「もう、信じられない!!」
「何がだよ、俺の方こそ信じられないね!!」
 子供達が珍しく激しい口喧嘩をしているらしい。
 開店準備をしていたティファは、「あら…?」と首を傾げて耳を澄ませた。
 言い争う声が段々と店に近付いて来る。
 開店準備をカウンターの中で始めたばかりだったが、近付く子供達の怒鳴り声に、手を止めてドアに向かって歩き出す…が、ドアの手前まで来たところで、これまた珍しく勢い良くドアを押し開け、怒り心頭の二人が目を三角にして睨み合いながら帰ってきた。

「お帰りなさい…どうしたの?」

 目の前に立つ母親代わりの怪訝そうな顔に、子供達は先を争って口を開いた。



かの日の想い、現在(いま)の心




「……それで、結局デンゼルはマリンがデンゼルの友達をカッコイイって言ったのが気に入らないの?」
 子供達の喚く声を必死に聞き分けながら漸く達した結論を口にする。
 すると、意に反さずデンゼルが顔を真っ赤にさせながら
「違うって!俺が言いたいのはそうじゃないの!!」
 と、ティファに食って掛かって来た。
 ティファは、それをさり気なく無視すると、頬をパンパンに膨らませてそっぽを向いているマリンに視線を移す。
「……マリンは、デンゼルがマリンのお友達を可愛いって言った事に怒ってるの?」
 すると、またまたティファの予想を裏切らない反応を可愛い娘は返してくれた。
 即ち…。
「違うってば!!私が怒ってるのは、デンゼルが『私みたいに小さい子供が『好きとか嫌い』とか『カッコイイとかカッコ悪い』って言うのって変!』ってバカにしたからなの!」
「俺が怒ってるのは、『俺とマリンがそんなに大した年の差なんか無いのに、エラソーに口出しするな』って言ったからなんだ!!」

「「ちゃんと俺(私)達の話し、聞いてた!?」」

「はいはい、聞いてたわよ」
 声をハモラセて詰め寄る子供達に、ティファは苦笑した。


 子供達は口ではそう言っているが、その割にはお互いがお互いを『無意識に意識している』様に見えて仕方ない。

 デンゼルは、マリンが今日、デンゼルの仲の良い友達を『カッコイイよね』と言った事に対して明らかに動揺し、そして不機嫌になっている。
 一方マリンは、デンゼルが仕返しとばかりにマリンの仲の良い友達を『可愛い』と言った事への不満と怒り。
 そして、その奥深くに『デンゼルが自分を小さな子供扱いして、同等に扱ってくれない』事への焦りが見え隠れしている。


 ― 一体…誰に似たのかしら… ―


 勿論、子供達と『自分達』は血の繋がりは全く無いのだが…。
 ティファは苦笑しながら、二人の子供達を『自分達』と思わず重ね見てしまっていた。



 結局、子供達の喧嘩はそのままセブンスヘブンが開店しても収まる事はなかった。

 仕事中は、実にさり気なくお互いを避けあい、『見ざる・触れざる・口聞かず』の姿勢を貫き通した。
 まぁ、そのお陰で営業中に口論する事は無かったのだが…。
 二人がいつも見せてくれる息の合った仕事ぶりを見せてくれるはずもない…。

 そんないつもと様子の違う子供達に常連客達が気づかないはずもなかった。
 しかし、子供が喧嘩をすることなど他の家庭では別に珍しくも無い極自然の姿だと、そのまま見て見ぬ振りをしてくれた。
 へんにからかいの言葉を子供達に投げかける事も無く、小声でティファに『珍しいよな』『ま、そのうちいつもみたいに仲良くなってるさ』と、慰めの言葉をくれるのだった。
 ティファは、そのさり気ない客達の気遣いに感謝しつつも、早くいつものように仲良く微笑み合っている姿を見せてくれはしないか…その事ばかりを気にしてしまい、接客業が上の空になりがちになってしまった。

『こんなんじゃダメよね』

 一つ息を吐くと、ティファは「よし!」と拳を固めて一人、大きく頷いた。
 そして、呆気に取られる子供達を余所に、店をいつもよりも早く閉めてしまったのだった。



 ティファが早めに店を閉める事を宣言した時、流石に意地を張り通していた子供達も、自分達が原因だと気付かないわけにはいかず、実にバツの悪そうな顔をした。
 そんな二人に、ティファは笑みを向けると、
「たまには、家族揃ってクラウドを出迎えてあげたいって思ってたもん」
 と、明るい声で舌をペロリと覗かせた。

