『ああ、また来た…』
 ティファは、店に入って来た男性を見るなり不快感が込上げるのを感じた。


 価値のある人、価値の無い人



 その男性は、ミッドガルでセブンスヘブンを開いている頃からの知り合いだった。
 現在のセブンスヘブンに通って来るようになってから、まだ日は浅い。
 
 彼がエッジにやって来て、このセブンスヘブンに通うようになったきっかけは、特に他の常連客と変わらない。
 復興めざましいエッジに、一旗上げようとしてやって来た、いわゆる野心家とまではいかないが、それに近い人種。
 人当たりの良い性格に、人懐っこい表情の彼は、ミッドガルの頃でも人気が高かった。
 しかしティファは、そのあまりにも作られた顔に好意が持てず、常に営業としての態度でした接することは無かった。
 にも関わらず、彼はティファに対し、あからさまな態度で好意を示し続けていたのものだった。
 しかし、辟易する彼の態度も、バレットがいる時ではなりを潜め、彼は他の常連客と変わらない態度で過ごしていたのだ。
 いや、むしろ、バレットの気に入りそうな事を次々口にしては、バレット自身に取り入っていたのだった。
 その為、バレットは彼のそういった行動を知る事無く、逆に彼に対して好感を持ったまま、今日に至っている。

 要するに、この男は非常に『したたか』なのだ。

 決して自分の不利益になる事はせず、周囲の人の心情を読む事に聡く、そしてそれを最大限に活用して自分を売り込む。

 ティファは、そういった人間が大嫌いだった。

 人の心を読む事に長け、それを駆使して皆に幸せを与える人…。
 そういう人達は勿論大好きだし、尊敬している。いや、むしろ憧れていると言っていい。
 自分も、彼等や彼女等の様に、人に幸せや安らぎを与える人間になりたいと思っている。

 しかし、たった今入って来た、気安い態度で人の良い笑みを浮かべるこの男は、そう言った人達とは真逆の人種ではなかろうか?
 そんな彼に好意を持つなど、ティファには到底出来ない事だった。
 そして、それ故に子供達には彼に接して欲しくないと思っている。
 聡い子供達だが、もしかしたら彼の何らかの影響を受けてしまうかもしれない。
 それに、彼の様なしたたかな人間に子供達が利用されるなど、真っ平だった。
 恐らく、この考えを他の人が聞けば『子供相手に流石にそんな事しないだろう?』と嗤うだろう。しかし、この男は利用出来るものなら何でも利用する、そんな人間だと思っているし、その事を確信している。
 その為、嫌々ながらも、子供達が接する事が無いように、ティファは自分の感情を抑えて今夜も営業用の笑顔を貼りつかせ、注文を取るのだった。


「やあ、ティファ。今夜も綺麗だね」
「あら、相変わらずお上手ね。でも、おまけはしないわよ」
「おやおや、本当のことなのにさ、なあ、皆?」
 巧妙に自分の手を握ろうとするのを避けながら、さらりと笑って見せるティファに、男はおどけた口調で周りの常連客を引き込んだ。
 常連客は、彼に対して敵意が無い為、「おう、その通りだぜ」「今夜もセブンスヘブンの店長は最高さ!」などと、笑顔を見せる。
 そのやってこの男は、いつも周囲の人間を自分の味方に引き込むのだ。

 ティファは、込上げてくる不快感を表情に出さないよう努めながら、笑顔を見せつつも淡々と仕事をこなそうとした。
「はいはい、お褒めに預かり光栄だわ。それで、今夜のご注文は何かしら?」
「う〜ん、そうだなあ…」
「決まったら呼んでくれる?」

 そう言ってカウンターの中へ逃げようとするが、「あ、ちょっと待って、直ぐ決めるから」と、引き止められてしまう。
 そして、もったいぶった仕草でメニューを眺めるのだ。
 これも、いつものこと…。
 ティファは、じりじりしながら我慢強く注文を決めるのを待った。

「どれも魅力的なんだけど、やっぱりティファが一番魅力的だな」
 メニューから視線だけを向け、上目遣いで見つめてくる。
 仮に、これがクラウド相手だったら、喜びと恥ずかしさで顔を真っ赤にさせてしまうのだろうが、生憎この男に抱く感情は…。

 嫌悪感。

 ティファは、上目遣いの視線に全身に虫唾が走るのを感じた。
 それを顔に出さないようにするのは、本当に一苦労だ。
 思わず悪態を吐いてしまわないよう、一呼吸おくと、苦労して普通の声を絞り出す。

