……。
 ………ホアァ〜〜……。
 ………すっごい人だ……。
 どこを見ても…人、人、人ばっか!!
 こんなに沢山の人が集まった所になんか来た事ないよ……。

「ほら、キッド。呆けてるとはぐれるぞ〜」
「キッド、はい、離しちゃダメよ?」

 あんまりにも凄い人だかりにびっくりして立ち止まった俺の手を、父さんと母さんが笑いながらしっかりと握り締めた。



カッコイイってことは…




「それにしても本当に凄い人だかりだな…」
「そうね…。無理して連れて来なくて正解だったわね」
 俺の手をしっかり繋ぎながら父さんと母さんが頭の上で話をしてる。

 連れて来なくて良かった。

 母さんの言葉に、おじいちゃんとおばあちゃんに預けてきた妹を思い出した。
 生後半年になる妹は、それはそれは可愛い女の子でさぁ!
 親友のデンゼルとマリンはもう、メロメロなんだ!
 おじいちゃんとおばあちゃんもそれはそれは喜んで、奪い合うようにして抱っこしてる。
 でも、母さんと俺以外が抱っこしようとすると決まって大泣きをするんだ。
 そんな妹が可愛くて可愛くて!
 父さんが抱っこしてもダメなんだよな。
『おいおい…俺はお前のお父さんなのになぜに泣く!?』
 そう言って、父さんはいつも情けない顔をしながら母さんか俺に妹を渡すんだ。
『はぁ…やれやれ。キッドはこんなことなかったのになぁ…』
 寂しそうにそう言って、父さんは母さんか俺の腕の中でご機嫌になる妹を眺めるのが日課になってた。

 そんな可愛い妹をおじいちゃんとおばあちゃんの所に預けてまでやって来たのは…。


 WROの闘技場。


 今日、この闘技場で俺の憧れの人がWROの隊員さんと試合をするんだ。
 その憧れの人は世界で有名な『ジェノバ戦役の英雄のリーダー』だった人。
 癖のある金髪に澄んだ青い目をしたすごくカッコイイ人なんだ!
 見た目もカッコいいんだけど、性格もすっごく良い人で、めちゃくちゃ尊敬してるんだ!

 ま、このことは父さんには内緒だけどね。
 だって、父さんに知られたら『俺よりもクラウドさんを選ぶのか〜!?』って大騒ぎするのが分かってるもん。
 勿論、父さんも大好きだけど父さんみたいに『子供な大人』よりも『カッコイイ大人』になりたいんだ、俺は。
 母さんにそう言ったらクスクス笑って『大丈夫よ。キッドは今でも十分大人だもの。きっと、父さんよりもしっかりした男の人になるわ』って言ってくれた。
 その後で、

『でも、母さんは『子供な大人』の父さんがいいわね』

 そう言って笑った。
 うん。
 母さんにとって、今のままの父さんが良いんだな。
 ……良かった〜!
 もしも、『カッコイイ大人』の人がやっぱり良い!とか言われたら、どう考えても今の父さんは捨てられちゃうよ…。

 不思議そうな顔をしてジッと見つめる妹を抱っこしながら、俺はしみじみそう思った。



「それにしても今日は平日なのにすごい人だかりだな……」
「そうねぇ。あ、あそこ空いてるみたいね」
 俺と同じ様に目を丸くしてる父さんに、母さんが指差した。
 丁度二人分の空席が空いてるそのベンチに、父さんが目を輝かせて母さんを見た。
「おまえは本当に良い女だ〜!」
「ふふ、ありがとう」

 いやいや、それはいいから早く席を取らないと他の誰かに取られちゃうよ……。

 ヒヤヒヤする俺を余所に、父さんと母さんは相変わらずの仲良しさん振りを発揮しながら二人分の席をしっかりとゲットした。
 父さんが俺を膝の上に抱き上げる。
 その隣に母さんが腰を下ろしてニコニコとしながら俺を抱っこした父さんと俺を見つめる。
「ふふ、良いわねぇ。久しぶりね、そうやって『親子』するのも」
「おお、本当だな!」
 ご機嫌の父さんと母さんを前に、俺は何だか落ち着かなかった。
 いや、だってさぁ…。
 俺、もう九歳なのに、恥ずかしいじゃん!

