その日、セブンスヘブンに珍しくもなんともない、はた迷惑な『台風』がやって来た。







カミの恵みは嵐と共に…。







「やっほ〜!!皆、元気〜?」

 ババーン!!
 という効果音が聞えてきそうな勢いで、登場したウータイのお元気娘に、店の開店準備に取り掛かったばかりの三人が固まった。
 そして、一拍の呼吸を置いて同時に溜め息を吐き出す。

「ユフィ…」
「なんでいっつもいきなり来るんだよ…」
「ユフィお姉ちゃん、ヒマなの…?」

 げんなりした様子の三人に、ユフィは口を尖らせた。

「もう!折角遊びに来てあげたのに、なんだってそんな素っ気無いかなぁ〜。客商売なんだから、愛想良くしないとダメじゃん!なぁんか、その陰気な顔、クラウドみたい」

 ユフィの言葉に、ティファは肩を竦めた。

「なに言ってるの?つい三日前に帰ったばっかりじゃない」
「そうだよ。おまけにこの前も店の準備でクソ忙しい時に来たじゃないか…」

 そう。
 実は、このお元気娘…イヤ、はた迷惑娘。
 四日前にフラリとセブンスヘブンにやって来た。
 そして、強引に店を臨時休業させると、子供達を連れ立ってエッジの市場巡りへと繰り出してしまったのだ。
 ティファは呆れながらも、ノリノリの子供達を見て、
『あ〜…日頃、ゆっくりと甘やかしてあげられてないものね…』
 と、苦笑しながらも快く三人を送り出した。
 しかしその日、子供達と満面の笑みでユフィが戻って来たのは深夜近くだった!
 これには、帰宅直後のクラウドも眉間のシワをいつもの三割り増しにさせて怒った。
 デンゼルとマリンは、てっきりユフィが自分達の気付かない間に家に連絡をしてくれてると思っていたので、ビックリ仰天したものだ。

『なんでだよぉ、大丈夫に決まってるじゃん!アタシがいるのにさぁ』
『『 そういう問題じゃない!! 』』

 声をハモらせて怒る親代わりに、子供達は自分達がどれだけ二人を心配させたのかを思い知った。
 そして誓った。


 ― もう二度と、決してユフィと一緒に遅くまで遊んで二人を心配させない ―


 と。


 ユフィはその翌日、プクッと頬を膨らませながら帰って行った。
 それからたったの三日だ。
 それなのにこうしてまたもや忙しい時間に現れるとは!

 はっきり言って、人の良い子供達もあまり良い顔は出来ない。
 自分達の未熟さもさることながら、クラウドとティファを心配させた元凶であるのに、プクッと頬を膨らませただけで帰ってしまったユフィに少なからず腹を立てていた。
 だが、肝心のユフィはまたもや『む〜〜!』と頬を膨らませると、少々生意気に胸を反らせたデンゼルの額を軽く小突いた。
「生意気言うんじゃないの!楽しかったっしょ?一緒に市場行ってさ〜」
「う……まぁ…楽しかったけど…」
「なら良いじゃん」
「う…」

 完全に言い負かされる雰囲気。
 救ったのは、

「ダメに決まってるでしょう…」

 若干低めのトーンで口を開いたティファ。
 ユフィの口元がヒクッと引き攣ったのを子供達は見た。

「う………ダメ?」
「 …… 」

 普段怒らない人間が怒ると怖い。
 ユフィはジトーッと見つめるティファを前に虚勢を張って見せたが、あっという間に小さくしぼんだ。

「ご…、ごめんなさい」

 シュン…と項垂れる。
 いつもなら、
『もう、しょうがないわね』
 と言うはずのティファだったが、流石にまだ三日しか経っていないのだ。
 早々簡単に『うん、許してあげる』とは言えない。
 子供達の前でもある。
 ビシッとダメなことはダメだと知らしめなくてはならない…。

 ユフィは硬い表情を崩さないティファを前に、オロオロ、ソワソワと視線を彷徨わせた。
 ティファがここまで怒っているのに大いに動揺している。

「え、えっとさぁ…その、お詫びって言うのもなんだけど〜…」

 ガサガサガサガサ!!

