マリンが風邪を引いた。


風邪引きさん



 その日、ティファからマリンが風邪を引いたと知らせを受けたクラウドは、配達の予約をキャンセルし、夕方に帰宅するという偉業を成し遂げた。
 そして帰宅したクラウドは、子供部屋から聞こえてくる唸り声に、ギョッとして階段を駆け上った。
 
『まさか、そんなに具合が悪いのか!?』

 子供部屋に着くまでの僅かの時間、全身が凍りつく様な感覚に見舞われる。
 そして、そんな恐怖心を抱えて彼が子供部屋で目にしたものは…!!


「…………ティファ…」
「…………おかえりなさい、クラウド…」
「…………わざわざ教えたのか…?」
「…………そんな事、すると思う…?」
「…………すまない、忘れてくれ…」
「…………いいの、気にしないで…」
「……………」
「……………」


 思い切り引き攣った顔をしているティファと、子供部屋のドアに張り付く様にして無言で立っているデンゼル、そして…。


うおお〜!!マリン〜!!!しっかりしろ〜!!

 顔を赤くして寝込む娘のベッドに、しがみつくようにして泣いているバレットの暑苦しい姿…。

 帰宅直後に耳にした唸り声の正体を知り、クラウドはとてつもない脱力感に襲われ、しゃがみこみそうになった。
 マリンは赤い顔をし、息苦しそうに眠っている。
 これでは、ゆっくり養生する事など不可能だ。

「ティファ、バレットはいつから来てるんだ…?」

「ついさっきよ。クラウドに電話した直後ぐらいに偶然電話が掛かってきてね。ついうっかり、マリンが風邪を引いた事、話しちゃったのよ…」
 ティファは、溜め息を吐きながら首を振って見せた。
 そして、やや諦め口調でバレットに声をかける。
「バレット、もういい加減にして…。マリンがゆっくり休めないじゃない!お医者様も言ったでしょ!?ゆっくり休めてあげないといけないのよ。それなのに、バレットが耳元で騒いでたら、良くなるものも良くならないわ!」
「ううう、でもよ〜…!!マリンが風邪引くなんて、今までほとんど無かったじゃねえか!?もしも、このまま…、何て事になったら…、俺は、俺は〜!!!!」
「…………バレット、うるせ〜…」
 首をブンブン振りながら興奮しきりのバレットに、クラウドとティファは耳を塞ぎ、デンゼルは耳を塞いだだけでなく、思い切り顔を背け、実に正直な感想を口にした。
「デ、デンゼル!!お前と言う奴は!!マリンが、マリンがこんなに苦しんでいると言うのに、何て情の無い男だ!?………、うう、マリン!俺が傍にいればこんな事には…!!!」
「…………」
「……ずっとこんな調子なの…。お医者様の往診と丁度一緒になっちゃって…。ホント、大変だったわ…」
「マリン、良く寝てられるよな…」

 三者三様、この暑苦しい男の、暑苦しい様子にほとほと呆れかえり、同時に深い深い溜め息を吐いた。

 しかし、このまま暑苦しい男に騒がれたままじゃ、いつまで経ってもマリンは回復しないだろう…。それどころか、通常の人間なら確実に悪化してしまう。
 そう判断したクラウドとティファは、むせび泣くバレットを強引に子供部屋から叩き出す事にした。
 
 まず、クラウドがバレットを背後から抱え上げようとしたが、何とバレットはベッドにしがみついたままだった為、マリンがベッドから転げ落ちそうになり、あわやというところでティファがキャッチした。
 その為、マリンは一瞬目をうっすら開けたが、あっという間に再び眠りに墜ちた。

 …よほど具合が悪いらしい…。

 そんなマリンの様子に、その場にいた全員がそう感じずにはいられなかった。
 その為、バレットはますます激しく狼狽し、泣きじゃくる。
 そして、クラウドとティファは、何とか少しでも早くバレットを部屋から追い出そうと強い焦りを感じた。
 当然だ。バレットの唸り声(吼え声)を四六時中聞かされていたら、いくら眠っていたとしても、絶対に良くはならない!!
 クラウドとティファは、何とかバレットをベッドから引き剥がそうとするが、興奮して我を忘れているバレットは、普段以上の猪突猛進モードに突入していた。
 クラウドとティファの声が全く聞こえず、正常な判断が完全に出来なくなっている。

 クラウドとティファは、決断した。
 視線だけで会話をする。
 そして、阿吽の呼吸で息を合わせると…。


 
ドゴバキメキョビシシシシ…!!!!!