 ……嬉しそうな顔をしてる二人のそんな事言えないけど…。

「あの子が生まれてから、キッドを甘やかして上げられる時間がなかったものね」
 俺の頭を撫でながら母さんが目を細める。
「そうだよなぁ。悪かったなぁ、キッド!でも安心しろ!お前への愛情は微塵も減ってないからな!」
 ギューーーッ!!
 父さんが俺を抱きしめる。

 く、苦しい…。
 恥ずかしい…。
 周りの人達がクスクス笑いながら見てる視線を感じる…。

 でも。
 やっぱり幸せだなぁ…って思っちゃうんだよな。

「お?英雄の登場だ!」
「「え?」」

 パッと顔を上げると、闘技場の中にある門が開いて、そこから金髪の髪をお日様に輝かせながら俺の憧れの人が現れた。

 途端に上がる沢山の人達の歓声。
 父さんと母さんも笑顔で拍手をしてる。
 勿論、俺も一生懸命手を叩いた。

 クラウドさんは闘技場の真ん中でクルリと背を向け、出てきた門の方へ向き直って立ち止まった。
 真っ直ぐ立つ後姿がすっごくカッコよくて…。
 沢山の人たちの歓声に混じって「クラウドー!」「頑張ってねーー!!」っていうデンゼルとマリンの声が聞える。
 観客席の最前列に、見慣れた友人の後姿があった。
 身を乗り出して一生懸命クラウドさんに応援してる二人の姿に、父さんと母さんが「お、あんなところに」「あらあら、今日も元気ね」とのほほんと笑った。
 デンゼルとマリンの隣に腰掛けてるのは、クラウドさんの恋人、ティファさんだ。
 いつ見ても綺麗だな…。
 優しい顔でデンゼル達を見つめてる。

 そして…。
 そんなティファさんを周りのお兄さん達が釘付けになってる…。
 あ〜あ…やっぱりなぁ…。
 この構図っていっつも見る光景だよね。

 ― 一つの美しい花に群がる蜂共 ―

 ティファさんを見つめるお兄さん達を見て、父さんが可笑しそうにボソッと言った言葉。
 その時に『あ〜、すっごくピッタリな言葉だ!』とびっくりした記憶がある。
 今もまさにそんな状態だよね…うん。



「さぁて、やって参りました!!皆様お待ちかね、『ジェノバ戦役の英雄のリーダー 対 実力派WRO隊員』との『手合わせ試合』で〜〜っす!!!!」

 闘技場にいるお客さん達が一斉に歓声を上げた。
 俺の隣に座ってたおじさん達が、
「待ってましたーー!!」
「よぉっし!旦那ー!あんな若造共なんかやっちまえーー!!」
「ティファちゃーん!俺の嫁になってくれー!!」
「「アホかー!!」」
 応援してるのか良く分からないけど、なんだか必死になって叫んでた。


 最後の台詞を叫んだおじさんがお友達に殴られてたけど……。


「あの司会してるのって、確かユフィ…とかいう英雄だよなぁ…」
「あら、本当に」
「楽しそうだなぁ〜」
「本当ね。きっとこういうノリが大好きなんだわ」
「なんか……すっげー普通の女の子だな…」
「ふふ…特別なものを感じないから不満?」
「冗談!むしろ大歓迎だね。こう、『私は英雄です』ってすました感じの奴だったら腹が立つだけだっつうの!」