 凄い勢いで背負っていたナップサックを漁る。
 店の床に、ナップサックから色々な物が放り出された。
 酔いどめ、キャンディー、ポーション、くいな、手裏剣、鍵爪のついた投げ縄、包帯、カットバン、そして何故か『わら人形』。
 ティファはわら人形が『ドサッ』と音を立てて転がり出た時、一瞬ギョッと目を見開いた。
 子供達はそれが何だか分からないので、
「ユフィお姉ちゃんも人形とか好きなんだ〜」
「へぇ、でもなんかあんまり可愛くないよなぁ…まぁ姉ちゃんの好みだからとやかくは言わないけどさぁ」
 と、実に微笑ましいやり取りをしている。

 ティファは、わら人形の『用途』を説明しまい!と心に決めた。

「あ、あった!」

 パッと顔を輝かせたユフィにティファは視線を戻す。
 彼女の手元にあったのは小さな小瓶。
 何となく…古めかしいソレ。
 だが、コレといって特に『ヤバそう』な気配は無い。
 無言でユフィに説明を求める三人に、はた迷惑娘は『エッヘン!』と胸を反らした。

「これさぁ、うちの倉庫に眠ってたんだ〜」
「「 へぇ〜! 」」

 子供達が『お宝』の話しに目を輝かせる。
 ティファは内心で苦笑した。
 所詮、このウータイの忍には敵わない。
 子供達が自分とクラウドを気遣って、わざと素っ気ない振りをしてくれたのだととっくに気づいている。
 あっという間に自分のペースに子供達を巻き込んだお元気娘に、もう腹は立っていなかった。
 それに、こうして彼女の実家の倉庫から眠っていたとされる『お宝』を持って来た…ということは、彼女なりに『反省』しているのだろう。

 ティファの眼差しがいつものように穏やかになったことに、ユフィは気づいたようだ。
 嬉しそうに尻尾でも振りそうな雰囲気でウキウキと説明を始めた。

「これさ、昔の昔、大昔からウータイに伝わる秘薬なんだ〜」
「「 秘薬? 」」
「そう!その名も…」
「「 (ゴクリ) 」」
「 ………(なんかイヤな予感) 」


「 美髪剤ー!! 」


 ジャジャーン!!

 セブンスヘブンの三人の耳に、効果音が響いた気がした。

「「「 …美髪剤…? 」」」

 声音には明らかに『不審』の三文字が込められている。
 折角、ユフィへの眼差しが暖かくなったのに、またやティファの眼差しはツンドラ地帯になってしまった。
 子供達二人の『お宝』への興味も、宇宙のはるか彼方へ超高速で飛んでいく。
 ユフィは真っ赤になった。

「もう!なんだってそんな白けた顔するんだよぉ!!」
「……デンゼル、マリン、お店の準備しましょうか」
「「 は〜い 」」

「ちょ、ちょっと待て〜〜い!!」

 一瞬にして興味を削がれた三人がクルリ、と背を向ける。
 ユフィがその背に叫んだ。

「ちょっと、それって酷くない!?」
「「「 ……… 」」」
 げんなりとした顔で振り返る三人に、ユフィが食い下がる。
「そりゃさ、胡散臭い、って思っても仕方ないとは思うけどさ、最後まで説明聞いてからにしてよね!」
 捲くし立てて三人がまたもや背を向けることを阻む。
「アタシも怪しいなぁ、って思ったんだけど、ちゃ〜んと実験済みなんだからー!」

「「「 …え…… 」」」

 三人は固まった。
 穴が開くほどユフィを見る。
 今、この女は一体何と言った?
 実験済み…と聞えたが…。

 ユフィは三人の反応に満足した。
 満面の笑みで片手を腰に当てる。

「ふっふっふ!そう、ちゃ〜んと実験済みア〜ンド保障済み!」

 元々好奇心の塊だったマリンの目が輝く。
 しかし、ティファは当然ながらまだまだ疑心暗鬼だった。
 そして、いつもならマリン以上に食いつきそうなデンゼルも…。
 恐らく、『美髪剤』という『美』の部分で男の子と女の子の違いが出たのだろう。
 マリンが興味深そうに、ユフィの手の中にある小瓶を見つめる。
 ユフィは気を良くした。