 ティファの気遣いに、子供達はモジモジと居心地の悪そうな様子だったが、それでもお互いに頭を下げて謝るには至らなかった。

 よほど、相手の言動がショックだったのだろう。

 子供とは言え、子供には子供の自尊心があるし、決して譲れないものもある。
 そして…何よりも大切にしたいと想うものも…。

 だからこそ、デンゼルもマリンも、自分の非を認める事が出来ないのだから…。

 しかし、ティファには分かっていた。
 本当は、二人が仲直りのきっかけを誰よりも求めているのだと。
 ただ、そこから先に進めないだけ…。
 手を伸ばして掴めないだけ…。
 本当は、手を伸ばしたらすぐそこに仲直りのきっかけはあるというのに…。

『さて…どうしたら良いのかしら…?』

 ティファは、何とも暗い顔をして店の後片付けを黙々とこなしている子供達に、頭を捻った…。



 後片付けが重苦しい沈黙の中で漸く終えた頃、聞きなれたエンジン音が店の前に止まった。
 パッと顔を上げ、デンゼルとマリンが一斉に扉に向かって駆け出した…のだが…。

「どうしたんだ、二人共…?」

 クラウドは、扉の一歩手前で背中を合わせるようにして立っている子供達に目を丸くした。
 いつものように子供達が飛んでくるかと思っていたのだが、不思議と今夜は子供達の笑顔の出迎えは無かった。
 結局自分が扉を開けるまで子供達の顔を見る事が出来なかったのだが…。
 それにしても、まさかこんな顔で出迎えられるとは思っていなかった。

「「おかえりなさい…」」

 そっぽを向いたまま同時に言った事に対し、デンゼルとマリンはピクッと頬を引き攣らせた。
 そのままマリンはカウンターの中で一部始終を見守っていたティファへと足早に去って行き、デンゼルはデンゼルで、むすっとした顔のまま、クラウドに「ん…」と手を差し出した。

「え…?あ、ああ…」
 自分の装備を部屋に運んで来る…という彼の意思表示に漸く気付き、首を傾げながら肩から装備を外す。
 それを両腕に抱え、デンゼルはマリンの方をチラリとも見ないまま、二階へと階段を上ってしまった。
 マリンも絶対にデンゼルを見ないようにと、窓の方へ顔を向けている。

 子供達の不穏な空気に、クラウドは視線だけでティファに疑問を投げかけた。
 ティファが困ったように肩を竦め、そっと二階へ視線を飛ばして再びクラウドをジッと見る。
 クラウドは「やれやれ」と言葉に出さずに苦笑いでティファに応えると、そっぽを向き続けているマリンの頭をポンポン叩いてから、ティファに「ただいま」のキスを贈った。
 そして、「じゃ、シャワーを浴びてくる」と、一言告げると、トントンと軽い足取りで階段を上って行った。
 二階から、「デンゼル、たまには一緒に風呂に入らないか?」というクラウドの声が聞えてきたのは、それからすぐの事だった。



「なぁ…クラウド…」
「なんだ?」
「…………」
 クラウドの背中をタオルでゴシゴシ洗いながら、デンゼルが重い口を開いた。
 が、すぐにその口を閉ざし、「なんでもない…」と小さく呟いてしまう。
 そんな息子に、クラウドは微苦笑を浮かべると、「ほら、代わる」とデンゼルの手からタオルを取り上げ、クルリと後ろを向かせた。
「痛くないか?」
「うん…気持ち良い!」
 小さな背中を好く泡立てたタオルで丁寧に洗ってやると、いくらか機嫌の良くなった声が返ってきた。

「それで?」
「え?」
「さっきの続き」
「…あ〜…」
 バサーッと湯をかけながら、クラウドが先程の続きを促した。
 かけられる湯が眼に入らないよう、ギュッと固く眼を瞑っていたデンゼルが、その眼を開いた時に見えたものは、父親代わりの穏やかな紺碧の瞳。
 真っ直ぐに注がれるその眼差しに、デンゼルは漸く肩の力を抜いた。

