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「はぁい、それじゃあ…」
「「「「「「お疲れ様~~!!」」」」」

 ユフィの元気な乾杯の音頭により、セブンスヘブンに英雄達と本日頑張った隊員達の声、そしてグラスの合わさる楽しげな音が響いた。



彼と彼女に最高のご褒美を…




「そっれにしても、本当に強いんだなぁ、兄ちゃん達!」
「おう、見直したぜ!!」
 ガハガハと大口を開けて笑うバレットと、ヘビースモーカーのシドに両脇を固められ、グリートとラナの兄妹は戸惑いながらも笑顔を見せた。
 二人の中年のハイテンションについていけない。
「ほら、二人共…。グリート君とラナさんが困ってるじゃない」
 ティファが苦笑しながら助け舟を出す。
 そんなティファに感謝しつつ、兄妹は軽く手を振って大丈夫である事を伝えた。
「それにしてもよぉ…、残念だったな、シュリ…だっけ?あと…」
「バルトです…プライアデス・バルト」
「そうそう!折角こうして『頑張った会』を開いたのに任務で来れなくてなぁ…」
 シドが心底残念そうにぼやいた。
 ラナが「本当に…」と応え、隣に立つ兄をそっと見る。
 グリートとしても、この場にプライアデスがいない事は非常に痛い。
 何しろ自分と妹以外、この店にいるのはジェノバ戦役の英雄達とセブンスヘブンご自慢の看板息子、看板娘だけなのだ。

 緊張するな…と言われても無理な話だ…。

「なにさ、その『頑張った会』だなんてネーミング…。センスなさ過ぎ~!」
「じゃあ、お前ならなんてつけるんだよ!」
 ユフィにからかわれてシドがムッとする。
 お元気娘はニッと笑うと、行儀悪く椅子の上で胡坐をかき、
「『慰労会』だね、やっぱり!」
 どうだ!?と言わんばかりに胸を反らせた。
「……お前……めちゃくちゃ年寄り臭いな……」
「なんだと~~!!」
 呆れ顔のシドに、ユフィがヒステリーを起こす。
 いつも通り、何の変わり映えも無い仲間達のやり取りに、クラウドはフッと笑みをこぼした。


 ― WRO隊員の中に慢心している人間がいる。
 その輪が広がりつつあるので協力して欲しい…。 ―


 そうリーブから助けを求められたのは丁度一週間前。
『自分達は特別だ』『自分達は強い』『自分達の力はあのジェノバ戦役の英雄に勝るとも劣らないだろう』
 そう勘違いした隊員達の代表とも言える三バカトリオと『手合わせ試合』を行ったクラウドは、鮮やかにその鼻っ柱をへし折った。
 それはそれは見事な手腕で…。

 リーブから助けを求められた時点では内々のうちに『手合わせ試合』を行うはずだったのに、仕事から帰宅してみればティファが件(くだん)の三バカトリオに鉄槌を下そうとしているではないか!
 それを寸でのところで防いだクラウドに、三バカトリオが要求した『試合の景品』。
 それが…。

「それにしても、まさか『ティファを自分達専属の何でも屋』に指定するとは、ほんっとうに身の程知らずの大馬鹿者たちだったねぇ」

 ティファの手料理に舌鼓を打ちながら、ナナキがしみじみと言った。

 そう。
 ティファを『自分達専属の何でも屋』にするよう要求してきたのだ。
 それも、セブンスヘブンの客達の前で!
 その為、クラウドとWROの隊員達が『試合』を行う事があっという間に広まってしまった。
 お蔭で本日の試合を観戦しにエッジの住民が大勢WROの闘技場に押し寄せた。
 大勢の観客達のまん前で赤っ恥をかかされた三バカトリオとその同志達は、今頃自分達の宿舎で小さくなっている事だろう…。