「へへへっ。実はアタシの幼馴染の男の子が『若ハゲ』で悩んでてさぁ。ちょ〜っと協力してもらったんだ」
「へぇ!それで、それで???」

 身を乗り出すマリンに、ユフィは得意げに見下ろした。

「そしたらさ、今朝、歓喜の電話がかかってきたんだ!『一晩で髪が戻ってきたーー!!』って!」
「本当!?」
「本当、本当!なんならウータイにいるソイツに電話で聞いてもらっても良いよん♪」
「うわ〜!すっごい、すっごーーい!!」

 はしゃぐマリンの声が明るく響く。
 ユフィはご満悦だ。
 ニ〜ッと笑いながらティファを見た。
 小瓶を「ん」と突き出す。

「この前はティファに迷惑かけちゃったからさ。これ、お詫び」

 ティファは差し出されたその小瓶を見た。
 小さな茶色の古ぼけた小瓶。
 中には液体が入ってるのだろう、水音が微かに聞える。

 女性にとって、髪は大切な宝物だ。
 ティファとて例外ではなく髪を大切に大切に思っている。
 毎日のトリートメントは入念に行っているのだ。
 だからこそ、見よ、戦う女性とは思えない程の艶。

 ティファの目が釘付けになり、そろそろ…と小瓶に伸ばされる。
 と…。


「ダメだってティファ!」


 横合いからデンゼルの小さな手が伸びた。
 咄嗟にユフィが小瓶を頭上にかざす。
 マリンが目を丸くしてデンゼルを見た。
 少年の顔には恐ろしいほど真剣な色が浮かんでいた。

「ティファ、こんな怪しげなものを手にしたらダメだろ!?何考えてるんだよ!」
「ちょい待ち!聞き捨てならないじゃん、なにその言い草!」
「うるさいな、ユフィ姉ちゃんは黙ってろよ!大体、その怪しげな『毛生え薬』、姉ちゃん自身は試してないんだろ!?」
「『うるさい』!?なんて口のきき方すんだよ!良いんだよ、アタシはまだ髪の悩みはないんだから!」
「だったら、ティファだって悩んでないだろ!?見ろよ、このつやつやの髪!店に来るおっさん達の憧れなんだぞ!?」
「ティファがモテるのは分かってるっつうの!屁理屈は良いんだよ、この前のお詫びにと思ってわざわざ遠路はるばる来てやったのに、邪魔すんな!」
「来てくれなんて頼んでないだろ!?ティファに変なものを触らすな!!」
「変なものじゃない!」
「じゃあ、姉ちゃんが先に試してみろよ!!」

 ティファは目の前で怒鳴りあっている二人にただ、目と口をポカン…と開けるばかりだった。
 マリンも同様だ。
 まさか、ここまでデンゼルが『ダメ!』と言い張るとは。
 ユフィもユフィだ。
 小さな子供相手に完全に意地になっている。

 そのうち、デンゼルがユフィの手から小瓶を奪取しようとしはじめた。
 当然、ユフィはそれを許さない。

「誰がアンタにやるか!」
「誰がそんな怪しげなもの欲しがるか!」
「だったら、なんで取ろうとするんだよ!!」
「そんな怪しげな危険物、裏のゴミ箱に捨ててやる!!」
「「 なにおぉ!?!? 」」

 二人共エキサイト街道まっしぐら。
 呆然とするティファとマリンの存在など、はるか宇宙の彼方に飛んでいる。
 今にもつかみかかりそうな二人に、思わずティファが間に入ろうとする。
 デンゼルの手がユフィの手の中の小瓶にジャンプする。
 ユフィがそれを逃れようと大きく身を捩った。
 その手が間に入ろうとしたティファの肩に当たり、ユフィの手から小瓶がスポーンッ!!と勢い良く飛び出した。

 三人の目が小瓶を追う。
 小瓶がクルクルと周りながらスローモーションで飛んでいく。
 三人の口と目が最大限に開かれる。

 ドアに向かって…………飛ぶ小瓶。
 と、その時!!



