「僕と付き合って下さい!!」

 一世一代の告白は…。

「ごめんなさい…」

 というたった一言の前に、見事に散った…。


彼女の心に住まうのは…



「お前…ホント、バカだよなぁ…」
「…うるさいよ…」
 友人はゲラゲラ笑いながら、涙を拭き拭きつっかえつっかえ口にした。
 僕の肩をバシバシ叩きながら、お腹を抱えている。
「それにしても、まさか本当にあの『エッジ一の美人店主』に告白するとは!!」
「いやいや、全く恐れ入る」
 友人達は呆れ半分、面白半分で口々にそう言ってくる。

 …誰一人、『同情』してくれていないのが、妙に癪だ……。

 今、僕達はエッジの立ち飲み屋で、僕の失恋パーティーをしている。
 男四人が集まって狭い立ち飲み屋で乾杯する様は…、どう見ても薄ら寒い気がする…。

「大体、こうなるのが分かってなかったのかよ?」
 呆れきった顔をする友人に憮然としながらそっぽを向く。
「…分かってたよ…勿論、ちゃんと…!」
「だったら何で玉砕する様な行動に出るかね〜…」
 別の友人が、空になった僕のグラスにビールを注ぎながら苦笑した。
「分かってても、どうしても伝えたくなったんだよ!」
 そう言い捨てて一気にグラスを仰ぐ。
 次の瞬間、炭酸が気管に入り、激しくむせ返る僕の背中をビールを注いでくれた友人がバシバシ叩いてくれた。

「でもさ。伝えたところで報われないなら、そっと胸に秘めてた方が良いんじゃないの?」
 もう一人の友人がビールを口に運びながらそう言った。
「まぁ…さ。最初はそうするつもりだったんだよ。どう考えても『彼』には勝てないし…」
「そうだな。ルックス面でも、体力面でも激しく、この上なく、完璧に敗北してるよな…」
「………お前な…」
「なら、何でわざわざ玉砕コースを選んだわけだ?」
 別の友人が興味津々に訊ねる。
「そ、それは…」
「「「それは?」」」
 見事に声を合わせて身を乗り出す友人達に、グッと詰まるが、やけっぱちな気分になり、プイッとそっぽを向いてやった。
「彼女を見てて、つい、何となく…そんな気分になっちゃったんだよ!」

 僕の答えに、友人達は一瞬沈黙し、直後にどっと爆笑した。
「な、何それ!!」
「お前、バカだバカだと思ってたけど、まさか大バカとは…!!」
「仕方ない…、こいつのは筋金入りだ…」
「………お前らな…」
 僕の肩に手を回したり、僕の頭に肘を置いたり、それぞれ好き勝手に言ったりやったりしてくれる友人達に囲まれて、本当に幸せだよ……全く!

「まぁ、飲め!」
「今日の主役はお前だ!」
「おーい、おやっさん!ビールとつまみ追加ね〜!」
「さぁ!我らが友人の失恋にかんぱ〜い!!」
 そうして三人は異様に盛り上がってくれた…主役である僕を取り残して…。



「…んで?」
「ん?どうしたのかな〜?」
「『どうしたのかな〜?』じゃない!!何でセブンスヘブンに来なくちゃいけないんだよ!!」

 セブンスヘブンというエッジにある一軒の店の前で、僕はそう叫んだ。
 …実は、この店の女店長に今日ふられたばかりなんだよ!
 そして、この酔っ払いと化した僕の友人達は、その事を百も承知しているというのに、何故に立ち飲み屋からのはしご酒が、セブンスヘブンなのだ!!
 ジタジタ暴れてみるが、大の男三人に敵うはずなんか…ないよな…?
 僕はこれでも、一般人なんだから…。
 セブンスヘブンの女店長の恋人みたいに、人間離れしてないんだよ!!

「は〜な〜せ〜!!」
「ここまで来ておいて、今更何言ってんだよ〜」
「悪足掻きは良くないぞ!」
「そうそう、人生諦めが肝心だって」
 くぅ〜!この薄情者どもめ!!
 絶対、楽しんでる!
 僕が、玉砕した事が嬉しくて仕方ないんだ!!
 彼女と顔を合わせた時の僕の間抜け面が見たいんだ!!
 そうだ、そうに決まってる!!

