ティファ・ロックハートは先ほどからずっと、もやもや、イライラしていた。 その原因は…。 可愛いわがまま「それで、あの時のクラウドさん、すっごくクールだったのよねぇ」 「いや、そんなんじゃない。それを言うならアンタの方こそ大したもんだ。男数人相手に啖呵をきるのは並大抵の度胸じゃないな」 「なにそれ、褒めてんの?けなしてんの?」 「勿論、褒めてるんだ」 「まったく…もう少し言葉のボキャブラリーを増やさないと彼女に愛想つかされるよ」 「…ほっとけ…」 「はいはい」 クラウドと楽しそうにポンポンと会話を弾ませる女性の存在。 これまで、クラウドが仲間や子供達以外にくつろいだ表情を見せたり、気軽な会話をするなど見たことがないティファにとって、目の前の光景はある意味衝撃だった。 そして、沸き立った感情は喜び。 純粋に、人付き合いが未だに下手な彼が、心許せる人間を持つことが出来たという事実が嬉しかった。 それなのに、今ではすっかり喜びは消え去り、激しい嫉妬…というか、焦燥感に駆られている。 認めたくはなかった己の本心に、ティファは臍をかんだ。 心のどこかで思っていたのだ…自分達以外にクラウドの本当の姿を見ることが許されている人間はいない…と。 口では、クラウドが人付き合いが苦手で心配だ…と常日頃言っていたくせに、配達の仕事で培った馴染み客と親しげに話をしている姿に、どうしようもない焦りと苛立ちを感じている…。 今日。 クラウドは珍しく配達の仕事が休みだった。 丸々一日の休みは、最近では滅多にない。 そして、なんと言うことだろう! デンゼルとマリンという、可愛くて可愛くて仕方ない子供達も、突風のように現われたユフィによって、ウータイの祭りへと連れて行かれてしまったのだ。 後になって、子供達が気を使って、クラウドとティファを二人きりにさせてやりたい…と、ユフィに相談したことが分かった。 とまぁ、そんなこんなで、クラウドとティファは珍しく二人きりで恋人同士の時間を味わうことが出来るようになったのだが…。 「それにしても、本当にアンタも物好きだな。女の身でバイクいじりが好きだなんて」 「ばっかじゃないの。女であろうが男であろうが関係ないでしょうが」 「まぁ、そうかもしれないが…」 「クラウドさん、あんたって本当に見た目じゃわかんないくらい、考え方が『古風』なんだね。『女』だからどうこう言うのは、めっちゃジジ臭い」 「…悪かったな」 「全然悪いって思ってないだろ」 「…バレたか?」 「バレバレだ」 ティファは自分が入れない話題を展開させている目の前の二人に、ただただ黙ってその場にいるしかなかった。 ティファがいるのはありふれた喫茶店。 『ティファ…折角だから外でお茶しないか?仕事で知り合った人が店を開いてるんだ』 照れ臭そうにデートに誘ってくれたのはたった一時間前。 その時は、幸せで、嬉しくて、涙が出そうだったというのに、今は別の理由で涙が出そうだった。 クラウドが仕事で知り合ったというのは女性だった。 そう、目の前でクラウドと他愛ない話をしている女性。 パッと見た感じでは普通の女性。 だが、口を開くとティファも驚いてしまうほどサバサバした女性だった。 長い黒髪を一本に束ね、スッピンに近い化粧しか施していない女性。 存在感がすごい。 堂々として物怖じせず、陽に焼けた浅黒い肌は引き締まっていて、女性というよりは男性のようだ。 そしてそのことを全く恥とは思っていない。 だから…だろう。 クラウドが心を開いているのは。 クラウドはナヨナヨした人間を苦手としている。 ジェノバ戦役の英雄という肩書きで一括りにしない人間で、尚且つサバサバとして人当たりが良い人を好む。 場合によっては、彼女のようにサバサバした人はズケズケと物を言うので苦手だ…と言う人もいるだろうが、クラウドの場合は彼女の性格がドンピシャリだった。 だから、クラウドは楽しそうに話に花を咲かせているのだが…。 この場合、問題はティファが話しに入れない、ということにあった。 そして更に、ティファが入れない空気を作り出していることに目の前の二人が気づいていないことにあった。 