「あのさ〜…」
「ん?」
「今日、マリンが俺の友達の事…「カッコイイよね」って言ったんだ…」
「ああ、そうなのか?」
「うん…。それで…さ」
「それで?」
 ポツポツ話しだしたデンゼルは、口許ギリギリまでお湯に浸かると、大きな溜め息を一つ吐いた。
 ブクブク…とお湯に泡が立つ。
 その光景に、クラウドは何となくデンゼルの気持ちを察した。

『要するに…ヤキモチを妬いたのか…』

 息子の元気の無い様子が、いつかの自分と重なって見える。
 それが、何だか妙にくすぐったく感じ、思わずクラウドは笑みを浮かべた。
「何だよ〜、そんなに面白そうな顔する事ないじゃないか〜」
 クラウドが微笑んだ事に、デンゼルが口を尖らせた。
 そんな息子の頭をポンポンと叩き、ゆっくりと天井を仰ぎ見る。

「俺も…デンゼルくらいの時に同じ気持ちを味わった事があったな…」
「ふぇ!?」
 思わぬ言葉に、デンゼルは眼を丸くした。
 そして、自分の不機嫌を完全に彼方に蹴飛ばし、身を乗り出して目を輝かせる。
「なぁなぁ、それってどんな話?相手って、やっぱりティファだった??」
 興味津々なデンゼルに、クラウドは少々戸惑った。
 何しろ、自分の過去の話をする事は、いくら家族とは言えやはり気恥ずかしい。
 しかし、自分と同じ思いを味わった息子を思うと…。

「男同士の内緒の話だぞ?」

 結局デンゼルの笑顔見たさに、思い出話をすることにした。



「ティファはあの頃から人気者だったからな。いつも村の男の子達に囲まれて楽しそうだった」
「クラウドは、一緒に遊ばなかったのか?」
「俺は捻くれ者だったから、一緒に遊ぼうって言えなかったんだ…。だから、いつも見てるだけだった」
 クラウドの言葉に、デンゼルは「ふ〜ん、そうなんだ…」と何とも言えない表情をした。
 恐らく、小さい頃のクラウドが可哀想に思えたのだろう。
 そんな息子に、フンワリと笑みを浮かべると、話を続ける。
「ま、仕方ないさ。それに、今はこうして幸せに暮らせてるからな。あの頃の事だって、今では割と良い思い出さ」
「そっか!」
 嬉しそうな顔をしたデンゼルの髪をクシャクシャと撫でる。
「それで、まぁ、話は戻るんだけど、その頃はやっぱりティファや他の子供達と遊ぶ事なんか出来なくて、結構寂しい思いをしたな」

 言葉を切って遠くを見るような表情を浮かべたクラウドを、デンゼルは黙って見つめている。
 クラウドが、思い出をきちんと言葉に出来るように整理している事が分かったからだ。

 ピチョン…。

 浴室の天井から湯気が落ち、小さな波紋を作る。

「色々…あったな…」
「色々?」
「ああ…」


 本当に…色々あった。
 いつも遠くから見ているしかなかった彼女。
 村の子供達と楽しそうに笑っている彼女。
 その子供達と時々喧嘩をして、泣いている彼女。本当はその時に「泣かないで」とたった一言伝えたかったのに、結局伝える事も無く、そのまま彼女は自分達で解決してしまった。
 そして…。
 彼女の母親が亡くなり、その直後に彼女自身もニブル山で事故に遭い、瀕死の重傷を負った…。


「俺がもしも子供の時、もう少し素直だったら…って思うことがあるよ」
 暫く思い出に浸っていたクラウドに、デンゼルが首を傾げながら見上げる。
「そうだな…。例えば、もしももっと素直に彼女と話をしたり、一緒に遊んだりしていたら、少なくとも村を飛び出す事はしなかったかもしれない…」
「クラウドは何で村を出たんだ?」
 ティファの為?

