「もう、デンゼル!いつまでもお客様とお話してないでお仕事してよ!」
「なに言ってんだよ!これも立派な仕事だろ!?」
喧嘩するほど仲が良い!?
客達で込み合う時間帯、非常に珍しい事が起きていた。
マリンとマリンの兄に当たるデンゼルとが口論をしていたのだ。
理由は至って簡単。
デンゼルが、洗い物の仕事を放り出して、お気に入りの常連さん達と話し込んでいた為、結構な量の汚れ物が厨房に溜まってきたのだ。
それを、忙しくて少々気が立っていたマリンが口を尖らせた事に、デンゼルは気を悪くしたのだった。
当然、この場合はデンゼルの方に非があり、デンゼル自身もちゃんと分かっていたのだが、マリンの表情・口調・態度の全てに『カチン』としてしまった。
そして、何より自分はマリンの『兄』であるという認識及び子供らしい意地が邪魔をして、素直に謝る事が出来なかったのだった。
それらの要素が相まって、つい反論してしまったのが事の始まりだ。
「デンゼルがお話ししてる間、洗い物が溜まってるのよ!?」
「何だよ!じゃあマリンが洗えば良いだろ!?」
「私は他のお仕事してるのよ!」
「お客さん達と話す事だって仕事のうちだろ!」
「もっと余裕のある時にしてよ!」
「余裕のある時だけしか話しちゃいけないんだったら、この店で働いてる以上、いつまで経ってもお客さん達と話す事なんか出来ないだろ!?」
「それはタイミングを掴み損ねるデンゼルが悪いのよ!」
「なに!?よく言うよ、じゃあマリンなら完璧に出来るっていうのかよ!!」
「完璧に出来るだなんて一言も言ってないじゃない!」
「出来ないんだったらエラそうに言うなよな!」
「『完璧に』って言ったのよ!デンゼルよりは出来る自信あるもん!!」
「ムッカー!!言ったな、年下のクセに!!」
「年上なのに年下の私にこんな事言わせないでよ!!」
「イヤなら黙ってろよ!!」
「黙ってられないから言ったんでしょ!!」
段々声が高くなり、口調が激しくなる子供達の口喧嘩にティファが気付かないはずが無い。
「こら、二人共!喧嘩するなら仕事の後でしなさい!」
腰に手を当てて一声発する。
「「でも、ティファ!」」
反論しようとした子供達は、いつになく鋭いティファの視線の前にたちまちシュンとなった。
滅多にこうして叱られない子供達にとって、ティファの睨みの威力は効果抜群だ。
ムスッとしながらも口を閉じると、目の前で苦笑していた常連客達に非礼を詫び、それぞれの仕事に戻って行った。
「流石はティファちゃんだね〜」
口笛を吹く常連客に、ティファも店長として、そして子供達の母親として客達に子供達の喧嘩を謝罪すると、忙しそうに仕事に戻って行った。
勿論、客達はそれらの出来事に気分を害するはずがない。
むしろ、滅多に見られない子供達の兄妹喧嘩を見られた事と、ティファの逞しい母親ぶりに頬を緩めるのだった。
その後は、至っていつもと変わらないセブンスヘブンの姿だった。
子供達はそれぞれ看板息子・看板娘の顔で仕事に精を出していた。
心なしかお互いを無視しているようにも見えなくも無かったが、かと言ってよそよそしいでもなく、パッと見た感じは普段の子供達と変わらない。
空いた皿を下げ、料理を運び、汚れた皿を洗う。
大人でも中々出来ないその子供達の姿に、客達は感心しきりだった。
やがて、時間も過ぎて料理と酒が進み、食べる事から話す事に客達の口が移行する。
客達の話題は何と言ってもこの店の店長、ティファの事だ。