「ただい…」



 カシャン。

 乾いた小さな音。
 落下する水滴。
 その下に現れた……金髪・碧眼の青年。


「うわっ!冷た!!」
「「「「 !?!?!?!?!?!? 」」」


 小瓶に入っていた量は、ほんの少しだけだったらしい。
 ドアの真上にぶつかって割れた小瓶からは、少量の薬液がこぼれ落ちただけだった。
 その薬液とガラスの欠片を頭に受けたクラウド・ストライフは、帰宅直後の『歓迎』に目を丸くした。

「なんだ!?今の……って……」

 自分に向けられている三つの眼差しに気づく。
 そのうちの1人にうんざりした顔をした。

「なんだ…またお前かユフィ…」
「ク、ク、ク…」
「今日は何しに来たんだ?」
「クラ……クラ……」
「言っておくが、今日はデンゼルもマリンもお前と一緒に遊びには出してやらない」
「クラウ……ド、ク…クラウド…」
「今日は…と言うか、はぁ…、お前もう少し反省を…」
「クラウドが……クラウドが…!」
「なんだ…一体…。それに…」

 両頬を押さえて口をパクパクさせるユフィに、クラウドは薄気味悪そうな顔をした。
 ティファと子供達の様子に怪訝な顔をする。

「ところで、コレは一体、な「触っちゃダメーーー!!!!

 頭に被ったモノを触ろうとしたクラウドの手にユフィがしがみ付いた。
 突然の攻撃(?)にギョッとする青年に、彼女は構わず顔を近づけた。

「クラウド、頭だけ?かかったのは頭だけ!?!?」
「え……」
「どうなの!?どうなんだよぉ!!」

 鬼気迫るはた迷惑娘に、クラウドはたじろいだ。
 半ば反射運動のように「あ、あぁ……頭のてっぺんだけだ…」と答えた。
 ユフィのその姿に、デンゼルとマリン、そしてティファはユフィの持ってきた『美髪剤』が本物である事を知った。
 そして見やった。
 青年の頭頂部……、頭のてっぺんを。

 ツンツンしているはずの彼の髪がしなっとなっている。

「と、とにかくクラウド、シャワー浴びてきたら?」
「あ、あぁ…そうだな」

 クラウドはいぶかしみながらも、その勧めに素直に従った。
 青年の背が二階へと消える。

「じゃ、じゃあお邪魔しました」
「「「 ちょっと待て!! 」」」
 クルリ…と踵を返したユフィを三人が掴む。

 ズイッと顔を寄せるセブンスヘブンの住人に、ユフィは白状した。

 美髪剤は、洗面器のお湯に一滴だけ垂らし、あくまで『頭だけ』に使用することを。
 美髪剤の効果は半永久的で、つやつや、フサフサ、女性の美の秘法なのだと言うことを。
 しかし!
 使い方を間違えるとどうなるか分からない。
 昔々、美髪剤を使用したの女性の中には、髪を少しでも人よりも美しく!と思った人がいたらしい。
 その結果、規定量以上を使用した結果、つるっぱげになってしまったそうだ。

 その逸話を耳にした三人は蒼白になった。

「な、なななな…」「ク、クラウドが…」
「「「 ハゲにーー!?!? 」」」
「ア、アタシ知らないよ!?だって、今のはどう考えたって事故じゃん!!」

 アワアワと、弁明するウータイの忍に子供達は絶叫し、ティファは取り乱した。

「だから、ろくなことにならないって言ったんだー!!」
「デンゼル、今はそれどころじゃないよ、クラウドの髪の一大事だよぉ!!」
「あぁぁぁああ、どうしよう、どうしよう!?クラウドがハゲたらどうしよう!?!?」
「だ、大丈夫だよぉ!!クラウドならハゲてもカッコイイよ!!…多分」
「あぁぁぁああ、でも俺、ハゲたクラウドなんか見たくない!!」
「私もヤダー!!」
「「 どうしよう!! 」」