「でもさ、まさか兄ちゃん達までクラウドと試合をするとは思わなかったな~」
 ポークソテーをモゴモゴ食べながら、デンゼルが楽しそうに笑った。
 グリートも肩を竦めて「俺も、まさかクラウドさんと手合わせするように命令が出るなんて、夢にも思わなかった」と苦笑する。
「そうよね。本当に死ななくて良かったわ。クラウドさん、手を抜いて下さって本当にありがとう」
 グリートの隣に立つラナがニッコリとクラウドに笑いかける。
 クラウドは少し目を見開いて「手を抜くだなんてとんでもない」と言ったが、「良いんですよ、気を使われなくて」と満面の笑みで返された。
 バレットやシドがおかしそうに笑い声を上げ、グリートはいささか頬を赤らめながら妹を睨みつけた。
「おい!他に何か言いようがあるだろう!?」
「あら、例えば?」
「例えばって……」
「ええ、なに?」
「…………」
「ねぇ、なぁに?」
「……………いや……いい……」
 シレッと言ってのける実妹にガックリと脱力する。
 何を言っても無駄な事を妹の年の数だけ思い知らされてきたのだ。
 悪あがきするだけ無駄で見苦しい姿を晒すことになるのは目に見えている。

『触らぬ神に祟りなし……っていうけど、ちょっと違うのか…?いやいや、まさにピッタリ当てはまるのか……?』

 思案顔で首を捻りながら、どの道、自分には妹に勝てるだけの話術が無い事を知っている兄は、英雄達が面白おかしくからかってくるのを苦笑しながら受け流すほかなかったのだった…。

「まぁまぁ…。話は元に戻るが、本当に大したもんだ!な、クラウド!」
 肩を落とすグリートの首に太い腕を巻きつけ、バレットが上機嫌で元リーダーに笑いかける。
 その野太い腕の中で目を白黒させている青年に、クラウドは申し訳なく思いつつも「ああ、まったくだ」と応えた。
「本当にお前ら、お坊ちゃんなのか?なんか、そんな風に見えないけどよぉ…」
 シドがタバコの煙を吐き出しながら胡散臭そうな顔をする。
 グリートとラナは別段気分を害した用でもなく、笑みを浮かべて「ええ、まぁ一応そう言われてますね」とだけ応えた。
 もっとも、グリートはバレットに半分以上首を締められているので声を出す余裕は無かったのだが……。
「リトもライも…それにシュリも本当に大した腕の持ち主だ。正直、シュリとの試合の後でエリクサーをもらえなかったら、リトとライの試合は危うかったと思う」
 グラスを口につけながらそう言うクラウドを、子供達が目を丸くして見上げた。
「え~、そうなの!?」
「へぇ~!リト兄ちゃんとライ兄ちゃんってそんなに強いんだぁ……」
 今日、目の前で戦っている姿を見ているのに、そんな風に言われてグリートはバレットの腕の中で肩を落とした。
 そんな実兄を苦笑しつつラナが見やる。

「こら、二人共そんな失礼な事言わないの!」

 見るに見かねてティファが間に入ったが、だからと言って子供達が反省するかと言えばそうではない。
 何しろ、自分達はグリートとプライアデス、そしてシュリを褒めているつもりなのだから…。

「俺達、褒めたのに?」
「どうして失礼なの???」
「…え…?褒めてたの???」

 キョトンとするデンゼルとマリンに、ティファが今度は困ってしまう。

「そうだよ、だって見た目じゃ強そうに見えないのにクラウドに『強い』って言われてるんだもん!」
「それに今日の試合、俺達の目には『強そう』に見えたけど、実際闘ったのはクラウドだからな。クラウドがどう感じたのか分かんなかったから、クラウドが褒めてやっと『あ~、本当にやっぱり強かったんだ』って思ったんだ。それなのに……失礼……???」
 ますます首を捻る子供達に、グリート達は子供達が本当に褒めていた事を知った。

「良いんですよ、ティファさん。デンゼル君とマリンちゃんが褒めてくれた事が分かりましたから…」

 苦笑いを湛えてそう言うグリートに、ティファは申し訳なさそうな顔をしつつ新しいビールの入ったジョッキを差し出した。

「それにしても、リーブもちっとは頑張った可愛い部下を労ってやれよ…」
 呆れ顔でそう言うシドに、リーブは困ったように苦笑した。
「いえ、本当は今夜、バルト准尉とシュリ中佐もここにいるはずだったんですよ。ですが……」
 一つ溜め息を吐いて首を振る。
「『任務の途中に呼び戻されたので、処理しなくてはならない問題が山積です。申し訳ありませんが、ノーブル准尉かバルト准尉を自分と一緒に任務に戻して頂きたい。でないと、次の問題に取り掛かれません』…と言われましてねぇ…。私としても、今回強引に引き戻したこともあったので強く言えなかったんですよ」
「へぇ…」
「熱心だな」
 ユフィとヴィンセントが感心して唸る。
 WROの局長は苦笑しながら頷いて、グラスを口に運んだ。
「んで、そのバルトって言ったか?が任務に戻ることになったのか」
 気の毒になぁ…。

