つめていたが、やがてどちらからともなく、黙って残り物の多い皿やグラスを片付け始めた。 店のドアノブに『close』の看板を吊るす。 いつもなら、クラウドだって子供達の目の前でこんな派手な喧嘩にならないように気配り出来るし、ある程度感情の抑制も出来る。 ティファだってそうだ。 いや、もしかしたらティファの方こそが子供達の目を憚って、喧嘩をググッと堪えただろう。 だが、それが出来ないくらい、今回の喧嘩は双方譲れないという気持ちが強かった。 そして、当の子供達はと言うと、これまた二人共黙々と片付け物をしている。 時折クラウドをチラリ…と見る眼差しは決して冷たくはない。 むしろ、困ったような表情だ。 子供達にとって、今回のクラウドとティファの喧嘩が、『お互いの言い分に見合ったもの』と判断したのだろう。 クラウドの言い分ももっともだし、ティファの言い分ももっともな『喧嘩』。 デンゼルとマリンは、片付けをあっという間に手際よく終らせると、チラっと視線を交わし、小さく頷いた。 デンゼルはソファーに深く身を沈めてまだ怒りが収まっていないらしいクラウドの元へ、マリンは二階のティファの元へ…。 それぞれ、ブラックコーヒーとミルクたっぷりのカフェオレを持っている。 子供達は自分の成すべき任務を成し遂げるために、それぞれ足を向けた。 * 「ん」 「…え…あ、あぁ……」 ズイッと差し出されたカップに、クラウドはハッ…と顔を上げた。 子供達の目の前で喧嘩をしてしまったことに、少し頭が冷えた今、デンゼルから差し出されたコーヒーを前に、申し訳なさが込上げる。 だが…。 それでも…。 どうしてもティファへの怒りは消えない。 とりあえずは差し出されたカップを手に取る。 隣に座ったデンゼルの手にはホットミルクの入ったカップがある。 息子が部屋に戻る気が無いのだとクラウドは悟った。 黙ったまま、二人はカップに口をつけた。 そのまま暫く、何も言わないまま、ただカップを時折口に運んで、その味を堪能する。 クラウドの心境はティファへの怒りと子供達への悔恨の念でぐちゃぐちゃな状態だったが、デンゼルが隣で黙って座り、今、一緒にいてくれるのが……妙に嬉しかった。 コーヒーの味なんぞを味わうだけの余裕なんかないはずなのに、デンゼルのお蔭で彼が煎れてくれたコーヒーをとても美味しい…と感じられる。 自分自身の感情なのに、そう感じてしまうことがとても大きなことに感じられ、驚く。 やがて空になったカップをクラウドは手の中でゆっくりと回し、ソファーの背もたれに背を預けた。 「ん」 また小さな手が差し出される。 カップを渡すように…ということだろう。 きっと、自分のカップも一緒に洗うつもりなのだ。 黙ったまま、クラウドはまたカップを渡した。 デンゼルはニッ…と笑ってカウンターへと向かった。 その笑顔に、なんとなく少しだけ重い気持ちが軽くなったような気がした。 ただ黙って傍にいて、同じ時間を過ごしてくれただけ。 それがこんなにも嬉しいとは…。 先ほどの派手な喧嘩を見ていただろうに…。 ティファが泣いたところも、デンゼルの立っていた位置からは見えたはずなのに…。 だが、デンゼルは一言もクラウドを責めるような雰囲気なんぞこれっぽっちも見せないで、黙って傍にいてくれた。 そこで気づいた。 きっと、ティファにはマリンがそっと傍に寄り添ってくれているのだろう…。 本当に…ありがたい…と思う。 心から。 今、ティファだって苦しんでいる。 だから、その傍にマリンがそっと寄り添ってくれているということがとても嬉しい。 いかにティファに対して腹が立っていたとしても…だ。 結局、クラウドはティファに惚れ抜いているわけだし、今回の喧嘩も、言ってみれば『愛情が深いゆえ』の喧嘩。 それが今回の売り言葉に買い言葉の喧嘩なのだから…。 「クラウド」 「ん…?」 「クラウドの気持ち、俺、すっごく良く分かる」 「……そっか…」 「でも、ティファの考えもやっぱり分かる」 「あぁ」 「だけどさ…、俺的には、やっぱり俺はクラウドの考えの方が好きだな」 「…デンゼル…」 「ん?」 