『こぉんの大バカ者ーー!!』

 キーーーーンッ!!!

 耳元での罵声にティファは思いっきり携帯を引き離した。






空回りの先にあるもの







 ユフィに言えば激昂するかもしれない、と予想はしていたので心配していたほどのショックは受けなかった。
 とは言え、それでも初めて彼女に『大バカ者』と思いっきり罵倒されたのでダメージゼロというわけにはいかない。

「で、でもね…ユフィ」
『でももかかしもあるかーーっ!!』

 言い訳を一言…と思って口を開けば即行で跳ね返された。
 ティファはこのやり取りだけで難聴になるんじゃないだろうか…と、ズレた心配を頭の片隅に浮かべて苦笑した。

『いい!?今アタシに言ったこと全部、ぜ〜〜〜んぶっ!朴念仁に話すこと!いい!?』

 朴念仁とは言わずもがな…クラウドのことだ。

 ティファは「う…」と途端に困りきった顔をした。
 情けなさでいっぱいの顔は、悲しいかな携帯の向こうにいるユフィにはバレてはいても見えないので視覚で彼女に訴えることは出来ない。

『ティファ、この件に関してアタシは一切ノータッチだから!』
「………ユフィ……」

 思わず口から出た情けない声。
 携帯越しにユフィがため息を吐いているのがリアルに聞こえる…。

『あのね、ティファの気持ちは分からないでもないよ、分からないでもないんだけど』

 幾分かトーンダウンしているユフィは、思いっきり怒鳴ったことによって少し気持ちが治まったのかもしれない。
 しかしそれでも、常の彼女を知っているティファにはまだまだユフィが怒り心頭状態の範疇にあることが手に取るように分かった。

『それでも、そういう『ティファのダメなところ』をちゃんと見せないとダメなんだよ』
「………うん」
『もしも今回の件、アタシからクラウドに話をしたとして、あのバカどう思うと思ってるわけ?』
「えぇ〜…」

 イライラした感の抜けない口調で詰問され、ティファは情けない顔のまま室内をウロウロと歩いた。
 額に手を当て、ユフィが言う通りの場面を想像する。
 しかし、どうしてもユフィが『その話』をする場面を想像出来ない。
 一体、どんな言葉、どんな顔をして話しをするというのか?

 考えた時間は時計で言うとそんなに針は回っていないはずだ。
 だが携帯の向こうにいてティファが見えない上に、今回の相談の内容が内容なだけにいつも以上に余裕を持ってくれないユフィは、
『ちょっと、本気で分からないわけ!?』
 苛立ちを露わに答えを求めてきた。

 もう少しだけ考えさせて、と言おうとして、ティファはため息を吐いた。

「分からない…とは言わないけど…」
『けど!?』

 いつにない手厳しいユフィにたじろぎながら、ティファは素直に腹を割った。

「どうしても今回の内容を相談しているところが想像出来ないからクラウドがどうなるかって言うのがちょっと…」

 かーーっ!このくそ真面目の杓子定規ちゃんめ!!

 ユフィの台詞にティファは一瞬、笑いがこみ上げた。
 いやはや、なんとも言葉のボキャブラリーが豊富…というか、『新語』を作り出すユーモアに溢れている。
 だがここでうっかり噴き出しでもしたら、ユフィの怒りに油を注ぐどころかガソリンをたっぷり注ぎまくってしまうことになる。
 唇を引き結んで噴き出すのを堪えると、携帯の向こうで盛大なため息を吐かれてしまった。

『じゃあ、ティファ。今回の件、ティファとクラウドの立場を逆にしてみたら?そんなら想像しやすいでしょうに』

 一気に口調から激が無くなった。
 どうやら腹立ちすぎた状態から一気に虚脱感へと移行してしまったらしい。
 ユフィから勢いがなくなったのは正直、今はありがたいので言われるまでも無く自分とクラウドの立場を逆転させて想像したがある、ということは言わなかった。
 ついでに、クラウドとティファの立場を逆転させて想像してみた結果、ユフィに相談をする…という今の状況になっていることも黙っていることとする。
 その代わり、口にしたことは逆転させて想像した瞬間に抱いた『衝撃』。