 そう言ってシドはタバコの煙をプカッと吐き出した。

「どうやって決めたの?任務に戻るか戻らないか」
 クリクリとした大きな目でジッと見つめながら訊ねるマリンに、グリートはたった一言。
「ジャンケン」
 そう答える。
「じゃあ、ライお兄ちゃんはジャンケンで負けちゃったんだぁ…」
 可哀想だね…。

 眉尻を下げるマリンに、「………まぁ…そうだな…」と、どこか含みを持たせてグリートはジョッキを傾け表情を隠した。

 まさか、『ジャンケンに負けたから店に来る事になった』とは誰も思っていないらしい……。
 事情を知っている唯一の人間は妹だけ。
 何しろ、クラウドとティファとは気さくに話せる間柄ではあるが、他の英雄達……とりわけ上司がいるこの『打ち上げ』の場に参加するというのは非常に精神的労力を要求される。
 グリートとプライアデスがどれ程真剣にジャンケンをしたことか…。
 ガックリと項垂れる兄と心の底からホッとしていた従兄弟の様子を思い出したラナは、思わず頬を緩めた。
 そして、複雑そうな顔を隠す兄に倣い、黙って自分もカクテルのグラスを口に運んで表情を隠したのだった。

「それにしても、本当に良かったわ。誰も大きな怪我をしなくてすんで」
 心からホッとした声音でティファが笑顔を見せた。
「そうだよねぇ。リトとライのあのコンビネーション、見事だったし」
 椅子の上で胡坐をかいたままユフィがうんうん、と頷いている。
「お前はいつからそんなに親しい仲になったんだ…?」
 グリートとプライアデスをあだ名で呼んだユフィに、クラウドがジトッとした目で見やる。
「え~、良いじゃん別に。呼びやすいんだもん!」
 あっけらかんとそう言ってのけたお元気娘に溜め息を吐く。
「お前なぁ…」
「うるさいなぁ、じゃあ本人に了承貰ったらOKだよね?いいでしょ、リトって呼んでも~!」
 口を尖らせていたユフィが急に話を降ってきてちょっと面食らうが、すぐに笑みを浮かべ、いつもの口調で、
「勿論、そう呼んでくれると嬉しいっすね!」
 悪戯っぽくそう答える。
 ユフィは満足そうに「ありがとさん!私の事は『可愛い可愛いユフィちゃんv』って呼んでくれていいからね~!」と実に勝手な事を口走った。
 そして、呆れ顔のクラウドを見上げると、
「だってさ、クラウド~!へっへ~、羨ましいか~~」
「………言ってろ」
「あ~、拗ねてる~!かっわいくなぁい!!」
「…可愛いと言われても嬉しくないから別にいい」
「ムキーー!!ほんっとうに可愛くない!!」
「そりゃ、どうも」
「ティファ~~!!こんな可愛くない男、さっさと捨てちゃって他のイイ男、捉まえなよ~~!!」
 クラウドといつものやり取りをギャンギャンと半分喚くように行う。
 その光景に、いささか緊張気味だったノーブル兄妹はすっかりリラックスできたのだった。

「それにしてもさ、ティファを『専属の何でも屋』になんかして、どうするつもりだったのかなぁ…?」

 マリンがミックスジュースを口に運びながら何気なく呟いた。
 その呟きが騒がしかった店内に驚くほど良く響き、一瞬の内に大人達をフリーズさせた。
 居心地の悪い雰囲気が立ち込める。

 気まずさ最高潮の大人達に気付いていない子供達は、頭を捻りながら色々想像しているようだ。
「さぁ。あの兄ちゃん達頭悪そうだったからなぁ。きっと、頭だけじゃなくて他の家事とかも出来ないんだぜ」
「あ、そっか。ならきっと、ティファを『家政婦』とか『使用人』みたいに扱うつもりだったんだ…。やっぱり許せないね!」
「そうだよな!でも、それなら『何でも屋』でなくても最初から『家政婦』とか『使用人』にすれば良かったんじゃないか?」
「ん~、そうだね。何でだろ……?」
「さぁ……?」
「ねぇ、父ちゃんはどう…」「リト兄ちゃんはどう…」
 思う?

