「分かった…もう良いわ」 投げやりでどこか怒ったように携帯を切ったティファを、デンゼルとマリンはビックリして見つめた。 Lonely heart「ティファ…?」 「どうしたの…?」 恐る恐る子供達は母親代わりに声をかけた。 いつも温かな色を浮かべている茶色の瞳には、苛立ちとどこかもの寂しさを感じさせる色が浮かんでいる。 ティファはほんの少しバツの悪そうな顔をしたが、 「ううん、何でもないから…」 背を向けて開店準備に取り掛かった。 しかし、それは子供達にこれ以上詮索されたくない、という気持ちの現れであることくらい、聡い子供達にはすぐ分かった。 いつもなら、ティファはこんな風にあからさまに『詮索するな』という態度はとらない。 それなのに今日は一体、どうしたことだろう…? 幼い二人は不安そうに顔を見合わせ、口を開きかけたがティファの背中からは拒絶のオーラが放たれていた。 結局、デンゼルとマリンは、小さな胸に一杯の不安を抱えながら黙々と開店準備を始めたのだった…。 ティファは後悔と苛立ちがない交ぜになった気持ちを紛らわせるように、いつもよりも手早く、荒く作業を行った。 しかし、紛れるどころか、段々と苛立ちが強くなる。 開店する時間が近付くほどに、その苛立ちは募っていった。 正直、今日は店を開けたくなかった。 こんな心境では、来てくれるお客様達に失礼だと思う。 だが…。 ここで店を休んだら、『逃げた』と思われるだろう…。 それだけは絶対にイヤだった。 『逃げた』など…。 『負けを認める』など…。 絶対に、絶対にイヤだった。 一体、誰にそう思われるというのか…。 今はまだ、彼女にしか分からない『理由』。 子供達もまだ気づいていない『彼ら』の存在。 ティファは、今夜もまた来るであろう『彼ら』の顔を思い出すと、吐き気がするほどの嫌悪感で一杯になった。 「あの……ティファ…」 「お店…開けても良い?」 怖々(こわごわ)と声をかけてきた子供達に、ハッ…と顔を上げる。 店の時計を見て、もう開店時間を過ぎようとしていることに驚いた。 改めて子供達を見る。 不安で一杯な顔。 罪悪感で胸が抉られる。 だが…。 「うん、開けて頂戴」 今は、子供達の心から不安を拭い去ってやれるだけの余裕が、ティファには無かった。 もう間もなくやって来るであろう『彼ら』を思うと、ティファの苛立ちと憂鬱は凄まじい勢いで心を『陰』の感情に押し流していく。 心の片隅で、ティファは子供達に詫びながら、不甲斐ない自分を呪いつつ、この日初めての客を営業スマイルで出迎えた。 * 「ティファ、『あったかセット』と『お子様ランチ』一つね」 「ティファ、『ほくほくセット』と『辛旨(からうま)定食』一つ」 景気の良い声で、子供達が注文を告げる。 ティファは笑顔でそれを受けた。 デンゼルとマリンはホッとした。 少なくとも、今、こうして働いているティファは、先ほどのティファとは違っていつもどおりだ。 「デンゼル…」 「ん?」 「さっきの電話って…やっぱり相手はクラウド…かなぁ…?」 「……うん、多分…」 「なに怒ってたんだろう…?」 「…う〜ん…なんかいつものティファじゃなかったよなぁ…」 コソコソ。 接客の合間でティファの目を盗んで小声で囁く。 カウンターのスツールはセブンスヘブンの常連客達にとって憧れの席だ。 クラウド専用のスツール以外は既に埋まっている。 ティファはカウンターで注文の品々を作りながら、談笑していた。 そのお蔭で、ティファに自分達のやり取りが聞かれる心配はない。 いつもなら、下心見え見えでスツールに座る男達に気が気ではないのだが、今夜だけは有り難かった。 ここ数日、ティファは何か、ふとした拍子に塞ぎこんでいるように見えた。 それが幼い二人にはとても心配だった…。 しかし人間、落ち込むこともあれば腹を立てることもある。 だがそれでも、ティファやクラウドは、普段ではデンゼルとマリンの前で、何も問題が無い様に振舞っていた。 公園でよく遊んでいる仲良しの友達は、 『私のパパ、このまえ年下の女の人と一緒に歩いているのをママに見られて、今、絶縁状態なの…』 『うわ〜…それってキッツイなぁ…。でも、俺の父さんも年上の上司の女の人に、すっごく憧れてるんだよなぁ。それが母さんにバレて、なんか最近喧嘩が多くてさぁ…』 『はぁ…やっぱりどこの家も悩みってあるよねぇ』 などと自分の家族の愚痴をこぼしている。 