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「なぁ、クラウド。さっきからあの御客さんだけど、ティファを助けなくてもいいの?」
それはセブンスヘブンが開店してから、さほど時間の経っていない時の事だった。
珍しく、デリバリーの仕事がオフの日で、クラウドも店の手伝いの為、店に出ていた。
ティファは、滅多にないクラウドのオフの日に店を開けるのを渋ったが、これも珍しくクラウド自身が営業するよう提案したのだった。
クラウドの動機は単純そのもの。
ようするに、マリンやデンゼル、そして何より愛しい人の『働いている顔』が見たかったのだ。
自分の前での家族の顔は、やはり『家族』の顔なわけで、『自分の知らない顔』を見る機会に、あまり恵まれていない仕事をしているクラウドにとって、今日のオフは、『自分の知らない家族の姿』を見るのに絶好のチャンスだった。
もちろん、自分が家出をする前は、『働く姿』を見ていたが、あの頃は、デンゼルも星痕症候群に侵されており、ティファやマリンとの関係も、現在と比べると『家族』の絆が希薄であった。
『奇跡の雨』以降、病を癒されたデンゼルの働く姿はもちろんの事、ティファやマリンの『店での顔』を見た事がなかったので、ずっと気になっていたのだ。
― 一体どんな『顔』を他人に見せているんだろう? ―
クラウドは、慣れない手つきで料理を運んだり、空いた皿を下げたり、注文を聞いたり、時には隣のテーブルに間違えて料理を運んでしまう、というおまけつきで一生懸命セブンスヘブンでの仕事をこなしていった。
もちろん、当初の目的である『家族の働く顔』を盗み見る事も忘れない。
マリンはティファ直伝なのか、それとも転生の成せる業なのか、素晴らしい営業スマイルをお客達に振りまいている。
デンゼルは、主に裏で空いた皿を洗う担当として、見事な手際で次々と皿を洗い終えていく。
そして、ティファは…。
輝く笑顔、一切無駄のない身のこなし、そして、明るく良く通る声…。
クラウドはほんの少し、店の客(男性限定)に嫉妬するのを感じた。
もちろん、彼女の笑顔はあくまで『営業用』。子供たちに見せる笑顔は『姉』『母親』といった『家族用』。
そして、自分に見せる笑顔は‥‥‥。
その先を考えて、一人優越感を感じてしまった自分に、クラウドはハッと我に返ると、少々赤くなった顔を隠すように、俯き加減に店内を急ぎ足で歩き、カウンターへ空いた皿を持って行った。
すると、そこには洗い物をあらかた終えたデンゼルが、店のほうを手伝うべく顔を見せ、不快そうに店の一角を見つめていた。
そこで、先程のデンゼルの質問がクラウドに向けてされたのだ。
そのお客さんは、マリンの情報だと新顔だそうだ。
『新顔』
その人種は、セブンスヘブンにとってある意味『恐ろしい』ものであった。
何故なら、理由は明々白々。
現在目の前で展開されている事が、例外なく起こるからだ。
「なぁ、仕事何時まで?終わったら遊びに行かない?夜景の綺麗なスポット知ってるんだ」
「いえ、深夜まで営業してますから仕事の後に出掛けるなんて無理ですよ」
「じゃあさ、明日の昼間はどう?それとも店の休みの日、教えてよ。都合あわせるからさ!」
「申し訳ありませんが、そういうお誘いは一切断ってますので」
「えー!何で?」
「仕事とプライベートは別に考えてますから」
「じゃあ、俺との事は仕事としてじゃなく、プライベートとして考えてよ」
「それは無理ですよ。だって、現に今はあなたはお客様、私はこの店の店主という立場にあるんですから」
「そんな堅苦しく考えなくてもいいじゃん?別に変な事したり、変な事期待してるわけじゃなくて、純粋に友達としてお付き合いしたいだけなんだからさ。それでも駄目なわけ?」
どう考えても、『変な事したい』『変な事期待している』『不純な友達づきあい』を言っている様にしかとれない。
常連客達は『あ~、また不幸な男が一人、虜になっちまったか』と半ば同情、半ば面白げに見学し、時折意味深な眼差しでクラウドを盗み見ている。
クラウドが、何か行動を起こさないか、期待しているように感じるのはクラウドの気のせいだろうか…?