 異音が子供部屋を中心に、セブンスヘブンから外へ轟き渡った…。
 その音に、通行人がギョッと足を止め、恐る恐るセブンスヘブンを振り返ったのだが、その事をセブンスヘブンの住人が知るのは後日となる。
 そして、その異音の正体を知る事が出来る通行人は、皆無であった。
 何故なら、そんな恥ずかしい話、誰も口にしなかったからだ。

 一体何が起きたのか…。

 即ち、『ドゴ(クラウドの鉄拳)』『バキ(ティファの膝蹴り)』『メキョ(バレットの顔が歪む音)』『ビシシシシ…!!!!!(子供部屋の壁を突き破って廊下の壁にめり込んだ、バレットによって作り出された壁のヒビ割れの音)』の音が同時に聞える程のスピードで事をなし終えてしまったのだ。
 その後、クラウドはグッタリとしたバレットを、一階の店舗スペースへ引きずりながら運び下ろし(階段が悲鳴を上げた)、ティファは漸くマリンの看病に専念出来るようになり、デンゼルは二人の邪魔にならないよう、店の倉庫の片付けにひっそりと赴いた…。

 マリンの容態がいつ回復するのか、この時は定かではなかったが、後日、壁の修理代をバレットから請求する事になるのは、間違い無いだろう…。

 倉庫の片付けに赴いたデンゼルは、これらの一部始終をつぶさに見ていたが、
「さすが、『ジェノバ戦役の英雄』だよな…、三人共…普通じゃないや…』
などと、いささか失礼な感想を抱いたものの、その事を一切口にせず、自分の胸一つにしまうという、非常に賢い選択をしたのだった。

 当然、デンゼルの英断を知る者は、デンゼル本人のみだった…。



「え?今夜はお休みかい?」
「ああ、悪いな。マリンが風邪で寝込んでいるから、ティファが看病してるんだ」
「え!?マリンちゃんが!!」
「そりゃ、大変だな。ゆっくり養生させてやんな」
「ああ、ありがとう」

 その晩、うっかり臨時休業の札を吊るすのを忘れていた為、数人の常連客達がやって来た。
 常連客は突然の臨時休業に目を丸くし、事情を知って一様に心配そうな表情と、優しい言葉を残してくれる。
 クラウドは、それらの常連客達の温かい心に素直に感動していたが、いかんせん、愛想とは無縁の創りをしている顔立ちに、傍で見守っていたデンゼルは少々ハラハラする。

 
 だがしかし、デンゼルはこうも思っていた。

『でも、クラウドがバレットみたいでなくて、本当に良かった!!』


 興奮モード全開のバレットは、常連客達の温かな心に触れ、感動ひとしおであった。
うお〜!!何て優しい人達なんだ!!
 そして、ギョッと後ずさる常連客達に、感動を体中で表現しようと、両腕を目一杯広げて熱い抱擁をしようとしたその刹那―!


 ゴスッ!

「ぐ、ぐふっ…」
「落ち着けバレット。
あんたが力任せに抱きついたりしたら、この人達が死んでしまう。大人しくそこでじっとしてろ」
 丁度クラウドの背後に現れる形となったバレットの鳩尾に、クラウドは全く後ろを見ずに肘鉄をめり込ませて涼しい顔のまま昏倒させた。
 そのお陰で、危うく命を失うところだった常連客達は九死に一生を得て早々に店を後にした。
 
 デンゼルは、その光景を眺めて「はぁ〜……」と、深い溜め息を吐くと、店のノブに臨時休業の看板を吊るした。


 看板の効果もあり、それ以降常連客達が店を訪れる事も無く、店はいつもの活気からほど遠い、実に陰鬱な空気を充満させる事となった。
 時折、ティファが店舗まで下りてきて、簡単な夕食をマリンの為に作ったり、水を取りに来たりした。その都度、バレットは「どうだ、マリンの様子は!!」と、騒がしく尋ねては、クラウドに睨まれる、というパターンを繰り返していた。
 ティファは、バレットが子供部屋を出てから看病に専念出来ている為、クラウドが帰宅した頃よりもうんと機嫌良くバレットに接している。
「うん、今、少しだけどお粥食べたし、お薬飲んだから」
「今はちょっと眠ってるから静かにね」
などと、バレットの暑苦しい質問にも一つ一つ丁寧に答える。
 勿論、これらの質問はクラウドとデンゼルも気になるところだったので、ティファの言葉に耳を傾けてはホッと胸を撫で下ろしているのだった。

