「ティファちゃんはいつも綺麗だよな!」
「本当に!俺が嫁さんに欲しいくらいだぜ!」
「ぬかせ!お前には鬼よりも怖いかみさんがいるじゃないか!」

 いつもと変わらないお客さん達の軽口に、笑顔を浮かべて適当に…それでいて失礼にならないように受け答えをする。
 それが…。
 私の日常。



言の葉




「ティファ…大丈夫?」
「何か疲れてるみたいだけどさ…」
 可愛い子供達が心配そうに見上げてる。
 小さな声で囁くように話しかける子供達は、心配しながらもお店に来てくれているお客様達を気遣う気持ちがちゃんと備わっていて、育て親として誇らしく思う。
 それと同時に、甘えたい盛りであろう年頃の子供達を、こんな夜の仕事の手伝いをさせ、あまつさえ心配までかけてしまう自分がとても情けない。
 そんな私に出来る事は、精一杯の笑顔を見せて、子供達の頭をクシャクシャと撫でる…ただそれだけ。
「大丈夫!ごめんね、心配かけて!」
 子供達は、まだ瞳の奥に心配そうな翳りを宿しつつも、笑顔を見せてくれた。
 この小さな子供達を不安にさせたり、悲しませたり、心配かけたりしてしまいがちになる自分…。
 こんなにも頼りなく、大人として未熟な私が母親代わりだなんて、本当に二人が可哀想になる。
 それと同時にもっとしっかりしなければ!という焦りにも似た感覚が胸を占める。

 周りの人からいくら『そんなに若いのに子供達の親代わりをするだなんて…本当にティファちゃんは偉いよ』『子供達の世話をしながらお店もきちんとやってくなんて事、普通は出来ないなぁ』『さすが、ジェノバ戦役の英雄だね!』『クラウドさんとティファちゃんだから、子供達もしっかりしてるんだよな』『そうそう!きっと、そこらへんの人間が子供達の世話してたら、ここまでしっかりした子にはなってないぜ〜!』などと褒められたり感心されても…そんな言葉、なんの慰めにもならない自分がいる。
 勿論、顔だけはその度に笑顔を作ってるんだけど…ね。

 でもね。
 本当はそうじゃないの。
 私が子供達に沢山…それこそ本当に多くのものをもらってるの。
 だから、私は今日もここで頑張っていられるの。
 むしろ…私の方こそが、子供達に助けられて生きている。
 子供達…そしてクラウドがいるから…私はここまでやってこれたの。

 そんな私が、大事な家族にしてあげられる事ってなんなんだろう。
 ご飯を作って、洗濯をして、掃除をして、そしてお店を営んで収入を得る。
 それは、別に私でなくても出来る事。
 他の誰かでも出来る事なのよね。
 でも、そうじゃなくて…。
 私にしか出来ない事を愛しい家族にしてあげたいの。
 でも……それって、一体なに?

 最近、よくそんな事を考えるようになっていた…。


「ティファ、大丈夫か?」
「ん?大丈夫よ…そんなに変な顔してる?」
 今夜は配達の仕事が無いので、店を手伝ってくれていたクラウドが、カウンターの中にやって来てそっと声をかけてくれた。
「……変な顔……じゃないけど、何だかいつもと少し違う…」
「何よ〜、そこは『変な顔だなんてとんでもない!』『いつも綺麗だよ』って言うところでしょう!」
 心配そうにしてくれる彼に、わざとふざけて見せる。
「そうそう、クラウドの旦那はもっと愛情表現を言葉にしないとな〜!」
「女は甘い言葉に弱いからな〜。ティファちゃんだってたまには甘い言葉をかけて欲しいだろ?」
「こう、抱きしめて『愛してる』とか囁いたりする事あるのか…?」
 カウンターにいたお客さん達が面白そうに突っ込んでくる。
 途端に、私もだけど……顔を赤くしたクラウドは私の傍から距離を置いてしまった。

 その距離が……とても寂しい…。

「旦那がしっかり捕まえとかないと、そのうち誰かがティファちゃんを攫っちゃうかもよ〜」
「ば〜か!そんな事あるわけ無いだろ」
「そうそう!もしもそんな風になびく女なら、とっくの昔にクラウドさんは捨てられてるっつうの!」
 ゲラゲラ笑う陽気なお客さん達に、彼が何とも言えない複雑な顔をしている。
 子供達も、その様子を店の一角からクスクス笑いながら見守っているのが見えた。
 その光景に、私も釣られて頬が緩む。
 でも……。
 胸の中は何故か少しだけもやもやとしたものが頭をもたげている。

『む〜〜〜』

 その原因を探ろうとすればするほど…。
 見たくない自分の姿が見える気がして、どうにもイヤな気分になる。

「ティファ、お鍋焦げてるよ!!」
「え……うわっ!!」
 いつの間にかぼんやりとしていたらしく、私の目の前では鍋から灰色の湯気が……ううん……限りなく黒に近い煙がもくもくと立ち込めている。
 大慌てで火を止めて鍋を掴ん……だつもりだったけど…。
「あっつ…!!!!」
 鍋つかみを使わずに鍋の取っ手を思い切り掴んでしまった。
 余りの熱さに思わず手を離す。
 当然、中途半端に持ち上げられた鍋は、重力に素直に従い、私の足元に落下した。


