忘れられない。 今日も…来てしまった…。 叶わぬ想いの行く先は…私が彼に出会ったのは数ヶ月前。 田舎から出てきた私は、あっさりと詐欺にあって売り飛ばされそうになった。 エッジは復興の街。 反対する両親を半ば振り切るようにしてやってきた私は、本当に世間知らずだった。 田舎で朽ち果てるのがイヤで…。 両親みたいにつまんない人生を送るのがイヤで…。 絶対に両親や、幼馴染達よりも素敵な人生を手にしてやるんだ!!って息巻いて復興目まぐるしいこの街にやって来た。 復興の盛んな所なら仕事は腐るほどある。 私みたいな田舎者でも、小さなチャンスさえ手にしたら絶対に大きくなれる。 そして、私はその小さなチャンスを手にする力がある。 そう……自惚れていた。 だから…あっさりと詐欺に合って、有り金全部奪われて、それでも足りないと、売り飛ばされそうになった。 絶対にもう助からない。 そう思った時、彼が助けてくれた。 やくざ者達をあっという間に片付けて、ベージュの隊服の人達の先頭を行く人。 金色の髪をツンツンと立て、整ったその顔立ちに目を奪われた。 一目で……心奪われた…。 私を助けてあっさりと身を翻し、WRO隊員に後を任せてその場を去ろうとするその人に、必死に声をかけた。 お礼をしたかった。 ううん、違う。 彼の心に私を残したかった。 でも、彼は、 「気にしなくて良い。これくらい、俺には珍しくないからな。それに、今回は仲間の依頼で引き受けただけだから…」 そう言って、本当に興味なさそうな顔をして背を向け、去ってしまった。 あまりにも素っ気無いその態度に呆然としていると、若い隊員さんが、 「気にしないで下さい。彼はいつも『ああ』ですから」 そう言って苦笑した。 人に媚びるという事を知らない人だ…と言って。 でも、だからと言って彼との接点を失いたくなかった。 こんな一瞬の出会いだけど、私にとっては時間とか、場所とか、そんなこと全然関係なくて、どうしても彼のことが知りたかった。 彼に私という人間がいるんだってことを覚えてもらいたかった…。 それから…。 私は隊員さんに食い下がって彼の名前や住んでいる所、彼の本当の仕事を聞き出した。 若い隊員さんは、ちょっと困ったような顔をしていたけど、 「ま、広報誌にもなってるし…良いかなぁ…」 と言いながら、WRO広報誌を一部分けてくれた。 正直言って。 私はWRO広報誌をこれまで読んだことが無かった。 私の住んでいた小さな村では、こういったものはあまり手に入らないから。 広報誌に載っていた彼の写真に心がときめいた。 そして、彼の紹介文に……心が大きく悲鳴を上げた。 《 クラウド・ストライフ ― ティファ・ロックハートと共にセブンスヘブンに住む。家族は子供達が二人 ― 》 クラウド・ストライフ。 ジェノバ戦役の英雄。 そして……同じく英雄のティファ・ロックハートの……恋人。 それくらい、田舎者でも知ってる。 あまりに有名な話し。 でも、まさか…。 彼が……あの英雄のリーダーだったなんて! 酷い…。 酷すぎる…! 私の初恋の相手が…有名な英雄だったなんて……。 恩人の正体が分かった喜びは、絶対に叶わない想いであるという現実によって悲しみに変わった。 でも…。 だからって切って捨てられるような想いじゃない。 出会いは一瞬だった。 彼にとって、私はもう記憶にすら残っていないだろう。 でも…私にとっては永遠に近い一瞬。 とてもじゃないけど……諦められない。 そんなに簡単に思い出になんか出来ない。 好きになっちゃったんだもの…。 彼だ…!って思ったんだもの…! 私の人生を預けて一緒に歩ける人は…彼だって…!! 広報誌の彼の写真の下に載っている黒髪の女性を見る。 同性の私ですら惚れ惚れするような……美人。 おまけに、抜群のプロポーション。 街の人達から寄せられた彼女の評価は、どれを見ても好評価。 とてもじゃないけど…私なんかが太刀打ち出来ない。 だから…かもしれない。 彼女の事を……憎くて仕方ない…って感じたのは…。 だって、そうでしょう? 彼女くらい完璧な女性なら、彼でなくても良いじゃない! 他にいくらだって男の人はいるじゃない! 金持ちだって…他の有名人だって……なんだって選り取り見取りじゃない!! それなのに、彼女は彼を選んだ。 彼を……私が初めて恋した人を……盗った。 