 店の前でギャーギャーと最後の悪足掻きをするが、努力も空しく通行人の白い目を浴びるという、物凄く恥ずかしい結果のみで、僕は店の中に引きずり込まれてしまった。

「いらっしゃいませ!」
「やぁ!マリンちゃん!」
「あ、今晩は!」
 店に一歩入ると、この店の看板娘がパタパタと駆け寄った。
 いつも可愛らしい笑顔で出迎えてくれるこの女の子は、本当にクルクルと良く働く、とっても良い子だ。
 そして、この店の常連と化している僕達とも仲良くなってくれている。
「今日も可愛いね!」
「飲みに来ちゃったよ〜!席、空いてる?」
「はい!四名様で良いですか?」
 僕が、「三名様で良いです!!」と叫ぶよりも早く、「うん、ヨロシクね〜!」と友人が答えてしまった。

 …くっそう、こいつら…。

 ギリギリと歯軋りする僕の両腕を、友人達がそれぞれ掴んで、マリンちゃんが案内してくれる席に向かった。

「あの…、具合悪いんですか?」
 友人達に両脇を固められている僕を見て、マリンちゃんが心配そうな顔で覗き込む。

 本当に、何て心の優しい女の子なんだ…。
 こいつらと比べたら、まさに月とすっぽんだよ!!

「ああ、こいつなら大丈夫大丈夫!」
「そうそう!さっき、そこの立ち飲み屋で少し飲み過ぎたんだよ」
「俺達がいるから何にも心配要らないよ」

 嘘吐け!!
 お前らといる方が、『要!心・配!!』なんだよ!!!

 などと、心の中で叫びながらも、そんな事言えるはずも無く、僕はただ黙って苦笑して見せた。
 そんな僕を見てマリンちゃんはにっこり笑い、安心したような表情を見せてくれた。

 ああ、本当に何て良い子なんだ!
 可愛いし、良く働くし、おまけに気立ても良い!!
 将来、めちゃくちゃ期待しちゃうよな〜!

「それじゃ、ご注文がお決まりなりましたらお呼び下さいね」
「お〜、ご苦労さん!」
 パタパタとカウンターへ戻る小さな後姿に、友人達が声をかける。
 カウンターの中には、いつもいるはずの女店主の姿が見えない。
 きっと、店の奥に何か取りにでも行ってるんだろう…。
 彼女の姿がない事に、ホッと肩から力を抜く。

 そんな僕を友人達が呆れたような顔をして眺めた。
「お前な〜…」
「大丈夫だって、彼女はこういう事には慣れてるはずだから!」
「そうそう。何て言っても、美人で、料理上手で、明るくて、性格良くて、おまけにゴージャスなプロポーションときたら、これまでにもお前みたいな気分になって玉砕コースを選んだ哀れな男どもがいたはずだ」
「「「だから、心配するな」」」

「何の心配だよ、何の!!」

 あまりの言い草に、つい大きな声を出してしまう。
 店内が一瞬シンとしてしまったのは、絶対に俺のせいじゃない!
 俺をからかった、この悪友どもが悪い!!

 それなのに…。

「ああ、皆さん、お騒がせしてすみませ〜ん」
「本当に、こいつ、酔っ払っちゃってて」
「後で酔いが冷めたら、重々言い聞かせますから」

 などと口にする友人達に、どうして周りのお客さん達は納得した顔をしてしまうんだ!
 理不尽だ…。
 ものっすごく、理不尽だ!!

「はい、落ち着けって」
「…………」
「拗ねるな、拗ねるな」
「…………」
「男が拗ねても可愛くないぞ」
「可愛く見せようなんて思ってねえよ!!」
「「「シーッ!」」」

 僕の口を思い切り押さえながら、指を立ててみせる友人達を、心の底から睨みつける。
 ほんっとうにこいつら、絶交だ!!

「お前さ、本当に俺達の考えがわかんないわけ?」
 友人の一人が、急に改まったような真剣な顔をする。
「え…」
「あのな〜。いくらなんでも、俺達が面白半分にふられたばっかのお前を、ふった相手のところに連れてくるかよ…」
「はぁ〜、友達甲斐の無い奴…」
 しみじみとそう言う悪友達に、目を丸くする。

「お前な。このままセブンスヘブンを避けてエッジで生活するつもり?」
 友人の一言に、「う…」と詰まる。
 エッジでの生活を続けていくのなら、このセブンスヘブンに通えないのは、かなり、非常に、物凄く辛い。
 エッジの中でも一・二を争う人気店であるにもかかわらず、その料理の代金は破格に安い。
 それに、女店長の輝く笑顔、看板娘の明るい笑い声はお腹だけでなく心も満たしてくれる最高の精神栄養剤なのだ!
 そのセブンスヘブンに来れないのは、もう、考えただけでエッジから逃げ出したくなる痛恨事!!