だから、むしろデンゼルとマリンは不思議だった。 クラウドが家出事件を起こし、帰ってきてからと言うもの、セブンスヘブンは平和そのもの。 クラウドは元々無口だからあまり話をしてくることはないが、その代わり、デンゼルとマリンの話をちゃんと最後まで耳を傾け、穏やかな顔で見つめてくれている。 そんなクラウドをティファは本当に嬉しそうに頬を緩めて幸せそうな顔を見せてくれるのだ。 だから、デンゼルとマリンは、クラウドとティファが、自分達二人に親代わりの二人が遠慮をして、本当の自分を曝け出さないように必死になって『仲の良い恋人』を演じているのではないだろうか…と、不安に思うことがあった。 だが。 「とうとう……『お芝居』が出来なくなったのかな…」 打ち沈んだ声でポツリ…とこぼしたマリンに、デンゼルはギュッとマリンの小さな手を握った。 「大丈夫だ。クラウドもティファも、前みたいにいなくなったりしない。それにさ…、クラウドとティファは『お芝居』なんかで仲良くしてるわけじゃないんだから。だから大丈夫だ…絶対に…」 まるで自分自身に言い聞かせるようにして繰り返すデンゼルに、マリンの目が潤む。 「うん、そうだよね!」 ニッコリと笑ったマリンに、デンゼルも笑う。 「じゃ、頑張ろうか、仕事!」 「うん!」 気を取り直し、仕事へ気合を入れなおしたその時。 チリンチリン…。 「「 いらっしゃいませ〜 」」 デンゼルとマリンは来店したその男女4人に笑顔を向けた。 デンゼルはざっと店の中を見渡して、空いている4人用のテーブルへと誘導する。 この男女4人は男が2人、女が2人ではない。 男が1人、女が3人なのだ。 ちょっと……いや、かなりなハンサム。 すらりと高い背は、きっとヴィンセントくらいはあるだろう。 切れ長の深い緑の瞳はどこか冷たい印象を受けるが、それはクラウドにも当てはまることなのであまり気にはならない。 スッと通った鼻筋、キリッと引き結ばれた唇。 黄金色の短い髪をお洒落にツンツンとたてているのは、クラウドとは違う。 クラウドのあのツンツンした髪は『地毛』だ。 着ているものも、お洒落だった。 深い色合いの紫を基調としたブラウスが、黒いカットソーから上品に覗いており、スラリとした長い足はジーンズに覆われている。 ベルト部分からは、シルバーチェーンがアクセサリーとしてシャラシャラと音を立て、指にはごつめのシルバーリングがはめられている。 手首にはこれまたシルバーを基調とし、黒い宝石でアクセントをつけたブレスレット。 当然のように、首から下がっているネックレスもシルバーを基調としたロザリオ。 別に、クリスチャンではないだろうことはもう言うまでも無い。 彼はとにかくお洒落だった。 ここ数週間前から毎日のようにやって来てくれる。 デンゼルは、この客に内心で憧れていた。 勿論、憧れている…といっても、お洒落の部分で…だ。 実に彼はセンスが良い。 『クラウドがこんな格好してもきっと似合うだろうなぁ…』 そう思いながら、青年が着ている服をクラウドが着てみた姿を想像して、一人、ニヤニヤッと笑ってしまう。 「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」 いつものようにその客達へ声をかける。 男性はいつも黙ったままだ。 周りの女性達が、しなだれかかるように男性に身を摺り寄せ、 「私達は『女性に美味しいスペシャルダイエット』で〜…」 「彼には『本日のオススメ』おねが〜い」 語尾を延ばした話し方でデンゼルに注文をする。 デンゼルは、ペコリ、と頭を下げてニッコリ笑った。 「はい、承りました。少々お待ちくださいませ」 途端。 「「「 ほんっとうに可愛い〜♪ 」」」 女性達から上がった黄色い声。 デンゼルはちょっと赤くなりながら、照れつつカウンターへ足早に向かって…。 「ティファ『女性に美味しいスペシャルダイエット』を三つと『本日のオススメ』……一つ………ね」 段々と声が小さくなる。 ティファの顔は強張っており、先ほどデンゼルが注文を受けた客達を見ていたからだ。 デンゼルはビックリした。 ティファのこんな複雑な表情は初めてだった。 怒っているのでもない。 呆れているのでもない。 これは…。 「ティファ…?」 「…あ…うん、ごめんね。