何度話しても、いくら見つめても飽きる事など無い。
そんな彼らの話題が、今夜は子供達の口論があった事から、自然と話のテーマが『喧嘩』になった。
― 憧れのティファの想い人、クラウドとティファが喧嘩をしている姿を見た事がない…!―
その事実に客達は想像を膨らませた。
「絶対、仕事以外では喧嘩の一つや二つくらいしてるって!」
「いや〜、どうかな〜?」
「そうだよなぁ。あれだけ『ピュア』な二人が『いっぱしのカップル』みたいな痴話喧嘩するかなぁ?」
「ん〜…想像出来ないな〜…」
「でもなぁ、してなかったらそれはそれでちょっと問題があるんじゃないか…?」
「そうかぁ?してたらそれはそれで店に影響出るくらいになると思うけどな〜…」
「「「それは言えてる!」」」
客達が一斉に頷いたその時、看板息子と看板娘が近くのテーブルにそれぞれ、料理を運ぶ為と空いた皿を下げる為にやって来た。
「ねぇねぇ、ティファちゃんとクラウドさんって喧嘩とかしないの?」
声をかけると、マリンとデンゼルは仕事の手を止め顔を見合わせた。
「喧嘩…、ですか…?」
う〜ん、と首を傾げるマリンに、ほろ酔い気分で常連客達はニコニコしながら頷いた。
「そうそう。二人共、俺達が見る時はいっつも仲が良い…、って言うか、まるでお子様の様だからさ。長い間一緒にいるのに、喧嘩とかしないのかなぁと思ってね」
「お子様?」
デンゼルは客の言った意味が分からず、ますます頭を捻っている。
「そう、お子様!二人共見てて恥ずかしくなるような初々しさだからさ〜」
他のテーブルの常連客も、この会話に興味を持ったらしく、頷いたりニヤニヤ笑ったりしている。
「う〜ん、ちょっと前なら喧嘩…、みたいな状態だったけど、今は全然そんな事ないですよ」
考えに考えた末、マリンはニッコリと微笑んだ。
「おっと、悪い悪い!そういう意味じゃなくてな…」
質問した常連客は焦って言い繕った。
クラウドが数ヶ月前まで家出をしていた事をうっかり失念していたのだ。
マリンはふるふると頭を振ると、「良いんです。今はとっても幸せだから!」と、明るく笑って見せた。
その姿に、常連客達は胸を打たれる。
「本当、マリンちゃんは将来が楽しみだなぁ!」
「絶対にティファちゃんに並ぶような良い女になるだろうぜ!」
「ああ、そうなったらきっと、クラウドさんは落ち着いて暮らせなくなるだろうな」
「本当になぁ。絶対に『マリンに近づく野郎共は俺を倒してからにしろ!』みたいな事を言うんだぜ!」
「あっはっは〜!そうなったら、誰も近寄れないっつうの!」
ドッと場が盛り上がった中、子供達は話しについていけず、キョトンとするばかりだった。
「それにしてもさ。やっぱりクラウドさんとティファちゃんって、喧嘩とかしないんだ〜」
しみじみとした口調で零す常連客に、デンゼルとマリンは顔を見合わせた。
「喧嘩しないっていうのは良い事じゃないの?って、いや、良い事じゃないんですか?」
慌てて言い直すデンゼルに、中年の客はにかっと笑うと、デンゼルのフワフワの髪をクシャクシャと撫で回した。
「ククク…!ティファちゃんの躾が良く出てるな〜!!」
「イタタタタ!!」
ゲラゲラ笑う常連客の手荒い祝福に、デンゼルは思い切り顔をしかめた。
その姿を見て、他の常連客とマリンは笑い転げた。
確かに、デンゼルは最初の頃は愛想が無かった。
それはもう、クラウドに並ぶほどの無愛想振りだったのだ。