 そう続けられるはずだった言葉は、大人達の引き攣った顔の前に飲み込まれてしまった。
 どの顔も目があらぬ方へ向けられ、視線が泳ぎまくっている。
 誰も自分達と目を合わせようとしないばかりか、大人達同士ですら視線を合わせようとしない。

 そんな非常に滑稽で様子のおかしい大人達に、
「「ん???」」
 と首を傾げつつ、デンゼルとマリンは顔を見合わせた。

「ま、まぁ、とにもかくにも『不穏分子』の鼻っ柱を折る事が出来て結果オーライですよね」

 場を取り繕おうとして明るくそう切り出したラナに、
「え、ええ!その通りです。本当にクラウドさん、無茶なお願いを聞いて下さってありがとうございました!」
 リーブが飛びついて便乗する。
「あ、ああ…いや、良いんだ、気にしないでくれ。それに、俺も…初めて『闘うのが楽しい』と思えたし…な」
 穏やかな顔で微笑むクラウドに、ティファが嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そう言って頂けて光栄ですよ、クラウドさん!」
「こちらこそ、本当に貴重な体験をさせてもらって感謝してる」

 ニッコリと笑うグリートと、穏やかな眼差しのクラウド。
 そんな二人を微笑ましく見つめる英雄達。
 子供達はすっかり自分達の質問を口にするきっかけを失ってしまった。
 なんとなく面白くない気もしないでもないが、そこは聡明な子供達のこと。
『『きっと、聞かないほうが良いんだろうな(ね)』』
 心の中でそう納得すると、自分達の料理に意識を移したのだった。

「それにしても、やっぱり英雄の皆さんはお強い!俺ももっと頑張らないとな~!」
 うーん、と伸びをしながらそう言ったグリートに、
「でもよぉ。お前が闘ったのはクラウドだけだろ?俺達までお前よりも強いとは限らないぜ?」
 バレットが少々からかうようにそう言った。
 グリートは肩を竦めると、
「いやいや、闘わなくても分かりますってそれくらい。こう…なんて言うか…。身体から出てるオーラって言うか、気迫って言うか…。とにかく醸し出してる『モノ』が全然違いますからねぇ。『逃げるな』って命令が無かったら『敵前逃亡』しますね、俺は!」
 そう茶化した。
「フフ…命令したら逃げないで頑張るんですか?なら、『逃げるな』と命令しちゃいましょうかね」
「きょ、局長…。もう今日みたいな命令は俺達に回さないで下さい……お願いですから……」
 可笑しそうにそうからかうリーブに、グリートが引き攣って懇願する。
 今日の闘いがどれ程グリートにとって意外過ぎるものだったのか…そして、非常に大きな重圧だったのかが窺える。
 グリートの情けないその表情に、皆がドッと笑い声を上げた。

「ま、冗談はさて置き…」
 表情を改めてリーブはクラウドとティファに向き直った。
「本当に…ありがとうございました」
「リーブ」
「そんな畏まらなくても良いのに…」
「いいえ、本当にありがとうございました」

 頭を下げる仲間に、クラウドとティファは戸惑いながらも嬉しく思った。
 色々抱え込み、悩む傾向にある仲間がこうして頼ってきてくれた。
 そして、力になれたのだから…。

「それにしても、本当に今回の事で自分の力のなさを感じずにはいられませんでしたよ…。もっと…頑張らないと…」
 ほんのちょっぴり自嘲気味に笑うリーブに、仲間達が反論しようと口を開いた。
 が…。
「なに言ってるんですか!」
「そうですよ…。俺達は局長だからこそ、WROに入隊したんですよ?それなのに、そんな事言われたら困ります…」
 ノーブル兄妹が言葉を発した。
「神羅の元幹部でこうして今も責任を持って星の再生の為に頑張っておられるのは局長だけじゃないですか」
「それをそこまで卑下される必要は、これっぽっちも無いと俺は思いますね」
「それに、局長は何でもご自分のせいにして抱え込まれ過ぎです!」
「今回の『やっかみ』と『勘違い』している隊員達は、自分達の能力を知ろうともしない低俗な人種じゃないですか…。どこの社会にもああいう輩は存在しますって」
「そうです!社交界だともっと腐るほどいます!」
「だから、隊員達の『性格』まで局長が頭を悩ませる必要ないですよ」
「それに、兄達が『二階級特進』したことでウダウダ言ってくる人間は、これからは無視です、無視!」
「そうそう。『二階級特進』したことが間違いじゃなかった…と俺達がこれから証明して見せますから」

