「うっわ〜!」
「真っ白〜!!」

 飛空挺から降り立った子供達は、目の前に広がる銀世界に歓声を上げた。



北の国にて




 クラウドは、ようやく解放された乗り物酔いに、身体中で喜びを表すかのように大きな溜息を吐いた。
 その背をティファが苦笑しながらゆっくりと撫でる。

 いつも乗せてもらっているシエラ号とは違う飛空挺は、クラウドにとっては拷問に近いものがあったようだ。 その飛空挺でストライフファミリーはアイシクルエリアにやって来た。
 何故かというと、少しずつ復興が進んでいる証拠でもある、空路の開通によるものだった。

 旧ミッドガル。

 その南端に作られた空港。
 その処女飛行に乗れたことは、幸運なのか…はたまた不幸なのか。
 子供達とティファにとっては幸運。
 クラウドにとってはまぎれもなく不幸。

 ヘビースモーカーの仲間がいかに凄腕のパイロットであるのか、クラウドはティファと子供達以上に痛感していた。

『…帰りはシドに頼んで迎えに来てもらおうかな……。やっぱりダメか……?』

 銀世界にはしゃぐ子供達の姿を見つめながら、なんとも情けない考えを持つ。
 クラウドはもう一度溜息を吐いた。
 息が真っ白にその深さを表した。


 そもそも、何故、新しい空港での処女飛行に乗れたかと言うと…。



「クラウドさん、ティファさん。お久しぶりですね」
「リーブ!?」

 突然閉店後に現れた仲間に、クラウドとティファは目を丸くした。
 WROという巨大になりつつある組織の局長という重責を担っているリーブは、人懐っこい笑顔を浮かべて軽く手を上げた。
 その手に、二枚のチケットが握られてヒラヒラと揺れている。

 キョトンと目を丸くしていた二人に、悪戯っぽく微笑みながらリーブが言うには…。



「「空港!?」」
「はい。なんとか空路を整えたいと思いましてね。勿論、WRO自体には充分な飛空挺が揃いつつあるのですが、まだまだ一般の方々には危険な陸路と海路しか移動手段がありませんからね。他の大陸に渡るのにはちょっと時間がかかり過ぎますし、モンスターの遭遇も高い。その点、空路ならばまだ安全です。ですから、WROで実験的に一般の方々に向けた空港を作ってみることになったんです」

 穏やかに微笑みながらリーブは二人を面白そうに見つめた。
 いつものポーカーフェイスがやや崩れているクラウド。
 素直に驚きを顔全体で表しているティファ。
 予想通りの反応に満足感が心を満たす。
 リーブはティファの入れてくれたカクテルを口に運び、ホゥ…、と溜息を吐いた。
「やっぱりティファさんは料理もお酒作りも最高ですね」
「ふふ。ありがとう」

 リーブの賛辞にティファは嬉しそうに笑みを返す。
 クラウドも軽くグラスを掲げてリーブに微かに笑みを向けた。

「それで、その空港がどうかしたの?」

 自分用のグラスを手に、テーブルに着いたティファは話しの続きを促した。
 滅多にやってこれない多忙な仲間がこうしてやって来たのだ。
 きっと、『WROの依頼』か…それとも別の何かがあるはずだ。
 リーブはティファ特製のラザニアを一口口に運んで、ゆっくりと咀嚼し、実に美味しそうに飲み込んだ。

「えぇ。もうすぐその空港が開港するんです。その処女飛行にクラウドさん一家をご招待したいと思いまして」

 リーブの申し出に、クラウドの顔が真っ青に、ティファの顔がピンクに変わった。
 実に真逆な反応を示した二人に、リーブは苦笑いをする。
「クラウドさん……無理にとは言いません。よろしければ、うちの隊員も数名搭乗予定ですので、クラウドさんは…」
 言いにくそうに気を使ったリーブの言葉に、ティファの嬉しそうな顔が途端に曇る。

 充分分かっている。
 クラウドが乗り物に弱いことくらい。
 だが、折角のチケット。
 しかも家族分!
 子供達も、クラウドが一緒に乗れないことを知ったらガッカリするだろう。
 子供達のガッカリした顔を想像し、ティファは上目遣いでクラウドを見つめた。