 ティファの話しぶりでは、マリンの容態は薬の効果も手伝ってか随分良くなっている様だった。
 その事に、漸く三人が安堵したのは、日付が変わろうとしている頃の事…。
 いつもならとっくに休んでいるデンゼルも、今夜はそうもいかない心境であった為、こんな時間まで大人達に挟まれてカウンターの席に着いていた。
 そして、今はティファの作ってくれたホットミルクを口に運びながら、欠伸をかみ殺している。
 バレットは、ティファから聞かせてもらったマリンの回復に、やはり暑苦しい喜びようだったが、それも今では落ち着き、ティファが先程煎れてくれたコーヒーを啜っている。
 クラウドは、バレットが落ち着いてくれたお陰で、漸く監視の目を和らげる事が出来て、緊張をほぐしていた。
 実はバレットは、幾度もクラウドの目を盗んでは、マリンの顔を見に行こうとし、その都度クラウドに手痛いお仕置きを受けていたのだ。お陰で普段から強面の顔が、大きな痣や腫れで装飾され、見るも恐ろしげな仕上がりとなっている。

 きっと、翌朝マリンがバレットの顔を見たら腰を抜かすだろう…。

「それにしてもよ〜…」
「何だ?」
 バレットがしみじみとした口調で口を開いた。
 目が腫れているのは、昼間に号泣した事とクラウド、ティファコンビにノックアウトされた時に出来た副産物の両方である。
「マリンが風邪だって聞いた時には、心臓が止まるかと思ったもんだが…」
「……?」
「よくよく考えてみると、子供なんざ風邪引いてなんぼ…ってやつなんだよな」
「……言っている意味が良く分からないんだが…」
 自分の言っている言葉を全く理解していないクラウドに、バレットは盛大な溜め息を吐いて見せた。ウトウトしかけていたデンゼルが、ビクッと目を覚ましてキョロキョロする。
 クラウドは、そんなデンゼルに苦笑すると、「俺のベッドで寝ていいぞ」と言ってみたが、ブンブン首を振るデンゼルにそれ以上強要したりせず、ポンポン頭を軽く叩いてやった。
 デンゼルは嬉しそうににっこり笑い、そんな姿に、クラウドは勿論、バレットも顔を綻ばせる。

「俺が子供の頃は、風邪引いてる子供なんか珍しくなかったなって思ってよ」
「ああ、確かに子供が風邪引くのは珍しいことじゃないな」
「だろ?風邪引いて、ある程度体に免疫力をつけるってやつも、大事なんだよな〜、なんて思ったのさ」
「まあ、確かにそうかもしれないが…。しかし、風邪は万病の元とも言うしな…」
「だから、ある程度って言ってんじゃねえか。大体、お前、マリンが熱出してウンウン唸ってる時でも、涼しい顔してたじゃねえか…」
「そんな事無いよ。クラウド、しょっちゅう二階を気にしてそわそわしてたもん!」
「へ!?そうなのか!?」
「デ、デンゼル!!」
 二人の会話の聞き役に回っていたデンゼルの発言に、バレットは目を丸くし、クラウドは軽く狼狽した。

「バレットがティファにうるさく質問する時、クラウドってば睨んでる振りして、本当は様子を見に行きたくて仕方なかったんだろ?だって、いっつも二階に戻って行くティファの後、ついて行こうとして、途中でハッとした顔してたもん」
「デンゼル!」
「……おいおい、本当かよ!?」
 さらりと言ってのけたデンゼルに、クラウドは顔を赤くし、バレットはますます目を丸くした。
 そして、豪快に笑い出すと、デンゼルのふわふわの髪をクシャクシャと撫で回した。
「本当にデンゼルは良く見てやがる!!おい、クラウド!涼しい顔してたのはただのポーカーフェイスだったのか!?」

 ガッハッハ!!と笑うバレットに、クラウドはフイッと顔を背けて「あんたが騒がなかったら、マリンの看病に俺も参加できたんだよ!」と、実に恨みがましそうな声を漏らした。
 そのクラウドの言葉に、ますますバレットはお腹を抱えて笑い転げ、デンゼルもニコニコと嬉しそうな顔をする。

「ホラ、もう遅い時間なのに大きな声出して笑わないで」
 二階から下りてきたティファが顔をしかめる。
「おう!どうだ、マリンの様子は!?」
「さっきと同じよ。でも、熱もないし、ぐっすり眠ってるから明日の朝には随分良くなってると思うわ」
 頬を緩ませるティファに、三人は安堵の溜め息を漏らした。

 ようやっと、セブンスヘブンから重苦しい空気が完全に一掃された。
 少なくとも、この時はクラウド、デンゼル、バレットは感じていた。

 しかし…。
 次に交わされた会話によって、たちまちのうちに別の緊張で、空気が張り詰める事となってしまった!