「……ヤダ」
『でしょ!?』

 なんとも子供っぽい一言だったが、それでも携帯の向こうの相手はわが意を得たり!と言わんばかりに食いついた。
 ティファはため息を吐いた。

「やっぱり……言わないとダメ…だよね…」
『だから、そう言ってるじゃん!』
「うん…そうだよね…」

 もう1つため息。

 突きつけられた結論に気持ちがズーンと重くなる。
 そんなティファに、ユフィが容赦なく畳み掛けた。

『今日話しな!』

 思わず「無理!」と言いそうになったティファに、ユフィがだめ出しをした。

『こんなこと、ズルズル先延ばしにしたら絶対にダメ!今日!クラウドが帰ってきたら即行だからね!!』
「……今夜、帰ってこないかもしれないよ…?仕事が急に入って帰宅予定が狂うなんて珍しくないから」
『なら、帰宅予定が狂ったって電話がきた時に話すこと!!』

 あぁ…何が何でも今日か…。

 そうため息を吐いてティファはふと気づいた。
 結局、とことん逃げたかったんだ…と。
 クラウドにとって『良かれ』と思っていたことが完璧に裏目に出てしまったという失態を彼に話さなくてはならないということから。
 逃げたいがためにユフィに電話をして、案の定怒られて。
 しかしそれでも、電話をする前はちょっと思っていた。
 ユフィなら、怒ったとしても代わりに話してくれるんじゃないかって。
 そしたら、自分が話す前の段階でクラウドには『ワンクッション』あることになる。
 詳細を話すとき、ある程度クラウドに心構えがあれば、話しやすいだろう…と思っていた。
 思いっきり傷つくクラウドを見なくて済む…と。

 とどのつまり、逃げまくってずる過ぎる自分が前面に出ているのだ、今回の行動には。
 なんてイヤな人間だろう…。

 ティファは顔を上げた。


「うん、頑張る。ごめんねユフィ」


 携帯を切る前に、聞こえたのは『うん、大丈夫ティファなら。頑張れ!』という親友のエールだった。


 *


「ただいま」

 クラウドはいつものように夜遅くに帰宅した。
 幸い、明日は休みなので疲れてはいても気持ちは軽い。
 久々の休日をどうやって過ごそうか…、それをティファと相談することばかり考えながら帰ってきたクラウドは、ティファがなにやら緊張していることにすぐ気がついた。
 気がついたのだが、さて、それを突っ込んで良いものなのかどうなのか…。

「ティファ?」

 いつものように『ただいまのキス』をして、いつものようにクラウドは汗を流している間、ティファはクラウドの夕食を温めなおしていた。
 しかし、何故かクラウドが風呂から戻ってきてもティファの動きがぎこちない。
 いつもと違うその様子は、一緒にいるからこそ分かる些細な違和感。

(なにか悩み事…か?)

 なら、話してくれたら良いのに…と思う。
 いや、話してくれたら…というよりも、話して欲しいと強く思う。
 そのことにクラウドは少しだけくすぐったいものがこみ上げてくる思いがした。
 厄介ごとに巻き込まれるのはごめんこうむるが、家族のことになると話は別だ。
 それがティファのことだとすると特にそうなってしまう自分に、我ながら現金で単純だなぁ…と思わずにはいられない。

「ティファ、なにかあったのか?」

 食事を終えてから話を振ると、可哀相なくらいにティファはビクッと肩を震わせた。
 瞳に浮かんでいる怯えの色にクラウドの胸が急速に不安で埋め尽くされる…。

「なにか…あったんだな…」
「………ごめんなさい」

 ゆっくりと断定語で言い切ると、ティファは唇を震わせ俯いた。
 腰を上げてテーブルを回り、ティファの隣に立って初めて彼女の両手が膝の上できつく握られていることに気がついた。
 そっとその手をとるとティファがまたビクッと震えた。
 思わず抱きしめたくなるその弱々しい姿に、クラウドは自制しなかった。

 そっと彼女の頭を抱きかかえるようにして引き寄せ、腹より少し上のところで包み込む。
 すっぽりと入ってしまう彼女の小さな頭を優しく数回撫でていると、ガチガチだったティファの身体から力がスーッと抜けていった。