ハハ……『盗った』って…おかしい表現よね? 分かってる。 分かってるけど…!! でも、納得出来ない! 容姿も完璧。 腕っ節も良い。 ついでに性格も、料理の腕も、なにもかもが完璧だって街の人達がそう評してる。 ハハ……なにそれ!? そんな完璧な人間がいるわけないじゃない! それに、血の繋がってない子供達を二人も引き取ってる…? なにそれ! 世間に対して『慈善事業してます』って宣伝でもしてるわけ!? それとも、彼の心を引きとめる為に『良い女』を演じる小道具として子供達を利用してるわけ!? 醜いって分かってる。 この気持ちがただの嫉妬だってことくらい…痛いくらい分かってる。 だけど、頭で分かってても心が言うことを聞いてくれない。 彼を…忘れさせてくれない。 絶望の淵に立ったあの時。 私を真っ直ぐ見つめてくれた紺碧の瞳が……忘れられない。 毎晩毎晩、夢に見た。 彼の隣に立って笑ってる私の姿を。 そんな私と彼を、物陰から悲しそうな顔をして見つめる…ティファ・ロックハートの姿を。 夢の中で私は嗤う。 ホラね、彼は私のものなの。 いつまでも叶わない想いをぶら下げてないで、さっさと次の恋を探したら?……って…。 そうして…私は目を覚ます。 泣きながら…目を覚ます。 夢の中のティファ・ロックハートは現実世界の私自身。 私が夢の中でティファ・ロックハートに投げつけた嘲りの言葉は、まさしく私自身への言葉。 次の恋? なにそれ、次の恋って。 彼以上に心惹かれる相手がこの世にいるだなんて思えない。 絶対に………いるはずない! だったらどうしたら良いの? 忘れられない。 次の恋に踏み切ることが出来ない。 なら…どうしたら…? あぁ、そうか。 私がティファ・ロックハートから彼を取り戻したら良いんだ。 取り戻す…って表現はきっと他の人から見たらお門違いなんでしょうね。 でも、私から言わせてもらったら、私にとって彼は特別な人。 彼こそが、私の生涯の伴侶。 だから、その彼を独占している人は、例え子供でも……盗人と同じ。 そう………自分に言い聞かせて、セブンスヘブンのドアを開けたのは、一ヵ月半前。 彼は、仕事でいなかった。 荷物の配達をしているという彼は、よく泊りがけで仕事をするのだと店の常連さんが教えてくれた。 その日は結局会えなくて、肩を落として簡素な安アパートに戻るしかなかった。 それからというもの、来る日も来る日も通いつめて…。 いつしか店の常連客達の仲間入りになった。 まぁ、勿論、特別話をしたり…ってわけじゃない。 軽く会釈をするくらい。 私は…いつも独りだったから。 そうして日々を送るうち、初めて来店した時に彼が仕事でよく家を空ける、と教えてくれた若い常連客の男性が、ひょんなことから私の隣の席に腰をかけた。 私の隣しか…席が空いてなかったから…。 満面の笑みでその男性を席に誘導した女の子に軽く手を振りながら、 『姉ちゃんもさぁ、諦めた方がいいよ?旦那はティファちゃんにぞっこんだから』 ニヤニヤしながら顔を近づけて声を潜めてきた。 別に…驚かなかった。 だって、とっくにバレてる、って知ってたもの。 いつもドアを気にしている私を、この人はニヤニヤ笑いながらチラチラ見てきていたから。 だから、特に動揺することもなく愛想笑いだけを返し、私は改めて恋敵に視線を流した。 洗練された動き。 美味しい料理。 そして……細やかな配慮の出来る女店主。 仮に、ティファ・ロックハートが彼の恋人でなくても、嫉妬していただろうと思う。 …同性として。 明らかに私とは違う。 なにが違うか…って言われたら、そりゃ顔もプロポーションも全然違うのは分かってる。 でも…そんな事じゃなくて…。 なんだろう……もっと根本的なものが違う…って思った。 「ティファちゃん、こっちにビール追加〜♪」 「あ、ティファさん、僕にもお願いします」 「ティファさ〜ん、カクテルお願いしても良いですか?」 店のあちこちから注文が飛ぶ。 その一つ一つにきちんと笑顔と返事を返し、テキパキと料理と酒を作り、ビールをジョッキに注ぐ。 そして、注文通りの品を子供達に任せたり、自分自身が運んだり…。 とにかくよく働く。 まだ小さい子供達も例外ではない。 小さいのに…大きな食器の載ったお盆を上手に持って、おでこに汗を浮かべて働いている子供達はとても輝いていた。 こんな酒の出る店で子供達を働かせるだなんて、よっぽど性根の腐った女なんだ。 