「ありがとう…な」 少し照れたように微かに笑ったクラウドに、デンゼルは「へへっ!」と嬉しそうにニッカリと笑った。 息子の純粋な笑顔にクラウドは、ホォッ……と、身体から力を抜いた。 思っていた以上に力んでいたらしい。 なんだか軽くなった肩を軽く回して、クラウドはソファーから立った。 視線だけで『行くの?』と問うデンゼルに、片眉を器用に上げながらコックリと頷く。 「頑張れ!」 「あぁ……」 「大丈夫、クラウドの気持ち、ティファならちゃんと分かってくれるから」 「……サンキュ」 「へへ」 ガシガシ、と息子の頭を強めに撫でて、クラウドは二階へと足を向けた。 「あ、クラウド」 丁度階段の中程まで上った時、マリンが寝室から二つのカップが乗った盆を持って出てきたのに出くわした。 咄嗟にバツが悪くて視線を逸らす。 マリンはニコニコとしながら軽やかにクラウドのところまで降りてきた。 「ティファ、ちょっと反省してるからあんまり怒らないでね?」 覗くようにしてそう言った娘に、クラウドはチラチラッと視線を流した。 長い時間正視出来ない自分がなんともはや…情けない。 「…あぁ……その……」 ごめん。 そう続くはずの台詞は、 「良いの。ティファの気持ちも分かるけど、クラウドの気持ちも分かるもん」 との、明るい言葉によって最後まで言わせてはもらえなかった。 クラウドは小さく溜め息をすると、ようやっとマリンと視線を合わせた。 苦笑が浮かんでくる。 自分の方がうんと年上なのに、この目の前の少女と、先ほどまで傍にいてくれた少年の方がうんとしっかりとした人間であると再認識させられて、妙にくすぐったいような……むず痒いような気分がする。 「じゃ、後は頑張ってね!明日、約束通り、お買い物してご飯食べに行こうね」 「あぁ」 明るくそう言ってくれたマリンに、クラウドはガシガシ、と少し強めに頭を撫でた。 くすぐったそうに首を竦め、マリンは軽い笑い声を上げる。 「じゃあ、おやすみなさい」 「あぁ…おやすみ」 軽やかに1階へ降りて行ったマリンの背を見送り、クラウドは大きく息を吸い込んだ。 子供達がここまでお膳立てしてくれたのだ。 無駄にすることなど出来ない。 「踏ん張りどころだ、クラウド」 自分に自分で言い聞かせ、クラウドは階段を上った。 寝室の前で立ち止まり、もう一度深呼吸をする。 コンコンコン。 自分の寝室でもあるのにノックをするのはいかにも可笑しな感じがするが、今夜はやはりノックをするべきだろう…と思われた。 残念ながら、気配はするのにティファの応えはない。 クラウドは仕方なく、 「…ティファ、入るぞ」 一言そう告げてからノブを回した。 と…。 ガチャガチャ。 「………おい」 いつの間にやら鍵がかかっている。 折角宥める(なだめる)ことに成功していた心が、再び怒りと不安でざわつき始める。 たった数秒前に分かれたマリンは、言ったではないか。 『ティファはちょっと反省している』 と。 それなのに、鍵を掛けて締め出すとは。 ゴンゴン。 ノックの音が少々強くなる。 「おい、ティファ」 シーン。 返事はない。 薄いドアを一枚隔てたすぐ傍に、ティファの気配がする。 きっと、ドアを背で抑えているのだ。 クラウドはイライラしながら、数回深呼吸した。 そうしないと、大声で怒鳴るなり、ドアを殴り破るなりしてしまいそうだった。 折角子供達が気を使ってくれたのに、そんなことをしたら台無しだ。 幸か不幸か、こうして寝室の前で締め出されていることを子供達にはまだ知られていない。 なんとか早急に、せめて寝室の中に入っておかなくては。 でなくば子供達が自分達の部屋に戻ってきたらバレてしまう。 あの小さな胸がこれ以上痛むようなことはしたくない。 「ティファ…頼むから開けてくれ」 シーン。 ザワザワザワザワ。 胸の中が不安と怒りと不満がない交ぜになって落ち着かなくなる。 そもそも、今回の一件はティファに問題があるではないか。 