しかし、それも今では慣れないながらも言葉遣いに気を配り、接客としてまぁまぁ様になってきたものだ。
それもこれも、全てはこの店の女店主の手腕である……先程の喧嘩の件も含め。
「それで、喧嘩しないのってそんなに不思議ですか?」
デンゼルの質問を口にしたマリンに、他の常連客が大きく頷いた。
「そりゃ、当然だよ!俺なんか、かみさんとしょっちゅう喧嘩するんだぜ」
「お前んとこは喧嘩になってないだろうが。いっつも一方的に叱り飛ばされてるじゃねえか」
「な、そんな事言うお前んとこだって、似たようなもんだろ?」
「だから、俺は言ってないだろ〜」
「あはは〜!マリンちゃん、こいつらは恐妻家だからな。あんまり参考にならないぞ〜」
「「ほっとけよ!!」」
漫才のようなやり取りに、他の客達から笑いが起きる。
「それにしても、まぁ、話を戻すけどさ。喧嘩って言うのは一種のコミュニケーションだからな。夫婦とか、恋人同士とかでも喧嘩する事によって、相手の事を更に深く知るんだよ。そうやって、お互いに理解を深めていく…。ってまあ、こんな感じかな?」
「おお!お前、たまにはまともな事言うじゃないか!」
「フッフッフ…っておい!!『たまには』は余計だ!」
ワイワイと盛り上がる客達の前で、マリンとデンゼルは顔を見合わせた。
その時。
「あら、楽しそうね。何の話?」
噂の女店長が、料理の入った皿を持って通りかかった。
すぐ近くのテーブルに運ぶ最中だ。
「お!噂をすれば!!」
「???」
自分が話しの中心になっていた事など知らないティファは、常連客達の意味深な眼差しの前に首を傾げた。
「いやいや、今、丁度ティファちゃんとクラウドさんの仲の良さを皆で話してたんだ〜」
「何でも喧嘩しないって?」
「良いよなぁ…。いつでも仲良し夫婦でさ〜!」
ニコニコ・ニヤニヤ笑う客達に、ティファは「な…なな何言って!?」と固まった。
最後の『仲良し夫婦』という言葉に、客達の予想を裏切らずに顔を真っ赤にさせる。
その何とも言えない可愛らしい反応に、客達はどっと笑い声を上げた。
「も、もう!!皆して、いじわる言うんだから!!」
おろおろと周りを見渡しながら一言叫ぶと、目的のテーブルに足早に去って行った。
その後姿に益々笑いを誘われて、客達は身体を揺すって笑い転げる。
楽しそうに笑う客達と看板息子、看板娘の視線の先で、ティファは料理を目的のテーブルに運び終えると、笑い転げる客達を一瞥もせずに、耳まで真っ赤になりながらカウンターへ競歩の如く逃げ去って行った。
「あ〜あ。ティファちゃん逃げちまったよ」
「よく言うぜ。わざとだろう?」
「当然だな!あんなに可愛い仕草する事分かってるのにさ〜、しない手は無いだろう!?」
「「「もっともだ!」」」
声を合わせて更に笑う客達に、子供達は嬉しそうに顔を見合わせた。
自分達の母親が好かれているのをひしひしと感じ、自然に頬に笑みが浮かぶ。
すると、微笑み合う子供達を見て、常連客の一人が口を開いた。それは、実に何気ない口調・何気ない表情・素直な感想…。
「二人共、血は繋がってないけどやっぱり似てるよな〜。子供は親の背中を見て育つって言うくらいだから、育て親に似るんだな…」
「「え!?」」
「「「………え?」」」
最初の素っ頓狂な声は、誰でもない子供達の声。
そして、その素っ頓狂な声に驚いて声を上げたのは常連客達。
看板息子と看板娘の心底意外そうな表情に、思わず目を丸くする。
な、なんだ?
何か、子供達にとっての地雷を踏むような発言をしたか…?