『なんとか……頑張ってくれない?』

 彼女のその懇願する表情。
 上目遣いでジッと見つめてくる茶色い瞳。

 クラウドが「…いや……行く」と、白旗を上げるのに全く時間はかからなかった。
 リーブは申し訳なさそうにクラウドを見ながらも、どうせこうなると予想していたので、意外でもなんでもなかった。
 ちょっと……クラウドには申し訳ないが、それでもクラウドも愛車を走らせて大陸中を駆け巡っている。
 もうそろそろ、乗り物酔いから解放される頃ではないだろうか?

 リーブのこの考えは、アイシクルエリアに降り立ったクラウドが充分証明している。


 大失敗だ…と。


 シエラ号は一般の飛空挺に比べ、はるかに性能が良く出来ている。
 しかも、操縦するのはこの星一番のパイロット。
 そのシエラ号ですら、クラウドは軽く酔ってしまう。
 それが、一般の飛空挺、しかも並みのパイロットの操縦。
 加えて長時間のフライト…。

 真っ白で疲弊しきったクラウドに、同乗していたWROの隊員達が、『これが本当にジェノバ戦役の英雄か?』と不安に思ったのだった。


 今回の処女飛行は、一般客はあまり招待されていない。
 WROの隊員達とその家族が招待されているのみ。
 今回の飛行にて隊員達と招待された家族、そしてパイロットやその他のクルー達全員からアンケートを収集し、今後開発される諸々のメンテナンスや性能、空港のありようを改善していかなくてはならない。
 ただのご招待には、きっちりとこういった『モニター』としての役割が特典としてついてきていた。

 その『モニター』として最も適していたのはクラウドだろう。
 何しろ、彼の乗り物酔いは鉄筋が入っている。
 一体いつぐらいから気分が悪くなったのか。
 どういう風にしたら、悪酔いが減ると思われるか。
 乗り物酔いの間、紛らわせる為に、また、乗り物酔いを少しでも良くする為にしたことは一体何か?


 アンケート用紙を渡されて質問事項に目を通した時、ティファと子供達は一斉に無言でクラウドを見た。
 突き刺さる視線に、用紙からゆっくりと顔を上げる。

「「「…………」」」
「…………………」

 言わなくても分かる。
 どう考えても、これはクラウドの為に作られたようなものだ…。
 勿論、そのほか、クラウドには縁が無かった『航行中で楽しかったことは?』『航行中で、こういうサービスがあれば良いなと思った事は?』といった一般人向けのものもある。
 だが、大半は………。

「リーブの奴。俺に一体これから先、何をさせるつもりだ…?」

 言い知れない不安がジワジワと冷や汗を滲ませる。
 確実に、絶対に、間違いなく!!
 リーブはクラウドを、飛空挺に乗らなくてはならないような状況であっても、問答無用で何か厄介で危険なことがあったら呼びつけるつもりだ。

 間違いない!!!

 悲しすぎる確信。
 クラウドは初めて心の底から今回の招待を受けたことを後悔した。
 飛空挺での乗り物酔いのときですら、これほど後悔したことはない。

『リーブ…………』

 人懐っこい笑顔の下に隠されている『WRO局長』のしたたかさを垣間見た瞬間だった…。





 その後。
 気を取り直したクラウド達は、丁度催される『寒中大会』というものを見学することとなった。
 ミッドガルエリアとアイシクルエリアを新しく繋ぐ空路のために建設された空港。
 その空港を中心として、アイシクルロッジ近くに新しく出来た小さな町。
 その町の『町おこし』として開催されることとなったお祭りらしい。

 海水パンツ一枚の男性達が寒空の下、小さな湖の中に飛び込む……という、見ているだけで寒くなるお祭り。
 デンゼルは唖然と、マリンは顔を顰め、ティファは薄寒そうにその半裸の参加者達を見つめた。
 クラウドは……無表情。
 いつものポーカーフェイスは、『興味ないね』と語っている。