クラウドが純粋に他の人と楽しそうに話をしているのはとても嬉しくて、新鮮な発見だった。 喜ばしい気持ちが湧き上がったのは事実だ。 だが、その気持ちも30分経てば苛立ちに変わってしまった。 自分が知らないクラウドの姿を見せ付けられた気がしたのだ。 ティファは内心で溜め息を吐くと、ベイクドチーズケーキを口に運んだ。 最後の一口だ。 クラウドの前にはブラックコーヒーと、レアチーズケーキがある。 運ばれてきた最初に口をつけただけで、あとは手付かずとなっているそれらが、悲しげに皿とカップに鎮座していた。 コーヒーはすっかりぬるくなり、湯気を立てるのをやめてしまっている。 『…私みたい…』 ティファはコーヒーを見ながらそう思った。 最初は嬉々としたくせに、すっかり拗ねてしまった自分の気持ちとよく似ている…と思ったのだ。 クラウドが自分や子供達、仲間達以外にも親しく出来る人間が増えたのは喜ばしい事実なのに、それを喜べない自分がいる。 湧き立った喜びは、今ではすっかり『ひねた』感情に取って代わり、ないがしろにされているとすら感じてしまっている。 そんな自分が…情けない。 『クラウドが幸せならそれで良いじゃない、ティファ』 己にそう言い聞かせて無理やり納得しようと試みる。 だが、それもこの30分の間、ずーっと言い聞かせていたことだった。 無駄な努力。 見苦しい足掻き。 楽しそうな笑い声まであげているクラウドが遠い人に感じる。 そして、彼を笑わせている女性に…激しい嫉妬を覚える。 『なんて汚い心なのかしら…』 ティファは己の心を持て余し、ギュッと口を引き結んだ。 うっかり口を開いたら、嫉妬にまみれた言葉が洪水のように溢れて飛び出してしまいそうだったからだ。 そんなティファの心の葛藤など知る由もないクラウドと女性は、 「だから、あの時はああするしかなかったんだって」 「よく言うな。誰かに助けを求めるって手段もあっただろう?」 「いや…そんな余裕はなかったね。考えてもみなよ、か弱い女性が大の男に囲まれてるのに、助けを求める声を上げられるはずないでしょうが」 「どこがか弱い女性なんだ?」 「こ〜の〜!アンタの目は節穴か!?」 「アンタの方こそ、もう少し自分という人間を見つめ直した方が良いんじゃないのか?」 クラウドと女性が初めて出会った時の話を楽しげに続けている。 クラウドが他人と…、ましてや女生とこんなに楽しげに話をしているのは初めてのことだ。 だから、ティファは我慢した。 水を差したくなかった。 でも…。 この状況は彼女には辛すぎた。 折角のデートなのに…。 本当に珍しく、二人きりなのに…。 クラウドが誘ってくれたデートなのに…、どうしてこんなにも惨めな気持ちになるのか…。 それもこれも…。 『クラウドのせいよ』 そう思い、次の瞬間ハッと我に返った。 なんてことを考えるのだろう!と、自分自身がイヤになった。 クラウドがどうしてこの喫茶店をデート先に選んだのかを考えたら、とてもじゃないが惨めになる必要など露ほどもないのに…。 クラウドがこの店にティファを伴ってお茶に来たのは、一重にティファの抱えている心配を吹き飛ばすためなのだから…。 常日頃から、クラウドが人付き合いを苦手としていることを案じていたティファを安心させるために、この喫茶店に連れて来てくれたのだから。 決して、『赤の他人と親しげにしている姿をあてつけに見せている』わけじゃないのだから…。 ティファは泣きたくなった…。 「お?ティファさんはもう食べ終わっちゃったみたいだね。ごめんね、クラウドさんとばっかり話しこんでさ」 急に自分に声をかけられたティファはビクッ!と身を震わせると、とってつけたような笑みを浮かべて慌てて首を振った。 「いいえ、全然気にしないで。クラウドがこうして楽しそうに話をしている姿、とっても新鮮だから嬉しかったし」 「おいティファ、どういう意味だ…?」 ティファの吐いたウソにクラウドは気づいていないのか、ちょっと拗ねたような顔をした。 ティファはそんなクラウドに突っ込みを入れようと口を開いたが…。 