傷は浅いうちに





 色濃いオレンジの陽光が街を暮色に染める中、1人の青年が弾むような足取りで雑踏の中を歩いていた。
 青年は20代前半、背が高く肩幅は広い。
 精悍な面立ちをしているが生き生きと輝くグリーンの瞳、緩んだ口元のおかげで人懐こく見える。
 黒髪の先を丁寧にワックスで立たせたヘアスタイル、黒を基調とした衣類にところどころアクセントとしてちりばめた銀のアクセサリーは青年を実に魅力的に引き立てている。
 彼の手には何の変哲もない茶色い紙袋が、右手にはこれまたありきたりなハンドバッグ握られいる。
 右手のハンドバッグは青年がこの街に来てコツコツ貯めた金でようやっと先日手に入れたばかりの新品だった。
 そのため革製特有の匂いがまだキツク残っており、うっかりすると手や服にまで匂いが移ってしまいかねないのだがそんなことには全く気づきもしない。
 なにしろ、これは自分が一目で気に入って今日という日のために少し無理をして買ったものなのだ。
 だから匂いがどうこうなど全くどうでも良いことで、それどころか周囲の人混みにすら彼の意識は向けられておらず、気持ちは目的地へと早飛んでいた。

 トクトクと心臓がその鼓動を主張する。
 気が付けば手にしている”それ”へ意識が向き、更には”それ”を渡したときに彼女が見せてくれるであろう笑顔を想像して胸が高鳴った。
 思わず顔がにやけそうになるのを必死に押し殺し、いつしか早まっている足に気づいて苦笑する。
 ゆっくり歩いて逸る気持ちを少しでも落ち着かせたかったのだ。
 しかしそれは所詮無駄な足掻きであることを青年はちゃんと自覚していた。
 彼女の前に立ったらどうせ今以上にもっと緊張してしまうのだから…。
 だが、彼女に会う前に少しでもいつもの自分に近い状態でいたい。
 でなくば、勝負が始まる前から滑って転んで戦わずに負けてしまうだろう。
 最高のコンディションで勝負に臨みたい、と思うのはごくごく当たり前のことだ。
 それが自分の人生をもしかしたら左右するかもしれないこととなると尚更に。

 途中、周りへの注意が散漫していたせいで行きかう人とぶつかってしまい、たたらを踏んだ。
 ジロリと睨むその中年の男に青年はヘラリと笑いながら謝罪する。
 自分一人の注意力がなかったからぶつかったのではなく相手にも過失があっただろうに、そのことに全く気付きもしないで浮かれ調子の足取りは変わらない。
 通りのショーウィンドウに映る自分の姿にふと足を緩め、ササッと身だしなみをチェックする。

 よし、大丈夫だな。

 声に出したわけでは無論ないが、青年の満足そうな表情がそう語る。
 目的地まであと少しだ。
 通い慣れた道、見慣れた通りのビルの壁。
 大きな交差点を渡り、少し路地を入ったところが目的地である。
 あとほんの数分で着くだろう。

 青年はちょうど信号で引っかかり、足を止めるといつしか勝手に入っていた力をほぐすべく軽く深呼吸をした。
 そこでようやく、自分が軽くとは言えないほど緊張していたことに気づく。
 緊張=弱気とは違うが、いつも彼女と会うときにここまで力むほど緊張したことはない。
 信号が青に変わるまでの間、自分の気持ちを見つめなおす。

 これから彼女に”これ”を渡す。
 その時に、彼女へ想いを伝えるのだ。
 自分は彼女を異性の中では一番に好きで、彼女にとって特別な存在になりたいと願っている。
 出来ればその特別な存在の中でも上位にランクインしたい。
 そのためにも、自分という存在を彼女の中に植え付けなくてはならない。
 いや、もちろん彼女は自分のことをちゃんと意識してくれているはずだ。
 でなくばあの笑顔は向けてくれないだろう。
 それにしても、と青年はわずかにその表情を引き締めた。
 目的地には恐らく、他に男たちがいるだろう。
 いて当然だ、そういう店なのだから。
 だが、ただの客としてならば全く問題ないのだが、ただの客という立場を面白く思っていない者もいる。
 そう、この自分のように。
 そして、その彼らの先を行くためにも、言ってみれば出し抜くためにもこうして先手を打とうと心に決めたのだ。

