透き通ったスカイブルーの瞳は大勢の人々を魅了し、整ったその顔(かんばせ)は異性の心を惹きつける。
 同性からは嫉妬と羨望を寄せられ、時には『親しみ』『友情』といった『世間的に健全と言われる想い』以上のものまで抱かせてしまう彼、クラウド・ストライフ。
 戦闘能力は超一流。
 性格は無愛想で、何事にもほとんどにおいて『興味なし』と言い切らせてしまうほどの無頓着ぶりは、他者の追随を許さない。
 素っ気無い態度ばかりとってしまう彼のことを、人は大部分が遠巻きにしか見ることが出来ない。
 そんな人付き合いが超苦手なマイペース野郎である彼に親しみを持ってくれるとても有り難い人はというと、かつての旅の仲間とデリバリーの仕事で知り合った依頼人、届け先主の極々数名にセブンスヘブンの常連客(のうちの限られた人たち)。
 その親しくしてくれる貴重な人たちの大部分は彼のことをひそかに心配、もしくは苛立ちながら見守っていた。


 本当にこの男(クラウド)、いつかきっちりけじめをつけられる日が来るのだろうか…?…と。


 このように周りの人たちを巻き込んで心配を掛けまくっていたクラウドだったが、幾たびもの挫折と羞恥心を味わい、彼にとっては血を吐くほどの努力をしてようやっと愛しい人との間に、『幼馴染』『戦友』以外の関係を持つことが出来た。
 それは…。


『婚約者』


 なんと甘美な響きであろうか!
 ここに至るまでに行った数々の涙ぐましい努力はさておき、クラウド・ストライフは23年間で最高に至福の時を味わっていた。

 これは、そんなある日のお話し。







超えられなかったかも知れない高い壁








「クラウドさんはいいよな〜〜!」

 久しぶりにエプロンを身に着けたクラウドに、若者がうろんげな瞳を向けながらぼやいたのは、店がいよいよ忙しくなる時間帯だった。
 この目をした人間に話しかけられて良い思いをした記憶は残念ながらなく、クラウドは微かに眉をひそめた。
 傍目からはほとんど気づかないほどの表情の変化で押しとどめることが出来たのは一重にクラウドもようやっと成長したからに他ならず、星の中で親友が感涙にむせんでいてもおかしくない。
 しかしながら、非常に残念なことにクラウドの成長振りに気づいてくれる人間はこの場にはおらず、唯一、その変化に気づいて喜んでくれるであろう彼の家族は忙しそうにクルクルと働いている。
 従って、クラウドはただの仏頂面の店員さん、というレッテルを返上することも出来ないまま、その若者の相手をするしかなかったりして…。

「何が?」

 仏頂面に相応しいぶっきらぼうな口調で応対したクラウドに、若者はしかし怒ってもいいはずなのにこれっぽっちもイヤそうな顔はしなかった。
 クラウドの無愛想ぶりをちゃんと理解している数少ない常連客である証拠だ。
 若者はクラウドの冷めた態度にいささかも揺るがず、
「いや…、本当に羨ましい…って思うわけだよ…」
 はぁ〜…、とため息を吐いてスコッチの入ったグラスを口に運んだ。
 ピクリ。
 クラウドの眉が寄った。
 眉間に小さく出来たシワは、クラウドの不快指数が若干上昇したことを表す。

(……羨ましい……か…)

 若者に羨ましがられる理由に思い当たることと言えば1つしかない。

(…ティファ……か)

 チラッとレジを見る。
 彼女は今、帰ろうとする客と楽しげに話しをしながら勘定をしていた。
 相手の客はほろ酔い気分に加えて、ティファに笑顔を向けられているからなのか非常に上機嫌に見える。
 そりゃそうだ、美人なだけではなくて誰にでも優しく気立ての良い女性、そうそういるはずもないのだから、そんな女性(ひと)と心安く話しが出来るこの幸運、誰だって舞い上がる。

 …という分析をしてしまうくらいに、クラウドはティファにゴッソリと心を持っていかれていた。
 当然、そのことに本人は気づいていない。
 どこまでも自分の目で見て感じたティファがティファだと信じて疑わない。
 だから、今、自分に『羨ましい』宣言をしたこの若者のように、彼女へ想いを寄せる男の1人や2人や3人や4人現れてもクラウドは別に驚かない。
 むしろ、そういう『横恋慕』をする男がまったくのゼロ!という方がクラウドには信じられない。

(そうだよな。それくらいティファは素敵な女性(ひと)なんだよな…)
「本当に良いよなぁ…」
(そしてそんな素晴らしい彼女が俺の……俺の…婚約者)
「はぁ…俺、どうしたら良いのかなぁ…」
(そう、婚約者なんだ!)
「なぁなぁ、クラウドさん。ちょっと秘訣教えてくんない?」
(俺は……、俺以上の幸せ者は絶対にこの世界に存在しない!!)