すぐ用意するから…」 慌てて取り繕うようにして微笑んだティファの姿が、デンゼルの心に強い不安を与えた。 店の端から何かに見られているのを感じ、転じてみるとマリンが自分と同じ様に不安そうな顔をして視線を送っていた。 デンゼルは苦いものを隠しながら、義理の妹にもあたる少女にコックリと頷いて見せた。 間違いなく、ティファはこの男女のグループを良く思っていない。 むしろ…そんな生半可な感情ではなくて…。 この店に来る女性や男性客達が、クラウドとティファによく抱く感情のような気がして、デンゼルは少なからずもショックを受けた。 ティファに限って、この男女のグループ、いや、クラウド以外の異性に嫉妬するなどありえないことだったのだから。 これまで、デンゼルとマリンはクラウドがいない時に、ティファを狙っている邪(よこしま)な輩をせっせ、せっせと排除していた。 それでも、クラウドが家出から戻って来てからはマシになったのだが、よほど世情に疎い人間か、自分に自信を持っている自信家が暫くの間、根強く残っていたのだ。 だがその『害虫駆除』も、最近ではめっきり減り、デンゼルとマリンはのびのびと『本来の仕事』であるセブンスヘブンの仕事に専念出来ているくらいなのだ。 それなのに、たった今ティファが見せた表情はなんだ!? 自分で見たものが信じられない。 ティファがクラウドを裏切ることは万に一つもないと言いきれる。 だが…。 もしかしたら、自分達子供の知らないところで、クラウドとティファはややこしいことになっているかもしれない。 だからこそ、いつも複数の女性を連れてこの店に来るくせに、優しくデレデレと接するどころか、むしろ淡白な態度を崩さないこのお洒落な男性に心が揺らいだのかも…。 デンゼルは一瞬、自分の考えに心底ゾッとした。 すぐに慌てて否定する。 恐らく、クラウドとちょっとした『痴話喧嘩』をしているだけだ。 デンゼルやマリンの気づかないところで…。 そう無理やりに思い込み、あながちそれは外れてないのではないだろうか…?と本気で思えるようになった。 気を取り直して出来上がった他の客のメニューをティファから受け取り、テーブルに運ぶ。 料理を手渡したティファは、先ほど見せた胸が痛くなるような表情はもうしていなかったが、どことなくぎこちない笑顔だと感じてしまったのは勘ぐりすぎだろうか…? 『クラウドとティファ…なにを喧嘩したんだろう…?』 自分やマリンに打ち明けてくれなかったクラウドとティファに対し、怒りは感じない。 ただ…とても悲しい…。 無論、自分達子供にへんに心配をかけないように、という配慮だろうが、その心遣いが水臭い。 まぁ、自分達に相談してもさしてなんの力にもなれないのだが…。 「やっぱりもう少し頼って欲しいよなぁ」 ボソリ…。 呟いた言葉に、デンゼルはそっと首を振る。 クラウドとティファにもう少し頼られるくらい、力が欲しい。 早く大人になりたい。 それも、そこら辺の大人ではなく、クラウドとティファが背中を安心して預けられる英雄の仲間達くらいに! マリンも固唾を呑んでその一部始終を見ていた気配がした。 デンゼルはグッと唇を噛み締め、顔をしゃんと上げた。 少なくとも、ティファの傍に今いるのは自分とマリンだけ。 今夜、クラウドは帰ってこない。 本当なら、昨日の内に帰っていたはずの父親代わりは、遠い他の大陸で足止めを食っている。 理由は彼のせいではない。 ハリケーンのせいで、定期便が出ないのだ。 海、空共にダイヤは欠航状態。 こればかりは、いくら英雄でも…WROの力を反則業並みに駆使しようとしても無理だ。 大自然の力には抗えない。 だから、デンゼルもマリンもクラウドの帰宅が大幅に遅れてしまったことに対して異論はない。 むしろ、無理をして帰って来ないだろうか…。 それが心配だ。 クラウドは無口で無愛想。 そしてとても……不器用。 だが、その表の顔とは違って、彼の奥底に秘められている本当の素顔は、家族を愛するとても優しい心で溢れている。 拙い言葉。 拙い仕草。 それら全てが家族を…とりわけティファを愛していると物語っている。 だからこそ、今日は特に心配だった。 ティファが…。 あのティファが! いつもクラウドを思いやる愛情で満ちている彼女が、あんな風に声を荒げ、苛立ちを隠そうともせずに携帯を強引に切ったことが…。 ティファの言動により、子供達が受けた驚きは言葉では到底表すことが出来ない。 