 一気に騒然となる店内。
 私を見るお客さん達のどの顔も、ギョッとしている。

「「「ティファ!!!」」」

 それぞれのテーブルで接客中だったクラウドと子供達の声が耳に響き、漸く私は自分の足に激痛が走った。
 あまりにも熱すぎて、それが脳に達するのに時間がかかった…って感じ…かな……。

 カウンターの中で良かった…。
 だって、お客さんに見えないじゃない、私の足がどうなったかなんて。

 などとちょっとズレた事を考えてると、
「なにぼんやりしてるんだ!!早く冷やせ!!!」
 カウンターを飛び越えてクラウドが私を抱き上げ、あっという間に二階の浴室へ運んでくれた。
 それはもう、本当にあっという間で、私が一言も言えないうちの出来事…。

 シャワーの温度を完全に水に設定して火傷した部分にかけてくれる。
「っつ…!」
「痛いか…?そ、そうだな、こんなになってたら痛いに決まってる……」
 正直……物凄く痛い。
 でも、私以上に痛々しい顔をして、オロオロとしてくれるクラウドに、フッと何かが軽くなった気がした。
 それと同時に目の奥が熱くなる。
「ティ、ティファ!?そ、そんなに痛いのか!?」
「え……?」
 クラウドがギョッとして益々オロオロしている。
 わけが分からず首を傾げると、躊躇いがちにクラウドが手を伸ばして…。
「だって…泣いてるじゃないか…」
 そっと私の頬と目元を拭ってくれた。
「……泣いてる?」
 びっくりして手を目元に持っていく…。
 濡れた指先に、今度は私が驚く。
「ティファ…大丈夫か?」
 心配そうに歪められたクラウドの顔が至近距離で見つめている。

『綺麗な顔…』

 何度見ても見飽きる事なんかない彼の整った顔立ち。
 魔晄によって染められたその紺碧の瞳に、なんとも間抜けな顔をした私が映ってる。
 足の痛みなんかどっかに吹っ飛んでしまうくらい、クラウドの顔を見てドキドキしてしまう。
 そっと手を伸ばして、彼の頬に触れる。

 ああ…彼は今、ここにいる。

「ティファ…どうした、大丈夫か?」

 クラウドの声…。
 他の誰よりも安心する声…。
 あの旅の途中で大切な親友を失った時も…何度も挫けそうになった時も…そして今も、私を支えてくれる唯一の声を持つ人…。

「とにかく、ここで足を冷やしてろ。すぐに医者に行けるように準備してくる」
 大慌てで浴室から出て行く彼は、私に声を掛ける暇を与えてくれなかった。
 彼に触れていた手が、急激に冷えていく。
 足をずっと冷やしてるんだから、身体が冷えてくるのも当たり前な話。
 急に寒くなってきた身体をギュッと抱きしめて、カタカタ震える。
 それと同時に、火傷の痛みがズキズキ、ジクジクと再び疼き始めた。

 ハハ…何か小さな子供みたい。
 浴室なんだからバスタオルくらい、実は目と鼻の先にあるんだけど…。
 実は動けないんだよね。
 火傷したのは…両足の脛と甲。
 しかも、改めてみると……。
 ……う、言えない…言いたくない…口にしたら痛みがもっと酷くなりそう…。

 あ〜あ、何やってんだろ…。

 耳を澄ますと、子供達がお客さん達に謝ってる声がする。
 どうやら店を閉めるみたい。
 ま、そうだよね。
 料理が作れるのは私だけなんだもん。

 遊びたい盛りの子供達が、お客さん達に頭を下げてお詫びの台詞を口にしている姿を想像し、何とも情けない気持ちで一杯になる。
 私がぼんやりしていなければ…。
 こんな火傷をするなんてヘマをしなければ…。
 そもそも…子供達の親代わりが私でなければ……。


「ティファ、大丈夫!?」
「うわ!ティファ、顔色真っ青!!寒いんでしょう!?!?」
 バタバタと階段を駆け上がってくる足音が、その勢いを殺す事無く、そのまま子供達が息を切らせて浴室に駆け込んできた。
 震えている私を見て、マリンが大慌てでバスタオルをありったけかけてくれる。
 デンゼルは、私の足を覗き込んで「うげぇ!!い、痛そう!!」と、これ以上は無いって言うくらい顔を歪めた。
「ティファ、今、クラウドがトラックを車庫から出してるから。流石にフェンリルじゃ無理だし、私達もついて行けないもんね」
 バスタオルの上からマリンがギューッと抱きしめながら、そう言ってくれた。
 きっと、私を少しでも温めようとしてくれてるのね。
 そんな優しいマリンに…そして心配そうな顔をして見守ってくれるデンゼルに、再び涙が出そうになる。
「え…マリンとデンゼルも来るの?」
 泣かないように、わざとおどけた口調で子供達を見ると、子供達は途端に頬を膨らませた。
「あったり前だろ!?」
「クラウドだけじゃパニックになっちゃって大変になるの、分かりきってるじゃない!」
 子供達がそう言い切るのと、クラウドが駆け込んで来るのとが実にタイミング良く重なった。
 マリンの言葉が聞えたらしいクラウドは、一瞬困った顔をしていたけど、すぐに私に向き直り、バスタオルごと私を抱きかかえた。
 マリンがシャワーを止め、デンゼルがそんなマリンを待っているのがクラウドの背中越しに見える。
 クラウドが私を運んでくれている間、極力身体が揺れないように気をつけてくれたのが何も言わなくても良く分かって、それだけで本当に泣けるくらい嬉しかった。

