今日も一日が終わって、ホッと息をつく。
 ゆっくりお風呂に入って、汗と一日の疲れを流し、湯上りに冷たいお水を一杯飲んで…。
 今日は、帰らない彼の事に思いを馳せつつ、ふと窓から夜空を見上げると、言葉に出来ない程の綺麗な星空が視界一杯に広がった…。


 綺羅星達に誘われて…。



 子供部屋をそっと覗くと、子供達は既に夢の世界で活躍中。
 ぐっすりと良く眠るあどけない顔に、頬が緩むのをどうして止められよう…?
 子供達の額に、そっとキスを贈り、部屋を出る。
 階段を、音を立てないよう慎重に下り、裏口の鍵を開けてするりと抜け出ると、鍵を閉めなおし、深夜の街に繰り出した。

 今夜の空は、満天の星に彩られ、本当に華やかで美しい。
 二年前、この土地では決して見る事の出来なかったこの空を、今夜は私が独り占め。

 エッジの街は、今は深い眠りの中。
 …昼間の活気が嘘のよう。
 きっと、この街で、こうして素晴らしい星空の下を歩いているのは、私だけ。
 静まり返るエッジの街を歩いていると、見慣れているのに何故か胸がドキドキするの。

 フフ、何だか子供に帰ったみたい…。
 パパに内緒で、彼に会いに給水塔へ行った時の事を思い出す。
 ああ、彼は今頃、どうしてるのかな?
 きっと、宿で良く眠って、疲れを取っているんだよね?

 ああ、何だか無性に彼の顔が見たくなる。
 彼の声が聞きたくなる。
 でも、ダメダメ!明日の朝、「おはよう」って彼が電話をかけてくれる、その時までこの気持ちは我慢しなくちゃ!


 そんな事を考えながら、心は躍って、足取りも軽く、私は一人、眠る街を歩いてく。
 そうして、建設中のビルに着くと、立ち入り禁止のロープには目をつむり、得意の跳躍で剥き出しの鉄骨を足がかりにし、天辺まで登り始める。


 トン、スタッ、トトン、スタッ、タン…。


 耳に響くのは、自分の足が鉄骨を蹴り、着地する音だけ…。
 何だか、それだけでワクワクしちゃうのはどうしてかな? 

 うん。きっと貴女ならこの気持ち、分かってくれるよね?
 だって、私より貴女の方が、こういうちょっとした『内緒』、大好きだったもんね。

 そう、今、この時は私だけの『内緒』な時間。
 子供達にも、そして、彼にさえも、今は『内緒』でこの星空を独り占め。


 ふふ、ホラ、あっという間に天辺に到着。
 着いてみると、視界を遮る物は何一つない星空に、思わず吸い込まれそうになる…。


 ああ、あの時見た星空もこんな風に感じたんだったっけ…。
 ほら、コスモキャニオンで、ブーゲンハーゲンさんに見せてもらった、部屋一杯に広がった天体図。
 そして、その後で見た、本物の星空…。
 生まれて初めて見る感じがしたんだよね?
 私はニブルヘイムでの給水塔の思い出を彷彿とさせられたけど、貴女はスラム育ちだったから、本当に大喜びだったよね。


 足元を見ると、うんと遠く離れた地上には、明かりがまばらに光っている。
 そんな明かりを圧倒してしまうこの星空を、両腕を広げて抱きしめたくなる。


 ねぇ、見えてる?
 ホラ、こんなに星が綺麗だよ。


 満天の星空を眺めていると、ふとウータイのお元気娘を思い出した。


『だから〜、もうすぐ天の川のお祭りがあるんだってば!』
『だから、ウータイにちょびっと寄ってこ〜よ〜!!』
『え〜!!いいじゃん!クラウドのケチー!!』
『ホラ〜!ティファもエアリスも笑ってないでさ〜、何とか言ってやってよ、このチョコボ頭にさ〜!!』
『キャ〜!暴力反対〜!!馬鹿クラウド〜!!ケチケチチョコボ頭〜!!お前なんか嫌いだ〜!!!』


 あの時は大変だったよね。
 ちょっとだけ寄ってって、駄々こねちゃって。
『ちょっとだけ』って距離じゃなかったもんね。
 でも、本当に楽しかったよね。
 うん。本当に幸せだったよね。
 ううん。もちろん今でも幸せだよ。
 それは嘘じゃないよ。

 でも…、でもね。


 貴女がいてくれたら、もっと幸せだったよ。


 なぁんて、贅沢言い過ぎ…、だよね…?