それなのに、一方的に『大キライ』と言われた挙句、子供達の前で大喧嘩をしてしまった。 子供達は自分達が仲直り出来るように小さな胸を痛めつつ、何が出来るかを一生懸命考えて、二人で話し合えるまで気持ちを落ち着かせてくれたのに。 いや……違う。 クラウドにとっては、デンゼルが傍にいて、黙って一緒にコーヒーを飲んでくれたから、落ち着くことが出来た。 ティファは……違うのかもしれない。 マリンが『反省している』と感じたのは、マリンが勘違いをしただけで、本当はクラウドと顔を合わせて話をするところまで気持ちが落ち着いていないのかも…。 ……。 ………。 クラウドは大きな溜め息を吐いた。 ティファが頑固なのは知っている。 こうなったら、きっとてこでも動かないだろうし、歩み寄りの姿勢を見せてはくれないだろう。 『時間をあけるしかない…か…』 クラウドは理不尽なものを感じながら、開かないドアを忌々しそうに見やり、踵を返した。 子供達には正直に謝るしかない。 明日は、家族皆でエッジに出来た巨大ショッピングモールへ買い物に行く予定だった。 大きくなってきた子供達の服や靴を買って、その後は家族揃って外食をして…。 時間がもしも余るようなら、ちょっと足を伸ばして街の外まで行き、夕陽を見ても良い…。 そう密かに計画を立てていた。 子供達の喜ぶ顔と、ティファの微笑みを思い浮かべながら色々と一人、計画を立てていたのだが…。 それも全部無駄になってしまった…。 なんともやるせない気持ちに陥りながら、階段を降り始めたクラウドの耳に、ギーー……という音が聞えてきた。 ビックリして振り返る。 寝室のドアがゆっくりと開く。 ティファは出てこない。 僅かに開いたドアの中は真っ暗で、彼女が電気を消していることを知った。 丁度その時、階段下から子供達が上がってくる気配がした。 鍵を開けてくれた…ということは、少なくとも今夜、これ以上デンゼルとマリンを傷つけずに済むかもしれない。 慌ててクラウドは寝室に滑り込んだ。 間一髪。 子供達が軽やかな足音を立てながら子供部屋に入っていく。 少しでもグズグズしていたら、締め出しを食らっているところをバッチリ目撃されていただろう。 やれやれ…と、一息吐いたクラウドは、ベッドに腰掛けて項垂れているティファを薄暗がりの中で認めた。 なんとなく…。 本当になんとなく。 マリンが言った様に『反省』しているように見えないことはない。 しかし、これまでの経験を振り返ると、そうは思えなかった。 彼女がこうして項垂れている時の原因が客がらみだと落ち込んでおり、クラウドがらみだと怒りを押さえ込んでいることの方が多かったからだ。 …ということは、彼女は怒っているのだろうか…? クラウドは、彼にしては本当に珍しくムッとした。 今回の一件はどうしても譲れなかった。 だから、ティファがいつも自分を怒る直前に見せるこの『ポーズ』に、腹が立った。 そりゃ、いつもクラウドはティファに心配をかけている。 スピードの出しすぎはしていないか。 夜、家に戻れないときなど、その大陸の宿屋で寝泊りする際、ちゃんと夕飯は食べたのか。 きちんと休息はとっているのか等々。 無理をしているのがバレた時、彼女はいつもこのポーズをしてから怒った。 怒りながら……悲しそうな顔をするのだ。 だから、いつも彼女が怒らないギリギリのところを保てるように調整しつつ頑張っている。 彼女に心配をかけたくないから。 その一心で、今回の配達も懸命にセーブした。 本当はもっと早くに帰宅出来た。 だがそれをするとハードスケジュールになってしまう。 そうなると、ティファにも子供達にも無理をしたのがバレバレなので、無理をし過ぎないように、きちんと食事や休息をスケジュールの中に組み込んだ。 そうすることで、ティファの心労を減らそうと頑張った。 それなのに。 今夜、帰宅したクラウドの目に飛び込んできたもの。 それは、酔っ払った客に完璧な営業スマイルを浮かべながら、右に左に、忙しく仕事をするティファの姿。 クラウドは腹が立った。 