 うわわ。
 俺を膝に乗せたまま父さんが興奮して腕を振り回すから、顔の真横を風切って父さんの腕が……。

「あなた。キッドを膝に乗せてるんですから、少し落ち着いて頂戴」
「はいよ!」

 ……俺、超不安だ……。



 暢気に俺達家族がそんなやり取りをやっている間に、気が付いたら闘技場にWROの隊員さんが六人も出てきてた。
 前に並んでる三人の隊員さんは何だかすっごく困ってる感じで…。
 後ろの三人の隊員さんは……。

 イヤ〜な笑い方をしてる。
 あ、俺、目が良いから遠くても良く見えるんだ。
 だからさぁ…。
 すっごくイヤな感じになったんだ、その隊員さん達の笑い方見て。
 こう、バカにしてる…っていうのかな。
 そんな感じ……。

「なんか……すっごいイヤな感じで笑ってるね…」
「あん?なにが?」
「あ〜、後ろの三人の隊員さん?」
「うん…」
「へぇ。二人共、よくあんなちっこいのが見えるなぁ…」

 父さんが感心して大きく息を吐き出した。
 母さんは逆に、ちょっとムッとしてる。
 珍しいな、いっつもニコニコ、ホワホワした母さんがこんな顔するの……。

「お前がそんな顔するくらいならよっぽどやな感じなんだな」
「ええ……本当にイヤな顔してるわ」
「へぇ…」

 父さんが母さんの顔を見てちょっとびっくりしてた。
 母さんのムッとした顔に改めて闘技場に目を戻す。
「あ〜、オペラグラスでも持ってくりゃ良かったな」なんてぼやきながら、俺の頭をワシワシと撫でた。

 アタタ…、痛いって…!
 父さん、頭ワシワシするクセ、やめてくれよ!!



うるっさい!!仕方ないじゃん、ここに名前が無いんだから!!!

 キーーーーーーン……。

 突然のその怒声に、耳鳴りがする。
 父さんに向かって抗議しようとしたそのタイミングでの怒声に、俺が怒られた気分になった。
 思わず「ごめんなさい!」って言っちゃったよ……。
 父さんと母さんは思いっきり顔を顰めて耳を塞いでたから、俺の声に気付かなかったみたいで……ホッとした。
 それにしても、なんなんだよ???


「はいはい!時間もないし…。第一回戦、クラウド対シュリ、試合開始!!」

 カーン!!


 え!?
 試合、始まったの!?!?
 って言うか…。
「えらく……勝手に話が進んだな…」
「そうね」

 父さんと母さんがそろそろと耳から手を離して呆然と司会のユフィさんを見た。
 あんまりにもその表情が「ポカーン」ってやつで、ちょっとおかしかった。
 でも、今はそれどころじゃないんだ!

「クラウドさーん!頑張ってーー!!」

 闘技場の中央で、黒髪の隊員さんと向かい合ってるクラウドさんに精一杯の声援を送る。
 周りのおじさんやおばさん、お兄さんやお姉さんが一生懸命闘技場に向かって声を張り上げてる。
 勿論、観客席の最前列にいるデンゼルやマリン、ティファさんやその他、名前を良く知らない英雄の人達も一生懸命応援してた。

 うわっ!
 マリンの隣のおっきなおじさん…!
 めっちゃ興奮してるし!
 あわわ!!
 そんなに腕振り回したらマリンの頭に当たっちゃうだろ!?
 ダメだって、マリンの小さい頭に当たったら、マリンがバカになっちゃうじゃないか!!
 あ〜、誰かそのおじさん、止めてくれ!!

「キッド?」
「お前…何見てるんだよ。試合見ないのか?」

 母さんと父さんが不思議そうな顔をして見つめてきたけど、それどころじゃないんだよ!
 マリンが…マリンが〜!!

 ……あ、赤いマントのお兄さんが止めてくれた…。
 良かった〜…。
 これで安心して試合観戦が出来るよ〜!

 改めて闘技場に目を戻す。

 ………。
 …………。
 ……………すっげえ!!