 ホラ、こんなに綺麗な星達が、私達の地上を見つめてるよ。
 貴女も、一緒に見てくれてるよね?
 うん。分かってるよ。
 いつでも一緒にいてくれてる…、って。
 ただ、姿が見えなくなっちゃったってだけで、心は、魂は一緒だってこと…。
 うん。ちゃんと、分かってるよ。


 でも、やっぱり時々、すごく貴女の声が聞きたくなるの。
 貴女の微笑みが見たくなるの。
 貴女の笑い声を、耳にしたくなるの。
 貴女に、触れたくなるの…。


 そんな時、私が何してるのか知ってる?
 あはは、知ってるよね?
 だって、いつでも一緒にいてくれてるんだもん。
 だから、ほんの少し恥ずかしいんだけど、でもこれからも止められないと思うの。
 だって、とても落ち着くの。効果覿面なんだもの。

 いいの。貴女にはバレても!
 だって、『女の子同士』なんだもん。
 だから、彼や子供達には恥ずかしくて『内緒』にしちゃう事でも、貴女になら平気だって思えるの…、でもやっぱり少し恥ずかしいんだけどね。

 だって、私ったらいつまで経っても、なかなかしっかり出来ないんだもの。
 マリンの方が、『ここ』って時、しっかりしてる気がするのよね。
 あ〜あ、何だか少し情けない気分になってきちゃったな。

 でもいいの。
 今夜はいいの。
 だって、こんなに素敵な星空なのに、下手な見栄や、嘘は全然似合わないもの。
 ね?
 貴女もそう思うでしょ?


『ホラ、ティファ!見て見て!!すっごい綺麗〜!!』
『わ〜!ミッドガルでは絶対に見られないよね〜、こんなお星様!』
『キャー!すっご〜い!ティファ〜!ホラ、天体望遠鏡覗いてみてよ!すっごいわ〜!私、こんなに宇宙が広いだなんて、初めて実感しちゃった!!』


 この星空を眺めてると、あの時の、貴女のはしゃぐ声が聞こえるようだわ。
 コスモキャニオンで、貴女は本当に嬉しそうに笑ってた。
 ねぇ。あの時、流れ星を見つけようと、『女の子同士』三人が必死になって探したよね。
 フフ、楽しかったね。
 流れ星を見つけても、星が消えてしまうまでに、三回もお願い事言わなくちゃいけないなんて絶対に無理!!って、散々三人で騒いだよね。

『世界中のマテリアが手に入りますように…、だなんて三回も言ってらんないよ!!』
『じゃあ、別のお願い事すれば?』
『何言ってんのさ!私の一番の願い事は、マテリア獲得なんだから〜!!』
『じゃ、頑張るしかないわね〜』
『舌かまないように頑張ってね』
『ブー!!二人共冷たい!!それに、二人共、お願い事何なのか教えてよ〜!!ずるいよ、私のお願い事知ってるのにさ〜!!』
『や〜ね、お願い事は口にしたら叶わないって相場が決まってるのよ』
『えーー!!嘘ーーー!!!』
『ホ・ン・ト・ウ・よン』
『何で早くその事教えてくれないのさー!!』
『だって、教える前に言っちゃったんだもん』
『あ〜ん!どうしてくれるのよー!!私の野望がーー!!』
『フフ、努力して自分で獲得するしかないみたいね?』
『あーー!ティファまで冷た〜い!!二人の薄情者ーー!!!』


 楽しかったよね。
 あの後、ナナキが困った顔してたよね。
 フフ、だってあの時もこんな時刻だったものね。
 こんな時刻にあれだけ騒いだら、渋い顔されちゃうよね。


 あ!
 見えた!?
 今、流れ星が走ったよね!?
 ああ、あっという間に消えちゃったから、全然お願い事が言えなかったわ。
 それにしても、この街でも流れ星が見れるのね。
 今まで全然気付かなかったわ。
 ああ、こんなにも星が瞬いていたら、流れ星が走ってもおかしくないわよね。
 どうして今まで気付かなかったのかな…?

