クラウド・ストライフ、23歳。
 二年前、メテオの恐怖とセフィロスの脅威から世界を救い出したジェノバ戦役の英雄達のリーダーだった青年。
 彼が繰り出す大剣の数々の技は、今尚、向かう所敵なしである。
 輝く硬質な金髪、魔晄を浴びた者の証である紺碧の瞳の輝きは鋭く、整った容姿を更に引き立たせている。
 その一方で、時折彼が家族にしか見せない穏やかな笑みに、密かに女性が陶酔した眼差しを向けているのだが、その事に気付いているのは聡い子供達だけだったりする。
 その彼が…。
 とてつもなく悩み、落ち込んでいる事に気付いているのも…。
 彼と彼女の可愛い子供達だけだったりした。


彼女が彼を避ける理由(前編)



「クラウド…大丈夫…?」
「…………」
「…大丈夫じゃないみたいだな…」
「…………」
「「ハァ〜…」」
「…………」

 カウンター席に腰を下ろし、どこか悲哀を漂わせるクラウドに、デンゼルとマリンは溜め息を吐いて顔を見合わせた。
 クラウドがここまで落ち込んでいる理由。
 それは…。

「皆、お昼ご飯は何が食べたい?」
 柔らかな笑みを浮かべ、店内へ降りてきた女性、ティファ・ロックハート22歳。
 彼女の声に、それまで子供達の言葉に無反応だったクラウドの頬がピクリと動く。
 彼女は、セブンスヘブンの女店主であり、クラウドの戦友、家族、そして…恋人…の…ハズ…なのだが…。

「あ、私は何でも良いな!デンゼルは?」
「え!?…う〜ん、俺もティファの作るものなら何でも良い!クラウドは?」
「………え…俺!?」
 デンゼルに話を振られたクラウドは、頬を引き攣らせて恐る恐るティファの顔へ視線を移した。
 その様子は、小さな子供が母親にこっぴどく怒られた後の様だ……、とデンゼルとマリンは思った。
 そして、デンゼルとマリンもそっとティファの様子を窺う。
 三人の視線の先では、相変わらず笑みを口許に浮かべたティファがいたが、その視線は白々しい程、クラウドから逸らされている。
「お、俺も特には…」
 ボソボソと呟くクラウドに、ティファは視線を逸らせたまま、「あ、そうなんだ…。でも誰かにリクエストしてもらった方が助かるんだけどな…」と、困ったように笑みを浮かべる。
 その姿は、特に怒っているようには見えないのだが…。
 デンゼルとマリンはそっとクラウドの様子を窺った。
 二人の視線の先では、途方に暮れた顔の青年が打ちひしがれた表情で(他人には良く分からない表情の変化であるが、子供達には良く分かる)カウンターに視線を戻している。

 そう。
 何故か、ここ数日、ティファがクラウドを避けているのだ。
 正直言って、クラウドにはその理由が全く分からない。
 いや、心当たりが無いのではない。
 あり過ぎてどれが原因なのかが分からないのだ。

 クラウドは、自分が人一倍鈍感だと分かっている。
 おまけに人付き合いが苦手で、今でも配達の仕事で苦労することは多い。
 しかし、それも以前に比べたらうんと良くなった…、と思っている。
 自分がそう思っているだけでなく、最近その事を「クラウド、最近他の人にも表情が柔らかくなってきたよね!」と、ティファに褒められたばかりなのだ。

 それなのに!
 ここ数日突然、ティファの態度がよそよそしくなった。
 必要最小限の事以外は決して話しかけようとせず、極力目も合わせ様としない。
 かと言って、何か怒っているのかと言えばそうでもない様なのだ。
 クラウドが仕事に行く前は、必ず温かな笑みで持って見送り、疲れて帰ると柔らかな言葉を持って労ってくれる。
 それはいつもと変わらないティファの姿なのだが、それ以外では今のように視線を逸らし、接することを拒んでいる。

 ティファの変化に、最初クラウドは疲れているのか?と思っていた。
 しかし、そう訊ねるといつも慌てた様にして大きく否定する。
 店での様子を子供達に訊ねても特にいつもと変わらないとの事だった。
 ならば、一体どうしたというのか…。
 グルグル考えに考えた結果。


 自分が原因以外に考えられないではないか!?