「なに言ってんだよ。クラウドさんってほんっとうに自分のこと分かってないね〜。そんな無愛想な顔してるから中々親しい人が出来ないんじゃないか。だからティファさんも心配してるんだろ?」 あっさりと言葉を奪われてまた口を噤む。 取り繕うように微笑みだけを浮かべ、ティファはカップを持ち上げた。 中身がないことに気づいてそっとソーサーに戻す。 空になっているカップに気づいた女性は、 「あ、コーヒーのおかわり持ってくるからね。他にも何か注文は?」 気さくな口調で笑いかけた。 その笑みにティファはズキリ…と胸が痛んだ。 …こんなに素敵な人なのに…私ったらイヤなことばっかり考えて…。 「いえ、もうお腹一杯だから…ありがとう…」 「いえいえ、こちらこそ本当にごめんね。久しぶりのデートだったんじゃない?それなのにクラウドさんとばっかり話しこんじゃって、気が利かなかったね」 「ううん、そんなことは…」 慌てて首を振る。 そんなティファに、 「ティファはそれくらいで拗ねたりするような狭量な人間じゃないから余計な心配は無用だ」 クラウドの言葉が突き刺さった…。 女性は一瞬呆れたような顔をすると、「はいはい、分かった分かった」とカラカラ笑い、 「じゃ、お二人さん、ごゆっくり〜」 そう言い残してクラウド達のテーブルを離れた。 丁度、新しい客がやって来たからだ。 クラウドは常にないくつろいだ表情で去って行く彼女の背を見送りながら、 「あいつ、良い奴だろ?」 ティファを見た。 ティファはその視線を避けるように、 「うん…そうだね。すごく良い人…」 なんとかそれだけを口にすると、水の入ったグラスを口に運んで表情を隠した。 クラウドはそんなティファに少しだけ怪訝な顔をすると、すっかり冷め切ったコーヒーを啜ったのだった…。 * 「ティファ…なにか怒ってるのか?」 喫茶店を後にして数分経った頃、クラウドが問いかけた。 ずっと黙りこくったティファに、流石におかしい、と気づいたのだ。 ティファは数歩だけ先を歩きながら、 「ううん、別に怒ってないよ」 「じゃあ、なんでせかせか歩いてるんだよ…」 「別にせかせかなんかしてないよ。これが私の歩くペースだもん」 振り向かないで答える。 「ティファ…怒ってないならこっち向いてくれ」 「…どうして?」 「どうしてって…」 クラウドの狼狽がジリジリと伝わってくる。 それでもティファは振り向けないでいた。 今、クラウドに顔を見られたくない。 醜く歪んだ顔を…絶対に! だから、ティファは歩くペースを緩めない。 クラウドの言う『せかせかしたペース』を強め、クラウドとの距離をあけようとする。 今はただ、そっとしてほしかった。 もう少しだけ時間をもらえたら、きっと胸の中にあるドロドロした感情を押し殺して、いつもみたいに笑えるはずだ。 クラウドにだけは、綺麗な自分だけを見てもらいたかった。 こんな、嫉妬にまみれた自分を……見られたくなかった。 だから…! 「ティファ!」 小走りになって目の前に回ったクラウドに、ティファはビクッと身を竦めると、咄嗟に顔を背けた。 クラウドに見られたくない。 見られたくない。 お願いだから……見ないで! 反射的に背を向けて駆け出そうとしたが、一瞬早くクラウドの手がティファの腕を掴んだ。 そのままもう片方の手で肩を掴まれ、強引に向き合わされる。 せめてもの反抗として視線を逸らし、硬い顔で唇を引き結ぶ。 「ティファ、なんで怒ってるんだ?」 「怒ってなんかない…」 絞り出した声は微かに震え、全く説得力がないことを思い知らされた。 事実、クラウドはティファのウソをこれっぽっちも信じなかった。 「怒ってるだろう?俺、なにかしたか?」 苛立ちを込めてそう問いかけるクラウドに、ティファはギリギリと胃が締め付けられるようだった。 絶対に言えない。 絶対にこの汚い感情を口には出来ない。 口にしてしまったら、クラウドは自分を『狭量な人間』として蔑むか……愛想を尽かしてしまう。 そんなことになったら…、耐えられない! 最大限の勇気を振り絞ってティファは視線をクラウドに戻した。 