 そう訊ねる息子に、クラウドはほんの少し考えた。
 そうして口を開く。
「いや、勿論それもあるな。でもそれだけじゃなくて、とにかくあの頃は、村の皆に自分を認めてもらいたかったんだな、うん。そうしたら、きっと素直にティファと触れ合えるんじゃないか…とか思ってた」
「そうなんだ…」
「ああ…。まぁ、それもこれも、今となっては良い思い出ってやつだけど…それでも、一つだけ、後悔してる事がある」
「なに?」
「俺がミッドガルに来てからティファに一度、手紙を貰ったんだ…」
 照れ臭そうに頬を掻きながら白状した父親代わりを見て、デンゼルはピンと来た。
「あ〜、返事、書かなかったんだ〜!」
 からかうようにそう言うと、軽いため息と共に、大きな手がグシャグシャと頭を撫でてきた。
「久しぶりに会って暫くした時に嫌味言われたよ。『他の友達は返事くれたのに』ってさ。それ聞いて、何だか無性に情けないくなったし、ティファに申し訳ない気持ちで一杯になってさ。だから…」

 だから、恥ずかしいとか、かっこ悪いとか思うよりも、もっと素直にならなくちゃいけない時には、ちゃんとそういう風にしないと、いつまで経っても後悔する事になるんだ…。

 そう言って、苦笑したクラウドに、デンゼルは少し俯いた。

「クラウドはさ。今は俺達やティファと一緒に暮らしてて幸せだって言ってただろ?それでも…やっぱりその手紙の返事を書かなかった事って後悔してる…?」
 躊躇いがちに訊ねる息子に、クラウドははっきりと頷いた。
「だって、ティファに寂しい思いをさせたのは事実だろう?たとえそれが、過去であろうが…現在であろうが…」

 だから、デンゼルも後悔しなくてすむように…、何よりも大切なものを間違えないようにしないとな?


 そう言って笑いながら、「それじゃ、あがるか。流石にのぼせてしまう」と、浴槽から出たクラウドの広い背中を、デンゼルは黙って見つめていた。
 そして、服を着た時には、いつものようにしっかりとした瞳をしてクラウドを見上げたのだった。



 一方その頃…。
 ティファとマリンは、クラウドとデンゼルが入浴している間、店内のテーブル一つに沢山のティファお手製ケーキを並べ、茶話会をしていた。

「それでね!デンゼルがあんまりその男の子の事を『いい奴だ』って言うから、私も『カッコイイよね!』って言ったの。そしたら、途端にすっごく機嫌悪くなっちゃって、私と一緒にいた女の子の事、『可愛いよな』って言うのよ!しかも本人に!!その子が、デンゼルの事、とっても好きなの知ってるくせにそんな事言うなんて、信じられないじゃない!!」
 一気に不満をぶちまけると、グイーッとジュースを飲み干す娘に、ティファは苦笑した。
「マリンはそのお友達の事嫌いなの?」
「へ…?そのお友達って?」
 首を傾げるマリンに、「デンゼルが好きだ」って言った子の事だと説明すると、ブンブンと大きく頭を振る。
「私もその子の事、本当に良い子だと思うし、可愛いって思ってるよ!」
「じゃ、どうしてデンゼルがその子に『可愛いよな』って言ったくらいで怒るわけ?」
「そ、それは…」
 ティファの突っ込みに、たちまちマリンは小さくなった。

 自分の気持ちに気付きたくないけど、薄々気付いている…そんなところなのだろう。

 マリンにとって、デンゼルは血の繋がらない兄のような存在。
 いわば家族なのだ。
 それも、とても大切な、かけがえの無い家族。
 その家族としての絆を、自分の気持ちに気付いたことによって失ってしまうかもしれない……そう無意識に思い、己にセーブをかけているように見える。
 ティファは、向かい合って座っているマリンの頭を、身を乗り出して優しく撫でると、手前にあったチーズケーキを差し出した。
 はにかむように笑う娘の姿が、小さい頃の自分と重なる…。

「私も…マリンくらいの頃、同じ気持ちになったことがあったな…」
「え!?ティファも!?!?」
 目を丸くして見つめるマリンに、ティファはコックリと頷くと遠い目をして過去を振り返った。


 いつもふと気付けば、遠くから見つめている金髪の男の子は、必ず何か言いたそうな顔をしていた。
 自分が声をかけようとすると、決まって目を逸らしたり、クルリと背を向けて去ってしまう…そんなお隣さん。
 仲の良い友達達は、『アイツは変だから相手にするなよ』『あんな捻くれ者、ほっときゃいいんだ』と口を揃えていた。
 そんな友達達の言葉に従って、自分もこれと言って特に進んで接しようとしなかったが…それでも、遠くから自分と友達が遊んでいるのを見つめている彼の視線に気付くたび、どうしようもなく胸が痛んだのだった。
 そして、結局彼が自分にとって特別な存在なのだと気付いたのは、彼が村を飛び出す前夜…。
 あの、星空の下での約束の時だった。
 きっと、それまでにも彼の存在に心惹かれていたのだろう。
 しかし、自分にはそれを認める勇気も、自分ち彼に向き合う素直さも持っては無かった…。