 捲くし立てるように見事なコンビネーションで言葉を紡ぐ兄妹に、皆が呆気に取られる。
 リーブも目を丸くしていたが、最後のグリートの台詞に心から嬉しそうに笑った。

「ええ、期待してますよ」

 局長の直々の激励の言葉に、兄妹はグラスを置いて敬礼した。





「それにしても、ティファさんも災難でしたね」
 暫くお祭り騒ぎが続いて、皆がほろ酔い気分になったとき。
 ラナがそっとティファに声をかけた。
 首を傾げるセブンスヘブンの女店長に、ラナは苦笑する。
「だって、大丈夫だと分かっていても、『試合の景品』として凄く注目されてたでしょう?私ならいやだなぁ…」
「ああ…それね…」
 ティファも苦笑すると、グラスのふちを指先で軽く叩いた。
「でも、まぁ首から『景品』ってカードをぶら下げてたわけじゃないし…そんなでもなかったわよ?」
「そうですか?」
「うん…まぁ、少しは緊張したけど…」
 そう言いながらも、闘技場の観客席にいた時に、観客達から突き刺さるような視線を浴びていたことを思い出して少々眉を顰める。

「あ、それね!本当はティファには『メイド服』を着てもらう予定だったんだ~」

 ティファとラナの会話に突然割り込んできたお元気娘の爆弾発言に、店内が再び凍りついた。
 ユフィはいささか酔っているのか、その空気に気付いていない。
 赤らんだ頬をして、トロンとさせた目で上機嫌に言葉を続ける。
「でもさぁ、そんな格好させたらクラウドが試合に集中出来なくなるっしょ?そんでもって、万が一、負けたりしたらそれこそ大変じゃん!だからやめたんだ~!」
 エヘヘ~、やめといて良かったでしょ?

 そう言うウータイ産の忍に、クラウド達は絶句した。
 あと少しでそんな赤っ恥な姿を大衆の目に晒すことになったかもしれないと言う事実に、ティファの顔が引き攣る。
 そして、それとは別の意味で、クラウド達男連中は真っ赤になった。

 ナイスバディのティファが…。
 眉目秀麗で美人なティファが…。
 フリル沢山のメイド服……。

 想像しただけで血圧が上がる。

「よ、良かった……本当に…そんな格好されなくて本当に良かった……」

 そう言ったのは、クラウドではなくグリート。
 子供達が不思議そうにグリートを見上げる。
 その視線に全く気付かず、
「そんな格好されたら絶対に集中して試合なんか出来ないっつうの……!」
 ブツブツそう呟いた。
「まったくだ…」
 クラウドが心の底から頷く。
 バレットとシド、ヴィンセントとリーブは、それぞれあらぬ方を見たり、自分のグラスへ視線を落としたり……。
 決して誰とも視線が合わないようにしている。
 それがラナの目には非常におかしくて。
 そっと背を向け、肩を震わせ忍び笑いをした。


「ま、まぁ…とにかくだ。その考えを改めてくれたのは感謝する」
 少々的外れな発言をしたクラウドに、「エヘヘ~、良いって事よ~」と上機嫌でお元気娘がヒラヒラと手を振った。
 クラウドとティファが揃って溜め息を吐いたのを見て、仲間達が笑みをこぼす。
 ラナはそんな光景に心温まるものを感じたが、ふと何かを思いついたような顔をした。
 そして、そっとティファから離れると、上司と一緒に並んで座っている兄の元へ向かう。
 何気ない振りを装い、グラスを傾けながらボソボソと話しかけると、グリートは目をパチクリさせ、次いでニッと笑って見せた。
 それは、子供の頃から『了解した』時に見せる笑み。
 ラナは満足そうに微笑み返すと、今度は子供達の所へ向かった。
 デンゼルとマリンは、バレットとシドの間で楽しそうに談笑している。
「デンゼル君、マリンちゃん」
 声をかけたラナの視界の端に、兄が上司にそっと耳打ちしている姿が見えた。
「ん?なに?」
 キョトンと見上げてくる子供達の頭をクシャクシャと撫でながら、やはり何でもない風を装ってボソボソと呟く。
 子供達の顔がパッと輝き、その密かな会話を聞いていたバレットとシドが悪戯っぽく笑った。
 デンゼルとマリンは満面の笑みで立ち上がると、それぞれクラウドとティファの元へ駆け出した。
 その間、リーブがヴィンセントに、グリートがナナキに近寄ってそっと話しかけていた。
 話を聞いた二人は、『面白い』と言うかのように含み笑いをしている。