「どうやったら彼女と結婚出来ると思う?」



 チリンチリン。

 軽やかなドアベルの音と共に、ティファが相手をしていた客たちがドアの向こうへ消えていき、クラウドはトリップしていた自分の世界(ワールド)から強引に現実(リアル)へと引き戻された。
 頬杖を着いてスコッチのグラスを眺めている若者を見る。
 いや、見る…などと生易しいものではない。
 一種の鬼気迫ったド迫力な眼力でもって若者を凝視した。

……誰が、誰と結婚出来るか……だと……!?

 若者の隣に座っていた中年男が「ひぃっ!!」とか細い悲鳴を上げてスツールの上で身を縮込ませた。
 丁度、テーブル客の元へオーダーを取りに行っていたティファがギョッとして振り向いた。
 あまりに突然すぎるクラウドの殺気に仰天し過ぎて立ち竦む。
 デンゼルとマリンはと言うと、子供たちには珍しくこの事態に気づいていなかった。
 というのも、それぞれが常連客に「良く働くな〜」と頭を撫でられていたり、料理のレシピを聞かれたりして熱心に教えていたからだ。
 一方、当人である若者はグラスを見つめていたためクラウドの鬼のような形相に気づいていない…。
 気づいていないからこそ、彼は独白めいた悩みをとつとつと語った。

「いつまでもガキの頃と同じだって思われる自分自身にも勿論原因があるんだろうけど…、彼女のことを想ってるのは本物なのにさぁ」
(なんだそれは!俺か?俺のことか?お前に俺の過去の何が分かる!?)
「そりゃ、ガキの頃は捻くれ者で嫌われ者だったけど、今はちゃんと仕事もしてるし」
(…なんで俺のガキの頃を知ってる…!?って言うか、『ちゃんと仕事もしてるし』って、お前に偉そうに言われる筋合いないね!)
「それに彼女も憎からず思ってくれてるし…。」
(ちょーっと待て!!憎からず…じゃない、ちゃんと俺のこと、ア、ア……
アイシテル……って言ってくれたんだ、なんだその曖昧な表現は!!)
「それなのに、『お前は頼りない!』『信用出来ない』ってさぁ、全然聞く耳持ってくれないし…」
(それ以前に、ティファはもう俺の婚約者だ、お前の出る幕はない!)
「はぁ……本当にどうしたら良いんだろうなぁ…」
(別にどうもするな、俺が今すぐ星に返してやる)
「なぁ、クラウドさん。彼女の父親を説得するってどうやったら良いと思う?…って、うわっ!なにその顔、鬼!?鬼がいるよちょっと!!」

「…彼女の父親…?」

 最後のぼやきで、若者が語っている『彼女』というのがティファのことではないことにようやくクラウドは気づいたのだった。


 *


「あのね、ティファちゃんは確かに素敵だと思ってるけど、人の婚約者に現抜かすほど俺はバカじゃない」
「……す、すまん」

 殺気が氷解したクラウドに、我を取り戻したティファがすっ飛んできた後…。
 クラウドはエプロンを没収されて若者の隣に座っていた。

『クラウド、お客様になんて失礼なことをするの!?ちゃんとお詫びして!!』

 裏でこっぴどく叱られ、ガックリと肩を落として戻ってきたクラウドに、若者が呆れたように…、しかし、どこか引き攣った笑いで出迎えてくれたのがせめてもの救いと言えば救いだろう。
 ティファに怒られただけでも大ダメージなのに、若者にまでキレられたら二度とセブンスヘブンで手伝いはさせてはもらえない。
 愛しい彼女は、公私混同することがない。
 心の広い若者に感謝しつつ、
「はい、これ、クラウドのね」
 ちょっぴり渋面でティファが差し出してくれたのはクラウドの好きなキツメのお酒。
 思わず顔を上げると、ティファはさっさと背を向けて接客に戻るところだった。
 しかし、クラウドは見た。
 ティファの耳が赤くなっているのを。