そしてそれ以上に心配だった。 クラウドが、シドあたりに無茶を言って飛空挺を飛ばしていないだろうか…? ………ありうる!! どうかそれだけはやめて欲しい。 無事に帰ってきて欲しい。 そして、思い切り抱きしめて欲しい。 ティファに…。 ティファだけに、甘い言葉を囁いて欲しい。 ティファに極上の笑みを浮かべさせてやって欲しい。 それが出来るのはクラウドだけだから。 悔しいけど、デンゼルにもマリンにも、ティファにその表情をさせることは出来ないから…。 だから。 『クラウド…お願いだから無事に帰ってきて。ティファを思いっきり甘えさせてあげて』 一方、ティファは子供達の心配を痛いほど感じながら、それでも荒れ狂う自分の心で手一杯で、とてもじゃないが子供達を安心させてやるだけの余力が無かった。 気にしなければ良いだけの話し。 だが…。 クラウドの好む黒い服装を見事に着こなし、クラウドと同じ金髪をお洒落に立てた青年のあの眼差し。 明らかに、自分を誘っている。 無口で無愛想。 数人の女性をはべらせているくせに、彼女達に甘い言葉の一つ、甘い眼差しを一瞬でも向けないこの青年の雰囲気がクラウドに良く似ていて…。 それだけで、ティファはまるでクラウドが他の大陸に配達へ出かけている間にこのような時間を過ごしているのでは!?と疑ってしまうようになっていた。 クラウドに限ってそんな事は無い。 絶対に…ない。 だけど…。 ここ数日、クラウドの帰宅が遅れている。 配達先でのトラブルは別に珍しくない。 帰宅予定が狂うことも珍しくない、いつもの事だ。 だが…。 彼が傍にいてくれないことが、この寡黙でハンサムな青年を見ていると、ついついバカな想像をしてしまい、それを止めることが出来ないのだ。 理由は…もう簡単すぎる。 とにかく、会いたい。 いつもの無愛想な電話だけでは限界だった。 そして、女性をいつも複数連れ添ってこの店に来る青年が我慢ならなかった。 どうしてもクラウドを重ねて見てしまうから…。 しなだれかかり、青年に甘い言葉一つ、甘い眼差しを一瞬でも向けてもらえるようにベッタリと青年にくっ付いている女性達の存在が疎ましい。 いっそのこと、女性達か件(くだん)の青年が酔っ払って、他の客にからんでくれたり、羽目を外して大騒ぎしてくれたら、それを理由にたたき出し、二度とセブンスヘブンに来られなくしてやれるのに…。 実は一度だけだが、ティファ自らが青年達のテーブルに食事を運んだことがある。 その時の女性達の勝ち誇った顔が忘れられない。 ティファとは違い、自分達は愛している人の傍にこんなにもいられるのだ…と、そう言っているかのような嘲りともとれる笑み。 ティファはその時、怒りよりもとても惨めな気分で一杯になった。 しかし、 『アンタ、いっつも寂しそうだな。恋人だって言われてる例の『英雄』さんは滅多に帰ってこないのか?』 クラウドに良く似たテノールで、ぶっきらぼうな声。 思わずティファは目を見開いて青年を真正面から見た。 同席していた女性達も驚いて青年を見る。 一瞬だけ……時が止まった気がした。 その後、なんと答えたのか正直覚えていない。 多分、『忙しいので』とか『ちゃんと帰ってきてくれています』とか、そのようなことを早口で口走り、逃げるようにしてカウンターへ戻った。 あと少し、青年の深い緑の瞳を見つめていたら、うっかり涙をこぼしてしまっていたかもしれない。 ティファは……もう疲れていた。 本当に疲れたのだ。 愛しい人が傍にいてくれない時間がどうしようもなく長く感じられて…。 最初はこれくらい、なんともなかったのに。 電話で、ぶっきらぼうだがその日一日の出来事や、いつ帰れそうかの報告を聞くだけで、ほっとしたのに…。 「ティファちゃん、大丈夫かい?なんだか元気ないけど…」 スツールに座っているまだ30代くらいの男性が心配そうに声をかけた。 ティファはすぐに営業スマイルを浮かべる。 「大丈夫ですよ。ちゃんとよく休んでいますし」 「そう?なら良いんだけど…。なにか相談に乗れるならいつでも言ってくれよ」 心底心配そうな顔をするその客に、ティファは軽く頭を下げた。 両隣の客が、その客にイヤそうな顔をする。 男性客がティファを狙っていることを知っているからだ。 女性を落とすには、弱っている時が一番効率的だ…と、彼らは考えている。 そして、それはあながち外れているわけでもない。 