「ユフィ、解毒薬、解毒薬は無いの!?」
「あ、あるわけ無いじゃん!だって毒じゃないんだもん!!」
「規定量以上を使用したらハゲるだなんて、立派な猛毒よー!!」
「あぁぁぁあ、そんなこと言われても無いもんは無いんだよぉ!!」
「ユフィー!なんとかしてー!!」
「無理ー!!ごめん、ティファー!!」


 そんなことは露ほども知らず…。
「なんだか騒がしいな…。本当にアイツが来ると騒がしくて仕方ない」
 ギャーギャーと騒ぐ店内に、クラウドはシャワーを景気良く頭頂部にぶっ掛けながらそうぼやいたのだった。



 そして、その夜。

 ガシガシガシガシ。

「クラウド……どうしたの……?」
「あ、あぁ…いや、なんだか頭が痒くて。ちゃんと洗ったんだけど、洗いが足りなかったかな?」

 頭のてっぺんを気がついたら掻いているクラウドに、ティファが恐る恐る声をかけた。
 クラウドはちょっと気恥ずかしそうな顔をして目を逸らしたのだが、ティファはそれどころではない。
 ビクビクッとしながら、
「そ、そうなの…。他には……大丈夫…?」
 ベッドに腰掛けるクラウドの頭を怯えるように触れながら、異常が無いか目を皿のようにしてチェックした。
 クラウドの頭皮が薄っすらと赤くなっているような気もするが、それは彼が掻いていたからだとも言えなくもない。
 今のところ、目だった変化は見当たらなかった。

「ティファ?」
「……」
「なにかおかしいところでもあったか?」
「えっ!?な、ないわ、大丈夫よ、うん!」
「?そうか、なら良いんだけど」

 風呂上りの彼女の良い匂いにドキドキしつつ、頭のどこかで思わずにはいられない。


 今日のティファはおかしい!と。


 そう。
 例えば急に店を休んだことと言い、自分が風呂に入っている間にユフィが帰っていたことと言い…おかしい。

 おかし過ぎる!

 だが。

「ティファ?」
「え!?な、なに!?」
「…いや…なんでもない」

 こんなにも挙動不審で、オドオド、そわそわしている彼女に聞くのも忍びない。
 それに、何事か重要事件が起きたのならば、オロオロしてはいても、ここまで言いよどむことは無いだろう。
 クラウドは軽く溜め息を吐くと、オロオロしているティファに微笑んだ。

「明日は早いからもう休む。ティファ、おやすみ」

 軽く彼女にお休みのキスをすると、さっさとシーツに潜り込んだ。
 ティファが何かを言おうとして、結局諦めた気配を感じる。

 パチン。

 部屋の明かりが消され、彼女が隣に潜り込んできた。
 キュッと背にしがみ付いてくるティファに、愛しさが込上げる。
 身体を反転させ、ティファをそのままゆるく抱きしめた。

「…お休み…クラウド」

 どことなくホッとしたティファの声が、クラウドを安らかな夢の世界に誘った…。


 そして…。




 ギャーーーーーッ!!!!



「「 !! 」」

 朝の寝覚めにはどうよ!?と思われる悲鳴で、子供達は跳ね起きた。
 昨晩はクラウドの頭が気になって中々寝付けなかった二人が、こんな早い時間に目を覚ましたのは奇跡に近い。

 二人共、ベッドの上で目を合わせると無言のまま部屋を飛び出した。
 靴なんぞ、履いてる暇は無い。


「クラウド!!」「大丈夫、クラウド!?」


 バンッ!!

 ノックもしないでクラウドとティファの寝室を開ける。
 子供達は目の前の光景に息を飲んだ。


 サラサラに流れる長い金糸が、窓からこぼれる陽の光を受けて輝いている。
 ベッドの脇に立つ人物が、鏡の前で呆然としていた。
 その人物を呆けたように見つめるティファもまた然り。


「「 ……え…? 」」


 唖然とする子供達に、大いに動揺している紺碧の瞳が向けられた。


 *


「はぁ…」
「ティファ」
「はぁ…」
「ティファったら…」
「はぁ…」
「…ダメだ、こりゃ」
「はぁ…」

 デンゼルは、テーブルに頬杖を着いているティファに数回話しかけたあと、諦めて肩を竦めた。
 マリンはユフィへ携帯をかけている。
 なにやらこちらも難航している様だ。