 場所を移して店内のソファーへ移動し、細い腰を抱き寄せて背を撫でる。
 落ち込んでいる小さい子供を慰める親とはこんなもんだろうか…と思ったクラウドは、自分の発想に思わず喉の奥で笑った。

「あのね…クラウド…」
「うん」
「その……」
「…ん?」

 中々言い出さないティファに、よほど何か大変なことがあったのか…とクラウドは胸中穏やかでいられなかったが、それでも必死にそんな自分を押さえ込んだ。
 ようやっとティファが話そうとしてくれているのだから、その気持ちをダメにしてしまうわけいはいかない。

 クラウドは耐えた。
 急かしてしまいたい自分を抑えた。
 その努力は報われた。

 そう、報われたのだが…。


「私……二股してるって噂されてるみたいなの…」


 クラウドは己の耳を疑った。
 いや、いやいやいや!
 なんなんだ、その『二股をしてる噂』とは!?

 大混乱のクラウドがもう1度ティファに何と言ったのか訊ねたのは極当たり前のことで、それに対し、無情にも同じ言葉を聞かされてしまった彼の不幸はもう……笑うしかないのではないだろうか…?

「とにかく…説明してくれ…」

 二股をしている、と噂されるということは、少なくとも何か『浮ついた約束』や『気を持たせるような言動』を男にした、ということだ。
 ティファに限って、そういう『浮ついた約束』や『気を持たせるような言動』をとるとは思えない、とクラウドは思ったのだが、すぐにその考えを自ら否定した。

(あ、ありうるかもしれない!)

 お人よし。
 そう、お人よしなのだ、ティファは!
 優しすぎるからこそ、勘違いしてしまうようなことを男に言ったり、ちょっとした仕草を見せてしまっているかもしれないのだ!

「クラウド………怒ってる…?」

 ハッと視線を下げると、腕の中では涙目で見上げている愛しい人。
 慌てて首を振ると、安心させるためにも微笑んで見せた。
 まぁ、かなりぎこちない笑みではあったが、クラウドの気持ちはティファに伝わった。

「その…ね。実は…」

 そうしてティファは重い口をようやっとこじ開けた。

 その男がセブンスヘブンに顔を出したのは2ヶ月ほど前になる。
 発展めまぐるしいエッジには、日ごと夜ごと、新しい人間が星のいたるところからやって来る。
 そんな街に居を構えている店なのだから、新顔の客はこれっぽっちも珍しくない。
 ついでに言えば、ティファのような女性店長が1人で切り盛りしている店はエッジでも少なく、密かなエッジの名物となっていることも新しく来る客が多い理由となっているのだが、ティファは知らないことだった。

 いつものように子供たちが席に案内する。
 男は小さな看板息子と娘の存在に目を丸くしていたが、すぐに人懐っこい笑顔を浮かべて大人しく案内された。
 着いたところはカウンター。
 調理をするティファのまん前だった。
 そこしか1人用の席が空いていなかったのではあるが、もしもこの時、デンゼルが案内したのがもう少しティファから離れていたらこういう面倒ごとにまで発展していなかったかもしれない…。

 男はクルクルと良く働く子供たちに感心し、ティファの手料理に舌鼓を打ち、細やかな気配りが出来る店主を褒めた。
 がっちりとした体型だが気さくな人柄のせいで近づきがたい雰囲気は無い。
 むしろ、話をしているとどんどんその人柄に引き込まれてしまう魅力を持っていた。
 気がつけば子供たちは勿論、傍で飲んでいた全くの他人であるほかの客までもが彼を中心として笑いの輪を広げている。
 その人当たりのよさにティファはカウンターの中で感心しながら見ていた。

 やがて、その輪の中にティファも自然と加わり沢山の話をした。
 最初は彼がどこで生まれたのか、から始まり、紆余曲折を経てエッジに辿り着いた…という話しを面白おかしく聞かせてくれていた。
 その話しの中で、上手に周りの人間の生い立ちや現在の生活を聞き出し、それに対して絶妙な突込みを入れ、笑いを巻き起こす。
 楽しい時間は瞬く間に過ぎた。