デンゼルは、ティファが相変わらず『営業用』の笑みで相手を軽く流している為、今一つ危機感をじないものの、不愉快そうだ。
しかし、マリンは違う。
ピリピリとした表情でティファと男性客のやりとりを見守りつつ、時折チラチラとクラウドに視線を向けている。
クラウドが男性客に怒りの鉄槌を下さないか心配しているのだろう。
クラウドは、そんなマリンの視線に当然気付いていた。
気付いていたからこそ、グッと腹に力を入れて、割り込みたいのを我慢している。
しかし、このままでは店の回転にも影響が出てしまう。
何しろ、料理・カクテル類は全てティファが作っているのだから。
「おーい、ティファちゃん。そっちの新顔さん相手にするのもいいけど、俺の注文したもんは~?」
ここで、天の救いか常連客の一人がティファに声を掛けた。
「はーい、ごめんなさい。すぐにお作りしますね」
常連客に明るく返答すると、新顔の男に「そういうわけですから、ごめんなさい」と、軽く会釈をしてカウンターに急ぎ足で戻って来た。
ティファは、常連客の言ったとおり、あっという間に注文の料理を作り上げると、むっつりとした表情のクラウドに
「ごめんね。これ、あちらのお客様にお願いできる?」
と、彼にしか見せない極上の笑みを見せて頼んだ。
クラウドに断る理由がどこにあるというのだろう‥‥。
ティファの笑顔に、不機嫌さが一気に消し飛んだクラウドは、表情にこそ出さないものの、
「分った」
と、素直に一言返事をし、足取りも軽く料理を運んで行った。
そんなクラウドに、マリンはホッと一息つくと、『クラウドが単純で本当に良かった』と、いささか失礼な事を思っていた。
しかし、そんなクラウドだからこそ、マリンは大好きなのだ。
『単純=素直』だとマリンは思っている。素直に自分の気持ちを表現してくれるようになったクラウドを見る事が出来るのが、本当に嬉しいのだ。だから、決して『小バカ』にしているのではない。
デンゼルも、マリンほどではないが、クラウドが『何故か』上機嫌になったのを感じたので、やはり嬉しくなる。
『やっぱり、クラウドはティファに弱いよな』と、的確かつ正確にクラウドの事を見てとっている。
可愛い子供達にそんな評価を受けているなど、夢にも思っていない当の本人は、注文の品を『間違えずに』テーブルに運んだ。
すると、そのテーブルに座っていた常連客の一人が、そっと声を落として話しかけた。
「なぁ、良いのかい?ティファちゃんあのままでさ。ああいう野郎は、一度や二度じゃへこたれずに何度もアタックしてくるぜ」
クラウドはそう言われて、何となしに例の新顔の座るテーブルに視線を向けた。
新顔は、常連客の言ったとおりの人種のようだ。
食い入るようにティファを見つめている。
その視線で、ティファに穴が開いてしまうのではないか?と、バカな事まで考えてしまうほどの熱烈な眼差しだった。
「いっその事、あんたとティファちゃんの仲をここで披露したらどうだい?」
「おっ!それ良いんじゃないか!?」
「そうそう、キスの一つでもしたら、あっという間に、悪い虫はすごすご退散だぜ」
同じテーブルにいた他の常連客が実に楽しげに提案し、期待の眼差しでクラウドを見た。
クラウドは、表情を殺してはいるものの、その提案に背中は冷や汗でべったりとしていた。
そんな事を彼女に言ったら、彼女は何て言うだろう……?
顔を赤くして張り飛ばされるか、顔を赤くして怒られるか、顔を赤くして必殺技を繰り出されるか……。
いずれにしても良い結果が得られるとは考えられない。
「いや、それはちょっと……」
一瞬の間に結論を出すと、言葉を濁してその場を退散し、カウンターに戻った。
戻る途中で、他のテーブルにある空いた皿を下げるのを忘れない。
カウンターに戻った時、ティファが丁度新たに料理を仕上げてマリンに渡しているところだった。
マリンが向かう先は、例の新顔のテーブル。
新顔は、マリンが料理を運んできた事に対してあからさまに不機嫌な顔をしている。
マリンは、『営業用』の笑みを浮かべて料理をテーブルに置くと、カウンターに戻ってきた。
そのマリンの姿を見て、クラウドは『俺には到底真似できないな』と、感心ひとしおだった。
やがて時間は過ぎ、夜の22時になろうとしていた。
子供達のお手伝いはここまでだ。
ティファはデンゼルとマリン、それぞれにお休みのキスをして、「お手伝い有難う。本当に助かったわ」と、労いの言葉を忘れずに掛ける。
子供達は素直に「お休み」の挨拶をすると、クラウドに『頑張って』と、目に力を込めて見つめた。
クラウドは、子供達の『声にならない言葉』をきちんと受け取り、苦笑しつつ「お休み」と頭をなでて寝室へと促した。