 という結論に達し、今に至る。
 分からないのだ、いくら考えても。
 仕事で家を空ける時間が多く、その為家事やら子供達の世話やらを全てティファの手に委ねている。
 鈍感な性格ゆえ、気付かない間にティファの気に障ることを何かしてしまったり、口走ったのかもしれない。
 はたまた、何か大切な約束事でもすっぽかしたのだろうか!?

 分からない。
 心当たりが多すぎて…。
 もしかしたら、それらの要因全てがない混ぜになって、どれが原因という事でももはやなくなっているのかもしれない!
 もしそうなら、これを解決するのは一筋縄では行かないのではないか!?


「それじゃ、お昼はオムライスにしようかな?皆、それでも良い?」
「「は〜い!!」」
「………ああ」
 子供達は元気良く笑顔で手を上げ、クラウドはこれ以上ない程の暗い声で返事をした。
 すると、
「……クラウド、どうかしたの?」
 ティファは、そんなクラウドの様子に少し首を傾げ、そっと近づき恐る恐る声をかけた。
 クラウドは勿論、子供達もびっくりして目を丸くする。
「え!?い、いや、何でもない…んだが…」
 どうかしたのはティファの方だろ!?
と、言いそうになってグッと堪えたクラウドの心情を知ってか知らずか、ティファは心配そうな顔のまま「そう?……なら良いけど……」と、モゴモゴ言葉を濁し、気まずい雰囲気のままカウンターの中へ昼食を作るべく入って行った。

 分からない!
 彼女の心が分からない!!
 クラウドは思い返した。
 確か、昨日も一昨日も、その前の前もこうだった。
 クラウドがティファの態度の変化に戸惑い、激しく動揺して落ち込んでいると、その都度心配そうに声をかけてくれたのだ。
 そして、「何でもない」と答えると、心配そうな顔のままあっさりと立ち去ってしまう。
 一体、自分は彼女に何をしてしまったというのだろう!?
 子供達も、ティファからそれとなく聞きだそうと試みてはいたのだが、特に何もクラウドに対して怒っている節はないという。
 子供達は自分達以上に人の心の機微に聡く、気配りが細やかだ。
 その子供達でも分からないのならば、クラウドにとって、いよいよお手上げという事になる。

 参った…。

 クラウドは、カウンターの中で昼食を作るティファの姿を横目で見ながら、そっと溜め息を吐いた。



 ティファのオムライスはやはりとても美味しかった。
 子供達は嬉しそうに頬張り、食事の席を賑やかにしてくれた。
 ティファは、そんな子供達をいつもと変わらない優しい笑みで見つめている。
 クラウドは、そんな心温まる光景を前に、何だか自分だけが蚊帳の外にいる気持ちがして、更に気分が落ち込んでしまうのだった。
「クラウド、…ごめんね、美味しくなかった…?」
 黙々とスプーンを口に運んでいると、ティファがおずおずと声をかけてきた。
 ギョッとして勢い良く顔を上げると、なんとも悲しそうな彼女の瞳が視界に飛び込んできた。
「い、いや!全然、そんな事ない!!美味しいよ、うん!」
 ギクシャクと応えるクラウドに、ティファは何か言いたそうな顔をしたが、「そ、そう。なら良いの」と、またまたあっさりと視線を外して俯いた。
 その様子に、子供達は眉を寄せて首を傾げ、クラウドはどうして良いのか分からず、ソワソワとしていたが、どうにも耐えられなくなってしまった。
 残っていたオムライスを味わう事もなく胃に流し込むと、
「ご馳走様」
と、言い残して席を立った。

 そして、彼は今、フェンリルの微調整という名目を逃げ口上にして、倉庫にいたりする。
「ハァ〜……」
 深い溜め息を吐いてフェンリルのシートにもたれかかった。

 おかしい。
 何故こうもギスギスした雰囲気が彼女との間に流れているのか…。
 彼女が自分を避ける様になってから、時折先程の様に、様子のおかしい自分を案じる素振りを見せてくれる事からも、自分の何かに怒っているわけでもないという考えは、そう的外れでもないだろう。
 それに、怒っているのなら、彼女の事だ。
 きっと、凛とした瞳に強い意志を湛えて真っ直ぐに自分を見据えるだろう。
 しかし、今の彼女は自分をまっすぐ見る事はおろか、明らかに視線を合わせまいとしている。
 合ったとしても、先程の様にすぐに逸らしてしまうのだ。