 青年はグッと顔を上げた。

 負けるつもりはない。
 彼女をあきらめるつもりもない。
 自分以外の男が彼女の隣に立つ光景など絶対に見たくない。
 彼女の心も体も、全部全部、自分のものにしたいのだから。

 そう。
 最大の敵は弱気になりそうな自分だ。
 自分に負けてしまうわけにはいかない。
 いつも凛とし、前を真っ直ぐ見つめ、他者の意見や感情に流されず、かと言って冷たいわけではなくてむしろ、誰よりも温かくて魅力的な彼女を自分のものにするために、自分に出来る最善を尽くすのだ。

 信号が変わった。
 さぁ、勝負だ!

 青年は勢い良く足を踏み出した。



 その店に着いたとき、まだ早い時間だというのに結構な混み具合だった。
 こじんまりとした店だが、店内は活気に満ち溢れ、明るい雰囲気が訪れた客たちを温かく包み込む。
 店主は女性でかなりな美人でしかも料理上手、気配り上手、次いでに気の利いたジョークも飛ばしてくれるとくれば、自然と客が集まるのも道理だろう。
 ドアベルの涼やかな音に顔を向けた店主はじめ店主の家族でありこの時間は店員という立場の2人が同時に振り返る。

「あ、いらっしゃいませ」

 軽やかな足取りで出迎えてくれたのはこの店の店主。
 店主直々のお迎えに青年は少し頭を下げながら笑顔で恐縮してみせる。

「お久しぶりね。元気だった?」
「はい、ティファさんもお元気そうで」

 にっこりとほほ笑まれ、心臓が跳ねる。
 ティファは青年を席へ案内しようとするが、「あの…すいません」と、青年は自ら店の一番隅っこの席を所望した。
 混みあっているとは言え、まだいい席はいくつか空いている。
 笑みを浮かべたまま首を少しだけ傾げるティファに青年は「お願いします」と頭を下げた。

 なにか理由があるのだろう、と得心したのかティファはそれ以上詮索するようなことはせず、「ではどうぞ」と、先に立って希望の席へと案内した。

 腰を下ろし、手にしていた大事な紙袋を空いている椅子の上へ、買ったばかりのハンドバッグをテーブルの隅へ置き、メニューを手に取る。
 しかし、心は既に彼女へ想いを告げることで頭がいっぱいだ。
 メニューの文字を目で追うフリをしながら、おしぼりと水の入ったグラスを持ってやってきたティファへ「本日のおすすめで」と、適当にオーダーする。
 そして、カウンターへ戻る彼女の背を見送りながら改めて作戦を練り直した。
 もっとも、作戦と言っても彼女が料理を持ってきたとき、あるいは勘定をしたときにそっと外へ呼び出す、といったものなのだが。
 なにしろ、この店で働いているのは彼女を含めて3人。
 全員彼女の家族だ。
 誰が料理を持ってきてくれるのか、はたまた勘定をしてくれるのか分からない。
 一世一代の告白を人様の前でするなどあり得ない。
 いや、そうすることで彼女への想いの強さを表せるならば喜んでそうしよう。
 だが、自分だけでなく彼女まで見世物にしてしまうことになってしまうのだから、それはいただけない。
 彼女に恥ずかしい思いをさせるつもりは毛頭ないのだから。

 店内を改めて見渡すと、見知った顔がいくつかあった。
 赤ら顔ですでに酔っぱらっている中年の男たち。
 大きな声で笑い合っているまだうら若き乙女と言える年代の女性グループ。
 そして、2人掛けのテーブルに1人で食事をしている同年代の男数名。

 青年はその男数名がそれぞれチラチラと店内へ視線を飛ばしているのを確認した。
 視線の先は見なくても分かったが釣られるように目を向ける。

 想像通り、彼女がそこで笑っていた。

 花が咲くような笑顔、とはまさにこのことだ、と惚れ直す。
 自然、高鳴る鼓動は自分が想定していた現状を再確認して不快なものへと変わった。

 やはり、と一人ごちる。

 青年は自分以外の男が彼女を見つめていることに焦燥感がこみ上げるのを感じた。
 もしも、と想像力をたくましくする。

 今夜、彼女へ想いを伝えるその直前、男たちのうち一人でも先に彼女を呼び出し、想いを伝えてしまったら?
 彼女がそれに応えてしまったら?