「はぁ〜、良いなぁクラウドさん。ティファちゃん、怒っちゃったことを気にしてるんだなぁ…。可愛いじゃん?」
「…………」

 叱られて萎んでいた気持ちが急浮上する。
 グラスを握ると冷たいその感触がとても心地良くて、クラウドは思わず口元を緩めた。
 若者はそれをニヤニヤ笑いながら横目で見つつ、自身も『お詫びの品』としてティファがサービスしてくれた新たなスコッチを口に運んだ。
 暫し、2人は無言でグラスを傾けた。
 やがて、酒が半分ほどになったとき、ようやくクラウドは若者を見た。
 若者もクラウドの視線に気づいて顔を向ける。
 ほんのりと酒で上気した頬が若者を年よりも少しだけ幼く見せた。
 中々に整った容姿をしていることに初めて気づく。

「俺さぁ、本当にガキの頃、滅茶苦茶捻くれててさ。しょっちゅう喧嘩してたわけ。もうなんて言うか、『若気の至り』としか言えないんだけどね、血気盛んでさ。目に付く俺と同じ年頃のガキがムカついてムカついて……。毎日、親を泣かしてた…」

 しんみりと話す若者に、クラウドもまたしんみりとしてグラスを一口口に含んだ。
 若者の子供の頃はまさにクラウドと同じだ。
 周りの同年代の子供がバカにしか思えなくて、1人で粋がって突っ張っていた正真正銘のバカな頃と…。
 若者は少しだけ遠くを見るようにグラスを持っていない方で頬杖を着いた。

「でもそれもさ、今だから素直に言えるんだけど、俺が喧嘩してた理由は彼女の目に映りたかったから…なんだよなぁ…」

 ドキッ!

 子供の頃の自分を言い当てられたような気がして、グラスが微かに揺れる。
 動揺を悟られたくなくて咄嗟に視線を逸らしたクラウドに気づかず、苦笑しながら視線を戻す。
「ほんっとうにガキだろ?もうさぁ、分かってたんだけどどうしようもなくてさ。何しろ、彼女は俺の町で一番の人気者だったし」
(…それ、ティファと同じじゃないか…)
「彼女の周りにはそれこそ同い年くらいの男の子が気を引こうと必死になってたし」
(…いや、本当にそれ、ティファじゃないのか?)
「そんな輪の中に入るのもなんだか癪だったし…」
(……それは…まさしく俺だ…)
「そもそも、俺が自分の気持ちを素直に受け入れた時には『時既に遅し』、彼女の父親にはガッツリマークされてて『娘に近づくなー!』ってそりゃあもう、えらい嫌われようでさぁ」
(…………俺だ)
「彼女にも…多分俺、嫌われてた…」
(………あ〜っと、そこは…俺とは違う……と言って良いんだろうか…?)
「ま、そんなこんなで俺は町を飛び出したんだ。早く一人前になって彼女の前に堂々と立ちたくてさ。まぁ、町で頑張っても良かったんだろうけど、1度リセットしないと彼女の前に立てないって思ったんだ。あんなに色々と問題起こしちゃったから」
(俺じゃないか!!)

 あまりにも自分と酷似し過ぎている若者に、クラウドは一瞬、
(俺のストーカーじゃないだろうな!?)
 などと、ありそうであり得ない結論が脳裏をよぎった。
 無論、そんなわけはない。
 若者はクラウドが声に出して返事1つ、相槌1つしてくれないというのに、淡々と話した。
 つくづく、クラウドという男を理解している。

「それで、俺は俺なりに頑張ったんだ。それにめっちゃラッキーなことがあってさ〜。なんと幼馴染の彼女がミッドガルに出てきたんだよ、俺が町を出た1年後に!1年後くらいには俺も仕事がなんとか板についてきた頃だったから、彼女、久しぶりに偶然バッタリ出会った俺見てビックリしてた」
(あ、そこは俺と違う)

 照れ臭そうに笑う若者に、クラウドはそこはかとない親近感を覚えた。
 まぁ当然だ。
 ここまで酷似しているのだから。
 それに、頑張って頑張って、努力して努力して、ダメな自分を変えるべく必死になった人間をどうして受け入れずにいられようか?
 だから、
「そうか、良かったじゃないか」
 という一言がごく自然に口から出た。
 若者はようやっと口を開いたクラウドに目を丸くしたが、ニッカリ笑うと、
「まぁね」
 照れ臭そうにそう言って、頬を掻いた。

「でもさぁ、やっぱ世の中良いことばっかじゃないって言うか…。彼女になんとか受け入れられた〜って喜んでたら、ジェノバ戦役だろ?折角覚えた仕事、おじゃんになっちった」
「あ……」
「お〜っと、そこでそんな顔はなし。クラウドさんたちのせいでミッドガルが潰れたんじゃなく、クラウドさんたちのお陰で今があるんだからさ」