 クラウド達の周りには、沢山の見物人達が山となっており、黄色い歓声を上げる者、大声で声援を送る者、一緒になって寒そうに身を縮めている者、はしゃぐ者、実に様々だ。

 司会者を務める『町娘』が、マイクを片手にピンクのコートを風に翻させながら、見物している観光客達に、
「みなさ〜ん!こんにちは〜!!」
 と、明るい笑顔を振りまいた。
 素直な子供達と、お祭りムードに酔いしれている観光客達、見物人達が、
「「「「こんにちは〜!!」」」」
 と返す。
 半裸の男達は唇を紫色にしながら、
『『『『早く始めろ!』』』』
 と、言わんばかりに『町娘』を恨めしげにねめつけた。

「皆さん、この町初めての『寒中大会』にようこそいらっしゃいました!最後までどうか応援をよろしくお願いします!」

『町娘』が頭を下げ、観客達が拍手を送る。
 クラウドとティファも、お愛想程度に拍手を送った。
 子供達は言うまでも無く目一杯拍手を送る。

 何やら良く分からないが、楽しげな雰囲気にすっかり目を輝かせている子供達に、クラウドとティファは眉尻を下げた。(親バカ振りが本領発揮されている)


 その後、一言二言『町娘』が新しい町について紹介をしたが、半裸の男達の殺意のこもった視線に気付き、
「じゃ、じゃあ、まだまだご紹介したいことは山ほどありますが、お時間となりましたので只今より『寒中大会』を始めたいと思いま〜す!」
 慌てて祭り開始の宣言をした。


 一気に観客達から歓声が上がる。

 子供達も最初の『気味悪さ』を捨て去り、すっかり楽しんでいる。
 クラウドティファは、これから半裸の男達が湖に飛び込む…という、一種の『自殺志願者』のような競技を子供達に見せて良いものかどうか躊躇った。
 だがまぁ、ここまで盛り上がって見学してしまったのだ。
 今更、『見ないほうが良い』と説得したところで反対にあうのは分かりきっている。
 そっと顔を見合わせ、諦めたように肩を竦めた。


「位置について…よぉい…!!」


『町娘』が耳を押さえながら空に向けてピストルを撃とうとした、まさにその時!



 ゾワッ!
 バッ!!



 一瞬にも満たない半瞬。
 クラウドとティファのうなじが逆立つ。
 勢い良く『ソレ』の気配の方へ顔を向ける。

「「モンスターだ(よ)!!!」」

 クラウドとティファの大声に、周りの人達と祭りの参加者、そして『町娘』が一斉に『そちら』へ振り向いた。

『ソレ』は丁度、『町娘』と観客達の対になる場所に群れで現れた。


 突如現れたバンダースナッチ(ウルフ系)の群れに全員が一気にパニックに襲われる。
 上がった黄色い悲鳴に、人々の恐怖の叫び。
 あっという間に大混乱になった。
 クラウドとティファは、子供達をそれぞれ小脇に抱えて、パニックになった人達の波に身を委ねるように避難する。
 今回の『町おこし』としてWRO隊員が数人、警護についていた。
『ジェノバ戦役の英雄』としてではなく、純粋に子供達の親代わりとして子供達を楽しませる為に参加した今回の祭り。
 日頃から『ジェノバ戦役の英雄』として見られているため、どうしても今回はそのような肩書きで見られて過ごしたくない。
 幸い、隊員もいることだし、バンダースナッチ自体が大した力を持っていないので隊員達で充分対処出来るだろう。
 それになにより、子供達を抱きかかえて避難しなくては、この混乱した人達に子供達が蹴り飛ばされてしまう可能性が充分高い。
 なによりも子供達の身の安全が最優先だ。

 半裸の祭り参加者も、『町娘』も、気が付いたら大混乱の集団の最先端で走っている……。

『『…いつの間に……』』

 真新しい町の『町娘』とその住人達の俊敏さに、クラウドとティファは素直に驚き、顔を見合わせて苦笑した。



 逃げている間、背後から隊員達が発砲している銃声がする。
 だが、暫く逃げている間にクラウドとティファは気が付かざるを得なかった。
 パニック状態で皆が一方向に向かって逃げているわけだが、誰も避難場所に向かっていない。
 要するに、誰も誘導する人間がいないのだ。
 ただただ、目の前の恐怖に突き動かされて闇雲に走っているに過ぎない。
 このままでは、新しく出来た町から出てしまう。