 そう思うと胃がキリキリと痛み出した。
 いやいや、そうはならないはずだ。
 なにしろ、この店で彼女と共に働いている彼女の家族は殊の外、彼女のことを可愛がっている。
 酒の出る店なので尚更、彼女に言い寄ろうとする男たちへは容赦がない。
 そこで青年はハタ…と気が付いた。

 自分もその警戒網に引っかかるのではないか?と。
 いやいや、そんなことはない。
 自分はあの男たちのように邪(よこしま)な想いを抱いているのではない。
 あんなあからさまにイヤラシイ目で彼女を見たことは1度もない。
 そりゃ、男だからちょっとそういうヤラシイことを考えたこともあったりするけれど、だが断じて彼女への想いは不埒なものではないのだから。

 明るく耳に心地良い彼女の笑い声に気持ちが吸い寄せられる。

 ほぉ…と、知らず、うっとりとした溜息に近い吐息を漏らし、青年は頬杖をついた。
 彼女は今、彼女の家族である青年と笑い合っている。
 どうやら顔馴染みの客が彼に関する面白いことを言ったらしい。
 男性にしては整いすぎているその顔に困ったような表情が浮かび、そして結局彼は彼女と周りの馴染み客に釣られて微笑んだ。
 その微笑みに女性グループのテーブルから小さく黄色い声が上がる。
 幸いにしてその歓声は店内を不快な色に染めてしまうほど大きくもなく、ほかの客たちで気づいた者は多くなかったため、店の雰囲気は損なわれずに済んだ。
 しかし青年はしっかりとそれに気が付いた。
 気が付いて、もしもあれが自分だったら?と考えた。
 彼女の隣に立ち、笑顔を見せた自分。
 他者が分不相応だという感想を抱かずに済むだろうか?

 いつでも明るく元気でお調子者。
 それが周りの人間からの青年に対する評価。
 青年もちゃんと分かっているしそうだと思っている。
 だが今、彼女への想いを告白するタイミングを見計らっている自分は、果たしてそんな男なのだろうか?と自問する。
 水の入ったグラスに映る自分を見て、そしてまた店内にいる彼女の家族へと目を向ける。
 常に凛と前を見据えている彼女の隣に立っても全く引けを取らないその存在感。
 それに比べて自分は?
 これでも結構、青年は周りからちょっと騒がれるほどの容姿をしているのだが、本人はそれが『お調子者としての人気』だと信じて疑わない。
 だから、決してブサイクだとは思わないながらも彼女の隣に立つ彼女の家族である彼と自分を比べ、自信をなくしてしまうのだ。

 だがハタ、と沈みがちになっている自分に気づき、青年は慌てて首を振った。

 彼女の家族と自分を比べて落ち込むだなんて間違えている。
 家族は家族、どうこうなるものでもない。
 自分の気持ちを切り替えようとしたとき、彼女と笑い合っていた馴染み客の声が耳に飛び込んできた。

「にしても、そうか。良かったよなぁ、ティファちゃん!」

 店主はにっこりと中年の男へ笑顔を向けた。

「えぇ、本当にありがとうございます」
「まさかあの旦那が認めるとはなぁ!一発や二発、殴られたりしなかったか?」

 カラカラと笑いながら彼女の家族、兄のような存在の彼をバンバン叩くその中年の男に、青年の心いっぱいに暗雲が立ち込めた。
 あまりにも気になるセリフだった。

 旦那が認める?
 一発や二発、殴られる?

 そんな殴るだなんてことを旦那と呼ばれる人物が彼にするはずがない。
 彼は旦那と呼ばれる人にとって息子のようなものだ。
 認めるも何も、彼のことを”旦那”はとっくに家族として認めていて…。

 ある一つの可能性が頭をもたげ、雷に打たれたかのような衝撃が走る。
 信じられない思いを味わいながら、降って湧いたようなその可能性を即否定する。
 あり得ない。
 あり得るはずがない。

 だって…!