「あのね、やっぱりクラウドの髪が伸びちゃったの!」
「うん、あ〜…やっぱり解毒薬はないの?」
「ん〜…今のところは伸びるの止まったみたい。仕方ないから今日は髪を一本にくくって仕事に行ったよ。どうしても抜けられない朝一番のお仕事があったから」
「え?やっぱりビックリしてたよ…。うん……うん……いや、どうかなぁ、怒っては無かったけど、怒るだけの余裕がなかっただけだと思うし」
「ティファ?あ〜…ダメ、なんか全然ダメダメなの」
「え?ううん、違うの、そうじゃなくて、髪の伸びたクラウドにポーッてなっちゃってるの」
「うん!すっごくすっごくカッコ良かった!あのね、カッコイイって言うか、すっごく美人だったの!私も思わず見惚れちゃった♪」
「うん、そうなの!もうね、天使みたいなの!ほら、クラウド色白でしょ?それに、目の色もブルーでとっても綺麗だし。金髪の髪がサラサラに伸びてて、凄く似合ってたの!」
「えへへ、分かった?また現像が出来たら見せてあげるね」
「あ、でも、売ったらダメよ?きっと、そんなことしたら、今度こそお姉ちゃん、うちに遊びに来れなくなるから」
「うん、約束ね」

 途中から嬉々として語るマリンを見て、デンゼルはもう一度肩を竦めた。

「クラウド…頑張れ…」




「あ〜〜!くっそ!本当にユフィの奴、ロクなことしない!!」
 ただ1人、自分の理解者である息子から、嘆きに近い声援を受けているとは知らないまま、その日、クラウドは長髪のままで配達を続けた。

 バイクの轟音と共に翻る見事な長い金糸。
 前髪もバッチリ伸びていたため、後ろで一本にくくっている中に当然の如く一まとめにされており、クラウドの素顔が惜しげもなく曝け出されている。
 いつもは前髪があるからこそ『陰のある男』とされているクラウドが…!!

 お蔭で…。

「お、クラウドの旦那、せいが出る……て……え…?えぇ??あれ?別人…???」
「見、見たか!?クラウドさんのバイクに『金髪美女』が乗ってる!!」
「うおっ!クラウドの旦那そっくりだけど、なんか違う!なんか違うぞ!?」
「「「 誰だ、あの美女!?!? 」」」」

 クラウド本人だと気づいてもらえないまま、彼は配達を行った。
 他の大陸への配達が無かったのは、不幸中の幸い。
 バッチリ猛スピードで仕事を片付け、夕方には完了した。
 当然だが、仕事が終ると即行家に帰り、惜しむティファとマリンの声を無視してデンゼルの協力の下、ばっさりと切って元に戻した。
 心配していた『発毛』は止まり、どうやら『ハゲ』の心配も無いらしい。

 近日中にユフィへの『お礼』を胸に固く誓うクラウド・ストライフのドタバタはこうして終った。



 後日。



「はい、ストライフ・デリバリーサービスです」
『あ、配達をお願いしたいんですが』
「はい、ご住所をどうぞ」
『あの…そのですね』
「はい?」
『出来れば、髪の長い人にお願いしたいんですけど』
「………はい…!?」
『ほら、この前クラウドさんに良く似た『長髪美人』さんが配達してたでしょ?あれ、すっごく今、話題になってるんですよね』
「 ……… 」
『だから、是非『彼女』にお願いしたいんです』
「!!…申し訳ないが、その人はもういません」
『え!?あの、ちょっと待っ「失礼します!!


「はぁ…はぁ…、こ…これで……一体、何件目だ!!」


 携帯を片手に呻く英雄の姿があったとか、なかったとか…。

 今日も無駄に良い天気だ。



 あとがき

 246810番キリリク小説です。
 リク内容は……。
 リクエスト一覧でどうぞ(^^;)。
 リクエストして下さったケイ様、本当にありがとうございました!!
 すっごく楽しいリクだったので、サクサクッと♪
 これからもどうぞよろしくお願いします<(_ _)>