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その人の背にはまるで羽が生えているようだった。 風に乗って、舞って、笑って…。クラウドがその草原を愛車で駆け抜けたのは、なにも特別ではなかった。 配達のために世界中を廻っているのだ、どこのルートを通ったら給油の回数が減るのか、最短ルートでいけるのか、危険はないのか等々おのずと分かってくる。 だから、スムーズな配達するため以外の意図はなくいつものように頭の中に地図を描きながら走っていたらその草原を『またいだ』だけ。 そう、舗装されていない土地を走行するのは、クラウドにとっては日常茶飯事。 今日も今日とて、舗装されていない『タイヤに踏みしめられて出来た細い道』を走っただけ…。 なのになのに!その草原を駆け抜けようと中ほどまできたところでクラウドは全身から血の気を引かせる思いと共に急ブレーキをかけた。 普通、大自然溢れる草原を走行中、急ブレーキをかけるようなことには遭遇しないし、『異常気象』のように大自然の織り成す現象なら逆に絶対急ブレーキをかけることはしなかったはず。 それなのに、絶対しないはずのことをクラウドは実行した。 けたたましいブレーキ音、濛々と土煙とちぎれた草を撒き散らしながらフェンリルはクラウドの意思通りに急停止した。 バクバクと心臓がやかましく胸を叩く。 (あ、あぶなかった…!) よくぞ転倒しなかったものだと思う。 咄嗟にかけた急ブレーキと切ったハンドル。 自分の動体視力と反射神経をガラにもなく褒めてみたりする。 愛車を立て直して『それ』を見ると、案の定『それ』は目をまん丸にしてクラウドを凝視していた。 『それ』に怪我がないことは自信があったが、実際無事な姿を見ると改めてホッとした。 と同時に、無事な姿を見て緊張が『理不尽な憤り』へと取って代わろうとする。 (な、なんでこんなところに人が…!) 見渡す限りの大自然。 こんなところに人が!? しかも…。 「あの…ごめんなさい」 ほんの一瞬で放心状態から回復したうら若き女性がおずおずとクラウドに頭を下げたのだった。 * 「アンタ…なにしてるんだ?」 乾いた口内を彼女が差し出してくれたお茶で湿らせてからようやっと搾り出した台詞が何とも間の抜けた言葉で、クラウドは内心自分自身にがっかりした。 もう少しこう、気の利いた台詞はないものか…。 いや、あるんだろうが言葉のボキャブラリーが少なすぎて浮かばない。 彼女はそんなクラウドに全く気にした様子もなく、返された水筒の蓋をキュッキュと閉めながらニコニコ笑った。 「車で覗いたらとっても素敵で~。思わず抜け出しちゃったんです」 「抜け…!?」 あっけらかんと言ったことがあまりにも非現実過ぎてクラウドは目をむいた。 意味が分からない! 車から覘いて抜け出した…? どうやって?てか、こんな大自然の真っ只中に自ら『放り出されて』生きて戻れるとでも思っているのだろうか!? 当然だが、既に車なんぞ影も形も見当たらない…。 「あ、大丈夫です。私が乗っていないことに気づいたら引き返してくれるでしょうから」 「………」 なにを根拠にそんな悠長なことを言っているんだろう…。 今のところ、モンスターの気配はない。 だが、至極当たり前なのだがモンスターはいる、そこかしこに! こんな大自然真っ只中に、見るからに華奢な体躯の女性が薄い服一枚でなんの装備もせずに放置。 もしかして、自殺志願者なのか? 「アンタな……」 クラウドはあまりの常識のなさに軽くめまいを覚えながら額を押さえた。 お小言の1つでも…と言葉をつなげようとしたが、 「あらあらあら!大変、ご気分が悪いんですか?それとも頭痛?あ~、お薬、まだ残ってるかなぁ…?」 額を押さえたクラウドを見て、女性はズレた方向へ見事に突っ走った。 慌ててスカートのポケットや持っていたバスケットの中をゴソゴソ漁りだした。 「いや、違う…」 「ん~…、ないかなぁ、ないかなぁ…」 「……」 「ん~、どうしようかなぁ、大丈夫です?もう少しだけ待って下さいね?お薬、残ってるかもですから~」 気分が悪いわけでも頭が痛いわけでもないことを言おうとするが、全く耳に入らないであろう女性の姿に、クラウドはいよいよ脱力した。 (よく……無事だったなぁ…) 天然にもほどがあるのではないだろうか? いや、世の中には意外とこういう『ズレた人』がいるものなのかもしれない。 そう、いるんだろう…。 