子供達は、店に残っていた常連客達にも「お休みなさい」と、声をかけてから、寝室へと上がっていった。
常連客たちにとって、子供達の挨拶は至極自然なものとなっていた為、「おう、お休み~」「良い夢みろよ」と、気軽に返事をしてくれる。
ところが…。
やはり、この事態についていけないのが例の『新顔』で、びっくりした顔でティファを、他の常連客を、そして最後にクラウドを見つめた。
恐らく新顔の彼は、『子供達は近所の家の子で、生活の為に働きに来ていた』、程度にしか見ていなかったのだろう。
そして、クラウドの事も気にはしつつも『店主と店員』の関係以外にはないと勘違いしていたのだ。
何といっても、ティファが『店主』なのだから…。
それが、今のやりとりで『雇い主と雇われ人』の関係でない事に、嫌でも気付かないわけにはいかなかった。
「へぇ、なるほど、そういう事」
新顔は低い声で唸ると、ジロッとティファとクラウドを睨みつけた。
目が完全に据わっている。
「あんた達、夫婦なんだ。いや、結婚指輪がないから同棲か?まぁ、どっちでもいいや」
呂律が回っていない。
そう言えば、彼が何とかティファと話をしようと躍起になって、アルコールの追加注文を重ね、結構な量を飲んでいた事に今更ながら気が付いた。
「それにしても、『仕事とプライベートは別に考えてる』だって?ハッ!良く言うぜ。あんた、自分の彼氏を店員にして、ちゃっかり仕事中でも一緒にいられるようにしてるじゃないか。それなのに、俺には偉そうにお説教かよ?ふざけんなよ!俺をバカにした目で見やがって!」
椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がる、が、足にまでアルコールの影響が出ており、危うく転倒しそうになって、テーブルに寄りかかる。
それでも、視線はクラウドとティファから離さない。
「ったくよ、これだから美人はむかつくんだよ。何様だと思ってるんだ?あ?それに、お前!」
と、クラウドを指差す。
「お前も、俺がこの女に話しかけた時、黙って見てたよな?自分の女が他の男に絡まれても、何も助けずに傍観してるだなんて、腑抜けもいいところだな!」
おぼつかない足取りで、ふらふらと二人に近づく。
二人は共に微動だにしない。
周りで見ていた常連客は、自分達のグラスや料理を手に取ると、そろそろとその場から離れていった。
その事に気付いていないのは、新顔の哀れな男、ただ一人。
「腑抜け野郎に酒屋のあばずれ!これ以上の組み合わせはないよなぁ!!」
次の瞬間、新顔の男は常連客の一人が開けた扉から、はるか彼方へと吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされる瞬間、「クラウドに向かって何て事言うのよ!!」「ティファに向かって『あばずれ』とは何だ!?」という怒鳴り声がしたような気がしたが、新顔の男にそれを認識するだけの余裕があろうハズもなく、そのまま冷たい路上で無意識の世界へとダイブした。
セブンスヘブンにとって『些細な出来事』があってから、何事もなかったかのように時間も経ち、常連客もちらほら帰宅の途に着き始めた。やがて最後の客を見送ってから扉にCLOSEの看板を吊るして、ティファはクラウドを見てホッと息を吐いた。
「あー、さっきはとうとうやっちゃったわね~、私達」
ちろりと舌を出して肩をすくめる彼女に、クラウドも軽く息を吐き出すと
「面目ない」
と、頭を掻いて苦笑した。
「ううん、私がもっと上手にあしらってれば良かったのよ」
「いや、俺の方こそ、ティファがあいつに絡まれてる時、それ相応のやり方で応酬してれば良かったんだ」
「?」
小首をかしげてキョトンとするティファに、クラウドは、常連客に言われた例の『キス』の話をティファに聞かせた。
すると案の定、顔を真っ赤にさせて「何言ってるのよ!絶対駄目!!」と、反対されてしまった。
しかし、その『顔』は、店で彼女が見せるものではなく、他の誰にも見せない『彼だけの顔』だったので、クラウドはついつい、次にああいう手合いの客が来たら、試してみるのも悪くないかもな…と、悪戯心を刺激されていた。
その後、クラウドがその悪戯を実行するチャンスに出会えるかは…神のみぞ知る。
あとがき
ティファの極上笑顔はクラウド専用です!
絶対に、他の人には見せないんです!!
例え、それが可愛い子供達であったとしても!!!
そして、そんな笑顔のティファにクラウドもクールな顔の下はにやけてるのです!!
はい、すいません。全部マナフィッシュの願望です(笑)。