「クラウド!この前撮ってくれた写真、どこにしまったっけ?」
「写真?」
 元気良く駆けて来たデンゼルに、クラウドは首を捻った。
「ほら、この前クラウドが配達先で景色を撮って来てくれただろ?あの写真、すっげ~良かったからリト兄ちゃんにも見せたいんだ!」
「ああ、アレか」
「なぁなぁ、持ってきてくれよ!」
「今か?……そうだな……」
 そう言ってチラリとグリートを見る。
 WROの隊員は、自分を見ているクラウドに気付くとニッと笑いかけてきた。
「よろしくお願いしま~す!」
 陽気にそう言う青年に、クラウドはフッと笑うとデンゼルの髪をクシャリと撫で、
「じゃ、ちょっと見てくるから待っててくれ」
 そう言い残して二階に向かった。
「クラウド、他にも家族写真とかもあるだろ?やっぱりあるだけ全部持ってきてくれよ~!」
 階段の手前でそう声をかけられたクラウドは、驚いて振り返った。
 ティファもデンゼルの発言に目を丸くしている。
「全部か?」
「うん!」
 嬉しそうに頷くデンゼルに、クラウドは少々渋い顔をした。
 そんなクラウドに、
「クラウド、ケチケチすんな!」
「俺様達も見てやるからな、ほれ、とっとと行け!」
 バレットとシドが理不尽な言い方をする。
「クラウド一人じゃ重くて大変だと思うから、ティファも行って来てよ!」
 マリンが空いた皿を両手に抱えながら、明るくそう言った。
 ティファは「そうね……大変でしょうし…」と、特に考えもなくマリンの発言に賛成すると、階段手前で止まっているクラウドに並んだ。
 そして、微笑みながらクラウドを見上げると、
「じゃ、行こっか」
「…分かった」
 諦めたようにガックリと肩を落とす愛しい人に、クスクスと軽い笑い声を上げた。
 そして、二人並んで階段を上る。
 そんな二人の耳に、何やら店内からバタバタと慌ただしい物音が届いた気がしたが、二人共さして気にもせず、写真を探しに部屋に入ったのだった。

「あ、これも良いよね」
「ああ…そうだな。そう言えば、あの写真はどこに置いたっけ?」
「あの写真?」
「ああ、ピクニックに行った時の写真」
「あ~、あれならデンゼルとマリンが友達に見せる…って言って……。確か、子供部屋の机の上にあった気がするわね」
「あれも見せたらバレットが喜びそうだな」
「うん、そうね!あ、これも良いんじゃない?」
「ん?あ~、ゴールドソーサーに行った時の写真か…!」
「うん!楽しかったわよね!」
「ああ…そうだな」

 どの写真を見せるべきか。
 デンゼルは全部!と言っていたが、とてもじゃないが全部の写真を見せることは難しい。
 家出から戻ったクラウドは、とにかくよく写真を撮るようになった。
 そして、その数は半端ではない。
 どの写真が良いのかを選んでいる内に、ティファと写真を撮った当時の事で話が盛り上がってしまい、二人が店内に戻ったのは写真を取りに二階にへ移ってから三十分以上経ってからだった。
 写真選びにすっかり夢中になってしまい、いささか慌てて店内に戻る。
 きっとへそを曲げているだろう子供達と仲間達に、
「遅くなってすまない!」「ごめんね、ちょっと選んでたら…」
 そう声をかけながら駆け下りた二人の目に飛び込んできたものは…。