「ハァ〜……」
 八方塞とはこの事だ。
 原因は分からないが、彼女をこの様にしてしまったのは、十中八九、自分が原因だろう。
 頭を下げて、原因を問うてみようか?
 いや、原因が分からないのに頭を下げる行為というのは、そもそも誠意が足りないのでは…?
 いや、きっと彼女の事だ。苦笑しながらも教えてくれる…ハズ…。
 いや、しかし……。

 堂々巡りの袋小路にはまり込んで一人頭を抱えていると、彼の胸ポケットから携帯が着信を告げた。

「と、いうわけで急に仕事が入った。……すまない」
「え〜!クラウド、今日は仕事休みだって言ってたじゃないか〜」
 急な依頼を家族に告げると、デンゼルが唇を尖らせて詰め寄った。
 マリンは黙っていたが、その瞳は明らかに不服そうだ。
 今日は久しぶりに一日中、家族揃って過ごせる予定だったのだ。
 特に何をするということもなく、ただ家族が揃ってゴロゴロとする。
 そんな何でもない様な一日を、子供達はとても楽しみにしていた。

 …例え、ティファが何故かは分からないがクラウドを避けていたとしても…。

 クラウドは子供達に謝りつつも、未だに自分を直視しようとしないティファを盗み見た。
 彼女は視線を合わせる事は無かったが、怒ってはいないようだった。
 子供達を苦笑しながら宥めている。
「……クラウド、今日はいつ帰れるの?」
「あ、ああ。カームからジュノンへの配達だから、遅くても夕食までには戻れると思う」
 クラウドの返答に、ティファはふわりと笑みを浮かべ、この日初めてまともにクラウドと視線を合わせた。
「いってらっしゃい。気をつけてね」


 たったそれだけの事なのに、それまで沈んでいた気持ちが一気に上昇する。
 クラウドは、フッと笑みを返すと、ホッとした顔をしている子供達一人一人の頭に手を置いてフェンリルを走らせた。


「いや…急に頼んでしまって申し訳ない…」
「……いえ…。それで…あの…これは…もしかして……」
 クラウドは、目の前にある依頼の荷を見て恐る恐る依頼主である中年の男性を見た。
 男性は、頭が少々薄くなった頭を振り振り、深い溜め息をついて見せた。
 その姿は、そこはかとなく哀愁で満ち満ちている。
「ああ…。家内のだ…。いや、『元・家内』の物と言った方が良いのかな…」
 ははは…。

 乾いた笑いを零す男性に、元来口下手なクラウドが気の聞いた台詞を言えるはずも無く、何とも言えない気まずい雰囲気があっという間に二人を支配した。

 その男性と『元・奥さん』は、クラウドのお得意さんだった。
 いつも仲良く二人で寄り添っているイメージがあっただけに、クラウドもショックだった。
 何故、あんなにも中睦まじかった二人が、今、この様な状況になってしまったのか…。
 まるで、今の彼女と自分のようだ…。

 そう考えて、クラウドはゾッとし、慌てて頭を振った。
 いや、まだまだ彼女と自分の関係はここまで荒廃していない。
 それに、まだ彼女がどうして今のようによそよそしくなったのか全く分かっていないのだから。
 まだ自分と彼女はやり直すチャンスがある!
 と、考えて、また気分が落ち込むクラウドであった。

「え…っと。それで、これらの荷物をあ〜、ジュノンにいる『奥様』にお届けしたら良いのですね?」
「『元』奥様だけどね…」
 ははは…。
 再び乾いた笑いを零す依頼主に、クラウドは引き攣った笑顔を浮かべて見せた。
 そして、いつも仕事で受けている荷物よりも若干多い、それらの依頼の品々をフェンリルに括りつける。
 こういう時は、人付き合いの苦手な自分に出来る最善の策は、さっさと仕事をこなすことだ。
 即ち、この場からの逃走に限る。