「あら、残念だけど私は食べ物でも飲み物でもないの。ご注文が決まってないなら後で呼んで頂戴ね」
 そう言い残すし、今度はさっさとカウンターへ戻る事に成功する。
 背後で、「残念、またふられたよ」と言って、周わりの常連客達と笑いあっている声が聞こえる。

 本当に、何てイヤな男だろう…。

 カウンターの中で、料理を作る振りをしながらティファは溜め息を吐きそうになって顔を引き締めた。仮にも接客業の最中なのだ。溜め息など厳禁である。
 本当に、この仕事もし辛くなってしまった。
 彼が来る前は、自然に出来ていた笑顔や言葉掛けも、今では不自然なものに感じてしまう。

 これじゃあ、店長失格ね…。

 内心で自嘲しつつ、カウンターの中を行き来する。

 マリンは、そんなティファの心情を察しているのであろうが、今のところまだそっとしておいてくれている。
 デンゼルは、マリンほどではないが自分の変化に何となく気づいているらしかった。
 それでも、マリン同様その事に関して何も言って来ない。ただ、心配そうに自分を見守っているだけに止まっている。

 本当に出来た子供達だ。
 人の心情を読む事に関したら、この男に引けを取らない。
 そして、その力をこの男とは真逆に活用させ、人の心に安らぎを与えてくれる。
 何て素晴らしい子供達か!
 それに比べて、この男の醜さときたら…!!

 ティファが改めて子供達を心の中で賞賛していると、
「ティファ、注文お願い!」
と、例の男が声を掛けてきた。

 自分の名前を呼び捨てにされている事も、不快感の原因の一つかもしれない。
 家族と仲間以外で呼び捨てにされる等、言語道断だと無意識に感じているのだろうか?
 それとも、この男からだろうか…?

 そんな事をうっすら考えながら、ティファは努めて明るい声で「はぁい」と返事をし、重い気持ちを引きずりながら注文を聞きに向かった。

 マリンが心配そうな目をして近寄ろうとしているのが目の端に映る。
 ティファは、そんなマリンににっこりと微笑みかけると、目で「大丈夫』と伝えた。
 マリンは、何か言いたそうな顔をしていたが、丁度、他の常連さんがメニューを頼んだ為、そちらの対応に行かざるをえなくなった。

 我ながら、子供達に『過保護』にされている…。

 そう感じてしまい、苦笑する。
 本当なら、自分がもっと子供達に頼られなければならないというのに、これでは立場が逆ではないか…。

 もっと強くならなければ!
 そう、この目の前の男に翻弄されるなど、論外だ。
 こんな小賢しい人間は、適当にあしらうに限る。

 ティファは、気持ちを切り替えて自分を笑顔で見つめている男に向き合った。
「はい。ご注文は?」
「エビマヨネーズ炒めと、鳥のから揚げ、それに出し巻き卵と本日のスープにビールを中ジョッキでよろしく」
「はい。すぐお持ちしますね」
 いつもなら「セブンスヘブンの店長の笑顔」とか「今度の休みの日を俺の為にとっておいて」などと鳥肌が立つような台詞を口にするのに、案外普通な返答をした。
 ティファは、意外に思いながらも内心で胸を撫で下ろし、注文を書き取る。

 そして、くるりとカウンターへ足を向けた瞬間、ガシッと手を掴まれた。

 ギョッとして振り向くと、これ以上ないくらい作った笑顔の男が、
「それと、今夜お店が終わった後、俺に時間をくれない?」
と、引き寄せようとする。

 一気に全身を無数の虫共が走り抜ける感触がした。
 思わず手を振りほどくと、そのままの勢いで殴り飛ばしそうになる。
 だが、ここでティファは、何とか振りほどいた手を硬く握り締めるだけで自分を抑える事に成功した。
「も、もう!冗談ばっかり言って、困ります!」

 そう言い捨てると、足早にカウンターへ逃げ帰る。
 そんなティファの耳に「あ〜あ、またふられちゃったよ」と言う男の声と、周りの常連客の笑い声が響いてきた。

 他の常連客は、ティファの心情に全く気付いていない。
 その事は十分承知しているのに、常連客達の笑い声が男の存在に侵食され、どうしても嫌味なものに聞こえてしまう。


 駄目だ!
 こんなんじゃ駄目だ!!
 もっと、強くならなくては!
 ここはお酒を出すお店。
 こういう勘違いしたお客が来る事など、お店を開業する時に覚悟したはずだ!!