現に目の前にいるわけだし、自分はまだまだ人付き合いにおいて精進が足りない。 ティファだったらきっと、こんな『ズレた人』に会う機会は沢山あるんだろうな…。 …今度、ティファに聞いてみよう…。 ちょっぴり現実逃避していたクラウドの目の前で、女性は探せるところは全部探したらしい。 ガックリと肩を落として申し訳なさそうに上目遣いで見上げてきた。 「ごめんなさい……お薬、残ってないみたい…」 あまりにもその様子が申し訳なさそうで、クラウドは逆に『申し訳ない気分』になった。 言いにくそうに、 「……いや、別に頭が痛いわけでもないし、気分が悪いわけでもないから薬はいらない」 それだけ伝えると、彼女はほんの少しだけ疑わしそうに八の字眉毛になった。 念押しするべく、もう1度繰り返してようやっと安心したようにホッと肩から力を抜く。 「あら?じゃあ、どうしておでこを押さえたんです?」 「それはアンタがあまりにも非常し………いや、なんでもない」 うっかり『非常識』とストレートに言いかけ、慌てて明後日の方を見る。 女性はその不自然さに気づかなかったのか、 「???」 と、不思議そうにキョトン…とクラウドを見つめるばかりで突っ込んだことを言うでもなく、ましてや『小バカにされた』と不機嫌になることもなかった。 何とも奇妙な人だ、と思わずにはいられない。 こんな大自然真っ只中で、しかもどう見ても一般人。 旅行者にすら見えないくせに、なぜか水筒入りのバスケットを持っている。 持つべきものは最低限の武器とアイテムだろう!? と、突っ込み要素満載なのに、なぜか…憎めない。 (まぁ、バカなんだろうけど…) 大変失礼なことをサラリ、と胸中で呟きつつ、クラウドは嘆息した。 「まぁいい。乗れ」 「え?」 「近くの町まで送ってやるよ」 背を向けてフェンリルに向かうクラウドに、女性は予想通り、慌てて断った。 クラウドは面倒くささを隠そうともせず、もう1度ため息をつくと普段はかぶらないヘルメットを取り出した。 「アンタの友人だか誰だか知らないが、アンタがいないことに気づいて引き返してくれるまでの間、モンスターが出ないとも限らない。もしもそうなったら、アンタは間違いなく餌になる」 「はぁ…まぁそうかもしれないんですけど…」 「そうなりたくなかったら乗れ」 「え~と…でも…」 「俺は配達の途中なんだ。早く次の依頼主のところに行かなくちゃならないんだから、グズグズ言うのはやめてくれ」 歯切れの悪い物言いをする女性に、イライラする。 女性は困ったように小首を傾げるばかりで、差し出したヘルメットを受け取ろうともしなかった。 差し出されたものを受け取ってもらえないというのは、意外と気持ちが落ち着かないものだ。 クラウドは流石にムッとした。 接客業をはじめたからと言って、人付き合いに慣れたということはない。 そんな自分がここまでして親切にしているというのに、あからさまに戸惑われている上、断られそうな空気の方が濃いとはどういうことだ。 常識で考えたら、一般人が1人、こんな大自然にポツン…と放り出されたままよりも、近くの町まで送ってもらった方が良いに決まってるだろう。 腕に覚えがあるか、自殺志願者でもない限り。 …自殺志願者。 イライラの加速が止まった。 クラウドはマジマジと困った顔をしている女性を見つめた。 見た限りでは、自殺を考えているような人間には見えない。 どことなく、ポヤン…としたうら若き女性。 人生に疲れた…とか、世を儚んで…とか、そういうタイプには見えない。 なら、腕に覚えがあるのか? (いや、それはないな) こういう時、クラウドは自分が『英雄』と称されるだけの力を持っていることをなんとなく誇らしく思える。 腕が立つか立たないかくらいは、その人間の目を見て、仕草を見て、空気を感じることでなんとなく分かるのだから。 だから、危害を加えようと自分に近づいてくる危険な人間に、今のところ被害をこうむったことはない。 事前にバッチリと『先制攻撃』で撃退している。 だから…。 「アンタ…なに考えてんだ…?」 ガックシ…。 ヘルメットが草むらの上に力なく落ちる。 ガックリと全身で脱力したクラウドに、女性はポケッ…としたが、すぐにニッコリ笑った。 クルリ…とその場で一回転する。 「私、ずっとこういう草原に憧れてたんです」 そう言いながら、クルリ、クルリと草の上をまるで滑るように軽やかに回る。 風に揺れる綿毛のような優雅さに、思わずクラウドは目を見開いた。 彼女の膝上まである草や花が、そよ風に吹かれてゆったり揺れている。 