 その事に気付いた英雄二人はゾッとした。
 何しろ、町の外には祭りに乱入してきたモンスターとは比べ物にならないほどのモンスターが生息している。
 それに、何だか空模様が怪しい。
 このままの勢いで町を出て、落ち着きを取り戻した頃には…恐らく吹雪がやって来るだろう。
 しかも、その吹雪は町の外で迎えることになるのだ。
 冗談抜きで死人が出る。

 目だけで会話を交わす。
 デンゼルをティファに預け、クラウドは一気に駆け出した。
 と言っても、パニックに襲われている集団が周りにいるため、駆け出そうにもままならない。


 ダンッ!!!


 傍にいた人達がびっくりして空高く跳躍した青年を見つめる。
 思わず口をポカンと開けて空を見上げた彼らは、一瞬恐怖を忘れた。
 彼らの後ろから逃げていた人達にも、空高く跳び上がったクラウドの姿がバッチリと見えていたため、同じ様に目を丸くして立ち止まる。
 ティファと子供達はニッコリと笑い合った。



「待て!」



 突然空から降って来たその青年に、最先端を逃げ走っていた祭り参加者と『町娘』は急停止した。
 あと少しで激突する!という所で立ち止まった参加者と『町娘』達に、後ろから逃げてきた人達がぶつかる……という大惨事にならなかったのは、彼らにもクラウドが空から降って来た姿が見えたからだ。
 降って来た…というよりもまるで…。

「ママ〜。天使のお兄ちゃんが降りてきたの〜?」

 小さい子供のその台詞が、周りの大人達のフリーズした脳内に妙に浸透して…。
 突如現れた金髪・碧眼の美男子を見つめなおす。
 子供の台詞そのままを受け取っても全く違和感のないその容姿。
 着ている服こそ黒で統一されているが、その圧倒的な存在感。

 マジマジと見つめる彼らのうち、数人がハッとした。
 WROの広報誌に載せられていた…『英雄』の写真と、目の前の青年の顔が重なる。

「も、もしかして…」
「もしかすると…」


「「「クラウド・ストライフー!?」」」


 ザワザワザワザワ…。

 数人の素っ頓狂な声が波紋のように逃げ惑い、今は固まっている人達の間に広まった。
 疑心から不安、確信へと心が傾いていく。
 その彼らの表情に、クラウドは居心地の悪さを禁じえなかった。
 どうにも落ち着かない。
 自分は自分でしかないのに、『英雄』というたった一つの肩書きだけでこうも人の見る目が変わってしまう。
 恐ろしいものだと心底思う。
 だが、今回ほどこの恐ろしい『肩書き』に感謝したことは無かった。

 人々の心を覆っていた恐怖が払拭されたのだから…。


「もうすぐ吹雪が来る。このまま町を出たら確実に遭難者や死人が出る。全員、すぐに町に戻ってくれ。あとは俺達が何とかする」

 決して大きな声ではないが、クラウドの一言は人々を歓喜に導いた。
 数人が不思議そうな顔をして『俺達?』と首を傾げている。

 だがその答えはすぐに解決した。
 そそくさと……という表現そのままに、クラウドが人々の山を掻き分けるようにして…(もっとも、潮が引くように人々はクラウドに道を開けたのだが)辿り着いた先にいた女性。

 漆黒の髪に整った顔(かんばせ)。
 魅惑的なプロポーションを持つ凛とした佇まいの絶世の美女。


「「「ティファ・ロックハート!?」」」


 駆け寄ったクラウドはデンゼルを抱き上げ、ティファはマリンを抱っこしたまま踵を返して駆け出した。
 その背後から、ドッと歓声が沸きあがったのは言うまでも無い。



「本当にクラウドとティファって人気者だなぁ…」
「うんうん。あれだけパニックになっていた人達があっという間に落ち着いちゃったんだもん」
「あ〜、でも今は別の意味で興奮してるけどなぁ」
「…そうだね。なんだか違うお祭りになっちゃったみたい」