当然、ティファに邪(よこしま)な視線を這いずりまわしながら、酔いに任せて言いたい放題、注文をしたい放題する客に……だが、それ以上にティファに腹が立った。 クラウドの事をあれこれ心配しているくせに、ティファは自分のことは全く気にかけていなかった。 いつもは黒い服を着て仕事をしてたのに、今日はコスモスを髣髴とさせる淡いピンクのノースリーブタイプのタートルニットと、白いパンツ。 メリハリの良い身体のラインが綺麗に現れており、酔っ払い達の『目の保養』となっていた。 それで…。 つい…。 『なにジロジロ見てる!』 魔晄の瞳に混じりっけなし、純度100%の殺気を放ってしまった。 客はセブンスヘブンから消えるまで、3回も店の中で転倒した。 最後の転倒で、テーブルの角で強かに額を打ち付けていたが、クラウドにとってまだまだ生ぬるいくらいだ。 自分自身の手で鉄槌を下したかったのに…。 だが…。 * 『クラウド、お客様になんてことを!』 店長としての責任感の強い彼女は怒った。 ティファのその怒りにクラウドはカチン…ときたのだ。 『客?酒も食事も済んだなら、もう帰ってもらっても差し支えはないだろう?』 『そういうことじゃないわ!最後まで楽しんで、気持ちよく帰ってもらうのがセブンスヘブンのモットーでしょう!?』 『モットー!?ベロベロに酔いつぶれた客をこれ以上満足させるのがか!?』 『そういうんじゃないわよ!そうじゃなくて…』 『ティファ、ティファはいつも俺に言ってるよな?無理するな、心配かけるな…って』 『な…それはそうだけど、それとこれとは話しが違うじゃない』 『違わないね。今の客はどうみてもティファのことをいやらしい目で見てただろ!?毎晩毎晩、俺がいないところでああいう目でティファが見られていると思うと、俺だって心配で堪らない気分だ!』 『!クラウド、お客様相手になんて事言うの!?』 『そういう目で見られるのはセブンスヘブンの仕事のうちじゃないよな!?』 『な、当たり前じゃない!』 『じゃあ、今俺があの客を追い出したことは別に可笑しなことじゃないだろう!?』 『話を摩り替えないで!』 『摩り替えてるのはティファだろう!?それともなにか、ティファは俺の事を心配しても良いのに、俺はティファを心配する権利すらないって言うのか!?』 『俺が家を…家族を捨てたから!』 * 「ティファ…」 ビクッ! 彼女の肩が跳ね上がった。 彼女がまさかそんな反応をするとは思っていなかったため、クラウドは目を丸くした。 『………まさか…本当に落ち込んでる?』 そっと歩み寄る。 暗闇で彼女が小さく小刻みに震えているのがようやく分かった。 途端、クラウドの怒りや不満といった、『負』の気持ちはスーッと溶けてしまった。 代わりに、彼女への愛しい気持ちが込上げる。 もう…どうしようもなく……愛しい…。 そう認めてしまったクラウドの行動は実に早かった。 「ティファ」 ベッドに腰掛け、思い切り抱きしめる。 一瞬、彼女の身体に力が入り、ギュッと縮こまるのが分かった。 「ティファ…さっきはごめん」 その一言をクラウドが口にした時…。 ティファはクラウドの首に両腕を巻きつけて強く強く抱きつきながら、声を出さずに泣き出した。 * 「ごめんなさい……」 ようやくティファが泣き止んだ時、ティファはクラウドの腕にくるまれたままベッドに二人して横たわっていた。 泣いたことと、クラウドがずっと抱きしめて背を撫でていてくれたことにより、ポカポカと身体も心も温かい。 「いや…言っただろ?俺も悪かったんだ、ティファは店長で一生懸命仕事してくれてたのにさ」 もう何度目かの謝罪をお互いが口にする。 ティファは泣いて腫れぼったい瞼を懸命に持ち上げながら、クラウドを見た。 ゆっくりと首を横に振る。 「違うの……そうじゃないの…」 「…なにが?」 「あのね……クラウド…最近私やデンゼル、マリンに心配かけさせまいと、毎日スピードとか、休息とかに気を使うようになってくれたでしょ?」 「え?…まぁ…そうだけど…」 何故、いきなりこんな話しになったのか…。 