 ああ、私は本当に大事されてる。

 そっと後部座席に座らせてくれたクラウドの肩越しに、お店に来てくれていたお客さん達が心配そうな顔をして立っているのが見えた。
「今夜は本当にすみませんでした」
 大きな声で、遠巻きに見守ってくれていたお客さん達に謝罪をすると、
「何言ってんだい!」
「気にするなよ、って言うか、自分の事、もっと大切にしてくれよ〜!」
「ティファちゃんは頑張り過ぎだぞ〜!」
「最低でも来週までは店開けるなよ〜!」
 などなど、逆に励まされたり、怒られたり、挙句の果てには営業禁止令まで申しつけられてしまった。

 本当に…何て温かい人達なんだろう…。

『綺麗だね』『料理上手!』『ティファちゃんがいるから店に来るんだよ〜!』

 普段くれるお世辞の言葉なんか比べ物にならないくらい、胸に響く言葉をくれる人達に見送られながら、私は家族と一緒に病院へ…。
 そして、そこでお医者様に言い渡されたのが…。

 一週間の絶対安静と二週間の営業禁止。


「はぁ…二週間も…」
「仕方ないよ、だってティファの足、本当にすごい事になってるし」
 デンゼルが包帯でぐるぐる巻きになった私の脚を見ながら恐々手を伸ばす。
「これを機会に、ゆっくりしようよ!だって、最近、ティファったら暗い顔してる事多かったもん」
「え…そう…?」
 マリンの言葉に驚く私に、家族全員がコックリと頷いた。
 鋭い子供達に頷かれるのはまぁ、分かるんだけど…。
 クラウドにまで頷かれるとは……。
「ティファ…今、物凄く失礼な事、思っただろ…」
 クラウドが面白くなさそうな顔でぼやく。
「え…そ、そんな事ないよ!うん、絶対に…!」
「…ティファ、バレバレ」
 デンゼルが肩を落としてポソッと呟いた。




「それで、最近どうしたんだ?何か悩みでもあるのか?」
 ベッドに横にしてくれたクラウドが、ベッドに腰を下ろし、真剣な顔をして私を覗き込んだ。
 真っ直ぐに注がれる彼の視線に、思わず顔を背けたくなる。
「ティファ…、何でもいい。話してくれないと…分からない…」
 困ったような…それでいてとても寂しそうな声に、私はハッとした。
 私がここではぐらかしたり、何も言わなかったら、きっとクラウドは『自分が頼りない存在』だと勘違いしてまうだろう。
 それに、今なら…きっと上手く言葉に出来る気がする。
 私が聞きたくて、聞けなかった事を。

 大きく息を吸い込んで…。
「クラウド…」
「ん?」
「私の事……」
「愛してる」

 聞きたかった言葉を最後まで口にする前に即答してくれた彼に、目を見開く…。
 ほんのりと頬を染めながらも目を逸らさず、一番聞きたかった言葉を口にしてくれたクラウドの顔が、ユラユラと揺れる。
 そっと手を伸ばして、止まらない涙を何度も拭ってくれる彼に、私はどうしようもなく溺れてる。
「子供達も、ティファの事を愛してるよ」
「……うん」
「俺達皆、ティファの事を誰よりも愛してる」
「………うん」
「ティファが俺達の事を愛してくれてるのもちゃんと知ってるから。だから……」
 そっと顔を寄せ、優しく頭を撫でながら耳元で囁いてくれた言葉に、私は我慢できずに嗚咽を漏らした。
 クラウドの腕にほんの少し力が込められる。
 その温かな胸の中で、久しぶりに私は泣いた。
 子供に帰ったように…安心して…。



 ― ずっと、一緒にいて欲しい ―




 あとがき

 責任感が強いがゆえに、心が疲れて不安になってしまった…そんな彼女を家族が優しく包み込むお話が書きたかったのですが…。
 何だかティファが痛い思いをしただけ…のお話になりそうになって、かなり焦ったお話しです(苦笑)。
 最後のクラウドの台詞は、ゲーム中、ずっと彼の口から言ってもらいたいと思っていて、結局言ってくれなかった台詞です(涙)。
 ACでもDCでも言ってくれなかったなぁ…(遠い目)。
 最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!