 クラウドさんも凄いけど、相手の隊員さんもすげぇ!
 二人共、動きが早過ぎて『かすんで』見えるんだけど!
 えっ!?
 なになに、今、なにしたの!?
 なんで隊員さん、後ろのすっ飛んだの!?
 うわっ!
 しかも、すっ飛んだ隊員さんってば、宙返りして地面に綺麗に着地したし!!
 そのまんま……攻撃ー!?
 うわー!
 クラウドさん、凄い!
 隊員さんの攻撃をあっさり大きな剣で弾き返した!
 わっ!
 危ない、隊員さん!!
 …はぁ……かわした……危なかった……。
 ひっ!
 クラウドさん、危ない!!
 …はあぁぁ……危なかったぁ……。あ、クラウドさん、頬っぺた切れてない?大丈夫???

「キッド…お前、興奮しすぎだ」

 父さんが苦笑しながらそう言ったけど、そんなの気にしてなんからんないよ!
 だって、瞬きしてる間に、クラウドさんの必殺技が出るかもしれないし、もしかしたら隊員さんの攻撃が決まっちゃうかもしれないんだぜ!?
 こんなに迫力あって、凄い試合……って言うか『戦い』は映画でも見た事ない!
 二人共、ほんっとうにカッコイイ!!

 隣に座ってる母さんも、「あら!」「まぁまぁ!」「…あ〜、びっくりしたわ…」とか言いながら、試合に釘付けになってる。
 すごく…すごく珍しい。
 母さんがここまで真剣に…それも楽しそうに『戦い』を見てる姿、初めてだ。
 父さんが楽しそうに見てるのはこれまでにも何回もあったけど…。(勿論、俺達が見たことあるのは全部『映画』だけどね)

「珍しいね、母さんがここまで楽しそうに見てるのって…」
「そうだな、ま、その気持ち分かるぜ〜!」
 くぅ〜、すっげぇ!!

 そう言って、ギュッと拳を握って震わせてる父さんが、心の底からワクワクしてるんだって分かる。

 闘技場の中でクラウドさんと隊員さんは、何回も何回も剣と剣を合わせてた。
 時々、剣を使わずに直接殴ったり、蹴り技を披露してくれたり…。
 二人の戦いぶりは、すごく……すごく綺麗で…。
 見てて興奮して…頭がボーっとなってきた。

 試合は結局クラウドさんが勝ったけど、相手の隊員さんはちっとも悔しそうじゃなかったし、負けたから…っていって、カッコ悪いなんてこともなかった。
 ううん、全然カッコ悪くなんかなくて、逆に凄くカッコ良かった!
 クラウドさんと握手をして、門の向こうに消えていく後姿がとても大きく見えて…。
 その隊員さんを少し微笑みながら見送るクラウドさんの横顔が本当に凛々しくて…。
 観客席にいるお姉さん達が「キャー!クラウドさーん!」「素敵でしたー!!」「サイコー!!」って叫ぶ気持ちが良く分かる。

「はぁ……」
「すごかったわねぇ…」

 父さんが俺を抱っこしたまま、背もたれに背中を預けた。
 反動で膝からずり落ちそうになる俺の身体を、ヒョイッと抱えなおす。
 母さんも同じ様に背もたれにもたれてほんのりと微笑んだ。

「それにしても、やっぱクラウドさんは流石だな!あの隊員さんも良くやったけどさぁ!」
 満足そうに溜め息を吐きながらそう言った父さんに、母さんがクスリと笑った。
「そうねぇ。ふふ……本当に素敵だったわね」
「………」
 母さんの言葉に父さんの笑顔がそのままフリーズする。

 あ……。
 父さんったら気にしてるし…。
 バカだなぁ、母さんが父さん以外の人にどうこうなるはずないのに。
 それに、クラウドさんがカッコイイって自分も言ったばっかなのにさ。

「それでも、自分の女が他の男を褒めてるところは見たくないの!」
「うぇっ!?」

 ムッとして俺のおでこに自分のおでこをくっ付けた父さんにギョッとする。
 ……な、なんで俺の考えが分かったんだろう……!?