 黙りこんだ僕を見て、友人達は肩をポンポン叩いたり、頭に肘を置いたりした。
「な?だから、こういう事は早い方が良いんだよ」
「そうそう。時間が経って落ち着いてから…とか言って、逃げてると、どんどん来づらくなるんだよ」
「だから!今日というこの日に来るのが一番さ!何と言っても俺たちもいるわけだし」
「……皆…」

 思いもしなかった友人達の言葉に、不覚にも視界が歪む。

「と、言うわけだ!さぁ!飲め飲め!!」
「そうそう!飲まなきゃ損だぞ!!」
「酒が入ってないと、やっぱりティファちゃんと顔、合わせ辛いだろ!?」
「あ、ああ…。ありがとう、皆…」
 柄にも無く、胸が一杯になった僕に、友人達が満面の笑顔を見せる。

「「「ティファちゃんと顔合わせた時のお前の顔、見てみたいしな〜!」」」


 こいつら、やっぱり絶交だ!!


 そう心に誓ったその時。

「いらっしゃいませ、あ…」
「よう、ティファちゃん!今夜も綺麗だね〜!!」
「ホント、ティファちゃんはいつ見ても最高だね!!」
「ティファちゃんの笑顔が何よりのご馳走だよ〜!!」

 げげ…!!
 いつの間にかその問題の彼女が、料理を持ってテーブルにやって来たではないか!!
 最悪だ…。
 彼女が料理を運んで来る瞬間は、トイレにでも行っていようと思ってたのに、完全にタイミングを逃してるじゃないか!!
 彼女は僕を見て少し戸惑ってる…。
 ああ、分かるよその気持ち…。
 今、まさに僕が君と同じ気持ちだから…。
 何が悲しくて、ふられた当日に、ふった相手の店に行って、飲まなくちゃいけないんだ…。
 それなのに友人達は、いつもと変わらず、ティファちゃんに嬉しそうに声をかけ、もう、見てて胸が悪くなるほどの満面の笑みで顔を飾っている。

 お前ら…。
 本当に、人の感情を何だと思ってるんだよ!!

 ティファちゃんは、バツの悪そうな僕を見て、苦笑ともとれる微笑を浮かべ、いつも通り明るく良く通る声で、「はい、こちらが揚げだし豆腐ね!」「はい、こっちが出し巻き卵よ!」「は〜い、それでこっちがセブンスヘブンオリジナルサラダ!」と、次々料理を並べてくれた。

 う〜ん…。
 いつ来て見ても、美味しそうだ。
 実際、かなり美味しいんだけどね。

「ティファちゃん!ところでさ…」
 友人が何やら言いたそうに僕の顔をチラチラ見てくるその様に、奴が何を言おうとしているのか瞬時に悟った。

「アイタッ!!」
「おっと、ごめん、手が滑った」
「嘘吐け!!」

 余計な事を言う前に、僕は思い切りスプーンをそいつの顔に投げつけた。
 皿でなかったから、割れなかったし、料理も無駄にせずに済んだんだ…、そこらへんのところを褒めてくれても良いんじゃない?

「ったく、ホラ、料理が冷める前に頂こう!」
 ブスッとして料理を人数分に取り分ける僕を、ティファちゃんは可笑しそうに、それでいて申し訳なさそうな顔をして見ている。

 お願いだから、そんな同情の眼差しで見ないでくれる…?
 無性に情けなくなるから…。

 そんな僕達二人に、悪友達は肩を竦めると、取り分けた料理を口に運んだ。
「うん、美味い!!」
「う〜ん!このだし巻き卵…いつ食べても絶品だね!!」
「この揚げだし豆腐のダシが、また最高だ〜!」
「フフ、ありがとう」
 友人達の賞賛の言葉に柔らかな微笑を浮かべ、ティファちゃんは僕達のテーブルから離れていった。
 僕達のテーブルから離れたテーブルの客が、ティファちゃんを呼んだからだ。