 やがて、彼も他の常連客たちの仲間入りとなり、頻繁にセブンスヘブンに顔を出すようになった。
 そんな中、話のひょんな流れで彼がかつての神羅グループの末端で仕事をしていた、という話題が持ち上がった。
 客同士の間では既に出ていた彼の過去話だったが、ティファは知らなかったので大層驚いた。

「まぁ、俺も今思えばなんであんなところ…って思うけど、あの頃は病気勝ちな両親抱えてたし、給料良かったからさ、抜け出せなかったんだ」

 苦笑交じりにそう言われれば、かつてのわだかまりなぞ遠い宇宙の彼方へ飛んでいくというものだ。
 代わり湧いたのは『同情』と、今を懸命に生きている彼への『尊敬の念』。
 ティファの気持ちが急速に近づいた。

 それからはティファも旅の途中の話をポツリポツリ、とこぼすようになった。
 勿論、それは話しても差しさわりの無い程度のこと。
 エアリスの名前も村が滅ぼされたという話も出していない。
 だが、うっかりティファは彼に出してしまった名前があった。
 それが…。


「ザックスの知り合いって言ってたのか?」


 ビックリしすぎて魔晄の瞳がまん丸になる。
 ティファはビクビクしながら顔を伏せた。
 きっと、クラウドから思い切り距離を置きたいと思っているのだろうが、クラウドがしっかり抱きしめているので叶わない。
 微かな身体の震えが全身に伝わってくるようで、クラウドは冷静な己を保つことが出来ていた。

「それで……彼からもっともっと、ザックスのことが聞きたい…って思って…」
「思って……どうしたんだ?」
「………」

 下を向いたまま黙り込んだティファの顎に指をかけて上を向かせる。
 視線は逸らされていたが、薄茶色の瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
 その傷ついた様子にクラウドは息を呑んだ。

 まさか……。
 まさか、そのせいでティファは無茶な要求をされたのか!?

 激しく動悸がする。
 ティファの顎をつまんだまま彼女の名を呼んで続きを促すと、ティファは観念したように目を閉じた。


「もっと話してあげたいけど明日からちょっと仕事続きで中々これないんだ。連絡先、交換しよっか。そんなら、予定がつき次第時間合わせられるしな」

 ニッカリと人の良い笑顔を向けられると、拒否したい気持ちなど湧いてこない。
 この2ヶ月ですっかり彼自身に惹かれている、勿論人間として…。
 だから交換したのだが…。

 それから数日後、ティファに連絡が入った。
 泊りがけの勤務が終わったばかりでアパートに戻った…と彼は言った。
 そのままその日の夜から出張で地方へ飛ぶ…ということだったので、良ければ子供たちも連れて遊びに来ないか?というものだった。
 流石に警戒心が彼に対して持っていないとしても、1人暮らしの男性宅に女性であるティファが1人で訪れるわけには行かない。
 しかし、子供たちも一緒だと問題は無い。
 ティファはデンゼルたちに話し、喜んだ2人を連れ立って彼のアパートを訪れ、楽しい時間を過ごした。
 その日は何事も無くティファたちは岐路に着いたのだが…。

「あれ…?」

 帰宅して少し時間が経った時にティファは首を傾げた。
 結局、彼からザックスのことを一言も聞いていない。
 一体、なんのために行ったんだろう…。

「ま、デンゼルもマリンも楽しんだから、いっか」

 そう納得させてその日は終わった。
 それからまた日が経って何度かそういう『お誘い』があり、ティファは子供たちと一緒に彼のアパートへ遊びに行くようになった。
 商売人という彼は、地方へよく飛んでいた。
 だから、遊びに行くたびに子供たちへ面白い話しを聞かせてくれて、2人はすっかり彼に懐いている。
 そしてそのうち、最初の頃こそ多少は無自覚なりにも警戒していたのに、それがすっかりなくなった。