その揺れるリズムに合わせるというよりも、彼女自身が草原の一部であるかのようにゆったり、風に吹かれてクルリ、クルリと舞いながら草原を滑る。 大きくゆったりと広げた細い腕、風の動きを感じ取ろうとしているかのような指先、肩の上で踊る髪の毛一筋一筋。 彼女を模っている全てが急速にクラウドを惹きつけた。 そして重さを全く感じない彼女の舞いと、風の音、陽の光、それら全てがほんの一瞬とは言え、幻想的で…。 「映画で見たことがあるだけで、実際、世界にこんな素敵な場所があるだなんて知りませんでした。だから、車から見たとき、気がついたら体が勝手に動いてたんです」 いつの間にか彼女は舞うのをやめ、離れたところで立ち止まっていた。 ハッと我に返って気持ちを落ち着かせようと息をする。 だが、なんとなく今見たものがとても大切なものだったように思えて、クラウドを落ち着かせなかった。 「私…ずっと憧れてました。こういう素敵な場所で、大地と一緒になれたって思える瞬間を。だから」 言葉を切ってクルリ…と一回転する。 また、彼女の足元で草花が輝いた気がした。 「とても…幸せです」 そう言った彼女は、まるで大輪のひまわりが咲いているように笑ったのだった。 * 「ただいま」 「おかえりなさいクラウド。…どうしたの?」 ぐったり疲れて帰宅したのはもう0時直前。 疲れきった様子のクラウドに、ティファは笑顔を引っ込めて心配そうに小走りで駆け寄った。 クラウドは自分の頬がティファの繊手に包まれるのを感じながら、ようやっとホッと人心地ついた。 そのままゆったりとティファを抱きしめる。 ティファは心配しつつも素直に身体を寄せると、スッポリとクラウドの腕の中に納まった。 「お疲れ様…クラウド」 「あぁ…ただいま」 キュッと抱きしめてティファの髪に頬を寄せると、洗ったばかりの髪からシャンプーの香りが鼻をくすぐった。 甘やかな気持ちが心を満たす。 そのまま彼女を寝室に連れて行きたい気持ちに襲われるが、流石に帰宅したばかり、夕食もまだ、という状態ではティファに申し訳なさ過ぎる。 もう1度だけ、今度はギュッと抱きしめると名残惜しい気持ちを押し殺してそっと離した。 「腹減った」 そう言うと、ティファはクスッと笑ってクラウドにキスを贈り、カウンターの中に入った。 足取りがウキウキしているティファを見るのは嬉しく幸せなことだ。 キスをされて思わずティファを再び抱きしめようとしてしまったが、我慢して良かった…と我ながら褒めてみる。 そうして、『我ながら褒めてみる』ことが本日2回目なことに気づいて、折角浮上した気持ちが少し下降してしまった。 「クラウド、ご飯温めてるから、その間に汗流しちゃって」 ティファに言われ、クラウドは肩を竦めて見せながら階段へと足を向けた。 変に落ち込んだことをティファに悟られる前に…。 結局。 あれから草原で会った彼女とはそのまま別れた。 近くの町まで送ると言ったクラウドを、彼女は柔らかな笑みと強固な意志で断った。 クラウドも、あまりしつこく言うのも変だろう…と、後ろ髪引かれる思いで踏ん切りをつけた。 そうして草原に1人、彼女を残して最後の配達先に向かったとき、信じられないくらいに時間が経っていることに気づいたのだ。 いつの間にか空は暮色に包まれ、一番星が輝いていたのを見つけた時には、一瞬、頭がおかしくなったのかと思った。 慌てて仕事モードに戻ったクラウドは、ラストの依頼主に平身低頭で大遅刻を侘び、大らかな人柄だった依頼主に救われた気持ちで本日の仕事を終了した。 終了したは…良いが。 仕事が終わるのを見計らったかのような土砂降り。 唖然とするクラウドの目に、町の小さな食堂の灯りが写った。 ちゃんとした夕食は帰宅してから!と決めて、軽食をとった。 その食堂のTVにたまたま映ったニュース。 それは…。 ―『ダンサーを目指していた○○さんが遺体で発見されたのは、丁度5年前の今日です』― 思わず、口に運んだばかりの食事を噴き出しそうになるほどの衝撃。 TVの小さい画面に映っているのは、見間違いようもなく草原で出会った彼女。 呆然とするクラウドの周りでは、他の客がTVを見ながら話している。 「あ~、あれからもう5年かぁ」 「あの事件ねぇ。ありゃ、可哀相だったよなぁ」 「あぁ。あんなに若くて綺麗で将来有望な女性を監禁した挙句、殺しちまうんだからよぉ」 「確か、犯人の男、死刑になってないんだろ?」 「あ~、なってねぇな。でも、結局独房の中で自殺したんだぜ」 「げっ。