街の人達は、子供達が可愛そうだと思いながらも、ジェノバ戦役の英雄という肩書きを恐れて、本音が言えないんだ。 そう思いたかったのに…。 通えば通うほど、次々と私の期待は裏切られる。 そしてとうとう、認めたくないのに……認めなければならない決定的なことが起こった。 チリンチリン…。 店のドアが開いて新しい客を知らせた。 その時、私はカシスソーダーをチビチビやっていて全く振り返りもしなかった。 でも…。 「「 クラウド、おかえりー!! 」」 え……!? 驚いて勢い良く振り返る。 そこで見たものは……絶対に忘れられない。 「ただいま、デンゼル、マリン」 優しく紺碧の瞳を細めて子供達を軽々と両腕で抱き上げ、そっとその小さな頬にキスをする…私の心を奪った人。 私を助けた時には全然見せなかった……優しい瞳。 その光景で分からざるを得ない。 WROの広報誌が載せていた記事が本当だと…。 ― 俺の大事なものは『家族』と『仲間』 ― あぁ…本当だったんだ。 世の中の人達の目を気にして、ちょっとカッコ良いことを書いた……っていうわけじゃなかったんだ。 「おかえりなさい、クラウド」 「ああ、ただいまティファ」 いつの間にか彼に歩み寄っていたティファ・ロックハートが、これまでにない笑みで………『女の顔』で彼を見つめている。 そして………彼も、『男の顔』で彼女を見てる。 ズキン!! 胸が痛い。 心が痛い。 痛くて……痛くて……。 死んじゃいそう……。 彼と彼女の仲を引き裂こう…って思ってたけど…。 もう絶対に無理なんだって一目で分かっちゃった…。 どうして…? どうして私は彼に出会ってしまったんだろう…? こんなにも辛い結末なら、いっそあの時助けられたりしないで、売り飛ばされたら良かった。 そしたら、こんなにも『失恋が辛い』って知らずに済んだのに…。 恋をすることに臆病にならなくて済んだのに…。 「な、だから止めとけって言ったんだよ…」 そっと耳打ちされたその言葉に、カッとなって男を睨みつける。 そして…気付いた。 『彼』も、決して叶わない想いを抱いているんだって。 切なくて…見ることだけしか出来なくて。 でも、彼女の顔を見ないともっと辛くて……。 だから…。 お酒を沢山飲む。 酒の力で、やりきれない恋心を宥めようとするんだ。 彼女の作ってくれた酒で…。 あぁ…そうか。 この店にはこういう思いをした人が沢山いるのね。 あそこのおじさんも…あそこの若い人も。 そして、あっちに座ってる女の人も…。 何かしらの理由で、どれだけ想っているのかその強さは分からないけど。 それでも諦められない想いを胸に、こうして集うことを止められないんだ。 なんて……店。 なんて…辛くて…悲しくて……愛しい店。 彼が子供達を床に下ろして店内を歩く。 私の傍らを通り過ぎる時、ほんの少しだけ期待して見つめていた私には目もくれないで、彼は二階の居住区に行ってしまった。 失望。 彼は私の視線に気付いてもくれなかった。 私の隣では、耳打ちをしてきた男が、 「な、無理だったろ?旦那にはティファちゃん以外、目に入らないのさ」 その逆も……な……。 悲しそうに呟いた彼に、私は何も返せなかった。 絶対に…敵わない。 絶対に…叶わない。 それなのに…。 チリンチリン。 「「「 いらっしゃいませ! 」」」 今夜も来てしまった。 彼に…一目会う為に。 絶対に叶わないこの想い。 この想いは一体どうなるんですか? いつか、この想いは形を変えて、他の人に届けられようと飛び立つんですか? それはいつですか? その日が来るまでに……。 私は壊れてしまいそうです…。 誰か…。 諦める心を私に下さい。 あとがき 突発的に書いたお話し。 めっちゃシリアスです、はい。 恋は盲目、という言葉がありますよね。 あれって、大体が『ノロケ』として使われますが、逆もあると思います。 今回はそのことをちょっと書きたくなりました。 クラウドとティファに想いを寄せたり、心惹かれる人は多いでしょう。 その人達全員が綺麗に『綺麗な思い出』として自分の中でケジメをつけられる…なんてこと、ありえないと思うんです。 その人達は、結局はいつか諦めないといけないんですけど、諦めるって本当に難しいですよね。 こんなに暗い話をここまで読んで下さってありがとうございました<(_ _)> |