 いつ頃からだろう?
 子供たちと一緒に遊びに行っても、気がついたら彼のところから帰るときには何故か子供たちがいなくてティファ1人が彼と並んで歩いているようになったのは。
 最初のきっかけは、恐らく彼のアパートを訪ねているときに子供たちの携帯にかかってきた友達からの『遊ぼう』というお誘いだ。

 そうしてズルズルズルズル…と2人で並んで歩くことが増えていって…。


「…それだけでなんで『二股』?」

 クラウドは首をひねった。
 ティファはまだ泣きそうになったままだ。

「なぁ…まだ話してないことあるよな?」
「……」
「…ティファ?」

 念押しするように少し強い口調で言うと、ティファは恐る恐る口を開いた。

「仕事から帰ってきたばっかりで何も食べるものが無い…って言うから…」
「……料理作ってやったのか……」

 思わずその男のところへ乗り込んで殴ってやりたくなる。
 しかし、きっと、絶対、断じてそれだけじゃないはずだ。

「それで、他には?」
「……彼が料理を褒めてくれた後で……『料理が上手な女の子をお嫁さんにしたいなぁ』って言ったから……、『きっとアナタならどんな女の子でもオッケーしちゃうわ』って。そしたら、『サンキュ。にしても本当にティファは料理上手だよな。また作ってよ』て言うからつい…、『いつでもどうぞ』って言っちゃって…」
「……………ティファ…」

 ガックリ。

 思わずティファの身体を抱きしめたままうな垂れた。
 完璧にティファ狙いじゃないか!
 それに気づかず、そんなことをしたり、言ったりしたらそりゃあ期待されても仕方ないじゃないか…。
 ティファはきっと、今回の『二股』という噂を知って初めて自分の迂闊さに気づいたのだろう。
 だからこそこんなにも後悔しているのだ…とクラウドは思った。

「怒った…?」
「怒ってないとは言えないかもな…」

 憮然と答えると、腕の中でティファの身体が小さく震えた。
 苛めるつもりは毛頭ないが、今回の件に関しては手放しでティファを許す…というわけにはいかない気分だった。
 いくら子供たちと一緒でも、若い男の部屋に遊びに行くなどいい気はしない。
 それが例え、彼女にとってシドやバレットのような感覚の相手であったとしても…だ。
 怒っているなら抱きしめるのをやめたら良いのに…と、頭の中の冷静な自分がそう呆れ返っているが、クラウドはそれでもティファを抱きしめずにはいられなかった。
 なにより今回の件で傷ついているのはティファなのだから。

 そのまま黙って抱きしめ続けていると、震える声でティファが話し出した。

「私ね…ザックスのことを沢山聞いて……クラウドに話してあげたかったの」
「…俺に?」
「クラウドにとって、ザックスは特別だから…」
「…ティファ…」

 クラウドの怒りやモヤモヤ、イライラしたものがスーッと消える。
 どうしてもザックスの話を聞かせたい、という一心があったから連絡先を交換してまで頑張ってくれたのだ。
 それもこれも、全部自分のため。

 嬉しくないはずがない。

 怒られるかも、嫌われるかも、という恐怖に怯えながらそれでも必死に、包み隠さず話してくれたティファが愛しい。
 その愛しい気持ちを全部込めるようにギュッと抱きしめると、腕の中の温もりが身じろぎした。
 戸惑っているようだ。

「ティファ、ありがとう」

 ちょっと身体を離して顔を覗き込むと、予想通り、目を丸くした愛しい人。
 自然と笑みが浮かぶ。

「ティファがそこまで俺のことを思って頑張ってくれたっていうのが、すごく嬉しい」
「クラウド…」

 堪えきれない雫が頬を伝う…。
 それを顔を寄せて唇で拭う。

「でも、今度から男の家には絶対に行かないように。理由がなんであれ、絶対にダメだ」
「う…ん、うん…!」
「それに、きっと今回のことは心配ない。ティファは相手の男を傷つけたって胸が痛いんだろうけど、その男、絶対に確信犯だぞ。ザックスのことは知らないはずだ」
「へ!?」
「だって一般兵ですらソルジャークラス1のザックスに近づくのは難しかったんだぞ?それが、神羅グループの末端で勤めるだけだった奴が知り合えるはず無いだろう?」