 それだけ、余裕がなかったって事…、かな…?

 フフ、そうかもしれないよね。
 だって、毎日が必死だったんだもん。
 もちろん、今でも一生懸命なのは変わらないけど、彼が傍にいてくれる、必ず私達の元に、私の元に帰ってきてくれる、そう信じられるから、心に余裕が出来たんだろうね。
 そう。だって、私は現金なんだもの!
 嬉しい事があったら、いくらでも頑張れるの!

 貴女も、こんな私で良い、っていつも言ってくれてたよね。
 いつも、励ましてくれてたよね。
 ううん。『今でも』…、だね。


 ねぇ。
 流れ星が今度走ったら、何をお願いするの?
『お願い事を話したら、願いが叶わない』だなんて言って、逃げないで教えてよ。

 フフ、私のお願い事?
 私のお願い事は、『二度と二年前の悲劇が繰り返されませんように』にしたいんだけど、きっとそれは無理だと思うの。
 だって、人間は『欲』の尽きない生き物だから…。
『欲』がなくならないと、きっと二年前の悲劇はなくならないと思うから…。
 でも、人間が存続していく為には、やっぱり『欲』という感情は不可欠なんだって事も、今では分かってる…。
 そんな矛盾した生き物だけど、それでも貴女のように素晴らしい『人』は存在するって事も、身に染みて知る事の出来た、今の私が願う事…。
 それはね…。


 貴女のように、強い心を持った人が絶えません様に…だよ。


 これも台詞が長いから、流れ星が消える前に三回も言えない気がするわ…。
 う〜ん…、でも、これが良いの!
 この願い事でないとイヤなの!!
 …って、まるであの子みたいよね?
 フフ、可笑しいわね。
 私も、舌をかまないように頑張らないと!!


 ああ、本当に綺麗な星空…。
 名残惜しいけど、もうそろそろ帰って休まないとね。
 明日は彼が帰って来る予定だから、早起きして美味しい物を沢山作って待っててあげたいの。

 だから、今夜はこれで星空にお別れ…。

 明日彼が帰ったら、子供達には『内緒』にして、そっとここに来ようかな…?
 きっと、彼もこの綺羅星達に満足してくれるはず!
 そしたら、貴女は『彼』と一緒に来てくれたら丁度良いわよね?
 彼も『彼』に会いたがってるの…。
 私にはあまり話さないけど、何となく分かるんだ…。


 ああ、今夜も眠る前に『教会の花の香り』を胸一杯に吸い込まなくちゃ!
 そうしないと、何だか涙がこぼれそうな気がするわ。
 だって、やっぱり貴女の笑顔を見たくて堪らないんだもの!

 うん。大丈夫。
『教会の花の香り』は、貴女の香り。
 その香りで、今夜もきっとぐっすり休めるわ。 


 それじゃ、また明日、この場所で会いましょう。


 この満天の綺羅星達が見守る下で…。



あとがき

はい。かなり捏造&妄想が入っております。
(給水塔に行くくだりとか、お願い事とか 汗)
ええと、一応七夕にちなんで『星空』をテーマにしてみました。
『七夕』をテーマに考えるだけの文章力がなくて…(滝汗)。
エアティを書きたいなぁ、とか思ってたので、丁度タイミング的にも
ばっちり合ったのでUPしてみました。
かなり、ティファの性格が弱く・脆くなってしまって……。
(ああ、すみません。)

最後までお付き合い下さり有難うございました。