「ふっふっふ。読心術だ、読心術!」
「ふふ…。キッドったらすぐに顔に出るから何考えてるのか分かりやすいのよ」
「ま、そういうこった。おっと、第二試合が始まるのかな?」

 家族の会話をしてる間に、どうやら第二試合のゴングが鳴ってたらしい。
 周りのお客さん達が興奮して立ち上がってる。
 大きく口を開けて必死に何か叫んでるおじさんや、目をキラキラさせて闘技場を見てるお兄さん、はたまた一生懸命手を叩いてるおばさんやお姉さんまで…。
 皆、興奮しきってた。
 父さんと母さんも、俺をからかう事よりも目の前の試合に集中することにしたみたいで、
「クラウドさーん!」
「頑張れよー!」
 ってそれぞれクラウドさんの応援を始めた。

 …なんか、俺だけ乗り遅れてる…。
 よしっ!俺も応援するぞ!!


 第二試合は隊員さんが二人だった。
 さっきの試合は隊員さんが一人だけだったから、きっとこの二人はさっきの人よりもレベル的な面で下になっちゃうんだろうな…。
 クラウドさんの相手……ちゃんと出来るのかなぁ……?

 なぁんてちょっと心配したけど、余計な心配だった!
 この二人の隊員さんもすっごく強かった。
 いやいや、きっと一人一人のレベルはさっきの隊員さんの方が強いと思うんだけど、二人の連係プレーがすごくって!
 何回もクラウドさんは危ない目にあってた。
 その度に、「クラウド、危ない!」「クラウド!頑張って!!」って、デンゼルとマリンの応援する声が、沢山のお客さんの声に混じって聞えてきた。
 必死になって応援してる友達の声に、何故か嬉しくなってくる。
 そんでもって、父さんと母さんも夢中になって拍手したり、一緒になってヒヤッとしたり、かと思ったらホッとしたり…。
 ここまで一緒になって夢中になることってあんまりないから、試合も面白かったけど父さんと母さんも面白かった。


 そうこうしてる間も、一対二の試合は続いてた。
 クラウドさんの攻撃をまともに受けた茶色い髪のお兄さんが横っ飛びに吹っ飛ばされて、観客席の一部から悲鳴が上がる。
 クラウドさんがお兄さんにもう一度攻撃しようとしたけど、それを黒髪のお兄さんが自分の武器をブン投げて邪魔をした。
 そのびっくりするような戦い方に息を飲む。
 黒髪のお兄さんの驚く行動はそれだけじゃなくて、素手になったのにそのままクラウドさんに突っ込んで行ったんだ!
 素手で武器を持ったクラウドさんに戦いを挑む隊員さんの姿に……。
 それを青い目でしっかりと見据えて構えるクラウドさんの姿に……。

 背筋がぞくぞくする。
 目を離せない。
 瞬きも出来ないし、息も出来ない。

 真っ直ぐ相手を見据えるクラウドさんと隊員さんが本当にカッコ良くて…。
 気が付いたら両手を思い切り握り締めてて、爪が痛いくらいに手の平に食い込んでた。



「クラウドの勝利で〜っす!!!」
 司会の声が場内に響き渡って……。
 お客さん達の歓声がドッと湧いて耳が痛くなるくらいだった。
 でも、俺もその声に負けないくらい大声を上げちゃってさ。あ〜、喉痛いよ。

「凄かったなぁ……。なんだよ、最後のクラウドさんの技!」
「沢山斬られてるみたいに見えたけど………あの二人の隊員さん、無事みたいで良かったわぁ……」
 呆けたように父さんがそう言った隣で、母さんが胸を押さえる。
 俺も本当にびっくりした。
 きっと、クラウドさんは『みねうち』とかいう奴で最後の技を出したんだろうな。
 でないと、今頃二人共コマ切れだよ……。

 なぁんて余計な事を考えてると、
「おっと……」「あらあら」
 父さんと母さんが変な声を出して、笑い合った。

 なんだろう…?
 ふと隣に座ってるおじさんの横顔が目についた。
 ……なんか……ちょっと涙ぐんでるのは…なんで?
 その隣のおじさんは……笑ってる……。
 そのまた隣のおじさん……って、半分失神してるし!?