「まぁ!」

 青年が一人パニックに陥っている間も、カウンター付近では楽しそうに会話が弾んでいる。
 ティファの明るい声に現実へ引き戻され、青年はビクッと肩を揺らした。
 笑うティファ、笑う中年客。
 そしてどこか恥ずかしそうに頬を染めながらそれでも一目で幸せだとわかる笑みを浮かべている彼女…。

 そして、ついに中年の男は青年にとって、いや、青年と同じ思いを抱きながらこの店に集っている全ての男性客たちへ痛恨の一撃を口にした。

「にしても、ちょっと早い気がしないでもないけどよ。それでもまぁ、急ぐ気持ちも分かるぜ。でないといつ、誰に横から掻っ攫われるかしれねぇからな。そっかそっか。これでデン坊もクラウドの旦那とティファちゃんの本当の息子になるわけだ!」

 目の前が真っ暗になった。
 頭を殴られ、ついでに倒れたところをダンプカーで轢かれて後続車に跳ね飛ばされたかのような大大大ダメージに、呆然とするよりほかない。
 自分の周りが急速に色を失う中、カウンター付近の様子だけがまるでスポットライトを受けているようにそこだけ強調されて視界にしつこく居座り続ける。

「じゃあ、デン坊は旦那のことを『お父さん』って呼ばなきゃなぁ」
「でもきっとパパはこれまで通りに呼んで欲しいんじゃないかって思うんです」
「あら、そうかしら?デンゼルに『お父さん』って呼ばれたらきっとすごく喜ぶと思うわ」
「そう思う?ママ?」
「えぇ、もちろん。デンゼルはクラウドのこと『お父さん』とは呼びにくいと思うけど…」
「おいおいティファちゃん。そうなるとデン坊はティファちゃんのこともずっと『ティファ』って呼ぶのか?」
「ん〜…そうねぇ、やっぱり『お母さん』って呼んで欲しいかな。あ、『ママ』でもいいわよ?夫婦揃って『パパ』『ママ』って呼んでもらうのもいいかもね」
「呼べるわけないだろ!それに、そんな呼び方1回でもしたらわざわざマリンにメールまでして知らせるつもりだろう!?」
「あ、バレた?」
「そう言えば、そろそろじゃなかったか?マリンちゃんとこ」
「うん。予定日はあと1週間なんだ。1週間後には俺、伯父さんだぜ」
「じゃあ私はマリンお姉ちゃんの赤ちゃんにとって伯母さんになっちゃうのかしら?」
「俺と結婚したらそうなるな」
「む〜。私、まだ16歳なのになぁ」
「俺だってまだ26歳だって」

 ウワンウワンと頭の中で銅鑼が鳴る。
 急速に手足の先から体温が奪われていき、視界が徐々に、確実に狭まっていく…。

「よしっ!今夜は祝杯じゃ〜!」

 遠ざかる意識の中、おどけてジョッキを掲げた男の周りで同じような年代の中年の客たちがヤンヤと喝采を送るのが、別世界の出来事のように遠く遠くで聞こえた…。


 *


「という夢を見た」

 何故か憔悴した様子のクラウドを前に、ティファは苦笑を浮かべるばかりだった。
 いったい何と言ってやればいいのだろう?
 珍しく…、本当に珍しく、自分よりも早く起きていたクラウドに驚いたものだが、そのクラウドがベッドに腰掛け呆然としているその姿には心底ギョッとさせられた。
 体調を崩して気分でも悪いのかと思った。
 だが、聞いてみるとなんてことはない。
 ただの夢だという。
 ならば、ここまでそんな深刻になることもなく、逆に『こんな夢を見た』と言って面白おかしい話のネタとして笑えばいいのに。

 ティファはそう思ったことをそっくりそのまま口にしようとしたが、それよりもわずかに早く、クラウドが続きのようにボソッとこぼした。

「あの夢の中の男…、ザックスとエアリスに似てた」

 その一言はティファから苦笑を奪い去り、神妙な心地を植え付けるには十分すぎて…。

「なんか…やっとザックスとエアリスが生まれ変わったのかあ…とか思って嬉しくて。それなのに、夢とは言え俺とティファの子供に告白しようとしたらあろうことかデンゼルに目の前で先を越されて…」
「………」
「しかも…マリンはとっくに嫁に行ってて臨月って…」
「………」
「なんか…突っ込みどころ満載過ぎてこの気持ちをどう消化して良いのか分からない…」
「………」