 クラウドとティファに抱っこされたまま、子供達が実に冷静に分析している。
 クラウドとティファは顔を見合わせてうんざりした表情を浮かべた。

 自分達に過剰な期待がかけられているのがなんとも居心地悪い。
 なんでも『英雄』が解決してくれる…と、勘違いしているのがイヤでも分かる。
 ある意味、この世界で『ジェノバ戦役の英雄』は神格化されているのだ。
 セブンスヘブンに来る常連客達は流石にそういう目で見ることはないが、一歩店から…エッジから出て自分達の姿を『知らない』一般人に出会おうものなら、自分達は『クラウド』でも『ティファ』でもなくなってしまう。
『ジェノバ戦役の英雄』にさせられてしまうのだ。
 それが……イヤでたまらない。
 まぁ、そんな事をぼやいたところで何も変わらないので、無視するしかないわけだが…。



 複雑な気持ちを抱えたまま舞い戻ったクラウド達は、目の前の光景に唖然とした。
 さして強くもないバンダースナッチの群れに、WROの隊員が苦戦を強いられている。

「「……………」」

 本当は、クラウドとティファはこう思っていた。
 戻った頃にはWRO隊員が見事制圧していて、笑顔で自分達を迎えてくれるだろうと。
 そして、その姿を見た逃げ出した人々は、新しいWROという星を守る組織、存在に歓声を送るだろう…と。
 それが!

 数人の隊員が身体のどこかしらを押さえて苦しそうに顔を歪め、その負傷した隊員を背後に庇いながら必死に発砲している隊員達。
 まともに発砲している隊員は一人もいない。
 半ば…いや、もうほとんどパニック状態だ。
 逃げ出した人達と変わらない………。


『『…リーブ……』』


 WRO局長という重責を担っている仲間が、どうして今回、クラウドを処女飛行に強引に誘ったのか、初めて理解した瞬間だった…。

 頼りなさ過ぎるのだ。
 一部の隊員は突出した能力を持っている。
 だが、大半は目の前の隊員達のように惰弱すぎるのだろう。
 だからこそ、乗り物酔いが酷いクラウドにもSOSを出すことが多々ある…ということを暗に匂わせるようなアンケートを作成し、少しでもクラウドが緊急時に乗り込む飛空挺を彼仕様に改善出来るべく模索しようとしているのだ。

 クラウドとティファは、人懐っこい笑顔の仲間に心から同情した。



「じゃ、デンゼル、マリン。ここで大人しくしてろよ」
「すぐに終るからね」
 子供達をそっと下ろして言い含める。
 勿論、子供達が邪魔になるようなバカなことをしないとわかっているが、それでもそう言ってしまうのはやはり一重に『親心』ゆえ。
 デンゼルとマリンはニッコリ笑いながら「わかってるって!」「じゃ、頑張ってね」と、軽く手を振った。

 クラウドとティファは、微かに笑みでそれに応えると……。


 キッ、とモンスターを睨みつけ……。
 疾風のように駆け出した。



 バンダースナッチが、鋭い鉤爪で隊員を引き裂くその半瞬前。
 隊員がギュッと眼を瞑って死を覚悟したその時。

 モンスターの断末魔が雪原にこだまする。

 驚いて眼を開いた隊員と、その一瞬を目撃した他の隊員達、更には、舞い戻ってきた観光客達が目にしたのは、大剣を軽々と操り次なるモンスターへと向かっていく『ジェノバ戦役の英雄』。
 更に、少し離れたところからは、


 ドカッ!
 バシッ!
 ズドドドドッ!!


 殴打と蹴りを繰り出すティファの攻撃。
 まるで舞を舞うかのように軽やかな身のこなしとは違い、一つ一つの攻撃は確実にモンスターの急所を突き、且つ重い。
 一撃必殺、とはこのことだろう。
 繰り出される拳と蹴りによって、モンスターは苦悶の呻きを上げながら絶命する。


 クルッ、ズシャッ!
 トンッ、ビュッ、ザンッ!!