 ティファは、他のお客に笑顔を向けながら自身を叱咤した。
 そんなティファの姿を、子供達が心配そうに見つめていた…。



 そうこうするうちに時間は過ぎ去り、男は出された料理を食べ終わる頃には、ほろ酔いを少し過ぎた状態になっていた。
 素面(しらふ)の時でも饒舌でなのだ。こういう状態だと尚更、その舌の回転が良くなるのは仕方ないのかもしれない…。
 悪寒の走る台詞と共に、馴れ馴れしい態度で必要以上に自分に触れようとしてくる。
 彼がセブンスヘブンに通い始めてから、段々とその行為がエスカレートしているのに、ティファは心底嫌気がさしていた。

 こんな時、クラウドがいてくれたら…。

 未だ帰らぬ愛しい人に想いを馳せる。
 今夜もクラウドは配達の仕事で遅くなる予定だった。
 そう、もしもクラウドが連日帰宅時間が遅くならなかったら、この男もここまで鬱陶しい存在にならなかったかもしれない…。

 そう考え、だがすぐに首を振る。

 バレットの時もそうだった。
 バレットがいる時は、実に巧みに事が露見しないよう振舞っていたではないか。
 きっと、クラウドがいてもバレットの時同様、常連客の一人としてそれ相応の振る舞いしかしないだろう。
 この男は、決して馬鹿ではないのだ。
 否、むしろ非常に頭が切れる。
 そして、その事を十分に自覚し、最大限に活用して自分の利益になるよう事を運ぶのだ。
 そういう態度が、ティファの目には他者を侮蔑している様にしか見えなかった。
 ティファの気持ちに、恐らくは気付いているであろうが、全くその事を感じさせない男の態度に、最近では気味悪いものすら感じている。

 負けてなるものですか!

 そう思っている。
 ここで、自分が何かしらの行動を起こせば、折角軌道に乗ったセブンスヘブンを閉めねばならない結果になりかねない。
 何しろ、彼の行動は周囲から見ればギリギリ許容範囲内なのだ。
 それ故、他の常連客達も彼と一緒に楽しそうに笑っている。
 もし、ここで自分が手を出せば、あっという間に悪評が立つだろう…。
 それに何より、子供達の手前、そのような大人気ない行動は絶対に取れない。
 現時点でもう既に、子供達は心配そうな、不安そうな眼差しを向けているではないか。
 これ以上、子供達に心配をかけたくない。
 何より、やっと手に入れた平穏な生活を…、クラウドが疲れて帰っても心休める事の出来る場所を手に入れたというのに、絶対に失いたくない!

 その一心で、今夜を何とか乗り切ろうとしていたティファの耳に、
「だからさ。ほんっとうにジョニーは昔っからどうしようもない奴だったんだ」
と言う、最低な言葉が飛び込んできた。

「ジョニーってさ。いっつも『ティファちゃん、ティファちゃん』っつって、後追っかけ回しててさ!もう、見てて哀れになるくらいの振られっぷりだってのに、本人は全然気付いてないんだよ」
 面白おかしくジョニーの事を悪し様に語っている男に、ティファは怒りが込上げてきた。
 そして、男の言葉を聞いて笑っている常連客達にも苛立ちを覚える。

 こんな男の話のどこがそんなに面白いというのか…!?
 人を悪し様に語る男を、何故誰も諌めないというのか…!!

 思わず口を挟みそうになるが、グッと堪える。
 ここで口を挟むと、悪い方へ話が流れて行く気がするのだ…。
 それは、今まで我慢していた鬱憤を吐き出してしまう可能性があるという事を、無意識に感じていたからだが、怒りに震えるティファにはそこまで考える余裕など全く無かった。
 ただひたすら、他の客の話に耳を傾け、聞きたくない会話が頭に入ってこないようにする。

 だが、そんなティファの努力を嘲笑うかのように、男の声が耳に突き刺さってきた。
「だからさ〜、本当にアイツって何やらしても駄目な奴でさ。全部中途半端で放り出しちまうんだ。何度泣きつかれたか分からないな。それで、結局は夜にセブンスヘブンに自棄酒(やけざけ)しに行って、二日酔いで翌日動けなくなるんだぜ。本当に本物の馬鹿なんだよ」