 突っ込みどころ満載過ぎてどう声をかけていいのかティファも分からなかった。
 分からなかったがとりあえず1つだけ聞いてみる。

「ねぇ、その…私たちの娘って…どんな娘(こ)だった?」

 ティファは別に、激しく落ち込んでいるらしいクラウドを浮上させようと思ったわけではない。
 少しくらい気分転換になったら、というくらいの気持ちだけしかなかった。
 だが、この質問にクラウドはピクリ、と反応した。
 ゆっくり顔を上げると宙へ視線を投げる。
 心なしかその表情は夢見心地で…穏やかとすら言えた。

「髪の色は俺なんだけど、ストレートでサラサラなのはティファに似てた。目鼻立ちはやっぱりティファだな。目の色は濃い藍色で…」

 言葉を切ってティファを見る。
 口元には微かな笑みが浮かんでいた。

「とても可愛い娘(こ)だったよ」

 そのあまりにも穏やかな微笑みにティファはドキッとしながらも釣られてゆったりと微笑んだ。
 そして、ふと気づいて悪戯っぽく笑う。

「ふぅん、クラウドパパは娘に甘いのね〜。私、妬いちゃうな〜」
「な……」
「それにしても今からそんなだと大変ね。将来、本当に娘が出来たら私なんか相手にしてもらえなさそう。あ〜あ。やっぱり女の子と男の子、1人ずつは欲しいなぁ」

 そんなことを言いながらティファは口をモゴモゴさせているクラウドを尻目にドアへと軽やかに向かうと、ちらりとクラウドを見てニンマリ笑った。

「さ、クラウド。急がないとお仕事遅れちゃうよ?今日もしっかり頑張ってね、パパ」

 そうして何も言い返せないままのクラウドを置き去りにさっさと寝室を後にした。
 閉まったドアを見つめながら心なしか赤くなった顔でクラウドは深いため息を吐いた。

「それにしても…」

 なんとリアルな夢だったろう。
 自分とティファの娘やザックスとエアリスの生まれ変わりだと思わせてしまうような青年が出てきた、というだけでもビックリなのに、10歳の年の差を超えて自分の娘とデンゼルが結ばれるとは。
 なぜこんな突拍子もない夢を見てしまったのだろう…。

「……いや、待て?ザックスとエアリスの生まれ変わり…ってなんで思ったんだ?」

 2人の生まれ変わりならやはり2人存在しないとおかしくないだろうか?
 それとも、ライフストリームで星と一つになったら、2人は1人の人間として生まれ変わるということもアリなのだろうか…?
 どちらにしても、妙に親近感を抱いてしまう青年が思い切り不憫でならない。
 いや勿論夢なのだけれど…。

「………まぁ、良かったじゃないか…」
 まだ告白する前だったから。
 これが告白して新事実が発覚というパターンだとしたら、差し出した紙袋の中身である花束のやり場に困るではないか。
 花束を差し出したまま放心状態で固まる青年…というのは、中々に痛いものがある。
 恥をかく一寸手前で回避出来たのだから、傷はまだ浅い方と言ってもイイだろう。
 …イイと言うことにして欲しい…。
 いや勿論、何度も言うがこれは夢なのだけど…。

 深いため息を吐いてクラウドは立ち上がった。
 とりあえず、たかが夢、と言うには濃すぎる夢の話は置いといて、自分のせねばならないことを全うするべくいい加減動かなくては。
 チラッとローチェストの時計へ視線を流し、見直して、慌ててクラウドは寝室を飛び出した。

 その後、家族揃って食卓に着いたとき、クラウドとティファの視線が微妙にいつもと違うのをデンゼルは感じたとかなんとか。
 更に更に、化け物バイク(フェンリル)をかっ飛ばしているとき、ふと耳元で、
『くらだないこと心配するよりも早くティファときっちりけじめをつけろ、このバカ!』
『そうよ!いつまでもズルズルしてると、夢の男の人みたいに目の前でどこぞの馬の骨に掻っ攫われるわよ!?』
 という亡き親友の怒りに満ちた声が聞こえた気がして、びっくりしてハンドル操作を誤り、危うく崖下に転落するところだったりもしたのだが。


 とりあえず、セブンスヘブンの住人は今日も平和のようだ。



 あとがき

 うん、もう何も言うまい。
 リハビリ、リハビリ、苦情はなしでお願いします(脱兎)