そして後悔する。 彼の顔には、苛立ちと不安がない交ぜになって色濃く刻み付けられていたからだ。 あぁ…。 こんな顔をさせてしまうだなんて…、なんて最低な人間なんだろう…。 ユラユラとティファの視界が揺らぐ。 クラウドの表情が、不安と苛立ちから焦燥感と不安にとって変わった。 「な、なんで泣くんだ!?」 その言葉が引き金となり、ティファの頬に行く筋もの涙が伝い、零れ落ちる。 クラウドの慌てた声。 狼狽する表情。 その全てがティファには耐えられなかった。 「なんでもないったら!」 自分でも驚くような甲高い悲鳴のような声に、通行人達までもがギョッとして足を止め、振り返った。 だが、半分パニックになっているクラウドとティファは気づかない。 ティファはクラウドの手を払いのけると、そのまま全速力で駆け出した。 「ティファ!」 背後から呼びかける愛しい人の声を振り払うように、ティファは無我夢中で走った。 息が切れて、ヒューヒューと耳障りな呼吸音が耳に響く。 ティファはいつしかエアリスの教会でへたり込んでいた。 何も考えずに走っていたはずなのに、気がついたら親友の元にやって来ていたことに、ティファは自嘲の笑みを浮かべた。 そして、また、涙腺が緩んで涙が零れる。 結局、弱いのだ…自分は。 そして、とんでもない自惚れ屋。 自分でも信じれらないくらい、クラウドを独占したい。 いつでも、自分を見て欲しい。 自分以外の女性に、くつろいだ表情を見せて欲しくない。 あれだけ、人付き合いの苦手な彼を心配していたくせに、なんて身勝手な感情だろう…。 心底自分がイヤになる。 でも…。 「エアリス……どうしよう……」 嗚咽に混じって親友にすがる。 「どうしよう……っく……どう…しよう…」 へたり込んで、両手で顔を覆う。 好き過ぎて変になる。 どうしようもなく……クラウドが愛しい。 「どうしよう……エアリス……クラウド……ク、クラウドが……大好きなの…」 胸に抱えていた想いを口にすると、ますます涙が溢れて止まらなくなった。 「もう…本当に…ヒック……イヤになる…よ……、私…私……なんて自分勝手…なのかしら…」 胸が締め付けられて…苦しくて…。 「クラウドを……誰にも……見せたくないの……、うぅっく……好き過ぎて……頭が……変になるよぉ…」 脳裏を駆け巡るのは、先ほどの喫茶店でのクラウドと女性のやり取り。 本当に楽しそうだった。 女性も、すごくすごく素敵だった。 見た目じゃなくて…人間としての中身が。 クラウドを『ジェノバ戦役の英雄』としてではなく、ただの人間として見ていてくれていた。 そして…ティファも。 人間的に素晴らしい女性がクラウドと仲良くおしゃべりをしている。 それだけで、こんなにも心乱れ、激しい嫉妬に支配される。 クラウドの幸せを願っているはずなのに、湧き出た感情はただ一つ。 「クラウドには……私だけを見て欲しいの……、なんて……なんてサイテーなの…?」 「…それ、俺の台詞」 背後から突然聞こえた愛しい人の言葉に、ティファはビクッと身を竦めた。 だが、直後に背中から強く抱きしめられ、ティファは愛しい人の温もりに包まれたまま硬直していた。 耳元で、クラウドの上がった息を感じ、胸がときめく。 同時に、競りあがったのは、羞恥心。 こんな恥ずかしい言葉を全部聞かれていた…という恥ずかしさ。 恥ずかしすぎて、顔から火が出そうだ。 「ティファ…お願いだから逃げないでくれないか?」 そう前置きして、クラウドはゆっくりとティファを離した。 ティファはとっくに身動きできない状態だったので、クラウドが自分の正面に回りこむのをただただボーっと見つめているだけだった。 真正面に回り込み、しゃがみこんだクラウドの額は汗が浮かんでいた。 どれだけ必死にティファを追いかけていたのかを物語っている。 ティファの胸が激しく締め付けられた。 それは、後悔ではなくて……。 クラウドの紺碧の瞳がどこまでも優しく、甘やかに光っていたからだ。 「ティファ…俺は気が利いた言葉なんか何も思いつかない。でも…」 言葉を切って、顔を綻ばせた。 