 条件反射で顔を曇らせたクラウドに、若者は素早く釘を刺した。
 スコッチを一気に呷るとニッカリ笑う。

「クラウドさんたちのお陰でこうして美味い酒が飲めるし、彼女のことで悩める。最高っしょ?」
「……あぁ、そうだな」

 若者の明るい口調、明るい表情に全身に入った力をホッと抜く。
 なんとも、このように肩の力を抜かせてくれるとは、ありがたい青年だ。

「今はね、印刷会社を立ち上げてるんすよ、雑誌とかも最近は種類が豊富になってきたからまさに『旬』の仕事って感じでね、彼女と結婚するには十分だと思うんだけど…」
 はぁ〜〜、やれやれ。

 明るい声音はあっという間に憂鬱なそれに変わってため息で締めくくられた。
 クラウドは困った。
 こんなとき、何と言っていいのか分からない。
 しかも、若者が思い悩んでいると言うのに、頭の中にはある1つのことが浮かんできてしまって思考の大半を占めてしまったのだ。
 それと言うのも、まさに青年の悩みがそのまんま、自分に当てはまっていたら?というもの。


(もし…、ティファの父さんが生きてたら…?)


 ニブルヘイムの村長だったティファの父親。
 彼には非常に、ことのほか、これ以上ないくらい嫌われていた。
 嫌われても仕方ないくらい、子供の頃のクラウドは暴れん坊だったし、手のつけられないガキだった。
 おまけにティファの父親には誤解されていることがある。

 ティファがニブル山から落ちた事件の原因がクラウドである……と。

 一緒に落ちたクラウドが膝の擦り傷だけで済んだのはどういう奇跡なのか今でも分からない。
 分かっているのはあの時、助けられなかった幼馴染の少女は、頭を強打して意識不明の重態になったこと。
 そして、目が覚めた彼女は全くそのことを覚えていなかったこと…。

 よって、真相を知っているティファがその記憶を失ってしまったためにクラウドの誤解を解いてくれる者は誰もおらず、とうとう最期までティファの父親は誤解だと知らないままに星に帰ってしまった…。

 そんな彼女の父親が生きていたとしよう。
 ジェノバ戦役を無事に生き残り、ニブルヘイムに帰省するとする…。

 ティファの無事や仲間の無事を喜び、きっと心尽くしのもてなしで祝うはずだ。
 だが、そのもてなしの席に自分の席は……無いような気がする。
 いや、無いに違いない。
 クラウドの席がないことにティファはきっと父親を怒るだろう。
『もうパパ!クラウドもすっごくすっごく頑張ったのよ?クラウドがいなかったら、きっと私たち、生きて帰れなかったんだから!』
 くらいは言ってくれそうだ。
 そこまで愛娘に言われたら、渋々でもなんでも席を準備して……くれるかな…?
 自信が無い…。
 まぁそんな席の有る無しはどうでも良い。
 その後だ。
 100%、ティファはニブルヘイムで過ごすことになる。
 きっと、村の再建にティファも尽力することを喜ぶだろう。
 マリンは……きっとティファに預けられる。
 となると、自分は1人寂しくエッジにやって来ることに…なりそうだ。
『ねぇ、クラウド。一緒にニブルヘイムの再建に力を貸してくれない…?』
 ティファはそう言ってくれるかもしれない。
 しかし…。

『ティファ、そんな奴の力なんぞいらん』

 なぁんて彼女の父親は横からスパッ!と斬って捨てるはずだ。
 仮に、自分が再建の手伝いをしたいと申し出ても突っぱねられてお終いになってしまったような気がする…。
 彼女は父親にはとても弱かった。
 幼い頃から男で1つで育ててくれた父親を心から愛していた。
 残念がるだろうが、きっと無理に引き止めてはくれないだろう。

 となると…。


(村に残ったティファを父親が手放すとは思えん。絶対に…絶対に見合いをさせるはずだ!)


 自分のメガネにかなった男を伴侶にし、ずっとずーっと、ニブルヘイムで一緒に過ごそうとする…はず!
 たとえ、現在のようにデリバリーサービスを成功させた成果を引っさげて会いに行ったとしても、門前払いは確実だ。

(…ティファ……見合い…とか、イヤがってくれるかな…)

 現実には婚約したはずなのに、そうとは思えないほどの気弱な考えが胸をギュウギュウ締め付ける。

(い、いや、だが俺も諦めない!何度門前払いを喰らっても絶対に最後まで粘って…!)
 情けない自分を叱咤するように勇ましく息巻く。
 が…。
(……しつこく粘ったら…、猟銃で撃ち殺されそうだ…な)
 ティファの父親の気質を思い出し、思わず身震いした。