クラウドは首を傾げながらティファの言葉を待った。 「そしたらね、最近すっごく女性客が多くなったの」 「………セブンスヘブンの?」 ティファは黙ったまま小さく頷いた。 はて…。 どうして自分がきちんと休憩を取ったり、スピードを落として安全運転したら女性客が増えるのか…。 わけがわからず首を傾げるクラウドに、ティファは恥ずかしそうにギュッと抱きつき、クラウドの胸に顔を埋めることによって顔を隠した。 「あのね……だから……」 「うん…?」 「クラウドが、前よりも女性の目に止まる確率が多くなって…」 「え……?」 「そのお客さん達が…その…」 「……まさか、嫌がらせ……とか…?」 ゾッとしながらそう聞くクラウドに、ティファは慌てて首を振った。 「違うの!そうじゃなくて…」 思わず顔を上げたティファは、そのまま真っ直ぐクラウドを見つめた。 「とっても…とっても可愛い格好で来るから……だから……」 ここまで言われて分からないほど、クラウドは鈍感ではない。 ようするに、ティファはクラウド目当ての女性客達を前に、ちょっとした『対抗心』を持ったのだ。 だからこそ、いつもとは違う服装で仕事をしていたのだ。 クラウドの心が急上昇する。 まさか! まさか、あのティファが、ヤキモチを焼いてくれるとは!! クラウドは嬉しさのあまり、ギューッと抱きしめた。 「ティファ…」 「…ごめんなさい、クラウド…」 「俺、すごく嬉しい」 「………え…?」 「ティファ、ヤキモチ焼いてくれたんだろ?俺はいつも客にヤキモチ焼いてるから、ティファがそうして焼いてくれるのがとても嬉しい」 「ウソ…クラウド、ヤキモチ焼いてくれてるの?」 クラウドは眉を器用に上げると、 「しょっちゅうだ」 と白状した。 彼女の顔に笑顔が戻る。 そのまま二人はまた、しっかりと抱きしめあった。 「良かった……私、呆れられちゃったのかと思って…すっごく怖かった…」 「バカだな、呆れないさ。むしろ嬉しい」 「………私も……クラウドが焼いてくれてるって知って…とっても嬉しい」 「………そうか…?」 「うん」 すっかり誤解の解けた二人は、そのまま何度もキスをして、幸せな眠りにつくことが出来た。 翌日。 デンゼルとマリンは、前々からの約束通り、家族四人での買い物を思う存分満喫した。 中でも嬉しかったのは、普段はあんまり体に良くないから…という理由で食べさせてもらえない『ジャンクフード』を四人分買い込んで、夕方、エッジからちょっとだけ出たところにある草原で夕陽を見ながら食べたこと。 真っ赤に染まる大空と、家族の顔に子供達は大はしゃぎだった。 「たまにはクラウドとティファは喧嘩した方が良いな」 「そうだね。昨日くらいの喧嘩なら充分許容範囲内だよね」 「うん!そうでないと、もうとことんまですれ違って、収集がつかなくなるから、適度に喧嘩して、分かり合っていくようにしないとなぁ」 「そうだよねぇ。あ〜、あの程度で済んで良かった」 夕陽はきれい。 風は気持ち良い。 滅多に食べられない『ジャンクフード』も美味しかった。 何よりも、仲良く寄り添うクラウドとティファに、大満足だ。 こうして、デンゼルとマリンの楽しい一日は終った。 後日、マリンがこの日の事をバレットに電話をして話した。 養父はこう言った。 『マリン…おめぇはなんて良い子に育ったんだ!父ちゃんは感動した!!そんな『犬も喰わない夫婦喧嘩』を、『あの程度で済んで良かった』だなんて言ってくれてよぉ!!』 世間一般では『犬も喰わない』ものでも、セブンスヘブンの子供達にかかれば充分『咀嚼(そしゃく)』して『嚥下(えんげ)』して『消化』出来るらしい。 そんな素晴らしい子供達は、今日も元気に母親代わりの片腕として働いている。 あとがき はい、いつものことですが、突発的に思いついたネタでございます。 最初はクラウドとティファのヤキモチの『焼きあい』だったんですが、やはり話のまとめには子供達は欠かせなくて(苦笑)。 ここまでお付き合い下さって本当にありがとうございました!! |