まるで天使のような神々しいその微笑に、ティファは目が逸らせない。 心臓は高鳴り、頬が紅潮する。 「俺は…ティファ以外、女性としては見れない」 甘美なその言葉。 ティファの胸からスーッとドロドロした感情が消える。 代わりにどうしようもない愛しさがこみ上げてきた。 今すぐ、力一杯抱きしめてもらいたい。 抱きしめたい。 だが、クラウドはまだ何か、大切なことを言おうとしている。 ティファはクラウドの言葉を待った。 クラウドはそっとティファの頬に手を伸ばすと、愛しくてたまらない…と言わんばかりに優しく撫でた。 その指先が頬に触れた瞬間、電流が走ったかの衝撃がティファの心を激しく揺さぶった。 「ティファ…俺はティファを愛してる。だから、こんな俺に親しくしてくれてる人に自慢したいんだ」 「……自慢…って…?」 歓喜のあまり、声が震える。 クラウドは微笑を崩さず、そっともう片方の手をティファの頬へと伸ばした。 スッポリとティファの顔がクラウドの手に包まれる。 「俺にはこんなに素敵な人がいるんだって…さ…」 「 …! 」 「それに、ティファにも知ってもらいたい。人付き合いが未だに苦手な俺に、親しくしてくれる人が増えたってことを」 「……うん…」 「だから、今日、あの喫茶店に誘ったんだ。あの女性(ひと)と普通にしゃべったり出来る俺を見てもらいたかった。そうしたら、ティファも心配しなくて済むと思って…」 そっと顔を近づける。 完璧に整った彼の顔に、ティファは目をそらせない。 「でも…、それがティファにとって重荷になるならもうやめる」 決然としたその言葉に、ティファはまた、涙が溢れてきた。 勿論、歓喜の涙だ。 クラウドにもその涙の意味が分かったのだろう。 そっと唇で流れる涙を拭うと、そのまま当たり前のようにキスを送った。 ティファはうっとりと目を閉じると、その甘美な口付けに恍惚となった。 『あぁ…エアリス。私、こんなに幸せで良いのかしら…』 ライフストリームで眠る親友にティファは語りかけた。 ― 『いいに決まってるでしょ?』 ― クスクスと、親友の笑い声が聞こえた気がした…。 * 「それにしても、今日のティファは可愛かったな」 帰り道、二人で手をつないで歩いていると、唐突にクラウドは言った。 ティファは真っ赤になりながらも、クラウドの手を振りほどくことはなかった。 「あんな可愛いわがまま、普段からもっと言ってくれたら嬉しいんだけどな」 「……もう……からかわないでよ…」 唇を尖らせながら照れ隠しにそう言ったティファに、クラウドは明るい笑い声を上げた。 「いや、本心だ。いつもは俺の方がやきもち妬かされてるからな」 「…そうなの?」 「ティファは自覚がないからな。ま、その方が安心だけど」 どこかぼやくように、それでいて実に嬉しそうにそう言ったクラウドに、ティファは頬を染めながらも、幸せそうにクラウドを見上げた。 隣を歩くクラウドの横顔は、ほんのりと頬を染めているようにも見えるが、夕陽のせいかもしれない。 「ねぇ、クラウド」 「ん?」 「また…あのお店に連れてってくれる?」 「…良いのか…?」 「うん、だって…」 心配そうに顔をしかめるクラウドに、ティファは極上の笑みを浮かべた。 「今日はやきもちばっかりで全然上の空だったから、クラウドが心を許したあの女性(ひと)と、ちゃんと話をしてみたいの」 えへへ。 照れ臭そうに笑ったティファに、クラウドはつないでいる手に力を込めた。 「お望みとあれば喜んで」 微笑んでそう言ったクラウドに、ティファは嬉しそうに頷いた。 もう二度と、彼女に対して嫉妬することはないだろう。 ティファはそう思うと、次に訪れる事が出来る日を楽しみにしながら、愛しい人と手を繋ぎながら至福を感じていたのだった…。 あとがき たまにはティファにも可愛く嫉妬した話しを書いてみたいなぁ…とか思ったのがきっかけの今回の話し。 もう砂を吐きたくなるくらい、あま〜い二人を目指してみたのですが、いかがでしたでしょうか…。 うん、本当にラブラブな二人を書くのは難しい…((__|||) |