「「…………」」

 シーンと静まり返り、ガランとした店内だった。
 どんちゃん騒ぎをした形跡は微塵も無く、綺麗に片付けられている。

「え……なんで…?」
「さぁ……」

 洗い終わったばかりであろう食器が、水切りの中で雫を垂らして店内の照明に照らされ、輝いている。
 テーブルも椅子も、きちんと元通りになおされており、自分達以外の人の気配が全く無い。
 まるであの騒ぎがウソだったかのようだ。
 その光景に二人は暫し唖然としていたが、ふと視線をめぐらせたクラウドの目に、一枚のメモ用紙が飛び込んできた。
 それは、クラウド専用のカウンター席、チョコボのクリスタルガラスの置物に挟まれていた。

 そのメモに目を通したクラウドは、軽く目を見張り、次いで照れ臭そうに微笑んだ。
 そしてティファにそのメモを見せる。

「…!?……………もう!」
「ハハ…やられた…な」

 真っ赤になってそわそわと落ち着きをなくしたティファに、クラウドは悪戯っぽく笑ってみせた。
「さて。折角こうして皆が気を利かせて『ご褒美』をくれたわけだけど……どうしようか…?」
「…う………」
 そう言いながら、カウンターのスツール、自分の指定席に腰を下ろす。
「俺としては、皆の好意を無駄にしたくは無いのだが…」
「………うぅ…」
「ティファはどう?」
「…………」
 真っ赤になって俯きがちな彼女に意地悪くそう問いかける。
 ティファはというと、逃げ出したい気持ちと皆の好意に甘えたい気持ちがない交ぜになっていて、頭がパンク寸前だ。
「やっぱりイヤか?」
 からかうように首を傾けて見せる青年の紺碧の瞳が、可笑しそうに…それでいてどこか艶めいている。
「!?……クラウド…本当に意地悪ね」
「フッ…そんなつもりは…」
「『無い』とでも言うつもり?」
「いや、『ある』かな?真っ赤になって困ってるティファは可愛いし」
「…ク、クラウド……」

 耳まで真っ赤になり、照れながら怒っているティファに、そっと手を差し出す。
 戸惑ったような顔をする彼女に、「こっち……来いよ」そう囁くように声をかけると、おずおずと彼女の手がクラウドの手に重なる。
 ゆっくり…。
 ゆっくり……。
 ティファを引き寄せ、もう片方の手を彼女の頬に添える。
 ティファの瞳が微かに揺れているのが見える。
 そのまま彼女の頬に添えた手を後頭部にゆっくりと回して引き寄せ、優しい口付けを贈った。
 少し顔を離して至近距離でティファの茶色い瞳を見つめると、ティファは真っ赤になったままそれでも嬉しそうに微笑んだ。

「ほんとに、今回はごめんな。結果的にティファを晒し者にしてしまった…」
「クラウド。…クラウドが悪いんじゃないじゃない…」
「いや、あの三人がバカなことを言う前に店から叩きだしたら良かったのに…そうしなかったから」
 ほんの少し、顔を顰めて悔しそうに言うクラウドに、今度はティファがそっと手を伸ばし、クラウドの前髪を優しく梳いた。
 いつの間にか、ティファの身体はクラウドの膝に抱え上げられている。
「良いの。それに、ちゃんと勝ってくれたし、それに……」
「……それに?」
「……………」
「なんだよ、気になるだろ?」
 赤い顔のまま口篭もったティファに、優しく声をかける。
「…私が賭けになってるから…、負けられない…って言ってくれて……嬉しかったもん…」
 思い切って口を開いたティファの言葉に、クラウドは目を見開いた。
 そして、再び顔を寄せて彼女にキスを贈ると、そのままギュッと抱きしめた。