 男性は、黙々と荷物をフェンリルに括りつけるクラウドの様子をじっと見つめていたが、やがて、その細い目に一杯涙を浮かべ、鼻を啜りだした。
 流石に人付き合いが苦手だとしていても、この場を黙ったまま離れるなど出来ないではないか、という雰囲気が漂っている。
 クラウドはおどおどしながらも必死に言葉を探した。
「あ〜、その。大丈夫ですか…?」
 言った後で、『大丈夫なはず無いな…』と思ったが、後の祭りだ。
 それに対し、男性はおどおどしながらも気遣いの言葉をかけてくれたクラウドの気持ちの方が嬉しかったようだ。
 困ったように真っ赤な目をしてぎこちなく微笑んで見せた。
「あ、ああ、すみませんね…。まだ、気持ちの整理がつかなくて…」
「………いえ。」
「それにしても、女心は本当に謎だね」
「………はあ…」
「ああ、いや。クラウドさんのところは大丈夫だね。私たちと一緒にして申し訳ない」
「いえ。そんな事は…」
 クラウドは苦笑しながら、しみじみと語りだした男性からどうやって逃げ出すか、頭をフル回転させた。
 無論、いい考えが浮かぶはずも無い。
 クラウドは慣れない会話に、冷や汗で背中をグッショリ濡らしながら、男性の話に付き合うことにした。
「いや、私もまさかこんな事になるだなんて夢にも思わなくてね。ほら、クラウドさんも知ってるでしょう?私達夫婦は周りから見ても上手くいってると思いませんでしたか?」
「ええ、中が良さそうだとはいつも思ってました」
「でしょう!?実は、私もずっとそう思ってましたよ。いえ、今でもそう思ってます。ですがね、ある日はたと気付いたんですよ。家内がいつの間にか私から距離を置いていることに…」
「え…!?」
 クラウドはギョッとした。
 まさに、今の自分と彼女の関係と似ているのではないだろうか!?
 思わず声を上げたクラウドを、男性は自分の境遇に同調してくれたと勘違いしたようだった。
 うんうん、と大きく頷きながら言葉を続ける。
「そうなんですよね。私も気付いた時は気のせいかと思ったんですが、いくら家内と視線を合わせようとしても、家内は絶対に視線を合わせまいとするんです」
 いや、そんなことは無い…と否定しつつも、男性のその次の言葉に更に衝撃を受け、しばし愕然とした。

 視線を合わせまいとする。
 まさに今のティファではないか!?

 クラウドは、強い衝撃の為にしばしぼんやりとする頭を抱えながら、男性に思い切って
「あの、失礼ですが奥様は一体どうしてそんな事を…?」
と訊ねずにはいられなかった。
 男性は、悲しそうな顔をすると、再び目に涙を一杯浮かべると、
「私は昔から仕事一筋の人間でしてね。家族の為に一生懸命働いてきました。ええ、それはもう、夜昼問わずに頑張りましたよ。ですが、その間、家に残された家内は寂しかったようでしてね。私のいない間に男が出来てたんです。恥ずかしいながら全く気付きませんでねぇ。この度、子供達が皆、独立した機会に別れたい、そう言ってきたんですよ。視線を合わせまいとしたのは、視線を合わせることすら厭わしい、そういう気持ちからだったって言うんです。酷い話だと思いませんか?」

 その話の内容に、クラウドが受けた衝撃は到底言葉では語れないものだった。
 自分と彼女の関係と、目の前の男性と元奥さんの関係のあまりの類似点に、愕然とする。

 クラウドの衝撃を受けた顔を、男性は自分に同情しているのだと判断したのだろう。
 再び大きく頷くと、呆然としているクラウドの手をぎゅっと握り、
「ありがとう、クラウドさん。ここまで私の気持ちを推し量ってくれた人は、あなただけですよ。ええ、クラウドさんならきっと私達のような事にはならないと思います。どうか、ティファさんと幸せになって下さいネ。大丈夫ですよ、私もまだまだ人生これからですから!きっと、私にも素敵な女性が現れると思います」
と、今度は感動の涙を目に浮かべた。
 クラウドは、曖昧に返事を返しつつ、頭の中は最近のティファの様子で一杯だった。

 まさか、ティファに限って他に男を作っているとは考えられない。
 しかし、現に今のティファは、クラウドと極力視線を合わせまいとするばかりか、必要最小限の事以外で接するのを避けている節がある。

 ま、まさか!?