 怒りで目の前が奇妙に揺らいでいる。
 ティファは、あと一歩のところで己を保っていた。
 だが、次の言葉にとうとう心の枷が外れてしまった。


「ジョニーに価値があるって言ったら、エッジにティファがセブンスヘブンを開いている事を教えてくれたくらいだね」


 男がこう言った直後、ティファはカウンターを飛び越えた。
 そう、カウンターを回りこんで飛び出したのではない。
 『飛び越えた』のだ。

 そんなティファの行動に、他の常連客達はびっくり仰天し、目を見開いている。
 だが、そんなティファの行動よりも驚くべき事が起こった。


「うわっ!な、何すんだ!?」
「うるさい!お前なんかがジョニーの悪口言うな!!」
「そうよ!ジョニーの方がうんと良い人だわ!!」

 何と、子供達がめいめいアルコールの入ったグラスと水の入ったグラスを、男目掛けて投げつけたのだ。
 当然、男は頭からアルコールと水を被ってしまい、ポタポタ雫を垂らしてみっともない姿になってしまった。
 店内はシンと静まり返り、怒りに身を任せて飛び出したティファも、子供達の行動に怒りを殺がれてポカンと立ち尽くした。

 そんな周囲の視線の中、子供達は頬を高潮させ、怒りの為に涙を滲ませた目で睨みつけている。
「ジョニーの事を馬鹿にしてヘラヘラ笑ってるお前の方が、よっぽど馬鹿だ!!」
「な、何!?」
 デンゼルの言葉に、男はサッと顔を赤くすると、睨みつけた。
 だが、デンゼルもマリンも、男のぎらついた目に臆する事無く声を張り上げる。
「ジョニーは、絶対に人の悪口言ったり、馬鹿にして笑ったりしないもん!!」
「そうだそうだ!ジョニーは確かにドジかもしれないけど、それでも一生懸命頑張ってるんだ!お前なんかと比べたら、ジョニーの方が絶対に毎日一生懸命頑張ってるんだからな!」
「そうよ!『価値のない人』だなんて、絶対に言わせないんだから!!」


 この言葉に、男と一緒に笑っていた常連客達は、羞恥心から顔を赤くし、気まずそうに俯いた。
 男は、完全に気圧されて口をモゴモゴさせていたが、息を切らせて二人が黙ると漸く己を取り戻した。
 シンとした場の雰囲気を、何とか自分に有利な形にしようと模索しているのがティファには分かった。
「まあ、子供には分からないかもしれないけど、これが『大人のジョーク』ってやつなんだよ。何も本気で言ったわけじゃないんだ。そうだろ、皆?」
 先程まで一緒に嘲笑っていた常連客を振り返る。
 常連客達も、自分達の過失を認めてしまうのは何とも情けない、そういう心理から「あ、ああ。そうだとも」「冗談だよ、冗談」「酒の上でのほんの軽いジョークだったんだ。気を悪くしたら謝るよ」と、口々に言い繕った。

「な?子供には分からないだろうから、大人の会話に口を挟むなよ。今回の事は大目に見てやるからさ」
 あっという間にその場の気まずい雰囲気を自分の味方につけてしまった男の手腕に、ティファは舌を巻いた。
 この上なく『大人な発言』の数々だ。
 子供達の方こそが『誤り』だったと錯覚してしまいそうになる。
 そして、大多数の客達がそう錯覚している事にも気付かされた。
 ひそひそと囁き声が店内で交わされている。
 その感じの悪い空気は、どう考えても子供達を非難しているものにしか思えない。

 子供達もその空気を敏感に感じ取ったのか、顔を真っ赤にさせてじっと男の小面憎い顔を睨みつけているだけだった。

 先程はジョニーを嘲笑し、今は子供達を馬鹿にした眼差してニヤニヤ笑っている男に、改めて怒りが込上げ、今度は何の我慢もせずに男の横っ面を張り倒してやろう、そう思って一歩踏み出したその時…。

 グイっと腕を引っ張られ、ティファの視界は誰かの背中で遮られた。
 息を呑む間もなく、その人物は男の胸倉を掴むと片手一本で男の体を高々と持ち上げてしまった。

 店内が再び静寂に包まれる。
 誰かが、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げる。
 そして、男の苦しそうな喘ぎ声が漏れる。


「「「クラウド!?」」」


 ティファとデンゼル、マリンは同時に声を上げ、怒り心頭なクラウドを信じられない気持ちで見つめた。

 クラウドは、三人の驚きの声に何も応えず、ギリギリと男を持ち上げたまま息も絶え絶えな男へ唸るように「これ以上、俺の子供達を傷つけるのは許さない」そう言って、そのまま扉に向かって投げ飛ばした。

 扉は呆気なく大破し、男は不快な喚き声とも悲鳴ともとれる声を上げながら、夜の闇の中へと姿を消した。そして、少ししてから、夜の静寂を縫うようにし、遠くの方で物が落ちる鈍い音が響いてきた。