「もっと…あの頃の私が素直だったら、クラウドはもう少し楽しい子供時代を遅れたかもしれないわね…」
 悲しそうに微笑むティファに、マリンはほんの少し息を呑んだ。
 そして、首を傾げる。
 悲しそうな顔をするティファに胸は痛むが、自分が今まで話をしていた内容と、ティファがたった今話してくれた思い出には接点が無いように思えるのだ。

 マリンの訝しそうな視線に気付いたティファは、柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。
「要するにね、今のままじゃ、昔の私と同じ間違いをしちゃうなって事なの」
「…良く分からない」
 素直にそう言って困った顔をする娘に、ティファは益々笑みを深くした。
「今、マリンはデンゼルに怒ってるでしょ?でも、それはデンゼルが悪いんじゃなくて、自分が悪いって気付いてるんだよね?だから、さっきから怒ってる振りをしてるんでしょ?」
 ティファはあえて『嫉妬』という言葉を使わなかった。
 いくらなんでも、流石にマリンのように小さな子供には不適切であろう。
 しかし、ティファの言葉は充分通じたようだ。
 マリンは口をあんぐりと開けている。
 パクパクと何か言おうとするが、図星を指されている為、咄嗟に言葉が出ないらしい。
 結局、顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。

「謝るのって…本当に勇気がいるよね。でも、今のままじゃ、私と一緒。いくら時間が経ってもその事を思い出して悲しい気分になっちゃうんだよね。今がどんなに幸せでも…」
「…………」
「それに、きっとデンゼルもマリンに謝りたいって思ってるよ?」
「……そう、かな…?」
「そうだよ。じゃあ、逆に聞くけど、マリンは謝ってもデンゼルは許してくれないと思う?」
 ティファの問いに、娘はしっかりと首を横に振って見せた。
「でしょ?大事なのは、勇気とタイミング…だよ?」
 ね?

 そう言って笑って見せたティファに、マリンはそろそろと顔を上げ、ゆっくりと笑顔になっていった。



 そこへ…。
「あー!ティファとマリン、ずるいぞ!!」
 生乾きの頭のまま、デンゼルが二階から下りてきた。
 テーブルの上のケーキとジュースに目を止め、猛然と抗議をする。
「心配しなくてもデンゼルの分もちゃんとあるよ」
 くすくす笑いながら、息子の為にケーキを切り分け、いそいそと腰を掛けた息子の目の前にコトンと皿を置く。

 デンゼルが迷わず腰を下ろしたのは、マリンの隣…。

 ジュースのコップを差し出した時、丁度クラウドがデンゼルと同じ装いで頭から雫を垂らしつつやって来た。
「二人共〜、風邪引いても知らないわよ?」
 呆れ顔のティファに、二人は顔を見合わせると揃って肩を竦めて苦笑して見せた。
 そんな父親と兄を見て、マリンがクスクスと肩を震わせて笑う。
 その光景は、いつもと同じ、家族の姿。

 クラウドはティファに、ティファはクラウドに『上手くいったな(ね)』と視線で会話を交わして微笑んだ。

 そのまま家族はいつもと変わらない笑い声に包まれ、楽しい時を過ごした事は言うまでも無い。
 そして…。

「じゃ、二人共お休みなさい」
「お休み」
 それぞれの額にキスを贈り、クラウドとティファは子供達をベッドに寝かしつけ、部屋を出た。
 そして、そのドアの外でそっと中の様子に聞き耳を立てる。


『あのさ…マリン…』
『なに…デンゼル?』
『その…あのさ…』
『……うん』

『『ごめんなさい』』

『え?』
『あれ?』

『『…………』』

『へへへ…』
『アハハ…』
『あ〜、良かった。俺、このままマリンと喧嘩したままだったらどうしようかと思ってたんだ』
『へへ、私も!』
『明日から…また一緒に遊ぼうな!』
『うん!一緒にお仕事も頑張ろうね!』