 クラウドは、感涙に咽ぶ男性を適当にあしらい、強張った体をフェンリルのシートに跨らせて、これ以上ないほどのスピードでジュノンへ向けて走り出した。


 ジュノンに着いたクラウドは、男性の『元』奥様に無事荷物を届ける事が出来た。
 途中で、モンスターの歓迎を受けたが、半分蹴散らし、半分は存在を無視してフェンリルを猛スピードで走らせたのだ。
 予定よりもずっと早い荷物の到着に、『元』奥様は目をまん丸にしていた。
「早かったのね。驚いたわ」
「……ええ、まぁ……」
 若干息を切らせている金髪の青年に、『元』奥様は苦笑とも微笑とも判断のつかない笑みを浮かべると、荷物の受け取りにサインをした。
 そして、その際にそっとクラウドに声をかけた。
「ねぇ、クラウドさん。あの人、元気だった?」
 クラウドは躊躇いがちに訊ねるその『元』奥さんを少々驚いた顔をして見つめた。
 まさか、『元』奥さんの口から、依頼主の男性の身を案じる言葉が出るとは思わなかったのだ。
 クラウドの心理を正確に読み取った『元』奥さんは、今度はハッキリと苦笑すると口を開いた。
「フフ、確かに私の方から別れ話を切り出したけど、決してあの人の事が嫌いじゃないのよ?だって、長年連れ添ってきた主人ですもの。あの人が一生懸命私や子供達の為に働いてくれていることも、良く分かっているつもりよ」

 なら、何故別れるなどと話を切り出したり、他に男を作ったのだろう…。
 そう思っていたクラウドに、『元』奥さんは更に言葉を続けた。

「でもね、それだけじゃ駄目なのよ?ただ働くだけじゃ…ね。だって、私達は仮にも夫婦だったの。夫婦って、一緒になって人生を歩んでいく伴侶の事でしょ?何事も、夫婦一緒になって頑張っていく。辛い時には共に励ましあい、嬉しい時には喜びを倍にして…。それなのに、あの人はそうじゃなかったのよね。自分は働いてさえいたら、夫として、また子供達の父親としての責任を果たしている…、そう思ってたんだと思うわ。だから、私がいくら一緒の時間を過ごそうと話を持ちかけても、あの人は仕事と、自分のプライベートの時間を優先させたのよ」

『元』奥様の話に、クラウドは身の縮む思いがした。
 自分はそこまで仕事人間ではないつもりだが、配達の仕事を確かに優先させる時が多い。
 まさに、今日の自分がそうではないか!
 そして、一緒の時間を過ごすのも、最近では少々難しくなっているのも事実だった。

「それでね。気がついたら、私の心に違う人が住んでたの。そりゃ、最初は苦しかったわ。夫を裏切ってるんですもの。でも、あの人は結局最後の最後、私がそうやって話を切り出すまで気付いてくれなかった。私が夫と今の人の間で揺れている時、全くそれに気付かなかったのよ。それで、私は思ったの。『この人にとって、私は特別でもなんでもないんだ』って…」
 寂しそうな顔をして語る『元』奥様に、クラウドは血の気が引くのを感じた。

 まさか…。
 最近漸くティファの変化に気付いたが、もしかしてこれまでにも何かしらのサインを発していたのだろうか?
 鈍感な為、それに気付かず今日まで来たのだとしたら…!?

 クラウドは、『元』奥様への挨拶もそこそこにフェンリルに跨ると、勢い良くエンジンを吹かせた。


 家路を急ぐクラウドの頭は、最近のティファの事で一杯だった。
 もしも、今日の依頼主のような結末を迎えなくてはならないとしたら…!?


 目の前をモンスターの影がちらついていたが、クラウドは全くそれらを相手にする事無く猛然と荒野を駆け抜けていった。





あとがき

あれれ〜?何でこんなに長くなってるのでしょう??
あはは〜、すみません、後半に続きます(苦笑)