(俺、今の幸せは手に入れられてない…だろうなぁ…)


 ぐるぐる考えて出た結論に我ながら情けなくなって、ガックリとカウンターに両肘を着いた。
 そんなクラウドの姿に若者は、
「クラウドさん、ありがとう。そんなにまで親身になってくれてさ〜。俺、マジで嬉しいわ!」
 と、勘違いをしてくれたりして、クラウドはますます自己嫌悪になった。

(……す、すまない、違うんだ…)

 なぁんてことが言えるはずもなく、感動したらしい若者は上機嫌でティファにメニューの追加を注文した。


 *


「ねぇ、なにかあったのクラウド?お客様、すっごく喜んでたけど」

 閉店後。

 ティファは嬉しそうに微笑みながらクラウドの前にコーヒーを置いた。
 キラキラと目を輝かせているのは、初めてクラウドが接客らしい接客をした結果だと信じているからかもしれない。
 クラウドはグッ…、と言葉に詰まった。
 が、そこはそれ、愛しい彼女が期待に満ち満ちて見つめているのに無言を貫き通せるはずがない。
 白旗を揚げるのに時間は全くかからなかった。

「そう…。彼女のお父様に反対されて…」

 ティファはそう言うと、ちょっぴり寂しそうに目を伏せた。
 亡くなった父を思っていることなど、手に取るように分かる。
 そんな顔をさせてしまったことに罪悪感を感じつつ、クラウドはそっとティファを抱き寄せた。
 こうして抱き寄せても恥ずかしがって距離をとろうとしなくなったのが嬉しい。
 ゆったりとクラウドの腕に包まれたまま、ティファは恥ずかしそうに見上げた。

「でも、きっと分かってくれるよ。だって、その人、彼女のこと真剣なんでしょ?」
「あぁ…まぁそうなんだが…」

 かなり頭の固そうな父親だという印象を受けたクラウドは、ティファのように楽観視出来ない。
 しかし、ティファはくすぐったそうに笑うとキッパリ言った。

「大丈夫。親は誰だって子供の幸せを一番に願ってるもん。彼が真剣に彼女のことを想ってるなら、娘の幸せを願って彼のこと、認めてくれるよ」
 ちょっと、時間はかかるかもだけどね。

 ティファの言葉にクラウドの中でわだかまっていた重苦しいものがスーッと消えた。
 代わりに暖かいものが滾々(こんこん)と湧き水のようにあふれだす。

(もしかしたら……ティファの父さんも、受け入れてくれてた…かな)

 若者の悩みを聞いてから初めてそう思えたことに純粋な喜びを感じる。
 その思いのまま、ギュッとティファを抱きしめると、
「ひゃっ!」
 と、ティファは何とも可愛い声を上げた。
 それが嬉しくて思わず笑い声を洩らす。


(あぁ、本当に俺は幸せ者だ)


 ティファの父親が生きていたら、きっと今、手にしている幸せはそうそう簡単に手に入れられていなかった。
 しかし、悩みを抱えながらも、
『ありがとう!俺、絶対に諦めないぜ!今度彼女と一緒に来るわ。そん時には良い結果を土産に出来るように頑張るからな』
 そう言って、明るく笑いながら帰っていった彼のように、最後まで諦めなかったらきっと、ティファの父親にも自分の思いは通じていたはず。
 そう信じたい。


(ま、そんじょそこらの壁とは比べ物にならないくらい高い壁だったろうけど…)


 もしかしたら超えられなかったかも知れない…とは言うまい。
 どんなに苦労しても絶対に諦められないのだから、悪あがきをしても超えてみせたはず。


 そう。
 そんな父親に愛されて、愛されて、大切に育てられた彼女の人生をこれからもらうのだから、中途半端なことは絶対にすまい。


 愛しい幼馴染と婚約してから改めて己に誓ったクラウド・ストライフの夜はこうして幸せいっぱいに更けていった。
 彼と彼の愛しい人が、若者からの朗報に喜ぶのはこれから数ヶ月も先のこと。
 それまでの間、クラウドとティファ自身にも色々と悶着があったりしたのだが、それはまた別のお話…。



 あとがき

 クラウド、きっとティファパパが生きてたら結婚なんぞとんでもない、一緒に住むなどもってのほか、同じ街に住むことも叶わなかったと思うのはきっと、マナフィッシュだけではないでしょう。
 娘を溺愛する父親に認めてもらうべく必死になるクラウドも見て見たかったなぁ…とか思うマナフィッシュでした。