 ティファの武闘に見惚れていると、別の場所からクラウドの攻撃音が心を惹きつけ、顔をそちらに向ける。
 大剣を操っているとは思えないほど軽い身のこなし。
 襲い掛かってくるモンスターを斬るだけではなく、時には肘で攻撃し、鋭く蹴り上げて間合いを取る。
 それをティファが駆け寄って止めの一撃を食らわしたり、クラウド自身が斬り捨てたり…。

 背中を合わせて戦う英雄二人の姿に、人々は食い入るように見つめ、酔いしれた。

 そして…。

 気がついたら、もう息の残っているモンスターは一頭もいなかった。
 隊員達は、自分達とのあまりの違いにあんぐりと口を開け、一部始終を見ていた子供達は笑顔で親代わり二人の健闘を讃え、そして…。


 ドッと雪原に『英雄』を褒め称える歓声が沸き上がった。


 皆が一斉に英雄に駆け寄ろうとする。
 が…。


 一足先に英雄達に駆け寄った子供達を二人は抱き上げると、一目散にその場から逃げ出した。
 それはそれは、見事な逃げっぷり。

 あっという間に飛行場の道へと消えていった背中を、人々はポカン……と見送ったのだった…。






「リーブ……本当に苦労するよな…」
『えぇ…本当に申し訳ありません。やっぱりまだまだ未熟な者が多いみたいですねぇ…』

 とんぼ返りするかのようにエッジに舞い戻ったクラウド達は、とりあえずの報告をリーブにする。
 既に隊員達から報告を受けていたらしいリーブは、携帯に出た途端、開口一番に謝罪を口にした。

『自分達はWRO隊員だから一般の人達よりも優れている、と勘違いしている者が意外と多くて困ってます』
「だろうな…」
『ですが、今回の事で少なくとも自分達はまだまだ未熟だと気付いた隊員もいるはずです。本当にありがとうございました』

 恐らく携帯の向こうで頭を下げているであろう仲間に、クラウドは苦笑した。

 その後、一言二言やり取りをしてクラウドは携帯を切った。
 あえて『これからまた、何かあるたびに引きずり込むつもりだろう?』とは言わない。
 言われなくても…仲間のためだ。
 頼られたら応えるし、頼られなくても困っていると感じたら助けに行く。

 それだけだから…。


「クラウド、はい」

 話し終えたクラウドに、ティファがウィスキーの入ったグラスを差し出した。
 微かに微笑んでそれを取る。

「それにしても、デンゼルとマリンには悪いことをしたな」
 一口啜って溜息を吐いたクラウドに、ティファはふふっと笑うと、
「そうでもないみたいよ?」
 悪戯っぽく瞳を輝かせた。
「 ? 」 
 首を傾げる愛しい人に、

「私達の勇姿を見ることが出来て本当に嬉しかったんですって」
「あ〜……そっか…?」
「うん」

 告げられたその言葉に、クラウドはテレたように笑った。
 知らない人達から『流石、英雄だ!』と称賛されても嬉しくない。
 子供達が褒めてくれることが……照れ臭いが嬉しい。

 頬を緩めるクラウドの肩に、ティファはそっと頭を乗せた。

「また、今度落ち着いたら行きましょう?今回はアイシクルエリアを楽しめなかったから」
「そうだな」

 ティファの華奢な肩に手を回して、彼女の頭に一つ、キスを贈る。
 くすぐったそうに身を竦める彼女に、もう一度、今度は唇にキスを贈る。

「今日のティファは久しぶりに見たけど、やっぱりカッコ良かったな」
「ふふ、ありがと。でも、クラウドもとっても素敵だったわよ」

 頬を染める彼女に釣られて頬を染め、クラウドは彼女にしか見せない笑みを浮かべた。


 とんだ旅行になったが…やっぱり自分には彼女が、彼が必要だと改めて感じた。
 背中を預けても大丈夫という絶対の安心感。



 これからも。
 あなたと一緒に…。



 あとがき

 ………。
 言い訳しません。
 もうちょっとカッコイイ二人…を……って……。
 本当に……。
 ごめんなさ〜い!!(脱兎)