 子供部屋から漏れ聞える会話に、親代わりの二人は知らず知らずの内に固く手を繋ぎ、幸せそうに微笑んだ。



「それにしても、今日は本当にびっくりしたな」
「うん、本当に」
 ベッドに腰を掛けながら、二人は改めて今日一日を振り返った。
「二人共、もう異性を意識し始める歳なんだね…」
 どことなく寂しそうに呟くティファに、クラウドは苦笑いを浮かべてそっと華奢な肩を抱き寄せた。
「仕方ないさ。俺だってそうだったし…」
「え!?そうなの!?!?」
 びっくりしてまじまじと見つめてくる愛しい人に、クラウドは思わず口元を片手で覆って顔を背けた。
 そんなクラウドに、ティファは何故か青い顔をして必死に覗き込む。
「ね、ねぇ…クラウドの初恋って……誰…!?」
「は!?」
「クラウドはミッドガルに行くまでずっとニブルヘイムにいたもんね…って事は、私の知ってる子がクラウドの初恋の子…って事よね!?!?……誰……誰〜!?」
 いやに切羽詰って一人ブツブツ言っているティファに、クラウドは唖然とすると、
「それ…本気で言ってるのか?」
「え!?本気に決まってるじゃない!だって、だって…!!確かに、クラウドと私は子供の頃一緒に遊んだ事無かったけど、それでも私、クラウドの事ずっと見てたんだもん!それなのに、クラウドが誰かに惹かれてるだなんて、これっぽっちも気付かなかったわ……!」
 ああ……かなりショック……。

 ガックリとうな垂れ、涙までうっすらと浮かべるティファに、クラウドは目を丸くしていたが、とうとう堪えきれなくなって笑いだした。

「な、何よ〜!そんなに笑う事ないじゃない!私にとっては本当に大切な事なんだから!」
 まるで、小さなティファが目の前にいるようだ。
 堪らず、小さな頃と重なって見えるティファをギュッと抱き寄せ、「あ〜、本当にティファは小さな頃から変わらないよな」と、嬉しそうに黒髪に頬を埋めた。
「な、なによ…意味分かんない!」
 強く抱きすくめられ、オタオタする彼女を、更にきつく抱きしめる。
 そして、そっとその耳元で、
「俺の初恋の人は、俺の腕の中で真っ赤になってる人」

 そう囁かれて、ティファはたちまち真っ赤になった。

 クスクスと笑われている事に対し、嫌な気持ちは感じないが、それでもどこか悔しい気持ちが湧いてくる。
「じゃ、じゃあ、クラウドはいつから私の事…好きになったのよ…」
 意地悪のつもりでした質問は、
「気付いたら目で追ってた」
 と、実にあっさり返された。
 そして、「じゃあ、ティファは俺の事いつから気にしてくれるようになったんだ?」と逆に質問されてしまい、結局は益々顔を赤く染めながら「わ、私も気付いたら…眼で追ってたの…!」と、クラウドと同じ答えを口にすることになったのだった。



 あの頃は…お互いに心惹かれるものを感じながらも、その想いに素直になれなかった。
 しかし今は、その想いに向き合い、確かな心を持って相手へ伝える事が出来る。
 その幸福に、二人は胸いっぱいの想いを抱きしめ、可愛い子供達もいつか、自分達のように共に幸せを分かち合える伴侶を得て欲しいと願うのだった。





 あとがき

 設楽いずき様のリクエスト小説です。

 『クラウドとティファの子供の時のお話を・・・・。マリンやデンゼルに「ティファは何時からクラウドの事を好きになったの?」と聞かれて、ふと子供時代を思い出す。みたいな感じで…』

 というリクだったのですが……大きくかけ離れてしまいました…(スライディング土下座ー!!!)
 本当に申し訳ありません。


 相変わらずリク通りに書けないダメ管理人…。
 それでもUPする許可を下さったばかりでなく、お褒めの言葉を下さった設楽様、本当にありがとうございました!!
 というわけで、お披露目となりました。(チャンチャン ♪)


 最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!



 12/19 追加♪
 リクエストして下さった設楽いずき様が、素敵なイメージイラストを送ってくださいました〜!!
 折角ですので、お話のその場面に挿し絵として飾らせて頂きました♪
 本当に、素敵なイラスト、ありがとうございました!!!