「私、今夜はデンゼルのベッドを借りようと思うんだけど、良い?」
「うん、俺、今夜はクラウドと一緒に寝る!」
「そう。じゃあ、バレットは私のベッドで寝て良いわよ」
「「「え!?」」」
 ティファのあっさりと口にされた一言に、男性全員が固まった。デンゼルは、当然意味は良く分かっていなかったが、ティファの事のに関して、クラウドが非常に子供っぽい執着心を持っている事を実に正確に把握していた為、事の重大さに気付く事にやぶさかではなかった。

「………………」
「あ…、俺は、その、そう!ここで構わないぜ!!」
「え?ここって、お店の中って事!?」
「おう!全然ここで構わないから、気にしないで休みに行ってくれ!!」
「駄目よ、今夜はベッドが余るんだもの。それなのにこんな店の中で泊まらせられないよ」

『『ティファ〜!!』』
 デンゼルとバレットは、顔中に冷や汗を球状に浮かべながら、不機嫌この上ないクラウドを窺いつつ、何とかこの無邪気で、無意識で、罪深いティファの提案を受けなくて済むか、頭をフル回転させてみる。
 しかし、悲しいかな。
 バレットは、正直頭を使って物事を考えるのが苦手だ。
 そこで、彼のとった行動は…。
「そ、そうだ!!クラウド!お前がデンゼルと一緒にティファのベッドで寝れば良い!!」
「え?どうして?」
 バレットの提案に、ティファは首を傾げる。
 デンゼルは、クラウドの袖をクイクイ引っ張ると、まだ少々不機嫌そうな顔をしているクラウドにそっと囁いた。
「なあ、クラウド」
「……何だ?」
「ティファってさ、物凄く良い人なんだけど、同時に物凄く残酷だよな…」

 クラウドは、デンゼルのまさに的を射た発言に苦笑するしかなかった。

「だ〜か〜ら〜よ!!お前もちっとは気を使えよな!!」
「?気を使ってるから、私のベッドで寝て良いって言ってるんでしょ?」
「だぁーーー!!そっちじゃなくて!!」
「???」
 キョトンとするティファに、バレットはガックリと肩を落とした。
「お前…本当に分かんねえのかよ…」
「もう、そんな曖昧な言い方じゃ分からないわよ!ねえ、クラウド?」
「……何で俺に話を振るんだ」
「……ティファって、本当に残酷だよな〜…」
 無邪気な顔で、残酷な問いかけをクラウドにするティファに、デンゼルがしみじみと感想を漏らした。
「…?何でクラウド怒ってるの?」
「………怒ってない」
「嘘!絶対怒ってるわ!」
「………怒ってないって」

 埒のあきそうにない問答に、ティファはついに言ってはいけない一言を口にした。

「もう!赤の他人を泊めるんじゃないじゃない!バレットはマリンのお父さんなんだから、私達の家族でしょ?家族を私のベッドに休ませて上げるのが、どうしてそんなに悪いわけ?」

 しばしの沈黙。
 デンゼルは、凍りついた場の空気に顔を引き攣らせ、バレットはティファの意外な一言に素直に感動の表情、クラウドは……。

「………デンゼル、寝るぞ」
「ク、クラウド…!」

 ガックリと肩を落としてクラウドは自室に引き上げた。
 その後を、デンゼルが慌てて追いかける。
 店には、バレットとティファが残されてしまった。

 ティファは、クラウドのたった今見せた衝撃を受けた表情に、首を傾げ、
「何であんなにショックそうな顔したのかしら…」
などと、呟いている。
 バレットは、クラウドの哀愁の二文字を背負った背中に労しげな眼差しを向け、さっさと店内の隅に行くと、壁にもたれて「じゃ、俺はここが良いからよ!本当に頼むからこれ以上クラウドを追い詰める事しないでくれよ!後が大変なんだからな!!」と固い決意を表した。

 ティファは、顔をしかめながらも溜め息を吐き、「はいはい、そこまで言うなら分かったわ。タオルケット持ってくるからちょっと待ってて」と、二階の居住区へ向かった。

 途中、クラウドの部屋から、
「俺にとって、クラウドだけが父さんだからさ!」
「ティファも悪気があって言ったわけじゃないし…」
「ほら、確かにマリンにとってバレットは父さんの一人だしさ!」
「マリンは、二人も父さんがいるってだけだから!クラウドの事も、マリンは父さんだって思ってるって!」
「嘘じゃないって!いっつもクラウドの事、友達にマリンと自慢してるんだから!」
などと、デンゼルが一生懸命クラウドを慰めている声が聞えたティファは、漸くクラウドのショックの理由を知るに至り、お約束の自己嫌悪に陥るのであった。


 翌日。
「うお〜!マリン!!良かった、本当に良かった!!」
「父ちゃん、イタイイタイ!……く、苦しい…」
「バレット!マリンを殺す気!?」
「バレット、よせ!!マリンから離れろ!!」


 ドゴバキメキョビシシシシ!!!!