 苦笑を込めて耳元でそう囁くように言うとティファの身体がビクン、と小さく跳ねた。
 彼女のその反応にクックック…と喉の奥で笑うと、そのまま唇を滑らせて首筋にまで辿った。
 途端、ティファの体温がカッ、と上がる。

「ティファを傷つけたその男のことはもうこれで終わり…な。後は俺が『男同士の話し』をつけてやるから。それよりも…」

 息が激しく喘ぐように口をパクパクさせるティファに、クラウドは意地悪く首筋に口付けたまま言葉を切る。

「空回りだけど頑張ってくれたティファに、ご褒美やるよ」
「え!?ご、ご褒美って…」

 クスクス笑いながら慌てるティファの首筋から顎、頬へ向けて唇を滑らせる。
 そうして、至近距離で見詰め合うと先ほどとは違う意味で潤んだ瞳にかち合った。

「いらないか?ご褒美」

 ティファにだけ見せる微笑を浮かべると、薄茶色の瞳がどうしようもなく蕩けていく。
 その瞳こそが彼女の返事。
 言葉による返事を待たず、クラウドは唇を重ねた。
 縋るように背に回された彼女の手がギュッと服を掴み、クラウドの心臓が跳ねる。

 そのまま労わるように、目いっぱいの愛情を込めて彼女を抱き上げるとクラウドは寝室へと向かった。


 後日。


『ユフィ、ティファにハッパかけてくれたって聞いた。ありがとう』
「おりょ、明日は槍でも降るのかねぇ」

 珍しくクラウドからかかってきた電話にユフィはニヤニヤ笑った。
 ディスプレイに『クラウド』の文字が表示されているのを見て、はてさて、例の『二股事件』はどうなったことかと身構えたのだが、杞憂に終わってくれたらしい…。

『ユフィ経由で話を聞いてたらとてもじゃないがティファの話を冷静には聞けなかったな』
「へぇ、本当に冷静に話し、聞けたわけ?」

 からかうように問いかけると、携帯の向こうからは『まぁ、ちょっとハズレそうになったけどな』という返事。
 ユフィは伸びをしながら空を見上げた。

「それにしても、本当にティファってお人よしだよねぇ。あれはもう、一種の犯罪だとアタシは思うよ」
『…その点に関しては全くの同意見だ』
「一緒に住んでるのに何にも言わないでいきなりいなくなった軽薄男をあっさりと許しちゃうくらいにお人よしなんだから、本当に幸せになってくれるのか将来が心配だよ」
『う……』

 家出の件を持ち出されるとクラウドは弱い。
 分かってて言っているのだが、胸を押さえて黙り込んでいるクラウドが直接見れないのが何とも惜しい気がする。

「なんで目の前にいないかなぁ…」
『……切るぞ』

 ケラケラ笑っている間に本当に携帯が切られてしまったが、ユフィは気にしない。
 こんなことはクラウドにとって当たり前なのだから。

「あ〜、全くいつまで心配したら良いのかねぇ〜」

 久しぶりに清々しい気分になると、ユフィは駆け出した。
 目の前にはシエラ号。
 これからユフィはWROのSOSに応じて極秘任務に就く。

「これで後顧の憂いも無く、仕事に専念出来るってもんだ〜!」

 弾む足取りで乗り込んだユフィはこの後、シドからクラウドがあやうく殺人者になるところだったと聞くことになる。
 相手は勿論。


 二股という中傷を広め、慌てて誤解を解こうと単身アパートに来たティファによからぬことを計画していたアフォ男。



 あとがき


 うわ〜…長くなった。
 読みきりでこんなにアフォな話し(しかも、似たり寄ったりな内容…。ボキャブラリー無くてごめんよぉ…)で!

 今回、ユフィが頑張ってティファと一緒に噂の出所を成敗!って話しにしようかと思ったんですけど、どうしてもクラティのラブラブが書きたくなったんだー!!
 ってことで予定変更。(あう、ごめんよぉ)

 にしても、ティファのお人よしって公式ではどのくらいなんだろう…とか書きながら思ったり…(苦笑)

 お付き合い、ありがとうございます♪