必死に考える客達の頭からは、先刻の子供達の口喧嘩がすっぽり抜け落ちている。
そして、そんな客達の前では、冷めていた子供達の闘争心がくすぶり始めてしまったらしい。
デンゼルとマリンは一瞬視線を合わせると……いや、視線を合わせたのではなく、隣に立つ兄妹(きょうだい)を見やった際、たまたま視線が合っただけだろう……、我先にと口を開いた。
「俺、こんなに堅苦しい性格してないよ!」
「私、こんなに気難しくないです!」
同時に声を上げた為、客達にはハッキリと言葉が聞き取れなかったが、子供達二人が反論した事がビリビリと伝わってきた。
『『『ああ…!忘れてた!!』』』
思い出した客達が、話を振った事を後悔しているなど子供達が知るはずも無い。
デンゼルもマリンも、相手が反論した事によって更に気分を害したようだ。
ムッと口を閉じたかと思うと、次の瞬間、相手をキッと睨みつけて詰りあいを再開させてしまった。
「何だよ!俺のどこが気難しいんだよ!」「何よ!私のどこが堅苦しいのよ!」
「そういう所が堅苦しいって言うんだよ!」「そういうところが気難しいって言うのよ!」
「何だよ!!」「何よ!!」
全ての文句が同時に発せられる為、周りの人間には何を言ってるのかハッキリ聞き取れないと言うのに、子供達はそうではないようだ。
実に的確に相手の言葉に反論しあっている。
その光景に、客達は唖然としながらも頭の片隅では、
『『『『『息がピッタリ・そっくりじゃん……』』』』』
と、改めて認識していたりするのだった…。
先程の口喧嘩の時はティファがタイミング良く止めに入ったが、間の悪い事に今は店の奥に足りなくなった食材等を取りに行っていて不在だったりする。
客達が無言で見守る中、子供達の口論は止める者が無い為、先程よりも段々白熱していくかに見えた。
しかし…。
「何やってんだ…?」
呆れた返った声と共に、大きくて温かな掌が子供達の頭に乗せられた。
「「クラウド!?」」
驚いて振り仰ぐと、いつの間にか帰宅していたクラウドが、苦笑を浮かべて見下ろしている。
いつもならフェンリルのエンジン音に敏感であるのに全く気づかない程、周りが見えてなかった事に気付いた二人は、気まずそうに視線を合わせると小さな声で「「お帰りなさい」」と呟いた。
その言葉までが同時だった事により、一部始終を見ていた客達はドッと笑い声を上げた。
「本当にそっくりじゃねえか!」
「これ以上似た兄妹は世界広しといえどそうはないぜ!」
「全く、これで似てないだなんてよく言うぜ!」
「ま、二人共仲が良いって事だな!」
デンゼルとマリンは、何とも言えないバツの悪そうな顔をして互いにあらぬ方へ視線を投げている。
全く状況の分かっていないクラウドが、いつもなら決して見られない子供達の様子にしきりに首を捻っていた。
そんな困惑しきりのクラウドも、
「クラウド!?お帰りなさい!」
「ああ、ただいまティファ」
丁度、店の奥へ足りなくなった食材を取りに行っていたティファが、ドッと笑い声の起こった店内にキョトンとしながら戻り、自分を見て口許を綻ばせながら駆け寄る姿にたちまち穏やかな笑みを浮かべた。
あっという間に自分達の世界を築き上げてしまった二人の姿に、客達は新たに頬を緩ませたり、ガックリと肩を落としたりするのだった。
『やっぱり、この二人には『喧嘩するほど仲が良い』って言葉は当てはまらないな…』
『そうだな…。むしろ……』
『『『子供達の方こそがバッチリ当てはまってるよな…!!』』』
客達がコソコソ・ヒソヒソ囁き合っている前で、やはり女店主とその伴侶は気づかないまま、穏やかな空気を交し合っていたのだった。
そして…。
子供達はそれまでの不機嫌振りが嘘のように、自分達の親代わりが幸せそうな姿に嬉しそうに笑みを浮かべていた。
客達がその子供達の姿に胸を温かくさせたのは言うまでも無い。
セブンスヘブン。
そこは、店主とその家族が生み出す温かな空気が、疲れた心を癒してくれる素敵な店。
そして…。
その店の看板息子と看板娘の仲の良い兄妹が、日々様々な顔を見せてくるのだ。
ちなみに今夜見せてくれた顔は…。
『喧嘩するほど仲が良い』
あとがき
子供達の子供らしい姿を書きたかったのですが、いかがだったでしょうか…?
拙宅の子供達はいつも大人顔負けのしっかり者なので、たまには子供らしい場面を書きたくなったのです。
いや〜、口論書いてて楽しかった(笑)。ま、でも結局喧嘩が出来るのも、相手を心の底から
家族とて信頼してるからこそ出来るのだと思います。
うん。頑張れ、ちびっ子達!(笑)

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