「……あ〜あ」

 回復したマリンを廻って、再びバレットに昨日と同じ様な制裁が行われた事を知っているのは、セブンスヘブンの住人とバレットだけである。


 更に翌日。
 すっかり回復したマリンに安心して、バレットは帰っていった。
 仕事を途中で放り出してきていた為、山積みとなっている問題を処理しなくてはならないのだ。
 大急ぎでシドを呼び出し、ブチブチ文句を言うシドに、ティファがお手製ミートパイをお土産に持たせて全員で見送った。(クラウドはどこか嬉しそうだったが、それに気付いたのはデンゼルだけだった)

 遠くなるバレットのトラックに、一同はホッと胸を撫で下ろしたのだった。


 そして、更にその翌日…。
 セブンスヘブンの開店準備に勤しんでいるティファの元に、一本の電話が入った。
 ティファは、店に設置してある電話の受話器を取ると、「はい、ストライフデリバリーサービスです。当社は何でも…」と、お決まりの台詞を口にしようとした。
 だが…。
「ヒッ…!!!」
 ティファは、急にビクッと体を震わせ、息を呑んで青ざめた。その拍子に、手から受話器を落とした。
「!?どうしたティファ!!」
 たまたま、午前中で配達の仕事が終わっていたクラウドは、ティファの引き攣ったような声、怯えた表情に、サッと鋭い面持ちになり、急いでティファの元へと駆け寄った。
 ティファの肩を抱くようにして顔を覗き込むと、普段では決して見せない怯えた目をクラウドに向け、震える指先で取り落とした受話器を指す。
「お、お化け…」
「え?」
「お化けから電話…」
「???」
 クラウドは、ティファの言葉に首を傾げながらも、落ちた受話器を拾い上げて耳に当てた。

 その受話器から聞えてきた声は…。


マ、マリン〜、だ、誰か、マリンを〜…


「うおっ!?」
 まるで、地の底から這い出してくる亡者のような呻き声…。
 クラウドも危うく受話器を取り落とすところだったが、何とか自分を保つ事に成功する。
「おい!誰だ!!」
……ク、クラウドか〜?
「何で、俺を知ってる!お前、誰だ!」
何言ってるんだ、俺だ俺…バレットだ…
「バ、バレット!?」
「え!?バレットなの!?」
 意外な人物と判明し、クラウドとティファは驚きすぎて目を丸くした。
「な、何だよその声!どうしたんだ!?」

 まさか、油田の発掘の途中で事故に合い、瀕死の重傷なんじゃ!!
 クラウドとティファがサッと緊張に顔を強張らせる。
 しかし…。


風邪引いたんだ 声が出ねえ…


 バレットの一言に、クラウドとティファは固まった。
 風邪…?
 ただの風邪…?
 それだけ…?

 そんな二人を全く知らないバレットは、受話器から悲痛な声を漏らし続けている。
もう駄目かも知れねえ… 死ぬ前に マリンに、一目…

何言ってるんだ…、そんな風邪引いた奴の傍にいたら、また風邪を引いてしまうだろ…」

 呆れを通り越して脱力するクラウドの一言に、電話の向こうでバレットが耳障りな声を大きくする。

「ウッ…ゲホゴホガホ!!!そ、そんな事、言わねえで、頼む〜、このままじゃ死んでも死に切れねえ…

 受話器から思い切り顔を離し、しかめっ面になるクラウドに、電話の相手がお化けでなかった事にホッとしたティファが苦笑して肩を竦めた。


 そして。
 クラウドがバレットのお見舞いに一人で向かい、三日三晩看病させられて帰宅するハメとなった。
 もちろん。
 バレットの風邪をしっかりもらって寝込む羽目になり、ティファの手厚い看病を受ける事になったのは、お約束である。


あとがき

すみません、すみません!
もう、あとがき書くことも無いくらいすみません(汗)。
何となくほのぼのバカ話が書きたくなったのです!
おふざけ嫌いな人、本当にすみません(滝汗)

あ〜、でも、ティファに手厚い看病を受けたクラウドの話も
本当は書きたかっ……、いえ!本当にすみません(石投げないで)
で、では、今回はこの辺で〜(逃)