 変なのはそのおじさん達だけじゃなかった。
 観客の人達のほとんどが一点に集中してる。

 呆けてる人、悔しがってる人、恥ずかしそうに笑ってる人、嬉しそうな顔をしてる人、悲しそうな顔をしてる人、そんでもって……めちゃくちゃ少ないけど、中にはものっすごく怒ってる人。

 …なんで???

 みんなの視線を追って辿り着いた先の光景に、俺は固まった。
 顔がカァッ!と熱くなる。
 思わずバッ!と顔を横に向けて深呼吸する。
 父さんが俺の行動に気が着いて「キッド〜、照れてるのか?ハッハッハ!純情な奴め〜!」って言いながらギューって抱きしめたけど、あんまり気にならなかった。
 いやだって!
 たった今見た光景が衝撃的過ぎて!!



 闘技場と観客席。
 離れているのに見つめ合ってる『恋人』の姿。
 クラウドさんとティファさんが微笑み合ってるのってこれまでも何回か見たことあるけど、今日のは…ちょっと…。

 …俺には刺激が強すぎる…!!

 だってさ!
 クラウドさんって、試合終ったばっかだからあちこち埃まみれで、血も滲んでて、とてもじゃないけどいつもの『飄々としたカッコ良さ』からはほど遠いのに、すっごくカッコいいんだ!
 それに、そんなクラウドさんをジッと見つめて幸せそうに微笑んでるティファさんが、何だか光ってて!
 そんでもって、そんでもってさー!
 二人共、全く周りの人達のことなんか気にしてないんだ!
 ジッと見つめ合ってて…ちっとも動かなくって……ううん、動こうとしなくって!!!!
 こう、見てるだけで『ジュー……ボンッ!!』って焼けて焦げちゃいそうなんだけど!!

 …ダ、ダメだ…。
 まともに見られない。

「いやぁ…いいもん見せてもらったなぁ、色々な意味で」
 そう言う父さんは絶対にニヤニヤ笑いながら俺を見てるんだ。
 俺が照れてることをからかいたくて仕方ないんだ!
 く、くぅ……!
 悔しいけど、こればっかりは……仕方ないじゃないか!!
 だって、見てるだけで照れちゃう気持ちは変えられないんだから!!
 俺はまだ子供だからしょうがないだろぉ!!



「はい、とうとうやって来ました、最終決戦で〜っす!」



 …へ???
 司会のユフィさんの言葉に、キョトンとする。
 俺だけじゃなくて、父さんと母さんも目を丸くしてた。
 そんでもって、ポン…と手を叩くと、「あ〜」「忘れてたわね、あの三人の隊員さんのこと」と言ったのだった。
 あ〜、俺も忘れてた。
 だって、第一、第二試合がすっごく良かったからさぁ。
 それに、忘れてたのは俺達だけじゃなくて、お客さんの中にも何人か忘れてた〜!って顔をしてる人がいた。
 闘技場を見ると、クラウドさんだけじゃなくてティファさん達までがキョトン顔で実況席にいるユフィさんを見てる。

 ……クラウドさん、ティファさん。
 お二人は忘れたらダメだと思います…。


「え〜〜、最後となります三回戦は、WROの期待の星である三人がクラウドと勝負をしま〜す!しかもな〜んと!!!この試合に勝てば、ジェノバ戦役の英雄であり、料理の達人であり、エッジの人気者でもあるティファ・ロックハートとのお付き合い権が手に入りま〜〜す!!!!」


「は!?」「え!?!?」
 ギョッとして思わず立ち上がった父さんの膝から転がり落ちそうになる。
 寸でのところで父さんが慌てて抱き上げてくれたから大丈夫だったけど、バクバクと心臓がうるさいのは落ちそうになったせいだけじゃない。
 たった今、ユフィさんが投下した爆弾発言のせいだ!!