マジか」 「マジマジ。まぁ、そのニュースが流れた直後にセフィロスが目撃か!?ってニュースが流れたから、あっという間に消えちまったけどなぁ」 クラウドはどこか遠くの異世界の話のような心地で、それらを聞いていた。 * 「クラウド…どうしたの?なにかあった?」 夜。 腕の中でまどろんでいたはずのティファが、控えめにそう声をかけたとき、クラウドはまだ、昼間の彼女と夜、町の小さな食堂のTVで見たニュースのことを思っていた。 結局、彼女の名前は聞かないままだったし、ニュースでも彼女の名前を聞き逃していた。 だから、いまだにクラウドは彼女の名前を知らないし、これからもきっと、知るチャンスはないだろう。 いや、知るチャンスはある。 今、心配そうに見つめているティファに話して、聞いてみれば…。 だけど…。 「ティファ…、ティファは幽霊とか…信じるか?」 突然の質問があまりにも突拍子もなく、ティファは目を丸くした。 クラウドがそんなことを口にするなんて夢にも思っていなかった。 だが、クラウドはクラウドで、ティファの驚いた顔にハッとすると、 「ごめん…なんでもない…」 そう言って、質問自体をなかったことにしてしまおうとした。 ティファには分かった。 この質問がクラウドにとってとても大切なものだということに。 だから…。 「私は…見たことがないけど、でも信じてるな」 ニッコリ笑うと、思ったとおり、クラウドはスカイブルーの瞳を見開いてジッと見つめてきた。 ティファは内心、クラウドが質問をなかったことにする…という選択をしないで済んだことにホッとしながら、クラウドの喉元にキスをした。 「だって、エアリスもザックスも、ちゃんと星の中から私たちのことを見てくれてるって感じるもん。たまには目に見える形で出てくることがあっても良いと思うし、エアリスやザックス以外にも心の強い人、魂の強い人は沢山いると思うから…。そういう人たちが、生きている頃に思い入れの強いところへ顔を出してもちっともおかしくないと思うわ」 「……生きている頃に思い入れの強いところ…」 「うん。勿論、場所じゃなくて『人』のところかもしれないけど…ね」 ティファの言葉に、クラウドはゆっくりとした気持ちで昼間のことを思い出した。 彼女は言っていた。 ―「私、ずっとこういう草原に憧れてたんです」- だから、きっと星の中から出てきてしまいたくなったんだろう。 陽の光の下、風に吹かれながら草や花々と一緒に舞っている姿はとてもとても美しかった。 まるで、絵本の中から抜け出してきた妖精のようだった…。 彼女の背中に、透明の羽を見た気がしたではないか。 「……そうだな…」 きっと、彼女は今、幸せなんだろう。 そう…思うことにしたクラウドは、ティファを抱きしめる腕に力を込めると、先ほどのキスのお礼に彼女へ熱い想いを贈った。 悲しい最期を迎えてしまった彼女と、遠い将来、星の中で再会出来ることを思いながら…。 * 「な、すっごい面白い奴だったろ?」 「無愛想なくせに、優しかったでしょ」 「えぇ、お2人の仰った通りでした」 「それにしても、○○がクラウドに飲ませてやったものって何だったんだ?」 「あ、それ私も気になってたんだけど、○○は何も持ってなかったでしょ?今も元気なクラウドを見る限りではヤバイものじゃなかったってことは分かるんだけど」 「あぁ、あれは蜂蜜湯です~。私が大好きだったものです~」 「「 (だから、それは一体、どうやって手に入れたんだ!? ) 」」 「ふふ~、今度はお2人の大好きなお友達だって言うティファさんとおしゃべりしてみたいです~♪」 「「 (…ま、まぁ、クラウドで大丈夫だったことが分かったから、ティファと会っても多分、害はない…よね) 」」 「ふふ~、楽しみです~♪」 などというやり取りがライフストリームの中であったとかなんとか。 あとがき タイトルで『幽霊話』にピン…と来た人、手を上げて~!(← こら!) はい、恐らく誰もいないかと思います。(笑) もうね、なんとなく思いついたお話しでした、ごめんなさい。 んでもって、最後のオチもごめんなさい、『ティファに会う前にクラウドでテストをして、クラウドが大丈夫だったらティファも良いよ~』的なことにしてごめんなさい!! だって、ティファ大好きですから!!(キパッ!!) ティファと会う話しが登場するかどうか。 今のところ未定です。(気が向いたら…気が向いたら~…!) お付き合いくださってありがとうございます♪ |