 その後…。
 壊れた扉を直し終えた頃には、すっかり気まずい雰囲気になってしまい、早々に客達が引き上げてしまった為、いつもより随分と早い時間だが店じまいにする事となった。
 閉店した店内で、満面の笑顔を浮かべる子供達に囲まれ、クラウドがどことなく気まずそうな顔をしながら口を開いた。
「帰宅途中でフェンリルが横転してな。泥まみれになってしまったから、裏口から帰って来たんだ。シャワー浴びて店に入ろうとしたら、デンゼルとマリンがアイツにグラスを投げつけたから、びっくりし過ぎて、思わずドアのところで立ち止まってしまったのさ」
「そうだったの…」
 クラウドにコーヒーを手渡しながら、ティファは何故タイミング良くクラウドが現れたのかを知って、なるほど〜、と頷いた。
「それにしても、驚いたよ。カウンター飛び越えたティファにもびっくりしたけど、まさかデンゼルとマリンがあんな事するなんてな」
「え!?」
「カウンター飛び越えたって?」
「ちょ、ちょっと!?もしかして見てたの!?」
「ああ、見てたって言うよりも見えた、が正しいかな…?」
 
 顔を真っ赤にさせるティファに、悪戯っぽく笑って見せると、クラウドは目をキラキラさせる子供達の頭をポンポン叩いた。
「『価値の無い人間』は誰一人いない…。そんな言葉があるけど、本当に、デンゼルもマリンも、『価値のある人間』だよな」
「へ?」
「?私達が?」
「ああ」
 キョトンとする子供達を愛しそうに見つめ、クラウドは顔を赤くしたままのティファに「なぁ?」と、声をかけた。
 ティファは、顔を赤く染め上げたままだったが、クラウドの瞳に宿っている真剣な想いを見て取り、にっこり微笑んだ。
「ええ!その通りよ!!」
 誇らしげにそう言い切ったティファに、子供達は頬を染めると、更に目を輝かせてくすぐったそうに身をよじった。

「でもさ…」
「うん?」
「俺達をそうやって大事にしてくれるクラウドとティファの方が、うんと『価値のある人間』だと思うな」
「うん!私もそう思う!」
 声を揃える子供達に、クラウドとティファは頬を緩ませる。
「ありがとう!」
「…これからもそう言ってもらえるように努力するよ」
「俺も努力する〜!」
「私も〜!」

 可愛い子供達の反応に、疲れた心が安らぐ。
 本当に、自分達二人にはなくてはならない存在だ。

「なあなあ、でもさ」
「何だ、デンゼル?」
「さっき、クラウドは『価値の無い人間』は誰一人いない…って言ってただろ?それじゃ、さっきの嫌味な兄ちゃんもそうなのか?」
 少し思案顔で尋ねるデンゼルに、クラウドは頷いて見せる。
 ハッキリとその通りだと…。
「ああ、気に入らないけどな。でも、人間の価値は『気に入る』『気に入らない』じゃ到底決められるものじゃない。それは分かるだろ?」
「うん」
「だから、デンゼルやマリン、それにティファや俺にとって気に入らない奴でも、やっぱり大切な一人の人間なんだって事を忘れちゃいけない…」
 まあ、さっき投げ飛ばした俺が偉そうな事言えないけどな…。

 苦笑するクラウドに、デンゼルとマリン、そしてティファは微笑みながらも真剣にその言葉を受け止めていた。

 そう。
 価値の無い人間など、存在しない。
 その事実を忘れた時、再びあの悪夢が繰り返される。

 言外にクラウドの言わんとしている事を正確に読み取ったティファは、そっとクラウドの手を握り締めた。
 大丈夫だ、と。
 こんなに素敵な子供達がいるのだから。
 こんなに強い子供達が担ってくれる将来がまっているのだから。
 だから、大丈夫だ…と。

 クラウドも、そっとティファの手を握り返すと、柔らかな微笑を浮かべた。
 そして、そんな二人を子供達が嬉しそうに見つめている。

 セブンスヘブン。
 そこは、『価値のある人』が憩う場所。


あとがき

強い心を持った子供達と、そんな子供達を誇りに思うクラティを目指したのですが
いかがだったでしょうか(汗)。相変わらず、我が家のお子様達は最強です(笑)。
ええ、きっとクラティよりも大人です(苦笑)。
でも、そんな子供達が心から甘える事の出来る存在はクラティだけ!!
そう思ってます!
はい、全部マナフィッシュの妄想です(あはは〜)

最後までお付き合い下さり、有難うございました!