 闘技場はお客さん達の絶叫で凄い騒ぎだ。
 あちらこちらで「マジかよ!?」「ウッソーー!?」「冗談だろー!?」「ギャーー!!!!」という声が上がってる。

 いやいやいや!
 その気持ちが良く分かるよ!
 だってさ、デンゼルとマリンから今日の試合の事を聞いてたけど、そんな話は聞いてなかったんだから!!
 それに、そもそもティファさんにはクラウドさんがいるのに、なんだってそんなわけのわかんない話になってるんだよ!?

「いやぁ……それでクラウドさんは容赦がなかったのか…」
 父さんが座りなおして俺を抱っこしなおす。
 母さんが俺の頭をポンポン叩きながら「ん〜、でもあれだけ真剣な隊員さん達が相手ですもの。適当に手を抜きながら…なんて失礼な事はしないと思うけど…」言葉を選ぶようにゆっくりと言った。
「あ〜、そっか…そうだな」
「ええ。それに、やっぱりさっきの三人の隊員さん達は強かったと思うし…。片手間で相手には出来なかったと思うけど…」
「うん…そうだな」
「「それにしても…」」

 そう言ってクラウドさんとティファさんに目をやる。
 俺も父さん達に倣って顔を向けた。

 ティファさんとデンゼル、マリン、それに他の英雄の皆は何だか苦笑してる。
 クラウドさんは……。

 ……。
 ………怖!!
 めちゃくちゃ怖!!!
 か、か、顔が………。

「……アレが『鬼の形相』ってやつだぞ、キッド」
「そうよ、一つ賢くなったわね」

 試合で興奮して、びっくりするルールに仰天してた父さんと母さんがのほほんと言った。
 どうやらいつもの父さんと母さんに戻ったみたいだ。
 でもさ。
 俺にはいつもの俺に戻る余裕なんかこれっぽっちもないわけで…。

「…アレがモンスターを相手にする時の顔…かな…?」

 なぁんてちょっとズレたことを言うので精一杯だった。
 目を吊り上げていつものクールな表情が一変してるクラウドさんの全身から、『怒りオーラ』が惜しみなく放出されてるのがビリビリ感じるのは……普段のクラウドさんを知ってるからかな…。
 デンゼルとマリンを優しく抱っこする時の…。
 ティファさんを大切に想ってる…って目で見つめる時の…。
 そんなクラウドさんを……そんなクラウドさんしか見た事ないから……だから…。

 目の前のクラウドさんは『誰!?』って感じだったよ……!!

「それにしても…」
「動きが固いなぁ…あの三人」

 闘技場の門がまた開いて、最後の試合相手が出てきた。
 すっごくイヤな顔して笑ってた隊員さん三人だ。
 でもさぁ…。
 何回も言うけど、あんだけ怒ってるクラウドさん相手にして、無事で済むかなぁ…。
 それこそ、『容赦しない』って感じなんだけど。
 それに、第一・第二試合の隊員さん達はある程度緊張はしてたと思うけど、あそこまでガチガチじゃなかったし…。

 …ちゃんと試合できるのかなぁ…。

 なぁんて不安に思ってる間に、とうとう試合開始のゴングが鳴った。
 三人の隊員さん達の顔がこれ以上ないくらい引き攣ったのが見えた…。





「いやぁ…楽しかったなぁ!」
「そうね」
「……」

 帰り道。
 おじいちゃんとおばあちゃんの所に妹を迎えに行く途中で、ソフトクリームを買ってもらって、三人で食べながらゆっくりとオレンジ色に染まった街を歩く。
 俺の両脇を歩く父さんと母さんはご機嫌だ。
 それに比べて、俺はというと…。

「キッド?ソフトクリーム、溶けちゃうぞ?」
「あら、このソフトクリーム好きじゃなかったかしら?」
「え!?あ、うん…食べるよ、うん!」

 慌ててコーンを伝って溶けかけてるアイスを舐める。
 うん、美味しい!