「そんなの……当たり前だろ……?」
「へへ……ありがとう」

 ティファもそっとクラウドの首に両腕を回し、抱きしめる。
 甘やかな雰囲気に、二人は暫し浸っていたが…。

「はぁ…限界だ」
「え?…キャッ!」

 溜め息をこぼしたかと思うと、クラウドは軽々とティファを横抱き……つまりお姫様抱っこをしてフワリと笑って見せた。

「折角だから、今夜はのんびり二人で過ごしたい……良いか?」
「………………………うん」

 もうこれ以上ないくらい真っ赤になりながら、それでも嬉しそうに微笑んだ愛しい人に再び口付けを贈る。
 そうして…。
 二人の姿は二階の寝室へと静かに消えていった。


 誰もいなくなった店内に残されたのは、仲間達から残されたメモ。



 ― 今回はほんとうにご苦労さんvvv 頑張った二人にご褒美だよん♪ 今夜から三日間、ゆ~っくり二人っきりで楽しんでチョ☆ その間のクラウドの配達はWROがしてくれるってさ。んでもって、セブンスヘブンはお休みにする事!子供達はウータイで観光旅行だから、心配しないでね~♪ んじゃ、しっかり二人で楽しんで頂戴!! 追伸:絶対にちゃんと二人で楽しい時間を過ごす事!でないと、もう子供達は返さないし、絶交だからね!!  クラウドとティファの戦友で友人で仲間達よりvvv ―






 オマケ


「本当にWROでクラウドの配達の代わりなんかするのか?」
「ええ、今回の事では本当に助けて頂いたので…。それに、あの三人には罰を科さねばなりませんからね。丁度良いんですよ。クラウドさんの仕事を馬鹿にしている様でしたから、この三日間、徹底的にクラウドさんの仕事の大切さを身を持って知って頂きましょう」
 バレットの問いに、リーブがこともなげにそう答えた。
「それにしても、あの二人、本当にゆっくりしてくれるかなぁ…」
「そうだよな。なんかティファの場合、ここぞとばかりにクラウドに手伝ってもらって大掃除とかしそうだし」
 思案顔の子供達に、大人達は苦笑した。
 ありえない話ではないからだ。
「ま、それでもクラウドさんとティファさんにとって、それが『楽しい時間』ならありじゃないか?」
「ん~、まぁそうね。でも、どうせならどっか旅行とかに行って羽を伸ばしてもらいたいわね~」
 ノーブル兄妹の言葉に、子供達が「うんうん!」「そうだよな!」と力一杯頷いた。
「じゃあ、旅行代としていくらか置いてくれば良かったですね」
 リーブが失敗した…と言わんばかりにそう呟く。
「そんな事したら、あの二人は気を使うんじゃないのか?まぁ、二人の事は二人に任せておけばそれで問題ないだろう」
 寡黙な仲間の言葉に、
「ま、そうだね。それにしても、良かったよねぇ、二人が下りてくるまでに片付けが終って」
 ナナキがそう言った。
「本当に!デンゼル君、ナイスアイディアだったわ!」
「へっへ~、そうだろ?写真ってさ、見てたら話が盛り上がるじゃん?だから、二人共絶対に遅くなると思ったんだ~!」
「それに、マリンちゃんも片付けの手際の良さ、凄かったわ!」
「エヘヘ、ありがとう!」
 褒められた子供達は至極ご機嫌にシエラ号に備え付けられていたソファーに座りなおした。
「あの二人が三日間をどう過ごしたか、ちゃんと聞き出さないとな!」
「おうよ!これで大掃除だ、店の買出しだ、とか言いやがったら……」
 どこかいきり立っているシドとバレットに、グリートが「いや、聞くのはちょっと野暮なんじゃ…」と口の中で呟いた。

「とにかく、あの二人が幸せな時間を過ごせるように祈りましょう!」

 リーブの締めの言葉に、仲間達と子供達、そしてノーブル兄妹はそれぞれの言葉で返事をしたのだった。


 そんな温かい心を持った優しい英雄達とWRO隊員、子供達を乗せたシエラ号は…。
 ゆっくりと夜空を飛んでいくのだった…。



 あとがき

 お待たせしました!93239番キリリク小説です!!
 時間がかかってしまって本当にゴメンナサイ。
 リク内容は『「英雄達のリーダー」の直後のクラティのアマアマ話で、景品にされて嫌な思いをしたティファには幸福を、頑張ったクラウドにはご褒美を』とのことでした。
 リクして下さったT・J・シン様…。
 本当に…。
 本当に……。

 ゴ~メ~ン~ナ~サ~イ!!

 甘く出来たのは最後の最後だけ……(ダク汗)。
 しかも……ぬるい甘さ……(ガックシ)。
 私には甘いお話って無理みたいです(;;)。
 本当にゴメンナサイ!!
 こんなお話しになっちゃいましたが、宜しければお納め下さいませ~(土下座)。
 勿論、叩き付け返品可です(汗)

 リクエスト、本当にありがとうございました!!