実際、ティファは疲れていたし、誰かに慰めてもらいたい心境だった。 だから、素直に男性のその言葉に心がほんの少しだけ温かくなったのだ…。 ホンワリとした笑顔を見せたティファに、男性客はニヘラ〜…とだらしなく笑い、内心でガッツポーズをする。 先を越された形になった両隣の男性客が忌々しそうに舌打ちをする。 と、そのうちの一人が、 「ティファちゃん、そう言えばさっきから携帯が鳴ってたみたいだぜ?」 「え…?」 「いや、マナーモードになってるんだろ?なんかさっきからブーブー言ってたし」 ティファの意識が男性客から携帯に向けられる。 ティファはそっとカウンターの内側に置いていた携帯を取った。 着信履歴を見て軽く息を飲む。 10件以上の着信履歴は、全てクラウドからのもの。 留守電にも入っている。 そっと店内を見渡して、今なら大丈夫、と判断し、震える指で録音再生機能ボタンを押す。 ―『 ティファ、今日は本当にすまない。明日には定期便が出ると思うから、朝一番で帰る 』― ―『 ティファ……その……まだ怒ってるのか…? 』― ―『 ティファ…本当に…その…すまない…。いつも家のこととか子供達のこと任せきりで… 』― ―『 ティファ……感謝してる。俺がこうして仕事に専念出来るのも、ちゃんと帰る場所があるからだ』― ―『 だから… 』― ―『 これからもきっと、ティファには寂しい思いをさせると思うけど…どうか許して欲しい 』― ―『 俺が帰る場所は……あ〜…その……ティファのところ…だから 』― ―『 勝手ばっかでごめん。その…顔を見て言うと恥ずかしいから……その…』― ―『 いつでもティファを想ってる…。俺が愛してるのは生涯…ティファだけだから… 』― ティファの目に涙が溢れる。 先ほどまでの惨めさ、不安、不満、苛立ちがウソのように消えていく。 そっとカウンターから奥の倉庫へ足りない物を取りに行く振りをして店内から抜け出して、ティファは涙をこぼした。 そうして、最後の留守電に耳を傾ける。 ―『俺、いつも口下手だし、恥ずかしくて言えなくて本当に悪いと思ってるけど、でも、本当に俺はティファだけだから。だから、男の客の中に俺よりも良い男がいても……その……そっちに揺らいだりしないでくれよ?俺も…ティファに飽きられないように頑張るから… 』― 「ふふ…バカ。直接顔見て言ってよ」 泣き笑いをするティファは、世界中の誰よりも幸せそうだった。 店内に戻ったティファの目は、若干赤くなっていたが、頬が紅潮し、キラキラと光るその瞳にティファを狙っている数多くの男性が心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けたのは言うまでも無い。 デンゼルとマリンも、ティファの幸せそうな顔に目を丸くし、次いで顔を見合わせて心から嬉しそうに笑った。 そして。 「…残念、ダメか…」 「え?」 「なにが?」 「なぁに?どうしたの?」 例の色男がボソリ…とこぼした言葉に、女性達がキョトンとする。 男性は彼女達の言葉に答えず、ただただ、カウンターの中で生まれ変わったように働く美しい女性を見つめていた。 翌日。 クラウドは約束通り、朝一番の定期便に乗って帰宅した。 そして、真っ赤な顔をしながらティファに花束を渡すというサプライズまで彼女に贈ったのだ。 照れ臭そうにそっぽを向いたという小さな事件は、まだ眠っていた子供達も知らない二人だけの幸せな秘密。 「ねぇ、クラウド…」 「ん?」 「私ね、時々寂しくなるの…」 「…すまない」 「謝って欲しいわけじゃないの。ただ…ね…」 「……」 「時々で良いから…。一年に1回、ううん、10年に1回で良いから、私の事を…愛してる…って言って欲しいの」 「…ティファ」 「そしたら、また頑張れるから」 金髪の青年が、顔を赤くしながらそう小声でお願いをした漆黒の髪を持つ美しい女性を抱きしめ、 「愛してる」 そう告白したのは、子供達が目を覚ますほんの数十秒前だった…。 あとがき たま〜に、弱くなっているティファを書きたくなります。 ACの彼女は本当に子供達を守るために一生懸命強くなっていましたけど、子供達がしっかりしてきた今は、きっと自分の心がポキン…と弱くなることがあるんじゃないかなぁ…と。 そして、そんな時、支えてくれるのがクラウドであることを切に願います。 |