「それにしても、最後の試合は…情けなかったなぁ…」

 う……。
 思い出しちゃった…。

「そうね。あの三人の隊員さん、『戦う姿勢』がなってなかったわねぇ」

 うぅ…。

「第一・第二試合はもう、なんて言って良いかわかんないくらい良かったのになぁ!」
「ええ!きっと、第三試合の隊員さん達は第一・第二試合を見て怖気づいちゃったんだわ…」
「あ〜、あんだけ凄い試合見せられたらビビるわなぁ…」

 そうなんだよなぁ。
 もう、これ以上ないくらい……三人の隊員さん達、すっごく『無様』って言葉がピッタリでさぁ。
 第一・第二試合での感動とか興奮が興醒めしちゃったよ…。

 勿論、怒ってるクラウドさんを目の前にして戦う気力を持つのってすごく大変だとは思うんだ。
 でも、第一・第二試合の隊員さん達の戦い振りを見てるから、すごく情けなく見えちゃって…。

 でもそこで、俺はフッと思ったんだ。
 第一・第二試合の隊員さん三人の事。
 そして、その三人の隊員さん達と試合をしたときのクラウドさんのこと。

 第一・第二試合は本当に四人ともカッコよかった。
 第三試合と何が違うのか…って言ったら、全部が違うわけだけど、第三試合のクラウドさんも……カッコイイ!!ってわけじゃなかったな…って思ってさ。
 何が違うんだろう…。

 ソフトクリームをゆっくりと味わいながらのんびりした歩調で歩く。
 父さんと母さんが今日の試合の事をあれこれ話してる。
 主に第一・第二試合について。

 あぁ…。
 そっか…。
 クラウドさんと最初の試合の三人の隊員さんがどうしてカッコ良かったか…。
 それはさぁ。


 どんな局面になっても諦めない強い心と、相手を真っ直ぐに見つめて決して『軽く見ない』姿勢。


 だから第一・第二試合の四人はカッコ良かったんだ。
 真っ直ぐに闘技場に立つクラウドさんと三人の隊員さんは、お互いに真っ直ぐ見つめ合ってて、相手を決してバカにしたり、自分よりも実力が下だな…とか上だから…とかそういう気持ちで卑屈になったり油断したり……そういうのがなかった。


 うん!
 やっぱりクラウドさんは凄かった!!
 第一・第二試合のクラウドさんを思い出してその時の興奮が胸に込上げる。
 俺も、おっきくなったらクラウドさんみたいになりたい!!
 うん、それと、最初の試合をした隊員さん達にも!!!
 自分よりも強いから…って諦めないで自分の持つ全力をもって向かっていく……そんな強い男になりたい!

「俺…おっきくなったらWROに入りたいな…」

 ボソッと呟いた俺に、父さんと母さんが目を丸くしたけど、すぐに笑顔になって頭をクシャクシャと撫でてくれた。

「キッドならすげぇ隊員さんになれるさ!」「ふふ…じゃあ頑張って心も身体も強くならなくちゃね」
「うん!」


 俺はウキウキとする気持ちで胸いっぱいにしながら…。
 妹…『キュート』を迎えにおじいちゃんとおばあちゃんの家に向かうのだった。

 明日、デンゼルにもこの将来の夢を言おう!!

 そう思いながら…。



 あとがき

 100100番キリリクです!!
 T・J・シン様より、『英雄シリーズのキッド君一家視点でクラウドの活躍をみたキッドがますます憧れる♪』でした〜!!
 キッドは私も大好きなキャラなので、リクエスト凄く嬉しかったです!
 …本当に長くなっちゃいましたね(^^;)二部に分ければ良かった。
 遅くなりましたがどうぞお納め下さいませ〜♪(勿論、返却可です (笑))
 少しでも楽しんで頂ければ幸いです☆