 その後姿を目で追って、深い溜め息を吐く。
「ホラホラ、辛気臭い顔すんなって」
「………お前らな…」
「でも、想像した以上に上手く会えただろ?」
「これで、これからもセブンスヘブンに俺たちと一緒に来れるじゃないか」
「………まぁな…」

 悪友達の言葉は癪だけど、実際不安で仕方なかった僕としては、認めざるをえない。
 彼女が、僕の事を殊更無視する様な女性(ひと)じゃないって分かってるけど、やっぱり実際会うまでは正直不安だったんだよな。
 だから、まぁ…。
 悪友達に感謝…かな…。


 それからは、看板娘のマリンちゃんと少し談笑したり、看板息子のデンゼルも交えて冗談言ったり、いつもと変わらない楽しい時間を過ごした。
 時々、ティファちゃんが申し訳なさそうな顔をしていたのがちょっと辛かったけど…。
 本当に、彼女は優しいからな〜。
 ふった相手の事なんか、気にしなかったら良いのにさ。
 でも…。
 そんな彼女だから、惹かれたんだよな…。


 やがて、出された料理が無くなりかけた頃、店のドアが開いて金髪・碧眼の男性が入ってきた。
 彼を見て、子供達がパッと顔を輝かせる。
「おかえり、クラウド!」
「おかえりなさ〜い!!」
「ああ、ただいま。デンゼル、マリン」

 そう言って、子供達二人を軽々と抱きかかえるその人こそ、子供達にとって父親の様な存在で、ティファちゃんの恋人という、世界中で最も幸運な男だ。
 あの細身の体躯のどこにそんな力があるのか…と思うほど、彼の身のこなしは軽い。
 子供達を抱え上げたまま颯爽と店内を歩く姿は、同性の僕でさえホレボレする。
 ましてや、店内にいるほかの女性客がうっとりと見つめるのは当然だろう…。

 本当に、世の中不公平だよな…。

「ただいま、ティファ」
「おかえりなさい、クラウド」
 絶対に僕達他人には見せない優しい眼差しで、彼がティファちゃんを見つめる。
 そんな彼に、ティファちゃんも嬉しそうに微笑んで見せる。

 本当、お似合いのカップルなんだよな〜。
 それが分かってて、玉砕コースを選んだ僕って、かなり間抜け、バカ、愚か者…だよな…。

「さ〜て、帰るか!」
「そうだな。人の恋路をするのは何とやら…だし!」
「ティファちゃん!お勘定お願いね〜!」

 友人達が揃って席を立ち、呆けている僕の腕を掴んで立ち上がらせた。
 ティファちゃんは、友人の声に明るく「はい、今行きますね」と答え、クラウドさんに目で合図を送ってからやって来た。

 恐らく、「ちょっと待っててね」と言ったんだろうな…。
 目で会話をする二人に、胸がチクンとする。
 ああ、本当に僕は未練たらしいよな〜。
 でも、よく考えたら今日ふられたばっかなんだから、落ち込んだって罰は当たらないよな!?

「ご馳走さん!」
「美味しかったよ!」
「また来るからね〜!」

 ご機嫌に声をかけながら、友人達が店を後にする。
 ティファちゃんも、店のドアまで見送りに出てくれて、「また来て下さいね」と、笑顔を見せてくれた。
 そして…。
 僕を見て、困ったような、申し訳なさそうな顔をしながらペコリと頭を下げてくれた。

 僕も黙って、でも、どうにか少し微笑んで会釈を返して彼女の前を去った。


「うん、エライエライ!」
「良く頑張った!」
「男はこうでないとな!」
 帰り道、友人達がそう言って、僕の頭や肩や背中をバシバシ叩いてくれた。

 まあ、僕の想いは報われなかったし、まだまだ胸が痛むだろうけど、それでもセブンスヘブンにこれからも行けると思うと少し気分が晴れる気がした。
 この悪友達に、癪だけど感謝…かな?


 帰り道は、満天の星空のお陰で明るく照らされ、僕達は陽気に歌を歌いながら帰って行った。
 明日も、良い天気になりそうだ…。


あとがき

ティファにふられた男の人ってどうやって失恋を乗り越えるんだろう…?
とか思って出来た作品です(笑)。きっと、ふられた人は多いでしょうね〜。
どう考えたって、クラウドにはルックスや体力で勝てませんものね〜!
唯一勝てそうなものは、『経済力』でしょうか!?(笑)

最後までお付き合い下さり、有難うございました!